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大阪地方裁判所 昭和44年(ワ)142号 判決 1970年7月07日

原告

豊岡昭三

被告

小田吉光

ほか一名

主文

一、被告らは各自原告に対し被告小田吉光において金八五万〇、一三八円、被告さくらタクシー株式会社において金七九万〇、一三八円とこれに対する被告小田吉光につき昭和四四年二月一一日から、被告さくらタクシー株式会社につき同月一〇日から右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払うこと。

二、原告その余の請求を棄却する。

三、訴訟費用はこれを四分し、その三を原告の、その余を被告らの各負担とする。

四、この判決の一項は仮りに執行することができる。

事実及び理由

第一双方の申立

(原告)

「被告らは各自原告に対し金三二六万九、五九七円とこれに対する本訴状送達の日の翌日(被告小田につき昭和四四年二月一一日、被告さくらタクシー株式会社につき同月一〇日)から右完済に至るまで年五分の割合による金員(遅延損害金)を支払うこと。」

との判決ならびに仮執行の宣言。

(被告ら)

「原告の請求を棄却する。」

との判決。

第二争いのない事実

一、傷害、物損交通事故の発生

とき 昭和四二年一二月七日午前〇時一五分ごろ(天候晴)

ところ 豊中市服部元町一丁目六二番地先、交通整理の行われていない見とおしの悪い交差点

事故車 (イ) 営業用小型乗用自動車(トヨペツトコロナ大阪五あ八九六六号、運転者被告小田、進行方向南―北)

事故車 (ロ) 自家用普通乗用自動車(トヨペツトクラウン、大阪五ね五二九四号、運転者原告、進行方向西―東)

事故態様 衝突、物損

二、帰責事由

根拠 被告小田 民法七〇九条

被告会社 自賠法三条、民法七一五条

該当事実 事故車は被告会社の所有であり、同社従業員たる被告小田においてその業務に従事中徐行義務を怠つた過失により本件事故を惹起したものである。

三、損害のてん補

原告は、本件事故による損害につき、昭和四五年一月自賠責保険金五〇万円の支払いを受けた。

第三争点

(原告)

一、被告小田の過失

同被告には、道交法三五条一項もしくは同条三項、ならびに同法七〇条違反の過失と、前方注視義務違反の過失がある。

即ち、原告は(ロ)車を運転して本件交差点の西方一五メートルの地点に差しかかつた際従前の約三〇キロメートル毎時の速度を約一五キロメートル毎時に減速し、一旦その前照燈を消して該交差点に向け左右から進入する車両の前照燈による照射のないことを認め、警笛を一回吹鳴して、約二〇キロメートル毎時位の速度で交差点に進入し、その中心部を通過し終えてまさに東方へ脱出せんとしていたところへ、五〇キロメートル毎時位の高速で南から北へ進行して来た(イ)車に、その右後部を激突されて尾部を北方へ突き飛ばされ、該交差点の北東角にある人家にその左後部を打ち当てられて大破し、その衝撃により原告自身一瞬放心状態に陥り、ブレーキペタルから右足がはずれる破目になつた。そして又、(ロ)車が交差点に進入した状況につき(イ)車において該交差点の南端から十数メートル南に寄つた地点で充分に現認し得た筈であるのに、被告小田は、この点においても注意義務をゆるがせにしたため、(ロ)車の発見がおくれ、本件事故に至つたものである。

二、傷害、物損の内容

原告は、右前額部、右前胸部、右膝部、頸部打撲捻挫傷を蒙り、引き続き通院加療中である。

原告所有の(ロ)車は、大破した(修理見積費用合計二九万三、六七〇円)

三、損害

(一) 療養費

服部中央病院 七万一、六八〇円

布施神経科ナンバクリニツク 八、五四〇円

(二) 得べかりし利益の損失

休業損 八一万八、七八五円

休業期間 昭和四二年一二月―昭和四三年一〇月(一一カ月)

損失月収 七万四、四三五円

減収損 七万八、五八〇円

減収期間 昭和四三年一一月―同年一二月

減収額 七万八、五八〇円

将来の逸失利益 一三九万二、〇一二円

事由 むち打症による労働能力の減退

減収期間 昭和四四年一月以降三年間

減収月額 三万八、六六七円

(三) 慰藉料 五〇万円

右算出の根拠として特記すべきものは左のとおり。

(1) 原告は、本件受傷後直ちに服部中央病院に赴き、その治療を受け、引き続き今日まで同病院へ通院して加療中である。

(2) 原告は本件受傷のため、夜毎の寝汗や不眠、毎日午後襲う目まい、たちくらみ、活動力の著しい低下等により、自己の業務に重大な支障を来し、経済的打撃も尋常ではなく、殊に性的能力の顕著な減退による夫婦の共同生活にも決定的な亀裂を招くに至り、今後引き続き、多大な精神的苦痛を免れ得ない状態にある。

