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大阪地方裁判所 昭和45年(行ウ)8号 判決 1974年2月08日

原告 株式会社青雲堂印刷所

被告 北税務署長

訴訟代理人 竹原俊一 外四名

主文

一  原告の請求はいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告)

一  被告が原告に対し昭和四四年六月三〇日付でなした原告の(一)昭和四〇年九月一日から昭和四一年八月三一日までの事業年度の法人税について、所得金額を三、〇一八、〇六五円、法人税額を八九一、四〇〇円とする更正のうち、所得金額につき二、二〇二、四八五円を超える部分、法人税額につき所得金額を二、二〇二、四八五円として算定した税額を超える部分および過少申告加算税一二、九〇〇円の賦課決定、(二)昭和四一年九月一日から昭和四二年八月三一日までの事業年度の法人税について、所得金額を四、〇九五、一三六円、法人税額を一、二二三、二〇〇円とする更正のうち、所得金額につき三、九八六、〇二六円を超える部分、法人税額につき所得金額を三、九八六、〇二六円として算定した税額を超える部分をいずれも取消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

旨の判決

(被告)

主文同旨の判決

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、青色申告の承認を受けた法人であるが、被告に対し、(一)昭和四一年一〇月三一日、昭和四〇年九月一日より昭和四一年八月三一日までの事業年度(以下昭和四〇年度という)の法人税につき、所得金額二、一四二、四八五円、法人税額六三二、〇〇〇円として、(二)昭和四二年一〇月三〇日、昭和四一年九月一日より昭和四二年八月三一日までの事業年度(以下昭和四一年度という。)の法人税につき、所得金額三、八九七、九二六円、法人税額一、一八二、五〇〇円として確定申告をしたところ、被告は昭和四四年六月三〇日付で、昭和四〇年度の法人税につき、所得金額三、〇一八、〇六五円、法人税額八九一、四〇〇円と更正し、過少申告加算税を一二、九〇〇円とする賦課決定をなし、昭和四一年度の法人税につき、所得金額四、〇九五、一三六円、法人税額一、二二三、二〇〇円と更正をなした。原告は昭和四四年七月二九日大阪国税局長に対し右更正処分および賦課決定について審査請求をなしたところ、同局長は同年一〇月三〇日付でいずれも棄却する旨の裁決をなし、同年一一月一五日これを原告に通知した。

2  しかしながら、原告の昭和四〇年度の所得金額は二、二〇二、四八五円、昭和四一年度の所得金額は三、九八六、〇二六円であるから、被告の更正処分および過少申告加算税の賦課決定はいずれも違法であつて、ここにその取消を求める。

二  請求原因に対する被告の認否および主張

(認否)

請求原因1の事実は認め、同2は争う。

(主張)

原告の本件各年度における所得は、それぞれ本件更正処分のとおりである。(別表参照)

1 昭和四〇年度

原告は確定申告において貸倒金八一五、五八〇円、旅費交通費六〇、〇〇〇円を計上しているが、いずれも否認されるべきである。

右のうち、貸倒金についていえば、

(一) 原告は日乃出電工株式会社(以下訴外会社という)に対して、一、二八五、七七〇円の売掛債権を有していたのであるが、訴外会社は昭和四〇年一一月一六日会社更生手続開始決定を受け、昭和四一年六月一日更生計画認可の決定がなされた。同決定により原告は、右売掛債権のうち、三七二、八八五円について分割弁済を受け、九〇〇、〇〇〇円については、訴外会社の発行する新株式一八〇株(一株の額面金額五、〇〇〇円)を取得し、残額一二、八八五円については免除することとした。

(二) 原告は本件年度の決算において、右九〇〇、〇〇〇円と引換に取得した株式は価値のないものとして備忘価額一八〇円(一株につき一円)を付し、右売掛債権のうち九〇〇、〇〇〇円と一八〇円との差額八九九、八二〇円を貸倒金として処理した。

(三) ところで、更生債権者がその権利に代えて更生会社の新株式を取得する関係は、これを実質的にみれば更生債権を現物出資して新株式を取得する関係にあるものというべきである。

