大阪地方裁判所 昭和44年(ワ)5096号 判決
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〔判決理由〕二、被告向井赳夫に対する請求について
1 先ず、原告および被告会社が繊維製品の販売を業とする株式会社であり、被告向井が被告会社の取締役であることは当事者間に争いがない。
2 そこで、原告主張の損害が生じているかどうかの点について判断する。
(一)、被告会社が昭和四二年九月一一日から翌四三年二月二六日までの間に原告より代金合計三、六〇六万一、八九七円の繊維製品を買い受けたこと、その代金の弁済期が昭和四三年六月二八日までに全部到来したことは当事者間に争いがないから、原告が被告会社に対し右代金の支払いとこれに対する遅延損害金の支払いを求めうることは明らかである。
(二)、ところで被告会社が右代金支払いのため振出した本件手形(一)をすべて不渡にしたことは当事者間に争いがなく、また被告向井本人尋問の結果と弁論の全趣旨によると、被告会社は右不渡手形発生による倒産時の資産として二千数百万円を有していたが、その大部分にあたる土地・建物・銀行預金はそれぞれ他の債務の担保に供せられていたため、その弁済に充当され、被告会社は現在原告に対する債務を含め数千万円の債務を負担しているもの、資産は皆無の状況であることが認められるので、これらの事実を併せ考えると、原告が今後被告会社より右代金の弁済を受けられる見込みはまずないことが明らかである。
(三) また被告会社が原告に対し代金支払いのため裏書譲渡した本件手形(二)もすべて不渡になつたことは当事者間に争いがなく、<証拠>を総合すると、本件手形(二)のうち、1ないし4の手形振出人と5・6・14ないし16の手形の受取人兼第一裏書人はいずれも住民登録もなく所在不明であり、同5・6・9および10ないし13の手形振出人はいずれも手形上住所として記載されたところに商業登記がないことが認められ、以上の各事実と弁論の全趣旨とを総合すると、原告が本件手形(二)によつて右売買代金の一部についてもその支払いを受けられる見込みがないことが認められ、反対の証拠はない。
(四)、なお、被告向井が原告に対し、東興繊維株式会社の代表取締役として、同会社が山内喜代治に対し金二、〇〇〇万円の売買代金債権とその担保たる本件不動産(二)についての根抵当権(債権極度額二、〇〇〇万円)を有するとして、原告の右代金債権を担保するためこれを譲渡したことは当事者間に争いがないけれども、右金二、〇〇〇万円の代金債権と根抵当権の存在を認めるに足る証拠がなく、<反証排斥略>。従つて、原告は右担保権を行使し得ず、これによつては弁済を受けられないものといわなければならない。
(五)、以上のとおりであるから、原告が蒙つた損害は右売買代金総額の金三、六〇六万一、八九七円であるということができる。
3 次に、被告会社の前示原告との売買当時の資産状態等について検討する。
(一)、被告会社は前示のとおり昭和四三年九月一一日から翌四三年二月二六日までの僅か五ケ月余の間に合計金三、六〇〇万円余の商品を買い受け、その代金を何ら支払つていないのに、被告向井の本人尋問の結果と弁論の全趣旨を総合すると、被告会社が不渡手形を出し倒産状態に追い込まれた昭和四三年二月ころのその資産および負債の状況を見ると、資産が僅か二千数百万円であるのに対し、負債は六千数百万円に達していたことが認められる。ところが、右期間内に被告会社が不測の特別損失を蒙つたことについては、これに符合するかの如き被告向井の本人尋問の結果は措信できず、他にこれを認めるに足る証拠がない。従つて被告会社は右売買の当初すでに営業成績が赤字となり、数千万円の債務超過の状態であつたと推認するほかはなく、右認定を覆すに足るだけの証拠はない。
(二) さらに、被告会社の主たる取引銀行である大正相互銀行本店と中京相互銀行大阪支店における当座預金の残高状況が、前者において最も多い日で金三四万円余であり、後者においては最高金一二万円であることおよび被告会社の資本金が四〇〇万円であることは当事者間に争いがなく、また本件手形(一)、(二)が不渡となつたことは前示のとおりである。
(三) そうすると、以上(一)、(二)の事実と弁論の全趣旨とを併せ考えると、被告会社は原告との前示売買の当初から、いつ不渡手形を出して倒産するか分らないという危険な状況で営業を続けていたものであつて、その売買代金支払いの見込みは極めてうすかつたと認めるのが相当である。
(四)、ところで、被告向井は、被告会社が昭和四一年六月原告と取引を開始して以来正常な方法で商品を販売し、本件手形(一)を不渡にするまでの間に約一億円の代金を支払つており、また昭和四二年九月ころ前示両銀行における手形割引限度が金五、〇〇〇万円であつたこと、さらに原告の代金債権が担保付であつたことを挙げて被告会社は無資力ではなく、代金支払いの見込みもあつた旨主張するけれども、右担保権の存在を認めるに足る証拠がないこと前示のとおりであるし、またそれ以外の右事情を考慮に入れても、未だ前項の認定を覆すに足りない。
(五)、さらに、被告向井は、原告が被告との約定どおり金四、〇〇〇万円まで商品を販売せず、またその販売を打ち切つたので、本件手形(一)が不渡となつた旨主張するので検討するに、原告と被告会社との間に、右約定があつたとの点については、これに符合する成立に争のない乙第一号証の記載と被告向井の本人尋問の結果は証人大村俊和の証言に照らして措信できず、他にこれを認めるに足る証拠がなく、また、前示のとおり被告会社が不渡手形を出す直前まで取引が継続されており、しかもその当時の掛売残高が金三、六〇〇万円余であつたことに照らすと、被告の右主張は失当である。
4 <証拠>を総合すると、被告向井は被告会社の取締役である(この点は前示のとおり当事者間に争いがない。)が、実際は被告会社の全権を掌握し、その業務の一切を担当し経営に当つており、原告からの商品買い受けとその代金決済をも取締役上野清の補助の下に実行していたことが認められ、被告本人尋問の結果のうち、右認定に反する部分は措信できない。
以上認定の事実と前示の被告会社の財産状態、営業状況および弁論の全趣旨を併せ考えると、他に特段の事情は認められないので、被告向井は原告からの商品買い受けにあたり、原告が四五ケ月先の右売買代金の弁済期日にその支払いを受けられないことを知つていたか、または知つていなかつたとしてもそこに重過失があつたものというべきであるから、原告の蒙つた前記損害を賠償する義務がある。
(大西勝也 山崎末記 八重沢総治)