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大阪地方裁判所 昭和43年(行ウ)851号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕二 一般に、土地の収用に伴ない建物を収去する場合において、当該建物の一部を現に賃借りしている者に対して、その者が、あらたに当該建物に照応する他の建物の一部を賃借りするために通常要する費用を補償すべきことは言うまでもなく、したがつて被告は原告に対して本件の借家権補償をなすべきところ、その賠償額の算定は、大阪市の事業用地取得に伴なう損失補償基準細則(昭和三八年一二月一六日市長決裁)に準拠することには当事者間に争いがない。

右基準は算定方式として、使用建物が店舗である場合、

(土地の平方メートル当り更地価格×α+建物の延平方メートル当り現在価格)×建物の使用面積

(0.25)の範囲内で適正に定めた率一階店舗     0.25

二階店舗     0.1625

(0.45)の範囲内で適正に定めた率による旨を定めるが、本件において争いがあるのは、右のうち本件土地の更地価格であるから、以下これについて判断する。

三 本件土地収用による損失の補償については、土地収用法の一部を改正する法律施行法三条により、改正前の土地収用法が適用されるが、同法は、収用する土地に対しては、近傍類地の取引価格等を考慮して、収用委員会の裁決の時に算定される相当な価格をもつて補償しなければならないと規定する(法七一、七二条)。

右の相当な価格は、その土地の客観的交換価値によつて判断されるべきであつて、また収用の前後において被収用者の財産額に増減がないように補償されるべきであるから、当該収用の事業の施行の結果たる土地価格の騰貴、すなわちいわゆる起業利益も当然右の相当な価格算定にあたり考慮されるべきである(なお、当該土地の取引価格が低下した場合は、事業の影響がないものとしての当該土地の取引価格によるのが相当である。)か、他方財産権が公共の福祉のもとに制約されることに鑑みれば、通常の事情のもとでは生じえないような利得までも補償すべきものではないことはいうまでもない。

而して、前記二の損失補償基準の算定方式中の更地価格は、右の相当価格とするのが相当である。

四 <証拠>によれば、

本件土地は大阪市営地下鉄一号線本町駅より東南方向約二〇〇メートルの地点に所在し、東の三休休橋筋、西の丼池筋、(いずれも南北に走る。)、南の北久太郎町通り、北の唐物町通り(いずれも東西に走る。)に画された画地の西中間部にあつて、丼池筋(幅員約六メートル)に最高に接する南北の間口約五メートル、東西の奥行約14.5メートルの、付近地としては一般的な形状の矩形地であつて、建物基準法上商業地域、防火地域に指定され、附近一帯は織物布帛製品を独特の前売り(即物即金取引)商法で販売する卸売業者の集中する繊維問屋街(船場地区)を形成し、商品仕入目的の全国各地の繊維関係商人を多数吸引して商業地として高い品等に属していたが、他方零細な敷地単位に多数の卸問屋店舗が建ち並び、狭論な街路は、車両等の通行、商品積降ろしに困難を生み、経済の発展と関連経済圏の拡大につれ、問屋機能の円滑な運営を妨げている事情にあること、

これらの点に対処するためには、都市再開発による地域的改善、都市機能の整備による問屋業務の効率化をはかる必要があり、これらの条件整備により、「船場地区」の一層の発展が期待される状況にあるが、昭和四二年秋頃から繊維業界は一般的に不況現象を呈するに至つたか、本件土地の所在する「船場地区」もその例にもれず、その規模、営業形態について改新の必要性が顕著に見られたこと、

右のような商業地域としての高い密度は地域内の不動産の稀少性と相俟つて非代替性を発揮し、土地は寡占状況を呈し、需給関係は極めて不均衡で、常識的価格を上回る価格で取引される例もあつたこと、

被告は、本件事業用地買収にあたり、船場地区の悪化した前記経済的諸要因を重視した鑑定に基き、本件土地を含む買収地域(船場地区)について比較的低簾な価格で買収したこと、

昭和四三年六月二八日現在(但し小野三郎鑑定の価格時点は同年八月六日)の一平方メートル当りの本件土地の更地価格を鑑定士小野三郎は四六八、八〇〇円、鑑定業者である東京建物株式会社大阪支店は四四九、二〇〇円、同阪急不動産株式会社は四四三、七〇〇円、財産法人日本不動産研究所大阪支所は四三〇、八〇〇円とそれぞれ鑑定評価したこと、

そして、近隣における一般取引事例として別表(一)、丼池筋に面する任意買収事例として別表(二)、鑑定事例として別表(三)の各事例が存在すること、

以上の事実が認められる。

なお、別表(一)記載の一般取引事例のなかには、前記認定のとおり、本件地域における不動産の稀少性、非代替性のゆえに、取引当事者の主観的事情の大幅な介入、買進み取得等特殊偶然的要素を不可避的に含むものもあり、また別表(二)記載の任意買収事例も前記認定のとおり比較的低廉な価格といえるから、これをもつて直ちに比準すべき正常価格とは断じ難いし、また同事例を基礎にした鑑定事例についても同様である。

次に、鑑定人木口勝彦の鑑定は、まず市場資料比較法により、本件事業に関係のない近傍類地の取引事例を選定し、近隣における標準地価格を認定しているが、成立に争いのない甲第二一、二二号証、乙第一一号証によれば、右選定事例のうち別表(一)の(3)の事例は、北側隣接地主株式会社石切五洲間が、築港深江線に沿接することを考慮して事業拡張のために買いとつたものであり、同(29)の事例も同様に同人が買得し、同(15)の事例は購入者の特殊主観的事情が介入している事例であり、同(12)は、買替購入の事例であるから、いずれも本件土地価格の認定資料として適切な事例とはいい難く、また、同鑑定は収益還元法により鑑定価格の妥当性を検証したとしているが、前顕甲第二一、二二号証によれば、本件土地と異なる事例地について(1)家賃収益と土地残余法による還元方法と(2)企業収益からする還元方法を採用して本件土地の正常価格算定の参考に資しているか、右(1)において同鑑定が採用している試算係数の当否および各事例地上の建物の賃料か標準的で適正なものであるか否かについては、なお検討を要しないものではなく、また右(2)の還元方法においては、資本(土地を除く)、労働、経営にそれぞれ帰属すべき比率の妥当性に疑問があり、かつ右各事例地と本件土地の比率も必ずしも明らかでない。

五、以上の事実を総合判断すれば本件裁決時(昭和四三年八月六日)における本件土地の更地としての相当価格は一平方メートル当り金四七〇、〇〇〇円をもつて相当と認められる。

ところで裁決額金八、一九三、〇四四円が被告から原告に対し支払済であることは当事者間に争いがないから、前記二の方式で算定した本件借家補償額金八、六六九、八三六円(銭以下四捨五入)から右金八、一九三、〇四四円を差し引いた残額金四七八、七九二円が、原告に支払われるべきである。

(井上三郎 矢代利則 門口正人)

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