大阪地方裁判所 昭和47年(ワ)3066号 判決 1979年5月07日
九〇一号事件原告(反訴被告) 葦原運輸機
三四九五号事件被告 工株式会社
九〇一号事件被告(反訴原告) 荒井明範 外二名
三四九五号事件原告 荒川一友 外九名
主文
1 昭和四七年(ワ)第九〇一号(本訴)事件原告(反訴被告)、同年(ワ)第三四九五号事件被告葦原運輸機工株式会社は
(一) 昭和四七年(ワ)第九〇一号(本訴)事件被告(反訴原告)荒井明範、同村田実および同尾崎正に対し
(1) 昭和四六年四月以降毎月七日限り、別表(四)の各当事者に対応する金員欄のそれぞれ前月分(イ)欄に該当する各金員ならびに右各金員に対する右各支払日の翌日から支払ずみまで、右各金員のうち(ロ)欄記載の各金員については年六分の割合による金員および(ハ)欄記載の各金員については年五分の割合による金員
(2) 別表(五)記載の各年月の末日限り、同表の各当事者に対応する金員欄の各年月に該当する各金員および右各金員に対する右各支払日の翌日から支払ずみまで年五分の割合による金員
(二) 前記荒井明範に対し金三六八二円、同村田実に対し金一三七九円、同尾崎正に対し金一八三八円、昭和四七年(ワ)第三四九五号事件原告岩本三喜夫に対し金二四二一円、同土江富雄に対し金二八四三円、同松浦正治に対し金三〇〇六円、同荒川一友に対し金九四八五円、同荒川克幸に対し金一万二五三〇円、同今井豊に対し一万二九八〇円、同栄昌明に対し金六二四五円、同花田幸一に対し金一万三二八〇円、同堀川和一に対し金八五四〇円および右各金員に対する昭和四六年七月一日から支払ずみまで年六分の割合による金員
をそれぞれ支払え。
2 前記葦原運輸機工株式会社の本訴請求、前記荒井明範、同村田実および同尾崎正の主位的請求、予備的請求を含むその余の請求、前記岩本三喜夫、同土江富雄、同松浦正治、同荒川一友、同荒川克幸、同今井豊、同栄昌明、同花田幸一および同堀川和一のその余の請求ならびに同安居三十於の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は本訴、反訴および昭和四七年(ワ)第三四九五号事件を通じ、前記葦原運輸機工株式会社に生じた費用の二〇分の一と前記安居三十於に生じた費用を右安居三十於の負担とし、右葦原運輸機工株式会社に生じたその余の費用と前記荒井明範、村田実、尾崎正、岩本三喜夫、土江富雄、松浦正治、荒川一友、荒川克幸、今井豊、栄昌明、花田幸一および堀川和一に生じた費用を右葦原運輸機工株式会社の負担とする。
4 この判決の第1項は仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 昭和四七年(ワ)第九〇一号(本訴)事件
1 請求の趣旨
昭和四七年(ワ)第九〇一号事件被告(反訴原告)荒井明範(以下被告荒井という)、同村田実(以下被告村田という)および同尾崎正(以下被告尾崎という)はいずれも昭和四七年(ワ)第九〇一号事件原告(反訴被告)同年(ワ)第三四九五号事件被告葦原運輸機工株式会社(以下原告会社または会社ともいう)の従業員でないことを確認する。
訴訟費用は被告荒井、同村田および同尾崎の負担とする。
2 請求の趣旨に対する答弁
原告会社の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告会社の負担とする。
二 昭和四七年(ワ)第三〇六六号(反訴)事件および同年(ワ)第三四九五号事件
1 請求の趣旨
(一) 原告会社は
(1) 被告荒井、同村田、同尾崎に対し
(イ) 昭和四六年四月以降毎月七日限り、別表(一)賃金一覧表記載の金員のうち各支払月の前月分に該当する各被告別の各金員および右各金員に対する各金員の支払月の八日からそれぞれ支払ずみまで年六分の割合による金員
(ロ) 昭和四六年八月以降別表(二)の一時金一覧表の年月欄記載の各月末日限り、各被告の年月に該当する各金員および右各金員に対する各金員の支払月の翌月一日からそれぞれ支払ずみまで年六分の割合による金員
(ハ) 被告荒井に対し金三六八二円、同村田に対し金一三七九円、同尾崎に対し金一八三八円および右各金員に対する昭和四六年一月一日から支払ずみまで年六分の割合による金員
(2) 昭和四七年(ワ)第三四九五号事件原告岩本三喜夫に対し金二四二一円、同土江富雄に対し金二八四三円、同松浦正治に対し金三〇〇六円、同安居三十於に対し金四万八〇一七円、同荒川一友に対し金九四八五円、同荒川克幸に対し金一万二五三〇円、同今井豊に対し金一万二九八〇円、同栄昌明に対し金六二四五円、同花田幸一に対し金一万三二八〇円、同堀川和一(以上の者をそれぞれ原告岩本などといい、一括して原告岩本ら一〇名という)に対し金八五四〇円および右各金員に対する昭和四六年一月一日から支払ずみまで年六分の割合による金員
をそれぞれ支払え。
(二) 訴訟費用は原告会社の負担とする。
(三) (一)について仮執行の宣言。
2 請求の趣旨に対する答弁
被告荒井ら三名および原告岩本ら一〇名の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は被告荒井ら三名および原告岩本ら一〇名の負担とする。
第二当事者の主張
一 昭和四七年(ワ)第九〇一号(本訴)事件の請求原因
1 当事者
原告会社は、本社、大正内港、泉北港、大分、水島および名古屋にそれぞれ事業部をおき、従業員約一四〇名で重量物の輸送・据え付け・解体、大型クレーンのリース、沿岸荷役、貨物保管等を営む株式会社である。
被告荒井、同村田および同尾崎の三名はいずれも会社の本社事業部に所属する従業員で、クレーンオペレーターとして業務に従事していた。
2 解雇の意思表示
会社は昭和四六年二月二〇日被告荒井、同村田および同尾崎に対しそれぞれ懲戒解雇する旨の意思表示をした。
3 解雇の理由
(一)被告荒井は
(1) 昭和四六年一月九日午後三時頃会社の栗山事業本部長から中谷浩司と共に会社社長左崎充に対する言葉遣いを注意されたのに反抗し、「お前は黙つとれ、関係ない。」などと暴言を吐く中谷を制止しようとした会社の前田庄市取締役に対し足げりするなどの暴行を加え、同取締役に精神的、肉体的苦痛を与えた。
(2) 昭和四五年一一月から会社構内にあるA地寮に被告村田、同尾崎と共に居住していたが、会社が火災予防の見地からA地寮における暖房具として電気櫓こたつのみの使用を許可し、その他の火気の使用を禁止していたにも拘らず、無断でプロパンガスボンベとコンロを持ち込み使用し、防火上極めて危険な行為に及んでいることを発見したので、他の寮室に居住する従業員への危険を回避するため、昭和四六年一月一一日プレハブ寮への移転を命じたところ、これに応じないばかりか、プロパンガス使用禁止の要求を無視して使用を継続した。
(3) 同年一月二六日午前七時四七分頃食堂で朝食をとつていたにも拘らず、タイムカードには午前七時二〇分出勤と打刻されているほか、同様のタイムカード不正打刻は数回に及んでいる。
(4) 同年二月二〇日午後四時頃被告村田、同尾崎と共に会社事務所において社長および前田取締役と会見したが、用件終了後も大声でわけのわからぬことを言い、事務所より退去せず、約一時間業務を妨害した。
(5) 昭和四五年九月二三日堺臨海工業地帯の三井泉北石油工場において、一三トントラツククレーンを運転中、他の車両に接触させて破損し、同年一一月二五日トラツククレーンにて作業中吊荷をバンバーとフエンダーに当て、翌二六日トラツククレーンにて作業中タイヤを完全破損させ、同年一二月一八日新くずは駅においてトラツククレーンのブームを電線に接触させ、以上のため会社の経費を不当に支出させて損害を与えた。
(二) 被告村田は
(1) 被告荒井の非行(2)記載のように、同被告および被告尾崎と共に寮移転命令ならびに火災防止のための指示に従わなかつた。
(2) 昭和四六年一月二九日午前七時五〇分頃食堂で朝食をとつていたにも拘らず、タイムカードには午前七時二〇分出勤と打刻されているほか、同様のタイムカード不正打刻は数回に及んでいる。
(3) 被告荒井らと共に前記(一)の(4)記載の行為をした。
(4) 昭和四五年六月一四日茨木市の日の出モータープールにおいてトラツククレーンを電線に接触させて電柱を倒し、同年八月一三日川崎製鉄水島製鉄所内において太平電業株式会社の下請作業中同会社の所長の右手薬指を負傷させ、同月一九日右水島製鉄所第二製鋼工場において、トラツククレーンを運転中抵抗器を落下破損させ、同日川崎製鉄水島工場においてターンバルクを敷きその上にトラツクを通したため、トラツクタイヤを破損させ、同年九月二日大阪市東成区のセイビ幼稚園前道路においてトラツククレーンを運転中食堂のペプシコーラの広告用看板を破損させ、同月二七日トラツククレーンを運転中、他車に追突して破損させ、同年一一月一〇日トラツククレーンを運転中タイヤを破損させ、同月一二日堺臨海工業地帯の新日本プラント工事現場においてトラツククレーンを運転中工事現場の鉄骨に接触して破損させ、同年一二月一四日トラツククレーンを操作中荷物をウインカーに当て、クレーンのカバーを破損させ、昭和四六年一月一四日会社駐車場内においてトラツククレーンを運転中バンバーを会社所有の乗用車に接触して両車を破損させ、以上のため会社の経費を不当に支出させて損害を与えた。
(三) 被告尾崎
(1) 被告荒井の非行(2)記載のように、同被告および被告村田と共に寮移転命令ならびに火災防止のための指示に従わなかつた。
(2) タイムカード不正打刻を行なつた。
(3) 昭和四五年一一月一日大洋プラント住友精密の作業を予定していた丸田運転手が欠勤したことを理由に作業を拒否した。
(4) 同月一八日午後一時一〇分頃配車指示のためマイクで呼び出したがこれに応ぜず、会社の指示に従い自己の所在を明らかにすることなくこれを無視して同日午後三時頃まで自室で寝ていた。
(5) 同年一二月一三日午後三時三〇分頃から午後五時頃まで無断外出した。
(6) 同月二五日午前一一時二〇分頃会社事務所において出永敏雅第一事業部次長から注意されると乱暴な態度で文句を言つて脅迫した。
(7) 同月二六日午前一一時三〇分出口勝海配車係主任から作業指示を受けるや、汚い言葉で文句ばかり言つているので坪内次長が注意すると、「お前は黙つとれ」と暴言を吐いた。
(8) 被告荒井らと共に前記(一)の(4)記載の行為をした。
(9) 昭和四五年一月二六日高田機工株式会社岸和田工場の作業現場においてトラツククレーンを操作中鉄骨材を落下して右鉄骨を破損させ、同年三月二八日酒井鉄工作業現場においてトラツククレーンを操作中そのガラスを破損させ、同年八月一〇日岡山市内の国道二号線上においてジープを運転中、信号無視の過失により古島鉄管の車に追突して両車を破損させ、以上のため会社の経費を不当に支出させて損害を与えた。
(四) 会社就業規則第三章服務規律の第四〇条は従業員の遵守事項として二三項目を掲げ、第九章懲戒の第一〇八条には懲戒解雇以外の懲戒事由が一二項目にわたつて規定され、また、第一〇九条には懲戒解雇事由が第一一〇条にも懲戒について次のとおり規定されている。
第一〇八条(減給、役位剥奪、停職、譴責、出勤停止、降転職および諭旨退職)
3 勤務に関係する手続その他の届出を詐つたとき
4 業務上の怠慢又は監督不行届によつて災害、傷害その他の事故を発生させたとき
5 災害の予防及び衛生に関する規則又は指示に違反したとき
8 みだりに他の作業場若くは禁止された場所に出入し又は労働時間中勝手に自己の持場を離れたとき
(前文およびその余の項目省略)
第一〇九条(懲戒解雇)
次の各号の一に該当する場合は行政官庁の認定を得て懲戒解雇に処す。但し情状により諭旨退職又は出勤停止若しくは役位剥奪等にすることがある。
6 業務命令に不当に反抗したとき、飲酒運転を行なつたとき
8 他人に暴行脅迫を加え若くは業務の妨害をなしたとき
13 前条に該当しその情状が重いとき
15 其の他前各号に準ずる不都合な行為又は服務規律に違反する行為があつたとき
(その余の項目省略)
第一一〇条(懲戒の重複)
懲戒処分をうけた者が一年以内に更に懲戒に該当する行為のあつた場合には次によつて取扱う。
1 (1) 同一種類の懲戒に該当する行為をなした場合は一等重く懲戒する。
(2) 異る種類の懲戒に該当する行為をした場合は事情によりその内の重い種類の懲戒により更に一等重く懲戒する。
2 前項の規定は同時に二種以上の懲戒に該当する行為があつた場合にこれを準用する。
ところで、被告三名には前記の各所為があつたものであるが、
被告荒井の(1)は一〇九条八号(前段の暴行)に、(2)は一〇九条一三号(一〇八条五号)に、少くとも一〇八条五号に、(3)は一〇九条一三号(一〇八条三号)に、少くとも一〇八条三号に、(4)は一〇九条八号(後段の業務妨害)に、(5)は一〇九条一三号(一〇八条四号)に、少くとも一〇八条四号に
被告村田の(1)は一〇九条一三号(一〇八条五号)に、少くとも一〇八条五号に、(2)は一〇九条一三号(一〇八条三号)に、少くとも一〇八条三号に、(3)は一〇九条八号(前段の暴行)に、(4)は一〇九条一三号(一〇八条四号)に、少くとも一〇八条四号に
被告尾崎の(1)は一〇九条一三号(一〇八条五号)に、少くとも一〇八条五号に、(2)は一〇九条一三号(一〇八条三号)に、少くとも一〇八条三号に、(3)は一〇九条六号(前段の業務命令反抗)に、(4)は一〇九条一五号(四〇条二三号後段の遵守事項「上長の指示に反する行為をしないこと」に違反)に、(5)は一〇九条一三号(一〇八条八号後段の職場離脱)に、少くとも一〇八条八号(同上)に、(6)は一〇九条八号(前段の脅迫)に、(7)は一〇九条六号に、(8)は一〇九条八号(前段の暴行)に、(9)は一〇九条一三号(一〇八条四号)に、少くとも一〇八条四号にそれぞれ該当する。
4 結論
会社は被告三名を適法に懲戒解雇したものであるが、被告三名は右解雇の効力を争つているので、会社の従業員でないことの確認を求める。
二 昭和四七年(ワ)第九〇一号(本訴)事件の請求原因に対する答弁
1 請求原因1および2は認める。
同3の(一)の(1)は否認する。被告荒井は中谷らと共に社長のところへ賃金のことについて話合いに行つたが、暴言は吐いていない。かえつて、同被告は多くの職制に囲まれて暴行を受け、社長から「お前は何様だと思つている」「のぼせるな」などと威圧されたのである。前田取締役は止めにきたのではなく、一緒になつて同被告を威圧し、同被告の襟を持つて振り回したのである。
同(2)のうち、被告三名が昭和四五年一一月からA地寮に居住し、そこへプロパンガスボンベとコンロを持込み、昭和四六年一月初め頃お茶を沸すため一度か二度使つたこと、被告三名が同年一月一一日にA地寮からプレハブ寮へ移転するよう言われたことは認め、その余は否認する。会社が電気こたつの使用のみを認め、他を禁止したことはない。したがつて、火災防止上プロパンガスの使用をやめるよう注意を受けたことはない。被告三名は寮移転の理由が抽象的で釈然としないため再三説明を求めると、会社は「防火、盗難予防、秩序の回復」と言い、それ以上追求すると「会社方針である。」「社長命令である。」と述べ、何ら具体的な事由をあげなかつた。なお、プレハブ寮は現地調査をした阿倍野労働基準監督署の監督官から寮として不合格であると指摘されており、ひどく老朽化している。
同(3)は否認する。
同(4)のうち、会社主張の日時頃被告三名が会社事務所において社長および前田取締役と会見したことを認め、その余は否認する。被告三名が全自運の地本役員と共に解雇理由の明示と団交を申入れたが、社長は何ら理由を明示せず、一方的に「出て行け。」と大声でわめきたてた。被告三名が退去した後、社長は全職制に「放り出せ。」と号礼をかけ、職制はA地寮に押しかけて被告らの私物を実力で室外に放り出し、被告荒井、同村田が室内にいるにも拘らず、窓、押入、部屋の出入口に厚さ三センチメートル程の板を打ちつけ、押入には封印と書いた紙を貼つた。
