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大阪地方裁判所 昭和44年(ワ)7421号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕三 そこで、被告装置が果して原告主張の如く本件実用新案の技術的範囲に属するものであるか否かについて判断する。

(一) 本件実用新案の登録請求の範囲に記載された要件と被告装置の特徴とを対比すると、先ず、両者は燃料貯蔵設備としてタンクを、配油系統として配油管及びホースを、給油機器としてポンプ及び電動機を、計量機器として流量計及び表示計をそれぞれ備えている点において一致している。そして、被告装置においてタンク(6)を地下室内に設けた構成は本件実用新案における「タンクを地下に設ける」との要件の設計変更の域を出ないものと認められる。また、被告装置は屋根(A)を支持する梁(B)に沿つて配油管から分岐した複数の配油支管(7)を配管し、その末端付近にマースリールを設け、同所において配油支管(7)の末端にホースを接続しているが、本件実用新案公報によれば、登録請求の範囲にいう「天井」を屋根裏に張られた天井板に限定するような趣旨の記載は明細書のどこにも見当らず、却つて当事者間に争いのない本件実用新案の作用効果から考えると右「天井」とは敷地の掩蓋物の下面を意味するものと解される。別紙イ号図面によれば被告装置における梁(B)は屋根(A)を障壁(4)に支持するもので敷地の掩蓋物の構成部分をなしていることが認められるので、右梁(B)は登録請求の範囲に記載の「天井」に該当するものというべきである。この梁(B)に沿つて配油管を配管するに当り本管から適宜数本の配油支管を分岐させて配管することは当業者が必要に応じ選択しうる設計事項たることは勿論であり、配油支管(7)の末端付近に設置したホースリールは、配油支管末端に接続吊下されたマースを給油時以外の時に捲回収容する目的で設けられたもので、配油支管とホースとの接続という観点からみれば配油支管末端の付加物にすぎず、配油支管が該ホースリール部においてマースに接続されていることは、配油支管が天井において開口し、これにホースが接続されているのと何等異なるところがない。

(二) ところで、給油機器の配置方式についてみると、本件実用新案におけるポンプは吸上ポンプであるのに対し、被告装置において用いられているポンプ(1)は別紙イ号図面に見る如くタンクの底面より低位にある送出ポンプであつて、吸上ポンプの如く吸込揚程を有しないものである。原告は吸上ポンプと送出ポンプとは配管中における吸込液及び送出液位に対する相対的なポンプの接続位置の相違により単に名称を異にするだけで、その構造、作用、効果においては何らの差異がないから、被告装置において送出ポンプ(1)を地下に設けているのは、本件実用新案における「吸上ポンプを構築物に接する位置のような自動車の走行を妨げない場所に設ける」との要件を充すものである旨主張する。

そこで、先ず、被告装置の送出ポンプを本件実用新案にいう吸上ポンプと同一視してよいかどうかについて考えると、……吸上ポンプと送出ポンプとはポンプの構造上の区別ではなく、その作用上の区別であり、原告主張の如く両者はその設置位置により名称を異にするにすぎず、ポンプとしての構造及び効果それ自体に限つていえば何ら異なるところがないことが窺われる。しかしながら、本件実用新案において吸上ポンプを用いることは考案の課題解決のための手段ではなく、むしろ課題を生ぜしめる前提事実であるというべきである。すなわち、給油所において給油機構として吸上ポンプを採用するときは、必然的にポンプがタンクより高所に設置されることとなるので、ややもすればポンプや電動機等が敷地内に突出し、敷地の利用面積を減少させ、自動車の出入の妨げとなる虞れがある。公報の「考案の詳細な説明」の記載によると、本件実用新案は、従来給油所において用いられていた吸上ポンプをそのまま使用することを前提とし、これによつて生ずる前記欠陥を克服し給油所の有効利用面積をなるべく大ならしめることを目的として考案されたもので、タンク、配油管、ポンプ、電動機、流量計、表示計等に関する各機器のうち「何」を「何処」に設置するかは、本件考案において中心をなすものであるというべきである。したがつて、登録請求の範囲に記載の設置すべき各個の「機器装置」について、それがどのようなものを意味するかの検討を要することは勿論、設置すべき「場所」についても、登録請求の範囲には「地下」、「天井」、「構築物に接する位置のような自動車の走行を妨げない場所」等それぞれ用語を明確に区別して使い分けて記載されているのであるから、これを混同して解釈することは許されないというべきである。本件考案においては、吸上ポンプが前記のような欠陥を伴うものであるところから、「吸上ポンプを構築物に接する位置のような自動車の走行を妨げない場所に設ける」ことを考案構成の一要件としているのである。ところが、被告装置においては、送出ポンプと異るところはないとしても、タンクより低位の「地下」にあつて、当初から本件実用新案において採用を前提としている吸上ポンプのように、その設置箇所に特段の配慮をめぐらされなければ自動車の走行を妨げる虞れがあるとの欠陥を生ぜしめるものではないので、この点につき本件実用新案におけるが如き課題も生じないのである。それゆえ、課題解決の意味をもつ考案構成の見地よりすれば、被告装置において送出ポンプ(1)が地下に設けられている点を捉えて、それが本件実用新案の考案にいう「吸上ポンプを構築物に接する位置のような自動車の走行を妨げない場所に設ける」との要件に該当するとの原告の主張は当らず、ひつきよう、被告装置は本件実用新案の右の要件を欠くものと認めるべきである。

