大阪地方裁判所 昭和44年(行ウ)62号 判決 1987年4月30日
主文
一 原告らの土地調書及び物件調書の記載に誤りがあることの確認を求める訴えを却下する。
二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 和歌山県収用委員会が昭和四四年三月三一日した起業者被告関西電力株式会社新田辺変電所に関する土地収用裁決を左のとおり変更する。
(一) 原告橋本恒太郎に対する別紙第一物件目録(以下第一物件目録ないし第九物件目録を「第一目録」ないし「第九目録」という。)記載の各物件の収用価格を合計二一四七万三二三〇円、第二目録記載の各項目に対する補償を合計一三三五万八二九九円、第三目録第一記載の土地収用価格を合計一六八四万二九〇〇円、第三目録第二記載の残地補償価格を合計一三一三万二八〇〇円
(二) 橋本る以に対する第三目録第一記載の土地収用価格を六二七万二〇九六円、第三目録第二記載の残地補償価格を二八五九万九九〇〇円
(三) 原告橋本恒太郎、同三宅兼次郎、同寺川みね、坂田静枝、原告橋本文枝、同古井秀吉、同橋本和恵に対する第三目録第一記載の土地収用価格をそれぞれ一七九万二〇〇〇円、第三目録第二記載の残地補償価格をそれぞれ八一七万一四〇〇円とする。
2 被告は
(一) 原告橋本恒太郎に対し、八二二五万五六一九円及びうち七八〇五万七一三八円に対する昭和四四年四月一日から支払済まで年一八・二五パーセントの割合による金員
(二) 原告橋本文枝に対し、七四六四万円及びこれに対する昭和四四年四月一日から支払済まで年一八・二五パーセントの割合による金員をそれぞれ支払え。
3 原告らと被告間において、和歌山県収用委員会が昭和四四年三月三一日した被告関西電力株式会社新田辺変電所の土地収用における土地調書及び物件調書の記載事項について次のとおりの誤りがあることを確認する。
(一) 土地調書について
(1) 田辺市新庄町字中橋谷一九七番一と記載された部分は、同番二、面積一四七・二八平方メートルの土地を含んでいること、また、収用地に含まれる同番一の土地は九五・二平方メートルの部分であること。
(2) 右同所二二五番三〇と記載された部分は、同番二一の土地の一部、一四一七・三四平方メートルを含んでいること。
(3) 右同所二二五番四一、同番四二と記載された部分は、同番三〇の土地の一部、九四六・五九平方メートルであること。
(4)右同所二二五番二一と記載された部分は、同番一の土地の一部で所有権移転登記未済の土地九二九・四八平方メートルであること
(二) 物件調書について
みかんの平均年齢が八年とあるのは一三年、本数が四一六本とあるのは四三二本、梅一三本とあるのは一八本、槙(防風林)七五九本、杉一〇〇本とあるのは、合計一〇一三本であること。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 第2項について仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1(一) 被告は、和歌山県南紀地区に対する電力供給のため、原告橋本恒太郎(以下「原告恒太郎」という。)、承継前の原告橋本る以(以下「る以」という。)、原告三宅兼次郎(以下「原告兼次郎」という。)、同寺川みね(以下「原告みね」という。)、承継前の原告坂田静枝(以下「静枝」という。)、原告橋本文枝(以下「原告文枝」という。)、同古井秀吉(以下「原告秀吉」という。)及び同橋本和恵(以下「原告和恵」という。)(以下右の八名を「原告恒太郎ら八名」という。)の所有する和歌山県田辺市新庄町字中橋谷所在の別紙図面(二)記載の赤枠部分の土地(以下「本件収用地」という。)上に新田辺変電所の新設事業を計画し、昭和四三年四月二五日、右事業の認定を受け、第四、第五目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を収用地として細目を公告した。
(二)本件収用地の右所有者らと起業者である被告との間で、本件土地の損失補償について協議が不調に帰したため、和歌山県収用委員会(以下「収用委員会」という。)は、被告の申請により、昭和四四年三月三一日、損失補償金を次のとおりとし、権利を取得する時期及び明渡の期限を同年四月一一日とする本件土地の収用の裁決をし、右裁決書は、右各所有者らに対し、昭和四四年四月一日ないし同月二日に送達された。
(1) 原告恒太郎に対しては八六一万四三三五円(但し、山本栄吉との間において争いのある所有地の分も含む。)。
(2) る以に対しては一〇一万七七三〇円。
(3) 原告兼次郎、同みね、静枝、原告文枝、同秀吉及び同和恵に対しては各二九万七八〇円。
2 しかしながら、原告らに対する適正な損失補償金額は次のとおりである。
(一) 本件収用地に関する補償
(1) 原告恒太郎分 三八三一万六一二〇円
<1> 収用土地補償 一六八四万二九〇〇円
(イ) 本件収用地は、公簿上の地目が山林であり、収用当時はみかん山として収益されていたが、現況は宅地見込地である。すなわち、本件収用地は、田辺市の中心から近距離のところに位置し、紀勢本線紀井新庄駅の北方約七五〇メートル(道路距離約一キロメートル)の地点にあるうえ、本件収用地に隣接する原告恒太郎所有地の東側約五〇メートルのところに幅員約六メートルの農免道路(上麻呂から三栖を経て上富田町に至る。)が存在し、本件収用地を含めた近隣土地は宅地開発を目的とした基礎準備が行われているところ、田辺市は地方都市としては珍らしく工業、漁業、観光都市として飛躍的発展を遂げたため、市街地に近い山林を宅地化する必要に迫られ、現に本件収用地のすぐ手前において住宅建築が行われているばかりか、本件収用地より奥地においてさえ、前記農免道路に沿つて宅地開発工事が行われており、付近の山林所有者は、宅地開発目的者から買受交渉を受けている。また、本件収用地は、前記農免道路の入口付近に位置し、南面のひな段型を形成しているため、方位、日照が良好である。以上の事情に近隣類地の取引価格等を考慮すれば、本件収用地の収用当時の価格は一平方メートル当り一万円を下らない。
(ロ) ところが、収用委員会は、誤つた土地調書に基づいて本件土地の収用裁決をした。すなわち、右土地調書の記載は原告恒太郎所有の第四目録記載の土地の所在が別紙図面(一)記載のとおりであると表示されているが、本件収用地内の原告恒太郎所有地は第三目録第一記載の土地であり、その位置は別紙図面(二)記載のとおりである。すなわち、本件収用地に含まれる原告恒太郎所有地は、田辺市新庄町字中橋谷一九七番一(以下本件収用地内及びその付近の土地は地番のみで表示する。)の土地のうち面積一〇五・五五平方メートルの部分、一九七番二面積一三五・八平方メートル、二二五番二一面積一四四二・九四平方メートルの合計一六八四・二九平方メートルであるから、原告恒太郎に対する収用土地の補償金額は一六八四万二九〇〇円となる。
<2> 果樹補償 一七七五万五〇〇〇円