同(5)のうち、昭和四五年九月二三日、同年一一月二五日および同年一二月一八日の事故は否認する。同年一一月二六日の事故は認めるが、その原因は土中にあつた鉄片によるもので不可抗力であつた。このことは会社も認めており、当時問題とされなかつた。
同(二)の(1)の認否は前記(一)の(2)と同じ。
同(2)は否認する。食事は午前七時二〇分より前にすませていた。
同(3)は否認する。被告三名は会社の応接室において、解雇理由を明確にして欲しい旨の交渉をしたにすぎない。
同(4)のうち、昭和四五年六月一四日に電線との接触事故があつたことは認めるが、電柱を倒したことはなく、水銀灯をわずか破損したのみであり、修理費用は二五〇〇円であつた。同年八月一三日水島製鉄所内において太平電業株式会社の所長が右手薬指を負傷したことは認めるが、その原因は会社が故障中のクレーンに無理に乗せたために発生したものであり、同人は玉掛け(鉄骨積込)作業の免許を持つていなかつた。同月一九日水島製鉄所第二製鋼工場においてトラツククレーンを運転中抵抗器を落下破損させたことは認めるが、これは玉掛け作業員の過失により生じたもので、被告村田の過失ではない。同年九月二日の事故はビニール看板に直径二センチメートルの小さな穴をあけたものに過ぎず、また道路が非常に狭く運転に無理なことを承知のうえ、栗山本部長が運転を命じたために発生したものである。同月二七日の事故は認める。これは三〇〇円程度の損害である。同年一一月一二日の事故は認める。三〇〇円程度の損害で、社内修理が可能であつた。同年一二月一四日の事故は認める。カバーを取換えるのみで修復し、その費用は三〇〇円程度である。その余の事故は否認する。
同(三)の(1)の認否は前記(一)の(2)と同じ。
同(2)は否認する。
同(3)の被告尾崎が昭和四五年一一月一日作業をしなかつたことは認める。同日は日曜日であり、私用があつたので休みをとつたまでである。休日に労働者が休むのは当然であり、このようなことが解雇理由となることはあり得ない。
同(4)は否認する。この日被告尾崎は目の調子が悪かつたので運転にさしさわりがあると思い、自室まで目薬を取りに行つたものである。
同(5)のうち、一時外出したことは認め、その余は否認する。その日五〇〇メートル先の煙草屋まで煙草を買いに行つたに過ぎず、時間にして約一〇分である。
同(6)、(7)は否認する。
同(8)のうち、事務所へ行つたことは認め、その余は否認する。
同(9)のうち、昭和四五年一月二六日の事故は鉄骨材ではなく、うす板が落下したのである。同年三月二八日の事故は認める。玉掛け作業員の不注意によつて生じたものである。同年八月一〇日に追突事故が発生したことは認める。しかし、被告尾崎の過失によつて生じたものではなく、信号が青であるのに前車が急停車したので間に合わず追突したものである。
同(四)のうち、会社の就業規則にその主張の条項が存することを認め、その余は争う。
2 会社主張の解雇理由は極めて多岐にのぼるが、いずれも極めてささいな事を取上げているのであつて、仮に、そのすべてが認められるとしても、そのことの故に懲戒解雇しなければならない必要は全く存在しない。このような解雇理由を解雇の日から一年前に及んで列挙しなければならないということは本件解雇がいかに根拠のないものであるかを示している。
仮に、このような多数の事由が存在し、それについて会社が十分留意していたのであるならば、会社は被告三名に対して多数の事実が積重ねられる前に、それについて注意を与え、あるいは始末書を提出させるなどの措置をとるべきである。注意を与えてもなおこれを聞き入れないという事態が生じたのであれば格別、被告三名に対しては何らそうした措置をとつていないのである。このことは解雇手続において適正を欠くと同時に、解雇理由が存在しないことを推測させる。
会社は解雇の意思表示をした段階では極めて抽象的な理由しか示さず、被告らが重ねてその具体的内容を示して欲しいと要求しても具体的理由を全く示していないことを考えると、前記解雇理由は解雇の意思表示後急拠狩り集めたものと考えざるを得ない。
三 昭和四七年(ワ)第九〇一号(本訴)事件の抗弁ならびに同年(ワ)第三〇六六号賃金支払(反訴)および同年(ワ)第三四九五号賃金支払各請求事件の請求原因
1 被告三名に対する就労拒否ならびに被告三名および原告岩本ら一〇名に対する賃金未払
被告三名がいずれも会社の従業員として勤務し、毎月七日に就労した前月分の賃金の支払を受けていたところ、会社が昭和四六年二月二〇日懲戒解雇し、被告三名がその効力を争つていることは前記のとおりであり、会社はその後被告三名の就労を拒否している。
また、昭和四七年(ワ)第三四九五号事件の原告岩本ら一〇名は、いずれも会社の従業員として勤務している。
会社は昭和四五年の年末一時金について、当初、被告荒井、同村田、原告岩本、同土江、同松浦、同安居に対しては全額支払わず、被告尾崎、原告荒川一友、同荒川克幸、同今井、同栄、同花田、同堀川に対しては八〇%を支払つたのみで二〇%相当額を支払わなかつた。被告三名および原告岩本ら一〇名の昭和四五年年末一時金額、その後会社が支払つた金額、現在の未払額は後記5のとおりである。
2 不当労働行為
会社の右被告三名に対する懲戒解雇ならびに被告三名および原告岩本ら一〇名に対する昭和四五年年末一時金の未払は、会社が組合破壊をたくらみ、また右被告らの組合活動を嫌悪した結果なされたものであつて、不当労働行為である。
(一) 労働組合の結成と活動
(1) 労働組合結成当時の労働条件
会社はいわゆるワンマン社長による経営であつて、従業員の労働条件は極めて劣悪、前近代的であり、違法、不当なものであつた。会社における労働条件に不満をもつていた従業員は、会社が計画した従業員に対する香港・マカオ旅行の実施月が近づくにつれて、算定基準の不明確な手当類が大部分を占めている賃金が抵下してくることに気がついた。もともと例年八月、九月は仕事量が多く、それに見合つた賃金の増加を期待していた従業員にとつて、昭和四五年九月七日支払われた八月分賃金は予想よりはるかに少なく、同年一〇月七日に支払われた九月分賃金はさらに低下したものであつた。
会社は以前から賃金の不明確な部分を操作して従業員の賃金額の算出を会社の恣意にかからせ、従業員に賃金算定の基準を示さない労務管理を行なつてきたが、右同年八月および九月分の各賃金支払を直接の契機として、従業員は右のような状態を続けることは自らの生活を危険な状態におとし込むこととなるため、自己の権利を守るために立上る決意をした。
(2) 労働組合の結成
このようにして、昭和四五年一〇月初旬労働組合結成への動きがはじまり、同月一四日会社の従業員によつて芦原運送労働組合(以下組合という)が結成され、会社の大部分の従業員が加入した。同年一一月一日右組合は全国自動車運輸労働組合(以下全自運という)加盟を決定して全自運大阪合同支部の一分会(以下分会という)として発足した。
(3) 分会の活動
イ 分会は昭和四五年一一月二日会社に対し労働組合結成通知を行なうと共に、労基法の完全実施、分会員の身分、賃金、労働条件等についての分会との協議制、労働災害補償その他労働組合活動上の諸要求を提出し、団体交渉を申入れた。
ロ 分会は右の活動を皮切りとして次のような労働組合活動を展開した。
(イ) 分会員の要求調査、意識調査等と随時それに基づく要求を提出した。
(ロ) 会社との団体交渉を精力的に行なつた。
(ハ) 分会の臨時大会を三回にわたつて開き、数次の職場集会、適宜の執行委員会を重ね、分会員の意思を統一して団結を強固にし、早朝決起集会を二回開いて分会員の勇気と確信を高めた。
(ニ) 会社の違法、不当な労働条件の押しつけに反対し、分会員の生存と権利を守るため三回にわたり会社の違法な早出の強要を拒否したほか、朝礼拒否闘争、半日ストライキ、二四時間ストライキを実施した。
(ホ) 分会員の意識を高め、組合活動の現状を分会員に報告し、会社の違法不当を明白にする中で分会員の闘いの正当性につき確信を高めるため分会機関紙・宣伝ビラの発行、掲示を行なうほか、水島、名古屋等の出張所に組織者を派遣し、従業員に対する教育宣伝活動に取組んだ。
(ヘ) その他会社の年次有給休暇拒否に対して年次有給休暇届提出闘争を行ない、会社の不当配置のために発生した労働災害により橋山副分会長が死亡したことにつき抗議集会を開き、地域の労働者との連帯を強めるなど精力的な活動を続けた。
ハ 会社は依然として違法不当な労働条件を固執し、昭和四五年一二月二五日阿倍野労働基準監督署から会社の労基法無視の一部について是正勧告がなされたのにこれにも従わなかつたのであるが、分会活動の中で会社の違法不当は次のとおり白日のもとにさらされ、会社もごく一部の譲歩を行なわざるを得なくなつた。
(イ) 出勤定時が午前八時であることが明確となつた。実態は従前と変らないが、午前八時までに出勤すれば賃金の減額を行なわないこととなつた。残業、深夜労働については女子につき自粛しているようである。
(ロ) 制度上年次有給休暇制度が認められたが、会社は届出があつても無視し、欠勤扱いとしている実情である。
(ハ) 就業規則は社長の面前でのみ見せるようになつたが、大阪府地方労働委員会(以下地労委という)の要望、阿倍野労働基準監督署の勧告も無視し、謄写を許さず、掲示なども全くせず、他の賃金細則、賞罰規定、寮規則等会社がしばしば引合に出す諸規則は全く従業員に対して見せていない。
(ニ) 従来まで賃金算定根拠が従業員に全く知らされていなかつたが、賃金規定の一部が明らかとなつた。
(ホ) 会社が計画した前記旅行の旅費が全額会社負担となつた。
(ヘ) 会社の違法不当が明白となり、従業員が正当な権利に目覚め、会社としても従来の違法な労働条件を維持できなくなる状況が生まれてきた。
(二) 被告らの組合活動
昭和四五年一〇月一四日組合結成と同時に、中谷浩司(もと被告)は執行委員長に、被告三名はいずれも執行委員となり、また、同年一一月一日分会結成と同時に中谷は分会長、被告荒井は機関紙担当、同村田は渉外担当、同尾崎は教宣担当の各執行委員として以後分会の組合活動、具体的には分会員の要求をまとめ、分会における諸会議、大会をリードし、団体交渉において積極的に発言するなどして中心的な活動を続けてきた。
(三) 会社の分会破壊攻撃
組合ないし分会が結成されるや、会社はこれをつぶすため、次のとおり極めて露骨な攻撃を加えてきた。その第一は分会を御用組合化することであり、第二は分会の中心が中谷浩司、被告三名であるとして同人らを解雇することである。
(1) 分会の御用化攻撃
イ 分会はその結成後、昭和四五年一一月二日夜会社と第一回の団体交渉を持つた。当初会社は上部団体が加わつた団体交渉はできないと拒否したが、分会の粘り強い交渉の結果上部団体のオルグが参加した形で団体交渉が開かれた。
その中で、社長は「当社では組合的な活動をしている「あしなみ懇親会」を通じて労使間の問題を解決する。会社にはオリジナルなものがある。法律以前の精神がある。」などと述べて分会を認めようとせず、分会の諸要求に対して全く誠意ある態度を示さなかつた。
あしなみ懇親会というのは昭和四二年一二月頃結成されたもので、文字どおり会社の懇親会であり、社長以下全職員をもつて構成し、会長には栗山事業本部長が就任し、「組合的な活動」などをすることは到底考えられないものである。
ロ 昭和四五年一一月一五日第二回の団体交渉が持たれたが、その席上社長は全自運の野村書記長に対して「全自運は手を引いてくれ。」と述べ、労働協約締結など組合の要求に対し全く誠意を示そうとしなかつた。
さらに、同月二〇日団体交渉が開かれたが、会社は一貫して大同団結してやつて行きたいということを繰返し主張するだけで、何ら解決の努力をしようとはしなかつた。
そこで、分会は会社に対し、右二〇日の団体交渉が終つてから会社の不誠実な態度の撤回を求め、あわせて諸要求貫徹のため一般争議通告をした。同時に地労委に対し労働協約および昭和四五年年末一時金支払について斡旋申請をした。
ハ こうした状況の中で、会社は分会つぶしの攻撃に出た。即ち、会社は同月二三日単独労働組合なるものを文字どおりつくり上げ、同日付で「芦原運送(株)(当時の原告会社の商号)は、労働基準法に基いて、労働能率の増進と公正な労働条件の確立を目的として、従業員の人格を尊重し、労働組合法とその精神に立脚した単独労働組合としての活動に同意する。」という社長声明なる書面を会社の三宅取締役を通じて全従業員に手交した。それと同時に一二月二三、二四日にかけて職制が就業時間中に全従業員を一人一人呼出し、左記内容の書類に強制的に署名をさせた。
記
一 芦原運送株式会社 社長左崎充殿
私は、芦原運送(株)社長左崎充の経営方針に賛同し、労働組合に関する加入脱退の権利を社長に委任します。
以上
昭和四五年一一月 日
氏 名印
一 芦原運送株式会社 社長左崎充殿
私は、芦原運送(株)並びに芦原運送社員会(あしなみ懇親会を含む)の主催する海外旅行計画(香港・マカオ行)に賛同し、喜んで参加することを確認します。
以上
昭和四五年一一月 日
氏 名印
会社が「労働組合への加入脱退の権利を社長に委任します。」などと記載した文書を公然と従業員から集めるということは常識では考えられないところであり、この一事をもつてしても会社の不当労働行為は明白である。
ニ さらに、会社の三宅取締役は同月二七日朝、全従業員に対して「仮称芦原運送(株)社員会会則(案)」なるものを配布した。その内容は「(前略)芦原運送(株)の従業員の総意によつて、単独労働組合としての活動を行うものとする。」という前文を見ても明らかなように会社による御用組合の育成であり、分会を破壊するためになされたもので、このことは同月二三、二四日の件と合わせ考えれば極めて明白であつて、会社の取締役が労働組合の規約案を配つて歩くということ自体通常では到底考えられないことである。
ホ 会社は同年一二月四日全従業員に対して職制をして「社員会会則の精神どおり進められる(ことを)切望します。」という文書、「芦原運送株式会社のみの単独労働組合を切望します。」という文書および「全自運加盟の組合を希望します。」という文書の三通を示し、そのいずれかに署名せよと要請した。
これは明らかに会社仕立ての組合をデツチ上げようとする露骨な分会つぶしの攻撃である。
ヘ こうした会社の攻撃にもかかわらず、脱退者はほとんどなく、分会員は日々に増加し、橋山副分会長が労災事故によつて死亡した同年一二月八日頃には実に九〇名に達した。会社の意図した組合御用化のもくろみはみごとに覆されたのである。
(2) 分会員に対する攻撃
イ 会社は同年一二月三日中谷浩司に対してそれまで運転していた三二トンクレーン車六号機の下車勤を命じた。その理由は、約二〇日間竹中工務店の仕事があるが職場集会や早出拒否をやられると困るというにある。職場集会や早出拒否はいずれも組合活動であるから、組合活動を理由とした下車勤である。分会はこの問題について同年一二月一〇日地労委へ追加申請をした。
ところが、会社は地労委に対して下車勤の理由を中谷が負傷したというようにすりかえた。同人が同月三日左手指にけがをしたことは事実であるが、運転できない状態ではなかつたのである。