そして右のように更正債権について新株を発行する場合にも資本充実の原則の適用があることはいうまでもないから、額面株式はその額面株式に相当する実質的価値を有する更正債権に対してのみ与えられなければならない。

これを本件についてみると、原告が訴外会社に対して有していた更生債権のうち、九〇〇、〇〇〇円については、額面五、〇〇〇円の株式一八〇株に切替えられたのであるから、右更生債権は右株式の額面合計額つまり九〇〇、〇〇〇円に相当する実質的価値を有していることになる。そこで、原告の取得した右株式の取得価額は法人税法施行令三八条一項一号により右更生債権の額すなわち九〇〇、〇〇〇円となるのである。

(四) 仮に原告の右株式の取得が代物弁済によるものとすれば、右株式の取得価額は法人税法施行令三八条一項五号により右株式を取得した時における価額、すなわち時価によつて算定するのが相当である。

ところで本件訴外会社の株式は証券取引所に上場されていないのはもとより、店頭取引もされていないから、取引価格によつて時価を算定することは不可能である。このような場合、株式の時価の算定には、類似業種比準法、収益還元法、配当還元法、純資産法などの方法が考えられるが、以下に述べるとおり、純資産法によるのが最も合理的である。

(1)  類似業種比準法は、当該会社と事業内容、営業規模等の面で類似する上場会社、または気配相場のある会社の株価に比準して一株当りの価格を算定する方法であるが、とくに非上場、非店頭株式については、当該株式が上場または店頭株式と異り、多かれ少なかれ規制された不特定多数の当事者間における一定の取引市場がなく、取引件数もきわめて僅少であるうえ、個々の取引の当事者の主観的特殊事情によつて取引価格の決定が左右されるという特殊性があるし、まして更生手続中の会社の株式ともなれば、類似会社または類似業種の選定に著しい困難を伴うこと、また、市場性のない株式を市場性のある株式と同視するという危険性があることなどいくつかの問題点が存するので、本件株式の時価の算定方法としては、合理的かつ妥当な方法とは称しがたいといわなければならない。

(2)  次に、収益還元法は、当該会社の株式の一株当りについて将来各期に期待される利益を一定の適切な利廻りで還元計算して、元本としての株式の価格を算定する方法であるが、比較的経営規模の小さい会社においては、利益の多くが会社の内部に留保され、利益の増加が直ちに株主への配当の増加につながることが少ないことを考えると、会社の利益のみを基準として株式の評価をすることは、本件株式のように非支配株主(法人税法施行令三四条三項)が所有する市場性のない株式の評価には不適当である。また、訴外会社は、当時更生計画が認可されたばかりで未だその再建が確実視されず、収益が安定的とはいえない状態にあつたので、このような状態にある会社の株価を算定するには、右方法は適しないものといえる。したがつて、収益還元法は、本件株式の時価の算定方法としては、妥当ではないといわなければならない。

(3)  さらに、配当還元法は、当該会社の株式の一株当りについて将来各期に期待される配当金額を一定の還元率(割引率)で還元して元本である株式の価格を算定する方法であるが、訴外会社は、更生計画により株式の配当を全く停止して利益の内部留保を多くしようと企図しているところ、このような場合に配当還元法を適用することは、株価の他の構成要素である純資産、利益等を全く無視することとなり、株式の適正価格から遠く離れる結果となることは明らかである。

かりに配当還元法によるとしても、訴外会社が将来順調に更生して配当可能の状態に至つた段階後の配当政策と配当能力についてもできる限り正確な見通しをつけ、それを基礎に修正を加えて株式の時価を算定するのでなければ、精密な算定方法とはいえないと解すべきである。

しかし、そのためには訴外会社の将来についてきわめて詳細な経営学的な検討が必要となつてくるが、更生計画が認可されて間もない段階においてこのような算定方法により正確な株価を算定することは、実際上ほとんど不可能に近いので、右評価方法は適切とはいえない。

また、会社更生法の適用を受けた訴外会社が商法二九〇条による配当可能な経営状態であつても(なお、訴外会社は、昭和四四年五月二一日より昭和四五年五月二〇日までの第二四期決算において配当可能であつた。)、同会社の更生計画第五章第二項に「更生手続中は株主に対しては配当しない」と明記されている本件のような場合には、配当還元法を用いて株式の時価を評価すること自体無意味なことである。

