大阪地方裁判所 昭和43年(行ウ)2号 判決 1970年10月09日
神戸市東灘区住吉町反高林一八七六番地
原告
岡田繁治
兵庫県芦屋市公光町三〇番地
被告
芦屋税務署長
奥田実
右指定代理人
検事
北谷健一
同
法務事務官
池田孝
同
大蔵事務官
館石博
同
大蔵事務官
河口進
同
大蔵事務官
高橋洋三
右当事者間の裁決処分取消請求事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当事者の求める裁判
原告は「(一)被告が原告に対し昭和四〇年四月一五日付でなした昭和三八年分所得税の総所得金額を四五六万一六七一円と更正した決定のうち、金八四万二二〇〇円を超える部分を取消す。(二)被告が原告に対し右同日付でなした過少申告加算税(金六万四四五〇円)賦課処分を取消す。(三)訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決を求め、
被告指定代理人は、主文と同旨の判決を求めた。
第二、当事者の主張並びに答弁
一、原告主張の請求原因
1 原告は、家屋の賃貸を業としていたものであるが、昭和三九年三月一六日、被告に対し昭和三八年分所得税の総所得金額を金八四万二二〇〇円として確定申告書を提出し、その所得税金七万二六〇〇円はすでに納付済みである。
2 しかるところ、被告は原告に対し、昭和四〇年四月一五日付で原告の昭和三八年分総所得金額を金四五六万一六七一円(この所得税額金一三六万二一六〇円)に更正する旨、並びに同日付で原告に対し過少申告加算税金六万四四五〇円を賦課する旨、それぞれ決定した。
そこで原告は、同年四月二〇日被告に対し異議を申立てたところ、被告は、同年六月二四日これを棄却したので、原告は、同年七月三日大阪国税局長に対し審査請求をなしたが、同局長は、昭和四三年一月一九日これを棄却する旨決定した。
3 ところで、被告のなした右更正決定は、原告に前記確定申告書記載外の雑所得金三七〇万九五八九円があるとするもので、これは、原告が訴外大東健治及び佐藤梅吉に対する融資金に対する利得があると認定するものと思われるが、右は誤りであり、何等の利得も得ていない。
4 よつて被告のなした右更正決定は違法であり、これを前提とする前記過少申告加算税の賦課決定処分も違法であるから、各その取消しを求める。
二、被告の答弁並びに主張
1 答弁
原告主張の請求原因事実のうち第1、2項記載の事実は認めるが、その余の事実はいずれも争う。
2 主張
被告は、原告の昭和三八年分所得税について調査したところ、訴外大東健治に対して昭和三八年二月二五日付で金五〇〇万円と同年三月二九日付で金八〇〇万円計一、三〇〇万円を貸付けていた。この貸金利息の所得の申告がなされていないため原告の協力を得て正確な所得を計算しようと努力したのであるが、原告の協力は得られなかつた。
そこで、やむなく訴外大東健治を調査して得た資料により原告の所得金額を計算したところ、原告の申告額と異つたため本件更正処分をしたものである。原告の本件係争年分の所得金額は左記のとおりであり、その範囲内でなした本件更正処分に何ら違法はない。
記
総所得金額 五、九〇七、二〇〇円(9+10)
1 不動産収入金額 三、〇五四、六〇〇円(この明細は別紙(一)記載のとおりである。)
2 雑所得収入金額 四、五七五、〇〇〇円(この明細は別紙(二)記載のとおりである。)
3 一般経費 六〇一、七六〇円 原告申告額
4 雇人費 三一八、〇〇〇円 原告申告額
5 減価償却費 八一、〇〇〇円 同右
6 地代 一二五、六四〇円 同右
7 借入金利子 五九六、〇〇〇円(この明細は別紙(一)記載のとおりである。)
8 経費合計 一、七二二、四〇〇円(3から7までの合計額)
9 不動産所得金額 一、三三二、二〇〇円(1から8を控除)
10 雑所得金額 四、五七五、〇〇〇円
三、被告の主張に対する原告の反論
被告主張の事実のうち、不動産収入金額、一般経費、雇人費、減価償却費、地代、借入金利子の各金額が被告主張のとおりであることは認めるが、雑所得金額については否認する。原告は、被告の主張する訴外大東健治に対して昭和三八年三月二九日付で金八〇〇万円を貸付けたことはあるが、被告の主張するような利得(利子)は全く得ていない。
第三、証拠
原告は、甲第一号証、第二号証の一ないし三を提出し、乙第一ないし第六号証、同第八号証、同第一二号証の一ないし一三の成立(乙第三、第四、第六号証については、いずれも原本の存在とも)を認める。乙第七号証の一、二、同第九、同第一一号証の成立は不知。乙第一〇号証は真正に作成されたものである、と述べた。