ロ 社長を先頭に前田、三宅、住吉、出口各取締役、栗山本部長、中村次長ら職制約一〇名は同月四日朝出勤した中谷浩司を取囲んで前記の社員会主催の香港・マカオ旅行に賛同する趣旨の文書に署名することを強要したが、同人がこれを拒否するや、会社はさらに中谷を呼出して、同日午前八時から一一時まで、午後は一時から三時まで応接室に閉じこめ、一〇名余の職制が取囲んで右文書への署名を執拗に強要したが、同人が抵抗し抗議したため同人を釈放するに至つた。会社は同人の毅然とした態度を見て分会をつぶすには、まず何よりも同人をはじめ被告荒井、同村田、同尾崎を分会から放逐しなければならないということを強く感じとつた。
ハ 会社は中谷浩司を会社から放逐しようとする意図で種々の画策をめぐらしはじめた。その最たるものが、同人を懲戒解雇して欲しい、あるいは解雇するという社長の意見に賛成だという趣旨の職制の意見書を同月一二日頃から集め出したことである。このような文書が実に五八名の者から集められ、中には追加の意見書も出されている。
ニ 一二月一四日社長は朝礼で全従業員に対し、従業員の下賀正則からきた手紙であると言つて組合と組合員を中傷誹謗した文書を読上げると共に、それを全従業員に配布した。しかし、右文書の末尾には本人の捺印がしてあり、本人の私信であるならばこのような捺印をすることは不自然であつて、右の手紙というのは会社の策動によるものである。
ホ 会社は同年一二月一七日になつて第二組合(芦原運送株式会社単独労働組合)と称するものを作りあげ、社長の義弟である出口勝海が委員長になつた。
分会は年末一時金問題につき要求書を会社に提出する一方、地労委のあつせんを申請したところ、地労委は同月一〇日あつせん案を出し、分会はこれを受諾したにも拘らず、会社が拒否したため、同月二三日不調に終つた。会社はこの時点になつて分会に「一時金一人平均一〇万円を出す。但し、その配分については一切異議を述べない。昭和四五年一二月に至るまでのスト行為の外、争議行為を反省し、今後三年間スト行為、争議行為を放棄する。」という内容の協定書を結ぶことを要求してきたが、右行為は分会無視も甚しいものであり、分会は直ちに拒否した。すると、会社は従業員一人一人を呼出して、右と同一内容の協定書に強制的に署名捺印を求め、署名捺印しない限り、一時金を出さないという挙に出た。生活に困つていた分会員の中にはこれにやむなく捺印して年末一時金を受取つた者もいた。被告尾崎はその一人であるが、八〇パーセントだけ支給されただけである。被告荒井、同村田は捺印していないので全く支給されていない。単独労働組合員に対しては全額が支給されているのであるから、明らかな差別待遇である。
労働者に保障された基本的な権利である争議権を労働者に対し一方的に放棄することを要求することは不当労働行為であるから、分会は同年一二月二五日地労委に対し労働協約、年末一時金等について不当労働行為救済の申立てを行なつた。
ヘ 社長は昭和四六年一月四日の朝礼の席上「協定書については得手勝手な判断がある。分会がマイクその他で呼びかけても、営業スタツフが信念をもつてやつている。皆さん驚ろくな。分会がいちびる(調子づく意)と受けて立つ用意はある。踊らされてはならない。今年の正月は赤旗で出迎えてくれた。これもよかろう。今年は少しもうけさせてもらう。法律などあるが、わしは受けて立つ。」と高言した。この内容を見ても会社の不当労働行為は明らかである。
ト さらに、会社の渡辺経理課長は一月七日の終業時に従業員の賃金明細を各人毎に大声で読上げた。その意図は分会員については特別手当(社長の判断でいくらにもなり、通常分会員でも三〇〇〇円から三万円の範囲内で支給されていた。)がすべて削られており、分会に入つていると賃金が低くなることを分会員にわからせ、もつて分会を脱退させようとしたことにある。これは分会員であるが故に不利益な取扱いをすることにおいて、そして、不利益に扱われることを公示して分会脱退を迫つた点において支配介入となり、不当労働行為であることは明白である。
チ これより先、昭和四五年一二月二日から昭和四六年一月八日まで会社は中谷の勤務状況報告書なるものを上司の第二事業部の坪内次長に作成させ報告させている。その内容を見ると、いずれも中谷のミスをスパイするといつたことが露骨にうかがわれ、同人を解雇しようとしてなしたことは明瞭であり、会社がいかに同人を敵視し、嫌悪していたかがうかがわれる。
リ かくて、会社は昭和四六年一月一一日の朝礼において中谷に対し、「土曜日の終礼中に経営の席上において経営会議を中断不能ならしめた。」というような理由をつけて、口頭による退職の予告をすると述べ、ついに、同月一五日同人に対し懲戒解雇する旨の意思表示をした。続いて同年二月二〇日会社が被告荒井、同村田、同尾崎に対し懲戒解雇を通告したことも、中谷に対すると同様の意図に基づくものである。
なお、昭和四五年年末一時金未払は地労委命令により、被告三名に対する前記懲戒解雇は大阪地裁仮処分決定、地労委および中労委命令、東京地裁判決等によりいずれも会社の不当労働行為によつてなしたものであることが認められている。
3 被告荒井、同村田および同尾崎が支払を受けるべき解雇後の賃金
(一) 被告三名の解雇時の賃金および昭和四六年三月分から一二月分として支払を受けるべき賃金
会社は昭和四五年一一月二日労働組合結成の公然化と共に分会に所属する従業員に対し考課査定において他の従業員と差別取扱いをしたため、被告三名の同年一一月分以降の賃金が低下したので、労働組合公然化以前の昭和四五年八月分から一〇月分までの平均月額賃金をもつて被告三名の解雇時の賃金とするのが相当であり、右期間の平均月額賃金は被告荒井が九万七三六五円、同村田が八万六一六八円、同尾崎が七万四六六九円である。
そして、被告三名が昭和四六年三月分から同年一二月分として支払を受けるべき賃金は少なくとも解雇時の各平均月額賃金を下回らないというべきであるから、その間の月額賃金は前記の各平均月額賃金と同額となるものである。
(二) 被告三名が昭和四七年一月分以降支払を受けるべき賃金
会社は昭和四七年以降毎年従業員の賃金の増額を行なつてきたが、会社の賃金規定は極めて不明確であり、従業員の賃金算定については会社の恣意的な運用が行なわれてきたことは前記のとおりである。また、会社においては通常行なわれている物価上昇に伴うベースアツプは行なわれず、会社の裁量によつて基本給の昇給が行なわれ、考課査定によつて算定される賃金部分が極めて多く、どのような基準で賃金の増額を行なうのか明確に定まつていないのが実情である。
しかしながら、被告三名が会社の不当労働行為によつて解雇され、その就労の機会を奪われたことを考慮すると、被告三名が支払を受けるべき賃金につき解雇時の賃金からその後全く増額しないということは被告三名の救済の点から不当であるばかりでなく、かえつて、不当労働行為をした会社に利益を与えることとなるから、会社に勤務している従業員の賃金の増額を基礎にして被告三名の賃金を算定することができるというべきである。
(1) 被告三名の賃金を算定すべき比較対象者は、本社事業部所属の従業員、非分会員、昭和四六年一月一日から当該年の末日までの継続勤務者の三つの要件を備えた者でなければならない。その理由は次のとおりである。
イ 本社事業部所属の従業員であること
会社には本社と出張所にそれぞれ事業部がおかれ、本社事業部と出張所の事業部とでは賃金水準が異なつており、被告三名はいずれも本社事業部に所属していた者であるから、本社事業部所属の従業員を比較対象者とすべきである。
本社と出張所の従業員の賃金を各年度毎に比較すると、一か月の賃金総額において昭和四六年で一万五一四〇円、昭和四九年で六万二八四一円の格差があり、基本給日額において昭和四六年で六一円、昭和四九年で一七二円の格差、基本給月額において昭和四六年で二九八四円、昭和四九年で五二八〇円の格差が見られる。
また、賃金のうちで最も大きな割合を占める職能給(一か月分)を比較すると左のとおり大きな格差がある。
本社 出張所
四六年 二万六四六六円 二万四九一一円
四七年 三万三八二一円 二万五五八一円
四八年 六万八九五四円 三万八三五五円
四九年 七万六三〇〇円 三万七八一二円
さらに、時間外の手当単価が変つた時期まで相違している。
これらのことは、出張所の事業部所属の従業員は本社事業部に所属する被告三名の賃金を算定すべき比較対象者にはなりえないことを意味するものであり、地労委も同じ見解をとつている。
ロ 非分会員であること
会社は分会員に対しては仕事上においても成績考課においても徹底した差別をしており、そのため分会員は極端な低賃金を押しつけられ、生活にも支障をきたしている。配車は職制が決定するため分会員には売上げのあがらない仕事(賃金が低い)を回し、そのうえ毎月の成績考課で極端な差別を行なつている。本社事業部所属の従業員のうち、非分会員と分会員の一か月の平均考課点を比較すると左のとおりであり、年が経過するに従つて差別が拡大しており、それが合理的根拠のない会社の賃金差別、即ち不当労働行為に基づいていることは明らかである。
非分会員 分会員
四六年 七・八 六・二
四七年一月から三月 八・二 五・三
四月から一二月 七・六 三・七
四八年 八・八 〇・九
四九年 九・〇
また、基本給日額、基本給月額の毎年の昇給額をみても分会員が差別を受けている。
基本給日額
非分会員 分会員
四七年 二八三円 六九円
四八年 三一一円 マイナス二円
基本給月額
非分会員 分会員
四七年 四五〇一円 一四二四円
四八年 七三四九円 一九三四円
一か月の賃金総額の格差も次のとおり歴然としている。
非分会員 分会員
四六年 九万八二一五円 七万二二六九円
四七年 一三万一八九五円 七万六九五七円
四八年 二〇万〇七二三円 六万九〇〇〇円
四九年 二三万六八六四円
地労委も右賃金差別、即ち不当労働行為について昭和五二年九月九日救済命令を発しており、分会員を比較の対象者から除外すべきであることは明らかである。労働組合が結成される前は自動車運転手、クレーンオペレーターなどのいわゆる現業員の賃金にそれほどの格差はなかつたのであり、分会員と非分会員との賃金格差が会社の不当労働行為に起因していることを見落してはならない。
ハ 昭和四六年一月一日から当該年の末日までの継続勤務者であること
被告三名を含む自動車運転手、クレーンオペレーターなどの現業員の賃金は一般的にある程度勤続年数とも関係があるので、被告らが解雇された当時からの継続勤務者を対象にすべきである。この点は会社も異存はなく、途中入社、途中退社の従業員を除外するのは会社における昇給時期その回数が従業員毎に異なつており(全従業員を対象に昇給がなされたのは昭和四四年四月のみである。)、一年間を通して昇給額を比較しなければ、その内容が明らかにならないからである。
(2) 原告会社の賃金項目には、基本日給、基本月給、職能給、通信手当、出張手当、長距離手当、特別手当、家族手当、時間外手当、割増給、考課給などがあるが、被告三名の解雇後の賃金を算定するには、前記(1)のイないしハの現業員を対象者とし、基本日給、基本月給などの項目は対象者の昇給額の平均額だけ被告三名についても昇給したものとし、考課点、技術点、残業時間、売上額、出勤日数について被告三名は就労の機会を奪われており、具体的数値をきめることは不可能であるので、考課点、技術点、残業時間、売上額については対象者のそれぞれの点数、時間、金額の平均値を用い、出勤日数については所定労働日数を出勤したものとして取扱い、職能給、特別手当などについては対象者に支給された金額から平均月額支給金を算出し、これをもつて被告三名の当該支給金とした。
その具体的な賃金項目別の算出方法は左のとおりである。
基本給日額 昭和四五年度の被告三名の基本給日額に各年度毎の比較対象者の基本給日額の平均を出して前年度との比較をし、昇給していればその金額を各被告の昭和四五年度の基本給日額に加算して各年度の金額を算出した。なお、昭和四六年度は昇給がなかつたものとした。
出勤基本給 右と同じ方法による。
職能給、通信手当、出張手当、長距離手当および特別手当 比較対象者の各年度平均月額支給金を算出し、その平均月額を被告らに一律に適用した。
家族手当 家族手当支給基準が別表(三)のとおり改訂され、その家族数は同表のとおりであり、この基準が被告三名にも適用される。
時間外手当 比較対象者の年間平均時間外数を算出し、それを単価で乗じたものを年間総時間外手当とし、そこから平均月額時間外手当を算出した。右の単価は昭和四六年三月から昭和四七年七月までは三〇〇円、同年八月以降は三五〇円であり、助手のそれは二五〇円である。
割増給 比較対象者の各年度別年間平均総支給金額を各被告に適用した。
考課給 所定労働日数、点数(比較対象者の各年度別平均点)、基本金額(昭和四七年三月分までは五〇〇円、同年四月分以降は六〇〇円)を基礎として会社の賃金細目規定所定の方法により算出した。
(3) 右のとおり、比較対象者の平均という考え方に基づく算定方法は解雇され現実に労働していない従業員の賃金を算定する場合一般的妥当性を有しているし、それ以外に算定しようがない。右の考え方により被告三名の昭和四七年一月分以降の賃金を算定すると、別表(一)の昭和四七年以降の金額欄に記載の各金額となる。
(4) 会社の賃金試算表の誤り
会社は同車種、同職種の現業員の賃金をもつて被告三名の賃金額を考察しなければならないと主張する。しかし、会社の賃金は車種や職種によつて取扱いを異にする体系にはなつていない。ただ、運転手と助手とで一部の賃金項目の計算方法が金額の面で助手に不利になつているだけである。車種についても職能給や割増給の計算式の関係が異なつているが、それはトン数の大きい車両についてはトン数の小さい車両についてよりも係数を小さくしてできるだけ職能給や割増給の平均化をはかつているからである。基本給についても制度として車種によるランク分けはない。
会社の賃金試算表が誤つていることは次のことからも明らかである。
解雇後の分会員を除く本社事業部所属の現業員の平均昇給額は次のとおりである。
基本給日額について
昭和四六年度中 四円 全員
昭和四七年四月 二五〇円 全員
八月 八六円 五名
一〇月 七三円 六名
一一月 三六円 三名
昭和四八年二月、昭和四九年四月、同年八月にも会社は昇給を行なつた。ところが、会社の試算によると、被告荒井の基本給日額は昭和五一年三月一日現在一一五〇円となつており、昭和四六年二月の解雇時の一〇〇〇円からわずか一五〇円の昇給しか認めていない。
基本給月額について
昭和四六年度中 八二円 全員
昭和四七年四月 二六三三円 全員
七月 三六四円 一名
八月 三〇〇〇円 一名
一〇月 一二七三円 三名
昭和四八年一月 三九五五円 人員不明
ところが、会社の試算によれば、昭和五一年三月一日現在の被告三名の基本給月額は解雇時の五〇〇〇円からわずか五〇〇〇円しか昇給していないのである。
なお、被告三名はいずれも運転手である。会社は被告尾崎が助手である旨主張するが、運転手の資格はクレーン免許か大型免許のいずれかで足りるところ、同被告はクレーン免許を昭和四四年七月一〇日に大型免許を昭和四六年夏に取得しており、現実の仕事も賃金計算上においても運転手として取扱われていた。職能給につき助手は運転手の二分の一になるところ、被告三名の解雇前の職能給を比較すると左のとおりである。
尾崎 荒井 村田
45年8月分 二万七〇一七円 二万七二一一円 二万四九二五円
9月分 二万二〇六六円 二万五五八四円 二万四七九一円
10月分 二万三七〇八円 二万八〇六一円 二万六七三五円
11月分 二万七八三六円 二万七八五四円 二万六三五八円
右は昭和四六年の本社事業部所属の非分会員(運転手)の一か月平均職能給が二万六四六六円であることと比較しても同水準であり、また、運転手の時間外手当一時間三〇〇円の単価で除すると〇・五時間単位の数値となり(助手の単価二五〇円では割切れない)、運転手として仕事をし、賃金計算上も運転手として取扱われていたことが明らかである。
