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大阪地方裁判所 昭和47年(ワ)2190号 判決 1974年3月14日

原告

井上良一

被告

勝山真延

主文

一  被告は原告に対し、金二、六七七、九三八円およびうち金二、四二七、九三八円に対する昭和四七年五月二七日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その三を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は原告に対し、金四、二九四、七〇四円およびうち金三、八九四、七〇四円に対する昭和四七年五月二七日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言。

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

との判決。

第二請求原因

一  事故の発生

原告は、次の交通事故により、次のような傷害を受けた。

(一)  日時 昭和四五年七月一〇日午前三時一五分ごろ

(二)  場所 三重県多気郡大台下楠国道四二号線路上

(三)  加害車 ライトバン(大阪四る二七五二号)

右運転者 被告

(四)  被害者 原告

(五)  事故態様 被告は加害車を運転中に道路左側ガードレールに衝突した(原告は加害車に同乗していた)。

(六)  傷害の内容 左大腿下端部開放性複雑骨折

二  責任原因

(一)  運行供用者責任(自賠法三条)

被告は、加害車を所有し、自己のため運行の用に供していた。

(二)  一般不法行為責任(民法七〇九条)

被告は、加害車を運転中車内にある果実を探すために脇見をして前方に対する注視を怠つた過失により本件事故を発生させた。

三  損害

原告は、本件事故により、次の損害を被つた。

(一)  治療費 七四六、七七四円

(1) 昭和四五年七月一〇日から同年一一月一八日まで大台厚生病院に入院し、治療費五五八、八二六円を支払つた。

(2) 昭和四六年一月八日から同年二月二六日まで大阪市立住吉市民病院に入院し、同年二月二七日から同年一一月三〇日まで通院して治療を受け、治療費七四、七四八円を支払つた。

(3) 昭和四六年三月から昭和四七年四月まで岡崎治療院で通院治療を受け、治療費一一三、二〇〇円を支払つた。

(二)  付添費 二五七、九〇〇円

(三)  入院雑費 七六、四〇〇円

(1) 大台厚生病院での一三二日間の入院中は自宅から遠方でもあるため一日五〇〇円の割合の費用を要した。

(2) 住吉市民病院での五二日間の入院中は一日二〇〇円の割合の費用を要した。

(四)  通院交通費 二〇一、六三〇円

(1) 原告は、本件事故当時大阪府藤井寺市小山五丁目一一―一二に居住していたので住吉市民病院に通院するためには原告は歩行困難であつたためタクシーを使用せざるをえなかつた。昭和四六年二月二七日から同年六月三〇日までの前に一一三回通院し、タクシー料金は片道七七〇円で合計一七四、〇二〇円を要した。

(2) 原告は、昭和四六年七月一日から現住居地に転居したのでその後は地下鉄を利用した。昭和四六年七月一日から同年一一月三〇日までの間に八二回通院し、地下鉄の料金は往復八〇円で合計六、五六〇円を要した。

(3) 原告は、昭和四六年三月から同年一二月までの間岡崎治療院に一六九回通院して電気マツサージを受け、そのための地下鉄の交通費一八、五九〇円を要した。

(五)  休業損害 一、〇八〇、〇〇〇円

原告は、本件事故当時有限会社井上兼商店の取締役として一カ月九〇、〇〇〇円の給与を得ていたが、本件事故による傷害のため、昭和四五年七月一〇日から昭和四六年六月三〇日まで休業を余儀なくされ、一カ月九〇、〇〇〇円の割合による一二カ月分合計一、〇八〇、〇〇〇円の収入を失つた。

(六)  慰藉料 二、〇〇〇、〇〇〇円

原告は、本件事故により、左大腿下端部開放性複雑骨折の傷害を受け、大台厚生病院、住吉市民病院を通じて合計一八五日間入院し、当初は医師から左大腿部切断を申し渡されたほどであつたが、切断は免れたものの、左足が事故前のように自由でなく、昭和四六年七月からは勤務しているが、一日平均五時間程度勤務するのが精一杯で、一時間も坐つていると苦痛のためマツサージをしなければならない状態で、自賠法後遺障害等級には該当しないが、労働能力は三〇パーセント減少している。また、本件事故により、原告は、原告ともに有限会社井上兼商店を経営していた父兼吉を失ない、原告の長期間にわたる休業のため右商店は昭和四六年度は二八四、九三九円の赤字を出すに至つた。右の事情によると、本件事故による原告の慰藉料は二、〇〇〇、〇〇〇円が相当である。

