大阪地方裁判所 昭和43年(ワ)7545号 判決 1970年2月14日
原告
雲川正弘
ほか一名
被告
柏木運送株式会社
ほか一名
主文
一、被告両名は、各自、原告雲川正弘に対し、金一、七三七、六三〇円および内金一、五八七、六三〇円に対する昭和四三年一二月二九日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。
二、原告雲川正弘の被告両名に対するその余の請求、および原告新興栓株式会社の被告両名に対する請求を、いずれも棄却する。
三、訴訟費用はこれを五分し、その一を原告新興栓株式会社の、その余を被告両名の負担とする。
四、この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一、請求の趣旨
一、被告らは各自原告雲川正弘に対し金一、九九三、四三五円および内金一、八一三、四三五円に対する本訴状送達の翌日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。
二、被告らは各自原告新興栓株式会社に対し金三五〇、〇〇〇円およびこれに対する本訴状送達の翌日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。
三、訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決ならびに仮執行の宣言
第二、請求の趣旨に対する答弁
一、原告らの請求を棄却する。
二、訴訟費用は原告らの負担とする。
との判決を求める。
第三、請求の原因
一、事故発生
原告雲川正弘は次の交通事故により傷害を受けた。
(一) 発生時 昭和四三年六月五日午前九時四〇分頃
(二) 発生地 摂津市別府八八六の四
(三) 加害車 営業用小型貨物自動車(大四い八七三一)運転者被告百々万二郎
(四) 被害者 原告雲川正弘(自動車運転中)
(五) 態様 前車が停滞していたため、原告雲川運転の車が停止中、被告百々万二郎運転の加害車が追突したもの
(六) 傷害 頸椎捻挫、腰椎捻挫
二、責任原因
被告らは、次の理由により本件事故により生じた原告らの損害を賠償する責任がある。
(一) 被告柏木運送株式会社は加害車の保有者でこれを業務用に使用して自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法第三条による責任。
(二) 被告百々万二郎は、前方に対す注意を怠り漫然と進行した過失により停止中の被害車に追突したもので、不法行為者として民法第七〇九条による責任。
三、損害
(一) 原告雲川に生じた損害
1 治療費 金二一八、四一九円
イ 金一一、〇一九円(日生病院支払分)
ロ 金五、九七〇円(東成病院支払分)
ハ 金二〇一、四三〇円(住本外科残額)
住本外科に要した治療費は、昭和四三年六月一八日より昭和四四年六月二日まで合計金八二三、二八〇円であるが、右の内金五〇〇、〇〇〇円については自賠責保険よりの受領分で支払い、金一二一、八五〇円については被告会社が支払を了したので、差引残額は金二〇一、四三〇円となつた。
2 休業損害 金五四四、二〇〇円
(休業期間) 昭和四三年六月五日より昭和四四年五月三一日まで
(事故時の月収) 金四〇、三〇〇円
(賞与、昭和四三年度年末分) 給料の二ヶ月分
なお、原告は被告会社より休業補償費として金二〇、〇〇〇円を受領したので差引金五四四、二〇〇円となる。
3 逸失利益 金二七〇、八一六円
(事故時) 二四才
(労働能力低下の存する期間) 四年
(収益) 月収四〇、三〇〇円
(労働能力喪失率) 一〇〇分の一四(一二級)
4 慰藉料 金七八〇、〇〇〇円
5 弁護士費用 金一八〇、〇〇〇円
(二) 原告新興栓株式会社に生じた損害
逸失利益
原告会社は、従業員である原告雲川の本件交通事故による七ヶ月間の欠勤のため、同原告が稼動操作していた旋盤一台の運転停止を余儀なくされ、ために右旋盤一台分七ヶ月間にあげうる利益を失つた。旋盤一台当り平均月額利益は金五〇、〇〇〇円であるから、合計金三五〇、〇〇〇円の損失となる。
四、よつて、被告らに対し、原告雲川は金一、九九三、四三五円、原告会社は金三五〇、〇〇〇円および右各金員(但し原告雲川については金一、八一三、四三五円)に対する本件訴状送達の翌日以降完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第四、被告らの主張
一、請求原因に対する認否
第一項中(一)ないし(五)を認める。(六)は不知。
第二項中、被告会社が加害車の保有者であること、被告百々万二郎が被告会社のため運転中事故を起したことは認めるが、その余の点を否認する。
第三項は否認する。
原告会社の損害は本件事故により通常生ずべき損害の範囲には属さず相当因果関係が存しないので失当である。
第五、証拠関係〔略〕
理由