(三) 被告三名が支払を受けるべき一時金
被告三名が支払を受けるべき昭和四六年以降の一時金は少なくとも別表(二)のとおりであり、同表記載の比率は一か月の賃金に対する割合である。右比率は本社事業部所属の従業員の支払実績をもとに一か月の賃金に対する平均支給率を求めたものであり、被告三名は本社事業部所属の従業員として少なくとも右平均支給率の一時金を支払われるべきである。右各一時金の支払期日は同表記載の各金員に対応する各年月の月末日であるから、被告三名は原告会社に対し同表記載の各一時金および右各金員に対する支払期日の翌日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
4 金員請求についての予備的請求原因
(一) 被告三名は会社の不当労働行為によつて違法に解雇された者であつて、この不当労働行為が民法七〇九条の不法行為に該当することは明らかであるから、解雇がなければ当然得られた賃金(昇給、給与改訂分も含む)および一時金相当額について会社に対し損害賠償請求権を有する。
但し、金員請求のうち、被告らの解雇前の平均賃金(被告荒井につき一か月九万七三六五円、同村田につき八万六一六八円、同尾崎につき七万四六六九円)を越える部分についてのみ損害賠償請求をなす。
(二) 前記解雇時の平均賃金、その後の昇給、給与改訂による賃金相当損害金、一時金相当損害金の合計は別表(一)および(二)のとおりであり、右各損害に対する各所定支払日の翌日以降支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
5 被告三名および原告岩本ら一〇名が支払を受けるべき昭和四五年年末一時金
右金員について、被告三名および原告岩本ら一〇名が会社から支払を受けるべき金額、会社からの支払金額および未払金額は左記のとおりであり、右一時金の支払期日は昭和四五年一二月末日には到来している。そこで、被告三名および原告岩本ら一〇名は原告会社に対し右一時金の未払金および右各未払金に対する昭和四六年一月一日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
総額 支払金額 未払金額
荒井 八万三二一〇円 七万九五二八円 三六八二円
村田 七万〇〇〇〇円 六万八六二一円 一三七九円
尾崎 五万六三六〇円 五万四五二二円 一八三八円
岩本 七万四一二五円 七万一七〇四円 二四二一円
土江 八万七〇五〇円 八万四二〇七円 二八四三円
松浦 九万二〇六二円 八万九〇五六円 三〇〇六円
安居 七万七七六三円 二万九七四六円 四万八〇一七円
荒川(一) 五万八一一〇円 四万八六二五円 九四八五円
荒川(克) 七万六七五〇円 六万四二二〇円 一万二五三〇円
今井 七万九五一〇円 六万六五三〇円 一万二九八〇円
栄 三万八二五〇円 三万二〇〇五円 六二四五円
花田 八万一三二五円 六万八〇四五円 一万三二八〇円
堀川 五万二三〇五円 四万三七六五円 八五四〇円
会社は昭和四五年一二月下旬分会に対し、同年年末一時金を一人平均一〇万円とすること、および争議権の放棄を内容とする協定書(案)を提示したが、そこには争議権の放棄と一体のものとはいえ一人平均一〇万円の年末一時金を支給する意思が表明されており、分会が右協定書(案)を拒否したのはもつぱら争議権の放棄を含んでいることを問題としたためであるし、一時金の支給と争議権の放棄とは何ら対価関係に立つものではなく、同時確定しなければならない合理的理由は全く存しない。また、従業員一人一人に対し右と同一内容の「協定書」および「承諾書」に署名を求め、署名しない限り一時金を支給しないということについても同様である。
しかも、会社が分会の協定書(案)未受諾を理由にして、さらに分会員の「協定書」および「承諾書」不署名を理由にして分会員に対し一時金を支給しないのは、それらを口実に分会員の賃金差別を合理化し、分会の弱体化ないしは壊滅を企図する不当労働行為であり、単独労働組合員には昭和四六年六月頃までには年末一時金が全額支給されていることなどから考えれば、労働契約の画一性、集団性に鑑み、遅くとも分会員以外の者に対し一時金が全額支給された同年六月頃において会社における昭和四五年年末一時金は一人平均一〇万円とするという規範が設定されたものというべきである。
被告三名および原告岩本ら一〇名が支払を受けるべき昭和四五年年末一時金は、昭和四六年二月一日の地労委のあつせんの席上会社が査定を行なつたうえで提示してきた金額である(原告安居については当時分会員でなく、地労委でも提示がなかつたので、分会員の平均額とした。)。昭和四五年年末一時金の協定が締結されなかつたのは、前記のとおり会社が提示した協定書(案)の中に、争議権の放棄が含まれていたためであつて、特に年末一時金を一人平均一〇万円にするという点に格別の問題があつたわけでなく、地労委で示された各人の具体的な額を分会側は受諾したのである。単独労働組合員は現に右内容によつて支給されているのであるから、年末一時金につき会社と分会間の協定、ないし会社と組合員間の労働契約は実質的にみれば妥結ないし成立したものとみて妨げないというべきである。
6 よつて、被告三名および原告岩本ら一〇名は原告会社に対し前記請求の趣旨記載のとおり、賃金あるいは損害賠償金の支払を求める。
四 昭和四七年(ワ)第九〇一号(本訴)事件の抗弁ならびに同年(ワ)第三〇六六号賃金支払(反訴)および同年(ワ)第三四九五号賃金支払各請求事件の請求原因に対する各答弁
1 前記抗弁ならびに請求原因三の1のうち、被告三名がいずれも会社の従業員として毎月七日に就労した前月分の賃金の支払を受けていたこと、会社が昭和四六年二月二〇日、被告三名に対し懲戒解雇の意思表示をなし、以後その就労を拒否していること、原告岩本ら一〇名が会社従業員として勤務していること、会社が被告三名および原告岩本ら一〇名に対し昭和四五年年末一時金としてその主張の金員を支払つたことを認め、その余は否認する。
2 同2の冒頭事実は争う。
同2の(一)の(1)のうち、香港・マカオ旅行の計画があつたことは認めるが、その余は否認する。右旅行は従業員に一切費用を負担させない建前で約二年前から企画されていたもので、その企画どおり実行された。賃金については賃金規定と科学的に作成される資料に基づいて規定通り支給された。
同(2)は不知。
同(3)のイは認める。同ロの(イ)、(ロ)は認める。同(ハ)は不知、同(ニ)のうち、ストライキが行なわれたことを認め、その余は否認する。同(ホ)は不知、同(ヘ)のうち、橋山副分会長の死亡が会社の不当な配置のための労働災害であることを否認し、その余は不知。同ハの冒頭事実のうち、阿倍野労働基準監督署から会社に対し是正勧告がなされたことを認め、その余は否認する。但し、その日付は昭和四五年一二月一八日であり、その内容は協定届出義務違反等の形式的違反であり、所定の期日までに勧告に即した措置をとつた。同ハの(イ)について出勤定時が午前八時であることは従前から一貫したものであつて、午前七時二〇分出勤については別に手当を支給していることも従前どおりである。同(ロ)、(ハ)、(ニ)は否認する。賃金規定は就業規則と同様従来から従業員に閲覧可能な状態にしてあつた。さらに毎月七日に給料を支給するが、八日から三日間賃金に関する質問を受付け、社長または総務が回答に当る制度が従来からあり、これも全従業員に周知徹底していた。同(ホ)は否認する。同旅行の旅費が全額会社負担であることは当初からの計画どおりである。同(ヘ)は否認する。
同(二)のうち、中谷が執行委員長、被告三名がいずれも執行委員であつたことを認め、その余は不知。
同(三)の冒頭事実は否認する。
同(三)の(1)のイのうち、昭和四五年一一月二日夜全自運のオルグが参加して第一回団交が開かれたことを認め、その余は否認する。あしなみ懇親会は全従業員をもつて構成する親睦団体で、結成以後労使懇談の場を作り、労働者の地位の実質的向上を図る上で多大な効果を発揮してきた。同ロのうち、被告ら主張の日に団交が持れたこと、組合から争議通知がなされたこと、地労委に斡旋申請がなされたことを認め、その余は否認する。同ハのうち、職制が就業時間中に全従業員を一人一人マイクで呼出し、書類に署名させたことは不知、その余は否認する。社長声明なるものは一一月二三日社長が分会副委員長中林義満、書記長奈良部義春らに欺罔された結果作成されたもので、社長の本意ではない。同ニは否認する。同ホおよびヘは不知。
同(2)のイのうち、会社が中谷浩司に対し同年一二月三日下車勤を命じたこと、分会が下車勤の問題について地労委に追加申請したことを認め、その余は否認する。中谷が負傷し運転ができないため下車勤を命じたのである。同ロのうち、会社が中谷に対し同旅行賛同の署名を求めたことを認め、その余は否認する。同ハのうち、意見書が会社に提出されたことを認め、その余は否認する。意見書は提出者が自らの意思で作成し提出したものである。同ニのうち、社長が下賀正則の手紙を読上げたことを認め、その余は否認する。その目的は組合と組合員を誹謗することにあるのではなく、たまたま組合が橋山の死亡事故につき会社が殺したのだと言う趣旨の宣伝をしていた時期であつたため、これに対処する意味もあつて全従業員に真実を知らせる一助として発表したものである。同ホのうち、第二組合が結成され、出口勝海が委員長になつたこと、年末一時金の問題につき地労委のあつせんが不調に終つたこと、分会が昭和四五年一二月二五日地労委に対し不当労働行為の申立をしたことを認め、その余は否認する。第二組合の結成と出口勝海が委員長になつたのは会社の意思によるものでなく、組合員らの自発的活動によるものである。会社が地労委のあつせん案を拒否したことはない。会社は明確に拒否せず、含みのある態度をとつたのであるが、地労委はあつせん案拒否と速断してあつせん打切を宣言した。ところが、昭和四五年一二月下旬になると右旅行も迫り、ほとんどの従業員が一時金をもらいたいのにもらえない状態になり、会社側も一時金を渡したいのに分会側と話合いがつかず、被告ら主張の解決案を提示するに至つた。解決案のうち今後三年間スト行為、抗議、争議を放棄するという条項は、いわゆる平和協定の提案をなしたものであり、労働者の争議権自体を放棄せよと要求したものではなく、権利行使を留保することを提案したにすぎない。同ヘのうち、社長が被告ら主張の発言をしたことを認めるが、その発言は不当労働行為意思の表明ではない。同トのうち、一月七日渡辺経理課長が各従業員の給料支給総額を読上げたことを認め、その余は否認する。同課長が給料の明細を読上げたことはない。組合員を不当に差別扱いしているのではないかとの問合せが総務部の方に再々なされていたので、会社はその疑問を払拭するため各人の支給総額を発表したのである。組合員であることによつて差別扱いをした事実はなく、賃金規定上それは不可能である。同チのうち、会社が中谷の勤務状況報告書を坪内次長に作成報告させたことを認め、その余は否認する。右報告は合理的理由があつてのことであり、同人を敵視嫌悪していたためではない。同リのうち、会社が昭和四六年一月一一日中谷に解雇の予告をしたこと、同月一五日懲戒解雇の意思表示をし、同年二月二〇日被告三名に対しいずれも懲戒解雇の意思表示をしたことを認め、その余は否認する。
3 原告会社の賃金体系(三の3に対する反論)
会社の従業員の賃金は、基本給、役職手当、考課給、職能給の基準内賃金と増減給、時間外手当、超過勤務手当(割増給)、長距離手当、出張手当、通信手当、家族手当、宿直手当、通勤手当、特別手当の基準外賃金によつて構成される。
(一) 基本給(賃金細目規定第二条第一項)
基本給は基本日給と基本月給に分れる。
(1) 基本月給
基本月額は賃金細目規定別表(一)の二で従業員の等級に応じた金額が定められているが、入社時に本人の年令、技能、経験および賃金希望額を考慮して等級が定められ、基本月額が決定される。基本月額は定期昇給、臨時昇給、特別昇給の際に等級が昇進して上昇する。定期昇給に際して従業員全員の基本月額が昇給する場合や、特定の従業員の技量向上、売上増加による特別昇給で等級が上昇して昇給する場合とがある。なお、賃金細目規定においては等級と金額とが一〇〇〇円きざみで対応しているが現実にはその中間の者もいる。
(2) 基本日給
基本日給も右規定別表(一)の一で従業員の等級に応じた金額が定められ、その月額は当該従業員の基本日額にその月の出勤日数を乗じて算出される。基本日額の決定および昇給は基本月額と同様である。
(二) 役職手当(右規定第二条第二項)
役職手当は管理職に就いた場合もしくは管理する立場の職に就いた者に対する待遇を必要と認められる者に支給されるが、現業員については分会員を含めて支給されていない。
(三) 考課給(右規定第二条第三項)
考課給は次の算式によつて算出した金額が支給される。
日額単価×採点数/日数×出勤日数
日額単価は全員一率で、昭和四七年三月分賃金までは五〇〇円、同年四月分賃金より六〇〇円である(右規定一部変更届第二条)。考課は所属長が職員または古参の者の意見を聞いて貢献度、勤務状況を採点する。採点は一〇点法であるが、満点の者はおらず七ないし八点の者が最高である。考課項目は礼節、協力、熱意であるが、礼節は従業員の言葉遣い、態度を、協力は配車、配置に対する協力や洗車等についての上長の指示に対する協力を、熱意は義務に対する熱意を評価する。
(四) 職能給(右規定第二条第四項)
現業部門の技術職の職能給は右規定別表(三)の一、ロに定められた次の算式によつて算出される。
売上×車種別歩合率(1.5%~5.3%)×技術点
この技術点は各事業部で採点し、その点数は技術上の向上等変更が認められない限り毎月一定である。技術点は六ないし一六点の範囲で採点されており、八ないし一〇点が普通である。右規定別表(三)所定の固定給は職能給の最低保障を意味するが、所定金額の固定給の支給を受けるためには暦日数から日曜日を差引いた日数だけ出勤しなければならず、出勤日数が上記日数に満たない場合はその満たない日数の割合だけ所定固定給から減額される。職能給は車種ごとに算出されるため、給与算定期間内に異種の車に乗務した場合には車種ごとに算出し、その金額を合算して職能給額が決まるが、最低保障たる固定給は本来の受持車種所定の金額による。
なお、助手の職能給は運転手の五〇%で、固定給も一万円(無免許者)と一万二〇〇〇円(有免許者)であるが、会社において運転手か助手かの判定は当該車種の免許だけではなく、技術・熟練度も総合してなされ、各事業場において技術・熟練度から運転手と認められない限り助手扱いである。賃金規程第一〇条第四項所定の職能給(A)と同第一六条第二項所定の職能給(B)は賃金細目規定の職能給に統一されて支給されている。
(五) 増減給(右規定第二条第五項、第三条第一項)
増減給は当該従業員の出勤日数がその月の規定出勤日数よりいくら増減しているかによつて決定される。出勤日数が規定日数より増加している場合には増給として超過した日数一日につき一〇〇〇円の割合で支給され、減少していればその減少日数一日につき五〇〇円の割合で賃金総額から減額される。但し、減額の場合は賃金総額の一〇分の一もしくは五〇〇〇円を限度とする。
(六) 時間外手当(右規定第三条第二項)
時間外手当は時間単価と残業時間の積によつて算出されるが、この時間単価は運転手、助手、見習手別に定められており、昭和四七年七月分賃金までは運転手三〇〇円、助手二五〇円、見習手二〇〇円であつたが、同年八月分賃金から運転手三五〇円、助手三〇〇円、見習手二五〇円で、昭和四九年八月分賃金から運転手四〇〇円、助手三五〇円、見習手三〇〇円と改訂された。