(4)  一方、純資産法は、当該会社の純資産額を発行済株式数で除する方法で、これには純資産の一株当り簿価を時価とみなすもの(被告が本件株式の評価方法として採用するもの)と、解散時における純財産の処分価値を想定してそれを基準とするものとの二つの方法が考えられるが、このうち後者のいわゆる解散価値法は、なんらかの事情で近い将来解散が予定されているような会社の株価の算定には適していないとはいいえても、ともかく更生計画が認可されその達成を目指して会社の経営を継続していこうとしている訴外会社の株価の算定方法としては、必ずしも妥当とはいいがたい。

訴外会社は更生計画を遂行するに際して、それまでの資本金九、九五〇、〇〇〇円を四、九七五、〇〇〇円に減資すると同時に、株式の一株当り額面を五〇円から五、〇〇〇円に変更し、前記更生計画認可決定と同時に一般更生債権者に対して三三、四五〇、〇〇〇円の割当増資をし、新しく資本金を三八、四二五、〇〇〇円とした。この割当増資により、訴外会社は非同族会社(法人税法二条参照)となり、現在にいたつているのである。

このように、訴外会社は更生計画認可決定を境に株主構成がいちじるしく変化したものであり、割当増資により訴外会社の株主となつた原告を含む一般更生債権者は、自からの意思にもとづいて訴外会社の経営に積極的に参加したものではなく、やむなく債権と同額の株式を与えられたものであつて、これはむしろ訴外会社が非同族会社ではあつても、訴外会社の会社財産に対する持分として株式を取得したものであるということができる。

以上のような原告が本件株式を取得するにいたつた経緯、本件株式の性格のほか、訴外会社が更生手続中の中小会社であり、かつ、非上場、非店頭会社であること等を総合考慮すれば、本件株価の評価方法としては純資産法によるのが最も合理的、かつ妥当の方法というべきである。

ところで訴外会社の更生計画認可決定日(昭和四一年六月一日)における純資産額は、同社の適正に作成した同日現在の貸借対照表に計上された評価額によれば、三四、八三〇、五五六円であり、右同日における発行済株式総数は、七、六八五株であるから、一株当たりの純資産額は四、五三二円となる。

内訳

資産の部

流動資産 46,388,084円

固定資産 24,650,546円 資産総額 71,038,630円

負債の部

流動負債 12,191,081円

固定負債 23,866,993円

引当金    150,000円 負債総額 36,208,074円

差引純資産額 34,830,556円

34,830,556円(純資産額)÷ 7,685株(発行済株式総数)= 4,532円(一株当りの純資産額)

したがつて、右株式の時価は一株当り四、五三二円ということになり、原告の右株式一八〇株の取得価額は八一五、七六〇円というべきであるから、原告が貸倒金として処理した八九九、八二〇円のうち、右取得価額八一五、七六〇円から原告が右株式の価額として付した一八〇円を控除した八一五、五八〇円相当額は否認されるべきである。

2 昭和四一年度

(一) 原告は、確定申告において修繕費科目にテレビおよび冷蔵庫の購入代金九三、五〇〇円を計上しているが、否認されるべきである。

(二) 原告は昭和四二年七月一二日前記昭和四〇年度において取得した訴外会社の株式一八〇株を一株一〇円計一、八〇〇円で原告会社代表取締役田畑順治に譲渡し、雑収入として一、六二〇円(譲渡価額一、八〇〇円から株式の取得価額一八〇円を控除した額)を計上した。

ところで右株式の譲渡日直近の訴外会社の昭和四一年六月二日より昭和四二年五月二〇日に至る事業年度末における純資産額は以下のとおり四二、七一七、九五一円であるから、右純資産額を発行済株式総数七、六八五株で除して得た一株当りの純資産額五、五五八円が右株式一株当りの時価というべきである。