(七)  めがね代金 三二、〇〇〇円

(八)  損害の填補 五〇〇、〇〇〇円

原告は、本件事故による損害賠償として自賠責保険から五〇〇、〇〇〇円の支払を受けた。

(九)  弁護士費用 四〇〇、〇〇〇円

原告は、本訴の提起追行を原告訴訟代理人らに委任し、着手金として一〇〇、〇〇〇円を支払い、報酬として認容額の一割を支払う約束をした。

四  結論

よつて、原告は被告に対し、原告が受けた前記損害の合計額と損害の填補額との差額四、二九四、七〇四円およびうち弁護士費用を控除した三、八九四、七〇四円に対する本件訴状が被告に送達された日の翌日である昭和四七年五月二七日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三請求原因に対する被告の答弁

一  請求原因一項の事実中、(一)ないし(五)の各事実は認める。(六)の事実のうち原告が本件事故により傷害を受けた事実は認めるが、その内容は不知。

二  請求原因二項の事実中、(一)の事実は認めるが、(二)の事実は争う。

三  請求原因三項の事実中、(八)の事実は認めるが、その余の事実はすべて争う。

第四被告の好意同乗による減額の主張

被告と原告経営の有限会社井上兼商店とは以前から洋服卸売買の取引関係があり、原被告は十数年来の親しい間柄であつて、いずれも魚釣りを趣味にしている関係から毎月二、三回は被告運転の自動車に原告が同乗して魚釣りに出かけていた。そして、本件事故は、右のような魚釣りに行く途中に発生したものである。すなわち、原告は、典型的ないわゆる無償好意同乗者であつて、被告と共同して加害車の運行利益を享受していたものである。そして、本件において、原告は加害車を運転する予定はなかつたけれども、加害車を往復の交通の用に供することにし、また目的地についても運転者である被告と協議して決めたのであるから、少なくともその限りで加害車の運行支配の一端を担つていたことが明らかであり、原告は本件事故につき被告との関係で完全な他人の地位にあつたとはいえず、その四割を喪失しているとみるのが公平の観念に適し、従つてその損害の四割を減額するのが相当である。

第五被告の主張に対する原告の答弁

本件事故が井上兼商店の出入業者である被告とともに魚釣りに行くために被告運転の加害車に原告が同乗しているときに発生したいわゆる好意同乗中の事故であることは認めるが、そのことを理由に原告の損害につき減額すべきであるとの被告の主張は争う。

第六証拠関係〔略〕

理由

一  事故の発生

請求原因一項の事実中、(一)ないし(五)の各事実および本件事故により原告が傷害を受けた事実は当事者間に争いがない。

二  責任原因

請求原因二項(一)の事実については当事者間に争いがないとすると、被告は原告に対し、運行供用者として本件事故によつて生じた原告の後記損害を賠償すべき義務がある。

三  好意同乗による減額の主張に対する判断

〔証拠略〕によると、被告は原告およびその父兼吉が営む有限会社井上兼商店と取引関係があり、また原告と被告とは魚釣り仲間であつて、本件事故は、被告運転の加害車に原告および右兼吉が同乗してともに魚釣りに行く途中に発生したもので、いわゆる好意同乗中の事故であるところ、先行は当初から決つていたものであり、また原告の指示により道順を変更したとか、原告が運転方法について指示したとかなど具体的に運転に対して原告はなんら指示していないこと、目的地への往路復路とも被告が加害車を運転する予定であつて原告は運転する予定はなかつたこと、それに、運行目的は被告も同じであつてもつぱら原告の利益のためだけのものというのではなかつたこと、むしろ被告の得意先である原告および右兼吉へのサービス的色彩を含むものであつたと考えられることが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

右の事実によると、原告は、加害車に好意同乗していたというだけであつて、その運行支配について他に特段の事情がなく、また運行利益についてもそのすべてが原告に帰属していたわけでもないから、原告が被告主張のように、加害車に対して割合的にしても運行供用者性を有していた(その理論的当否はおくとして)とは認められず、また右事実のもとでは、原告の損害について一定割合の減額をしなければ公平の観念に反するとも考えられない。従つて、被告の好意同乗による減額の主張は理由がないが、原告の右好意同乗していた事情は慰藉料には影響を与えるので、原告の慰藉料額算定に当つて斟酌することとする。

四  損害

(一)  治療費 七四四、一五三円

〔証拠略〕によると、原告は、本件事故により、左大腿下端部開放性複雑骨折の傷害を受け、事故当日から昭和四五年一一月一八日までの一三二日間事故現場近くの大台厚生病院に入院して治療を受け、同病院は自宅から遠方で不便であつたことなどから同日退院して帰宅したが、大阪市立大学付属病院で診察を受けた結果入院を要するとのことで住吉市民病院を紹介されたものの同病院の入院患者用のベツトに空きがなかつたためすぐには入院できず、その後昭和四六年一月八日から同年二月二六日までの五〇日間同病院に入院して治療を受け、退院後も同年二月二七日から同年一一月三〇日までの間に一九〇回通院して治療を受けたこと、そしてその間昭和四六年三月から昭和四七年四月までの間に二八三回岡崎治療院でマツサージ治療を受けたこと、右の各治療と機能回復訓練に対する原告の多大な努力の結果その後の治癒経過は良好であるが、長時間立つていると苦痛で、また左膝の屈伸がやや不自由なので仕事上布を裁断するときなどに不便を感じること、原告は、右の治療費として、大台厚生病院関係で五五六、二〇五円、住吉市民病院関係で七四、七四八円、岡崎治療院関係で一一三、二〇〇円合計七四四、一五三円を要求したことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