原告恒太郎は、本件収用地上でみかん山を経営し、みかん、梅、柿、いちじくを所有していたところ、収用委員会は誤つた物件調書に基づいてこれらの補償金を算出した。すなわち、右物件調書においては、みかん平均九年生四一六本、梅一本、柿四本、いちじく七本と記載されているが、本件収用地上のみかんは平均一三年生であり、その本数は四三二本である(本件土地上に四二四本あり、土地調書に表示されてはいないが本件収用地に含まれる事業認定外の土地上に八本あつた。)。また、梅は一八本、柿は二本、いちじくは五本である。そしてみかんは収穫最盛期を迎え、今後数十年にわたり膨大な収益をあげ得たものであるうえ、原告恒太郎が過去一〇年間にわたり育てた投下資本と将来の収益を考慮すれば、みかん一本当りの補償金額は四万円と認めるのが相当であるから、その補償金額は一七二八万円とすべきである。その他の果樹は一本当り梅が二万五〇〇〇円、柿が五〇〇〇円、いちじくが三〇〇〇円にそれぞれ相当するから、その補償金は梅が四五万円、柿が一万円、いちじくが一万五〇〇〇円とすべきである。以上を合計すれば、果樹補償は一七七五万五〇〇〇円となる。
<3> 立木補償 一一六万一四〇〇円
収用委員会は誤つた物件調書に基づき立木補償金を算出した。すなわち、右物件調書によれば、本件土地上の立木は、桐二本、杉、槙合計九〇八本、その他の立木六一本と記載されている。しかし、桐は二本であるが、杉、槙は合計一〇一三本であり、その他の立木は合計二四六本である。そして、これらの立木はいずれも建築用材あるいは庭木等として収用当時及び将来において売却可能であつたから、これらの立木は一本当り、桐が二万五〇〇〇円、杉、槙が各一〇〇〇円、その他の立木が四〇〇円に相当するものである。したがつて、立木補償金は合計一一六万一四〇〇円とすべきである。
<4> 建物補償 一八一万二三二〇円
原告恒太郎は、本件収用地内に第六目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有していたが、この建物に対する補償は一八一万二三二〇円が相当である。
<5> 石垣補償 七四万四五〇〇円
本件収用によつて、本件収用地内の原告恒太郎所有の石垣も収用された。この石垣の造成費用は七四万四五〇〇円に相当するから、右金員を補償金として請求する。
(2) 原告文枝分 一八八一万六〇〇〇円
<1> 本件収用地の補償金は一平方メートル当り一万円が相当であることは前記(一)(1)<1>(イ)のとおりである。
<2> ところで、土地調書は、誤つて、原告恒太郎ら八名の共有地であつた第五目録記載の土地の所在が別紙図面(一)記載のとおりであると記載しているが、本件収用地内の原告恒太郎ら八名の共有地であつたところは二二五番一の一部、面積九九四・二四平方メートル及び分筆前の二二五番三〇、面積八八七・三六平方メートルの合計一八八一・六平方メートルであり、その位置関係は別紙図面(二)記載のとおりであるから、右土地の収用による補償金額は一八八一万六〇〇〇円となる。そして、これらの土地は、収用当時、原告ら八名の共有であつたが、る以は、昭和四四年一一月五日、死亡し、その子である原告恒太郎、同兼次郎、同みね、静枝、同文枝、同秀吉、同和恵及び吉村まつ恵(以下「まつ恵」という。)が右る以の権利義務を承継し、その後、まつ恵は、昭和五五年六月一三日、死亡し、その子である原告橋本治之(以下「原告治之」という。)及び同吉村由美(以下「原告由美」という。)が右まつ恵の権利義務を承継し、また、静枝は、昭和五六年一二月二五日、死亡し、その子である原告坂田晃(以下「原告晃」という。)、同坂田登(以下「原告登」という。)、同尾美きみ子(以下「原告きみ子」という。)及び同橋本安子(以下「原告安子」という。)が右静枝の権利義務を承継した。
<3> 原告恒太郎ら八名共有の分筆前の二二五番三〇、二二五番三八、二二五番六五、二二五番一の一部で新庄愛郷会名義で残存する未登記の土地(本件収用地内に一部が含まれている。)は、もと原告恒太郎ら八名の先代橋本多一所有で、昭和三六年七月四日、同人の死亡により相続が開始したが、その相続人の原告らは、昭和六一年八月一日、遺産分割の協議をし、原告文枝が右各土地を単独で相続することを合意し、これに伴い、原告文枝以外の原告らは、原告文枝に対し、被告に対する本件各補償請求権を譲渡し、同月二九日の本件口頭弁論期日において、被告に対し、右譲渡の通知をした。
<4> そこで、本件収用地中の原告文枝所有地に対する補償金は一八八一万六〇〇〇円が相当というべきである。
(二) 残地補償関係
(1) 原告恒太郎分 二六四九万一〇九九円
<1> 残地補償 一三一三万二八〇〇円
(イ) 原告恒太郎は、本件収用地に隣接して二二五番四一、面積三七九・一三平方メートル、二二五番四二、面積一六五八・一五平方メートル、二二五番四、面積二一一・九五平方メートル、一九七番一の一部面積六六九・六平方メートル(以下「原告恒太郎所有残地」という。)を所有している。
(ロ) 右各土地も本件収用地と同様、収用当時は宅地見込地であつたが、本件収用地に変電所が建設されたため、残地についてのみ宅地造成することが不可能となつた。すなわち、本件収用地は、そのもとの所有者らの所有全土地の地形からみて中心的場所に位置するばかりか、前記農免道路に最も近接した場所に存在するから、宅地造成をするには本件収用地を併せて行う必要があつた。そこで、残地のみについて宅地造成する場合には、私道の設定が著しく困難になり、また収用により地形が変形したため有効面積が極度に減少し、残地に対する減歩率が極めて増大するばかりか、残土処理、搬出等が不利となり、仮に造成工事を強行しても、工事費単価の割高等により採算が合わず事実上造成工事が不可能な状態に置かれた。加えて、本件収用地に建設されたものが変電所であり、一般人の変電設備に対する危険感情から、その近隣に住居を持つことを躊躇することは当然であり、更に変電作動による騒音が昼夜の別なく発生するばかりか、高圧電流によるテレビ等に対する電波障害も予想され、近隣における住宅建設は大きく阻害されるに至つている。
(ハ) 以上の理由により、原告恒太郎所有残地は宅地見込地としての効用を失い、山林としての利用価値に制約されたため、その価格が、宅地見込地として一平方メートル当り一万円であつたところが、五五〇〇円に減少した。したがつて、被告は、右減価分を補償すべきであるところ、原告恒太郎所有残地に対する減価補償合計金額は一三一三万二八〇〇円となる。
<2> 道路新設費 二五二万五〇〇〇円
本件収用地及びその周辺は、もともと縦横に一輪車の通行可能な通路があつた。ところが、本件収用により二二五番三〇の土地と同番四一の土地の間に絶壁が生じ、収用地の一部を通行の用に供しないと東側の土地が袋地になつてしまう。そこで、原告恒太郎は、変電所の周囲に幅員一・二メートル、延長一〇八・五メートルの道路を新設せざるをえない。その工事に要する費用は二五二万五〇〇〇円である。
<3> 水利回復費 一四一万七七七五円
本件収用地内に存在する一九七番二の土地はもと田であり、また、一九七番一の土地の内には蓮池があり、その跡に貯水池が作られ、これらの土地の水でみかんの給水をし、また、二二五番三六の土地まで給水していたが、本件収用により右の水源が断たれたうえ、変電所の建設により山林自体の貯水作用が阻害され、本件収用地及びその残地上のみかんに対する灌漑作用が破壊された。これを回復するには近隣の山本次郎吉から水利権を買取るほか残地に対するスプリンクラーの設置などが必要となる。これらに要する費用は次のとおりである。
(イ) 水源買取費 九〇万円
(ロ) 電気設備費 二八万二七五円
(ハ) 上水道敷設費 二三万七五〇〇円
<4> 防風林植樹費 二一七万八〇〇〇円