たとえ、被告装置のポンプを本体実用新案におけるポンプに該当するとしても、被告装置においてはポンプは「地下」に設けられており、本件実用新案にいう「構築物に接する位置のような自動車の走行を妨げない場所」には設けられてはいない。右の場所は「地下」とは区別すべきでありこれを含まない。

なお参考までに、<書証>(実用新案公報)によると、実用新案の出願公告と同日付で「吸上ポンプ及び電動機を地下に設け、吸油管を地下タンクに連結し、自動車の制限高さよりも高い天井へ流量計及び表示計を設け、ノズルバルブを有するホースを流量計に連結吊下し、ポンプと流量計とを導管をもつて連結した給油所」を登録請求の範囲とする給油所に関する考案につき実用新案出願公告がなされているが、右考案は本件実用新案と同じ考案者によつて考案され、本件実用新案より遅れて登録出願されたものであることが認められる。そこで若し本件実用新案の登録請求の範囲に記載された「構築物に接する位置のような自動車の走行を妨げない場所」の文言を、地上の構築物に接する位置のほかに地下及び天井の双方まで含むと解釈するときは、右の後願にかかる考案の構成要件は殆んどすべべて本件実用新案において先取されており、わずかに異なるところといえば、本件実用新案においては配油管の途中に流量計を挿入し、配油管の末端にホースを連結吊下しているのに対し、右後願にかかる考案においては配油管に相当する導管の末端に流量計を設け、そこからホースを連結吊下させている点のみである。そして本件実用新案における流量計の設置場所が天井をも含むとの仮定に立つ限り、上記相異点は天井に取付けた流量計とホースとの間に些かなりとも配油管が介在するか否かの差異にすぎず、そこから特段の作用、効果上の差異が生ずるものとは到底考えられないから、右の差異はまさに構造上の微差というべきものであり、右の後願にかかる考案の実用新案登録出願は拒絶査定を免れない筋合いであつたと推測されるのである。しかるに右考案については前叙のとおり出願公告がなされたばかりか、その後登録第七七一四九三号実用新案として登録されている事実が……窺われる。これらの事実は、本件実用新案の登録請求の範囲に記載された「構築物に接する位置のような自動車の走行を妨げない場所」なる文言中に「地下」「天井」を含ませこれと混同する原告主張の解釈が不当であることを示すものということができる。

(三) 更に、被告装置は電動機(2)、流量計(3)の設置箇所についても、つぎに記載の如く、本件実用新案にいう「電動機および流量計を構築物に接する位置のような自動車の走行を妨げない場所に設ける」との要件を欠いていると認められる。

被告装置において、電動機(2)は地下に設けられ、流量計(3)は天井部に設けられると共に配油支管(7)の途中に挿入されている。しかし、本件実用新案の考案にいう「構築物に接する位置のような自動車の走行を妨げない場所」は「地下」「天井」を含まず、これとは区別すべきであることは前叙のとおりであるから、被告装置において電動機(2)を地下に、流量計(3)を天井部に設けているのは、本件考案の「電動機および流量計を構築物に接する位置のような自動車の走行を妨げない場所に設ける」との要件に該当しないと認めるべきである。

(四) 以上説示のとおりであるから、その余の争点について判断するまでもなく、被告装置は本件実用新案の技術的範囲に属しないものと結論せざるをえず、これと見解を異にする<書証>記載の鑑定意見は採用することができない。

四 よつて、被告装置の製造、譲渡、使用等の実施行為が原告の本件実用新案権を侵害するものと認めることはできないから、原告の本訴請求は失当として棄却……する。

(大江健次郎 近藤浩武 庵前重和)

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