一、請求原因第一項(一)ないし(六)の事実、被告会社が加害車の保有者である事実は当事者間に争いがなく、〔証拠略〕を綜合すれば、原告雲川は本件事故により頸椎捻挫、腰椎捻挫の傷害を受けたこと、右事故は、被告百々万二郎が加害車を運転するに際し、前方に対する注視を怠つた過失により、車輛停滞のため前車に続いて停止していた原告雲川運転の被害車に気付かず追突したことによつて生じたものである事実が認められ、右認定に反する証拠はない。これによれば、被告百々万二郎は不法行為者として、又被告柏木運送株式会社は自賠法第三条但書の免責事由について主張も立証もしないので運行供用者として、それぞれ原告らの蒙つた損害を賠償する責任がある。
二、原告雲川正弘の損害
1 治療費
金一一、〇一九円〔証拠略〕
金五、九七〇円〔証拠略〕
金二〇一、四三〇円(〔証拠略〕によつて認められる金員から原告自身既に支払を受けたと自認する金六二一、八五〇円を差引いた金額の範囲内)
合計金二一八、四一九円
2 休業損害
〔証拠略〕によれば、原告雲川の事故時の月収、昭和四三年度末時の賞与の額、休業期間はいずれも同原告主張どおりである事実が認められ、且つ右休業期間中同原告は被告会社から休業補償の一部として金二〇、〇〇〇円を受領した外は、給料、賞与等取得していなかつた事実が認められ、これに反する証拠はないので、右によれば同原告の休業損害は金五四四、二〇〇円となることが計数上明らかである。
(40,300×14)-20,000=544,200
3 逸失利益
原告雲川は本件事故により後遺症が残り、向後四年間労働能力が一〇〇分の一四の割合で喪失している(労基法施行規則別表の障害等級一二級該当)と主張するが、〔証拠略〕をもつてしても、いまだ「局部にがん固な神経症状を残すほどの後遺症が存するもの」とは認めがたく、〔証拠略〕によれば「局部に神経症状を残す」程度の神経障害の後遺症が存するにすぎないものと考えられるので、そうならば、労働能力の喪失率は一〇〇分の五、労働能力の低下の存する期間二年と認めるのが相当であるから、逸失利益は金四五、〇一一円であることが計数上明らかである(同原告の月収が金四〇、三〇〇円であることは前記認定のとおりであり、二年余のホフマン式(年毎)の計算の賠数は一、八六一五ある)
40,300×12×5/100×1.8615=45,011.07……
4 慰藉料
前掲各証拠を綜合すれば、原告雲川は、本件事故により昭和四三年六月一九日より同年一一月四日まで合計一四九日間入院し、退院後は少くとも昭和四四年六月二日まで通院し、且つ前記の如き後遺障害の存する事情その他本件に顕れた一切の事情を考慮すれば、同原告の精神的損害を慰藉するための額は金七八〇、〇〇〇円を下らないものと考える。
5 弁護士費用
以上により、原告雲川は、金一、五八七、六三〇円を被告らに対し請求しうるものであるところ、〔証拠略〕によれば、被告らにおいて、その任意の弁済に応じないので、弁護士たる本件原告訴訟代理人にその取立を委任し、所定の手数料、成功報酬を支払うことを約したものと認められ、この弁護士費用のうち被告に賠償を求めることができるのは金一五〇、〇〇〇円とするのが相当である。
三、原告新興栓株式会社の損害
右原告会社は、その従業員である原告雲川が負傷、欠勤し、従業員補充不能のため旋盤一台の運転を休止せざるを得ず損失を蒙つたと主張する。そして〔証拠略〕によれば、原告会社は従業員四二名旋盤一一台を有し水道の蛇口を製造する会社であり、原告雲川は昭和三九年頃から原告会社に勤務し、事故当時旋盤工兼第二工場の責任者であつたこと、旋盤工は通常三年以上の熟練を要し、原告雲川が担当し操作していた旋盤一台が同人の欠勤中他の従業員の補充がつかずその運転を停止していたことを認めることができる。ところで、交通事故の被害者自身に生じた精神的、物質的損害とは別に、その被害者の勤務する会社に就労不能に伴う損害が生ずるとするためには、被害者とその勤務する会社とが社会的経済的活動体として一体をなすものと認められる場合に限られるものと解すべく、換言すれば、いわゆる個人企業(会社)であつて、その経済成績がひとえに個人(被害者)の手腕活動に依存すると共に、その企業の利益が即ち個人(被害者)の利益と目されるような関連性、一体性の認められる場合に限られるものと解するを相当とする(最高裁昭和四三年一一月一五日判決、判例タイムス〔編注:原文ママ 「判例タイムズ」と思われる〕二二九号一五三頁参照)。本件においてこれをみるに、前記認定の事実関係をもつてしてはいまだ原告両名間に右の如き一体性あるものとは認められず、他にこれを認めるに足る証拠は何もない。そうならば、原告雲川の受傷によつて原告会社に損害が生じたということはできず、損害額の内容について検討するまでもなく、原告会社の請求は失当である。
四、以上によれば、被告柏木運送株式会社は運行供用者として、被告百々万二郎は不法行為者として、各自原告雲川正弘に対し金一、七三七、六三〇円および内金一、五八七、六三〇円に対する本件訴状が被告両名に対しそれぞれ送達された日の翌日であること記録上明らかな昭和四三年一二月二九日以降完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払義務あること明らかであるから、原告雲川正弘の本訴請求は右の限度で認容し、その余を失当として棄却することとし、又原告新興栓株式会社の本訴請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 吉崎直弥)