本件収用により原告恒太郎所有残地のみかんが風害を受けるようになつた。そのため防風林を設ける必要があるが、その費用として次のものが必要である。
(イ) 槙苗 三四〇本(単価六〇〇〇円) 二〇四万円
(ロ) 土、杭、竹 七万八〇〇〇円
(ハ) 一年分肥培費並びに保証料 六万円
<5> 立毛補償 七二三万七五二四円
原告恒太郎は、その所有する前記残地上に平均一〇年生のみかんを三六六本所有してみかん山を経営しているが、大部分の残地に通ずる道を被告の変電所建設によつて閉塞され、作業に支障を来たし、また、右建設工事により山林自体の貯水作用が阻害され、みかんに対する灌漑作用を破壊され、防風林がなくなつたため残されたみかんが裸にさらされ落果の被害を受け、更に、変電所の夜間照明が大誘蛾燈となつて害虫を誘うなどし、本件収用後一六年間に既に一〇二本のみかんが枯死した外、残つているみかんも今後二〇年間に三割の減収となることは明らかである。これらに対する補償金額は次のとおり合計七二三万七五二四円となる。
枯死みかん 一〇二本 単価四万円 計四〇八万円
残立木 二六四本、年間収益二九二八円、減収率三割、二〇年間のホフマン係数一三・六一六 計三一五万七五二四円
(2) 原告文枝分 二六七六万一〇〇〇円
<1> 本件収用地の周辺には二二五番三〇面積七七三・〇九平方メートル、二二五番六五面積四五九・六四平方メートル、二二五番三八面積一二二五・二六五平方メートル、愛郷会所有名義の二二五番一の未登記地面積二三七二・〇三五平方メートルが存在するが、これらの土地の価額が本件収用により減額したことは、前記(1)<1>(ロ)、(ハ)のとおりである。
<2> 右各土地は、本件収用当時、原告恒太郎ら八名の共有に属していたが、その後の権利変動を経て、原告文枝が所有するに至つたことは、前記(一)(2)<2><3>のとおりである。
<3> そこで、原告文枝所有の残地四八三〇平方メートルの補償金額は、内一四三六平方メートル(別紙図面(四)記載部分)について減価率八〇パーセントとして一一四八万八〇〇〇円、残余三三九四平方メートルについて減価率四五パーセントとして一五二七万三〇〇〇円、合計二六七六万一〇〇〇円となる。
3 被告は、前記2(一)(1)<1>(ロ)及び2(一)(2)<2>のとおり、誤つた土地調書に基づいて本件収用地を収用し、また、前記2(一)(1)<2>及び<3>のとおり、誤つた物件調書に基づいて果樹、立木を収用したため、原告らは、その特定された地番によつては補償金を受け取ることができず、また、物件調書に記載されなかつた果樹、立木については収用されたにもかかわらず補償金を取得できなかつた。これらは、いずれも被告が誤つた土地調書、物件調書を作成したからであり、このような被告の行為は不法行為に当るというべきであるから、このような場合は起業者が採決の申請を怠つている場合と同様に年一八・二五パーセントの罰金が付せられるべきである。そして、補償金の支払が遅延していることに対しては、収用価格の修正率について現実の土地価格の上昇率(昭和四三年九月に比して昭和六〇年九月のそれは五・二三六倍である。)によるべきである。また、本件収用地のもとの所有者らは、収用委員会に対し残地補償を請求したにもかかわらず本件収用裁決においてはこの点についての判断を遺脱した。このような場合は起業者が裁決申請を怠つた場合と同様に残地補償について一八・二五パーセントの損害金を支払うべきである。
4 よつて、原告らは、請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。
二 被告の本案前の主張
原告らの中間確認の訴は、土地調書及び物件調書の記裁事項について誤りがあることという事実の確認を求めるものであり、法律関係の存否の確認を求めるものではないから、不適法である。
三 請求原因に対する認否及び反論
1(一) 請求原因1(一)の事実のうち、別紙図面(二)記載の本件収用地の面積は否認するが、その余の事実は認める。
(二) 同1(二)の事実は認める。
2 同2、3の事実のうち、原告らが主張する相続関係は認めるが、その余の事実は争う。
3 反論
本件裁決における損失補償は、本件土地に対する補償金七〇七万一七八〇円、果実に対する補償金四〇八万九四七円、立木に対する補償金六万八三三四円、建物に対する補償金一万九二〇〇円、合計一一二四万二六一円であるが、これらはいずれも相当な補償というべきである。その理由は以下のとおりである。
(一) 本件土地に関する補償について
(1) 本件土地は、国鉄紀勢本線紀伊田辺駅の南東約一・八キロメートル、同紀伊新庄駅の北方約八〇〇メートルの地点で、幅四メートルないし五メートルの未舗装の農免道路から約五〇メートルないし一〇〇メートル入つたところに位置し、標高約三〇メートル程の丘陵地で、みかん畑として栽培され、傾斜部分等が雑木林となつており、かなりの高低差があり段々状になつているところがある土地である。また、本件土地の近隣は、農免道路沿いに宅地化の動向が見られるが、本件土地は、前叙のとおり、農免道路から約五〇メートルないし一〇〇メートル入つているため、単独では宅地化が困難である。
(2) ところで、収用する土地の補償金の額を定めるには、現在の利用方法を離れて、客観的に社会の普通人にとつて最も合理的最善の利用方法と認められるものをもつて標準とする。現在の利用方法に対し、特に一層高い有用能力が顧慮される場合の一つとして、その土地が現在の利用以外に宅地として利用される場合があるが、そのためには、その土地について宅地とすることの経済的可能性が存在すること、このような経済的可能を実現する根拠が期待されていること等が要件となる。しかし、特別投資によつて初めて可能となるような利用価値は、補償上考慮されない。
(3) 更に、収用地の補償金の額は、近傍類地の取引価格を考慮して算定されるのであり、被収用者にとつての特別の利用価値、特別の事情など主観的事情に着目して補償されるべきではなく、客観的な市場価値を補償すべきものである。因に、昭和三七年六月二九日の閣議決定「公共用地の取得に伴う損失補償基準要鋼」八条によれば、収用土地の正常な取引価格は、近傍類地の取引価格を基準とし、これらの土地及び取得する土地の位置、形状、環境、収益性その他一般の取引における価格形成上の諸要素を総合的に比較考量して算定するものとしている。
(4) 土地収用法六五条による植田鑑定人の鑑定は、付近土地の宅地化動向も考慮し、本件土地の価格を六三六万四六〇二円、一平方メートル当り一八〇〇円とし、本件裁決申請に当り被告が求めた財団法人日本不動産研究所の鑑定は、本体土地の価格を、造成前の宅地見込地として一平方メートル当り二〇〇〇円であるとした。そこで、被告は、一平方メートル当り二〇〇〇円の金額を本件土地の補償金額として、本件裁決申請をしたのであるが、収用委員会は、前叙の補償額算定基準の要素を総合して、本件土地について、収用土地面積三五三五・八九平方メートル、金額七〇七万一七八〇円(一平方メートル当り二〇〇〇円)、時点修正を行つて金額七二〇万八二六四円を補償の額としたものであつて、右金額は正当なものというべきである。
(二) 果樹補償について
(1) 昭和三八年三月二〇日建設省訓令五号「建設省の直轄の公共事業の施行に伴う損失補償基準」四一条、昭和三八年一一月二五日通商産業省通達三八公六一三九号「電源開発等に伴う損失補償基準」四三条等によれば、収用する果樹に対する補償については、近傍同種の果樹の取引価格等を考慮し、相当な価格による補償の額を算出し、取引事例のないときは、未収益樹については、収用時までに要した経費の後価合計額を補償額とし、収益樹については残存効用年数に対する純収益の前価合計額を補償額とし、これをもつて正当な補償額とするとされている。
