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大阪地方裁判所 昭和44年(借チ)1419号 決定

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔主文〕 昭和四四年借(チ)第一四号事件申立人(同第一九号事件相手方)において、別紙目録(二)記載の建物、及び、別紙目録(一)記載の土地について有する賃借権を、同第一四号事件相手方(同第一九号事件申立人)に、対価金一、二〇〇、〇〇〇円にて譲渡することを命ずる。

右譲渡に伴う義務の履行として、同第一四号事件申立人(同第一九号事件相手方)は、同第一四号事件相手方(同第一九号事件申立人)に対し、金一、二〇〇、〇〇〇円の支払と引換えに、別紙目録(二)記載の建物の引渡し並びに所有権移転登記手続をなし、同第一四号事件相手方(同第一九号事件申立人)は、同第一四号事件申立人(同第一九号事件相手方)に対し、右建物の引渡し及び所有権移転登記手続と引換えに、金一、二〇〇、〇〇〇円を支払うものと定める。

〔決定理由〕一、(一) 昭和四四年借(チ)第一四号事件申立人(同第一九号事件相手方)(以下「申立人」という。)の申立の要旨は次のとおりである。

(1) 申立人は、同二九年頃、同第一四号事件相手方(同第一九号事件申立人)(以下「相手方」という。)より、相手方の所有にかかる別紙目録(一)記載の土地(以下「本件土地」という。)を、木造その他の堅固でない建物を所有する目的で、存続期間を定めずに賃借し(以下「本件賃借権」という。)、爾来本件土地上に、別紙目録(二)記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有している。なお、賃料は順次増額されて、同四三年一二月当時は月金一、〇〇〇円であつたが、同四四年一月以降は月金一、五〇〇円あてを供託している。その事情は、本件建物は同一規模の一棟四軒長屋の一軒で、他の建物の所有者は申立人と同様に相手方より同一面積の土地を賃借しているところ、申立人以外の土地賃借人の地代が同月より月金一、五〇〇円に増額されたので申立人も同月分として金一、五〇〇円を持参したら、相手方は、本件建物の処置に関する問題が落着してから地代をきめようということで、これが受領を拒んだためである。

(2) しかして、最近にいたり、申立人の一家は、肩書住所地の新居に移転することとなつたので、本件建物が不要となり、現在はその移転をすませ、本件建物は空屋となつている。

(3) 申立人は、同四三年一〇月頃から、相手方に対し、本件建物及び本件賃借権を相手方において買取るか、又はこれを他に譲渡することを承諾するよう折衝を重ねたが、折り合いがつかず話がまとまらない。

(4) そこで、申立人は、本件建物及び本件賃借権の譲受の希望を有する大阪市東淀川区木川西之町三丁目八八番地高橋弘和にこれを譲渡したいが、同人はパン及びケーキの製造販売業を営んでおり資力を有するもので、同人が本件賃借権を取得しても、相手方に不利となる虞はない。

(5) よつて、右本件賃借権の譲渡につき相手方の承諾に代わる許可の裁判を求める。

(二) これに対する相手方の申立並びに主張の要旨は次のとおりである。

(1) 相手方は、本件土地を自ら使用したいので、本件建物及び本件賃借権の譲受の申立をする。

(2) 本件賃借権については、契約当初より、存続期間を五年とする特約があり、順次更新されて今日にいたつているものである。

(三) 右当事者双方の申立に対する鑑定委員会の意見の要領は別紙記載のとおりである(なお、鑑定委員会の意見では、本件賃借権の対象たる本件土地の面積を39.66平方メートル(12坪)として算定しているけれども、これは別紙目録(一)記載のとおり42.97平方メートル(13坪)であることは当事者間に争がなく、明らかである。)が、これに対する相手方の陳述の要旨は(1)記載のとおりであり、申立人の陳述の要旨は(2)記載のとおりである。

(3) (イ) 鑑定委員会の意見では本件土地の3.3平方メートル(1坪)当りの更地価格を金一六一、五〇〇円と評価しているけれども、最近本件土地のすぐ近くの筋向いの土地が3.3平方メートル当り金一〇〇、〇〇〇円で売買がなされている事実があり、その後の値上りを考えても、3.3平方メートル当り金一五〇、〇〇〇円位が相当であるのみならず、土地上の建物が長屋建である場合には、土地の価格は、通常の場合の六割ないし七割にしか評価し得ぬものであるから、結局、本件土地の更地価格は金一、二六〇、〇〇〇円程度にとどまるものである。

(ロ) しかして、本件建物は相手方が申立人に建売りしたものであるが、その売買価格は金一六〇、〇〇〇円であつて、その算定の基礎は次のとおりであるから、その当時の賃借権価格の更地価格に対する算定割合を本件の場合にあてはめれば、本件土地の借地権価格は、更地価格金一、二六〇、〇〇〇円の三割、すなわち、金三七八、〇〇〇円となるべき筈である。