(四) 物損 二五万円

(ロ)車の本件事故当時の適正価額は、金三〇万円であつたところ本件事故により大破し、その適正時価は金五万円に激減した。しかして、右破損箇所の修理費は前記見積額に達することが明らかになつたので、原告は、やむなく事故の六週間後に(ロ)車を金五万円で売却した。よつて、その差額相当の損失を余儀なくされた

(五) 弁護士費用 一五万円

四、本訴請求

よつて、原告は右損害金合計三二六万九、五九七円とこれに対する請求の趣旨記載のとおりの遅延損害金の支払いを被告らに対して請求する。

(被告)

一、双方車両運転者の過失

(イ)車は、約三〇キロメートル毎時の速度で北進していたのを、本件交差点手前で約二〇キロメートル毎時に減速して、交差点に進入しようとした際、左前方約四メートルの地点を約三〇キロメートル毎時の速度で東に向けて交差点に進入しようとしている(イ)車を認め、急制動をなし左転把したが及ばず、(イ)車前部を(ロ)車右後部に衝突させたもので本件事故は全くの出合い頭の衝突事故というべく、(イ)車に道交法三五条三項の義務違反はない。又、本件東西路は東行き一方通行であるのに対し、南北路はかかる規制の存しない車両往来の頻繁な道路であるから、見とおしの悪い、しかも信号機のない本件交差点を東進通過する車両は、南北路を進行する車両に比して安全確認につき、格段の注意義務を負担しているものである。しかるに、(ロ)車運転者たる原告は、これをゆるがせにした過失により、本件事故の発生を招いたものであり、(ロ)車が北東隅の民家に激突してこれを損壊したことによる賠償は、原告においてなすべきことでこそあれ、被告においてこれの責任を負う筋合ではない。

二、相殺

本件事故は、双方の徐行義務違反によるものであるから相互に民法七〇九条による賠償義務が存するというべく、被告会社は本件事故により左記の損害をこうむつた。

(イ)車破損による損害 九万一、二二〇円

(イ)車体車損 六万六、〇八〇円

期間一〇日

一日六、六〇八円の割合

民家損壊の損害てん補金 一万九、〇〇〇円

右合計 一七万六、三〇〇円

被告会社は昭和四四年三月一〇日の本件口頭弁論期日において、右損害賠償請求権をもつて、原告の本訴債権とその対当額において相殺する旨の意思表示をした。

第四証拠関係〔略〕

第五争点に対する判断

一、事故の状況(双方の過失)

〔証拠略〕を総合すると、本件事故の状況は次のとおりであつたものと認められる。

(現場の状況)

本件事故現場は、東行き一方通行の幅員約四メートル余りの舗装道路と、南北に通じる交差点より南方の幅員約三・五メートル、その北方約四・七メートルの幅員をもつ道路との不正形な十字型交差点で、(信号機はなく左右の見とおしは相互は極めて悪い)制限速度四〇キロメートル毎時の規制がなされており、当時、車の往来は少く、路面は乾燥していた(括弧内は当事者間に争いがない。)

(衝突の状況)

原告は、(ロ)車を運転し、約二〇キロメートルに毎時の速度で交差点の西端附近に東進して来たが、歩行者があつたためその右側を通過したころも、左右道路から交差点に進入する他車のある気配が感じられなかつたので、前照燈を下向きにしたまま交差点に進入したところ、(ロ)車の前部が交差点の東詰から脱出する位置に及んだ時、突如、右後部に激しい衝撃を受け、(ロ)車尾部を大きく北方(左)へ突きとばされ、左後輪部を交差点北東隅の人家に激突させられ、なお、数メートル前進して停車した。

被告小田は、(イ)車を運転し、乗客を乗せて約三〇―四〇キロメートル毎時の速度で南から本件交差点に差しかかり、交差点の直前に至つて左方道路から交差点の進入中の(ロ)車を発見し、これとの衝突の危険を感じて急制動を施したが及ばず、交差点中央附近で、(イ)車の左前部を(ロ)車の右後部(右後輪附近)に激突させ、前記の如く(ロ)車尾部を北方へ打ち当て、その場に停止した。

〔証拠略〕のうち、右認定に反する部分は、当裁判所はこれを措信せず、他に右認定を左右するに足る措信すべき証拠はない。

右事実からすると、被告小田の、見とおしの悪い交差点において徐行ないし一時停止したうえ左右の安全を確認して運転進行すべき注意義務に違反した過失が本件事故の要因をなしていること明らかである。又、わずかながら(ロ)車において先に交差点に進入したものと認められる関係上同被告において道交法三五条一項にも違反したものといわざるを得ない。他方原告においても同法四二条の徐行義務をつくしたものとはいい難く、又左右の安全の確認方法も慎重さに欠けており、この点の過失が指摘され得る。しかして、両者の過失割合を比較した場合(イ)車が六〇、(ロ)車が四〇の比率にあると見るのを相当と考える。

