大阪地方裁判所 昭和44年(行ウ)57号 判決 1973年6月25日
枚方市藤田町三番八号
原告
田中治
右訴訟代理人弁護士
高島照夫
同
熊谷尚之
同
面洋
枚方市大垣内町二丁目九番九号
被告
枚方税務署長
松本定義
右指定代理人
二矢敏朗
同
山口一郎
同
岡本実
同
鈴木淑夫
同
久下幸男
主文
被告が原告に対してした、原告の昭和三六年分所得税決定処分および無申告加算税賦課処分のうち、総所得金額を金三、二一二、二〇〇円として計算した額を超える部分を取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文と同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は昭和三六年分所得税の確定申告をしなかつたところ、被告は、原告が昭和三六年中に不動産売買の仲介をしたことにより金二六、五〇六、二〇〇円の所得(雑所得)があつたと認定して、原告に対し同年分所得税の決定および無申告加算税の賦課処分を行なつた。
原告はこれに対し異議申立をした結果、処分は一部取消され、総所得金額八、五一二、二〇〇円、所得税額三、三九八、六〇〇円、加算税額八四九、六五〇円と変更された。
原告はさらに大阪国税局長に対して審査請求をしたが、加算税額につき違算ありとして金一五〇円減額されたにとどまつた。
2 しかし、被告の右処分は、原告が右仲介に関連して不動産業者尾崎信義および山川一蔵に手数料など計金五、三〇〇、〇〇〇円を支払つていることを認めなかつた点で所得の認定を誤つているものであり、総所得金額三、二一二、二〇〇円、所得税額九三六、三八〇円、加算税額二三四、〇〇〇円を超える部分は違法であるから、その取消しを求める。
二 請求原因に対する被告の答弁
1は認め、2は争う。
三 被告の主張(処分の適法性)
1 原告は、売主中井甚太郎ほか一六名と買主殖産住宅相互株式会社(以下殖産住宅という)との間における枚方市大字山之上所在の土地四八筆の売買の仲介をした結果、昭和三六年四月一九日に売買契約が成立し、殖産住宅は同年九月二〇日までに計金六五、五七二、四〇〇円を原告に支払つた。原告はこのうち金五五、〇六〇、二〇〇円を売主らに代金として交付した。
2 原告は、右売買に関与した不動産取引業者である西尾実および嶋村迅穂に対し、謝礼としてそれぞれ金一、〇〇〇、〇〇〇円を支払つた。
3 原告が尾崎信義および山川一蔵に手数料などを支払つている事実はない。
4 原告が殖産住宅から受領した額と各売主に交付した額との差額一〇、五一二、二〇〇円が原告の取得した仲介手数料収入であり、これから西尾と嶋村に支払つた金二、〇〇〇、〇〇〇円を必要経費として控除し、残額八、五一二、二〇〇円が原告の雑得所の金額となる。
したがつて被告の本件処分は適法である。
四 被告の主張に対する原告の答弁
1 および2は認め、3および4は否認する。
原告は、殖産住宅から依頼をうけた不動産取引業者である尾崎信義の要求により、同人に対し、殖産住宅の担当社員へのバツクマージンないしリベートとする趣旨で、昭和三六年四月一五日金三〇〇、〇〇〇円、同月一九日金二、〇〇〇、〇〇〇円、同月二八日金二、〇〇〇、〇〇〇円、計金四、三〇〇、〇〇〇円を、また尾崎個人の手数料として同月二八日金五〇〇、〇〇〇円を支払つた。さらに原告は、売主側の依頼をうけた不動産取引業者の一人である西尾実から、売買契約の履行を円滑に進めるには、本件土地売買につき別途仲介に乗り出していた業者である山川一蔵に対し金五〇〇、〇〇〇円を支払つておく必要があるといわれたので、同月一九日西尾を介して山川に対し金五〇〇、〇〇〇円を支払つた。
以上合計金五、三〇〇、〇〇〇円は原告の収入に対応する必要経費として控除されるべきである。
第三証拠
一 原告
1 甲第一ないし第三号証提出
2 証人橘徳三、西尾実、尾崎信義、嶋村迅穂の各証言、原告本人尋問の結果援用
3 乙第二号証の二は官署作成部分の成立を認め、その余の部分の成立は不知、乙第四号証の成立は不知、その余の乙号各証の成立は認める。
二 被告
1 乙第一号証、第二、第三号証の各一、二、第四号証、第五号証の一、二提出
2 証人山田秀一、尾崎信義、大谷寿一の各証言援用
3 甲号各証の成立(第二号証は原本の存在とその成立)を認める。
理由
一 請求原因1の事実は当事者間に争いがない。
