大阪地方裁判所 昭和45年(ワ)2503号 判決
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〔判決理由〕第二、責任原因
一、被告会社
被告会社が事故車の運行供用者である事実は当事者間に争いがない。
二、被告長尾
原告らは、被告長尾が事故車の運行供用者であると主張するが、本件全証拠によるも同被告が事故車の所有者であることその他同被告が事故車を運行の用に供していたものであると認めるに足りないので、右主張を採用しない。そこで、代理監督者責任があるとの点について考えてみるに、証人海岡敏行の証言によれば、被告会社は建具の製造販売を業とする会社で、被告長尾が代表取締役であるが、本件事故当時、被告会社の従業員が被告長尾の息子を含んで全部で四名で被告長尾方自宅の階下で営業をなし、業務一切はほとんど被告長尾の指図によつて遂行されるなど、被告長尾のいわゆる個人会社ともいうべきものであり、被告会社の従業員である訴外海岡も被告長尾の指示監督のもとに被告会社の建具製品の製造や、被告会社所有の事故車を運転して製品の運搬、取り付け等の業務に従事していたものであり、本件事故当時も得意先に網戸を納入するため事故車を運転中であつた事実が認められ、右認定に反する証拠はない。これによれば、被告長尾は被告会社の代表者として被告会社に代つて事業を監督する地位にあつた者で、本件事故は被告会社の従業員である訴外海岡が被告会社の業務執行中に発生させたものと認められ、同訴外人に運転上の過失のあつたことは前記第一の二記載のとおりであるから、そうならば被告長尾は民法第七一五条第二項により代理監督者責任を負うものというべきである。
三、以上によれば、被告会社は自賠法第三条により、被告長尾は民法第七一五条により、各自、本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。
<中略>
第三、三、過失相殺、相続、損害の填補
前記第一の二記載のとおり亡ヨシ子にも過失があり、三割の過失相殺をするのが相当であるところ、原告らが被告らより葬儀費用として金一八二、〇〇〇円、雑費として金一〇〇、〇〇〇円の支払いを受けた事実は当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば右はいずれも本訴請求外の原告らの損害金であることが明らかであるから、従つて、本件に顕れた亡ヨシ子および原告らの総損害額は金九、六五五、三五二円となり、これにつき右の割合により過失相殺をすれば(過失相殺をなす場合には主張および証拠上明らかになつた加害者側より任意に弁済された額を含めた総損害額についてなすべきである。そうでなければ、任意に多額の弁済をなした者ほど不利益となり公平ではない)、合計金六、七五八、七四六円となり、右の葬儀費用等は各原告らにおいて平等に負担すべきものと解され、また原告らの相続分は前記第三の二記載の事情から各六分の一となるので、各原告らの損害金は次のとおりとなる。
葬儀費用等 各金 三二、九〇〇円
相続分 各金七二〇、二二四円
慰藉料
原告典子、同正明
各金 四二〇、〇〇〇円
その余の原告ら
各金 三五〇、〇〇〇円
しかして、原告らが自賠責保険金として金三、〇〇〇、〇〇〇円の支払いを受けた事実は当事者間に争いがなく、右の相続分に応じて各金五〇〇、〇〇〇円づつ原告らの右損害金に充当されたものとみるべきであり、前記葬儀費用等についても同様であるから、差し引かれるべき額は各原告につき各金五四七、〇〇〇円となる。
四、相殺
被告会社は、本件事故の際、事故車が亡ヨシ子の自転車に衝突したために破損し、その修理代に金二八、一〇〇円を要したので、亡ヨシ子の過失割合に応じて損害賠償請求権を有するので、これを自働債権とし、亡ヨシ子の相続人らの本訴請求債権を受働債権として対等額において相殺すべきであると主張し、証人海岡敏行の証言によれば、本件事故によつて事故車に主張の如き、修理代を要した事実は認められ、また、亡ヨシ子にも道路横断の際の左側の安全不確認の不注意のあつたことが推認され、三割の過失相殺をなすのが相当であることは前記説示のとおりであるが、本件事故は貨物自動車と足踏自転車との衝突事故であり、自動車側の運転者訴外海岡に前方不注意、速度違反の大きな過失のあつたことは前記認定のとおりであり、被害者側にも多少の落度があつたため、これを斟酌して被害者側の損害額認定の上で公平の見地から過失相殺の法理を適用し損害額を減額させることは当然といえども、被害者に何らかの不注意のあつたそのことを捉えて直ちに不法行為における過失があつたものと速断することは許されないものと考える。自動車どうしのいわゆる出合頭の衝突事故の場合のように事故の態様、過失の内容等から一方の不法行為のみを重視しこれのみを制裁することが社会通念上不当であることが明らかな場合なら格別(自動車衝突の場合のように同一の事実から生じ双方の運転者の過失によつて双方に損害が発生した場合には相殺を禁ずる理由はないものと解する)、本件の如く、右にみたように過失(不注意)の内容も程度も著しく異り、他方は人命を失い他方は修理費金二八、一〇〇円程度の自動車の破損というように生じた結果の相違もはなはだしいような場合には、被告(加害者)側に損害賠償請求権が発生しないものと考えるのが相当である。よつて、被告らの相殺の抗弁を採用しない。
なお被告らは葬儀費用金一八二、〇〇〇円についても相殺の主張をするが、右は、前記のように本訴請求外の損害金として支払われたもので、原告らの損害額を認定するうえで考慮しているから、このうえ相殺をなすことはできない。
(吉崎直弥)