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大阪地方裁判所 昭和46年(ワ)5793号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【説明】

患者は昭和三三年一〇月一日生の女児であり、Xの主張によると、右患者は昭和四六年九月九日、学校での昼食弁当後、便通があり、同日午後三時ごろ、喉がかわくので学校内の自動販売機のコーヒー牛乳を飲んで間もなく、胸がむかつき気分が悪くなる等の症状があつたため、翌一〇日午前被告病院内科にて診察をうけた。ところが判示の経過により患者は同年同月二〇日午前六時ごろ循環不全、腎不全を起こして死亡するに至つた。そこでX(患者の両親)は、診療契約(準委任契約)の不履行及び患者の主治医がYの理事であつたことから法人の不法行為責任を主張して、本訴に及んだものである。

【判旨】

二亡道代の症状及び診療の経過

1 九月一〇日、午前一〇時、亡道代は前示の症状を訴え、被告病院に来院し、内科の四端医師の診察をうけたところ、体温は三六度五分で平熱、腹部触診するも抵抗なかつたが、白血球が九六五〇と増加(当時亡道代に外傷は無かつたから体内の炎症が推定される)していたので、同医師は虫垂炎、消化不良の疑いを念頭におき、炎症をおさえるためクロマイ(抗生物質)を注射し、更に、飲薬としてSM散(健胃薬)、クロマイ、ストミラーゼ(消化剤)プリンベラン(消化管の機能の異常を調節し、胃腸の運動を促進する作用があるとともに吐気抑制の作用もある)を処分して、亡道代に与えた。

2 亡道代は帰宅後も吐気、嘔吐の症状が続くので、一〇日午後六時ごろ被告病院に来院し、生駒医師の診察をうけたところ、腹痛、体温の上昇はなく、触診するも腹部の所見はやや腸管の蠕動運動の減弱を示すのみで、圧痛、腫瘍を示す抵抗はなく、上腹部も変化はなかつたが、白血球が増加していることと吐気が続くことより、同医師は虫垂炎又は初期の消化不良を考え、体内の消化不良の原因を除くため高位浣腸を行ない、また、吐気止めのノバミン、胃や腸の運動を低下させ、その緊張を弱め、吐気をおさえるパドリンとブドウ糖を注射したが、亡道代の症状が特に重篤なものとは考えなかつた。なお、右のパドリンは、前示1のプリンペランとは一見矛盾する作用をもつものであるが、高位浣腸を行なつた後使用する場合効果が高いため用いられた。

3 翌一一日午前九時、亡道代は嘔吐が持続し、腹部に膨満感あるとの訴えで被告病院に来院し、生駒医師が診察したところ、腸雑音がやや減弱し、上腹部に振水音があつたが触診するも腹部に異常は認められず、血圧は一二四ないし八二で正常であつた。同医師は、右症状及び前日の診察結果から、広い意味での腸閉塞の疑いを持ち、立位の腹部単純レントゲン撮影を行なつたが小量のガス影が認められただけで、特に異常は認められなかつた。同医師は以上の所見から、機械的腸閉塞の場合には、痛みがあり、腹部も膨満し、腸管の蠕動運動が昂進し、レントゲン像もガスと液体成分が腸の中で分離したような独特の像をつくるが、亡道代の症状にはこれらの特徴はないので、一応機械的な腸閉塞という点は否定し、余り重篤な腸閉塞ではなく、中毒性の消化不良による腸管の運動不全麻痩を一応考えた。但し、亡道代の思いあたる右中毒の原因としては前日飲んだコーヒー牛乳のみであつたこと、また吐気が続くが腹部の症状はさして強くないことからその診断は非常に困難であつた。そして、更に、外科的見地からの所見をうるため、中山医師に対診を依頼したところ、同医師の診察の結果による所見も前示内科的所見と同じであり、現在外科的処置の必要はなく、一応内科的に治療して経過をみる方がよいとの意見であつた。生駒医師は、前示のとおり、吐気が続き、経口摂取が十分できぬまま脱水症状を起す危険もあつたこと、また、症状が進行する可能性もあつたので経過観察の意味からも原告らに入院を勧め、同日午前一〇時ごろ、亡道代は入院した。入院時に血液検査も行なわれたが、血沈、赤血球の容積、サーリー(血色総量)は正常であつたが、白血球が一四三〇〇(同年の女性は八〇〇〇位が普通)と異常に増加していた。

