大阪地方裁判所 昭和44年(ワ)2003号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕一、事故
請求原因第二一(一)ないし(四)の事実は当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、被害車が停止中に加害車の後部荷台が被害車の後部に衝突したことが認められる。
二、責任原因
(一) 被告会社
請求原因第二二(一)の事実は当事者間に争いがないから被告会社は、加害車の運行供用者として原告に対し、本件事故による損害を賠償するべき義務がある。
(二) 被告岡田
<証拠>を綜合すると、本件事故現場は東西に通ずる車道の幅一六、四メートルの道路上で、右道路には中心線があり、西行は南から幅二、二メートル、三メートル、三メートルの三車線に五分されていて南側に幅二、七メートルの歩道が設けられており、附近の最高速度は毎時四〇キロメートルと指定されていたこと、被告岡田は、加害車(総排気量〇、一二五リットル)を運転して南端の車線を東から西に向つて時速約四〇キロメートルで進行し、先行する乗用自動車の約二、六メートル後方を追従していたところ、先行車が右に転把した際に、約九七メートル前方に被害車が道路の南端に停止しているのを始めて発見し、約二、三五メートル進んで少しブレーキをかけ、更に約四、三メートル進行して強くブレーキをふむとともにハンドルを左に切つたが約三、〇五メートル滑走して転倒し、加害車の後部荷台の右側部分が倒れながら被害車の後部左側のバンバーに衝突したこと、原告は、被害車(車両総重量一、五七〇キログラムの総排気量一、九九四リットル)を運転して東から西に向つて進行中南側の歩道上で客が手を上げているのを認めて道路の南端の歩道から約〇、九五メートル北側に停止した際本件事故が発生し、軽い衝撃を感じたが、被害車は右衝突によつて前に移動はしていなかつたことが認められ、右認定を左右しうべき証拠はない。以上の事実によれば、被告岡田は、加害車を運転中先行車との間に安全な車間距離を保つべき注意義務を怠つた過失によつて本件事故を発生させたものと認められるから、不法行為者として原告に対し、本件事故による損害を賠償するべき義務がある。
三、損害
<証拠>を綜合すると、原告は、事故当時四六才で、事故の際は被害車の左後部のドアを開けようとしていたときで少し衝撃を感じたが、被害車は全然前には動かず、後部バンバー等修理代として五、四〇〇円を要しただけの破損にとまどつたこと、原告は、事故直後は身体に別段異常を感ぜず、タクシー乗務員としての勤務を続けて事故日の昭和四三年八月二六日午後五時ごろに勤務先の会社に戻つた際首に痛みを覚えたので、小川病院で診察を受けたところ、頸椎挫傷で二週間の加療を要する旨の診断がなされたこと、原告は、同日から同月末日までに五日同病院に通院して治療を受けていたが、左肩こり、左上肢牽引痛、頸部痛、頭痛を訴えて経過がよくないので、同年九月二日から同年一一月一六日まで入院し、その後同年一二月二〇日まで通院して治癒したこと、原告の症状はすべて本人の訴えによるもので脳波には異常がなく、レントゲン検査の結果では第五、六頸椎間に軽度の骨軟骨症が認められたが、外傷によるものとは考えられず、全く他覚的な所見を欠いており、その後何らの後遺症状も生じていないこと、原告の訴える肩こりや頸部痛などの症状は原告の年令からみて、又その軽度の頸部の骨軟骨症とも関係して外傷と無関係に起りうる程度のものであることが認められ、右認定を左右しうべき証拠はない。以上の事実に前記二(二)で認定した本件事故の態様をも合わせ考えると、原告は、小川病院においてその事故後の症状が頸椎挫傷の傷害によるものである旨の診断を受けてはいるけれども、頸椎挫傷は自動車の急速な動き又は変化によつて頭部と胴との間にずれが生じ、頸部が生理的な運動範囲をこえて動かされることによつて生ずるものと考えられるところ、原告の受けた衝撃は、本件事故が小型乗用自動車の後部にそれよりもはるかに軽量のブレーキによつて滑走して転倒しながらその後部荷台の右側が衝突したにすぎず、被害車も全然移動しておらず、破損も軽微なものであつたところからみて、極めて軽度のものであつたと思われ、頸椎に挫傷を生ずるような頸部の運動が生じたものとは到底考えられないこと、原告には第五、六頸椎間に事故前から軽度の骨軟骨症があり、原告が事故後に訴える症状は外傷と無関係に起りうる程度のものであること、小川病院での診断も何らの他覚的所見もなく原告の自訴のみによつてなされたものであり、かつ本件事故が通常の追突事故とは違つた特殊なものであつたことに全く考慮を払うことなく安易に診断されたものと認められるから、原告が本件事故によつて傷害を受けたものとは認め難く、他に原告の症状が本件事故によつて生じたものと認めるに足る証拠はない。
四、従つて原告主張の傷害が本件事故によつて生じたものと認めることはできないから、原告の右傷害にもとづく損害の主張は理由がない。 (山本矩夫)