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大阪地方裁判所 昭和47年(ワ)1135号の4 判決 1974年3月30日

原告

千代田化工業株式会社

右代表者

黒田重治

被告

岩瀬ビニール工業株式会社

右代表者

岩瀬恵保

右訴訟代理人弁護士

雨宮正彦

右輔佐人弁理士

滝野秀雄

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一原告がつぎの特許発明(本件特許発明)の特許権者であることは当事者間において争いがない。

名称 軟質合成樹脂合着耐圧ホースの製造法

特許番号 第二九九一八六号

出願 昭和三四年七月七日

出願公告 昭和三六年七月四日(昭三六―九五九一)

登録 昭和三七年五月二六日

特許請求の範囲 「本文に詳記し図面に示すように、軟質の熱可塑性合成樹脂管を適長に切断したものの中に空気その他の圧力媒体を充填封緘したものを内管となし、これに各種繊維の筒ネツトを套嵌したものをヒーター内に通し、その内管の表面を加熱軟化させ乍ら押出成形機のヘッドを通し、同ヘッドのダイスを通るときにその外周に、ダイスから形成して押出される別の合成樹脂外管を套嵌合着して三層一体となし、次いで冷却して製品となす軟質合成樹脂合着耐圧ホースの製造法。」

二被告販売にかかる耐圧ホースが本件特許発明の目的とする軟質合成樹脂合着耐圧ホース(内管と外管が合着したもの)に該当するか否かの点はしばらくおき、原告が本件特許発明の技術的範囲に属する方法により製造されたと主張する被告販売の耐圧ホースが、真空ポンプの点を除き、基本的には別紙(イ)号図面及びその説明記載の装置により製造されていること、右装置において使用されている押出成形機(押出機及びクロスヘツド)が本件特許出願当時普通に用いられていた公知のものであること、並びに右装置においてはクロスヘツドには電熱コイルを内蔵したバンドヒーター(15)(16)(17)が設置されているが、右バンドヒーター以外には外管套嵌に先立つて内管表面を加熱するヒーターは設置されていないことは、いずれも当事者間において争いがない。

三外管套嵌前各種繊維の筒ネツトを套嵌した内管を「ヒーター」内に通すことが、本件特許発明の必須の構成要件であることは、本件特許請求の範囲の記載からみて明らかである。

原告は、本件特許請求の範囲にいわゆる「ヒーター」は、内管に外管を套嵌する直前に内管表面を加熱軟化させるに足りる作用効果を有するヒーターをすべて包含するから、右バンドヒーター(15)(16)(17)がこれに該当する旨主張する。これに対し、被告は、本件特許発明は、外管を套嵌する工程において、内管が押出機のヘツドというそれ自体の熱を有するところを通過するにしてもそれとは別に予熱工程を設け、押出機のヘツドに入る前に内管の表面を加熱軟化させておくという工程を経ること、すなわちヘッドの前に別のヒーターを設置することを必須の構成要件としているから、元来それ自体の構造上当然に右クロスヘツドに設置されているバンドヒーター(15)(16)(17)は、本件特許請求の範囲にいわゆる「ヒーター」に該当しない旨主張する。そこで、以下本件特許請求の範囲にいわゆる「ヒーター」の内容について検討する。

四昭三一―三二九六号特許公報によれば、本件特許出願前、本件特許発明の目的物同様合成樹脂内管に繊維の筒ネツトを套嵌しさらにその上から合成樹脂外管を套嵌した耐圧ホースが既に開発されていたこと、及びこの種のホースにおいてその内管と外管との接着を密にするための手段として、繊維の筒ネツト等補強層を施しかつ適宜の内圧を加えた合成樹脂内管を、加熱した合成樹脂糊槽の中に通して同糊をその表面に付着させ、ついで押出成形機のヘッドのダイスに導くが、その際まず同ダイス中に設置されたガスバーナーで加熱し(結局、内管表面は加熱糊槽とガスバーナーで加熱軟化される)、その直後に溶融合成樹脂を被覆套嵌する方法が既に開示されていたことが認められる。そして、昭三六―九五九〇号特許公報によると、合成樹脂管を基本管として、これに布管を被せた管に対し、さらにその上に加熱溶融合成樹脂を塗着し成層被覆せしめる被覆加工法において、加熱溶融合成樹脂塗着時における基本管の管形保持のため、基本管内に空気・水・油等の流体を圧入しておいてこれを行うことを特徴とする合成樹脂製管を基本管とする管の被覆加工法の発明が、本件特許出願前既に出願されていた事実が認められる。

五本件特許公報によれば、本件特許出願書に添付された明細書に記載の発明の詳細なる説明中に、本件特許請求の範囲にいわゆる「ヒーター」なるものの具体的内容ないしその作用効果に関係があると考えられる記載として、つぎの如き記載があると認められる。

(1)  「次にその内管を、そのまま若しくは外周に任意の筒ネツト芯を套装した状態にて加熱帯を通過させることにより、少くともその表層のみを軟化せしめ、軟化状態を持続せしめ乍ら押出成形機のヘツド中を通し、同ヘツドの中心部を通過するときに、その外周に該ダイスから押出される熱可塑性合成樹脂の管状体(外管)を套嵌合着し……」

(2)  「予じめ製出した合成樹脂管を、押出成形機のヘツドに通してその外周に別の合成樹脂管を合着させ、肉厚を大きくした耐圧ホースを造ることは従来公知の方法であるが、使用される合成樹脂の内管そのものが、軟質のしかも中空体である為に、それを二次的に合成樹脂にて外装合着させると、そのときに内管が外力で歪曲、変形して外管との合着が不均一となり、また合着両層の間に気泡状瑕疵が生じて合着が非常に悪く、加うるに内管は一旦硬化せしめた軟質可撓性のものをそのまま用いられているので、合着に時間を徒費し能率もよくない。」