(2) 土地収用法六五条による楠本鑑定人の鑑定は、果樹の価格を、果樹の種類、数量、樹齢、収益樹、未収益樹等考慮した末、全部で二五七万七四四八円とした。
(3) そこで、前叙の算定基準により相当な補償額を求めると第九目録記載のとおり、四〇八万九四七円となり、この金額が果樹補償として正当な補償というべきである。
(三) 立木補償について
(1) 収用する立木に対する補償については、立木取得補償と立木伐採補償の二種があり、本件は前者であるところ、前記建設省訓令一七条、三九条、通産省通達一九条によれば、伐期に到達している立木にあつては、最寄り市場における素材その他製品の取引価格から適正に算定した額により、伐期未到達の立木にあつて市場価格のあるものについては、伐期における当該立木の価格の前価額と収用時から伐期までの純収益の前価合計額との合計額により、伐期未到達の立木にあつて市場価格のないものについては、収用時までに要した経費の後価合計額から収用時までの収益の後価合計額を控除してえた額により、補償額を算定し、これをもつて正当な補償額とする。そして、以上は、人工林についてのものであり、天然生林は右価格から減価される。
(2) 本件立木は、人工林の伐期未到達の立木であるから、右の方法により相当な補償額を求めると六万八三三四円となる。
(3) 因に、土地収用法六五条による楠井鑑定人の鑑定は、立木の価格を六万九五二〇円としている。
(四) 建物に対する補償について
前記建設省訓令一六条、前記通産省通達一八条によれば、収用する建物については、近傍同種の建物の取引価格等を考慮し、相当なる価格による補償額を算出し、取引事例がない場合は、当該建物の推定再建設費を取得時までの経過年数及び維持保存の状況に応じて減価したものを補償額とする。
本件建物の補償額を右方法により算出すれば、一万九二〇〇円が相当な補償額となる。
(五) 残地補償について
(1) 本件土地及び残地が農免道路から約五〇メートルないし一〇〇メートル入つたところに位置し、幅員約一・五メートルの農道に接しているだけで、単独では宅地化することが困難であることは前叙のとおりであり、大型車の進入は不可能であるから、収用に伴い残土処理搬出が不利になるとの原告主張は適切でない。また、本件変電所は、通商産業省令「電気設備に関する技術基準」に適合した電気設備であり、変電所の構内に立ち入らない限り隣地で農作業をしても、あるいは隣地に居住しても通常の土地利用の範囲では危険性が全くなく、そのうえ、被告は、変電所構内に立ち入れないように周囲にフエンスを設置し然るべき措置を講じている。本件土地の周辺は、騒音防止条例による規制区域外であるが、残地における変電所による騒音は、住宅地域としての規制があると仮定しても、それは受忍すべき範囲内に留つている。また、変電所送電線によるテレビ障害発生等の電気的な悪影響は全くない。本件地域では灯火の有無に関係なく吸蛾類によるみかん果実の被害が相当大きい現状であり、変電所の夜間照明による直接の影響は考えられない。その他、地下水の減少はなく、浸透水の減少が生じる場合には被告の給水設備によつて補い、みかん山経営のための道路閉塞、防風林施設等については、具体的対策について当事者間で協議する用意がある。
(2) 残地補償制度は、土地が経済的一体となつて被収用者に利用されているとき、被収用者の具体的事情の下において収用される財産を失うことによつて生ずる被収用者の残存財産の特別の損害を補償する制度であるが、土地収用法七四条の一団の土地とは、連続した土地の一団でその全体がある単一の目的に供せられているもので、一団地の全体として経済上の利用価値を有するものをいう。また、前記昭和三七年六月二九日閣議決定の基準要綱四一条によれば、残地について事業の施行により通常生ずる日陰、臭気、騒音、その他これらに類するものによる不利益又は損失については補償しないことを原則とするとされている。これは社会生活上受忍すべき範囲内のものであるからである。
(3) 以上によつて本件をみると、原告らの残地は畑あるいは山林であり、単一の目的に供されてはいないうえ、前叙のとおり、残地について価格や利用価値が減少するなどの損失は生じていないから、残地補償がされる余地がない。
(六) 被告は、変電所の用地として本件土地の隣接地をその地上物件と一括して楠本理平、新谷喜蔵、浦西清一郎、古谷茂らから買受けたが、本件裁決による損失補償金を本件土地とその地上物件を一括して右売買による代金と比較すると、別紙一覧表のとおりとなる。そして、右一覧表によれば、本件土地と用途や場所が類似する楠本、新谷、浦西らの土地の売買代金に比較して、本件裁決の損失補償金が相当であることが明らかである。なお、被告が古谷から買受けた土地は、前記農免道路沿いの地目田の土地であつたから、これと本件土地とを比較対照することは適切でない。
第三 証拠(省略)
理由
一 原告らは、和歌山県収用委員会が昭和四四年三月三一日した被告関西電力株式会社新田辺変電所の土地収用における土地調書及び物件調書の記載事項に誤りがあることの確認を求めているが、原告らの右の訴えは、権利ないし法律関係の存否の確認を求めるものではなく、単に調書の記載事項に誤りがあることという事実の確認を求めるものであるから、確認の利益を欠き、不適法である。
二 請求原因1(一)の事実のうち、別紙図面(二)記載の本件収用地の面積を除くその余の事実及び同1(二)の事実は当事者間に争いがない。
三 そこで、原告ら主張の本件収用地に関する補償の当否について検討する。
1 成立に争いのない甲第一号証、第三号証の一ないし六、第四号証の一、二、乙第七ないし第一六号証、第二三、第二四号証の各一ないし四、証人村田文男の証言により真正に成立したものと認められる乙第二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一二、第一四号証(但し、後記措信しない部分を除く。)、証人楠本理平、同新谷喜蔵、同浦西清一郎、同山本次郎吉、同古谷茂、同村田文男、同加納光広、同中村哲治及び同楠見圭造の各証言並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
