大阪地方裁判所 昭和46年(ワ)270号 判決 1976年9月21日
主文
被告白杉市蔵、同白杉憲三、同白杉幸久、同白杉年世は各自原告に対し別紙目録記載の建物を収去して同目録記載の土地を明渡せ。
原告に対して、(イ)、被告白杉市蔵は金三万六、一九三円、(ロ)、被告白杉憲三、同白杉幸久、同白杉年世は各金二万四、一二八円をそれぞれ支払え。
被告白杉市蔵、同白杉憲三、同白杉幸久、同白杉年世は各自原告に対し昭和四八年七月四日から右土地明渡ずみにいたるまで一か月金一、六六八円の割合による金員を支払え。
被告渡辺大道は原告に対し右建物から退去して右土地を明渡せ。
原告の被告白杉市蔵、同白杉憲三、同白杉幸久、同白杉年世に対するその余の請求を棄却する。
訴訟費用は被告らの負担とする。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、原告は「被告白杉市蔵、同白杉憲三、同白杉幸久、同白杉年世は各自原告に対し、別紙目録記載の建物を収去して同目録記載の土地を明渡し、かつ昭和四三年二月一日から右土地明渡ずみにいたるまで一か月金四、〇五〇円の割合による金員を支払え。被告渡辺大道は原告に対し右建物から退去して右土地を明渡せ。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求めた。
二、被告らは、「原告の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。
第二、当事者の主張
一、請求原因
1、原告は別紙目録記載の土地(以下本件土地ともいう)を所有している。
2、訴外亡白杉キクヱは昭和三四年五月四日以降本件土地上に別紙目録記載の建物(以下本件建物ともいう)を所有していたが、昭和四八年七月三日死亡したため、その夫である被告市蔵、その子である被告憲三、同幸久、同年世(以下被告市蔵ら四名ともいう)が相続によつて本件建物の所有権を承継取得し、それ以来本件土地を占有している。
3、被告大道は昭和三五年ころから本件建物に居住し本件土地を占有している。
4、よつて、原告は、本件土地に対する所有権にもとづき、被告市蔵ら四名に対しては本件建物を収去して本件土地の明渡を求めるとともに昭和四三年二月一日から右土地明渡ずみにいたるまで一か月金四、〇五〇円の割合による相当賃料と同額の損害金の支払を求め、被告大道に対しては本件建物から退去して本件土地の明渡をなすべきことを求める。
二、被告ら五名の答弁
請求原因1ないし3の事実は認める。
三1、被告ら五名の賃借権譲受の抗弁
(一)、訴外高田佐治郎はもと原告の先代である訴外亡權野健三から本件土地を賃借し、本件建物を建築所有していたが、健三が昭和三四年六月二八日死亡したため、それ以後は同人の相続人である原告から右土地を賃借していた。
(二)、白杉キクヱは昭和三四年五月四日佐治郎から本件建物を買受け(同月七日その旨の所有権移転登記を経由)、これと同時に、その敷地である本件土地の賃借権を譲受けたが、そのころ佐治郎において本件土地の賃借権を譲渡するにつき、口頭で賃貸人である健三もしくは原告の承諾を得た。
(三)、被告市蔵ら四名はキクヱの相続人として佐治郎より譲受けた賃借権にもとづいて本件土地を占有しているものである。
2、賃借権譲受の抗弁に対する原告の認否
(一)、抗弁三、1、(一)の事実は認める。
(二)、同三、1、(二)の事実のうち、キクヱが昭和三四年五月四日被告ら五名主張のように佐治郎から本件建物を、その敷地である本件土地の賃借権とともに譲受けた事実は認めるが、右賃借権の譲受につき、佐治郎において本件土地の賃貸人である健三もしくは原告の承諾を得た事実は否認する。
(三)、同三、1、(三)の事実は争う。
四1、被告ら五名の賃借権の時効取得の抗弁