内訳

資産の部

流動資産 40,338,171円

固定資産 22,442,305円

繰延資産   410,000円

以上貸借対照表計上額

貸借対照表計上漏資産 1,143,952円

資産総額  73,334,428円

負債の部

流動負債  8,540,298円

固定負債 21,376,179円

引当金    700,000円 負債総額 30,616,477円

差引純資産額 42,717,951円

(訴外会社の昭和四二年五月二〇日現在の貸借対照表に計上される評価額による)

したがつて、原告が右田畑順治に譲渡した株式一八〇株の時価は、一、〇〇〇、四四〇円(五、五五八円×一八〇株)となるので、原告の右株式の譲渡価額一、八〇〇円との差額九九八、六四〇円を田畑順治に対する賞与と認定した被告の本件更正処分には何ら違法なところはない。

(三) 前記訴外会社の譲渡原価八一五、五八〇円が損金として減算されるものである。

(四) 昭和四〇年度の本件更正処分によつて昭和四一年度の損金に計上されるべき事業税に不足が生じたので、未納事業税七九、三五〇円が損金として算入されるべきものである。

三  被告の主張に対する原告の認否および反論

(認否)

1 昭和四〇年度

(一) 原告が昭和四〇年度の確定申告において貸倒金八一五、五八〇円、旅費交通費六〇、〇〇〇円を計上していること、右のうち旅費交通費六〇、〇〇〇円が架空計上であることは認める。

(二) 被告の主張(一)、(二)の事実はいずれも認める。

(三) 同(四)(4) のうち、負債総額、発行総額、発行済株式数が被告主張のとおりであることは認める。

2 昭和四一年度

(一) 被告の主張(一)の事実は認める。

(二) 同(二)のうち、原告が昭和四〇年度において取得した訴外会社の株式一八〇株を一株一〇円計一、八〇〇円で原告会社代表取締役田畑順治に譲渡し、雑収入として一、六二〇円を計上した事実、負債総額および発行済株式総数が被告主張のとおりである事実は認める。

(三) 同(三)、(四)はいずれも否認する。

(反論)

1 債権の弁済に代えて取得した更生会社の新株についてはその取得のときにおける時価を取得価額とすることができる(昭和四四年五月一日制定の法人税基本通達一四-三-六 )。そして右の場合には株式の交付の基礎とされた債権の額と右取扱いにより取得価額とした金額との差額に相当する金額は貸倒れになつたものとして取り扱われ、この取り扱いによる場合において、その新株の価額がないと認められるときは、備忘価額を付けるべきであるとされている。

そして右時価とは、その財産の清算を前提とするものであるから、実現しうる価額すなわち譲渡可能な価額でなければならないが、訴外会社のように零細でしかも更生計画が定まつた直後の会社の株式については、その譲渡は到底不可能であるから、その評価額はゼロということになる。また、株式評価の一方法である配当還元方式で評価するとしても、本件株式は、訴外会社の更生計画に明記されているとおり、更生手続中は配当されないのであるから、一方収益還元方式によつても訴外会社に近い将来利益を期待することはできないから、いずれにしろ右株式の評価はゼロとならざるをえない。

したがつて、本件株式の価額はないものとして、備忘価額を付して貸倒の処理をした原告の確定申告は正当である。

2 株式は一面会社の資産に対する持分としての性格を有していることは否定し得ない。しかしながら、清算中の会社であれば株主は近い将来会社財産の分配という形で、その持分に応じて会社の資産の一部を現実に取得することが予想されるけれども、会社が営業活動を将来にわたつて継続しようとしている場合(特に本件のように、会社更生手続によつて、管財人が作成し、債権者が賛同し、裁判所が妥当と認めて認可した長期的な展望の更生計画に基づき、裁判所や債権者の監督のもとに管財人が事業を行なうような場合)には、右のような持分は観念的な形態にとどまるのであつて、株主の経済的欲望はもつぱら利益配当請求権によつて満足させるほかなく、あるいは株式を他に有償で譲渡して資金を回収する以外に方法がないのである。さらに、会社の資産が増加しても、これが直ちに株主の利益に還元されるわけではなく、会社の経済的基盤を強固にするため、法定あるいは任意準備金その他の名目の下に一定の額まであるいは無制限に会社内部に留保されるのである(特に本件では、前記のとおり「更生手続中は株主に対して配当しない」と更生計画に明記されている。)このような場合に、純資産価額方式で株式の時価を評価すれば、それが有する客観的交換価値より著しく高額になる場合が往々にして生ずるのであつて、到底妥当な評価方法とはいいえない。純資産価額方式は、清算中の会社とか、近い将来に解散が予想されるような特殊な場合にのみ妥当する方法であるというべきである。