(一) 被告は、昭和四一年一一月ころ、新田辺変電所の建設を計画し、同年一二月ころ、本件収用地を含めたその付近一帯を建設予定地に決定し、昭和四二年一月ころから鉄塔用地、送電線用地など関連工事に必要となる土地を含め、土地所有者との間で用地買収の交渉を始めることとし、事前に地形、面積を測量するとともに、不動産鑑定士に依頼して土地価格の鑑定を行い、地上物件を調査し、補償金を試算するなどの準備を終えた後、土地所有者との間で用地取得の交渉に入つた。そして、被告は、約一年をかけて本件収用地の所有者であつた原告恒太郎ら八名を除く土地所有者から任意買収により用地を取得した。すなわち、被告は、昭和四三年五月二四日締結の契約により、古谷茂(以下「古谷」という。)から、本件収用地の南方を通る農免道路の北側で右道路に面している田五二八平方メートルを、右道路から変電所への進入路の用地として、代金一平方メートル当り(以下「単価」という。)七五〇〇円、総額三九六万円で、橘長次郎(以下「橘」という。)から右古谷所有地の北西に隣接する畑八一平方メートルを代金単価三〇二五円、総額二四万五〇二五円で、楠本理平(以下「楠本」という。)から本件収用地の南側に隣接する畑九九三平方メートルを地上に存する床面積約七・四三平方メートルの建物、みかん一〇本、柿一本、梅などを含め、代金単価三〇二五円、総額三〇〇万三八二五円で、同年六月七日締結の契約により、新谷喜蔵(以下「新谷」という。)から本件収用地の南側に隣接し、右楠本所有地の東側に隣接する畑二二八七平方メートルを、地上に存するみかん一〇〇本余り、梅六五本位を含め、代金単価三六三〇円、総額八三〇万一八一〇円で、浦西清一郎(以下「浦西」という。)から本件収用地の南西側に隣接し、右楠本所有地の西側に隣接する畑六〇八四平方メートルを、地上に存するみかん約三〇〇本、梅約二〇〇本、雑木約一〇〇本を含め、代金単価三九三三円、総額二三九二万八三七二円でそれぞれ買受けた。右浦西、新谷、楠本らの土地の利用状態は、原告ら所有地と同様にいずれも主としてみかん畑であつたが、浦西、楠本らの土地が比較的なだらかな土地であつたのに対し、原告恒太郎ら八名所有の本件収用地は高いところは他の土地に比して最も高く、谷の部分もあつて高低差が相当ある土地であつた。そして、古谷、橘、新谷、楠本、浦西ら本件収用地の隣地所有者は、売買代金の単価に相違が出たのは、各所有地の地形、位置、地上物件の差異等の個別的事情によるものとして、これを了承していた。
(二) 一方、原告恒太郎ら八名は、被告から用地買収の交渉を受けた当初から代替地の斡旋を求めていたが、希望に副う代替地が見つからず、途中、原告らが選任した代理人豊崎一正は、昭和四三年二月ころ、被告に対し、損失補償金として総額一億二三〇〇万円を要求し、同年八月には、総額七五〇〇万円まで要求額を減少させたものの、被告が呈示した総額約一一〇〇万円(坪当り約一万円)との間にはなお大差があつた。そこで被告は、昭和四三年八月初めころ、収用委員会に対し収用裁決を申請するに及んだ。
(三)(1) ところで、被告は、原告恒太郎ら八名所有の土地について三三七〇平方メートルを買収予定地と計画していたが、本件収用裁決の申請に当り、本件建物の敷地部分及び本件収用地の北東端の一部について、事業認定ではいずれも使用部分と認定された部分を収用部分に変更し、また右建物付近の起業地と認定されていない土地部分を収用することにして土地調書を作成した。その際の調査結果によれば、本件収用地の地番及び所有者は第四、第五目録記載(本件土地)のとおりであり、その位置関係は別紙図面(一)記載のとおりであつた。
(2) 本件収用地は、国鉄紀勢本線紀伊田辺駅南東一・八キロメートル、同紀伊新庄駅北方八〇〇メートルの地点で、新庄地区から麻呂地区に通ずる幅員四メートルないし五メートルの農免道路(未舗装道路)から約五〇メートルないし一〇〇メートル入つた辺りに位置し、その利用状況は、大部分がみかん畑であり、傾斜部分等が雑木林であつた。また、その地形は、標高約三〇メートルの丘陵地と谷からなるかなりの高低差のあるものであり、段々状になつているところもあつた。そして、被告が用地買収の交渉を始めた後、山本次郎吉が前記農免道路沿いの所有地を宅地化する工事を行つたが、その外に本件収用地付近の土地を宅地化する動向は見受けられなかったところ、昭和四三年三月二九日施行された建設省告示第五〇三号によつて、本件収用地及びその付近は宅地造成等規制法三条一項に基づく宅地造成工事規制区域に指定された。
(3) また、昭和三七年六月二九日閣議決定「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」八条によれば、公共用地を取得する際の正常な取引価格は、近傍類地の取引価格を基準とし、これらの土地及び取得する土地の位置、形状、環境、収益性その他一般の取引における価格形成上の諸要素を総合的に比較考量して算定するものとすると定められているところ、被告が本件収用裁決を申請する前の昭和四三年六月ころ、被告の依頼により財団法人日本不動産研究所大阪支所が行つた本件収用地の価格鑑定によれば、昭和四三年六月八日の時点で近隣同類地の取引事例価格から、本件収用地は造成前宅地見込地として一平方メートル当り二〇〇〇円、総額六九〇万円と鑑定評価された。そこで、被告は、前記土地調書作成の際の調査結果と右鑑定により、本件土地が本件収用地であるとしてその補償金額を一平方メートル当り二〇〇〇円合計七〇七万一七八〇円と算定し本件収用裁決の申請を行つた。
(四)(1) 被告が本件収用裁決を申請するための物件調書を作成するに当り、被告会社和歌山支店庶務課用地係の職員加納光広は、新庄農業協同組合の橘薫及び原告恒太郎の立会のもとに本件収用地上の果樹について、その所有者、本数、樹齢を調査したところ、その結果は、第七、第九目録記載のとおりであつた。しかし、近傍で果樹一切の取引事例は見当らなかつた。また、果樹に対する補償の方法には移植することを前提に移植料を補償額とする移植補償と伐採することによる損失を補償する伐採補償があるが被告は、本件においては、技術上、移植することは不可能であると考え、伐採補償の方法を採用した。
(2) ところで、伐採補償の基準については、昭和三八年三月二〇日建設省訓令五号「建設省の直轄の公共事業の施行に伴う損失補償基準」四一条、昭和三八年一一月二五日通商産業省通達三八公六一三九号「電源開発等に伴う損失補償基準」四三条等があり、これらによれば、収用する果樹に対する補償については近傍同種の果樹の取引価格等を考慮し、相当な価格による補償の額を算出し、取引事例のないときは、未収益樹については収用時までに要した経費の後価合計額を補償額とし、収益樹については残存効用年数に対する純収益の前価合計額を補償額とし、これをもつて正当な補償額とする旨定められている。
(3) 被告は、右補償基準と前記事前調査の結果を参酌し、果樹の収獲量、価格、投下資本等を地元の農業協同組合、農林省和歌山統計事務所、和歌山県などの資料によつて調査した結果に基づき、本件収用地上の果樹補償については第九目録記載のとおり、合計四〇八万九四七円と算定し、本件裁決を申請した。
(五)(1) 次に、被告は、前記物件調書作成の際の事前調査において、本件収用地上の立木について、所有者、種類、数量、胸高直径等を調査したところ、第八目録記載のとおりであり、これらは人工の防風林であり、市場価格はあるが、伐採期に達していないものであつた。そして、立木に対する補償の方法は、起業者が立木を取得することを前提とする取得補償と立木を伐採して所有者に引渡し、伐採木の価格を控除したものを補償額とする伐採補償とがあるが、被告は、補償額がより高くなる取得補償の方法を採用した。
(2) ところで取得補償について前記建設省訓令一七条、前記通産省通達一九条によれば、伐期未到達の立木にあつて市場価格のあるものについては、伐期における当該立木の価格の前価額と収用時から伐期までの純収益の前価合計額との合計額により補償額を算定し、これをもつて正当な補償額とする旨定めている。
(3) 被告は、前記事前調査の結果と右補償基準により、本件立木の正当な補償額を六万八三三四円と算定し本件裁決申請を行つた。