(二)  付添費 二〇一、七二五円

〔証拠略〕によると、原告は、前記大台厚生病院に入院中付添看護を必要として、そのための費用として合計二〇一、七二五円を要したことが認められる。

なお、原告は、右病院を退院して前記住吉市民病院に入院するまでの期間および同病院入院中も付添看護を必要とした旨主張するが、右退院中の期間については、〔証拠略〕によつてはいまだ右期間中付添看護が必要であつたことを認めるに足らず、他にこれを認めるに足る証拠はなく、また右住吉市民病院入院中については、〔証拠略〕によると、付添看護を必要としなかつたことが認められる。

(三)  入院雑費 五四、六〇〇円

前項四(一)認定のとおり、原告は、本件事故による傷害のため、前記大台厚生病院に一三二日間、前記住吉市民病院に五〇日間合計一八二日間入院したが、その間一日三〇〇円の割合による合計五四、六〇〇円の入院にともなう雑費を要したことは、経験則上これを認めることができる。右金額をこえる分は本件事故と相当因果関係がないものと認める。

(四)  通院交通費 二七、四六〇円

(1)  〔証拠略〕によると、原告は、昭和四六年二月二七日から同年六月三〇日までの間に、住吉市民病院に通院するための交通費として少なくとも合計二、三一〇円を要したことが認められる。なお、原告は、右期間に右病院に通院するための交通費として右金額をこえる費用を要したことは推認に難くないが、本件全証拠によるその金額を認めるに足りない(右通院のすべての場合についてタクシーによる通院が必要であつたとは考えられない。)。

(2)  〔証拠略〕によると、原告は、昭和四六年七月一日から同年一一月三〇日までの間に八二回住吉市民病院に通院した交通費として計六、五六〇円、同年三月から同年一二月までの間に一六九回岡崎治療院に通院した交通費として計一八、五九〇円合計二五、一五〇円を要したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(五)  休業損害 一、〇六八、〇〇〇円

〔証拠略〕によると、原告は、本件事故当時有限会社井上兼商店の取締役として少なくとも一カ月九〇、〇〇〇円の給与を得ていたが、本件事故による傷害のため、昭和四五年七月一〇日から昭和四六年六月三〇日までの三五六日間休業を余儀なくされ、次の計算のとおり、一カ月九〇、〇〇〇円の割合による合計一、〇六八、〇〇〇円の収入を失つたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

90,000円×356/30=1,068,000円

(六)  慰藉料 八〇〇、〇〇〇円

前記四(一)認定の原告の傷害の部位・程度、治療の経過および期間、および前記三認定の原告の好意同乗の事情、それに〔証拠略〕により認められる、原告は、左下肢の機能回復訓練のために多大の苦痛と努力を要したこと、本件事故により加害車に同乗していた父を失ないその葬儀にも参列できなかつたこと、ならびに本件事故の態様その他本件に現れた一切の事情を合せ考ると、原告が本件事故によつてこうむつた精神的損害に対する慰藉料額は八〇〇、〇〇〇円が相当であると認める。

(七)  めがね代金 三二、〇〇〇円

〔証拠略〕によると、原告は、本件事故により、その当時着用していためがねが破損して使用不能となり、それと同程度のめがねを購入するための費用として三二、〇〇〇円を要したことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

(八)  損害の填補 五〇〇、〇〇〇円

原告が本件事故による損害賠償として自賠責保険から五〇〇、〇〇〇円の支払を受けたことは当事者間に争いがない。

(九)  弁護士費用 二五〇、〇〇〇円

〔証拠略〕によると、原告は、被告が原告の前記損害を任意に弁済しないので本訴の提起追行を原告訴訟代理人らに委任し、その着手金と一〇〇、〇〇〇円を支払い、報酬として認容額の一割を支払う約束をしたことが認められるが、本件事案の性質、審理の経過および認容額などに照らし考えると、原告が被告に対し本件事故と相当因果関係のある損害として賠償を求めうべき弁護士費用額は二五〇、〇〇〇円が相当であると認める。

五  結論

よつて、原告の本訴請求は、被告に対し、前記四(一)ないし(七)、(九)の合計三、一七七、九三八円から同四(八)の損害填補額五〇〇、〇〇〇円を控除した二、六七七、九三八円およびうち弁護士費用を控除した二、四二七、九三八円に対する損害発生の後である本件訴状が被告に送達された日の翌日であることが本件記録上明白な昭和四七年五月二七日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 新崎長政)

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