大阪地方裁判所 昭和45年(ワ)5037号 判決 1972年3月09日
原告
福田政義
代理人
中務嗣治郎
関口澄男
被告
山田二郎
被告
多内恒雄
主文
被告らは、各自原告に対し、金二、一四〇、六七三円およびこれに対する被告山田二郎は昭和四五年一〇月二日から被告多内恒雄は同四六年六月一一日からいずれも支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを一〇分し、その四を原告の負担とし、その六を被告らの負担とする。
この判決は原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。但し被告らが各金八〇〇、〇〇〇円の担保を供するときはその被告は右仮執行を免れることができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
(原告)
一、被告らは、各自原告に対し、金三、五三九、四八一円およびこれに対する本訴状送達の翌日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
二、訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決および仮執行の宣言。
(被告山田)
一、原告の請求を棄却する。
との判決。
第二 請求の原因
一、事故
原告は、次の交通事故により傷害を受けた。
(一) 日時 昭和四四年六月一六日午後一時一〇分ごろ
(二) 場所 守口市東町二丁目六番地先道路上
(三) 加害車 小型貨物自動車
右運転者 被告多内恒雄(西進中)
(四) 被害者 原告、(佇立)
(三) 態様 原告が道路左側に軽四輪車を停車させ、パンク修理中、加害車に衝突、轢過された。
(六) 膀胱破裂、第五腰椎横突起骨折、骨盤骨折、左第一二肋骨骨折、右大腿部打撲傷
(七) 事故発生日より昭和四四年九月二〇日まで入院、招和四五年六月九日まで通院
現在、右大腿上外側部の知覚鈍麻、尿路狭窄、膀胱炎があり右は労災補償保険級制一二級に該当する。
二、責任原因
(一) 運行供用者責任
被告山田は、加害車を所有し、自己のため運行の用に供していた。同人は山根某に加害車を使用させ、同訴外人は被告多内に更に使用を許していた。
(二) 一般不法行為責任
被告多内は飲酒のうえ運転し、前方不注意の過失により本件事故を起した。
三、損害
原告は、本件事故により、次の損害を蒙つた。
(一) 療養費 一、〇六〇、六一一円
(昭和四四年分)
野川病院入院費 四六六、一三一円
松下病院 〃 三八〇、六二九円
同病院通院費 八三、〇二四円
通院に要した交通費 四、〇八〇円
通信費 三、二九〇円
永代、雑費 一一、四六〇円
入院付添費 五〇、〇一〇円
(昭和四五年分)
医療費 五九、八一七円
通院交通費 一、八九〇円
通信費、診断書代 二八〇円
(二) 得べかりし利益の損失
一、〇七八、八七〇円
職業 酒類小売商
1、事故後昭和四五年八月三一日まで、六名の臨時の従業員を順次使用して営業を継続した。この間合計六七一、六〇〇円の給料を支給し、一日二食(二五〇円)の食費四八五日分合計一二一、二五〇円を支出したのでこれを右期間の損害として請求する。
2、昭和四五年九月一日以降少なくとも一ケ月三、〇〇〇円の割合による収入減があり向後一〇年間は継続する。
三、〇〇〇円×一二日×七、九四五=二八六、〇二〇円
(三) 慰藉料 一、五〇〇、〇〇〇円
事故の態様、受傷の程度、治療の経過、後遺症の程度等より原告の精神的苦痛を慰藉するには右金額が相当である。
(四) 弁護士費用 四五〇、〇〇〇円
(五) 損益相殺 自賠責保険より
五〇〇、〇〇〇円
四、よつて原告は、被告らに対し、前記三(一)ないし(四)の合計金四、〇三九、四八一円から前記三(五)の金五〇〇、〇〇〇円を控除した金三、五三九、四八一円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第三、被告らの答弁
(被告山田)
請求原因第一項は不知、同第二項中、被告が事故車の所有者であることは認めるが、山根某に事故車を貸した事実はない。同第三項は原告が自賠責保険から五〇万円の支給を受けた事実は認めるが、その余は不知。
(被告多内)
公示送達による呼出を受けたが、本件口頭弁論期日に出頭しない。
第四、証拠<略>
理由
一、原告は次のとおりの交通事故傷害を受けた。
日時、昭和四四年六月一六日午後一時一〇分頃
場所、守口市大日東町二二六番地先国道一号線
加害車、小型貨物三輪車(大阪六す五九七一号)
右運転者、被告多内恒雄
被害者、原告、(佇立)
態様、原告は道路左側に軽四輪自動車(六大阪こ一一二六号)を停車させ、パンク修理をしていた際、たまたま右車輛の右側(道路側)に佇立した折、後方から運行して来た被告多内運転の加害車が至近距離を通過して原告に接触、その場に転倒させ、左後輪で同人を轢過した
傷害、このため原告は膀胱破裂、第五腰椎突起骨折、骨盤骨折、左第一二肋骨々折、右大腿部打撲挫傷の傷害を受け、