(六)(1) 原告恒太郎は、本件収用地上に第六目録記載の建物を所有し、みかん栽培のための作業小屋あるいは休憩小屋として利用していたが、右建物は、戦前に建築され、建築後長期間経過したもので外観、内部ともに相当の損傷がみられるものであつた。
(2) 前記建設省訓令一六条、前記通産省通達一八条によれば、収用する建物については、近傍同種の建物の取引事例がない場合は当該建物の推定再建設費を取得時までの経過年数及び維持保存に応じて減価したものを補償額とする旨定められている。
(3) 被告は、前記本件建物の状況を右補償基準に照らし、本件建物の補償額を一万九二〇〇円と算定し、本件裁決を申請した。
(七) 収用委員会は、土地収用法六五条により本件収用地及びその地上各物件の価格について鑑定人に鑑定をさせたところ、不動産鑑定士植田粂夫は、昭和四三年四月二五日の時点における本件土地三五三五・八九平方メートルの価格を単価一八〇〇円、総額六三六万四六〇二円、同年一〇月七日の時点における本件建物の価格を二万九五五七円と鑑定し、鑑定人楠井雄二郎は、同年四月二五日の時点で本件土地三五三五・八九平方メートルの価格を五五二万六〇六〇円(単価一五六二円)、本件建物の価格を二万三六五〇円、立木九九七本の価格を合計六万九五二〇円、みかん等果樹四四一本の価格を合計一〇六万二〇〇〇円と鑑定し、同年一〇月一五日、和歌山県技術吏員楠本潤治は、みかん等果樹四五三本の価格を合計二五七万七四四八円と鑑定し、同月七日、和歌山県技師和田は、立木一〇〇一本の価格を合計四万八六二九円と鑑定した。収用委員会は、右各鑑定のうち、本件土地、本件建物、果樹、立木の各補償額について最高値の合計九〇四万一一二七円でもなお少額であるとして、独自に現地調査を行つたうえ、本件土地を本件収用地であるとし、果樹、立木、建物については、第七、第八、第六目録記載のとおりであると認定し、その補償金額を具体的項目毎に明示はしなかつたが、全体として、事業認定時の価格を被告の申請額と同額の一一二四万〇二六一円とし、これに事業認定時から裁決時までの物価の変動に応ずる修正率を乗じた一一三七万六七四五円を本件損失補償金と認定した。右金額は地上物件を含めて収用地一平方メートル当り事業認定時で三一七八円、裁決時で三二一七円となる。
(八) しかし、原告恒太郎ら八名(但し、当時る以は死亡していたので相続人まつ恵が加わつていた。)は、右裁決を不服とし、和歌山地方裁判所に対し、被告及び和歌山県を相手方として、右裁決の無効を理由に本件収用地の明渡等を求める訴え(同地裁昭和四六年(行ウ)第五号)及び収用委員会を相手方として、本件裁決の取消を求める訴え(同地裁昭和四八年(行ウ)第一号)を提起し、右両事件の不服申立理由の中で、本件収用地内の土地の位置関係及び権利関係、本件収用地上のみかん等果樹、立木の数量、樹齢について本件収用裁決の認定には誤りがあること、本件建物の敷地や本件収用地の一部は収用できないにもかかわらず収用裁決がなされたことなどを主張した。右両事件については、昭和五四年五月七日に第一審の各判決がなされ、さらに、昭和五八年九月三〇日に控訴審(右(行ウ)第五号事件は大阪高裁昭和五四年(行コ)第三二号右(行ウ)第一号事件は同高裁同年(行コ)第三一号、第三四号事件)の各判決がなされた。右(行ウ)第五号事件の控訴審判決においては、本件裁決は無効ではないとされたが、本件裁決では本件収用地内に含まれるとされた被告恒太郎所有の二二五番七二(旧二二五番四一から分筆されたもの)、二二五番七三(旧二二五番四二から分筆されたもの)の各土地が収用地の範囲内に存するとは認められないとして、被告に対して、右各土地についての所有権移転登記の抹消登記手続が命ぜられた。また、右(行ウ)第一号事件の控訴審判決においては、本件裁決には一部事業認定における起業地の範囲外および使用部分の土地を収用した違法があるとしてその旨の宣言をしたものの、いわゆる事情判決により裁決取消の請求は棄却された。右両判決は、昭和六〇年一一月一七日、上告棄却の判決により確定した。
(九) る以は、昭和四四年一一月五日、死亡し、その子である原告恒太郎、同兼次郎、同みね、静枝、同文枝、同秀吉、同和恵、及びまつ恵が右る以の権利義務を承継し、その後、まつ恵は、昭和五五年六月一三日、死亡し、その子である原告治之及び同由美が右まつ恵の権利義務を承継し、また、静枝は、昭和五六年一二月二五日、死亡し、その子である原告晃、同登、同きみ子及び同安子が右静枝の権利義務を承継した(この事実は当事者間で争いがない。)。
(10) 本件裁決当時、原告恒太郎は、第四目録記載の土地を単独で所有し、原告恒太郎ら八名は、第五目録記載の土地を共有していた。第五目録記載の土地は、もと原告恒太郎ら八名の先代橋本多一の所有で、昭和三六年七月四日、同人の死亡による相続が開始したが、その相続人の原告らは、昭和六一年八月一日、遺産分割の協議をし、原告文枝が右各土地を単独で相続することを合意し、これに伴い、原告文枝以外の原告らは、原告文枝に対し、被告に対する本件各補償請求権を譲渡し、同月二九日の本件口頭弁論期日において、被告に対し、右譲渡の通知をした。
以上の事実が認められ、甲第一四号証の記載中右認定に反する部分は直ちに信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
2 ところで、原告らは、本件収用地は宅地見込地として収用当時の価格は単価一万円を下らない旨主張し、証人山本次郎吉、同古谷茂の証言中には右主張に副う供述部分がある。
しかし、前記1で認定した事実によれば、本件収用地は、国鉄紀勢本線紀伊田辺駅南東一・八キロメートル、同紀伊新庄駅北方八〇〇メートルのところに位置しているが、付近を通つている幅員四メートルないし五メートルの農免道路から約五〇メートルないし一〇〇メートル入つた辺りにあつて、直接道路に接していないから、単独で宅地化することが困難な場所であるうえ、その地形は標高約三〇メートルの丘陵と谷からなるかなりの高低差のあるところで、収用当時宅地造成等規制法三条一項に基づく宅地造成工事規制区域に指定されていて、付近の土地と同様、もつぱらみかん畑等に利用されていたものであり、付近では道路に面した土地所有者の山本次郎吉によつて一箇所の宅地化工事が行われていただけで、特に宅地化の動向が顕著に見られるという状況でもなかつたこと、被告は、変電所建設用地とした土地中本件収用地を除く部分をすべて所有者から任意の売買により取得したが、昭和四三年五月から同年六月にかけて締結された右各土地の売買契約における代金額は、別紙一覧表記載のとおりで、その単価は、古谷所有地が七五〇〇円であつたほかは、地上物件を含め三〇二五円ないし三九三三円であつたところ、古谷の所有地は本件収用地の南方を通る農免道路に面した水田で、本件収用地とは位置、地目、利用状況等に違いがあつて、単純に価格を比較できない土地であるし、浦西、楠本らの土地が比較的なだらかな土地であつたのに対して、本件収用地は高いところは他の土地に比して最も高く、谷の部分もあつて高低差が相当ある土地であつてやや価格が低いと考えられることからすると、本件収用地の補償額が地上物件を含めると、事業認定時で単価三一七八円とされたのが隣地に比較して不相当に低額であるとは思われないこと、また、本件裁決申請前に被告の依頼により行われた鑑定によれば、昭和四三年六月八日の時点で本件土地の価格は造成前宅地見込地として単価二〇〇〇円とされたが、その後収用委員会が行わせた鑑定によれば、二名の鑑定人は、昭和四三年四月二五日の時点で本件収用地の単価を一八〇〇円(総額六三六万四六〇二円)、一五六二円(総額五五二万六〇六〇円)と鑑定したのであり、本件裁決は事業認定時の本件収用地の価格としては、右各鑑定結果中最も高額な単価二〇〇〇円(総額七〇七万一七八〇円)とする被告の申請額をそのまま認めたものと推認されることなどの事情がうかがわれるのであつて、右の諸事情を総合すると、前記各証人の供述は到底採用することができず、本件収用地の補償金額は相当であるというべきである。
