大阪地方裁判所 昭和44年(わ)398号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔主文〕被告人を罰金三、〇〇〇円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金五〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判の確定した日から一年間右刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
〔判決理由〕(罪となるべき事実)
被告人の友人西原こと韓義夫は、昭和四二年一〇月三一日午前三時ごろ、大阪市生野区新今里町四丁目八三番地洋酒喫茶「青い豹」において福本英雄こと金用英(当時二五才)他一名に殴る蹴るの暴行を受け前額部等を負傷させられたことに憤激し、被告人および安田富男こと安栄柱の加勢を頼みに報復しようと考え、同日午前六時ごろ右安の運転する自動車で右金を連れ出し、八尾市新家町七丁目一七番地先中央環状線路上に至り下車後、同所附近において同人が死に至るもやむなしとの決意のもとに果物ナイフ(刃渡り約9.5センチメートル)でその胸部を一回突き刺したが、同人に逃走されたため治療約一ケ月を要する第七、八肋間胸骨左辺部刺創の傷害を負わせたにとどまり殺害の目的を遂げなかつたが、その際、被告人は右韓と金とが喧嘩になるかも知れないことを認識し、その場合には韓に加勢する意図をもつて、韓、安らと共に金を呼び出したうえ安右の運転する自動車に乗り込み、途中車内で金の韓に対する右暴行を非難するなど韓に同調して同人に気勢をそえたほか、同車内で韓より右果物ナイフを手渡されたのでこれを保管し、右犯行現場に停車して韓と金が下車する時、韓より「勇、道具貸せ」と言われるままに右果物ナイフを韓に手交してやり、もつて韓の右犯行を容易ならしめて幇助したものであるが、犯すとき、被告人は右韓に傷害の故意があることを知つていたにとゞまり殺意のあることを知らなかつたのである。
(量刑の理由)
被告人が韓らと共に金を呼び出し安の運転する車に同乗して犯行現場に赴き、途中金に非難を加え、犯行現場において韓と金が下車するに際し先に車中で韓より預かつた果物ナイフを同人に手交した一連の事実はこれを全体としてみるとき、客観的に正犯韓の実行行為を容易ならしめる行為であつたといわざるを得ず、取調べた各証拠を総合すると、被告人において韓と金とが喧嘩になる可能性のあることを認識しており、もしそのような場合には韓に加勢する意図であつた事実を認めることができる。そこで幇助の意思の成否について考えるに、被告人が右のような認識、意図をもつて右のような行為に出た以上、他に特別の事情の認め難い本件において、被告人において自己の右行為が正犯たる韓の実行行為を容易ならしめることを認識し、かつこれを認容していたと判断するのが正当であつて、結局被告人は正犯韓の殺人未遂の幇助罪の成立を免れない(但し被告人が韓の殺意までを認識していなかつたことは判示のとおり)。
しかしながら本件犯行の態様についてみるに、正犯韓の実行行為に対する被告人の認識は判示のとおり未必的のものであつたし、幇助の意思については右に述べたとおり正犯の実行行為を容易ならしめることの認容はあつたといわざるを得ないけれども、積極的に正犯の実行行為を容易ならしめるべく明確に意欲したとはいえないし、被告人と韓との従前よりの交友関係に鑑みて被告人が判示の行為に出るのを敢えて拒否し得なかつたのもまことにやむを得ないと考えられ、次に被告人の経歴等をみるに、両親が共に祖国での政治的な争いに巻き込まれて処刑されるという不幸があつたにもかかわらず少年時代若干の非行があつたのみで前科はなく、本件犯行後は結婚して一子をもうけ現在は養豚業を営み安定した生活を維持していることが認められ、更に本件犯行に際し義兄所有の自動車を持ち出し、韓被告人等を乗せて犯行現場まで右自動車を運転した安栄柱については被告人と対比して正犯韓の右犯行幇助の犯情においてさほど軽重はないと思われるに拘らず刑事責任を問われた形跡がないこと等の事情を総合的に考慮すると主文のごとき量刑が相当なものと考える。(戸田勝 宮嶋英世 島敏男)