大阪地方裁判所 昭和45年(レ)61号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕<証拠>を総合して考えると、被控訴人は、控訴人との間の商取引が途絶して数年を経過し近い将来も商取引を再開する見込みがない状勢であつたため、双方で株式の持ち合いをしている状態を解消しようと考え、昭和四三年二月九日訴被控人会社代表者が控訴人会社を訪れ控訴人に対し、被控訴人が所有する控訴人会社の株式一、〇〇〇株(本件株式)と控訴人が所有する被控訴人会社の株式六、〇〇〇株とを交換し、それぞれの株式の時価評価額の差額を現金で精算したき旨を申込み、同時に本件株券を引渡して寄託したが、被控訴人の再三の催促にもかかわらず控訴人が被控訴人の右申込みに対する諾否の返答をしなかつたので、控訴人は同年二月一六日付の書面(甲第一号証)により右申込みを取消す旨の意思表示をしたことが認められ、成立に争いのない甲第二号証によれば右書面は遅くとも同月二〇日迄には控訴人に到達したことが認められる。したがつて、控訴人は被控訴人から寄託を受けた本件株券を被控訴人に返還しなければならない義務がある。
控訴人は、被控訴人は昭和三五年一一月一七日控訴人に対する商品代金債務残額金一八〇、〇六五円の代物弁済として本件株式を控訴人に譲渡する旨の代物弁済契約を締結し、右契約上の債務の履行として本件株券を控訴人に引渡したものである旨主張し、証人三輪ユキエおよび同中川満弥(以上原審)ならびに同上村正吉(原審および当審)はいずれも右主張に副うかの如き供述をするが、右昭和三五年一一月一七日以来被控訴会社代表者が控訴会社に本件株券寄託をした昭和四三年二月九日まで七年間余も経過しているのに控訴人が被控訴人に対し本件株券の引渡を請求した事実が全く窺われないことおよび控訴人の被控訴人に対する売掛債権回収、投資金回収に関しては、領収証、誓約書、被控訴人会社代表者尋問の結果により控訴人が被控訴人に対して署名捺印を求めるため控訴人において作成した誓約書の案文であると認められる甲第六号証等の文書がいずれも厳重に作成されているにもかかわらず、控訴人主張の右代物弁済契約に関しては、なんら文書が存在しない事実ならびに前顕甲第一号証、原審および当審における被控訴会社代表者尋問の結果に照して考えると、控訴人の右主張に副う右各供述はとうてい採用できないし、他に控訴人主張の代物弁済契約の成立を肯認するに足る証拠はない。
三、控訴人は、既に本件株式を訴外三輪ユキエに譲渡し、株主名簿の記載を了し、本件株券を同訴外人に引渡し、同訴外人が本件株式の所有者として本件株券を所持しているから、本件株券を被控訴人に引渡すことは履行不能である旨主張するが、既に認定したとおり、控訴人は、本件株券の寄託を受けたに過ぎず、有効に本件株式の所有権を取得したわけではないから、本件株式につき訴外三輪ユキエとの間に譲渡契約をして同人に本件株式を引渡し、あるいは株主名簿の所有名義の書替え手続を了しているとしても、右訴外人はこれにより適法に本件株式の所有権を取得するいわれはなく、また、証人三輪ユキエ(原審)および同上村正吉(当審)の各証言によれば、同訴外人は控訴人会社の代表取締役三輪哲也の妻であり、かつ経理担当の常勤取締役であつて控訴人が被控訴人から本件株式の寄託を受けて所持するに至つた経緯を知悉していたと認められるから、商法二二九条所定のいわゆる株式の即時取得の規定の適用もないことは明らかである。
そうすると、控訴人はたとえ本件株式を現実に占有していないとしても、法律上同訴外人から本件株券の返還を受けて占有を回復しうる立場にあり、しかも同人にこれを期待しえないと認むべき格別の事情もないから、被控訴人に対する本件株券の引渡義務の履行が不能に帰したとの控訴人主張の抗弁は採用できない。
(大江健次郎 近藤浩武 庵前重和)