本件建物の売買価格の算定の基礎は、建築価格を3.3平方メートル当り金二〇、〇〇〇円と見積つて、その23.14平方メートル(7坪)分として金一四〇、〇〇〇円と算定し、土地の更地価格を3.3平方メートル当り金三、五〇〇円として、39.66平方メートル(12坪)で四二、〇〇〇円と見積り、借地権の権利金をその三割にあたる金一二、六〇〇円とし、建築価格と借地権の権利金の金額の合計金一五二、六〇〇円に、周旋手数料その他若干の費用を加算して金一六〇、〇〇〇円としたものである。

(ハ) 本件建物の基礎は、黒煉瓦の三段積みで、土台は高さが約4.5センチメートル(1寸5分)で幅が約九センチメートル(三寸)、柱は約九センチメートル(三寸)角、桁は約九センチメートル(三寸)角、母屋は約7.6センチメートル(2寸5分)角、束は約六センチメートル(二寸)角、棟木は約7.6センチメートル(2寸5分)角であつて、バラックに等しく、建築後十数年を経過している今日においては、既に耐用年数を過ぎており、売却価値は無いものと考えるべきである。

(ニ) 鑑定委員会の意見では、本件建物の床面積を、現況の34.71平方メートル(10.5坪)として評価しているけれども、本件建物はもともと23.14平方メートル(7坪)のものであつたのを、申立人において相手方の承諾を得ずに11.57平方メートル(3.5坪)を増築しており、その頃に相手方はこれに異議を述べているものであるから、この点を考慮すべきである。

(2) 鑑定委員会の意見は妥当なもので、相手方の主張は次に述べるとおり失当である。

(イ) 本件土地のすぐ近くの筋向いの土地が3.3平方メートル当り金一〇〇、〇〇〇円で売買されたのは、今から六年位前のことである。しかも、本件建物及び本件賃借権を譲受けようとしている高橋弘和が本件土地の西約五〇メートルの場所の土地の売買を折衝した際には、その価格は3.3平方メートル当り金二〇〇、〇〇〇円ということであつた。

(ロ) 本件建物は申立人が相手方より金一六〇、〇〇〇円で買受けたものであるが、相手方の主張する計算の基礎は争う。申立人は相手方と直接取引をしたもので、周旋手数料などはあり得ない筈である。

(ハ) 本件建物の構造の細い点については知らないが、申立人は約一〇年位前に床全部を補強している。

(ニ) また、相手方の主張する増築は、表(南)側の4.95平方メートル(1.5坪)を約一〇年前、裏(北)側の6.61平方メートル(2坪)を約八年前になしたもので、当時より今日まで相手方より何らの異議もなかつたものである。しかも、右増築は長屋全部が同じようにしているものであり、特に表側の増築は、当時水道が三軒共同の露天の水道であつたので、申立人において、両隣とともに、各戸に水道を引く工事をし、その際三軒同時に増築したものなのである。

(ホ) その他、申立人は、都市ガスの本管の引込を含めて、本件建物に都市ガスを引く工事をしたばかりでなく、本件建物の裏側の排水工事をし、さらに昨年便所を水洗便所に改造しており、本件建物の売却価値が無いとの相手方の主張は理由がない。因みに、本件建物の長屋の東隣の家は相手方が所有してこれを他に賃貸しているのであるが、増築や、水道、ガス、水洗便所等の工事代は借家人の負担で、現在月金八、〇〇〇円の賃料を徴しているものである。

二、これらの申立に対する当裁判所の判断は次のとおりである。

(一) 本件記録編綴の資料によると、前記一の(一)の(1)ないし(3)記載の各事実が認められ、かつ、相手方の本件建物及び本件賃借権譲受の申立の妨げとなるべき格別の事情は見当らないので、右申立に基づく裁判をなすべきこととなる。

(二) そこで、相手方が本件建物及び本件賃借権を譲受ける場合の対価について検討すると、次に述べるとおり、金一、二〇〇、〇〇〇円が相当と認められる。

(1) 本件土地の更地価格については、鑑定委員会の評価を概ね相当と認め3.3平方メートル(1坪)当り約一六一、五〇〇円とし、その総額を二、一〇〇、〇〇〇円と評価する。