二、原告の傷害、物損の内容

〔証拠略〕によると、原告が本件事故によりその主張のとおりの傷害を受け、(ロ)車に大破の損害をこうむつたことが認められ、他にこれを左右するに足る証拠はない。

三、損害

(一)  療養費 合計八万〇、二二〇円

〔証拠略〕により、原告主張のとおりの療養費を要したことが認められる。

(二)  得べかりし利益の損失

1 休業損 八一万八、七八五円

〔証拠略〕を総合すると、原告は、本件事故当時、その妻が名義上代表者である株式会社アートセンター(絵画の複製を営業の目的とする)に勤務し、月収八万五、〇〇〇円(本給)を得ていたが、前記受傷により、事故当日(昭和四二年一二月七日)から昭和四三年一一月一五日まで休業し、この間合計右金額を下らない給与を受け得なかつたことが認められる。

2 減収損 七万八、五八〇円

前掲各証拠により、原告は通院治療のため昭和四三年一一月の稼働日数一二日、同年一二月の稼働日数一〇日の有様で、支給総額七万〇、二九〇円に過ぎず、得べかりし給与合計額たる一四万八、八七〇円との差額七万八、五八〇円を下らない額を喪失したことが認められる。

3 将来の逸失利益 一八万九、三一二円

前掲各証拠を総合すると、原告の症状は昭和四四年一月からは、多分に心因性の自覚症状的な項部、右肩部に神経症状をとどめているものと思料され、前掲甲第一二、一三号証に記載されている「健康人と同程度の肉体労働、頭脳労働は困難である」旨の記載はその主訴を印したもの以上の価値を有するものとはいい難くその後昭和四五年四月三〇日まで通院したことは認められるけれども、この間健康時の労働能力に比して、その二分の一程度を喪失していたものとは到底認め難く、本件事故と相当な因果関係のある損失としては、既に過去に属する昭和四四年一月から同年一二月(本件事故日より約二年)までの間健康時の給与の二〇パーセント程度と認めるのが相当である。

算式

七八、八八〇×〇・二×一二=一八九、三一二(円)

(三)  慰藉料 四〇万円

前掲各証拠によつて認められる原告の受傷直後の態様つまり衝突の衝撃によりブレーキから足がはずれる結果にはなつたが、直ちに(ロ)車を停止させ、下車して被告小田と話し合い、更に警察官の実況見分にも立会つて指示説明をなし、その足で服部中央病院に赴き診察を受けた処、同院整形外科医師により右前額部、右前胸部等打撲捻挫傷のため約一カ月間の通院治療を要する旨診断されその後同院において受けた精密検査の結果でも入院を要する程のものではないことを告げられており、しかも前に認定した如く長期間通院し(実日数一五九日)ていることのほか、弁論の全趣旨に徴し、右金額が本件事故による原告の精神的苦痛を慰藉するに相当な金額であると認める。

(四)  物損 二五万円

〔証拠略〕により、原告主張のとおりの(ロ)車の損害があつたものと認める。

(五)  弁護士費用 一〇万円

後記認容額、本件事案の内容、その他弁論の全趣旨に徴し、被告らにおいて本件事故を相当因果関係のある損害として負担すべきものは、右の金額が至当であると認める。

四、過失相殺

以上算定の原告の損害額のうち、前項(一)(二)(四)の金額については前記過失の割合に従い民法七二二条によつてその四〇パーセントを控除する。

その結果、原告の損害額は合計一三五万〇、一三八円となる。

五、損害のてん補

原告が自賠責保険金五〇万円を既に受領していることは当事者間に争いがないから、これを右損害額から控除すると、その残額は八五万〇、一三八円となる。

六、相殺

〔証拠略〕を総合すると、被告会社は本件事故により左の損害をこうむつたことが認められる。

(イ)  車破損による損害 九万一、二二〇円

(ロ)  車休車損 六万円

期間 一〇日間

一日六、〇〇〇円を下らない割合

しかして、被告側には前記過失があるから、その割合に従つて六〇パーセントを民法七二二条により減額し、被告会社において原告に賠償を求め得べき損害額六万円につき被告会社が昭和四四年三月一〇日本件口頭弁論期日においてなした相殺の意思表示は右の範囲でその効力を生じ、これによつて原告の賠償請求権は双方の債権が相殺適状にあつたと認められる本件事故日に遡つて対当額の限度で消滅したものと認められる。

なお、求償債権による相殺はその債権の性質上当裁判所はこれを認めない。

七、よつて、被告らは各自原告に対し、民法七〇九条(被告小田)、自賠法三条、民法七一五条(被告会社)により、被告小田において金八五万〇、一三八円、被告会社において金七九万〇、一三八円とこれに対する本件不法行為の日の後である(本訴状送達の日の翌日)請求の趣旨記載の日から右完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

されば、原告の本訴請求は右の限度で理由があり、これを超える分については理由がないので、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中村行雄)

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