大阪地方裁判所 昭和43年(ワ)7526号 判決
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〔判決理由〕一 被告が六の土地の所有者であり、その現地として被告占有地を占有していることは当事者間に争がない。
二 <証拠>によると次の事実が認められる。
(一) 訴外竹井秀吉は昭和一二、三年頃、竹井工務店の商号で、吹田市、枚方市等で多数の土地(地目は山林または畑)を買収し、登記簿上は実弟である尾崎善三郎名義で所有権移転登記を受けた。そしてこれを多数の宅地ブロックに造成して売却した。この宅地造成により各土地の境界は不分明となつたので、右売却の際は司法書士に依頼し、大よその見当で該当すると思われる地番の土地について買主に所有権移転登記をした。もともと山林は実測面積と公簿面積が相違したり、現地の所在場所、形状が公図と相違する場合が多いのであるが、右宅地造成、所有権移転登記により、ことは一層甚だしくなつていた。同訴外人が買収した土地に枚方市大字中振(現香里園町)二五二八番の一ないし七の各地があつたが、同訴外人は造成した宅地の一ブロックを同番の三、五、六として昭和一三年五月二八日訴外辻善平に売渡し、所有権移転登記を了した。ところが同訴外人は二五二八番の五より九を分筆、五を日本繊維株式会社に売却、次で九と同番の六とを合筆し本件の同番の六とし、昭和二七年一〇月一五日被告に売渡し、所有権移転登記をした。同訴外人は昭和三二年一一月一二日死亡し、訴外辻君子が相続したが君子は、二五二八番の三より同番の一〇ないし一五を分筆、さらに一三と分筆後の三と合筆、これらを昭和三三年三月頃より同年一二月頃までの間に第三者に売却した。これらの土地は売却に先立つて地目は宅地に変更されていた。
(二) 被告は代理人水嶋修三を介し、訴外辻善平の代理人である辻清より六の土地を買受けたのであるが、買受けに際しその現地として被告占有土地を指示され、実測のうえ総坪数を三〇六坪余りと確定、坪当り金二、二〇〇円として合計金六六万円を代金として支払つた。被告は買受後東側隣接地との境界にコンクリートの界標を入れ、西側北側のそれぞれ道路に接する部分に、南側の一部を除き、木柵を設けこれに金網を張り廻らし、南西角を除く他の三ケ所の角にも界標を打ち込み、かつ内部に柵の木を三〇〇本位植えた。かくして被告は原告より本訴提起のあるまでの一六年間、被告占有地を平隠無事に占有して来た。
(三) 訴外竹井秀吉が買収した吹田市、枚方市等所在の各土地は、このように全部宅地あるいは道路に造成され宅地は全部売却されたが、その結果例えば二五二八(八は昭和一四年九月二八日に二より分筆された。)のように登記簿上売却されないままで、地目も山林のままで、残つている土地があつた。その中には適当に道路に該当する地番とされたため売却されず残されたものがあり、また造成宅地を売却し所有権移転登記をなした際、大よその見当で該当地番と思われる土地について所有権移転登記をしたため、移転登記もれとなつて残したものもあつた。前記二五二八番の一、二、八の山林のうち、一、二、は道路に該当する地番とされたため売却されずに残されたものであり、八は道路とされたが、あるいは宅地となつて売却されたが所有権移転登記がもれたものであつた。
以上のとおり認定される。右認定を覆えすにたる証拠はない。
三 <証拠>によると次の事実が認められる。
(一) 訴外滝川米雄は訴外竹井秀吉が買収し宅地に造成して売渡した吹田市枚方市等所在の土地のうち、前記のとおり登記簿上未売却として残つていた土地を、同訴外人の相続人である訴外竹井富美子より昭和四一年一二月頃買受けた。その筆数は四〇数筆にのぼり、富美子はこれらの土地の所在すら知らず、訴外滝井はこれを極めて低廉な価格で買受けた(このことは後記(五)の認定事実により十分推認し得る。)。同訴外人が買受けた土地の中に本件八の土地(二五二八番の八)があつた。八の土地については昭和四二年三月二四日所有権移転登記を受けた。
