大阪地方裁判所 昭和46年(ワ)190号 判決 1972年7月31日
原告
綿谷友子
外二名
右三名訴訟代理人
中本照規
被告
日本生命保険相互会社
右代表者
弘世現
右訴訟代理人
三宅一夫
千森和雄
入江正信
坂本秀文
山下孝之
西村捷三
主文
一、原告らの請求を棄却する。
二、訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
一、当事者の求めた裁判
(一) (原告)被告は原告綿谷友子に対して金一六六万六、六六六円、その余の原告らに対し各金六六万六六六円およびこれらに対する昭和四六年一月二四日から完済まで年五分の割合の金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
との判決および担保条件の仮執行宣言。
(二) (被告)主文同旨の判決。
《その余の事実関係は省略》
理由
一、請求原因事実は当事者間に争いがない。
二、<証拠>によると、被告抗弁(ロ)記載のとおりの特約条項があり、それによると、被保険者に死亡につき重大な過失があつたときは被告は災害保険金の支払を免責されるということが認められ、右認定に反する証拠は存しない。
三、そこで、被保険者である亡正二郎に本件事故の発生、同人の死亡につき重大な過失があつたか否かについて検討する。
<証拠>を総合すると、亡正二郎は当時四四才で本件事故当時宝海運株式会社の重役であり、訴外大下正美は当時一九才でクラブ「紫」にバーテンとして勤務していたのであるが、本件事故の一年ほど前から亡正二郎は訴外大下の勤務するクラブ「紫」に客として出入するようになり、訴外大下はドライブやモーターボート乗りなどに亡正二郎が連れて行くので大事なお客として同行し親しく交際していたこと、本件事故の数日前からも同様にドライブやモーターボート乗りに同行し、疲労と睡眠不足を覚えていたこと、本件事故の前日にも亡正二郎は訴外大下と引き続き昼はモーターボートに乗つて遊び、訴外大下が勤務中の午後八時頃遊びに誘い出し、バー、サボイで一一時頃まで二人でビールを飲み、訴外大下はその折ビール三本ほど飲み、勤務中にすでにほぼ同量位を飲んでいたので、バー、サボイを出る頃相当酔つていたこと、亡正二郎の発議で引き続き高松市の方面ヘドライブすることとなり、クラブ紫のホステス田中利津子も誘つて亡正二郎所有の乗用車を同人が運転して徳島を出発したこと、出発後訴外大下は疲労と酔のために客席で眠つていたところ、出発後約三〇分位して、停車したので、訴外大下は車外で用便を済まし帰つたところ、亡正二郎は訴外大下に運転を代わつてくれと申出、同訴外人はこれをことわりきれないで運転を代わることになり、運転操作など種々教えてもらつたうえ訴外大下の運転により再び出発したこと、亡正二郎は訴外大下の運転中とくに指示したり注意したりしたことはなかつたこと、再出発後一〇分位してのち、訴外大下は時速八〇ないし九〇キロメートルで運転していたが対向車のライトに眩惑されスピードの出し過ぎと運転未熟、疲労、酒酔のためハンドル操作など適切な措置をとることができず、運転車の左側前後車輪を道路左側の用水路に落とし、コンクリート蓋に激突させて、亡正二郎はその衝撃により高位頸随損傷兼胸腔内臓器損傷により即死したこと、事故当日の鑑定の結果によると訴外大下の尿中のアルコール含有量は尿一ミリリットル中につき一、一ミリグラム(血液中一ミリリットル当り〇、八ミリグラム相当)であつたこと、また、訴外大下は当時無免許であつたことが認められ、<証拠判断・略>。
右認定事実にもとづいて考えると、亡正二郎は訴外大下が本件事故当時一九才の年少であり、運転も未熟であること、そのうえ数日前からの引き続きの遊びによる疲労に、本件事故前の飲酒により相当酒に酔つていたことを知りながら、あえて運転を交替させ運転させ、その運転中何らの指示も注意もしなかつたことが認められるのであるから、亡正二郎に本件事故につき、したがつてそれに伴う同人の死亡につき、重大な過失があつたものと断ぜざるをえない。
それゆえ亡正二郎の本件事故による死亡は、前記認定の免責条項に該当することとなる。
四、以上の理由により、原告らの本訴請求はすべて理由がなく、失当として棄却を免れない。
よつて、民訴法八九条にしたがい主文のとおり判決する。 (東孝行)