特に本件のように、長期的な見通しに基づく更生計画による更生会社において、更生計画認可のときより純資産が増加している場合(被告の評価によれば、訴外会社の昭和四一年六月一日における株価は四、五三二円、昭和四二年五月二〇日における株価は五、五五八円である。なお無配の会社について、一年もしない間に額面五、〇〇O円の株が、一、〇二六円も値上りしたということ自体不合理ではある。)には、清算はあり得ないのであるから、清算を前提とした純資産価額方式による株式の評価は妥当とはいい難い。

さらに、いわゆる小会社の同族株主である場合には、会社財産との結合が強く、それだけ株式の会社財産に対する持分的性格が濃いといえようが、本件の場合のように、単に原告の取引先であつたに過ぎない訴外会社(しかも業種は印刷業と電気機器業であり事業的関連は全くない。)の、しかも、ごくわずかの株式(七、六八五株中の一八〇株)をもらつたとしても、到底会社財産に対する持分的性格を有するとはいえないのである(ちなみに相続税財産評価に関する基本通達が、小会社同族株式の場合には「純資産価額方式」をとりながら、本件のような小会社非同族株式については「配当還元方式」を採つていることは、このことを裏付けるものである)。

また、純資産価額方式は、会社の持分としての性格に注目し、現在清算されたと仮定した場合にその残余財産分配請求権を評価しようとするものである。そうすれば、純資産の算定にあたつては、今会社が解散されたものと仮定して、純財産の処分価値を基準とすべきものであり、一方、帳簿価額が現実の処分可能な価額を上まわることは明らかであるから、この点からしても、帳簿価額を基準にした被告の評価は正当とは言い得ない。

3 昭和四一年六月二二日、大阪地方裁判所は訴外会社取締役の申請により、訴外会社の端株を一株金一、〇〇〇円で売却することを許可している。右は、どちらかといえば端株を有する株主の立場を考慮してなされているものであるから、時価が右価額を上回ることはあり得ないというべきである。

4 仮に会社の純資産を株価決定の一要因とみることが正しいとしても、同時に他の方法による評価もあわせて総合的に考察のうえ、株価が決定されるべきである。

第三証拠<省略>

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで本件各係争年度における原告の所得金額について判断する。

1  昭和四〇年度

(一)  原告が昭和四〇年度の確定申告において貸倒金八一五、五八〇円、旅費交通費六〇、〇〇〇円を計上していること、右のうち旅費交通費六〇、〇〇〇円が架空計上であることは当事者間に争いがない。

(二)  そこで原告の右貸倒の会計処理について検討する。

(1)  被告の主張1(一)、(二)の各事実は当事者間に争いがない。

(2)  更生債権者がその有する更生債権につき、更生計画の定めるところにより、あらたに払込みをしないで更生会社の発行する株式を取得した場合、その実質は一面債権の現物出資であるとともに、他面株式をもつてする代物弁済に該るものということができる。

右の場合、更生会社において資本充実の原則の適用があること言を侯たないところであるが、更生債権者の右取得株式の会計処理は、その株式の経済的実体価値によつて適正になされるべきもので、額面価額が直ちに右株式の価値であると速断することができないのは勿論であり、当該新株を取得した時すなわち更生計画認可決定の時における株式の価額をその取得価額とするのが相当である(昭和四四年五月一日制定の法人税基本通達一四-三-六参照)。