被告指定代理人は、乙第一ないし第六号証、第七号証の一、二、第八ないし第一一号証、第一二号証の一ないし一三を提出(乙第一〇号証は偽造文書として提出)し、証人大東健治、同金井末男の各証言を援用し、甲第一号証の成立は認めるが同第二号証の一ないし三の成立は不知、と述べた。
当裁判所は職権で原告本人を尋問した。
理由
一、原告主張の請求原因第1、2項記載の事実及び被告主張の事実のうち、原告の昭和三八年分所得金額、経費について、不動産収入金額、一般経費、雇人費、減価償却費、地代、借入金利子が被告主張のとおりであることについてはいずれも当事者間に争いがない。
二、そこで、被告主張の雑所得を原告が得ていたかどうかについて判断する。
成立に争いのない乙第一ないし第六号証(乙第三、第四、第六号証についてはいずれも原本の存在とも)乙第八号証、証人金井末男の証言により成立の真正を認め得る乙第七号証の一、二に同証人及び証人大東健治の各証言を綜合すると、
1 原告が、訴外大東健治に対して、昭和三八年二月二五日金五〇〇万円を、同年三月二九日八〇〇万円を、それぞれ貸付けていたこと(但し右金八〇〇万円の貸付けについては当事者間に争いがない)および右金五〇〇万円の貸金の利息は一ケ月四分五厘であり、同金八〇〇万円の貸金の利息は一ケ月五分であつたこと。
2 原告は、訴外大東健治振出しの約束手形金額六二万五〇〇〇円(満期昭和三八年六月三〇日)及び金額二〇万(満期同年七月一〇日)の二通を所持していたところ、いずれもその満期に支払われなかつたので、これについて即日いずれも準消費貸借契約を締結し、その利息をいずれも一ケ月五分としたこと、
3 原告は、右大東から右金五〇〇万円の貸金について昭和三八年五月までに生じた利息金六七万五〇〇〇円、同金八〇〇万円の貸金について同年同月までに生じた利息金八〇万円、並びに右各貸金(五〇〇万円、八〇〇万円、六二万五〇〇〇円、二〇万円)について、同年六月から一二月までに生じた利息金のうち金三一〇万円、合計金四五七万五〇〇〇円の利息金を同年一二月末までに受取つたこと、
が認められる。原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲証拠に照らし措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない(もつとも、前掲乙第一号証によれば金五〇〇万円の貸金について、同号証記載の不動産を売渡し、同債権が存在しないように解せられるが如き記載があるが前掲乙第七号証の一によれば、右貸金五〇〇万円についても前認定のとおり利息を取得していることが認められるので、上記認定に何等影響を及ぼすものではない。)
三、右認定事実に前記当事者間に争いのない事実を合せ考えると、原告が得た昭和三八年分所得金額は、被告の主張する金額をもつて正当と解するの外はない。
そうすると、被告がなした本件更正決定には所得(雑収入所得=貸金の利息金)がないのに、これを得たと認定した違法があり、またこれを前提とする過少申告加算税賦課決定は違法であるとして、各その決定処分の取消しを求める原告の本訴請求はいずれも理由がないことに帰し、棄却を免れない。
よつて民訴法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 井上三郎 裁判官 矢代利則 裁判官 大谷種臣)
別紙(一)
一、不動産所得の収入金額三、〇五四、六〇〇円について原告申告の不動産収入金額二、六九四、六〇〇円(別表)に訴外神港貨物運輸株式会社からの不動産収入金額三六〇、〇〇〇円を加算した金額である。
二、借入金利子五九六、〇〇〇円について
原告申立の支払利子七二六、〇〇〇円から支払事実がない訴外岩田馨に対する利子一三〇〇〇〇円を否認し減算した金額である。
別表
<省略>
別紙(二)
一、雑所得収入金額四、五七五、〇〇〇円の計算内訳
(一) 元金五、〇〇〇、〇〇〇円に対する利息
イ 貸付年月日 昭和三八年二月二五日
ロ 利率 月利 四分五厘
ハ 昭和三八年中の発生利息 二、二五〇、〇〇〇円
ニ 右のうち昭和三八年中に収入した利息 六七五、〇〇〇円
(二) 元金八、〇〇〇、〇〇〇円に対する利息
イ 貸付年月日 昭和三八年三月二九日
ロ 利率 月利 五分
ハ 昭和三八年中の発生利息 三、六〇〇、〇〇〇円
ニ 右のうち昭和三八年中に収入した利息 八〇〇、〇〇〇円
(三) 元金八二五、〇〇〇円に対する利息
イ 貸付年月日
金六二万五〇〇〇円につき 昭和三八年六月三〇日
金二〇万円につき 昭和三八年七月一〇日
ロ 利率 月利 五分
ハ 昭和三八年中の発生利息 三一九、五七八円
(四)イ (一)のニおよび(二)のニの収入利息 一、四七五、〇〇〇円
ロ 右以外で(一)のハ(二)のハおよび(三)のハに対する昭和三八年中に収入した利息三、一〇〇、〇〇〇円
ハ 昭和三八年中に収入した利息(イ+ロ)四、五七五、〇〇〇円(以上)