(3)  「併し本発明方法によると、内管の中に予じめ空気や水などの圧力媒体を封入し、その内在にて内管の断面形を可及的一定に保形し、しかもこれを加熱して表層を軟化させてから押出成形機のヘツドに通して別の合成樹脂外管を外周に被着せしめるので、この合着時に内管はその中の圧力媒体により大きな応力を示し、従つて外管の成形圧力にて内管が歪曲、変形する欠陥を無くすると共に内管の表層が既に軟化されている為外管との融合着が非常に均一且合理的に行われ、以て耐圧性を向上された優秀なホースが比較的短時間裡に得られる。」

(4)  「本発明の実施に際しては、先ず内管となる所望口径の軟質ビニールパイプ1を……切断し、その一端を……密閉し、他端開口部から……流体を充填して閉口端を密封し、これに第二図のような真田編の筒ネツト芯……を、その全長に互つて套嵌し、……その一端から順次に電熱線を内装した筒状ヒーター5内に通し、その時の通過速度を材質或は内管径の大小などで多少の相違はあるが、通常一〇米/Secに調整し内管1の外層を合着し易い程度に加熱軟化させ乍ら直ちに押出成形機のヘツド6に通し、同ダイス7の中心部から出るときに、ダイス7から成形して押出される塩化ビニール樹脂パイプ3で外装すると同時に、まだ軟化状態にある内、外両管1、3を一体に合着し……。猶上記ヒーター5内の温度は目的とする内管1の軟化点よりも高く、融点よりも低い一五〇〜二〇〇度Cを至当とする。」

六右摘記の詳細なる説明中の各記載ならびに前記公知技術及び先願発明を総合して考えると、つぎの事実が認められる。すなわち、本件特許出願時においては、本件特許発明の目的とする「三層一体となし軟質合成樹脂耐圧ホース」は勿論、その製造方法として、合成樹脂内管に各種繊維の筒ネツトを套嵌し、これを押出成形機のヘツドを通してその外周に別の合成樹脂管を合着させる方法さえも既に一般に知られていた。しかし、この従来方法によるときは、内管が外力で歪曲、変形して外管との合着が不均一となつたり、合着両層の間に気泡状の空隙が残存する等の瑕疵が生じやすいうえ、合着に時間を要するという欠点があつた。本件特許発明は、右従来方法を基本的には採用するが、内管に①空気等の圧力媒体を充填封緘したうえ、②押出成形機のヘツドに通す前にヒーターでその表面を加熱軟化させる、という二工程を付加することにより右従来方法の欠点を克服し、外管の成形圧力によつて内管が歪曲・変形することを防止し、かつ内管表面をあらかじめ較化させているため、内管と外管との融合着を均一かつ比軟的短時間に行なわしめることを可能とした。

しかし、本件特許請求の範囲中にも発明の詳細なる説明中にも、本件特許発明において用いられる押出成形機のヘツドの構造(ないし特別な機能)についての説明が全くないから、本件特許発明は従来方法において用いられていた普通のヘツドを使用することを当然の前提としていることは明らかであり、右普通のヘツドは(イ)号図面及びその説明書記載の装置における押出機のクロスヘツドの如く、溶融合成樹脂が冷えて固化しないよう適温保持のためのヒーターを通常具備していたことは当事者間に争いがないから、本件特許請求の範囲にいわゆる「ヒーター」とは、右普通のヘツドに備え付けられる通常のヒーターは含まれず、これとは別に内管がヘツドに入る直前にその表面を加熱軟化するためのヒーターを指称しているものと解さざるをえない。

(イ)号図面及びその説明書記載の装置において使用されている押出機及びクロスヘツド(バンドヒーター(15)(16)(17)を含む)が本件特許出願当時普通に用いられていた公知のものであり、右装置には右バンドヒーター以外には外管套嵌に先立つて内管表面を加熱するヒーターが設置されていないことは当事者間に争いがないから、被告販売の耐圧ホースの製造方法は、本件特許発明の必須の構成要件である外管套嵌前各種繊維の筒ネツトを套嵌した内管をヒーター内に通すという工程を欠如していることが明らかであり、したがつて、本件特許発明の技術的範囲に属さないものといわざるをえない。右バンドヒーター(15)(16)(17)は本件特許請求の範囲にいわゆる「ヒーター」に該当しないことは勿論、その均等物ということもできない。

原告は、本件特許請求の範囲にいわゆる「ヒーター」は、内管表面を加熱軟化させるに足りる作用効果を有するヒーターをすべて包含する旨主張するが、前記のとおり、従来の方法の欠点(特に、合着に時間を徒費し能率もよくない点)を解決するため、本件特許発明は、外管を套嵌する工程において、内管が排出機のヘツドというそれ自体の熱を有するところを通過するにしてもそれとは別に予熱工程を設け、押出機のヘッドに入る前に内管の表面を加熱軟化させておくという工程を特に付加したのであるから、本件特許発明にいう「ヒーター」には本件特許出願当時普通のヘツドに備え付けられていた通常のヒーターは含まれないものといわざるをえない。

七以上のとおりであるから、被告販売にかかる耐圧ホースの製造方法が本件特許発明の技術的範囲に属することを前提とする原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

また、被告が(イ)号製品説明書記載の耐圧ホースを自ら製造している事実を認めるに足りる証拠はないから、右事実を前提とする原告の請求も理由がない。

八よつて、原告の被告に対する本訴請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(大江健次郎 楠賢二 庵前重和)

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