治療経過、昭和四四年六月一六日から同年七月二一日まで三六日間野川病院に入院、右同日より同年九月二〇日まで松下病院に六二日間入院の後、右同月二一日から昭和四五年六月九日まで二六二日間(実日数三日)通院したが、右大腿上外側部知覚鈍麻、尿路狭窄膀胱炎を後遺して治療打切りとなつた(労災補償保険級別一二級)(但し、証拠上その後の通院が認められる。)
(以上は、<証拠>により認める)
二、被告多内の過失
右事故は被告多内の前方不注視の過失により発生したものである。
<証拠略>
三、被告山田の運行供用者責任
訴外根井次男は本件事故当時清水産業の社員であつたが、同社の材料を動すため、訴外中井登を同伴して、かねて知合の被告山田から同人所有の本件事故車を借り受けるため昭和四四年六月一五日午後二時頃同人宅を訪れたが、同人が不在であることはあらかじめ承知していたので、家人が現れなかつたが玄関から手の届く机の中から、かねてそこにキーが保管されていたのを知つていたので、キーを取り出し、これを右中井に手渡して同人をして資材を運搬させた後、本件事故車を同人に預けたままにしていた。
一方、訴外山根厳は当時守口市藤田町で「文化住宅の基礎工事をしていたが被告多内が仕事がないと訪ねて来たので一日三五〇〇円の約束で右仕事に手伝わせることとなつたが、翌一六日午前九時頃、パネル運搬の必要から本件事故車の借用を思い立ち、被告山田方を訪れたが、同人が不在であり車もなかつたので、前記大工の中井方を訪れたところ、本件事故車があつたので、一寸借りるなあと声をかけて同人から借り受け、同日午前一〇時半頃にパネルを運搬して基礎工事現場に至つたが本件事故車をキーを入れて附近に置いたまま他の工事現場に出向いたところ、被告多内は同日午前一一時四五分頃本件事故車を運転して附近の自宅に帰り、日本酒(二級)をコップ八分目位を一気に呑みほして再び事故車を運転して工事現場に戻つたが誰もいなかつたので頭でも冷そうと考えて本件事故車を運転中本件事故を発生させた。
ところで、被告山田は当時材木商をしていたが、桜井次男とはかつて大阪市旭区の親和木材に奉公していた頃から同じ店員として知り合つており、同人が清水産業に勤めるようになつてからは同社と被告山田との間に、取引があつたことから再び交際をするようになりこれまでも本件事故車を使用させていたことがあり、又訴外中井、同山田巌はいずれも大工、建築業として、被告山田と取引があり、同じく本件事故車をこれまで使用していたことがある。
被告山田は自宅敷地内の材木置場横田空地に車庫をつくつて本件事故車を保管していたが昭和四四年六月一五日一六日は本件事故車のキーのうち一ケは自ら所持して、一ケは自宅の机の引出しに入れたまま、所用で鳥取まで帰つていたことが認められる。<証拠略>。
以上の事実によれば、被告多内は訴外山根巌は勿論、被告山田にも無断で本件事故車を運転中、本件事故を発生させたものであるが、被告山田が本件事故車のキーの保管につき充分配慮しなかつたため本件事故車の利用は可能となつたと云うべきである。
してみると、被告山田は運行供用者としての責任を免れることはできないものと云わざるを得ない。
四、損害
1、野川病院入院費 四六六、一三一円
(<証拠略>)
2、松下病院入院費 三八〇、六二九円
(<証拠略>)
3、松下病院通院治療費 一四九、〇八七円
(<証拠略>)
4、右通院費 五、九七〇円
(<証拠略>)
5、氷代 九、七五〇円
(<証拠略>)
6、附添費 五〇、〇一〇円
(<証拠略>)
7、雑費、通信費、診断料 五、二八〇円
(<証拠略>)
8、臨時使用人雇入費用 五九五、五〇〇円
昭和四四年六月二〇日より同四五年七月二一日までの三九七日間一日一五〇〇円の割合による右金額を本件事故と相当因果関係あるものと認める。
(<証拠略>)
9、得べかりし利益の損失 九八、三一六円
何らの立証もないから
原告の収入は明かでないが、賃金センサスによれば、一円の収入は一〇二、二八三円と認められる。してみると後遺症からして原告主張の如く一ケ月三、〇〇〇円の減収は肯認できるところである。但し、継続年数は三年間と認めるのが相当である。
10、慰藉料 六九〇、〇〇〇円
本件事故の態様、受傷の部位程度、治療の経過、後遺症の程度、その他諸般の事情を考慮して右金額を相当とする。
11、弁護士費用 一九〇、〇〇〇円
右金額をもつて、本件事故と相当因果関係ある損害と認める。
12、損害相殺 五〇〇、〇〇〇円
原告が自賠責保険より右金額を受領し、これを治療費に充当したことが認められる。
(原告本人尋問)
五、被告らは各自原告に対し二、一四〇、六七三円及びこれに対する本件訴状送達の翌日であることが本件記録上明かな被告山田は昭和四五年一〇月三日から、被告多内は同四六年六月一一日から各支払ずみまで民法所定五分の割合による遅延損害金の支払をなす義務あるものと云うべく、原告の本訴請求は右の限度で理由があるからこれを認容し、その余は、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条一項を、仮執行の宣言及びその免脱につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。 (菅納一郎)