大阪地方裁判所 昭和44年(ワ)4990号 判決
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〔判決理由〕一 <証拠>によると、原告は昭和四四年一月その所有の吹田市大字榎阪八一九番五に所在の宅地上に本件建物を建築することを計画、原工務店と建築請負契約を締結したこと、請負代金の総額は表入口附近の舗装工事を含め金九六〇万円であつたこと、原告は昭和四四年五月二四日までに内金四五万円を支払つたこと、残金一五万円は表入口附近の舗装工事が未了であつたため、その工事代金に見合う分として、原工務店と合意のうえ支払を留保していたこと、昭和四四年五月二五日本件建物は一部を除きほとんど完成したので、原告は原工務店よりその引渡しを受けたことが認められる。右認定を覆えすにたる証拠はない。そうだとすると右引渡しによつて本件建物の所有権は原告に移転したということができる。
二 被告山川が電気工事を業とし、被告淀川サツシがアルミサツシの製造販売を業とし、被告日伸木工が建具商であること、本件建物建築に関し被告山川が電気工事を、被告淀川サツシが窓枠工事を、被告日伸木工が建具工事を、いずれも原工務店より下請したこと、しかるに原工務店は業績不良により昭和四四年六月一四日期日の約束手形の不渡りを出して倒産したこと、被告らが右各工事代金の支払を受けていないことは当事者間に争いがない。
三 <証拠>によると、被告らの下請工事は材料は下請負人である各被告ら持ちであつたところ、昭和四四年六月一一日までに、被告山川は別紙第二目録記載の物件を本件建物に設置し、屋上の水銀灯工事、分電盤のヒユーズのチエツク、点灯試験を除き、電気工事のほとんどを完了し、関西電力株式会社に対する俊工届もしていたこと、しかし右の如く工事未了部分があつたので、まだ原告工務店に対する引渡しをしていなかつたこと、被告淀川サツシは、別紙第三目録記載の物件を本件建物に設置し、工事のほとんどを完成していたが、一部サツシの付属金物の取付未了や調整未了があり、やはり原工務店に対する引渡しは終つていなかつたこと、また被告日伸木工も別紙第四目録記載の物件を本件建物に設置し、建具工事のほとんどを完了していたが、右物件中手直しを必要とするものがあり、一旦設置した後手直しのため持帰つたものがあつて、原工務店に対する引渡しは未了であつたことがそれぞれ認められる。右認定を左右するにたる証拠はない。被告らの下請工事の、完成物件の所有権移転時期につき特段の定めがあつたことを認め得る証拠はないから、材料は請負人である被告ら持ちであり、請負代金の支払もなく、完成物件の引渡しもない以上、別紙第二ないし第四目録<省略>記載物件は、民法第二四二条の適用のない場合であれば、各被告の所有であるということができる。
四 昭和四四年六月一一日、本件建物より、被告山川の使用人が別紙第二目録記載物件を、被告淀川サツシの使用人が同第三目録記載物件中、一、二、六、一一の物件、およびその余の物件中窓枠用サツシを、被告日伸木工の使用人が同第四目録記載物件中三ないし六、八、一〇一二、一三、一四を除いた物件を、それぞれ収去して持帰つたことは当事者間に争がない。<証拠>によると、被告淀川サツシの使用人は別紙第三目録記載の物件中各窓は窓枠サツシのみを持ち帰り、ガラスは外して本件建物内に存置しておいたところ、後日納入者であつた訴外森川ガラス店が持ち帰つたことが認められる。被告日伸木工は同第四目録記載物件中、三ないし六、八、一〇、一三、一四は手直し、取換などのため先に持ち帰つていたものであると主張するから、日は右一一日前であるがいずれにしても同被告がこれら物件も本件建物より収去していることは明らかである。
五 ところで昭和四六年六月一一日被告らの使用人が、前記物件を収去するに至つた経緯およびその態様は、<証拠>によると以下のとおりであつたことが認められる。すなわち原工務店は経営状態が悪化し、同年六月一〇日、被告ら各債権者に対し支払不能の状態にある旨および翌一一日債権者集会を開催する旨の通知をした。そこで被告らは同工務店倒産による損害を最小限に喰止めるべく、使用人に命じ本件建物に納入設置した物件の収去取戻しを命じた。その収去に当り、被告山川の使用人渡辺祥二は本件建物入口に錠がかかつていたのに、ただ一か所施錠されていなかつた一階便所の窓から侵入し、約二時間を要して物件を収去した。被告淀川サツシの使用人安田正輝も右便所の窓から侵入約一時間で物件の収去を終えた。被告日伸木工の使用人山本喜代治はすでに安田正輝によつて開放されていた正面入口より入り収去したものである。これらの使用人が本件建物に入つた当時は、右収去物件が設置されていたほかに、床にはPタイル、畳が敷かれ窓際の壁の一部にはクロスが張られていた。以上の事実が認められる。右認定を覆えすにたる証拠はない。
