大阪地方裁判所 昭和47年(行ウ)71号 判決 1979年2月28日
原告 阿形道一
<ほか四名>
右五名訴訟代理人弁護士 北條雅英
同 大江洋一
被告 井田彌代一
被告 竹野栄治郎
右両名訴訟代理人弁護士 中務嗣治郎
主文
原告らの被告らに対する本件訴をいずれも却下する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一当事者双方の申立
原告らは、「被告らは各自東鳥取町に対し一七二万六、八九六円を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め、被告らは、それぞれ、第一次的に主文と同旨の判決を、第二次的に「原告らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求めた。
第二原告らの請求の原因
一 被告井田は東鳥取町の町長、被告竹野は同町の収入役の地位にあったものであり、原告らは同町の住民である。
二 東鳥取町は、昭和四五年一二月一一日大阪府に対し、南海町との共有にかかる泉南郡東鳥取町桑畑五五二番地の一、山林一四万〇、八二九平方メートルのうち二、三五五平方メートル(以下、本件土地という)を代金六〇五万四、二〇〇円で売却し、右売買代金のうち二四七万三、一四〇円を古野源治に、五五万三、九六〇円を中尾治良七に本件土地についての地上権消滅の補償として交付した(以下、本件公金の支出という)。
三 ところで、古野源治、中尾治良七は本件土地上に地上権を有してはいなかったのであり、同人らが地上権を有しているのは右同所五五二番地の一二の土地の一部であるのに、被告らは右事実を知りながら共謀のうえ、あえて本件公金の支出をしたものである。
四 古野源治、中尾治良七の両名が取得した合計三〇二万七、一〇〇円のうち、本来東鳥取町が取得すべき金員は一七二万六、八九六円であるのに、原告らは、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき本訴請求に及んだ。
五 なお、原告らは、昭和四七年六月九日本件公金の支出について住民監査請求をなしたが、同年八月五日期間徒過の理由により監査の必要なしとの通知を受けている。しかしながら、右金員交付の時期については、原告らならびに住民に対しこれを知りうる機会が与えられていなかったものであり、原告らは昭和四七年四月以降に右違法事実を知って直ちに監査請求をなしたものである。
第三被告らの本案前の主張
東鳥取町のなした本件公金の支出は昭和四六年五月一四日であるから、これに対する監査請求は地方自治法二四二条二項により少なくとも昭和四七年五月一四日までになされなければならないのに、原告らの監査請求は右期間を徒過していることが明らかである。
したがって、適法な監査請求を前置しない本訴請求は不適法なものである。
第四本案に対する被告らの答弁および主張
一 請求の原因一記載の事実は認める。
二 同二記載の事実のうち、二四七万三、一四〇円を古野源治に支払ったとの点は、右金員を古野源治と水本勉に支払ったものであり、その余の事実は認める。
三 同三記載の事実は争う。
四 古野源治および水本勉は本件土地の一部に地上権を共有し、中尾治良七も本件土地のその余の部分に地上権を有していたものであり、東鳥取町は右各地上権の消滅の補償として前記各金員を支払ったものである。
したがって、本件公金の支出は法律上何ら瑕疵のないもので、適法である。
第五証拠関係《省略》
理由
一 被告らの本案前の主張について
原告らの本訴請求は、違法な公金支出を理由として普通地方公共団体に代位して行なう職員に対する損害賠償請求(地方自治法二四二条の二第一項四号)であるところ、被告らは、本件公金の支出がなされたのは昭和四六年五月一四日であるから、少なくとも昭和四七年五月一四日までに監査請求がなされなければならないのにこれがなされなかったから、本訴請求はいずれも適法な監査請求の前置を欠き不適法である旨主張する。
よって判断するに、《証拠省略》によれば、本件の公金支出がなされたのは昭和四六年五月一四日であることが認められ、他方、原告らが本件公金の支出について地方自治法二四二条一項による監査請求をなしたのが昭和四七年六月九日であることは原告らの自認するところであるから、右監査請求が同条二項本文に定める一年の期間経過後になされたことは明らかである。
そこで、進んで右一年の期間内に監査請求がなされなかったことについて同条二項但書に定める正当な理由が存したか否かについてみるに、右正当な理由が存したと認めるに足りる証拠はなく、かえって、《証拠省略》によれば、本件公金の支出が東鳥取町の町議会の議決を経てなされていること、原告阿形道一が当時東鳥取町の町会議員をしていたことが認められ、右事実によれば、原告らが右一年の期間内に本件公金の支出に関し監査請求をしなかったことについて正当な理由が存しなかったことが窺われる。
したがって、原告らの本訴請求は、適法な監査請求の前置を欠いた不適法なものといわざるをえない。
二 よって、原告らの本件訴をいずれも却下することとし、訴訟費用については民訴法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 荻田健治郎 裁判官 井深泰夫 近藤壽邦)