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大阪地方裁判所 昭和44年(ワ)4471号 決定 1970年5月20日

原告 双和ハウス株式会社

被告 赤江農業協同組合

当事者参加人 国

訴訟代理人 上野至 外三名

主文

本件各訴訟を宮崎地方裁判所に移送する。

理由

一  原告は、被告に対し、昭和四三年三月九日より同年五月九日までの間五回にわたりなした定期貯金の未払戻残額金二億円とこれに対する附帯の各利息の支払いを求めて、本訴提起に及び、なお、「右各貯金の払戻場所は、民法四八四条の原則により、原告の住所地たる大阪市であるから、民訴法五条にもとづき、当大阪地方裁判所は、本訴訟につき管轄権を有するものである。」と附陳した。

二  被告は、本案の答弁に先だち管轄違の抗弁を提出し、「原告の主張する貯金債権がかりに存在するとしても、その義務履行地は、被告の主たる営業所の所在地たる宮崎市以外にはあり得ないから、当大阪地方裁判所は、本件につき管轄権を有せず、本件は、これを宮崎地方裁判所に移送すべきものである。」と述べた。

三  なお当事者参加人は民事訴訟法七一条により、右訴訟に参加した。

四  そこで、まず、原、被告間の貯金請求事件の管轄につき判断する。

本件係争物たる原告の被告に対する定期貯金は、これを法律的にみれば、一種の消費寄託であるが、原告が商人(会社)であるため、右契約は、商行為と推定すべきであるから、同契約上の寄託物たる金銭の返還債務の履行地は、商法五一六条の原則を適用する限り、原告主張のとおり債権者、すなわち原告の現時の営業所となるはずである。しかしながら銀行等の金融機関(農業協同組合を含む)に対する預貯金に関し、その払戻は特段の事情がない限りもつぱらその業務取扱営業所で行われるという慣習が存在することは、当裁判所に顕著な事実である。それ故、当事者の意思表示においてとくに右慣習によらないという趣旨が認められぬ限り、民法四八四条後段、商法五一六条の持参債務の原則は、銀行等の預貯金債務の履行地には妥当しないと解するのを相当とする。

本件について、これをみるに、原告が返還を請求している貯金は、被告の農業協同組合になされたものであつて、右に説示したとおりその返還義務履行地は、原則としてその取扱営業所の所在地と解すべきところ、当事者がこれと異なる合意をなした事実は、本件の全証拠によるも、これをみいだしえない。原告代表者本人は、被告農脇の預金課長谷口が「満期には、勧業銀行大阪支店に取り立ててもらつて差し支えなく、金員の交付を受けた後に請求書を送付してもらえばよい。」と言明した旨供述しているが、たといかような言明がなされたとしても、その趣旨を持参債務の承認と解しえぬことは、もちろんである。

そうすると、本件各定期貯金の返還は、これが受入のなされた被告営業所の所在地において行なわれるべきであり、その他原告主張外の管轄原因も肯認しえぬ以上、原、被告間の本件訴訟は当大阪地方裁判所の管轄に属しないものと認められるから、民事訴訟法第三〇条第一項、第四条第一項、第五条に従い、これを右被告の受入、かつ主たる営業所の所在地を管轄する宮崎地方裁判所に移送すべきものである。

次に、原、被告間の訴訟が右のとおり移送すべきものとすればこれと併合審理すべき参加人の提起した民事訴訟法第七一条の当事者参加訴訟も同じ裁判所に移送しなければならないのは当然である。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 戸根住夫 岡田春夫 長野益三)

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