大阪地方裁判所 昭和44年(タ)142号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕<証拠>を総合すれば請求原因(一)の事実(注・養子縁組等の事実)が認められる。
二、<証拠>を総合すれば次の事実が認められる。
(一) 原告とその妻なるみとは、両人間に子がなかつたのでそのままでは千頭の血統を引く者が絶えてしまうことを恐れ、かねて原告の妹千頭仙から同女が谷村寅生に嫁して出産した被告一生の将来を宜敷く頼む旨依頼されていたこともあり、また原告との血縁もあり、過去に同居生活をしたこともある同人を養子に迎えることとし、なるみが老衰と脳軟化症で死期が近づいて来た昭和四二年八月頃被告一生、同トシ子夫婦を呼び寄せ、原告、なるみの後継者としてのほか、同人等の面倒を看て貰うことなどを条件に、被告とら夫婦養子縁組するに至つた。
(二) ところで原告は老齢で廃業するまでの四〇余年の間歯科医として開業し、この間に得た利益で本件土地・建物を含む不動産を購入し、これをなるみ名義に登記していたところ、本件土地につきその60.63平方メートルを残して他は大阪市が買収するところとなり、買収金等がなるみ死亡後に支払われることとなつたので、同市は登記名義に従いなるみの相続人である原告と被告等とに均分支払うことにした。原告は、なるみの死後、同女名義の財産の実質上の所有者は原告であり、これらの財産も結局は養子である被告らに帰属するに至るが、原告の存命中は原告が管理保管する旨や、被告らが右財産を蕩尽してしまわずに子々孫々にまで伝えるべきである旨などを書面(甲第九号証)に記載し、これに被告らの署名捺印を求めて同人の了解を得ていたので、原告は大阪市が原被告ら三名に均分支払つた買収代金の第一回支払分を受領した後、これを原被告ら三名の名義を用い、原告の印鑑を届出印として銀行に信託預金した。ところで被告一生の過去の行状が好ましいものではないと思つていた原告が、右買収金受領当時頃から疑り深くなるなどして原告と被告らとの間が不和となつて来た。そして昭和四三年五月二四日頃被告トシ子は被告らの子を連れて原告方を出るに至つたが、その際被告トシ子は前記信託預金のうち同女名義の(イ)三井信託銀行大阪支店への三〇〇万円、(ロ)同銀行梅田支店への金三〇〇万円、(ハ)住友信託銀行西野田支店への金九五四万円の各信託預金証書や本件土地建物の登記済の証を原告に無断で持ち出したほか、同月未日頃には大阪市の買収金等のうち、第二回支払分のうち被告トシ子名義の金五七三万七、八七五円を原告に無断で受け取つた。他方被告一生は被告トシ子の家出後暫く原告と共に住んでいたが、同年六月一八日いずれも被告一生名義の三井信託銀行梅田支店への金一、〇〇〇万円、住友信託銀行西野田支店への金五五四万円の各信託預金をいずれも原告名義に書き換え、その頃原告方を出て被告トシ子と同居するに至つた。そして被告トシ子名義の信託預金のうち、(イ)の預金については被告トシ子の影山整一郎に対する債務のため債権差押及び転付命令が出されるに至つたので、原告は右影山に対し同預金の取立等を禁ずる旨の仮処分決定を得、(ロ)の預金については、被告らが株式会社ダイキンから借りた金一〇〇万円強の担保として同会社に供し、また原告が被告トシ子に対し同預金の取立等を禁ずる旨の仮処分決定を得、(ハ)の預金については、河合比呂司が被告らに金七五〇万円を貸与した担保として受け取つたと称して信託預金証書を原告方に持ち込み、再三買い取りを求めたので、原告が金三〇〇万円と引き換えに河合から受け取つたうえ、原告名義に変更するに至つた。また被告らは本件土地の買収残地についての被告らの各持分を第三者に売却したほか、本件建物についての被告らの各持分について金融業者から差押を受けた。被告らが原告の家を出た後も被告らの債権者と称する者が五、六名、被告らを探して原告方へやつて来たことがあつた。また被告一生の申告で北区役所から原告方へ原告の精神状態が正常か否かを診断に来たことがあつたが、精神異常や狂暴性はないとの結果に終つた。以上のような経緯から原告は被告らと養親子関係を存続させる意思は全くなくなつており、また被告らもなるみの相続問題が解決すれば離縁してもよいと考えており、当事者間には現在互いに養親子としての親愛感は全く存在しない。<中略>
以上認定の事実に徴すれば、なるみ名義の財産が原告に帰属するものであるか否かは別としても、被告らは原告から右財産が原告に帰属するものであるとの説明を受けこれを了解していたにもかかわらず、原告の承諸を得ないまま、原告方を去るに際して被告トシ子名義の信託預金証書を持ち出して処分したり、本件土地の持分を処分するなど、原告の被告らに対する不信感を助長増大させたこともあつて、本件養親子関係はすでに完全に破綻しているものと認められるから、原被告間には縁組を継続し難い重大な事由があるというべきである。
三、よつて原告の本訴離縁請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(大野千里 中川敏男 斎藤光世)