4 入院後、生駒医師の指示により、補液と腸管を動かすためのリンゲル、強心剤であるネオフイリンM・解毒作用を有するタチオン、その他炎症止めの抗生物質を含む点滴注射、健胃薬、吐気止めの神経安定剤の投与が開始された(以下これを定期注射、定期投薬という)。午前一一時四五分、亡道代が吐気を訴えたため、同医師の指示によりノバミンが注射された午後一時ごろ、再び同医師が亡道代を診察したが、症状は従前と変わらず、腹痛もなく、この時点では、同医師は、亡道代の吐気は、腸管運動の減弱(不全麻痺)に基くものであり、消化不良による中毒症状と考えていたが、真の原因は未だ不明であつた。そして、腸管運動を昂進させるため、ワゴス、熱気、浣腸の処置がとられ、また、同医師より、一二日からの定期注射につき抗生物質の量を増やす旨の指示があつたが、右症状では電解質の失調は考えられなかつたため、電解質検査は行なわれなかつた。午後二時ごろ、同医師は被告病院を出て、後は、当直医の依藤医師が亡道代の治療にあたり、午後一一時ごろ、亡道代が再び吐気を訴えたので、同医師の指示によりノバミンが注射された。

5 一二日、亡道代に対し、前示定期注射(但し生駒医師の指示により抗生物質の量が増加された)及び投薬が続けられ、同医師は同日午前に被告病院に亡道代の容態について連絡をとつたところ看護婦より吐気はややおさまり、全身状態はよいとの報告をうけたので、引き続き従前と同じ治療を行なう様指示を与えた。また、同医師は、消化不良の場合、水とか食物を入れることにより腸の動きが改善するきつかけとなることもあるので、水とか食物が入るなら少し入れてよいという指示も出していた。亡道代の家族は、右指示により、亡道代に、午後二時前リンゴ一個をしぼつて与えた。午後二時二〇分ごろ、亡道代が腹部の膨満感を訴えたため、依藤医師の指示によりガス抜きが行なわれたがガスは出なかつた。そして、更に腹部膨満感を訴えたため、午後二時五〇分、同医師の指示によりワゴス、熱気、高圧浣腸の処置がとられた。午後八時過ぎには、亡道代の腹部は妊娠八ケ月位の妊婦の腹部のように膨満し始め、丁度来合わせた原告敏三は、腹膜炎でも起したのではないかと驚き、看護婦詰所へ医師を呼びに行つたが看護婦は新生児の処置をしていて不在で、依藤医師は急患の診療中であつた。なお、右腹部膨満の始期については、亡道代は一二日午後より腹部の膨満感を訴えていたが、その頃はまだ外見上膨満しているものとは認められず、午後七、八時頃より外見的にも膨満が急速に進行したものと推定される。そして、午後九時ごろ、看護婦が熱気、浣腸の処置を行なおうとしたが原告敬三はこれを断わり、訴外金子いは子は知り合いの千葉医師(開業医)に連絡をとり、被告病院に来てくれるよう依頼した。右時刻ごろ、亡道代の腹部の膨満はかなり強く、吐気、嘔吐もあり、腹腔内圧上昇により胸部の苦しさも訴えていた。千葉医師は、午後一〇時ごろ来院したが、その頃、亡道代の容態は、腹部はパンパンに張り、呼吸も苦しそうで、唇はチアノーゼ状態になつており、強心剤の注射、酸素吸入の手当が必要な状態であつた。同医師は、依藤医師と面談し、主治医に来てもらうよう勧めたところ、既に午後九時ごろから連絡をとつているが外出中らしいとのことであり、千葉医師が亡道代のカルテをみているうち、生駒医師よりすぐ来院するとの連絡が入つた。

