大阪地方裁判所 昭和43年(手ワ)1311号 判決 1968年7月30日
原告 森蔭昭彦
右訴訟代理人弁護士 金田稔
被告 吉田アイ
主文
被告は、原告に対し、金一〇〇万円、及び、これに対する昭和四三年四月二九日から完済まで年六分の金員を支払え。
原告その余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを二分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。
この判決は、原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。
事実
原告訴訟代理人は、「被告は、原告に対し、金二〇〇万円及びこれに対する昭和四三年四月二九日から完済まで年六分の金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決、ならびに、仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、「原告は、被告振出にかかる、(一)、金額を金一〇〇万円、支払人を株式会社住友銀行粉浜支店、振出地及び支払地を大阪市、振出日を昭和四二年一二月九日とした持参人払式小切手、及び、(二)、振出日を同月一五日としたほか、その余の要件をすべて(一)と同様記載した小切手各一通の所持人として、(一)の小切手を同月一一日、(二)の小切手を同月二五日、順次支払のため支払人に呈示したが、前者については、被告の申入れにより不渡り処分をまぬがれさせるために依頼返却を受け(最高判昭和三二年七月一九日、民集一一巻七号一二九七頁参照。)、後者についてはその支払を拒絶されたので、支払人をして右小切手面に呈示の日を記載し、かつ日付を付した支払拒絶宣言をさせたから、ここに、被告に対し、右小切手金合計金二〇〇万円、及び、これに対する各呈示日以後にして本件訴状送達の日の翌日たる同四三年四月二九日から完済まで小切手法所定年六分の利息金の支払を求める。」
と述べた<以下省略>。
理由
一、原告主張の事実中、被告が本件小切手二通を振り出した事実、及び、(一)の小切手不渡り処分をまぬがれるため被告が申し入れをした事実を除き、その余の事実はすべて被告において明らかに争わないところであるから、これを自白したものとみなすべく、被告振出の事実については、当裁判所において右事実立証のため原告から申請された被告本人尋問を採用し、被告本人を呼出したのにかかわらず、被告がこれに応じなかったから、右事実についての原告の主張、即ち被告が本件各小切手を振り出したとの主張を真実と認めるほかはない。
二、そうすると、被告は、本件(二)の小切手振出人として、右小切手金一〇〇万円及び、これに対する呈示日以後にして本件訴状送達の日の翌日たる同四三年四月二九日から完済まで、小切手法所定年六分の利息金を支払う義務があるわけであるから、原告の本訴請求中、右の支払を求める部分は正当として認容すべきである。
三、しかし、本件(一)の小切手金請求は、次の理由により失当である。即ち、およそ小切手の所持人は、振出日の翌日から起算して十日以内に呈示をし(小切手法二九条一項、四項、六一条)、いわゆる無費用償還文句(同法四二条一項)の記載がない限り、おそくとも右呈示期間の末日につぐ第一の取引日に、拒絶証書又はこれと同一の効力を有する支払人の支払拒絶宣言を作成させる必要があり、支払拒絶の宣言は、小切手面に記載させることを要するのであって(同法三九条、四〇条)、以上の要件を欠くときは、所持人は振出人、裏書人に対する遡求権を行使し得ないのであるところ、本件(一)の小切手が、所持人たる原告によって支払呈示期間内に呈示されていることは前示のとおりであるけれども、右小切手面に支払人をして前示宣言を記載させていないことは、原告の主張自体からみて明白であり、かつ、右小切手に無費用償還文句が記載されている事実については、原告において主張立証しないところである(原告は、被告の申入により右小切手の依頼返却を受けたと主張しており、かかる事実が認められれば、少なくとも原被告間に、前示無費用償還文句の記載がなされたと同様の効力を有すると解すべきであるところ、依頼返却の事実は、<証拠>によって肯認することができるけれども、これが被告の依頼による事実については、これを認むべき証拠がない。)から、結局、本件(一)の小切手は、原告によって適法に呈示されたが、拒絶証書又は拒絶宣言が所定期間内に作成されていないため、原告の被告に対する遡求権も消滅したといわねばならない。従って、これあることを前提とする原告の(一)の小切手金に関する請求部分は失当として棄却さるべきである(原告が引用する判例は、本件に適切なものではない。)。<以下省略>。
(裁判官 下出義明)