大阪地方裁判所 昭和44年(ワ)5432号 判決
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〔判決理由〕第二、慰籍料請求権の存否
一、<証拠>によれば、亡年夫は、昭和一〇年一一月一日、父豊三、母キクの子として出生し、祖父仲太郎、祖母サトエ、叔父(父の弟)原告らと共に、鹿児島県薩摩郡高城町において成育していたが、翌年には父豊二が翌々年には母キクが一人息子であつた亡年夫を残してそれぞれ死亡したため、祖父仙太郎祖母サトエのもとで養育を受け、もつぱら祖母から身の廻りの世話などを受け、祖父を父と、祖母を母と、また、一三才年上の叔父原告を兄と呼んで生活していたこと、その後原告は昭和一五年頃大阪の専門学校に入学し、また卒業後就職して満洲に渡り、更に兵役に服したため、昭和二一年頃に終戦のため復員して帰郷するまでの間は亡年夫らの家庭と離れていたが、原告において毎月実家に仕送りを続け、亡年夫ら家庭の生活の援助をしていたこと、なお、昭和一八年に伸太郎(亡年夫の祖父)が死亡したため、原告が家督相続人となり、かつ、亡年夫の後見人となつたこと、帰郷後昭和二五年一二月に大阪で就職するまでの間、伸太郎が死亡していたこともあつて、原告が中心となつて農業を営み亡年夫と同居していたこと、原告の上阪後は、亡年夫と祖母サトエと二名で、前記鹿児島の原告らの本籍地に居住し、原告においても右両名のため毎月の仕送りを続けていたが、亡年夫は、昭和二九年に高校卒業後、原告を頼つて上阪し、昭和三三年頃まで原告(原告は当時既に結婚し家庭を持つていた)方に同居して会社に通勤する生活を送り、その後、昭和三八年に結婚して家庭を持ち、一男一女をもうけていたこと、亡年夫の上阪後、昭和三二年頃、祖母サトエが死亡したこと、亡年夫の本件事故死の後、加害者側である被告らと亡年夫の相続人である同人の妻子との間で裁判上の和解が成立し、本件事故による損害賠償として合計金八、二六〇、〇〇〇円(但しその内金三、〇〇〇、〇〇〇円は自賠償保険金による)が支払われたこと、がそれぞれ認められ、右認定に反する証拠はない。
二、ところで、民法第七一一条によれば、被害者の父母、配偶者、子に慰籍料請求権の存することが明記されているので、同条の文理上からすれば、被害者の叔父(母)、兄弟姉妹には当然には慰籍料請請求権が存しないものと解するのほかはない。しかしながら、他人(直接の被害者)の死亡ないしこれに比肩する傷害により深甚な精神的苦痛を受けた者が、その苦痛が不法行為と相当因果関係が認められるかぎり、同法第七〇九条、七一〇条により、同人に慰籍料請求権を認めうる場合のありうることも明らかであろう。従つて、以上の同法第七〇九条、第七一〇条、第七一一条を綜合して解釈すれば、直接被害者の配偶者(内縁を含む)、父母、子は原則として当然に、また、それ以外の近親者は配偶者、父母、子らと同一の身分関係を有していたと同視しうる日常の親密さが認められ、被害者の死亡(これに比肩しうる傷害も含む)によつて深甚な精神的苦痛を受け、社会通念上これを金銭賠償によつて慰籍されるべきが相当と認められる場合には例外的に、それぞれ慰籍料請求権を有するものと解するのが相当である。従つて、被害者の配偶者、父母、子でない近親者が固有の慰籍料請求権を有するとするためには、その近親者が日常の生活のうえで配偶者、父母、子と同視しうる親密な関係の存した場合でなければならない。
五、これを本件についてみるに、前記認定の事実からすれば、なるほど、原告は、亡年夫の両親が早世したため亡年夫の兄のような、場合によつては父のような立場にあつて、物心両面で親しく面倒をみてきていた事実は容易に推認されるところであるが、前記認定のように、亡年夫が高校卒業までの間は郷里で主として祖母に育てられ、その間原告との同居期間は、出生時から昭和一五年頃まで(亡年夫の実母死亡後は約三年間にすぎない)および昭和二一年頃から同年二五年頃までの約四年間であり、また、亡年夫は上阪後昭和二九年頃より昭和三三年頃まで約四年間は原告方に同居していたけれども、亡年夫において当時既に就職し原告方から通勤していたものであることなど(親戚に下宿して通勤している場合との差が見出し難い)からすれば、未だもつて原告が亡年夫の父と同視うるものであつたと認めるには十分でない。また、原告が亡年夫の後見人に就任していたことや、かなり長期間に亘つて財政的な援助をしていた事実も認められるが、後見人であることから直ちに父と同視しうるものとはいえず、また、財政的援助の点は、原告の父母(亡年夫の祖父母)に対する生活扶助の目的のあつたことも容易に推認されるので、右の事由をもつてしても未だ前記の点を証するに足りない。
四、そうならば、原告が亡年夫の父と同視しうるものと認めることができず、これを前提とする原告の本訴慰籍料の請求はその余の点につき判断するまでもなく失当である(ちなみに、前記認定のとおり、本件事故の加害者側である被告らは、亡年夫の配偶者および子である相続人との間で裁判上の和解が成立し、これに基き相当額の損害賠償がなされているので、この点からも亡年夫の叔父(原告)に更に損害を賠償させる理論上および実際上の必要性が乏しい)。(吉崎直弥)