大阪地方裁判所 昭和47年(ワ)377号 判決 1974年12月26日
原告
太田守次
被告
福田勇
ほか一名
主文
一 被告らは、各自原告に対し、金八〇八、三九七円およびこれに対する昭和四六年一月一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを一〇分し、その七を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
1 被告らは、各自原告に対し金三、〇〇〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四六年一月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決ならびに仮執行の宣言。
二 被告ら
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決。
第二請求原因
一 事故の発生
原告は、次の交通事故により、傷害を被つた。
1 日時 昭和四六年一月一日午前五時四〇分ごろ
2 場所 奈良県天理市三島町
3 加害車 普通乗用自動車(奈五ぬ四七〇号)
運転者 被告福田
4 被害車 自動車
運転車 原告
5 態様 原告が被害車を運転中、交差点で赤信号のため停止していたところ、加害車が追突した。
二 責任原因
1 運行供用者責任(自賠法三条)
被告福田は、加害車を所有し、自己のため運行の用に供していた。
2 使用者責任(民法七一五条一項)
被告東芝クレジツト株式会社(以下、被告会社という)は、その営む事業のため、被告福田を雇用し、同被告が被告会社の業務の執行として加害車を運転中、前方不注視、一時停止義務違反、信号無視の過失により、本件事故を発生させた。
三 損害
1 傷害、治療経過等
(一) 傷害
頸部捻挫・複視・乱視・近視性乱視・外傷性大後頭神経痛、右耳管狭窄症
(二) 治療経過
昭和四六年一月五日から同年四月一五日までの間に六回整形外科に通院し、同年二月一日から同年四月一五日までの間に六回眼科に通院し、同年四月一五日から同年五月六日までの間に六回外科に通院し、同年五月七日から同年七月一二日までの六七日間入院し、同年七月一三日から同年九月三〇日までの間に四〇回通院し、同年一〇月一日から同年一一月一〇日までの間に一七回通院して治療を受け、現在も通院中である。
2 損害額
(一) 休業損害 一、六六八、七二六円
原告は、事故当時呉服商を営み、一カ月平均一八六、五六五円の収入を得ていたが、前記受傷により、昭和四六年一月一日から同年一一月一六日までの間休業を余儀なくされ、その間少なくとも合計一、六六八、七二六円の収入を失つた。
(二) 質流れによる損害 八二四、五〇〇円
原告は、前記受傷による休業のため、前記営業の資金繰りに困り、その金策のため、営業用の呉服類を別紙一覧表記載のとおり質入れしたが、それを受戻すことができず、合計八二四、五〇〇円の損害を被つた。
(三) 手形不渡による損害 六八四、二四〇円
原告は、前記受傷のため集金が不能となり、呉服類の仕入先へ代金支払のため振出していた合計四、一〇〇、〇〇〇円の約束手形金額を満期に支払うことができず、そのため右仕入先に対し、右手形金額にかえて合計四、七八四、二四〇円相当の呉服類を返還せざるの止むなきに至り、その差額六八四、二四〇円の損害を被つた。
(四) 特別事情の主張
原告は、前記(二)(三)の損害は通常損害であると考えるが、仮に特別事情による損害であるとしても、被告らにはその予測が可能であつたから、被告らは、原告の右損害を賠償すべき責任がある。すなわち、被告らは、昭和四六年三月二六日に至つてはじめて損害の一部を弁済したのであるが、原告は、それまでに被告会社の従業員と数回にわたり示談交渉をしており、その際営業用の呉服類を質入れしていること、そのままの状態では質流れになるおそれのあること、集金不能のため商品を返還せざるの止むなきに至るおそれのあることを説明した。したがつて、被告らは、前記(二)(三)の損害を予見していたか、少なくとも予見すべきであつたといえる。
(五) 慰藉料 七〇〇、〇〇〇円
(六) 弁護士費用 三〇〇、〇〇〇円
(七) 損害の填補 七〇〇、〇〇〇円
原告は、本件事故による損害賠償として、被告らから七〇〇、〇〇〇円の支払を受けた。
四 結論
よつて、原告は、被告らに対し、前記のとおりの損害賠償請求権を有するところ、そのうち金三、〇〇〇、〇〇〇円およびこれに対する不法行為の日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第三請求原因に対する被告らの答弁
一 請求原因一項の事実は、5のうち対面の信号が赤色であつた点を除き認める。
二 請求原因二項の事実は、2のうち被告福田の過失の内容を除き(ただし、同被告に過失のあつたことは認める)認める。
三 請求原因三項の事実は争う。ことに、(二)(三)の損害は、本件事故と相当因果関係がなく、(四)の特別事情の主張は否認する。
第四弁済の抗弁
