大阪地方裁判所 昭和46年(わ)1593号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕(酒酔い運転の訴因を、酒気帯び運転と認定した理由)
本件公訴事実中、「被告人は、呼気一リットルにつき0.5ミリグラム以上のアルコールを身体に保有し、その影響により正常な運転ができないおそれがある状態で、昭和四六年六月二日午後一〇時五〇分ごろ、大阪市西成区姫松通四丁目先の阪神高速道路大阪堺線上において、軽四輪貨物自動車六泉つ八二―六四号を運転した。」との訴因について検討するに、被告人が右公訴事実記載の日時、場所で同記載の車両を運転したことは証拠上明らかであるので、さらに、その際被告人が酒に酔つて右車両を運転したかどうかについて検討を進めるに、道路交通法一一七条の二にいわゆる「アルコールの影響により車両等の正常な運転ができないおそれ」とは、単なる抽象的な危険性を指称するものではなく、客観的諸状況から具体的に正常な運転ができないおそれがあると認められる場合をいうものと解すべきところ、この点についての証拠である司法巡査作成の鑑識カードには、被告人の当時の呼気中のアルコール濃度が呼気一リットルにつき0.5ミリグラム以上と記載されているが前掲検知管の着色度を前掲比色表に対比してみると、被告人の当時の呼気一リットル中のアルコール濃度が0.25ミリラグム以上であることは認められるにしても、0.5ミリグラム以上であるとは必ずしも断定し難く、又、被告人を検挙した司法巡査丸山省三ほか一名作成の現行犯人逮捕手続書には、同巡査らが被告人を停車させて運転免許証の提示を求めたところ、被告人の顔面が赤く酒の匂いがぷんぷんしていた旨記載されているが、同巡査の当公判廷における証言及び被告人の当公判廷における供述によれば、同巡査は、被告人を停車させてパトカーの速度計を読ませたり、判示運転免許証の提示を求めて被告人の弁解を聞いたりした段階では未だ被告人が飲酒していることには気付かず、被告人をパトカーに収容した後、パトカーの車内において初めて酒の匂いに気付き、被告人が飲酒していることを知つたものと推認され、これらの諸事情のほか、被告人の当時の飲酒状況については、被告人が本件犯行時の約三時間前に自宅でビールを大びん三分の二程度飲んだことが立証されているにすぎないこと(尤も、前掲鑑識カードには、被告人が西洋介方でビールをコップで一杯飲んだ旨の供述記載が存するが、この部分はその場限りの弁解とも考えられ直ちに措信し難い。)右丸山巡査が検挙当時被告人の話し方に異常はなかつた旨証言している点等を合わせ考えると、右鑑識カード中、被告人の言語がしどろもどろであつたとか、手がふるえていたとか、酒の匂いが強かつたとかの記載はたやすく措信し難く、田畑達美の証言をも合わせ考えると、被告人の言語がしどろもどろであつた旨の右記載は、被告人が酩酊していたためではなく被告人の弁解に辻褄の合わない部分があつたためそのように記載された疑いがあり、又被告人の手がふるえていた旨の右記載も、酩酊のためではなく緊張と興奮のため手がふるえていたと解される余地があり、さらに、本件犯行当時被告人が蛇行運転をしていたと認められる点についても、それは被告人の運転技術拙劣のためであつて酩酊のためではないと考え得る余地があり、他に被告人が本件犯行当時アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態にあつたと認めるに足りる特段の具体的な徴候は見当たらないから、右酒酔い運転の訴因については、結局犯罪の証明がないことに帰する。しかしながら、右認定事実によれば、被告人の本件所為は、酒酔い運転に該当しないとしても、酒気帯び運転に該当することは明らかであるところ、本件起訴状によれば、前記酒酔い運転の公訴事実の記載には酒気帯びの訴因事実が含まれており酒気帯び運転の訴因が予備的に記載されているものと解されるから、特に訴因変更の手続を俟つまでもなく、酒酔い運転と公訴事実を同じくする酒気帯び運転の事実を認定した次第である。
(角敬 佐々木条吉 下司正明)