(七) 超過勤務手当(右規定第三条第三項)
現業部門の従業員の超過勤務手当(割増給)は右規定別表(三)の一、ロの算式で算出される(賃金細目規定一部変更届第三条)。
売上げ×60%(昭和47年3月分賃金まで)もしくは70%(同年4月分賃金以降)×車種別歩合率(0.8%~1.5%)
(八) 長距離手当(右規定第三条第四項)
長距離手当は片道二〇〇キロメートルを超える乗務に対して支給されるが、実車走行キロメートルと車種別単価の積で算出される。車種別単価は昭和四七年四月分賃金まで四ないし七円であつたが、同年四月分賃金から四ないし九円と改訂され、同時に復路の荷物があつた場合には更に五〇%加算されることとなつた(右規定一部変更届第四条)。
(九) 出張手当(右規定第三条第五項)
現業部門の従業員の出張手当は出張実働日数と単価(運転手五〇〇円、助手四〇〇円)の積によつて算出される。
(一〇) 通信手当(右規定第三条第六項)
現業部門の従業員の通信手当は社外での業務につき車に備えつけの無線もしくは電話による事業部との連絡状況を所属長が一〇点法で採点し、一点二〇〇円の単価で支給する。通信手当は最高二〇〇〇円であるが最高額を支給した例はなく、通常八点が最高である。
(一一) 家族手当(右規定第二条第七項)
家族手当は配遇者一五〇〇円、子女および父母五〇〇円その他扶養の者三〇〇円で、最高二八〇〇円まで支給される(賃金規程第一六条第八項)
(一二) 宿直手当(賃金規程第一六条第五項)
宿直勤務について従業員に対し一日二〇〇〇円以内の限度で支給される。
(一三) 特別手当(右規定第三条第六項)
特別手当は個人に顕著な事情があつた場合や、会社全体として成績がよかつた場合に一万円内外の金額が事業部の申請に基づいて社長決済で支給される。昭和四八年九月分賃金から物価の上昇に伴つて賃金総額の五%を特別手当として支給した。又、昭和四九年二月分賃金から業績好転により賃金総額の五%を加算し、合計一〇%を特別手当とし、同年四月分賃金から更に五%を加算し、合計賃金総額の一五%を特別手当として支給した。
被告三名の請求は原告会社における賃金体系からみて首肯できず、失当である。
4 三の4は否認する。
5 昭和四五年年末一時金について(三の5に対する反論)
会社と被告三名および原告岩本ら一〇名との間に同年年末一時金の支給について合意が成立しておらず、会社には支払義務がない。
被告三名および原告岩本ら一〇名は、会社が昭和四五年一二月下旬分会に対し同年年末一時金を一人平均一〇万円とすることと争議の放棄を内容とする協定書案を提示してきたこと、その協定書案には争議権の放棄が一体のものとされていたことおよび組合がその協定書案を拒否したことを認めながら、一時金の支給と争議権の放棄とは同時確定しなければならない合理的理由は全く存しないものであり、会社が協定書案の未受諾を理由として、さらに協定書および承諾書に署名しないことを理由として組合員に対し一時金を支給しないのは、それらを口実に組合員の賃金差別を合理化し、組合の弱体化ないしは壊滅を企図する不当労働行為であると主張するが、当時会社は同年一二月分会によつて行なわれた争議行為により事業継続につき壊滅的な打撃を受け、そのため従来利益を上げてきた業績も悪化の一途を辿つており、今後このような争議行為が継続されれば企業の存立も危うくなるので、会社としては分会と三年間の平和協定を締結する意思で右争議行為の放棄を提案したまでであつて、その提案が受諾されることによつてのみ会社は昭和四五年年末一時金の源資を一人平均一〇万円とすることの目途が立つたので、これを一体のものとして組合に提示したのであり、他の従業員に対しても同様の提案をし、その承認が得られたので支給したものである。両者が同時確定しなければならない合理的理由が全くないとか、分会員の賃金差別を合理化し、分会の弱体化ないし壊滅を企図する不当労働行為であるということはできない。
被告らは単独労働組合員に昭和四六年六月頃までに年末一時金が全額支給されたことから、労働契約の画一性、集団性に鑑み、同年六月頃において会社における昭和四五年年末一時金は一人平均一〇万円とするという規範が設定されたというべきであると主張するが、会社が分会に提案した協定案が分会との間で未妥結である以上、分会員にその協定書案にもられた年末一時金を支給しなければならない法的根拠としては乏しく、仮に労働契約の画一性、集団性なる論理が認められるとすれば、年末一時金と一体的な三年間の争議行為放棄の約束はどうなるものと主張するのであろうか。
被告らは、さらに、昭和四五年年末一時金の協定が会社と分会との間で締結されなかつたのは、会社が提示した協定書案の中に争議の放棄が含まれていたためであり、特に年末一時金を一人平均一〇万円にするという点に格別の問題があつたわけではないなどと主張するけれども、会社としては同年年末一時金を支給する前提として三年間の平和協定締結を希望したものであり、その協定書案が全体として未妥結である以上、年末一時金の支払義務はなく、また、会社と分会間の労働協約は文書に双方の当事者が署名捺印することによつて成立し、会社に支払義務が生じることは労組法の定めるところであつて、会社と分会員間の労働契約が右のような事実関係のもとに成立したと考えることはできない。
第三証拠<省略>
理由
一 昭和四七年(ワ)第九〇一号従業員地位不存在確認(本訴)請求について
1 右請求事件の請求原因1および2の事実は当事者間に争いがない。
2 まず、懲戒解雇事由の存否について判断する。
(一) 寮移転問題について
いずれも成立に争いのない乙五五、五六、六九号証、証人富岡守の証言、被告三名の各本人尋問の結果(被告荒井につき第一、二回)および原告会社代表者の本人尋問の結果によれば、左崎社長は昭和四六年一月一一日の朝礼において、被告三名を含むA地寮に入居していた従業員に対しプレハブ寮に移転するよう求めたところ、被告三名を除くその余の従業員はその後間もなく会社の指示に従つてA地寮から退去したが、被告三名は会社側の再三の指示にも拘らずその後もA地寮に居住し続けたこと、被告三名はかつてプレハブ寮に住んでいたが会社の指示により昭和四五年一〇月頃A地寮に移転したばかりであり、プレハブ寮は分会側の労基法違反の申告によつて調査した阿倍野労働基準監督署の監督官から、すでに老朽化しており寮として使用するのは不適当である旨指摘されていたことから、被告三名は会社側に再三にわたつて再移転の具体的な理由を示すよう求めたが、会社側は「会社の方針である。」とか「社長の指示による。」というだけで具体的理由を示さず、その後昭和四六年二月一一日社長が津川芳紀総務課長と共に被告荒井らの部屋にきて、同被告になぜプレハブ寮に移転しないのかと詰問し、これに対して同被告が理由がはつきりしないのにあつちに移されたりこつちに移されたりするのはかなわないと答えたところ、社長から防火と盗難の予防のためという理由が明らかにされたこと、当時被告三名はA地寮に分会のプロパンガスボンベとコンロを持ち込んで使用していたことがそれぞれ認められる(なお、被告三名が会社構内にあるA地寮に居住し、そこへプロパンガスボンベとコンロを持ち込み、これを昭和四六年一月頃一、二度使用したこと、被告三名が会社から同年一月一一日にA地寮からプレハブ寮へ移転するよう求められたことは当事者間に争いがない。)。しかし、A地寮における暖房器具および火気の使用については電気こたつのみを認め、それ以外は火災予防のため使用できない定めになつていたか否か、さらに、たとえ、このような定めがあつたとしても、会社が右定めをA地寮居住の従業員に周知させていたことおよび会社が被告三名に対し同年二月二〇日A地寮からの退去を命ずる以前に電気こたつ以外の火気の使用禁止を申入れたことを認めるに足りる適切な証拠はない。原告会社代表者の本人尋問の結果中には、会社は資金繰りのためにもA地寮あるいはその敷地を売却する必要が生じ、近い将来A地寮を取りこわさなければならないこととなりA地寮からの移転命令を出すに至つた旨の供述部分があるが、他の証拠と対比してたやすく信用することはできず、仮に、会社にA地寮あるいはその敷地売却の必要があり、近い将来A地寮を取りこわさなければならない事情があつたとしても、このような事由を会社が被告三名に対し告知したことを認めるに足りる適切な証拠はない。
以上の認定事実によれば、被告三名は会社の寮移転命令に従わなかつたのであるが、もともとプレハブ寮に住んでいたところ、先に会社からA地寮に移転させられたにも拘らず、それからさほど間もないのにすでに老朽化して居住に不適当なプレハブ寮へ再び移転するよう命ぜられたのであるから、会社としては右移転を命じるについてそれ相当の理由を示すべきであつたにも拘らず、昭和四六年一月一一日突如として被告三名らA地寮居住者にA地寮から退去を求め、その後同年二月二〇日の解雇までの間に右三名に対し納得しうる十分な具体的理由を説明することもなかつたというほかはなく、被告荒井らが会社から首肯すべき理由を示されないままなされた寮の移転命令に容易に応じなかつたことを強くとがめることは相当でないといわざるを得ない。
(二) タイムカードの不正打刻について
会社は被告三名について、それぞれその主張のような不正打刻があつたと主張し、証人富岡守の証言によりいずれも真正に成立したものと認められる甲三〇、三一、三九、四〇号証および右証言によれば、被告荒井は昭和四五年一二月二一日と昭和四六年一月二六日にそれぞれタイムカードに出勤時間として打刻された午前七時二十分の後である午前七時四〇分頃に食堂で朝食をとり、また、被告村田は昭和四五年一二月八日と昭和四六年一月二九日にそれぞれタイムカードに出勤時間として打刻された午前七時二〇分の後である午前七時四五分頃に食堂で朝食をとつていた事実が認められるが、右事実のみから直ちに被告荒井、同村田が日常的にそのような行為を反覆していたものと推認することはできないし、また、そのような事実を認めるに足りる証拠もない。さらに、被告尾崎がタイムカードの不正打刻をしたことを認めるに足りる証拠はない。
(三) 業務上の怠慢により頻発した事故について
成立に争いのない甲三六、三七、三八、四五、四七、四八号証、五〇ないし五五号証、弁論の全趣旨によりいずれも真正に成立したものと認められる甲四四、四六、四九号証によれば、被告荒井、同村田が業務中それぞれ会社主張のような事故を発生させたことが認められる(なお、請求原因3の(一)の(5)のうち、昭和四五年一一月二六日のタイヤ破損の事故があつたこと、同(二)の(4)のうち、同年六月一四日に電線の接触事故があつたこと、同年八月一三日川崎製鉄水島製鉄所内において太平電業株式会社の所長が右手薬指を負傷したこと、同月一九日右水島製鉄所第三製鋼工場においてトラツククレーンを運転中抵抗器を落下破損させたこと、同年九月二七日の事故、同年一一月一二日の事故、同年一二月一四日の事故はそれぞれ当事者間に争いがない。)。
また、弁論の全趣旨によりいずれも真正に成立したと認められる甲二五、二六号証によれば、被告尾崎が昭和四五年一月二六日高田機工株式会社岸和田工場でトラツククレーンを操作中鉄板を落下させ、同年三月二八日酒井鉄工作業現場でトラツククレーンを操作中同車のガラスを破損し、同年八月一〇日会社の自動車を運転中岡山市内国道二号線上において古島鉄管株式会社の車に追突して両車の一部を破損させたことが認められる。しかし、被告尾崎の右八月一〇日の追突事故が同被告の信号無視に基因するものであると断定するに足りる証拠はない。
被告荒井、同村田、同尾崎の前記認定の各事故は、前掲各証拠によれば、被告村田が太平電業株式会社の所長の手指に負傷させた件を除けば、いずれも物損で、被害程度からみてさほど大きな事故とは認められないが、被告村田は小事故が多発していること、被告荒井についても勤務期間の割に事故が多いことからすると、同被告らが注意散漫で、勤務態度に種々問題のあることを窺わせるが、他方、右認定の事故はすべてその都度しかるべく処理されていたことが窺われるから、さらに改めてこれを取上げて被告三名の懲戒解雇の理由に付加することは相当でない。
また、以上認定の事実を総合しても、いまだ直ちに被告三名が自動車運転手、クレーン運転手として不適格者であるとまでいうことはできない。
(四) 昭和四六年一月九日の暴行事件について
前記乙五五、五六、六九号証および被告荒井の本人尋問の結果(第一回)によれば、昭和四六年一月九日午後三時頃被告荒井らが会社事務室へ行き昭和四五年年末一時金の配分について会社側に尋ねたこと、そのとき同被告は会社の栗山本部長に態度が悪いとどなられたが、そこへ前田取締役が近づいてきたので、同取締役を避けるため後ずさりして後ろを振返つた際よろめいて同被告の足が前田取締役の足にふれたところ、突然同取締役は「こいつ、けつた、けつた。」「お前、ここけつたやないか。」とどなつたこと、そこで同被告が謝まろうとすると、前田取締役はいきなり同被告の胸をつかんで揺すぶり、前田取締役と同被告が「けつた。」「けつていない。」と言つて押問答をしているところへ他の分会員が入つてきたので、同被告はようやく事務室から退出できたことが認められ、右認定に反する証人出永敏雅の証言および原告会社代表者の本人尋問の結果は前記証拠に照してたやすく信用することはできない。そして、行為の態様、前後の事情など右認定事実を総合すれば、被告荒井の行動はそれのみを取り上げ懲戒解雇の理由とすることは相当でない。
(五) 昭和四六年二月二〇日の業務妨害行為について
被告村田の本人尋問の結果によれば、被告三名の右行為は被告三名が会社から懲戒解雇の通告を受けた後に社長に解雇理由を聞きに行つた際に生じたものであり、懲戒解雇の意思表示後の行為であることが明らかであるから、前記懲戒解雇の有効、無効を判断する対象事由には該当しないというべきである。
(六) 被告尾崎の請求原因3の(三)の(3)ないし(7)の行為について
甲一四ないし一八号証の各書面には、会社の右主張に沿う記載部分がある。しかし、右は被告尾崎の本人尋問の結果と対比すると直ちにこれを採用することは困難であり、他に会社の右主張を認めるに足りる証拠はない。もつとも、同被告本人尋問の結果によれば、会社の従業員が仕事の待機中に会社の待機室から脱け出すことがしばしばあり、同被告も会社の右主張の頃勤務時間中に待機室を離れ、寮の自室に行つたり、私用で出かけたことが一度ずつあつたことが認められるけれども、右証拠によると、会社においては従業員の右のような行為について当時あまり厳しく規制していたとは認められないのであつて、同被告の右行為のみを取上げて解雇事由とすることは相当でない。
(七) さらに、右認定のような被告三名の諸行為を総合して考察しても、被告三名が原告会社の就業規則に定められる懲戒解雇事由に該当すると断定することには疑問の余地があり合理性を欠くものというべきである。
3 次に不当労働行為の存否について判断する。
(一) 前記乙五五、五六、六九号証、いずれも成立に争いのない乙一、二号証、六ないし一一号証、一三号証、一六ないし二八号証、三〇、三一、三三、三四、四三号証、被告荒井の本人尋問の結果(第一回)により真正に成立したものと認められる乙一二号証の一・二、一五号証および同尋問の結果によれば、次の事実が認められ、右認定に反する原告会社代表者の本人尋問の結果は、前掲各証拠と対比してたやすく措信することはできず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