6 生駒医師は午後一〇時三〇分ごろ来院し、診察したところ、亡道代の症状は、腹部が非常に膨満し、ために胸部が圧迫されて呼吸も浅く速く、脈はくは一一〇ないし一二〇で不整かつ弱く、血圧も七〇から二〇と降下していて循環不全の状態であつた。同医師は、これに対し、強心剤を注射するとともに、原因究明のため心電図をとり、また、尿検査、腹部単純レントゲン撮影を行なつた。そして、更に、腸管運動の減弱が表面に出たものと考え、少しでも腸管運動を促進させる目的で午後一〇時五〇分にはガス抜きを施行、午後一一時にはワゴス、熱気、高圧浣腸の処置をとつた。また、午後一一時ごろ、中山医師に連絡をとり、一三日午前〇時前に同医師も来院して診察し、生駒医師との協議の結果腹腔内の圧力を減し循環不全状態改善の目的と、腸管の運動減弱及び腹部膨満の原因究明のための試験開腹という目的で開腹手術を行なうことが決定され、原告らに伝えられた。

7 強心剤の注射、酸素吸入により全身状態の一応の回復を待つて一三日午前一時四〇分より、中山医師、永井医師により、生駒医師の立会の下に手術が開始された。術前、術中の胃管による胃及び腸管上部の内容物吸引により、普通のバケツ半分位の量の黒緑色の液が排出され、開腹時の所見では、胃の腹腔全体への拡張が認められ、全体に腸運動が弱く、腸管に中程度の膨満がみられたが、他は手術による少量の出血があつただけで、腹水、腹汁なく、腹膜炎の症状もなく、一二指腸の狭窄もなく、その他女性性器、肝臓臓などの臓器に異常はなかつた。中山医師らは、右の所見とこれまでの経過から、何らかの原因で腸管の運動が不全となり、それが上部の胃に影響を及ぼして、胃が急激に膨満し、胃拡張の症状を起したものであり、これ以上の外科的処置を行なう必要はないと一応考えたが、虫垂に多少のゆ着が認められたため、原告敬三を手術室に招き入れ、手術所見を説明し、同人の了解をえて虫垂を摘除し、手術を終了した。なお、右の腸管運動の不全麻痺を起した原因の解明は困難であつた。

8 手術後、血圧はほぼ正常にもどり、循環状態も改善され、一三日は、一般状態に特別の変化はなく、胃管を留置したままワゴス、熱気、浣腸の保存的処置、胃洗浄、酸素吸入、点滴が行なわれた。なお、手術後、電解質の検査も行なわれ、クロール値は正常でカリウム値が正常より若干低いことが認められたが、点滴により補なえるものであり、特に新たな処置を必要とするほどではなかつた。一四日も一般状態には特別の変化はなく、前示の処置が継続してとられていたが、午後一一時には自然排便をみ、次第に腸管運動も回復しつつあることがうかがわれた。一五日も同様であつたが、胃管による排出液の量も減少し、次第に全身状態も回復してきた。一六日に至り、右全身状態の回復も顕著になつてきたため、ワゴス、熱気、浣腸、点滴は継続されたが、午後一時、中山医師の指示により酸素吸入、胃管の留置は中止された。そして、午後一時三〇分より、試験的に白湯一〇CCの経口摂取が開始されたが、経過を観察するも悪心、嘔吐なく、また、午後五時三〇分までに白湯一〇〇CCの経口摂取が行なわれたが、無事おさまつたので一七日より、流動食の経口摂取が開始されることとなつた。右一六日には、千葉医師、生駒医師も亡道代を見舞いに訪ずれたが、亡道代はベツドの上に座れる状態で、両医師とも亡道代の全身状態が回復しつつあることを確認した。一七日には、流動食の経口摂取が開始されたが、無事おさまり、また、ワゴス、熱気、浣腸、点滴も継続して行なわれた。

9 一八日午前亡道代より悪心の訴えがあり、中山医師が診察したところ、心窩部に軽度の膨隆があり、手術前の状態が再発しつつあると判断されたので、午前一〇時三〇分、再び、胃管留置、胃洗浄の処置がとられた。一九日、午前五時に至り、亡道代の消化管から出血し、顔面蒼白となり、気分不良を訴え、血圧も八〇ないし六〇に低下して、シヨツク症状を起し、容態が悪化し始めた。午前五時三〇分、中山医師が来院し、輸血、酸素吸入、止血剤、副腎ホルモンの注射など回復のための処置がとられたが、急性副腎不全によるとみられる消化管からの多量の出血を起していたため、循環不全、腎不全を起して、二〇日午前五時五五分死亡するに至つた。

