大阪地方裁判所 昭和46年(ワ)4666号 判決 1974年2月13日
原告 株式会社昭栄電気
右代表者代表取締役 島田喜八郎
被告 野村孝治
同 宇治昌幸
右両名訴訟代理人弁護士 井関和彦
同 松井清志
同 中田明男
同 井上善雄
主文
一、原告の請求を棄却する。
二、訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告は、「被告等が島田喜八郎に対する大阪地方裁判所昭和四五年(ワ)第六三六号事件の判決の執行力ある正本に基き別紙目録記載の物件に対して為した強制執行はこれを許さない。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、
「一、被告野村は、島田喜八郎(以下単に島田という)に対する大阪地方裁判所昭和四五年(ワ)第六三六号事件の判決の執行力ある正本に基き、昭和四六年九月二二日別紙目録(1)記載の物件(以下単に(1)の物件という)を差押え、被告宇治は、同正本に基き同日(1)の物件につき照査手続を為し且つ同目録(2)記載の物件(以下単に(2)の物件という)を差押えた。
二、しかしながら、(1)(2)の物件はいずれも原告が昭和四四年九月二四日城陽ダイキン空調株式会社から他のクーラー一台と共に代金五五万円にて買受け同年一〇月末日より同四五年八月末日までの間に右代金を完済し、同日その所有権を取得するに至ったものであって、原告の所有に属するものである。
三、よって原告は被告らに対し(1)(2)の物件に対する強制執行の排除を求める。」と述べ、抗弁事実を争(う。)
≪証拠関係省略≫
被告ら訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、請求原因に対する答弁として、
「一、認否
請求原因一記載の事実は認めるが、同二記載の事実は否認する。
二、仮定抗弁
(一)1 島田は原告の絶対的支配を可能とする株主であり、実際上原告を独断的に経営していること、原告の施設は島田個人のものを利用していること、島田個人の雇傭にかかる者に対して原告が給与を支払うなど原告と島田個人の業務や会計に明確な区別がないこと、原告においては株主総会が開かれたことがないこと、原告の帳簿は税金対策上のものであることなどからすれば、原告は殆んど会社としての存在意義がなく、その法人格は形骸化している。
2 また島田は原告の支配者であり、本訴請求は島田若しくは原告が使用者として被告らに支払うべき債務を免れるために為されているものであって、法人格を濫用するものである。
以上いずれにしても原告の法人格は否認さるべきである。
(二) 原告の本訴異議請求は、島田が被告らに対する債務の存在を確認しながら支払う意図のないまま原告代表者の立場を利して提起したものであり、権利を濫用するものである。」
と述べ(た。)
≪証拠関係省略≫
理由
一、請求原因一記載の事実については当事者間に争いがなく、また≪証拠省略≫を総合すれば、原告はその主張の頃主張の買入先から原告名義で(1)(2)の物件を購入したことが認められ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。右認定の事実によれば、他に格別の事由のない限り(1)(2)の物件は原告の所有に属するものというべきである。
二、そこで抗弁(一)1につき判断する。
≪証拠省略≫を総合すれば、島田は、もと個人営業として大阪市北区扇町五七番地において昭栄電気製作所なる屋号で照明器具の仕入販売業などのほか運送業を営んでいたが、島田が原告肩書住所地に転居したのを機会に税務対策上からも個人営業を会社営業に変えた方が良いとの理由から、昭和三九年一月一〇日、各種照明電気器具部品の製造及び販売、物品の運送取扱、これらに附帯する事業を目的とし、島田が発行済株式の過半数を有する原告を設立する(発行済株式総数は設立当初六〇〇株三〇万円、昭和四一年六月二四日の変更で二、〇〇〇株一〇〇万円となる。但し株主の各持株数は島田が過半数を有することの他不明)に至ったが、その営業の実態は原告設立までに島田が個人で営業していた当時と変らず、その当時の島田個人の債権債務を原告が引き継ぐに至ったこと、原告の役員構成は、島田が代表取締役であるほか、島田の妹の夫である小林今朝人、島田の弟である宮沢善松がそれぞれ取締役、島田の義父である宮沢森一が監査役であり、取締役会は年に一回開く程度であり、経営は島田が支配していること、株主総会は一度も開かれていないこと、島田は原告の代表取締役であるほか、原告会社設立後も個人名義で運送業(昭栄運送)を営なんで居るが、原告の営業所と島田個人の営業所とは区別されていないのみならず、右島田の個人営業と原告の営業との収支を区別せず、斯かることから島田は個人営業のために運転手として雇傭していた被告らの給与を、原告の雇傭する従業員の給与と共に原告名義で支払ったり、また(1)(2)の物件の購入代金を原告名義で支払うなどしているが、右支払はいずれも実質的には島田個人の営業から得た収益と原告の営業から得られた収益とを合した分から支払われていること、(1)(2)の物件についても島田個人、原告の区別なく利用に供されていたこと、以上の事実が認められ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
右認定の事実によれば、原告は、もと島田の個人営業であったものが法人成りしたものであるが、その実体は依然島田の個人営業と変らず、その法人格は(1)(2)の物件を原告会社名義で購入した時の前後を通じて形骸化しているというべきであり、従って原告の法人格は(1)(2)の物件の購入との関係で否認さるべきものと解される。
そうすると、原告名義で購入した(1)(2)の物件が原告の所有に属するものとは言い難いので、その余の点につき判断するまでもなく原告の請求は失当である。
三、よって、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 斎藤光世)