(1) 会社の従業員四十数名は、昭和四五年一〇月一四日芦原運送労働組合を結成して執行委員長に中谷浩司を選出し、右組合はその後非公然で組合員拡大等の活動を続けていたが、昭和四五年一一月一日臨時大会を開催し、そこで全自運に加盟することを決定し、右組合は全自運大阪合同支部芦原運送分会と称することとなつた。
(2) 会社は分会の結成前に、労働組合が結成されたこと、および組合が全自運に加盟するかもしれないことを察知し、左崎社長は同年一〇月二六日の朝礼の席上従業員に対して、従業員が組合をつくろうが、またその労働組合が上部団体に入ろうがこわくない。あしなみ懇親会の方でしつかりやるから協力を頼むという趣旨の訓辞をした。あしなみ懇親会というのは会社および系列会社の全従業員によつて構成される親睦団体であるが、それまでは目立つた活動はしていなかつた。
(3) 中谷ら分会執行部は同年一一月二日朝社長に対して組合事務所の貸与等一四項目の要求事項、分会役員の氏名および団体交渉の開催申入れを記載した書面を提出した。その後、会社側は具体的回答を示すなど誠意をもつた団体交渉を行なつておらず、社長が一方的に交渉議題と無関係な芦原ビル建設計画について説明したり、組合側交渉委員の数が足りないと言つて交渉に入るのを拒んだり、交渉時間中理由もなく沈黙を続けたり、上部団体役員や解雇された分会役員が団体交渉に出席するのを嫌悪して度重なる団体交渉の拒否を行なつてきた。また、団体交渉の席上社長は「会社にはあしなみ懇親会という団体があり、それが労働組合的な活動をしている、会社にはオリジナルなものがあり、社長を先頭にみんなが一致団結している、会社は法律以前の精神で円満にやつている。」と述べた(なお、昭和四五年一一月二日分会が会社に対し被告ら主張の要求事項を提出して団体交渉を申入れたことは当事者間に争いがない。)。
(4) 分会の野村書記長は、かねて社長から全国自動車交通労働組合の役員に胸のうちを話してあるから右役員と会つてほしいと要請されていたので、同月一三日右組合大阪地方連合会の増田副執行委員長および小西常任執行委員と会談したところ、増田副執行委員長らは野村書記長に対し、社長は会社が新日本製鉄の元請けになりたいので、分会はそれに障害となる全自運から手を引いてほしいと考えている旨話していたと述べた。
(5) 野村書記長は同月一五日団体交渉が終つた直後、社長の申入れにより会談した際、社長は野村書記長に対し会社は新日本製鉄の元請けになりたいので分会は全自運から手を引いてほしいと要請したが、同書記長はそういうことはできないと答えた。
(6) 社長は同月二〇日団体交渉の休憩時間に、分会側に対し「同月二四日に和歌山に行き住友金属の重役に会う、大きな会社の元請けになるには労働組合があると具合が悪い、住友金属によい貢物を持つて行きたい、なんとか解散大会を開いて右二四日には住友金属の重役のところに全自運脱退なり分会解散なりを記載した書類をもつて同道してほしい、それがだめなら私は社長をやめる。」と述べた。
(7) 分会の中林義満委員長、奈良部義春書記長、植田乙彦執行委員の三名は同月二一日夜社長らと会い、組合が全自運に加盟したことについて反対意見があるが、社長の意見を聞きたい旨申入れたのに対し、社長は会社の特殊性からいつてどの上部団体にも所属しない単独労働組合の方がよいと答えた。そこで中林らがそのことを書面にしてほしい旨求めると、社長は「会社は単独労働組合としての活動に同意する。」との声明書を作成し、これに署名押印した。
一方、社長は中林らに「私は社長の経営方針に賛同し、労働組合に関する加入脱退の権利を社長に委任する。」との書面および「私は会社ならびに芦原運送社員会(あしなみ懇親会を含む)の主催する海外旅行計画(香港・マカオ行)に賛同し喜んで参加することを確認する。」との社長あての書面を示し、これに署名を求めたところ、中林らはこれに応じこれらの書面に署名した。さらに、社長は中林らに単独労働組合としての活動を行なうことを目的とした「芦原運送(株)社員会会則(案)」を示し、中林らはこの社員会結成の方針を了承した。
(8) 会社は分会結成前から従業員全員を香港・マカオに慰安旅行させる計画をたてていた。分会は右旅行について、当初別組合の母体となる可能性のあるあしなみ懇親会が主催者に加わつているとして不参加の方針をとつていたが、一一月末頃になつて旅行費用(一人当り九万円)が全額会社負担に変更になつたことから、全員参加するが分会員の参加申込みは分会を通じて行なうとの方針に変更した。なお、右旅行は同年一二月二九日と三一日の二班に分けて三泊四日の日程により実施され、分会員からも参加者があつた。
(9) 社長、前田庄市、三宅宅三、出口幸男の各取締役栗山営業本部長、出永敏雅第一事業部次長、坪内敏剛第二事業部次長、富岡守第三事業部課長ら会社役員および管理職は、同年一一月二三日、二四日の両日、勤務時間中に社長声明、委任状、旅行確認書および社員会会則案を分会員を含む従業員全員に配布し、中林らが署名しているからと言つて委任状および旅行確認書に署名するよう求めた。
(10) 野村書記長は同月二四日朝組合役員の説得により前記(7)後段の行為を反省した中林らと共に社長に会い、「海外旅行計画(香港・マカオ行)に賛同し、労働組合に関する加入、脱退の権利を社長に委任した件につき約束とかけはなれた行動をとつたので我々は委任状を撤回する。」と記載した中林ら連名の書面を渡し、委任状を返還するよう求めた。しかし、社長はこれを拒否した。
(11) 会社は竹中工務店からボーリング場建設の突貫工事の注文を受け、同年一二月四日から中谷を同人が従前から乗務している三二トントラツククレーンに乗務させて同工事に従事させることに決定していた。この工事は連日午前三時頃から午後七時頃まで作業することになつており、工期は約二〇日間であつた。
中谷の直属上司である坪内次長および出口勝海配車係主任は同月三日午後四時頃中谷を呼び、まず出口主任が中谷に竹中工務店の仕事が二〇日間ほど連続してあるが、この間先日のような早出拒否や時間内集会をやらないといつてもらえないかと尋ねた。これに対し中谷は、それは分らない、早出拒否や時間内集会をやるかやらないかは社長自身の考えにかかるものだ、ストライキは方法であつて目的ではない旨答えたところ、坪内次長は中谷に対し、同人が乗務している三二トントラツククレーンを他の者と入れ替つてもらうと述べた。そして中谷は翌四日からトラツククレーンその他の車に乗務することを禁止され、会社構内の清掃や洗車等に従事させられた。なお、中谷は同月三日坪内次長から右のように言われた直後手指に負傷したが、トラツククレーンの運転にはさしつかえなかつた(中谷が手指に負傷したこと、会社が中谷に対し同月三日下車勤を命じたことは当事者間に争いがない。)。
(12) 社長は同月四日の朝礼後中谷を事務室に残し、同所において午前八時二〇分から一一時頃までの間、社長、前田取締役、栗山本部長、坪内次長、中村高康第三事業部次長ら会社役員および管理職約一〇名が中谷に対して、(イ)同年一二月二日朝礼に参加せず、構内をうろついていたが、なぜ朝礼に参加しなかつたのか、(ロ)一週間ほど前大正内港に人を送つて行つて二、三時間も戻らなかつたが、どうしてか、(ハ)会社に無断で私用電話をかけたがどう思つているのか、始末書を書けなどと問いただした。これに対し中谷は、(イ)については出口主任から朝礼に出席せずに万国博会場の解体工事に行つてほしいといわれ、構内で機械を点検していたものである、(ロ)についてはそういう事実はない、(ハ)については同年一一月三日泉北営業所において、組合用務で電話をかけたことは事実であるが、そのことは同営業所の管理職も知つており、別段注意はなかつたなどと答えた。
さらに、社長らは中谷に対して香港・マカオ旅行に賛成し、分会員らも中谷から同旅行に参加するよう指示してほしい旨求め、旅行確認書に署名するよう繰返し要求したが、中谷は、存在していない社員会の主催となつていることなどを理由に右申入れを拒否した。なお、この席上栗山本部長および中村次長は中谷に対し、手のおき方が悪い、社長の話を聞く態度ではない、「はあ」ではいけない、足をそろえて聞き、「はい」と返事しなければならない、お前は頭が悪いと思つていたが耳まで悪いのか、そんなのが分会を動かしていると思うとぞつとするなどと述べた。さらに、同日午後二時から午後三時頃にかけて、社長を除く会社役員および管理職数名は、社長の指示により中谷に対して同じく事務室において再び右旅行に賛成し、旅行確認書に署名するよう繰返し要求したが、中谷はこれを拒否した(会社が中谷に対し香港・マカオ旅行賛同の署名を求めたことは当事者間に争いがない。)。
(13) 同月二〇日頃分会員を除く会社従業員によつて芦原運送株式会社単独労働組合が結成され、その執行委員長には社長の義弟で、中谷の上司である出口勝海主任が就任した。もつとも、昭和四六年に入り出口主任は退職したため、その後任に前田取締役の息子である会社従業員の前田実が執行委員長代理に就任した。なお、右組合は昭和四七年三月一一日に解散した(芦原運送株式会社単独労働組合が結成され出口勝海が委員長に就任したことは当事者間に争いがない。)。
(14) 社長は昭和四五年一二月二六日朝、中谷に対して左記協定書(案)を示し、受諾するよう要求した。しかし、中谷はこれを拒否した。
協定書(案)
芦原運送株式会社(甲)と全自運芦原運送分会(乙)との紛議は次のとおり解決する。
1 甲は昭和四五年年末一時金(賞与金)を一人平均金一〇万円也とし、乙および乙の組合員はその支払日ならびに配分、支給方法の異議は言わない。
2 乙は、昭和四五年一二月に至るスト行為の外、争議行為を反省し、今後三年の間、スト行為、抗議、争議を放棄する。
甲は労働基準法ならびに関係法を遵守し、労使協調を促進する。
甲 芦原運送株式会社 代表取締役 左崎充
乙 全自運芦原運送分会 分会長 中谷浩司
立会人 芦原運送単独労働組合 委員長 出口勝海
また、同日会社は全従業員に対して会社を甲、従業員個人を乙とする前記協定書(案)と同一趣旨の協定書および四五年冬期ボーナスに関する<1>配分方法、<2>金額、<3>計算基準、<4>支払方法、<5>支給日の一切について承諾する旨記載した社長あての承諾書(以下、この協定書および承諾書を平和協定という)を配布し、これらの書面に署名した者には年末一時金を支給すると告げた。
この会社の措置に対して、分会員以外の従業員はすべて平和協定に署名押印し、同月二八日に年末一時金一〇万円(平均)のうちの八〇%および一二月分賃金の五〇%の支給を受けたが、分会はこの平和協定に反対し、分会員は署名を拒否した。さらに、同日行なわれた団体交渉の席上でも、分会側はこのような行為をやめるよう求めたが、社長はこの平和協定によつて解決するより方法がない旨述べ、年末一時金問題に関する交渉は進展を見なかつた(なお、会社が前記協定書(案)を分会および従業員に提示したことは当事者間に争いがない。)。
(15) 社長は昭和四六年一月四日初出の式で行なつた年頭のあいさつの中で「平和協定について得手勝手な判断がある。分会がマイク等で呼びかけても営業スタツフが信念をもつてやつている。皆さん驚くな。分会が調子づいても受けて立つ用意はある。踊らされてはならない。私の言つたことが正しいことは後になつたら分る。ストライキで年末一時金の支給に支障をきたした。今年の正月は赤旗で出迎えてくれた、これもよかろう。今年は少しもうけさせてもらう。法律などあるが、私は受けて立つ。」などと述べた(社長が前記月日頃ほぼ同旨の発言をしたことは当事者間に争いがない。)。
(16) 社長、前田取締役、栗山本部長、坪内次長、中村次長ら会社役員および管理職約一〇名は、同年二月二〇日午後、被告三名の住む寮室に押しかけ、在室していた被告荒井および同村田の抗議を無視して被告三名の布団、こたつ、衣類などを廊下に放り出し、同荒井らの所持品が入つたままの押入れと柱の間に「封印」と記載した紙片を貼りつけ、また、同荒井らに室外へ退去するよう求め、同被告らがこれを拒否すると、同被告らが在室したままの状態で戸口や窓に板を数枚打ちつけた。
(二) 以上認定の会社の一連の行動を総合して考えると、会社は被告荒井らが労働組合を結成し、全自運に加盟して以来、その存在および行動を嫌悪していた事実が明確に認められるから、会社は分会の壊滅あるいは弱体化を目的として前記2のような些細なことを口実にして分会役員である被告三名に対し懲戒解雇を行なつたものと推認するのが相当であり、右懲戒解雇は不当労働行為として無効であるというべきである。
4 そうだとすれば、他に何らの主張、立証のない本件にあつては、被告三名は現在なお会社従業員としての地位を有するものというべく、会社の被告三名に対する従業員の地位不存在確認請求は理由がない。
二 昭和四七年(ワ)第三〇六六号(反訴)事件および同年(ワ)第三四九五号事件について
1 前記一の2において述べたとおり、原告会社が昭和四六年二月二〇日になした被告三名に対する懲戒解雇の意思表示は不当労働行為として無効であるから、被告三名は昭和四六年二月二〇日の意思表示後も会社の従業員としての地位を有し、また、会社が被告三名を懲戒解雇したとしてその就労を認めなかつたことは当事者間に争いがないから、被告三名は従業員として会社に対し賃金請求権を有するものである。
2 被告三名が支払を受けるべき賃金
(一) 原告会社の賃金規定および実態
会社が従業員に対し毎月七日に前月一日から月末日までの賃金を支払つていることは当事者間に争いがなく、いずれも成立に争いのない甲五七、五八、七四号証、乙七二号証および原告会社代表者の本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
会社が従業員に支払う賃金は基準内賃金と基準外賃金に分れ、基準内賃金には、基本給、役職手当、考課給、増減給のうちの減給、職能給、通信手当、家族手当があり、基準外賃金には増減給のうちの増給、時間外手当、超過勤務手当(割増給)、出張手当、長距離手当、宿直手当、通勤手当、特別手当があること。
基本給は基本日給と基本月給に分れ、基本日給は一等級四五〇円から二〇等級一九〇〇円まで、基本月給は一等級三〇〇〇円から二〇等級二万二〇〇〇円までそれぞれ二〇ランクに分けられ、入社時の等級は当該従業員の運転経験年数、年令、本人の希望給料等を考慮して決められ、その後定時昇給、臨時昇給、特別昇給の形をとつて等級が上つていくこと、その際各等級の所定金額が基本日給、基本月給となるが、場合によつては各等級の所定金額の中間の金額を定められることもあること、物価の上昇に伴つて行なわれるベースアツプが行なわれたことはなく、すべて昇給という形で行なわれ、しかも昇給は従業員によつて、時期、回数がまちまちで、従業員としてどのような場合にどのような昇給の仕方をするか予測がつかないこと。
役職手当は主務職(管理職)に限り支給されるもので、被告三名を含む現業員には適用されないこと。
考課給は職務の勤怠、礼節、協力、熱意などを一〇点満点で採点し、次式によつて算出され、基本金額は五〇〇円から六〇〇円に改訂されたこと。
基本月給×考課点/10×出勤日数
職能給は最低保障として車種別の固定給が定められ(但し、固定給は一か月の日曜日以外の日数を出勤した場合に全額支給され、右基準に満たない場合はその割合だけ固定給が減額される。)後記の算式によつて算出された金額が右固定給を上まわるときはその算出金額によるものとし、発生基準方式により毎日稼働売上を累積したものを個人売上とすること。
個人売上×(1.5%~6%、車種別により異る)×技術点
増減給は出勤日数が規定日数に満たない場合に、その満たない日数につき一日当り五〇〇円を減給し、減給の総額は賃金総額の一〇分の一あるいは五〇〇〇円以内とし、規定日数を超えて出勤すれば一日当り一〇〇〇円を増給すること。