(二) 大阪法務局枚方出張所備付の公図によると、八の土地は被告の買受けた六の土地の西側に接しており、六、八の両土地の北側に同番の二の土地が、八の土地の西側に同番の一の土地が接し(一、二は前記のように道路に該当する地番とされている。)また六の土地(九の土地と合併されている。)の東側に同番の五、三、一四等の土地が順次排列している。被告占有地は現実に東側を除く三方を道路に囲まれ、東側に同番の五、三、一四等の土地が順次に接している。したがつて被告占有地の西側の道路が二五二八番の一であり、北側の道路が同番の二であるとすれば、被告占有地の西端部分に八の土地が所在することになる。
(三) 被告所有の六の土地の登記簿上の面積は二三六坪であるにかかわらず、その占有地の実測面積は約三〇〇坪もある。八の土地の登記簿上の面積は二畝九歩(六九坪)であるから、右六と八の登記簿上の面積を合算すると、ほぼ被告占有地の実測面積に近い。
(四) 訴外滝川は公図、登記簿を調べ、現地を踏査し、訴外植田正三郎に被告占有地を実測させて、右(二)(三)の事実を知つたうえ、八の土地を買受けた。同訴外人が八の土地を買受けた際被告占有地を被告が六の土地として占有している事実を知つていた。
(五) 原告は昭和四三年二月一日八の土地を訴外滝川より買受け、同年同月五日所有権移転登記を受けた。原告は前記(二)(三)の事実を右訴外人より聞き、被告よりその占有地の西端部分から八の土地の登記簿上の面積に相当する部分の返還を受ける意思でこれを買受けたものであるが、当然被告との間に紛争が生ずることが予想されたので、これを考慮し右部分の当時の価額は金七六〇万円程度(坪当り金一一万円)であつたのに、その一割にも満たない金六九万円(坪当り金一万円)でこれを買受けた。そして訴外植田正三郎に依頼し、被告占有地の西端部分六九坪を実測の上図面上本件土地として特定させ、直ちに江谷弁護士に被告に対する本件土地明渡しの請求を依頼した。
(六) 訴外滝川が竹井富美子より買受けた前記四〇数筆の土地に関し、同訴外人あるいは同訴外人よりの転得者が当事者となつて、訴外竹井秀吉より造成宅地を買受けた者、あるいはその転得者、あるいは隣接土地所有者を相手方とする本件と類似の訴訟が少くとも他に二件は存在する。
以上の事実が認められる。証人植田正三郎同滝川米雄(第一回)の証言中右認定に反する部分は措信できないし、他に右認定を左右するにたる証拠はない。
四 以上の認定事実によれば訴外滝川は、被告がその占有地を訴外竹井秀吉より六の土地として買受け、一〇数年間にわたり平隠無事にこれを占有している事実を知りながら、調査の結果前記三の(二)(三)の事実を知るや、八の土地が登記簿上未売却のままで残つているのを奇貨として、これを廉価で買受け、所有権移転登記を受け、右三の(二)(三)の事実を根拠に被告に対し八の土地が被告占有地内に存在すると主張し、登記の対抗力に物言わせてその返還を求め、以て不当の利益を得ようとするものであると認めざるを得ない。
もつとも本件では同訴外人は当事者とはなつていない。しかし原告に転売し(この転売により同訴外人が利益を得たことは容易に推認できる。)、転売者である原告が本訴を提起している以上、同訴外人は原告を介し間接にその目的を実行しているものといい得る。しかも訴外滝川が買受けた前記の登記簿上未売却のままとなつている四〇数筆の土地に関し、本件と類似の紛争を生じ、訴訟となつたものが、当裁判所が確認し得たものでも他に二件もあるという事実を見ると、そもそも同訴外人は当初から本件と同様の目的の下に計画的に前記四〇数筆の土地を買受けたものであり、本件の如きはその計画の一環ではないか、との疑さえ持たれるのである。前記認定の三の(二)(三)の事実によれば、あるいは八の土地が被告占有地内に存在するといい得るかも知れない。しかしながら前記の如き目的のもとに訴外滝川が訴外竹下富美子より八の土地を買受けた行為は公序良俗に反するというべきであつて、したがつて右売買契約は民法第九〇条に照らし無効であるということができる。すでにして右売買契約が無効である以上、訴外滝川との売買契約により原告が八の土地の所有権を取得し得ないことも明らかである。
(野田栄一)