被告会社は、原告に対し、本件事故による損害賠償として、治療費合計五五八、六四六円、慰藉料の一部として合計八一五、〇〇〇円、通院費・雑費等合計一〇二、九六二円総計一、四七六、六〇八円を支払つた。
第五抗弁に対する原告の答弁
被告ら主張の弁済のうち、慰藉料の一部として八一五、〇〇〇円の支払を受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。
第六証拠関係〔略〕
理由
一 事故の発生
請求原因一項の事実は、対面の信号が赤色であつた点を除き当事者間に争いがない。
二 責任原因
1 被告福田
請求原因二項1の事実は、当事者間に争いがない。したがつて、被告福田は、自賠法三条により、加害車の運行供用者として、本件事故による原告の損害を賠償すべき責任がある。
2 被告会社
請求原因二項2の事実は、被告福田の過失の内容を除き当事者間に争いがなく、しかも被告福田に過失のあることは当事者間に争いがない。したがつて、被告会社は、民法七一五条一項により、本件事故による損害を賠償すべき責任がある。
三 損害
1 傷害、治療経過等
〔証拠略〕によると、原告は、本件事故により頸部捻挫、外傷性大後頭神経痛の傷害を受け、昭和四六年一月五日から同年四月一五日までの間に六回大阪府立病院整形外科に通院し、同日から同年五月六日までの間に六回同病院外科に通院し、同年五月七日から同年七月一二日までの六七日間阪和病院に入院し、同年七月一三日から同年九月三〇日までの間に四〇回、同年一〇月一日から同年一一月一〇日までの間に一七回それぞれ同病院に通院して治療を受けたことが認められる。なお、〔証拠略〕によると、原告主張の複視・乱視・近視性乱視は、本件事故と因果関係のないことが推認され、また右耳管狭窄症については、甲第四号証のみでは本件事故と因果関係あることを認めるに足らず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
2 損害額
(一) 休業損害 一、〇四三、三九七円
〔証拠略〕によると、原告は、本件事故当時三七才で、呉服商を営んでいたが、前認定受傷により、昭和四六年一月一日から同年一一月一六日ごろまで休業したことが認められる。
ところで、原告の休業期間について検討するに、前認定の原告の傷害の部位・程度、治療の経過・期間・病状の推移、従事していた職務の種類・内容・年令等を合せ考えると、昭和四六年一月一日から同年九月三〇日ごろまでの九カ月間の休業は止むを得なかつたものと認められるが、同年一〇月一日ごろからは、原告の休業にもかかわらず、稼働によつてある程度の苦痛は伴つたとしても、稼働が可能であつたものと認めるのが相当である。次に、原告の収入額について検討するに、原告は、本件事故当時一カ月平均一八六、五六五円の収入を得ていた旨主張するが、〔証拠略〕は〔証拠略〕に照らしたやすく採用できず、他にこれを認めるに足る証拠はない。しかしながら、原告の従事していた職務の種類・内容によると、原告は、本件事故当時右稼働により、少なくとも原告と同年令の一般男子労働者の平均賃金と同額程度の収入は得ていたものと推認されるところ、昭和四六年度賃金センサス第一巻第一表によると、原告と同年令の一般男子労働者の平均賃金は一カ月平均一一五、九三三円と認められる。
したがつて、本件事故による原告の休業損害は、一カ月一一五、九三三円の割合による九カ月分合計一、〇四三、三九七円となる。
(二) 質流れ、手形不渡による損害
原告主張の質流れによる損害および手形不渡による損害は、通常生ずべき損害とはいえず特別事情による損害と解するのが相当であるところ、本件全証拠によるも、被告らにおいて不法行為の当時原告主張の前記事情を予見可能であつたことを認めるに足りない。したがつて、原告の右主張は理由がない。
(三) 慰藉料 五〇〇、〇〇〇円
前記認定の原告の傷害の部位・程度、治療の経過期間、その他諸般め事情を合せ考えると、原告の慰藉料額は五〇〇、〇〇〇円とするのが相当であると認められる。
(四) 損害の填補 八一五、〇〇〇円
原告が本件事故による慰藉料の一部として被告会社から合計八一五、〇〇〇円の支払を受けたことは当事者間に争いがない。そして、被告ら主張の弁済のうちその余のものは本訴請求外損害に対するものである。
よつて、原告の前記損害額合計一、五四三、三九七円から右填補分八一五、〇〇〇円を差引くと、残損害額は、七二八、三九七円となる。
(五) 弁護士費用 八〇、〇〇〇円
本件事案の内容、審理の経過、認容額等に照らすと、原告が被告らに対し、本件事故による損害として賠償を求めうる弁護士費用額は八〇、〇〇〇円とするのが相当であると認められる。
四 結論
よつて、被告らは各自原告に対し、八〇八、三九七円およびこれに対する本件不法行為の日である昭和四六年一月一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払う義務があり、原告の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 新崎長政)