時間外手当は時間当りの単価と残業時間の積によつて算出され、時間当り単価は見習手二〇〇円、助手二五〇円、運転手三〇〇円であつたが、その後運転手については四〇〇円に増額されたこと。
通信手当は連絡状況を評価して二〇〇〇円を限度として支給されること。
家族手当は被告ら主張の別表(三)の家族手当支給基準のとおりであること。
超過勤務手当(割増給)は左記算式によつて算出されていたが、後六〇%が七〇%に改訂されたこと。
個人売上×60%×(0.8%ないし1.5%、車種別による)
長距離手当は左記算式によつて算出されるが、後に単価が四円ないし九円に改められ、さらに、帰り荷があつた場合五〇%加算されること。
実車走行キロ数×(4円ないし7円、車種別による)
出張手当は実働一日当り運転手五〇〇円、助手四〇〇円とし、運転手二人の場合は一人四五〇円とすること。
特別手当は特に必要と認めたとき、事業部の申請を経て社長決済により決められるが、昭和四八年九月に賃金総額に五%を加算し、昭和四九年二月には一〇%とし、昭和四九年には一五%となし、従業員全員に賃金総額の一五%が特別手当として支給されており、例外的に出勤日数等が著しく少ない場合は一律の特別手当を支給しないこともできること。
(二) 被告三名の解雇時の賃金
被告三名が会社から支給を受ける毎月の賃金が一定しないことは前記認定の事実から明らかであるから、ある特定月の支給額をもつて解雇時の賃金とすることは相当でなく、解雇前に支給を受けた一定期間の賃金額を基礎として平均月額賃金を求め、右平均月額賃金をもつて解雇時における賃金とするのが合理的である。
いずれも成立に争いのない乙四〇ないし四二号証の各一ないし四によれば、被告荒井、同村田および同尾崎の各賃金は昭和四五年八月分がそれぞれ一〇万二六六一円、八万三五二五円、八万九二六七円であり、同年九月分がそれぞれ九万二四七四円、八万四四九六円、六万六〇八六円であり、同年一〇月分がそれぞれ九万六九六一円、九万〇四八五円、六万八六五八円であり、同年一一月分がそれぞれ八万〇五七四円、八万一三五三円、七万三五三六円であることが認められ、その一か月の平均賃金は被告荒井が九万三一六七円(円未満切捨て、以下同じ)、同村田が八万四九六四円、被告尾崎が七万四三八六円となることは計算上明らかである。一方、会社は被告三名の解雇前の賃金について何らの反証を提出していないのであるから、前記認定の四か月の平均賃金をもつて被告三名の解雇時の一か月の賃金と認めるのが相当である。
なお、被告三名は、昭和四五年一一月分の賃金は組合が公然化した後であり会社によつて分会員であることを理由に差別取扱いが行なわれたものであるから解雇時の賃金を定める資料として不適切であると主張するけれども、前記乙四〇ないし四二号証の各一ないし四によれば、被告尾崎の昭和四五年一一月分の賃金は同年九月、一〇月分と比較して高く、被告村田の同年一一月分の特別手当は同年九月、一〇月分と比較して低く、被告荒井の同年一一月分の特別手当も同年八月、九月分と比較して低くなつているが、被告村田の同年一一月分の特別手当は同年八月分のそれと同額であり、また、被告荒井の同年一一月分の特別手当も同年一〇月分のそれと同額であることが明らかであるから、前記四か月の賃金額から同年一一月分の賃金が直ちに他の賃金と比較して差別して取扱われたものということはできず、他に右主張を認めるに足りる証拠もないので、被告らの右主張は採用することができない。
(三) 被告三名の解雇後の賃金
会社の賃金実態によれば、被告三名の賃金は、被告三名の出勤日数、時間外数、売上金額、考課点数、通信点数などの基礎数値が明確にならなければ正確に算出されず、また、被告三名は懲戒解雇されて就労の機会を奪われたのであるからそのような基礎数値を求めることも不可能である。しかしながら、被告三名の解雇時の賃金は前記認定のとおりであるから、被告三名は解雇後も少くとも解雇時の賃金額を下回らない賃金の支払を受けることができたものと認めるのが相当である。
(四) 被告三名のその後の昇給
被告三名は、会社の本社事業部に所属する被告三名と同じ現業員のうち、非分会員で、昭和四六年一月一日から当該年の末日までの継続勤務者を比較対象者として選定し、ある賃金項目についてはこれらの比較対象者の平均昇給額をもつて被告三名の昇給額とし、他の賃金項目については非分会員に支払われた平均額をもつて被告三名の昇給賃金額として被告三名に対しても支払われるべきである旨主張する。
しかし、前記(一)認定の会社の賃金実態によれば、家族手当については、その支給基準が別表(三)記載のとおり順次改訂され、扶養家族数によつて直ちにその金額を求めることができ、被告三名も従業員として右基準が適用され、それに従つて家族手当が増額したことが推認されるが、その余の賃金項目についてはいわゆるベースアツプが行なわれたことはなく、その増額については各従業員によつてまちまちであり、その増額の仕方に一定の法則を見出すことは困難であつて、全く会社の裁量にゆだねられ、会社の意思表示がなされてはじめて賃金が増額する制度をとつているのであるから、被告三名につき会社の何らの意思表示なしに当然賃金が増額したものということはできず、被告三名のこの点に関する請求は失当であるといわざるを得ない。
そして、弁論の全趣旨によれば、被告尾崎は昭和五〇年二月に結婚したこと、同村田は昭和四七年一月に結婚したが、既に子供一人があり、さらに昭和四七年一一月に長女、昭和五〇年二月に二女が生まれたことがそれぞれ認められるから、前記家族手当支給基準によれば、被告尾崎は昭和五〇年二月から毎月五〇〇〇円、被告村田は昭和四七年一月から一〇月まで毎月二〇〇〇円、同年一一月、一二月は毎月二五〇〇円、昭和四八年一月から四月まで毎月三五〇〇円、同年五月から昭和四九年七月まで毎月五〇〇〇円、同年八月から昭和五〇年一月まで毎月八〇〇〇円、同年二月以降毎月八五〇〇円の家族手当が支給されることとなる。
(五) 被告三名が支給を受けるべき賃金
それ故、被告三名が支払を受けるべき解雇後の昭和四六年三月分以降の賃金は次のとおりであり、これを表に示すと別表(四)の各(ロ)欄記載のとおりとなる。
被告荒井
昭和四六年三月分以降毎月九万三一六七円
被告村田
昭和四六年三月分から一二月分まで毎月八万四九六四円
昭和四七年一月分から一〇月分まで毎月八万六九六四円
同年一一月、一二月分 毎月八万七四六四円
昭和四八年一月分から四月分まで毎月八万八四六四円
同年五月分から昭和四九年七月分まで毎月八万九九六四円
同年八月分から昭和五〇年一月分まで毎月九万二九六四円
同年二月分以降 毎月九万三四六四円
被告尾崎
昭和四六年三月分から昭和五〇年一月分まで毎月七万四三八六円
同年二月分以降 毎月七万九三八六円
(六) 被告三名が昭和四六年以降支払を受けるべき一時金
会社が従業員に対し昭和四六年以降の一時金をどのような基準で支払つていたかについては、これを認めるに足りる証拠は一切なく、したがつて、被告三名が会社に対し別表(二)に記載の一時金請求権を取得したとは認められず、この点に関する被告三名の請求は失当というほかはない。
3 被告三名の予備的請求
(一)原告会社の不法行為
会社の被告三名に対する懲戒解雇が不当労働行為として無効であることは前記のとおりであり、前記一の3の(一)の(1)ないし(16)に認定した諸事実を総合すれば、会社は被告三名を懲戒解雇するに当り、その懲戒解雇が不当労働行為に該当し無効となることを認識しており、あるいは少くとも認識しうる状況にあつたものというべきであり、会社には被告三名を解雇したことにつき少くとも過失があるといわなければならない。したがつて、会社が被告三名を懲戒解雇したことは不法行為を構成し、会社は被告三名に対しそのために生じた損害を賠償する責任があるというべきである。
(二) 被告三名が毎月支払を受けるべき賃金相当損害金
被告荒井の本人尋問の結果(第二回)およびいずれも成立に争いのない乙五九号証の一ないし五四、六〇号証の一ないし三三、六一号証の一ないし二四および六二号証の一ないし二二によれば、乙五九号証の一〇同六〇号証の八、同六一号証の三、同六二号証の五は、本社事業部所属の現業員のうちのある非分会員の、乙五九号証の四七、同六〇号証の一六、同六一号証の二および同六二号証の一五は同じくある非分会員の、乙五九号証の五〇、同六〇号証の二一、同六一号証の一七および同六二号証の九はある非分会員の、乙五九号証の八、同六〇号証の一〇、同六一号証の一五および同六二号証の七はある非分会員の、乙五九号証の二六、同六〇号証の三二、同六一号証の二〇および同六二号証の七はある非分会員の、乙五九号証の四二、同六〇号証の六、同六一号証の一三および同六二号証の四はある非分会員の、それぞれ昭和四六年から昭和四九年までの賃金明細表であることが認められ、その年別の総賃金(但し、家族手当を除く)を求めてみると次のとおり増額していることが認められる。
昭和四六年
同四七年
同四八年
同四九年
一六四万七四四八円
一九三万二九六六円
二六〇万七五七五円
三一二万一〇八四円
一一四万六〇七九円
一四一万一二三五円
二一九万九一五七円
二五八万一一八四円
一三八万二五二五円
一八〇万四六一九円
二四八万五四七〇円
二九四万八〇八三円
一〇七万五〇五八円
一六一万〇七一三円
二五三万一八八八円
三〇三万一二六〇円
一三〇万〇一二〇円
一六三万五三三一円
一九四万四四七九円
二七五万八八〇六円
一二九万一三二六円
一六一万四八九八円
二二九万九八五四円
二六七万七六五五円
一方、いずれも成立に争いのない乙六三号証の一ないし一五ならびに前記被告荒井の本人尋問の結果(第二回)および同結果によりいずれも真正に成立したものと認められる乙七三号証、七四号証の一ないし六によれば、分会員の年総額賃金は次のとおりであり、これによれば、その金額は全体的に低く、しかも増額していないか、増額しても極めてわずかであることが認められる。
昭和四六年
同四七年
同四八年
同四九年
同五〇年
一一六万八〇〇一円
九一万四二九四円
一〇〇万八九〇七円
一〇万五五七八〇円
一〇三万六〇六七円
五六万四一六七円
七四万〇一〇四円
六八万六四一八円
八六万八九四九円
六八万一三〇二円
六一万一九二〇円
七二万一四三七円
八〇万二七五四円
八二万六九九六円
六七万七四一三円
九一万六五四六円
九九万一七一六円
九三万九五一六円
一一三万五三三六円
一〇七万三八二九円
五七万三一九〇円
六一万七一四三円
六四万〇〇四六円
七七万五六〇六円
六六万八三六九円
以上認定の分会員と非分会員の賃金総額の相違、成立に争いのない乙六七号証、前記一の3の(一)の(1)ないし(16)に認定した事実を総合すれば、会社は賃金の支払について分会員を分会に加入していることを理由に非分会員と差別して取扱つているといわざるを得ない。
ところで、被告三名が前記認定の賃金額を超えた部分につき賃金として請求しえないからといつて、そのことから直ちに賃金相当額の損害も発生しないということはできない。会社が賃金の支払につき分会員であることを理由に分会員を非分会員と差別して取扱うことは不当労働行為に該当し、差別取扱いに該当することを認識しながらあるいは認識しうるにも拘らず、差別取扱いをした場合には不法行為を構成し、そのような差別取扱いがなかつたならば、支払を受けたであろう賃金相当損害金は当然右不法行為に基づく損害に含まれると解すべきである。したがつて、解雇が不当労働行為に該当し、さらに不法行為に該当するため、その賃金相当損害金を算定するにあたつては、被告三名が分会員であることを理由に差別取扱いがされないことを前提にしなければならない。
右のような観点から、被告三名の賃金相当損害金を求めるためには、差別取扱いされている分会員を除外し、非分会員の賃金を考慮して算定せざるを得ない。
被告三名は、この点につき、被告三名と同じ本社事業部所属の現業員のうち、非分会員で、昭和四六年一月一日から当該年の末日までの継続勤務者を比較対象者として選定し、ある賃金項目についてはこれらの比較対象者の平均昇給額をもつて被告三名の昇給額とし、他の賃金項目については非分会員に支払われた平均額をもつて被告三名の昇給賃金相当損害金として算定すべきであると主張するけれども、被告三名の解雇時の月額賃金と非分会員のそれとにそもそも相違があるのであるから、その昇給増額分あるいは平均額が直ちに賃金相当損害金となるということは合理的でないというべきである。
しかしながら、前記認定の非分会員の賃金総額および弁論の全趣旨によれば、被告三名が原告会社から懲戒解雇されず、分会に加入していることを理由に差別取扱いをされなかつたならば、被告三名の賃金も増額したこと、およびその金額については非分会員の平均増額率と同じ比率をもつて増額したと推認できるから右増額分をもつて賃金増額相当損害金と認めるのが相当であり、会社においては各従業員によつて、賃金昇給の時期、回数が区々で一定していないことは前記のとおりであるから、その賃金上昇率は各年毎の賃金総額を算出してこれを求めるのが相当である。
そこで、右賃金上昇率を算出するに、まず、前記被告荒井の本人尋問の結果によれば、昭和四六年一月から昭和四七年年末まで継続勤務した会社本社事業部所属の現業員で、非分会員は一〇名(但し、一名は賃金額が不明のため除く)であり、前記荒井の尋問の結果および前掲各証拠によれば、乙五九号証の一〇と同六〇号証の八、同五九号証の一四と同六〇号証の二四、同五九号証の二四と同六〇号証の四、同五九号証の四七と同六〇号証の一六、同五九号証の五〇と同六〇号証の二一、同五九号証の八と同六〇号証の一〇、同五九号証の三六と同六〇号証の一八、同五九号証の二六と同六〇号証の三二、同五九号証の四二と同六〇号証の六、同五九号証の三三と同六〇号証の三はそれぞれ前記非分会員の同一人の昭和四六年一月から昭和四七年一二月までの賃金明細表と認められ、その年総額賃金(但し、家族手当は除く)の変動とその増額率は次のとおりである(但し、四捨五入したもの。以下同じ。)。
昭和四六年
同四七年
増額率
一六四万七四四八円
一九三万二九六六円
一一七万三三〇九円
一四七万七五九三円
一六二万一七三八円
一〇九万七五五四円
八〇万〇九四六円
九二万九七八九円
一一六万〇八六四円
一一四万六〇七九円
一四一万一二三五円
一二三万一三五九円
一三八万二五二五円
一八〇万四六一九円
一三〇万五三〇七円
一〇七万五〇五八円
一六一万〇七一三円
一四九万八二五七円
一二八万〇二四三円
一五〇万五二九八円
一一七万五七九一円
一三万〇〇二〇円
一六三万五二九一円
一二五万七八〇〇円
一二九万一三二六円
一六一万四八九八円
一二五万〇五七三円
九三万八一三五円
一四九万六四〇二円
一五九万五〇八二円
したがつて、昭和四七年の平均増額率が一・二七四五九〇であることは計算上明らかである。
次に、前掲各証拠によれば昭和四七年一月から昭和四八年年末まで会社に継続勤務した本社所属の現業員で、非分会員は七名(但し、一名は不明確のため除く)であり、乙六〇号証の八と同六一号証の三、乙六〇号証の一六と同六一号証の二、乙六〇号証の二一と同六一号証の一七、乙六〇号証の一〇と同六一号証の一五、乙六〇号証の三二と同六一号証の二〇、乙六〇号証の六と同六一号証の一三、乙六〇号証の三と同六一号証の八は前記非分会員の同一人の昭和四七年一月から昭和四八年一二月までの賃金明細表と認められ、その総額賃金(但し、家族手当を除く)の変動と増額率は次のとおりである。
昭和四七年
同四八年
増額率
一九三万二九六六円
二六〇万七五七五円
一三四万九〇〇二円
一四一万一二三五円
二一七万九一五七円
一五四万四一四九円
一八〇万四六一九円
二四八万五四七〇円
一三七万七二八二円