被告の主張1および2の事実も当事者間に争いがなく、本件の争点は尾崎、山川両名への金員支払の有無の点だけである。以下これについて順次判断する。
二 成立に争いのない甲第一、第三号証、証人西尾実、嶋村迅穂、橘徳三の各証言、原告本人尋問の結果を総合すると、原告は枚方市大字山之上地区に長年居住し、部落長を勤め、かつ本件売買物件中に原告の父田中治三郎の所有地も含まれていた関係から、本件売買については売主側のとりまとめ役となり、売主側を代理して順次川北商事こと西尾実、嶋村商事こと嶋村迅穂、富士商会こと尾崎信義(いずれも不動産取引業者)を介して買主の殖産住宅と売買交渉をしたのであるが、売主側としては、取引に介在した仲介人の手数料分を含め代金を坪当り金六三〇〇円位(そのうち売主の手取り額は平均五七〇〇円前後)とする線で折衝していたところ、殖産住宅側から依頼をうけた業者である尾崎が、殖産住宅における本件売買担当の社員に対するリベートとするため、坪当り五〇〇円を売買代金に上積みするよう要求した結果、昭和三六年四月一五日の仮契約を経て同月一九日に坪当り代金六八〇〇円で本契約の締結を見るに至つたこと、この本契約締結時には売買土地は全部で五〇筆、公簿面積一〇、五二七坪であつたか、その後二筆の土地所有者が売却を拒否し、最終的に取引されたのは四八筆、九、六四三坪であつたこと、その代金六五、五七二、四〇〇円は、四回に分けて支払われたが、原告は、初回(四月一五日)の手付金三、〇〇〇、〇〇〇円受領のときに金三〇〇、〇〇〇円、二回目(同月一九日)の金二〇、〇〇〇、〇〇〇円受領のときに金二、〇〇〇、〇〇〇円、三回目(同月二八日)の金三一、八四二、〇〇〇円受領のときに金二、五〇〇、〇〇〇円、計金四、八〇〇、〇〇〇円(九、六四三坪につき坪当り五〇〇円で計算した額にほぼ等しい)を、いずれも前記リベートの趣旨で尾崎に交付したことが認められる。
右に掲げた証拠のうち甲第一号証は、昭和三六年四月二八日付尾崎作成原告宛の金五〇〇、〇〇〇円の領収証であるところ、尾崎はこれを架空の領収証であると強弁しているが、この点につき大阪国税局協議団本部からの照会に対し回答したこと(成立に争いのない乙第三号証の二)と本件訴訟の証人として証言したこととが符合せず、前後矛盾し首尾一貫していないのであつて、同人の供述はとうてい信用することができない。また右領収証の金額が五〇〇、〇〇〇円であるのは、三回目の金銭授受のとき、尾崎がリベート分四、八〇〇、〇〇〇円のうち金五〇〇、〇〇〇円だけは自分自身の分け前として取得する意向を示したので、同人に対し自己の取り分については領収証を書くよう要求したことによるものであると認められ(原告本人尋問の結果)、金四、八〇〇、〇〇〇円の授受の認定と矛盾するものではない。
なお、証人大谷寿一は殖産住宅側のリベートの受領を否定しており、尾崎が自己の分け前だとした分を除く金四、三〇〇、〇〇〇円を果してリベートとして殖産住宅側に交付しているかどうかは証拠上明らかでないけれども、このことも前記認定の妨げにはならないというべきである。
三 証人嶋村迅穂の証言および原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件土地につき別途取引を推進しようとしていた山川なる不動産業者に円満に手を引かせるため、西尾の助言に従い、第二回目の売買代金授受の行なわれた四月一九日頃西尾を通じて山川に金五〇〇、〇〇〇円を交付したことが認められ、右認定に反する証拠はない。
四 原告が殖産住宅から受取つた金六五、五七二、四〇〇円と原告が各売主に交付した金五五、〇六〇、二〇〇円との差額一〇、五一二、二〇〇円が原告の収入であり、西尾と嶋村への謝礼金計二、〇〇〇、〇〇〇円に、前記二で認定した尾崎への交付金四、八〇〇、〇〇〇円、および三で認定した山川への交付金五〇〇、〇〇〇円を加えた金七、三〇〇、〇〇〇円が、右収入を得るために直接に要した必要経費にあたるものと解すべきである。そうすると、収入金額から必要経費を差引いた金三、二一二、二〇〇円が原告の雑所得の金額となる。
五 以上の次第で、被告の原告に対する本件処分のうち、総所得金額を金三、二一二、二〇〇円として計算した額を超える部分は違法であり、この部分の取消を求める原告の本訴請求は全部理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 下出義明 裁判官 藤井正雄 裁判官 石井彦寿)