大阪地方裁判所 昭和44年(ワ)501号 判決
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【判決理由】一、葬儀費用、これに関連する雑費、逮夜料並びに仏壇購入費(以上原告保負担)
<証拠>を総合すれば、原告保は、亡華子の葬儀関係費用、逮夜料、並びに仏壇購入費用等として、ほぼその主張(第三(原告らの主張)一の4・5)に沿つた金員を支出したことが認められる。
ところで、葬儀関係費用については、その経費の多寡を生ずる要因は多様であるが、右経費の支出が、どの範囲で、本件不法行為と相当因果関係を有するか否かの判断は、単に個々の支出の相当性の判断につきるものではなく、これを内に含みつつも、結局葬儀という人の死を悼み、弔いをするために社会的に形成された一連の儀式ないし習俗のために要する費用としての関連性において、その地域、宗教、社会的地位等に応じ、一体として、その総額について最も適切に判断され得るものと考えられる。
ところで、仏壇購入のために要した費用について考えてみると、まず、右葬儀費用のほとんどが消費的な支出であるのに対して、これの購入は、多くの場合に、それが当該死者のためばかりでなく、将来にわたり、その家族ないし祖先の霊を祀ることにより、あるいは一家の祭祀の中心としての役割を有し、かつ下つては装飾的調度としての効用をも有することにより、その利益が将来に残存することになる結果、原告らも認めるように、必ずしも購入費の全額を、不法行為によつて生じた損害として認めることはできないものである。しかし、その点はともかくとしても、それが不法行為と相当因果関係を有すると認められる範囲内においても、その賠償を肯定される理由は、単にその購入が一個人の心理的、宗教的動機において人の死と必然的関連を有するか否かという個別的な事情にあるのではなく、一家に仏壇等を欠く場合には、これらの購入が社会の習俗慣習の上で、死者の霊をとむらうために、必要かつ相当、と認められる点にあるといわなければならない。とすれば、これはむしろ前記葬儀の目的と一連の関係に立ち、これを補完する経費と言うべきであつて、その相当性のおよぶ範囲の判定も、その地域、宗教、社会的地位、等前同様の諸般の事情並びに遺族の構成等に応じ、前記葬儀費用と共に死者の死を悼み、霊をとむらうための一連の社会的習俗のうえで、通常必要とされる限度において認められるものとして、これと一体をなして判断するのが適切であるというべきである。
これにより本件を見れば、右葬儀は仏式であり、亡華子の夫である原告保は阪急バスの企画室部長という社会的地位を有する者である等前掲証拠により認められる諸般の事情に鑑み、前記経費のうち、合計三〇万円を、本件事故に相当因果関係を有する損害として認めるのが相当である。
二、慰藉料
<前略>
次に被告らは、相手方車の過失並びに好意同乗の点を挙げて慰藉料額の減額を主張するので、この点について、判断する。
まず、<証拠>を総合すれば、本件事故の発生については、事故の相手方である大型貨物車の運転手訴外枡田にも、一三〇度以上の、見通しの悪い急カーブをなしている本件事故現場において、警笛の吹鳴を怠り、かつセンターラインよりに転回しようとしたため、車体の後部をして、センターラインをややオーバーせしめた等の過失が認められるが、一方、被告宏明には後藤車を運転して、時速五〇キロ近い速度で右急カーブにさしかかり、徐行もせずセンターラインをオーバーして右大型貨物車の右前面から右側面にかけて突入した事実が認められるのであつて、本件事故の決定的原因が、右被告の無謀な運転にあり、これに比べれば枡田車側の責任は軽微であるから、仮に原告らが被告らに対してのみ損害の賠償を求めているとしても<証拠>によれば枡田車側も強制保険金二三五万余円を負担していることが認められるのであるが)、そのことのゆえに原告らの精神的損害を低く評価する理由はない。
問題は好意同乗の点にある。前掲各本人尋問の結果によれば、亡華子及び原告英子は、被告らの車に同乗し、被告ら両名と共にドライブを楽しんでいる途中に本件事故に遭遇したもので、かつ仮にそのドライブに誘つたのが被告らであつたとしても、当時原被告らは隣家同志で、かねてから親しく近所づきあいをしていた者であるから、特にその点が重視されるものでもなく、結局、亡華子らは、被告宏明の運転に身をゆだね、その好意によつてドライブを楽しんでいた関係にあるものと言うべきであり、その宏明の過失に対しても幾分なりの宥恕の念の生ずるのが当然であつて、まつたく無関係の第三者により同様の損害を蒙つた場合に比べ、その精神的損害の程度は軽いものと評価せざるを得ない。ただ、本件においては、その後、損害賠償の問題をめぐつて、原・被告の関係は対立相克の関係に至つたことが認められるが、これは本件事故に直接因果関係を有する事態ではなく、右立論を左右するものではない。
以上述べきたつた点に従い、前記原告らの精神的損害を金銭的に評価すると、次の金額を相当とする。
原告保に対して(亡華子の慰藉料一二〇万円の相続分と構成される分を含めて) 八〇万円
原告英子に対して(右に同じ)
一〇〇万円
原告康子に対して(右に同じ)
八〇万円
原告鼎、同政子に対して 各二五万円
五 弁護士費用
前項までに述べたところによれば、原告らの本件事故による損害は総額五三九万余円と評価されるところ、<証拠>を総合すれば、被告側は、本訴の提起される以前に、原告らに対し、当時すでに内定していた自賠責強制保険金四七一万余円並びに支払ずみの治療費の他になお内金として一五〇万円ないし二〇〇万円の支払いをなす旨の申出をしていることが認められるので、これを受諾すれば、金銭に評価される限りでの原告らの損害の回復は十分に可能であつたものと解され、客観的に見るならば金銭賠償を求めて本訴を提起する必要性はなかつたものであり、結局、本訴提起のための弁護士費用を本件事故に相当因果関係ある損害と認めて、被告側に負担させることは相当でない。又、示談交渉のための経費も、右認定の事情の下においては本件事故に相当因果関係を有するものとは認め難い。よつて、原告保の弁護士費用の請求はすべて認容し難い。(本井巽 中村行雄 小田耕治)