そして右にいう株式の時価とはその算定基準時においてその株式が有する客観的交換価値であるということができるが、株式の価額はその会社の収益力、配当率、資産内容、成長性、安定性のほか、当該会社および同種企業の株式市場における人気の高低、浮動株の多寡および株式の市場性の強弱、更には政治、経済、社会状勢の推移とその見通し等数多くの要素が複雑に関連し合つて形成されており、またこれらの要素のなかには個人の主観的思想により左右される事項も多く、真に客観的な株価を算出することは困難なことといわなければならない。上場株式または気配相場のある株式については、取引所において一定の規律に従い定型化された方式で日々大量の取引が反覆されたり、或いは取引の最高最低価格の公表とか売買価格の著しい変動のあつた場合の取引停止などの自己抑制により不当な取引価格が規制されるなどして、市場価格が形成されるから、これによつて当該株式の交換価値を把握することができるものと考えられる。

ところで弁論の全趣旨によれば、本件株式は証券取引所に上場されていない株式であつて気配相場もないものであることが認められる。そして取引相場のない株式の時価の評価は、市場において相場が形成されないので、因難を極めるが、しかし、相場が形成されないということから、直ちに客観的交換価値をもち得ないということはできず、会社の規模、内容、株式の性格等に応じてその評価をすることが可能である。そして取引相場のない株式の時価の評価方法としては、一般にいわゆるI類似会社比率法、II配当還元法、III収益還元法、IV純資産価額法等が考えられる。

(3)  <証拠省略>によれば、訴外会社は更生計画を遂行するに際して確定債権の一部の免除を得るとともに 一般の更生債権のうち七〇パーセントに相当する金額に対しては新たに発行する株式をもつて弁済に代えることとし、従前の資本金九、九五〇、〇〇〇円を、四、九七五、〇〇〇円に減資すると同時に、株式の一株当りの額面金額を五〇円から五、〇〇〇円に変更し、前記の更生計画認可決定と同時に一般の更生債権者に対して三三、四五〇、〇〇〇円の割当増資をなして、新しく資本金を三八、四二五、〇〇〇円とし、法人税法上の非同族会社となり現在に至つているが、なお更生手続中は株主に対しては配当をしないこととしたこと、そして昭和四一年六月一日現在欠損金二二、一八四、八一六円であつたが、昭和四二年五月二〇日一四、二九七、四二一円に減少し、昭和四三年五月二〇日現在八、〇八二、六八一円の、昭和四四年五月二〇日現在六、五四二、一七九円の、昭和四五年五月二〇日現在八、七六六、九三六円の、昭和四六年五月二〇日現在八、一五五、三三三円のそれぞれ当期利益金をあげ、昭和四五年五月二一日から昭和四六年五月二〇日までの事業年度の決算において一株当り五〇〇円の配当(配当率一割)をするようになつたこと、以上の事実を認めることができる。

(4)  類似会社比準法とは、株式市場に株式の上場された会社のうちから、評価すべき株式の発行会社と事業の内容、規模(資産構成、収益状況、資本額)などの類似する会社を選定し、その会社の株式の取引所相場を基とし、両会社の収益力、配当率、純資産額などをそれぞれ比較対照して株価を算出する方法で、これは株価決定の三要素、すなわち支配、投資、投機の面に重点をおくものであるから、一般的に妥当な方法といえるが、その妥当性が発揮される前提として、まず評価対象会社が一定基準以上の会社であつて、比準会社と類似していることが要求され、右前提が満たされれば、正常な営業活動を行ない、営業成績の順調な会社の株式評価に適するものである。

ところで、比較的規模の小さい第二部市場上場会社についても、その資本金、純利益、配当率等の上場基準に多くの規制があり、前記認定によれば、訴外会社が上場会社と比較可能な程度の規模、内容を有するとは未だいえないのみならず、更生計画遂行途上にあつた事実を考えれば、右方式が本件に適切であるとは認められず、訴外会社に類似する上場会社の資料もないから、右方式は採用しない。