3 次に、原告らは、本件収用地内の土地の地番及びその位置関係は別紙図面(二)記載のとおりであり、原告恒太郎所有地の面積は一六八四・二九平方メートル、原告恒太郎ら八名の共有地(現在原告文枝所有地)の面積は一八八一・六平方メートルであるのに、本件裁決においては、土地の地番及び位置関係を誤つたため、原告恒太郎所有地の面積を二〇三八・二平方メートル、原告恒太郎ら八名の共有地の面積を一四九七・六九平方メートルとして補償金を算定した旨を主張する。
ところで、収用委員会は、第四、第五目録記載の土地(本件土地)を本件収用地として、その位置関係を別紙図面(一)記載のとおりと認定したところ、原告恒太郎ら八名の所有者らによる右収用委員会の本件裁決無効及び取消訴訟においては、同図面(一)記載の二二五番七二、同番七三の土地が本件収用地の範囲内には含まれていないとして同図面(一)の地番の記載に一部誤りがあることが認められたことは、前記1で認定したとおりである。
しかし、原告らの主張する原告恒太郎所有地の面積と原告文枝所有地の面積とを合計すると三五六五・八九平方メートルとなつて、本件収用地の面積が三五三五・八九平方メートルであるのと一致しないから、原告らの右面積の主張自体正確なものとは考えられない。のみならず、前掲甲第二三、第二四号証の各一ないし四、検証の結果に弁論の全趣旨を総合すれば、本件収用地の範囲内には、原告恒太郎所有の土地と橋本多一の遺産で、原告恒太郎ら八名共有の土地(現在原告文枝の所有地)とが存在していたが、本件収用地及びその北側の残地は一体としてみかん山に利用され、原告恒太郎がこれを一括管理していたものであり、右土地の各地番毎の境界は明確ではなく、原告恒太郎ら八名の所有者も正確にこれを知つていたわけではなく、現に昭和四六年三月一九日に行われた当裁判所の検証に際しては、原告恒太郎ら八名の訴訟代理人は、本件収用地及びその残地について、その地番が収用委員会認定のとおりであることを前提として指示説明をしていたことが認められ、本件収用地の範囲内の土地の地番毎の境界の位置関係を明らかにできる証拠は存しないし、本件収用地内の原告恒太郎所有地と原告文枝所有地の面積に収用委員会認定の面積よりも増減があること及びその具体的な数値を認めるに足りる証拠もない(本件収用地の範囲自体は特定され、その面積は一定しているのであるから収用地全体に対する補償金額に異同が生ずるわけではないが、原告恒太郎と原告文枝の所有地の面積の増減によつては、各人に対する補償金額の配分に増減が生ずることになる。)。
4 原告恒太郎は、本件収用地上に平均一三年生のみかん四三二本、梅一八本、柿二本、いちじく五本を所有していたにもかかわらず、本件収用裁決ではこれを誤り、収用した果樹は平均九年生のみかん四一六本、梅一本、柿四本、いちじく七本であるとした旨主張し、甲第一一号証には右主張に一部符合する記載部分がある。
しかし、前記1の認定事実によれば、被告の職員は、原告恒太郎及び新庄農業協同組合の橘薫の立会のもとに、本件収用地上の果樹についてその数量、樹齢を調査して第七、第九目録記載のとおりであることを確認し、また、収用委員会も独自の現地調査によりこれを確認したのであるから、右物件調書の果樹に関する記載は正確なものと認められ、任意買収交渉の過程で作成された甲第一一、第一三号証の各記載部分が右物件調書以上に正確なものとは考えられないので、右記載をそのまま採用することはできない。そうすると原告恒太郎が主張する果樹の本数及び樹齢はこれを認めるに足りる的確な証拠がないといわざるをえない。
また、原告恒太郎は、果樹の補償金について、みかんは合計一七二八万円(一本当り四万円)、梅は合計四五万円(一本当り二万五〇〇〇円)、柿は合計一万円(一本当り五〇〇〇円)、いちじくは合計一万五〇〇〇円(一本当り三〇〇〇円)である旨主張するが右主張事実を認めるに足りる証拠はない。
かえつて、前記1で認定のとおり、被告は伐採補償に関する訓令、通達の補償基準に従い、事前調査の結果を参酌し、果樹の収獲量、価格、投下資本等を地元の農業協同組合、農林省和歌山統計事務所、和歌山県などの資料によつて調査した結果に基づき本件収用地上の果樹補償について第九目録記載のとおり、合計金四〇八万九四七円とを算定し本件裁決を申請したが、収用委員会は、二つの鑑定を行わせたところ、その本数に若干の差異があるものの、本件収用地上の果樹の価格は一〇六万二〇〇〇円、二五七万七四四八円とされたので、本件収用裁決で一番高額の被告申請の金額を事業認定時の価格と認めたのであるから、これを基準としてなされた果樹補償金額は相当なものであるというべきである。
5 原告恒太郎は、収用された立木の数量及びその価格が第一目録第二記載のとおりであり、本件建物の価格が第一目録第三記載のとおりである旨主張し、甲第一一号証の記載中には右主張に一部符合する記載部分がある。しかし、甲第一一号証の記載が直ちに採用できないものであることは前記4で判示したとおりであり、他に原告恒太郎の右主張事実を認めるに足りる証拠はない。
そして、前記1の認定事実によれば、被告は、物件調書作成の際の事前調査において、本件収用地上の立木について、種類、数量、胸高、直径等を調査し、第八目録記載のとおりであることを確認し、収用委員会も独自に現地調査を行つてこれを確認したものであり、また、被告が前記訓令及び通達の基準に従つて算出した立木の価格合計は六万八三三四円、本件建物の価格は一万九二〇〇円であり、収用委員会が行わせた二つの鑑定によれば、立木の価格が六万九五二〇円、四万八六二九円、本件建物の価格が二万九五五七円、二万三六五〇円とされたので、結局事業認定時の価格としていずれも被告申請額を認定するに至つたのであるから、本件建物が戦前に建築された古い作業小屋で外見、内部ともに老朽化していることをも考慮すると、被告が事業認定時の右価格を基準としてなした本件収用地の立木、建物の補償額は相当なものというべきである。
6 原告恒太郎は、本件収用地内の石垣についての補償を請求する。しかし、石垣はもともと本件収用地の一部を構成するもので、本件収用地と独立した取引価値を有するものではなく、これを含めて本件収用地の補償金額を算出すれば足りると考えられ、本件では石垣を含めた土地の価格を前判示のとおり定めたもので、その価格は相当であるというべきであるから、右主張は理由がない。