一六一万〇七一三円
二五三万一八八八円
一五七万一九〇五円
一六三万五二九一円
二三三万一八三二円
一四二万五九四三円
一六一万四八九八円
二二九万八五四七円
一四二万三三三九円
一四九万六四〇二円
二三六万一二八七円
一五七万七九七六円
したがつて、昭和四八年の平均増額率が一・四六七〇八五であることは計算上明らかである。
さらに、前掲各証拠によれば、昭和四八年一月から昭和四九年年末まで原告会社に継続勤務した本社所属の現業員で、非分会員は六名(但し、一名は不明確のため除く)であり、乙六一号証の三と同六二号証の五、乙六一号証の二と同六二号証の一五、乙六一号証の一七と同六二号証の九、乙六一号証の一五と同六二号証の一七、乙六一号証の二〇と同六二号証の七、乙六一号証の一三と同六二号証の四はいずれも前記非分会員の同一人の昭和四八年一月から昭和四九年一二月までの賃金明細表と認められ、その年総額賃金(但し、家族手当を除く)の変動と増額率は次のとおりである。
昭和四八年
同四九年
増額率
二六〇万七五七五円
三一二万一〇八四円
一一九万六九三〇円
二一七万九一五七円
二五八万一一八四円
一一八万四四八七円
二四八万五四七〇円
二九四万八〇八三円
一一八万六一二七円
二五三万一八八八円
三〇三万一二六〇円
一一九万七二三三円
二三三万一八三二円
二七五万八八〇六円
一一八万三一〇七円
二二九万八五四七円
二六七万七六五五円
一一六万四九三四円
したがつて、昭和四九年の平均増額率が一・一八五四七〇であることは計算上明らかである。
以上の認定事実によれば、被告三名が会社から懲戒解雇したと称して従業員の地位を一時的にせよ奪われず、分会に所属していることによる差別取扱いがなかつたならば、被告三名は毎年前記認定の非分会員の各平均増額率と同じ率の賃金増額が得られたと認めるのが相当であり、被告三名の昭和四七年から昭和四九年までの一か月の賃金増額相当損害金(但し、前年との増額分である。)は次のとおりとなり、これを表に示すと別表(四)の各(ハ)欄記載のとおりである。
昭和四七年
昭和四八年
同四九年
被告荒井
二万五五八二円
五万五四六五円
三万二三一一円
93167×0.274590
118749×0.467085
174214×0.185470
被告村田
二万三三三〇円
五万〇五八二円
二万九四六六円
84964×0.274590
108294×0.467085
158876×0.185470
被告尾崎
二万〇四二五円
四万四二八四円
二万五七九七円
74386×0.274590
94811×0.467085
139095×0.185470
(三) 被告三名が支払を受けるべき昭和四六年以降の一時金相当損害金
前記荒井の本人尋問の結果(第二回)およびいずれも成立に争いのない乙六四および七二号証によれば、会社は昭和四六年以降の一時金につき別表(二)記載の年月の各月末日限り会社に勤務する現業員に対し平均して支払時の一か月の賃金に同表記載の支給率を乗じた金額を下回わらない額を一時金として支給したこと、および右各一時金の支払日は遅くとも各該当年月の月末日であることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。したがつて、被告三名は会社の前記不法行為が存しなかつたならば、会社から支払時の一か月の賃金に右平均の率を乗じた金額の一時金を支払われたものと推認するのが相当であり、被告三名は右と同額の一時金相当の損害金を受けたものというべきである。
4 以上のとおりであるから、被告三名の昭和四六年三月以降支払を受けるべき家族手当を含む毎月の賃金および昭和四七年一月以降の毎月の賃金増額相当損害金の合計は別表(四)の(イ)欄記載のとおりとなり、(なお、毎月の賃金および賃金増額相当損害金は被告三名が従業員としての地位を有し、会社に労務を提供している限り毎月発生するものであり、本件口頭弁論終結後においても右前提事実に変動が生じない限り毎月発生するものと推認される。)、昭和四六年以降の一時金相当損害金は別表(五)記載のとおりとなることは計算上明らかである。
したがつて、会社は被告三名に対し別表(四)の各被告に対応する各年月(イ)欄記載の各金員についてはその翌月七日限り、また、別表(五)の各金員については該当年月の各月末日限りそれぞれ支払う義務があり、右各金員に対する各支払期日の翌日からそれぞれ支払ずみまで別表(四)の(ロ)欄記載の各金員については商事法定利率年六分の割合による、同表(ハ)欄記載の各金員および別表(五)記載の各金員についてはいずれも民事法定利率年五分の割合によるそれぞれ遅延損害金を支払う義務があるといわなければならない。
5 昭和四五年年末一時金
昭和四五年年末一時金の支給に関する昭和四五年一二月二六日および二八日の交渉経過ならびに支給の状況は前記一の3の(一)の(14)に記載したとおりであつて、会社は右年末一時金の支給に関する協定締結と併せて平和義務条項に合意することを要求し、分会はこのような平和義務条項に合意することを拒否して互にその主張を譲らなかつたため、会社と分会とは右両日前記年末一時金の支払に関する前記協定書(案)について具体的合意に達せず、さらに、前記乙五五、五六、六九号証および被告荒井の本人尋問の結果(第一回)によると、会社と分会とは翌昭和四六年に入つてからも右年末一時金その他について団体交渉を重ね、地労委のあつせんも行なわれたがいずれも解決をみるには至らなかつた。しかし、その間分会は同年二月一日のあつせん手続において地労委から示された平均額一〇万円、うち八〇%の配分は会社の示す基準および各金額(後記認定のとおり)とする、残り二〇%の配分基準と支給日は労使が協議して決定すること、会社は今後分会員の労働条件等待遇に関しては当該組合の代表者と協議し、組合の了解なしに分会員個人に承諾書などの提出を求める行為および主張をしないこととのあつせん案(但し、この案には原告安居が当時分会員でなかつた関係上同原告の分は示されていない。)を了承し、会社もあつせん案の趣旨に沿つて解決に努力するとの回答をしたこと、しかし、その後も分会員が年末一時金のうち八〇%の配分額を受取りに行くと、会社は平和協定に署名しない限り支給できないとしてこれを拒否し、社長は分会員以外の従業員は会社が示した平和協定に署名したから年末一時金を支給したのであつて、平和協定に署名しない者に支給すると不当差別になると言明していて、会社側はその後の団体交渉においてもこのような態度を変えていないことが認められ、右認定に反する証拠はない。
前記一の3の(一)の(14)および前段認定の各事実を総合すると、会社は分会員以外の従業員に対してあつせん案と同じ平均額、配分基準等に基づく年末一時金の支給を約束し、その大部分を支給していることおよび分会が右あつせん案を受諾したこともあつて、同年二月一日以降、分会員に対しても右あつせん案のうち平均額、配分基準についてはこれを了承したものの、なお、平和協定の締結を条件とし、これに署名しない限り年末一時金の支給をしないとの態度をとり続けたことが認められる。
ところで、一般的に、右のような平和義務条項を結ぶことはその有効性について論議の存するところであるが、仮にその有効性を肯定するとしても、少くとも従業員あるいは労働組合の自由意思に基づく合意であることを要するものと解すべきであり、使用者が年末一時金の支払と抱き合わせて従業員あるいは労働組合に対して平和義務条項の締結を迫るとか、平和義務条項を締結しない限り年末一時金の支給をしないとすることは、従業員あるいは労働組合の自由意思を奪うこととなつて極めて不当であり、たとえ、使用者の右のような年末一時金の支払と抱き合わせた平和義務条項の提案を従業員が承諾して合意が成立したとしても、その平和義務条項については原則として無効であると解すべきである。
本件についてこれをみるに、会社が分会に対しあつせん案どおりの年末一時金の支給を承諾しながら、平和協定を締結しない限り現実の支給をしないとするのは許されず、右年末一時金の支給については平和協定締結の問題とは無関係に完全に合意が成立し、支給する義務があるといわなければならない。
そして、前記各証拠によれば、地労委のあつせん案に基づく被告三名および原告安居を除く原告岩本ら九名に対する右年末一時金の具体的金額は被告三名ら主張のとおりであること、非分会員たる従業員に対しては昭和四六年六月末日までに右一時金全額が支給されたことが認められ、会社がその後右被告三名らに対し右一時金の一部を支払つたことおよびその各金額については当事者間に争いがない。
そうだとすると、会社は被告三名および原告安居を除く原告岩本ら九名に対し、右年末一時金として既払額を控除した左記金員およびこれに対する支払期日の翌日たる昭和四六年七月一日から支払ずみまで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金を支払う義務があるものというべきである。
被告荒井 三六八二円
同村田 一三七九円
同尾崎 一八三八円
原告岩本 二四二一円
同土江 二八四三円
同松浦 三〇〇六円
同一友 九四八五円
同克幸 一万二五三〇円
同今井 一万二九八〇円
同栄 六二四五円
同花田 一万三二八〇円
同堀川 八五四〇円
しかし、原告安居については、同原告は当時分会員でなかつたため地労委からあつせん案の提示がなかつたことは同原告の認めるところであるから、前記説示によつて明らかな如く、あつせん案の提示と会社、分会員の受諾がない限り、同原告には賃金の一部としての右年末一時金の請求権はないといわなければならない(同原告はこの分について予備的に損害賠償としての請求をしていない。)。したがつて、同原告の右年末一時金の請求は失当である。
三 結論
以上のとおりであるから、昭和四七年(ワ)第三〇六六号(反訴)事件の被告三名の各請求および同年(ワ)第三四九五号事件原告のうち同原告安居三十於を除くその余の原告九名の各請求は、いずれも前記認定の限度において理由があるから正当として認容することとし、右被告三名の主位的請求および予備的請求を含むその余の請求ならびに右安居を除くその余の同年(ワ)第三四九五号事件原告九名のその余の請求はいずれも失当として棄却し、右原告会社および安居三十於の各請求も失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条但書を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 上田次郎 安斎隆 上垣猛)
別表(一) 賃金一覧表
荒井
村田
尾崎
昭和四六年三月分から一二月分
一か月各九万七三六五円
一か月 八万九四八一円
一か月 九万〇一九一円
四七年一月分から一二月分
一か月一二万三二六八円
一~一〇月分
一か月一二万一三八七円
一か月一二万二六八一円
一一、一二月分
一か月一二万三一八一円
四八年一月分から一二月分
一か月一八万八九五三円
一~四月分
一か月一八万七〇九〇円
一か月一八万九八七四円
五~一二月分
一か月一九万一三七四円
四九年一月分から一二月分
一か月二二万四八七六円
一~七月分
一か月二二万三〇三八円
一か月二二万七三一七円
八~一二月分
一か月二三万〇三一七円
五〇年一月分以降
一か月二二万六一七七円
一月分二三万一六三五円
一月分二二万四三六四円
二~一二月分
二月分以降
一ヵ月二三万二一三五円
一か月二二万九三六四円
別表(二) 一時金一覧表
荒井
村田
尾崎
昭和四六年八月(〇.六か月)
五万五二三六円
五万三六八八円
五万四一一四円
昭和四七年三月(〇.三か月)
二万七六一八円
二万六八四四円
二万七〇五七円
同年八月(〇.五か月)
六万一六三四円
六万一三八二円
六万〇六九三円
同年一二月(〇.七か月)
八万六二八七円
八万五九三四円
八万四九七〇円
四八年八月(〇.六か月)
一一万三三七一円
一一万四五二四円
一一万二二五四円
同年一二月(〇.九か月)
一七万〇〇五七円
一七万一七八六円
一六万八三八一円
四九年八月(一か月)
二二万四八七六円
二二万八五六七円
二二万三〇三八円
同年一二月(一か月)
右同
右同
右同
五〇年八月(一か月)
二二万六一七七円
二三万二〇九四円
二二万八九四八円
同年一二月(一か月)
右同
右同
右同
五一年八月(一か月)
右同
右同
右同
同年一二月(一か月)
右同
右同
右同
五二年八月(一か月)
右同
右同
右同
別表(三) 家族手当支給基準および家族数
家族手当支給基準
昭和四七年一二月まで
昭和四八年一月から四月まで
昭和四八年五月から昭和四九年七月まで
昭和四九年八月以降
大人 一五〇〇円
大人 一五〇〇円
大人 三〇〇〇円
大人 五〇〇〇円
小人一人目 一〇〇〇円
小人一人目 五〇〇円
小人一人目 一〇〇〇円
小人一人目 二〇〇〇円
二人目 一〇〇〇円
二人目 五〇〇円
二人目 一〇〇〇円
二人目 一〇〇〇円
三人目 五〇〇円
三人目 三〇〇円
三人目 五〇〇円
三人目 五〇〇円
被告尾崎 昭和五〇年二月結婚
同村田 昭和四七年一月結婚、すでに子供一人あり、昭和四七年一一月長女誕生、昭和五〇年二月次女誕生
別表(四) 賃金および賃金相当損害金一覧表
被告 荒井
同 村田
同 尾崎
昭和四六年三月から一二月分
(イ)
一か月 九万三一六七円
一か月 八万四九六四円
一か月 七万四三八六円
(ロ)
九万三一六七円
八万四九六四円
七万四三八六円
(ハ)
四七年一月分から一〇月分
(イ)
一か月 一一万八七四九円
一か月 一一万〇二九四円
一か月 九万四八一一円
(ロ)
九万三一六七円
八万六九六四円
七万四三八六円
(ハ)
二万五五八二円
二万三三三〇円
二万〇四二五円
同年一一月分一二月分
(イ)
一か月 一一万〇七九四円
(ロ)
右各欄に同じ
八万七四六四円
右各欄に同じ
(ハ)
二万三三三〇円
四八年一月分から四月分
(イ)
一か月 一七万四二一四円
一か月 一六万二三七六円
一か月 一三万九〇九五円
(ロ)
九万三一六七円
八万七四六四円
七万四三八六円
(ハ)
八万一〇四七円
二万三三三〇円
六万四七〇九円
同年五月分から一二月分
(イ)
一か月 一六万三八七六円
(ロ)
右各欄に同じ
八万八四六四円
右各欄に同じ
(ハ)
七万三九一二円
四九年一月分から七月分
(イ)
一か月 二〇万六五二五円
一か月 一九万三三四二円
一か月 一六万四八九二円
(ロ)
九万三一六七円
八万九九六四円
七万四三八六円
(ハ)
一一万三三五八円
一〇万三三七八円
九万〇五〇六円
昭和四六年三月から一二月分
(イ)
一か月 一九万六三四二円
(ロ)
右各欄に同じ
九万二九六四円
右各欄に同じ
(ハ)
一〇万三三七八円
(イ)
一か月 一九万六八四二円
一か月 一六万九八九二円
(ロ)
右各欄に同じ
九万三四六四円
七万九三八六円
(ハ)
一〇万三三七八円
九万〇五〇六円
別表(五) 一時金相当損害金一覧表
被告 荒井
同 村田
同 尾崎
昭和四六年 八月
五万五九〇〇円
五万〇九七八円
四万四六三一円
四七年 三月
三万五六二四円
三万三〇八八円
二万八四四三円
同年 八月
五万九三七四円
五万五一四七円
四万七四〇五円
同年 一二月
八万三一二四円
七万七五五五円
六万六三六七円
四八年 八月
一〇万四五二八円
九万八三二五円
八万三四五七円
同年 一二月
一五万六七九二円
一四万七四八八円
一二万五一八五円
四九年 八月
二〇万六五二五円
一九万六三四二円
一六万四八九二円
同年 一二月
右同
右同
右同
五〇年 八月
右同
一九万六八四二円
一六万九八九二円
同年 一二年
右同
右同
右同
五一年 八月
右同
右同
右同
同年 一二月
右同
右同
右同
五二年 八月
右同
右同
右同