(5)  当該会社の一株当りの最近数事業年度の年平均配当額または将来各期に期待される配当額を一定の還元率(割引率)で還元して元本である一株当りの株式の価格を算出する。いわゆる配当還元法は、利廻りが株価決定の重要な要素であるとはいえ、純資産収益等の要素を全く捨象することに一般に難点があり、また還元率の決定にも困難な問題がある。この点は暫く措くとしても、基準となる配当額を過去の配当実績に求める方法は、将来の配当の平均水準が右実績とほとんど変りがないであろうという想定を基礎とするものであるから、訴外会社のように経営が破綻した会社、とくに更生手続中は配当しないことにした会社の株式の評価には適当でないし、会社の将来各期に期待される配当額を基準とする方法をとろうとすれば、当該会社の将来の配当能力、配当政策等についてできる限り正確な見通しをたてることが必要となるが、訴外会社について、更生計画認可の段階において右のような見通しをたてることは極めて難しいといわなければならない。なお、原告は、訴外会社は更生手続中は配当をしないこととしているので、配当還元法によつて本件株式を評価すれば、その評価額は零になると主張するが、右のとおりこの方法を採用すること自体本件に適切でなく、また配当のない株式であつても、欠損金が資本の額を上廻る会社の株式のような特殊な場合を除き、その経済的価値があることは明らかであるから、単に無配であるということをもつて本件株式の価値がないということはできない。

(6)  次に収益還元法とは、当該会社の将来各期に期待される利益を一定の適切な利廻りで還元計算して、元本としての株式の価額を算出する方法である。この方法は、設立後日の浅い会社や、業績が悪く無配当続きであるが、収益見通しが明らかで、近い将来正常な収益状態が予想されるような会社の株価を算定するのに適するが、他方会社の利益の相当部分が内部に留保される結果、その利益の増加は必ずしも株主への配当の増加を意味しないから、非支配株主によつて所有されている市場性のない株式の評価には不適当といえる。

前叙のとおり、訴外会社の特殊事情を考慮すれば、更生計画認可当時同会社の将来の正常な収益状態が予想されたとはいい難く、また株主の支配権の有無についても、その資料がないから、本件については、右方法は妥当とはいい得ない。

(7)  最後に、当該会社の純資産額を発行新株式総数で除して得た金額を一株あたりの価額とする、いわゆる純資産価額法について検討してみるに、これには、純資産の価額を処分価額でみるもの(いわゆる解散価値法)と帳簿価額によるものとの二方式がある。

まず解散価値法とは、当該会社が解散するものと仮定し、その所有財産の処分価額の総額から負債(退職金その他の未発生債務を含む)の総額と諸費用を控除して株主分配金を試算し、これを基礎として株価を算定するものであるが、右方式は業績が悪化し収益力の見通しのつかない会社や、近い将来解散の予定されているような会社の株価算定には適するといえるが、前記認定のとおり、更生計画が認可され、その達成を目指して事業を継続していこうとし、また現に収益をあげつつある訴外会社の株式の評価の方法としては適当とはいえない。

次に資産の帳簿価格を基礎として評価する方式は、一般に株価決定の他の要素である収益、配当に対する配慮がなされていないという点に批判があり、また貸借対照表上の資産の大部分は、費用の未配分額すなわち将来の費用額としての性質をもつから、純資産の一株当りの簿価は、必ずしも株式の時価を明らかにするものではない点に難点がある。しかし、株式が会社資産に対する持分としての性格を有することは否めず、非上場会社で、かつ会社の規模が小さい場合には、その株式の売買、譲渡等は右のような会社資産についての持分という面に重きをおいてなされるのが通常である。ただ、会社が営業活動を継続している限り、右のような持分はあくまで観念的な形態にとどまり、株主が投下資本を回収するには、株式を他に譲渡するしかなく、その間株主は配当を得ることによつて満足するほかないが、会社の資産が増加しても、社内に相当部分留保され、配当の増加その他の方法で株主の利益に還元されることは少ないのが通常であるから、上場会社あるいは非上場会社でも相当の規模を有する会社について、右方式で株価を評価すれば、相場価格より著しく高額になることが予想されるので、右方式は適切とはいい難い。

ところで、前示認定によれば、訴外会社は非上場会社であり、しかもその規模は小さく、また本件株式が発行され原告がこれを取得した経緯に鑑みれば、本件株式はその値上りを、あるいは配当を期待して取得されたものではなく、むしろ会社財産に対する持分として与えられたものと評価することが相当である。以上によれば、純資産価額法にも前記のような難点があるとはいえ、訴外会社の株式の評価としては他の方法より合理的なものということができる。

