大阪地方裁判所 昭和47年(む)299号 決定
主文
本件準抗告の申立を棄却する。
理由
一、本件準抗告の申立の理由は別紙(一)のとおりである。
二、大阪地方検察庁検察官が、被疑者中川芳之に対する覚せい剤取締法違反被疑事件につき、昭和四七年七月二七日大阪地方裁判所裁判官に対し勾留請求をしたところ、翌二八日同裁判所裁判官藤田清臣が別紙(二)のとおり逮捕状請求手続に違法があるとして、勾留請求却下の裁判をしたことは、記録上明らかである。
三、そこで、本件逮捕状請求手続に違法があったかどうか、又、そのために、本件勾留請求も許されないものであったかどうかにつき検討してみる。
(一) 本件被疑事実の要旨は、被疑者が法定の除外事由なく昭和四五年九月下旬頃、山田義明より覚せい剤粉末約一〇グラムを代金一六万円で譲り受けた、というにあって、被疑者に対しては、昭和四六年一月一四日に有効期間一ヵ月の逮捕状が発せられ、以後その逮捕をみないまま同年二月一二日、五月一二日、八月一二日、一一月一二日、同四七年二月一二日にそれぞれ有効期間を三ヵ月とする逮捕状が発せられたがなお逮捕に至らなかったため、さらに同年五月一二日大阪地方裁判所裁判官より被疑者につきその職業、住居を不詳として有効期間三ヵ月(昭和四七年八月一二日まで)の逮捕状が発付されたものである。
(二) ところで昭和四七年五月一二日付逮捕状請求書によると、同請求書には被疑者の職業、住居は不詳、被疑者は所在不明であり、捜査に長期間を要すると記載されており、これを疎明する新らたな資料としての司法警察員作成の同月一一日付「覚せい剤違反者に対する所在捜査復命書」(以下単に捜査復命書という。)には「本籍地の親許に赴き、所在について捜査したところ、息子は極道で家には全然立ち寄らず、大阪方面でバクチ場等に出分りしているとの聞き込みを得たので、賭場及び西成、新世界方面の安宿、アパート等について聞き込み捜査したが、現在のところ所在が判明せず引き続き捜査中である。」旨記載されている。
しかるに原審裁判官が勾留質問を契機に被疑者、その妻(A子)および被疑者の両親(B男、C子)につき事実の取調をなした結果によると、同人らは、ほぼ一致して、被疑者は妻子とともに昭和四六年一一月頃横須賀より京都に帰り、しばらく妻の実家やアパートに居住していた(その期間は長くとも二ヵ月ぐらいと解せられる。)が、その後京都市××区○○○○××町一〇三番地の被疑者の実父方に居住し、かつ帰郷後は実父の造園業の手伝いをしていた旨供述し、また両親はいずれも、被疑者が京都に帰ってからのち警察官に被疑者の所在等をきかれたことはなく、前記捜査復命書記載の内容の事実を述べたこともない旨の供述をしている。
そこで、捜査復命書の内容が事実に反するのではないかとの疑いをいだいた原審裁判官は、警察官からも事情を聴取すべく、昭和四七年七月二七日前記捜査復命書および同年二月一〇日付捜査復命書(同月一二日発付の逮捕状請求の資料となったもので、これにも、両親に被疑者の所在について聴取すると「極道息子は全然帰ってきていません。家を借りるからと言っていたが、どこに住んでいるのかわかりません。」とのことであった旨記載されている。なお、昭和四六年一一月一一日付の捜査復命書にも同旨の記載がある。)の作成にあたった西成警察署所属の警察官二名の出頭を求めたが不在であったので、その上司に事情を説明し、同人から翌二八日午前一〇時に右二名を出頭させるとの確約を得て疑問の解明に努めたが、それにもかかわらず、同日午後二時ごろまでに右の二警官はいずれも出頭せず、その他責任ある連絡もなかったので、結局事情聴取は不可能となり、勾留請求却下の裁判をするに至ったことが認められる。
(三) 以上の事実および本件申立をなした検察官が、捜査官が被疑者の家族らに会うには、その身分をいつわっているのが通常であるから、そのさい被疑者の家族らが被疑者の所在が不明であると返答したとも考えられる旨主張するのみで、本件の捜査復命書の内容につきいだかれた疑問を解消させるに足る何らの具体的資料を提出しないことにかんがみれば、本件捜査復命書の証明力は乏しいものと考えるほかなく、本件逮捕状請求当時の被疑者の職業は造園業手伝い、住居は実父方であったと推認するのが相当であって、被疑者の職業、住居を不詳として逮捕状の発付を請求した手続には、警察官の責に帰せられるべき瑕疵があったものというべきである。そして、本件被疑事実の罪質、態様、被疑者の経歴、家族関係、その他の事情に照らすと、右瑕疵が、本件逮捕状発付に際し、逮捕の必要性についての裁判官の適正な判断を誤らせるに足りる重大なものであったことはいうまでもないところである。
四、してみれば、本件は逮捕状請求手続に相当の違法があって、それに基づいて発付された逮捕状による逮捕が違法であり、この違法な逮捕を前提とする勾留請求も許されるべきではない場合というべきであるから、これと同趣旨の原裁判は相当であり、本件準抗告の申立は理由がない。
よって、刑事訴訟法第四三二条、第四二六条第一項によりこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 久米川正和 裁判官 堀内信明 勝又護郎)
<以下省略>