三次に被告病院の生駒医師らに原告ら主張のような診療過誤があつたかどうか判断する。

1 原告らは、亡道代の疾患は、自家中毒性の消化不良から移行した機能的急性胃拡張であり、麻痺性腸閉塞ではなく、この点訴外生駒医師らは診断を誤まつた過失があると主張する。前掲甲第四号証によれば、急性胃拡張の症状として、

(一) 自覚症状として疼痛は出現が緩徐で、激烈な事はまれであり、心窩部やへそ部付近に限局することが多い。

(二) 自覚症状として嘔吐或は胃内容の逆流は重要な症状であるが、最初は少量の胃内容が頻繁に逆流し、胃が大きく拡張してから量の多い、とどまらない嘔吐がくり返される、然し、嘔吐は一般のけいれん性嘔吐運動を伴うものではなく、多量の胃内容が溢れ出てくるようにはき出され、患者は嘔吐そのものによりそれほどの苦痛を感じないのが普通であり、嘔吐によつて自覚症状の軽快は見られないのが原則である。

(三) 吐物ははじめ緑色緑褐色であるが、後には褐色、黒色となり、血液を混ずることはまれで糞臭のないのが原則である。

(四) 上腹部、更に進行すると、腹部全体が膨隆し、拡大した胃が肉眼でみられ、触知できるようになる。

(五) 聴診すると腸雑音ははじめ聴取できても後には消失し、打診により振水音を証明することがある。

(六) レントゲン単純撮影によつて、著しく拡張した胃にガスと液体が充満して、ほとんど全腹腔を占めているのが証明され、また十二指腸もガスや液体が充満して拡張しているのが普通である。

ということが挙げられており、前示二の認定事実及び<証拠>によれば、一二日後までの亡道代の症状は、右の急性胃拡張の症状の特徴と合致する点(最初は少量の胃内容が頻繁に逆流すること、腹部全体の膨隆、嘔吐自体による苦痛はそれほどないこと、嘔吐による軽快は見られないこと、排出された胃内容の色、腸雑音の消失等)と合致しない点とがある。

ところで、手術時の所見で急性胃拡張の症状があつたことは被告も認めており、また、前示二の認定事実中、特に、入院当時から腸管運動が減弱していたこと、入院後も当初は膨満感を訴えるのみで、外見的にも顕著な腹部膨隆が認められるのは一二日の午後七時か八時ごろからであること、吐気は持続するも腹痛はなかつたこと、手術時の所見でも胃に強度の拡張がみられるが腸管運動も不全で、腸管自体にも中程度の膨隆があつたこと、更に、一二日夜の時点でも、前記(二)の量の多いとどまらない嘔吐の繰返し、(四)の拡大した胃が肉眼で見られ触知できること、(六)の症状はいずれも認められなかつたことを考えれば、前記の胃拡張症状との合致の点、胃内容物吸引により亡道代の症状が改善に向つたことにより、直ちに、亡道代の疾患を急性胃拡張だけに推定するのは合理的ではなく、むしろ、亡道代の右急性胃拡張の症状は、腸管の運動不全を基盤にして起つた消化管麻痺の部分的症状と推定するのが妥当であると考えられるのであり、したがつて、原告らの前記主張は理由がないことに帰する。

2 原告らは、急性胃拡張に移行したとみられる一二日午後一時ごろからは、これに対応して、胃内容物の吸引、胃洗浄の処置をとるべきであつたにも拘らず、被告病院の医師らはこれをみすごし、ただワゴス、熱気、浣腸などの保存的処置をとつただけで、亡道代の病状を手術をせざるをえない状況まで悪化させた過失があると主張する。