(2) 本件賃借権については、相手方は存続期間を五年とする特約があつた旨主張しているけれども、その資料は充分でなく、かつ、かりに右特約が立証されたとしても、右はその約定の存続期間が特に短期間であることに鑑み、借地法第一一条により期間の定めのないものと解すべきであるから、本件賃借権の存続期間はなお約一五年を残していることとなり、かつ、本件建物が借地法にいわゆる朽廃にいたるまでにはなお長期間の使用に耐え得るものと認められることなどの事情を基礎として、本件土地周辺の慣行による借地権割合や本件賃借権に関する従前の経緯などを参酌し、本件賃借権の価格を前記更地価格の五〇パーセントにあたる金一、〇五〇、〇〇〇円と見積る。

なお、相手方は、本件建物を相手方が申立人に売却した際の本件土地の賃借権の権利金の金額の割合を当時の本件土地の更地価格の三割として算出しているので、本件においてもこの割合に準じて本件賃借権の価格を算定すべき旨を主張しているけれども、右相手方の主張を裏付けるべき資料は充分でないうえ、かりにこの点が右主張のとおりであるとしても、当時と一般的な土地の利用に関する取引慣行等の情況の異つている今日において、本件賃借権価格の更地価格に対する割合を、相手方が申立人に本件土地を賃貸した際の権利金の更地価格に対する割合と全く同一の割合によらなければならないものとする理由はない。

(3) 本件賃借権を第三者に譲渡することを許可するものとした場合には、附随の裁判として、その許可を財産上の給付にかからせるのが相当であり、かつ、これをもつて足ると解せられるところ、その金額は、本件土地周辺における不動産取引の一般的な慣行や、右(2)記載の事情などを勘案すると、前記本件賃借権価格の約15.7パーセントに当る金一六五、〇〇〇円が適当である。

(4) 本件建物の価格については、鑑定委員会の意見を相当と認め、復成価格(3.3平方メートル当り金六〇、〇〇〇円の割合にて本件建物の床面積34.71平方メートル(10.5坪)を乗じた金額)の五〇パーセントに当る金三一五、〇〇〇円と評価する(相手方は、本件建物は既に耐用年数を経過していて売却価値はない旨、並びに、本件建物には、無断増築部分が存するので、本件建物の価格の算定に当つては、その点を参酌すべき旨主張しているけれども、申立人の主張する一の(三)の(2)の(ハ)記載の床の補強をなしている事実、並びに、同(ニ)、(ホ)記載の事情が窺えるので、右主張は採用できない。)。

(5) そこで、相手方が本件建物及び本件賃借権を譲受ける場合の対価は、本件建物の価格と本件賃借権の価格とを加算した金額から、本件賃借権を第三者に譲渡することを許可するとした場合に申立人が相手方に支払うべき金額を控除した金額、すなわち、金、二〇〇、〇〇〇円が適正なものと謂うべきである。

(三) よつて、申立人において、本件建物及び本件賃借権を相手方に、対価金一、二〇〇、〇〇〇円にて譲渡すべきことを命ずるとともに、本件に関する従前の当事者双方の交渉経過などに鑑み、右譲渡に伴う当事者双方の義務の履行を同時になすべきものと定めるのを相当と認め、主文のとおり決定する。(松下寿夫)

別紙

相手方が申立人より本件建物及び本件賃借権(たゞし、後記のように本件土地の面積を39.66平方メートル(12坪)として算出している。)を譲受ける場合の適正対価は金一、一三八、六五〇円であり、申立人が第三者に本件賃借権を譲渡することを許可する場合には、申立人より相手方に財産上の給付をさせるべきで、かつ、それをもつて足り、その金額は金一、二八四、〇〇〇円が相当である。しかして、その算出の根拠は次のとおりである。

(1) 本件土地の更地価格(3.3平方メートル当り金一六一、五〇〇円の割合で39.66平方メートル(12坪)分)

金一、九三八、〇〇〇円

(2) 本件賃借権の価格((1)の五〇パーセント)

金九六九、〇〇〇円

(3) 本件賃借権を第三者に譲渡する場合に相手方が申立人より給付を受くべき金額((2)の一五パーセント)

金一四五、三五〇円

(4) 本件建物の価格(復成価格(3.3平方メートル当り金六〇、〇〇〇円)の五〇パーセントの割合で34.71平方メートル(10.5坪)分)

金三一五、〇〇〇円

(5) 相手方が本件建物及び本件賃借権を譲受ける場合の対価((2)と(4)とを加算した金額から(3)を控除した金額)

金一、一三八、六〇〇円

別紙目録(一)

大阪市東淀川区木川西之町五丁目一三番地

一、宅地 1,067.76平方メートル(323坪)

のうち、別紙目録(二)記載の建物の敷地部分

42.97平方メートル(13坪)

別紙目録(二)

大阪市東淀川区木川西之町五丁目一三番地

家屋番号 同町一三番の三

一、木造瓦葺平家建居宅

床面積 34.71平方メートル(10.5坪)

(たゞし登記簿上は23.14平方メートル(7坪))

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