仮りにキクヱにおいて佐治郎から譲受けた本件土地の賃借権が原告に対抗しえないものであるとしても、キクヱは、昭和三四年五月四日佐治郎から本件建物を買受けた際、同人から本件建物の敷地である本件土地の賃借権を取得したものと信用し、それ以来賃借の意思をもつて本件土地上に本件建物を所有し、平穏公然善意かつ無過失にて本件土地の占有を継続し、同年一二月三〇日原告に対し同年一月一日から同年一二月三一日までの一か年間の賃料金一万五、〇〇〇円を提供したが、その受領を拒絶されたために昭和三五年二月一七日弁済供託をし、その後も右弁済供託を続けて賃借権を行使しているから、昭和三四年五月四日より一〇年後の昭和四四年五月四日の経過とともに、時効完成により本件土地の賃借権を取得したものである。
2 賃借権の時効取得の抗弁に対する原告の認否
右抗弁事実は争う。昭和三五年二月一七日の賃料の弁済供託は佐治郎がしたものであつて、キクヱは昭和三六年八月二一日にいたり始めて昭和三五年一月一日より昭和三六年七月三一日までの賃料の弁済供託をしたものである。
五1、被告ら五名の失効の原則等にもとづく抗弁
仮りに以上の抗弁がすべて理由ないとしても、キクヱは昭和三四年五月四日佐治郎から本件建物を買受け、それ以来本件建物で「白菊美容室」という屋号で美容院を経営し、健三もしくは原告に対して賃料の支払をしてきた。他方原告は同年一二月吹田簡易裁判所に対しキクヱを相手方として本件土地の明渡を求める調停を申立てたが、それまでの間本件土地について明渡請求権を行使したことがないのみでなく、昭和三六年四月二四日右調停が不成立になつてからも本訴を提起するまでの約一〇年の長期間にわたり、右請求権を行使しないでこれを放置し、本訴において今更これを行使することは信義則に反していわゆる失効の原則が適用さるべき場合であるか、もしくは権利の行使を濫用するものとして許されない。
2、失効の原則等にもとづく抗弁に対する原告の認否
右抗弁事実は争う。
六1、被告市蔵ら四名の建物の買取請求権の行使等の抗弁
仮りに被告市蔵ら四名に本件建物収去土地明渡義務があるとしても、同被告ら四名は借地法一〇条により昭和五〇年四月一六日の本件口頭弁論期日において原告に対し本件建物を時価相当額をもつて買取るべきことを請求したから、原告より右建物の代金の支払を受けるまで、同被告ら四名は本件土地建物の明渡義務について同時履行の抗弁権および留置権を行使する。
2、右抗弁に対する原告の認否
被告市蔵ら四名がなした建物の買取請求権行使の効果は争う。
3、原告の建物買取請求権消滅の再抗弁
健三もしくは原告は佐治郎に対し本件土地を賃貸していたが、佐治郎において昭和三三年一月一日から昭和三四年一二月三一日までの間一か月につき金一、六六八円の割合による賃料の支払をしなかつたので、原告は昭和三五年二月三日付内容証明郵便(同月四日到達)をもつて佐治郎に対し右延滞賃料を同月一〇日までに支払うように求め、もし同日までに右延滞賃料の支払をしないときには、本件土地の賃貸借契約を解除する旨の催告ならびに停止条件付契約解除の意思表示をしたが、佐治郎は右期日までに催告にかかる延滞賃料の支払をしなかつたため、原告と佐治郎との間の本件土地の賃貸借契約は昭和三五年二月一〇日の経過とともに解除されたのである。右のとおり本件土地の賃貸借契約は佐治郎の賃料不払によつて解除されたので、これによつて被告市蔵ら四名の買取請求権は消滅したものというべきである。
4、右再抗弁に対する被告市蔵ら四名の認否
右再抗弁事実は知らない。
第三、当事者の証拠(省略)
(別紙)
目録
一、吹田市垂水町一丁目八五三番地の二
宅地五六五・二八平方メートル
のうち別紙図面記載の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(イ)の各点を順次直線で結んだ部 分の土地九四・五七平方メートル(二八坪六合一勺)
二、右地上にある家屋番号六二五番の二
木造瓦葺平家建物置(ただし現況店舗兼居宅)
床面積三三・〇五平方メートル(一〇坪)
<省略>