大阪地方裁判所 昭和45年(行ウ)71号 判決 1979年3月29日
原告
鍋島定吉
右訴訟代理人
奥中克治
梅本敬一
被告
東成税務署長
砂本寿夫
右指定代理人
岡崎真喜次
主文
被告が原告の昭和四二年分所得税について昭和四四年七月三日付でした更正処分及び加算税賦課決定処分は、課税総所得金額一二一二万七〇〇〇円、所得税額五二三万八六〇〇円、重加算税額一五七万一四〇〇円を超える部分を取消す。
被告が原告の昭和四三年分所得税について昭和四四年七月三日付でした更正処分及び加算税賦課決定処分は、課税総所得金額四四九万円、所得税額一三八万九八〇〇円、過少申告加算税〇円、重加算税四一万六七〇〇円を超える部分を取消す。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は四分し、その三を原告の負担、その余を被告の負担とする。
事実《省略》
理由
一〜五<省略>
六所得の種類について
(一) <証拠>によれば、次の事実を認めることができ、この認定を覆すに足る証拠は存しない。
1 本件中村町土地は、原告が昭和四〇年一月に八六四万八〇〇〇円を支出して取得したものである。原告は右の取得代金を支払うため、昭和三九年一二月一八日堺市信用金庫より一〇〇〇万円を借受けたが、右借受金は右土地の売却まで返済されず、原告はこの間に利息計二六九万七八四〇円を支払つた。原告は右土地を売却するまでこれを使用せず、管理費を支出して他人にこれを管理させていた。原告は昭和四二年中に右土地の一部宛を二名に代金計一九八〇万一六〇〇円で売却し、これを分筆して買主に移転登記をした。
2 本件浜寺船尾町土地は、原告が前記四(一)に認定のとおり取得したものである。原告は右土地の取得や維持のための資金を他から借入れることはなかつた。原告は、山崎武市に対して有していた債権を回収することと、右土地と地上建物を賃貸して賃料を得ることを目的として、右土地を取得したものであつた。原告は右土地と地上建物を取得後、これを株式会社浜寺中央マーケツト(原告が代表取締役)に賃貸し、右会社はこれを市場用建物として商人に賃貸していた。しかし、昭和四〇年代になつてから右市場の買物客が減少したので、右会社は右建物賃貸を取止めてこれを原告に返還した。原告は既に老朽化し残存価値の殆んどなくなつていた右建物を約八三平方メートルの部分を除いて取毀して更地とした。原告は不動産業者の仲介により昭和四二、四三年中に右土地を一部分宛売却して代金計一七〇八万六九〇〇円の収入を得、これを分筆して買主に移転登記をした。
3 本件深井清水町土地は、原告が昭和四〇年二月に三四八万円を支出して取得したものである。原告は右の取得代金を支払うため、昭和四〇年四月二一日堺市信用金庫より四〇〇万円を借り受け、その利息計四一万九五二〇円を支払つた。原告は右土地を売却するまでこれを使用せず、管理費を支出して他人にこれを管理させていた。原告は昭和四二年に右土地の一部宛を二名に代金計四一三万五〇〇円で売却し、これを分筆して買主に移転登記をした。
4 本件三味田町土地は、原告が昭和四〇年二月に二〇六万四〇三〇円を支出して取得したものである。原告は右の取得の際は、これを分割してそれぞれに建物を建築し、土地付住宅として分譲する予定であつた。原告は右の取得代金とその後の整地費等を支払うため、昭和三九年一二月より昭和四三年五月までの間に堺市信用金庫より一八〇〇万円(借り替え分を含めると二三〇〇万円)を借り受けたが、右借受金は後記の右土地一部売却まで返済されず、原告はこの間に利息計六二四万一六三八円を支払つた。原告は右土地を宅地として良好なものにするため、ダンプカーを雇い、土砂を搬入して再整地をし、そのための費用として四三八万円を支払つた。原告は右土地の取得後、後記の一部売却までの間これを使用したことはなく、管理費一四六万六一六〇円を支出して他人にこれを管理させていた。原告は昭和四三年に右土地の一部を代金三九一万八三七二円で売却して、これを分筆のうえ買主に移転登記をした。
5 右のほかにも、原告は昭和四〇年四月には、松原市丹南町所在の農地四三三五平方メートルを宅地に地目変更することを条件に代金二二〇〇万円を支出して取得したが、その後これを利用しないまま、実地測量を行つたうえ昭和四四年に計一七名に一部宛を代金計六五〇〇万円で売却した。原告は昭和四〇年一二月には、堺市南田出井町所在の土地三四〇平方メートルを代金九二四万円を支出して取得し、その後これを利用しないままで所有して来たが、昭和四八年にこれを売却した。また、原告は昭和四三年四月には堺市日置荘田中町所在の土地二二七〇平方メートルを代金二一九九万四八八〇円を支出して取得したが、その後はこれを利用しないままで所有している。これら三箇所の土地の取得代金の殆んどは金融機関からの借入れによりまかなわれた。
(二) 本件中村町、深井清水町及び三味田町土地については、右(一)認定のとおり、原告はこれらの土地を取得するについて金融機関から多額の金員を借入れて利息を支払い、また他人に管理費を支払つている。また、原告は本件三味田町土地については整地をしてその費用を支払いその価値の増加を計つている。ところが、原告はこれらの土地を売却までの間利用することなく、取得後二、三年でこれを売却してしまつている。そして、原告は他にも昭和四〇年ころ借入金をもつて土地を購入しながら、のちに売却するまでこれを利用していない。これらの事実を考慮すると、原告の本件中村町、深井清水町、三味田町土地の取得及び売却は、継続的に利益を得る目的で業としてされたものであつて、これによる所得は譲渡所得には該当せず、事業所得に該当すると解すべきである。
(三) しかしながら、本件浜寺船尾町土地については、前記(一)認定のとおり、原告がこれを取得した目的は債権回収と賃料収受を目的としたものであり、現に売却まで約八年間は右土地上の建物を市場として他に賃貸して賃料を得て来たものである。そして原告がこれを売却した動機も、市場の買物客が減少したことにある。また、原告は右土地取得のため資金を他から借入れることはなかつた。これらの事実によると右土地の売却による所得は、事業所得又は雑所得に該当せず、譲渡所得に該当すると解すべきである。
もつとも、原告は右土地上の市場用建物の大部分を取毀してから右土地を売却しているが、右建物は既に老朽化して価値の殆んどなくなつていたものであり、また原告は右土地を一部宛売却しているが、土地の価値を増加させるため造成工事をしたことも認められないから、これらの事実をもつて右売却による所得が譲渡所得に該当しないものと解することはできない。他に右所得が事業所得又は雑所得に該当すると解せしめるに足る事実は本件全証拠によるも認めることはできない。
七総所得金額及び所得税額について
以上の判断の数額を整理して示すと、別表第四の一、二、第五の一、二、第六の当裁判所の判断の欄に記載のとおりとなり、これを基礎にして総所得金額、所得税額を算出すると別表第七に示すとおりとなる。
そうすると、被告のした昭和四二年分の所得税更正処分は、総所得金額一二一二万七〇〇〇円、所得税額五二三万八六〇〇円の限度で、昭和四三年分所得税更正処分は、総所得金額四四九万〇〇〇〇円、所得税額一三八万九八〇〇円の限度で適法であるが、これを超える部分は違法である。<以下、省略>
(石川恭 井関正裕 西尾進)