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大阪地方裁判所 昭和46年(ヒ)114号 決定 1972年2月16日

申請人 株式会社兵庫相互銀行

右代表者代表取締役 長谷川寛雄

右代理人弁護士 中村友一

主文

本件申請を却下する。

理由

(申請の要旨)

一、株式会社日本ハイライト(本店大阪市福島区大開町四丁目一四番地)は、昭和四二年三月二四日大阪地方裁判所において、破産宣告を受けるとともに、同時廃止の決定を受け、同年四月一五日これが確定し、現在右会社を代表すべき者即ち清算人が存しない。

二、申請会社は、右の会社を被告として、大阪地方裁判所に対し、手形買戻請求の訴(同庁昭和四六年(ワ)第一、七六二号)を提起して審理中、前項の事実が判明したので、右会社の清算人一名の選任を求めるべく本申請に及んだ。

(当裁判所の判断)

一、本件記録に徴すると、株式会社日本ハイライトにつき、申請の要旨に記載の事実と更に大阪法務局昭和四二年五月三一日受付による同会社の破産宣告・同時廃止決定確定の登記がなされている事実及び申請会社主張の手形買戻請求の訴とは、申請会社が株式会社日本ハイライト、山崎侃(同会社の元代表取締役)、梅垣鷺を共同被告として、昭和四六年一一月二五日大阪地方裁判所に提起した、右会社を主債務者、その余の二名を連帯保証人とする、申請会社との間の昭和三九年六月一五日付取引約定並びに手形割引約定に基き、申請会社が右の会社からの割引依頼により、裏書を受けた約束手形の手形金の連帯支払を求める訴訟である事実を認め得る。

二、ところで、会社につき、所謂財団不足による同時破産廃止が確定し、その旨の登記がなされた場合において、仮に後日会社に、実質上或は名義上を問わず、何れかの積極的な残余財産が存することが判明したときは、会社は依然、清算の目的の範囲内で存続するものと看做されるので、同時破産廃止の確定によっては、当然に法人格(権利能力)が消滅することはないけれども、然し、会社に斯ような残余財産は何ら存せず、単に金銭上の債務のみが存するに過ぎないときは、会社は同時破産廃止の確定に因り、直ちに法人格を喪失し、消滅するに至ると解する。

三、尤も本件においては、前段認定のとおり主債務者たる株式会社日本ハイライトの申請会社に対する債務につき、山崎外一名が連帯保証をなしており、且つこの点に関し、主債務者たる会社が破産宣告を受け、破産手続が終了しても、残債務につき保証人が存する場合、保証人の責任を免れさせない為めに、会社はなお、残債務の主体たる範囲において、権利能力を持続し、保証される債務の存続を維持すると解すべしとの見解がある(我妻栄・新訂債権総論(民法講義Ⅳ)四八五頁参照)。この見解に従えば、本件において、主債務者たる株式会社日本ハイライトは、同時破産廃止の確定後も、依然として、連帯保証人の保証債務の存する範囲で法人格が存続することとなる。

四、然し、右の見解を本件に即して更に貫くときは、債権者は主債務の消滅時効の完成に因る消滅に伴い、保証債務も消滅するのを防止するために、保証債務についての連帯保証人に対する訴訟上の請求のほかに、主債務についても既に同時破産廃止の確定した主債務者会社に対して、訴訟上の請求を提起し、これを維持することが必要となるが、このことは、主債務者会社自体の立場に即して考えると、同時破産廃止の確定後に、如何に会社に対する金銭上の債務の存在を判決を以て確定してみたところで、その支払に充てるべき何らの財団も存しない以上、清算手続をなすべき余地は全くなく(それ故にこそ同時破産廃止にしたものである。)従って会社自体にとって同時破産廃止の確定後、本来その法人格を存続せしめる実益がないのに拘らず、専ら他人間の訴訟(債権者と連帯保証人間の訴訟)のために、自らの法人格の存続を擬制され、無益な訴訟(債権者と主債務者間の訴訟)の追行を強いられる結果を受忍しなければならないこととなる。斯かる結論は速かに容認し得ない。

五、のみならず、「保証債務ハ従タル債務ナルヲ以テ主タル債務ノ消滅シタルトキ亦同時ニ消滅スルモノト為スヲ原則トスレトモ主タル債務者ノ一人格消滅ニ因リ主タル債務消滅スル場合ニモ亦保証債務ノ消滅スルモノト為スハ保証債務ヲ認メタル法律ノ精神ニ副ハサルモノト為ササルヘカラス蓋シ保証人ハ主タル債務者カ其履行セサル場合ニ於テ其債務ヲ履行ヲ為ス責ニ任スルモノナルニ主タル債務者ノ人格消滅ノ為メ保証債務モ亦消滅スルモノト為サハ債権者ハ何人ヨリモ債権ノ弁済ヲ受クルコトヲ得サルコトト為リ保証ノ利益ヲ全然失フコトトナルヲ以テナリ故ニ主債務者タル株式会社カ破産手続終了ノ結果其債務ヲ弁済スルニ至ラスシテ其人格ヲ失フニ至リタル場合ノ如キ寧ロ主債務者カ其債務ヲ履行セサル場合ニ該当スルモノト解スルヲ相当トス」(大審院大正一一年七月一七日判決・民集一巻四六〇頁以下、判例民法大正一一年度六八事件評釈参照)との見解に従えば、本件の如く、主債務者会社につき、同時破産廃止が確定した場合にも、敢えてその法人格の存続を擬制せずとも、保証人に対する責任追及が可能であり、債権者の保護に缺けることはない。

それ故前記三の見解は当裁判所の採らないところである。

六、以上明らかな如く、本件において、主債務者たる株式会社日本ハイライトは、同時破産廃止の確定とともに、法人格を喪失して消滅するに至っており、その後に本件申請会社から右会社に対して提起された前述の訴訟は、謂わば架空人に対する不適法な訴訟として却下を免れない状況に在り、右訴訟追行のために、右会社を代表すべき清算人選任を求める本件申請は、目的と基礎を欠き、失当であるので、却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 藤浦照生)

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