大阪地方裁判所 昭和44年(ワ)3911号 判決
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〔判決理由〕四、自賠責保険契約保険金請求について
被告会社が各種保険事業ならびに自賠保障事業を営む保険会社であることは、原告と被告会社に争いがない。自賠責保険証明書によると、事故車について昭和四一年六月二四日被告会社大阪支店が日産サニー大阪東販売株式会社扱いで、保険契約者原告、保険期間同年七月末日から一年間とする保険契約を締結し、保険料九、七四〇円は収納済となつていることが認められる。すでに第二の二に認定のとおり、事故車の登録名義を原告とした関係で、被告木村が原告の了解をえて保険契約についても原告名義でなし、保険料は被告木村が支払つた。
一般に自賠責保契約においては、車輛の保有者が保険契約者であることが通常であるため、右のように事故車について原告名義としたものと考えられる。自賠責保険は強制保険であり(自賠法五条)、この保険を契約するのは何人でもよく、被保険者であることを法定されている保有者、運転者(同法一一条)が契約する必要はない。一般の損害保険については、保険契約をした場合には、このことを保険者に告げないと契約が無効であり、任意の自動車保険契約についても同様である。(商法六四八条、自動車保険普通保険約款三章六条(3))強制保険ではかかる法規、約款もなく、誰が契約をしても契約自体にかしがない以上有効にしようとする趣旨であろう。つまり強制保険については、保険契約にかかる車輛による保険事故について、可及的に損害てん補をなさしめようとするものだからである。このことは強制保険について免責事項は保険契約者、被保険者の悪意により生じた損害のみ(自賠法一四条)であり、保険契約者、被保険者の告知義務、通知義務についてもゆるやかで、保険契約者は自動車の種別、車籍変更により危険の増加のときでなければ、ほとんど不利益をうけることがないことからも明らかである。
そして、保険会社は代理店等を通じて多数の保険契約を締結するのであるから、保険契約者として悪意でないかぎり保険証明書に表示された者を契約者とせざるをえないであろう。一方原告は名義の貸与を了解した以上自己の名で保険契約を締結することを了解し、被告木村を介して被告会社へ契約の意思表示せしめたものと推認するに難くないので、これに反する主張をすることは被告主張のごとく心裡留保や禁反言の法理からも許されないところである。
ところで原告が、被告会社に対して契約上保有者となつていても、これは具体的な車輛の運行によりきめられるものであり、実際保有者でないこと前記第二の二認定のとおりであるから、これが証明されるかぎり前述した強制保険の性質上、被告会社としても認めないわけにはいかない。してみると、原告は自賠法三条にいう他人として保護されるものというべきである。(なお保険契約者と被保険者とが同一であつた者が保険にかかる車輛を譲渡し、すでに保有者たる地位を失い、名義残りの場合に、右車輛で事故に遭遇した際にも同じような問題が生ずるが、この場合は遅滞なく通知すべき義務があり、(約款六条)危険の増加等別の問題もあるから、必ずしも本件と結論が同一になるものではなかろう。)
被告会社は原告が自ら保有者であることを外部に表示している以上、信義則ないしは禁反言の法理等からもこれに反する主張は許されないというが、任意保険についてはともかく、前述したとおり強制保険については自賠法の目的趣旨からいつて、保険契約者としての不利益は甘受させることまでは、やむをえないとしても、これら一般条項により保有者でないものを保有者として取扱うことは消極にならざるをえず、被告会社の右主張を採用することはできない。
そうすると、原告は本件事故の被害者として自賠法一六条、同法施行令二条により被告会社に対して五〇万円の範囲内で損害賠償額の支払を請求できるものといわねばならない。 (藤本清)