7 以上の次第で、収用委員会は、事業認定時の価格として、本件収用地をその地上物件一切を含めて一一二四万二六一円(単価三一七八円)と認定したもので、その価格は適正なものと認められるから、本件収用地とその地上物一切についての補償金額一一三七万六七四五円は全体として正当なものというべきである。そして、収用委員会は、本件収用地面積三五三五・八九平方メートルの土地価格七〇七万一七八〇円のうち、原告恒太郎所有地二〇三八・二平方メートルの価格を四〇七万六四〇〇円とし、本件収用地のうち原告恒太郎ら八名共有地一四九七・六九平方メートルの価格を二九九万五三八〇円とし、右共有地については、る以が持分三分の一として九九万八四六〇円、原告恒太郎ら八名のうちる以を除く者らが持分各二一分の二として各二八万五二七四円となるので、原告恒太郎については、土地価格四三六万一六七四円、果樹価格四〇八万九四七円、立木価格六万八三三四円、建物価格一万九二〇〇円の合計八五三万一五五円に事業認定時から裁決時までの時点修正をした八六一万四三三五円を補償金額とし、る以については、土地価格九九万八四六〇円に右時点修正をした一〇一万七七三〇円を補償金額とし、原告兼次郎、同みね、静枝、同文枝、同秀吉、同和恵については、各土地価格二八万五二七四円に右時点修正をした各二九万七八〇円を補償金額としたものと認められ、右各人に対する補償金額も正当なものというべきである。
四 次に、原告ら主張の残地に関する補償について検討する。
1 原告恒太郎、同文枝は、本件収用地の残地について土地収用法七四条に基づく残地補償を請求し、その理由として、本件収用によつて原告ら所有地の中心的場所が収用されたため残地のみでは宅地化が困難であるうえ、本件収用地に変電所が建設されたため、一般人の不安感、騒音、電波障害等の被害により住宅建設が妨げられるから、残地は山林としての利用価値しかないことになつたが、そのため価格が、宅地見込地として単価一万円であつたものが五五〇〇円に減少した旨主張する。
しかし、本件収用地は農免道路から五〇メートルないし一〇〇メートル離れていて直接道路に接していないうえ、かなりの高低差のある土地であつて、収用当時宅地造成等規制法に基づく宅地造成工事規制区域に指定されていて宅地化が困難な土地であり、現に、本件収用地の付近で宅地化の動向が顕著に見られるという状況でもなかつたことは前記二1、2で認定したとおりであるから、本件収用地の残地が宅地見込地として、本件収用によりその価格が減少したものと認めることは到底できないし、右残地が本件収用によりみかん山としての価格が減少したことを認めるに足りる証拠もない。したがって、原告恒太郎、同文枝の右主張はその余の点について判断するまでもなく理由がない。
2 また、原告恒太郎は、土地収用法七五条に基づき残地について道路新設費二五二万五〇〇〇円、水利回復費一四一万七七七五円、防風林植樹費二一七万八〇〇〇円を各請求する。そして、前記三1(三)(2)の認定事実に併せ、証人稲垣栄三の証言及び検証の結果を総合すれば、原告恒太郎は、本件収用地及びその北側、東側及び西側に隣接する残地においてみかん畑を経営していたが、本件収用前には本件収用地を自由に通行できたのに、収用によつて本件収用地の西側の残地から東側の残地への通行が不便になつたと主張して被告に対して通路をつくることを要求し、その交渉過程で、擁壁を築ずき、幅員一メートル以上の軽自動車の通行も可能な道路を建設することを求めたこと、被告は、原告恒太郎の要求する道路建設には費用がかかりすぎるとして、小規模な擁壁をつくり、道路の幅員を八〇センチメートル位とし、曲り角部分の幅員をやや広くする案を出したが、被告案によれば、残地上のみかん八本位を伐採する必要が生ずるところ、原告恒太郎はそのみかんの伐採による損失まで一本四万円の割合で支払うよう要求したので結局話合がつかなかつたこと、しかし、本件残地上を往来するためには人の通行することのできる程度の通路は存しみかん畑経営上特段の支障は生じていないこと、また、みかん栽培のための給水は、従来、残地に存する貯水槽に溜まる雨水の浸透水を利用して行つていたが、本件収用地上に変電所建設工事をした後は晴天が続くと浸透水が減少し、右貯水槽に水量の不足が生じていること、被告は、原告恒太郎の要求により、二回ボーリングをしたが地下水は存在しなかつたので、以後は右変電所内の給水設備からホースで貯水槽に水を溜めてみかんへの給水に支障の生じないように協力していること、被告は、原告恒太郎の要求により、本件収用地上に存した防風林の代りになるように珊瑚樹を植えることを承認して、この点については一応話合がついていたが、原告恒太郎の希望により、その実行は訴訟問題の解決後にすることとして実行はさしひかえていることが認められるが、残地上のみかん畑のために防風林が不可欠であることを認めるに足りる証拠は存しない。これらの事実によれば、原告恒太郎の主張する右道路新設費、水利回復費及び防風林植樹費は、著しく過大なものであつて、本件収用地の収用によつて残地につき行う必要のある工事費用に当らないといわなければならない。
3 原告恒太郎は、残地上のみかんが本件収用後一六年間に一〇二本も枯死し、残つたみかんも今後二〇年間年三割の減収が見込まれるとして、その補償金額を七二三万七五二四円と主張し、残地上の枯死したみかんを撮影した写真であることは当事者間に争いがない検甲第一号証のAないしP(弁論の全趣旨により吉村治之が昭和六一年五月二六日に撮影したものであることが認められる。)によれば、右主張に一部符合する残地上のみかんの一部が枯死している事実が認められる。しかし、右枯死が本件収用ないし本件収用地上の変電所建設によつて生じたものであること及び今後も残地上のみかんについて年三割の減収が見込まれることを認めるに足りる証拠はない。
五 原告恒太郎及び同文枝は、被告が誤つた土地調書、物件調書を作成したことが不法行為に該当するから被告に対しては補償金に対する年一八・二五パーセントの罰金が付せられるべきであるとか、収用価格の修正率については支払時までの土地価格の上昇率によるべきであるとか、収用委員会は残地補償について判断を遺脱したが、このような場合は残地補償について一八・二五パーセントの損害金を支払うべきであるとか主張するが、これらの主張は、いずれも原告恒太郎らの独自の見解にすぎず、これを採用することはできない。
六 以上によれば、原告らの土地調書及び物件調書に誤りがあることの確認を求める訴えは不適法であるからこれを却下し、原告らのその余の請求は理由がないからいずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。
(別紙)
第一物件目録
<省略>
第二物件目録
<省略>
第三物件目録 1 土地
<省略>
以上の小計部分には最終収用面積及び残地面積に合わすため小計段階で端数の整理を行つたため各地番面積の単純加算額より多少ひくい。
第四物件目録(原告橋本恒太郎単独所有)
一 田辺市新庄町字中橋谷一九七の一(収用裁決手続開始により分筆した地番 一九七の三)
<省略>
二 同所二二五の四一(収用裁決手続開始により分筆した地番 二二五の七二)
<省略>
三 同所二二五の四二(収用裁決手続開始により分筆した地番 二二五の七三)
<省略>
四 同所二二五の二一(収用裁決手続開始により分筆した地番 二二五の七四)
<省略>
第五物件目録(原告恒太郎ら八名共有)
一 田辺市新庄町字中橋谷二二五の三〇(但し、収用裁決手続開始により分筆した地番二二五の七五)
<省略>
二 同所 二二五の三八
<省略>
第六物件目録
ハ 建物
<省略>
第七物件目録
明渡しを申し立てる土地にある物件
土地の所在 和歌山県田辺市新庄町字中橋谷
イ 果樹
<省略>
第八物件目録
ロ 立木
<省略>
第九物件目録
土地の所在 和歌山県田辺市新庄町字中橋谷
イ 果樹補償
<省略>
(別紙一覧表)
新田辺変電所用地
買収(収用)実績一覧表
<省略>