大阪地方裁判所 昭和45年(ワ)1036号 判決
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〔判決理由〕第一、請求原因の(一)ないし(五)、二の各事実はいずれも当事者間に争いがない。
第二、事故状況
一、<証拠>を綜合すれば、本件事故現場は、道路の幅員が約八、二メートルの東西に通ずる道路上の横断歩道の手前であり、本件事故現場付近は制限速度が時速四〇キロメートルと交通規制がなされ、当日は雨上りで路面が湿潤していたこと、訴外佐竹は前記②車に乗客である原告両名およびその子供の三名を乗車させて時速約四〇キロメートルで西から東へ向けて進行し、同横断歩道付近にさしかかつた際、同歩道を北から南へ横断している歩行者を認め、同歩道の手前で一時停止したところ、後方より進行してきた①車に追突されたこと、一方、訴外西森は①車を運転して同道路を西から東へ時速約五〇キロメートルで進行し、先行する②車が後尾灯(ストップランプ)の明りによつて停止しかけているのを前方約一一、四メートルの地点に発見し急制動の措置をとつたため①車が滑走し、②車に追突するに至つたこと、事故現場付近には左右共一四、七メートルの①車の車両によるスリップ痕が残つていたこと、がそれぞれ認められ、右認定に反する証人西森慶助の証言はたやすく措信しがたい。これによれば、本件事故現場道路は事故当時雨上りで路面が濡れており車輪がすべりやすい状態であつたのであるから、②車に追従していた①車の運転者訴外西森としては先行車の動静に充分注意すると共に速度を調節し制動措置を避ける義務があつたところ、指定制限速度(毎時四〇キロメートル)を一〇キロメートル超過した高速度で進行し急制動の措置をとつたため車輪が滑走し②車に追突したもので、訴外西森に運転上の過失のあつたことは明らかである。
二、被告三洋は、本件事故は通行人の横断歩道への飛び出しによる先行車の急停止が原因で発生したもので訴外西森にとつて不可抗力であつたと主張するが、②車が急停車したとの点は証人西森慶助の証言および丙第二号証(同人に対する業務上過失傷害事件における同人の司法巡査に対する供述調書)以外にはなく、右は、丙第三、第四号証、原告両名本人尋問の各結果、証人佐竹孝夫の証言(②車は横断歩道の手前で普通の状態で停止し停車した後に①車に追突されたものと認められる)と対比してたやすく措信しがたく、他に①車に先行していた②車の運転者に①車の運転を誤らしめるような運転をなしたものと認めるに足る証拠はない。そして、前記一認定のとおり、訴外西森は、滑走しやすい本件事故現場道を制限速度を超過した時速約五〇キロメートルの高速度で進行し、先行車の停止しかけているのを前方約一一、四メートルの地点に認めて急制動の措置をとつたため、①車を滑走させたものであるが、一般に雨に濡れた路面の摩擦力は乾いた路面の約半分程度(乾いた路面の摩擦係数は〇、八に比して濡れた路面のそれは〇、四)で、時速四〇キロメートルで走行中の車が乾いた路面では約八メートルで停止するのに対し雨の降りはじめでは一六メートル。雨で洗れた路面では一一メートルを要するとされている(最高裁事務総局編「交通事件執務提要」一六五頁参照)ことからすれば、訴外佐竹において指定制限速度を遵守してさえいれば、本件事故の発生は免れたものと解され、また、路面が濡れていたのであるから先行車の動静に特に注意を払い適宜減速の処置をとつていれば本件事故の発生を避けえたものと考えられるので、従つて本件事故はあげて同訴外人の過失によつて発生したものと認めざるをえない。
以上によれば、被告三洋は①車の運行供用者として本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。
三、被告猪山は免責の主張をするので考えてみるに、本件事故は前記のとおりもつぱら①車の運転者訴外西森の過失による追突によつて発生したものであることが明らかであり、②車の運転者訴外佐竹において避けることのできない事故であつたものと認められるので、このような場合、②車の運行供用者である被告猪山は自賠法第三条但書によつて免責される(なお、免責を受けようとする自動車の運行供用者は同法条但書の免責要件事実のうち事故と関係のない事実について立証する必要はないものと解する。最高裁昭和四五年一月二二日判決、民集二四巻一号四〇頁参照)。<中略>
第四、原告経の損害
一、治療費 金四三〇、三二〇円
<証拠>によりこれを認める。
二、休業損害
(事故確当時の収入)
<証拠>によれば、同原告は昭和三〇年頃より理容師の免許を受けて理髪店に勤務し、昭和四一年三月頃からは理容師の免許を有する妻常代と共に「パリ理容館」に勤務するようになり、同店の経営者である訴外西岡貞子が老令であつたため、実質上同店の経営にも携わり、収入を得ていたこと、本件事故当時、大阪府下の理容師の給料は、平均して、毎月男子が金五五、〇〇〇円、女子が金三五、〇〇〇円程度であつたこと、がそれぞれ認められる。原告らは、同店の純利益は総収入から諸経費を差し引き毎月平均金一〇一、八七九円でそのうち原告経が三分の二にあたる金六七、九二〇円を取得していたと主張するが、原告の全立証および本件全証拠によるも、未だ原告らの主張の総収入額、諸経費額を証するに充分ではなく、従つて原告経主張の純利益額を認容することもできない。しかしながら、同原告が、前記認定のとおり理容師の資格を有し「パリ理容館」で稼働し通常程度の収入を得ていたことは疑いないので、同原告の一ケ月の実収入は、控え目に見積つて、大阪府下の理容師の平均給料である毎月金五五、〇〇〇円を下らなかつたものと認めるのが相当と考える。
(休業期間)
前記第三認定の同原告の病状、治療経過、入・通院期間からすれば、同原告の休業期間は事故日の翌日である昭和四三年六月三日より医師より就労を勧められた昭和四四年一〇月下旬頃までのうち、一年間をもつて本件事故と相当因果関係のある休業期間と認めるのが相当と考える(一般に現在の医学では頸椎捻挫、いわゆるむちうち症に対する的確な診断と治療方法が十分に確立していない現状にあり、患者の性格や生活環境によつて病状の訴え方にかなりの差があるのに、患者の訴えにのみによつて病状の診断がなされ、安易に治療が加えられる事例がなしとしない。そのためか、同じような頸椎の過屈伸、過屈曲運動によつていわゆるむちうち症に罹患して何らかの神経症状がある場合にも、これを極めて過大に訴えて長期間の治療と休養をなす者と、かかる症状をほとんど無視して短期間の治療と休業によつて済ます者とがいることが日常多々経験するところである。このようなことからすれば、何らかの自覚的な神経症状のある場合に、長期間の治療を受け休業をなすこと自体は被害者(当該患者)の自由ではあるが、それによつて生じた損害を全て損害賠償として加害者側に負担させることは加害者に酷であり、公平の見地からも許容しがたいものいわざるを得ない。そして、通常のむちうち症の場合、長くとも六ケ月程度の治療と安静によつて軽快する事例の多いことが経験則上明らかであるところ、原告経の本件追突事故による傷害は外傷性椎骨軟骨症を伴い、軟骨の切除と椎体固定手術を受けていることなどの事情を勘案してその休業期間を一年間の範囲内でこれを相当な期間と認め、その間の損害のみを加害者側に賠償させることとし、その余は本件事故と相当因果関係がないものとして認容しないこととする)。
(損害額) 金六六〇、〇〇〇円
五五、〇〇〇×一二=六六〇、〇〇〇
(吉崎直弥)