<証拠>には、急性胃拡張には胃管による胃内容の吸引、胃洗浄が効果がある旨の記載があり、前示二のとおり、被告病院は一二日夜までワゴス、熱気、浣腸の保存的処置をくり返している。しかしながら、前示二の認定事実中、特に急性胃拡張の一症状とみられる腹部膨満が顕著になつたのは一二日午後七時か八時ごろからであること、生駒医師も手術前に右保存的処置を試みていること、手術前に胃管留置による胃内容物の吸引が行なわれ、術中にも、胃内容のみならず腸管上部の内容物の吸引も行なわれていること、手術後亡道代の状態は一時改善の方向に向つたこと、前示1のとおり、亡道代の急性胃拡張は腸管の運動不全を基盤としたものと推定されることを総合考慮すれば、一二日夜までの前示二認定の被告の一連の処置に原告ら主張のような過失があつたと認定するのは困難であり、他にこれを認めるに足る証拠はない。

3 原告らは、急性胃拡張に対する配慮を怠たり虫垂摘除をしたこと、また、胃管の中止時期、経口摂取の開始時期を誤まつた旨主張する。

まず、虫垂摘除について考えるに、前示のとおり、右摘除について、原告敬三に了解をえたことは当事者間に争いなく、また、<証拠>によれば、虫垂摘除の手術により、急性胃拡張又は麻痺性腸閉塞を起す可能性があることが認められるが、前掲被告代表者中山本人尋問の結果によれば、亡道代の虫垂には炎症までは起していなかつたが多少のゆ着があつたこと、開腹手術後虫垂がゆ着して炎症を起す場合もあり、この場合、再手術も困難となり、治療も極度に困難となること、開腹手術及び腸管の徒手的検索に比べて虫垂摘除による侵襲の影響は極く微かなものであることが認められ、右事実からすれは、本件について虫垂を摘除したことは正当な理由があつたと認められるのであり、他に右虫垂摘除が亡道代の症状悪化の何らかの原因となつたと認めるに足る証拠はなく、この点についての原告らの主張は理由がない。

次に胃管の中止時期、経口摂取の開始時期について考えるに、<証拠>によれば、急性胃拡張の場合、経口摂取は禁忌であり、胃管留置による胃内容物の吸引が有効な治療方法であることが認められるが、前示二の認定事実中の、一六日午後一時胃管留置が中止され、一七日朝より流動食の経口摂取が開始されたこと、一五日より亡道代の全身症状に次第に改善がみられたこと、一六日午後一時より白湯が経口摂取されたが無事おさまつたこと、一七日も一般状態に変化はなかつたこと、また、被告代表者中山本人尋問の結果によれば、ある程度の回復がみられた段階では栄養的にも不十分な非経口摂取よりも、経口摂取によつた方が腸管運動の回復についても効果があることも認められ、右事実を総合すれば、一八日午前から亡道代の症状が再び悪化したという結果から、直ちに、被告病院の右処置が誤まつたものであると認めるのは困難であり、他に、右胃管留置の中止時期及び経口摂取の開始時期が早期でありすぎたため、亡道代の病状の再悪化を誘発したと認めるに足る証拠はないので、原告らのこの点の主張も理由がない。

4 原告らは、亡道代のような重篤な状態の患者を経験の浅い、しかも専門外の依藤医師に任せたこと自体が被告病院の過失であると主張する。

前示二の認定のとおり、依藤医師は当時医師経験二年余りで専門は産婦人科であり、一一日午後二時ごろより一二日午後九時ごろまで当直医として亡道代の診療にあたつていた。しかしながら、前示二の一一日午後から一二日夜までの亡道代の症状と診療経過、特に、生駒医師は一二日午前に被告病院に連絡し、亡道代の容態について確かめていること、同医師も右時点では、亡道代の状態をそれほど重篤なものとは考えていなかつたこと、亡道代の病状が急激に悪化したのは午後七時か八時ごろからであり、生駒医師は午後一〇時三〇分ごろには、被告病院からの連絡により、急拠来院していることを考えれば、被告病院が亡道代の治療を依藤医師にのみ任せていたものではなく、また、依藤医師のとつた処置が誤まりであつたとは認められないので、結局、原告らの右主張は理由がない。

四以上のとおり、被告は亡道代の診療につき、善管注意義務に違反する債務不履行の責任又は不法行為責任があるとはいえないので、その余の点について判断するまでもなく、原告らの本訴請求はいずれも理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(林繁 砂川淳 福島節男)

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