六 民法第二四二条にいう附合とは主たる不動産に従たる動産が附着一体となり、その程度がこれを分離還元することが事実上不可能であるが、仮りに可能であるとしても社会経済的見地より甚るしい損害となると見られるまでに至つたものというと解されるところ、被告らの使用人によつて収去され、持帰られた別紙第二ないし第四目録記載の各物件は(ただし同第三目録記載物件中の各窓の窓ガラスは訴外森川ガラス店が持帰つているから、右ガラスは除く。以下同じ。)は、設置後取外しが可能であり、独立の存在を失つていないことは右物件の性質により明らかであり、また現に前記の如く比較的容易に収去されている事実に徴し明らかである。(なお<証拠>によると、被告山川の使用人渡辺祥二は、コンクリート埋めこみの配管、配線の如く、取外し不可能であつて、本件建物に附加されたとみられる物件は取外していないことが認められる。)また右収去により本件建物自体に大なる損傷を生じたとか、甚るしい経済的損失をもたらしたとかの事実を認め得る証拠はない。そうするとこれら収去物件の設置は本件建物に未だ附合しておらず、独立の所有権の対象となつていたといい得るから、収去当時も別紙第二目録記載の物件は被告山川の、同第三目録記載の物件は被告淀川サツシの、同第四目録記載の物件は被告日伸木工の各所有であつたということができる。
七 <証拠>によると、原告は昭和四四年六月一二日、本件建物に家財道具を搬入すべく下見に行つたところ、表入口が開いており、何者かが侵入した形跡があつて、窓、建具、扉、電気設備の一切が収去されているのを発見、呆然としたこと、しかも前日降雨があつたため、建物内部に雨水が降り込み、畳や床のPタイル、壁のクロスなどが水浸しとなつていたこと、原告は原工務店に命じ応急措置として建物四囲の入口、窓に板を張らしたが、すでに右の如く水浸しとなつていたため畳にはかびがはえ、Pタイル、クロスはめくれ上り、使用に耐えなくなつたものもあること、そこで原告は昭和四四年八月二一日頃訴外長尾工業所こと長尾豊に復元工事を発注したこと、そのため原告は(一)電気工事代として金四四万三、七〇〇円、(二)アルミサツシ工事代として金二三万三、七二四円、(三)ガラス工事代として金九万二、二八〇円、(四)Pタイル工事代として金三万七、五六〇円、(五)クロス工事代として金一三万三、〇〇〇円、(六)美装工事代として金一四万二、五六〇円、(七)畳代として金四万八、〇〇〇円、(八)建具工事代として金三五万九、八〇〇円を支払つたことが認められる。右認定を左右するにたる証拠はない。
八 <証拠>によると右支出金のうち、(一)の電気工事代金、(二)のアルミサツシ代金、(八)の建具工事代金は、被告らの使用人によつて収去された別紙第二ないし第四目録記載物件の代替物件を設置するに要した費用であることが認められるところ、右各収去物件は被告らが未だ原工務店に引渡しをしていない、被告らの所有物件であるから、これを収去することは何ら違法ではない、ということができる、したがつて原告の前記各代金の支払を、被告らの収去行為により原告のこうむつた損害ということはできない。(三)のガラス工事代も、弁論の全趣旨によれば収去された窓等のアルミサツシにはめられていたガラスの代替ガラスを再びはめ込むのに要した費用であると認められるが、右ガラスを持去つたのは訴外堀ガラス店であること前記認定のとおりであるから、同然である。また<証拠>によると、(四)のPタイル工事代金三万七、五六〇円、(五)のクロス工事代金一三万三、〇〇〇円、(七)の畳代金四万八、〇〇〇円は、前記のとおり水浸しとなつたため、かびが生えた畳を取替え、めくれ上つたPタイル、クロスを張替えるに要した費用で、(六)の美装工事代は雨水等により汚損された壁、床等の美装に要した費用であると認められるが、原告のこれらの損害も、現象的には被告山川が使用人により別紙第二目録記載物件を収去したことに起因するといい得ても、そもそも右収去物件が同被告の所有であり、収去が違法でない以上道義的にはとも角その法律上の責任は同被告にはなく、右物件の引渡しも受けず、その所有権を取得しないままに、これを本件建物とともに原告に引渡した原工務店が負担すべきであると解されるから、被告山川が賠償すべき筋合ではないというべきである。
(野田栄一)