(8)  なお、<証拠省略>によれば、昭和四一年六月、訴外会社取締役は、同会社の更生認可決定に基づき、株式併合による資本減少手続を実行するにあたり、訴外会社の端株を一株当り金一、〇〇〇円で売却すべく、大阪地方裁判所に対して端株売却許可申請をなしたところ、同裁判所はこれを許可したことを認めることができる。

原告は右事実をもつて、本件株式の時価は右価額を上廻ることがないと主張する。

成程非上場株式であつても当然に一定の時価を有するものであるから、その算定当時処分された売買実例があれば、その処分価額は時価算定上考慮にいれるべきであるが、ただここにいう事例は、客観的交換価値を適正に反映していると認められる事情になければならない。ところが、右事例は、前記認定のとおり極めて特殊な場合であり、到底客観的交換価値を反映しているものとはいい難いので、右主張は理由がない。

(9)  ところで<証拠省略>によれば、訴外会社の昭和四一年六月一日現在の貸借対照表に計上された資産総額は七一、〇三八、六三〇円であることが認められ、負債総額が三六、二〇八、〇七四円であり、右同日における発行済株式総数が七、六八五株であることは当事者間に争いがないので、右同日における純資産額は三四、八三〇、五五六円、一株当りの純資産額は四、五三二円となる。

したがつて、本件株式の時価は一株当り四、五三二円ということになり、原告の右株式一八〇株の取得価額は八一五、七六〇円というべきであるから、原告が貸倒金として処理した八九九、八二〇円のうち、右取得価額八一五、七六〇円から、原告が右株式の時価として付した一八〇円を控除した八一五、五八〇円は否認されなければならない。

(三)  以上のとおり、昭和四〇年度における原告の所得は三、〇一八、〇六五円である<別表省略>。

2  昭和四一年度

(一)  原告が、昭和四一年度の確定申告において、修繕費として九三、五〇〇円を計上しているが、右が架空計上であることは当事者間に争いがない。

(二)  原告が昭和四二年七月一二日前記の昭和四〇年度において取得した訴外会社の株式一八〇株を一株一〇円計一、八〇〇円で原告会社代表取締役田畑順治に譲渡し、雑収入として一、六二〇円(譲渡価額一、八〇〇円から株式の取得価額一八〇円を控除した額)を計上したことは当事者間に争いがない。

ところで、前記の更生計画認可決定日(昭和四一年六月一日)から右株式譲渡日(昭和四二年七月一二日)に至るまで、訴外会社につき格別事情の変化等も認められないので、前記のとおり、その株式の価格は純資産価額法による時価をもつて評価すべきである。

そして<証拠省略>によると、右株式の譲渡日直近の訴外会社の昭和四一年六月二日より昭和四二年五月二〇日に至る事業年度の年度末の貸借対照表に計上された資産および計上漏資産の合計額は七三、三三四、四二八円であることが認められ、負債総額が三〇、六一六、四七七円であること、発行済株式総数が七、六八五株であることは当事者間に争がないから、同日現在の純資産額は四二、七一七、九五一円、一株当りの純資産額は五、五五八円となり、したがつて右株式一株当りの時価は五、五五八円ということになる。

したがつて原告が右田畑順治に譲渡した株式一八〇株の時価は一、〇〇〇、四四〇円(五、五五八円×一八〇株)となるので、原告の右株式の譲渡価額一、八〇〇円との差額九九八、六四〇円は田畑順治に対する賞与として計上されなければならない。

そして訴外会社の株式の譲渡原価は八一五、七六〇円であり、そのうち一八〇円は既に計上済みであるから、八一五、五八〇円が損金として計上されることになる。

(三)  昭和四〇年度の所得は前認定のとおりであるから、未納事業税七九、三五〇円が昭和四一年度の損金として算入されるべきである。

(四)  よつて、昭和四一年度における原告の所得は四、〇九五、一三六円である(別表参照)<別表省略>。

三  以上のとおり、本件係争の各事業年度の更正にかかる所得金額は右認定のとおりであつて、本件各更正には所得金額を過大に認定した違法はなく、本件過少申告加算税の賦課決定にも違法はなく、したがつて原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石川恭 飯原一乗 門口正人)

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