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大阪地方裁判所 昭和44年(ワ)5582号 判決 1969年12月20日

原告 森本貴一こと 山中一郎

右訴訟代理人弁護士 山田一元

被告 前尾庄一

右訴訟代理人弁護士 河田功

主文

(一)、当裁判所が昭和四四年手ワ第八三六号約束手形金請求事件につき、同年九月一八日言渡した手形判決を認可する。

(二)、異議申立後の訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告は原告に対し、金五〇万円及びこれに対する昭和四四年四月二二日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、「原告は訴外株式会社金谷組から被告提出にかかる金額を五〇万円、満期を昭和四三年四月一五日、支払地及び振出地を宮津市、支払場所を宮津信用金庫、受取人を株式会社金谷組とした約束手形一通の裏書を受けたので、これを訴外株式会社三和銀行に拒絶証書作成義務を免除して裏書し、同訴外会社が取立受任者である株式会社京都銀行を通じて満期日に支払場所に支払のため呈示したところ支払を拒絶されたので、本訴提起前に右三和銀行に右手形金を支払って右手形を受戻したから、ここに被告に対し、右手形金及びこれに対する受戻後で本件訴状送達の日の翌日である昭和四四年四月二二日から手形法所定年六分の割合による利息金の支払を求める」と述べ(た。)証拠≪省略≫

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する」との判決を求め、答弁として、「原告が訴外株式会社三和銀行に対し、拒絶証書作成義務を免除して本件手形を裏書したこと、同訴外会社が取立受任者である株式会社京都銀行を通じて満期日に支払場所に支払のため呈示したところ支払を拒絶されたので、原告は本訴提起前に株式会社三和銀行に右手形金を支払って本件手形を受け戻したこと、被告が本件手形の振出人欄に近畿開発株式会社前尾庄一の記名印及びその名下に同会社社長の職印を押捺したことは認めるが、これは被告が同会社の代表者として同会社のためになしたものであって、被告個人のためにしたものでないから、本件手形は近畿開発株式会社が振り出したものというべきである。また原告がその主張するとおりの約束手形を所持していることは知らない」と述べ(た。)証拠≪省略≫

理由

(一)、原告が訴外株式会社三和銀行に対し、拒絶証書作成義務を免除して本件手形を裏書したこと、同訴外会社が取立受任者である株式会社京都銀行を通じて満期日に支払場所に支払のため呈示したところ支払を拒絶されたので、原告は本訴提起前に株式会社三和銀行に右手形金を支払って本件手形を受戻したこと、被告が本件手形の振出人欄に被告の記名印及びその名下に近畿開発株式会社社長の職印を押捺したことは当事者間に争いがなく、原告がその主張するとおりの約束手形一通を所持していることは≪証拠省略≫及びその記載自体に照らしてこれを認めることができる。

(二)、被告は、本件手形の振出人欄に近畿開発株式会社前尾庄一の記名印及びその名下に同会社の社長の職印を押捺したのは、被告が同会社の代表者として同会社のためになしたものであって、被告個人のためにしたものでないから、本件手形は同会社が振り出したものというべきである旨主張するが、法人の代表者が法人のために手形行為をする場合には、法人のためにする旨を表示して、代表者自身が署名又は記名捺印することを要すると解すべきところ、本件手形の振出人欄には振出人の表示として京都府宮津市住吉一七五五番地近畿開発株式会社前尾庄一の記名印及びその名下に同会社社長の印が押捺されているだけであって、それが同会社のためになされた旨の表示がないから、右振出欄に近畿開発株式会社の記名捺印があるということができず、右振出は同会社の振出としての効力を生じないというべきである。

ところで記名捺印に用いられる印章は印鑑届出のなされたものであることを要せず、職印でもよく、又必ずしも自己名義の印章であることを要せず、他人名義の印章でも差支なく、要はその印章を自己の印章として用いることを要すると解すべきところ、本件手形の被告名下に押捺されている印章が近畿開発株式会社社長の職印であっても、被告がこれを自己の印章として用いている以上、被告は振出人として当然に手形上の責任が認められるべきである。

(三)、以上の次第であるから、被告は原告に対し本件手形金五〇万円及びこれに対する受戻後で、本件訴状送達の日の翌日である昭和四四年四月二二日から完済まで手形法所定年六分の割合による利息金の支払義務があるわけであって、これが支払を求める原告の請求を認容した手形判決は相当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法四五八条一項、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 内園盛久)

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