大阪地方裁判所 昭和48年(ワ)162号 判決 1974年6月28日
原告 明野裕
右訴訟代理人弁護士 城戸寛
被告 但馬殖産有限会社
右代表者代表取締役 岩本林次
右訴訟代理人弁護士 梅谷光信
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、
(一) 大阪市東区谷町四丁目三一番地東清幸に対し、別紙目録記載の土地建物(以下本件不動産という)につき、昭和四七年一一月二〇日付売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
(二) 原告に対し、本件不動産の引渡をせよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 右1の(二)につき仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する被告の答弁
主文同旨
≪以下事実省略≫
理由
第一本件不動産の売買契約等
一 被告が昭和三八年ころ本件不動産の所有権を取得したこと、東が被告から本件不動産を買い受けたことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によると、被告と東との間の右売買契約は昭和四七年一一月一八日になされたこと、その代金は二六〇万円と合意され、うち一五〇万円について小切手、残額について約束手形の授受がなされたことが認められる。
二 次に≪証拠省略≫によると、原告が、同年同月二〇日東から本件不動産を、代金三〇〇万円とし、東が同年一二月一九日までに三二〇万円で買戻すことができることを留保して買い受け、代金として、即日現金を二四五万円東に交付し、残額五五万円については、同人の原告に対する旧債務と相殺することとしたことが認められる。
第二被告と東との間の売買契約の解除
一 ≪証拠省略≫によると、右売買契約後東が被告に対して小切手金および手形金を支払わないため、被告が、東に催告をしたうえ、昭和四八年五月七日同人に到達した書面をもって売買契約解除の意思表示をしたことが認められる。
二 そこで右契約解除によって原告がどのような影響を受けるかを考えてみる。民法五四五条一項但書は、契約解除による原状回復義務は第三者の権利を害することができない旨規定する。そしてここに第三者が権利を有するといえるためには、その第三者は、自己の権利取得について、原状回復の権利者または義務者に対抗できなければならず、所有権の取得者についていえば、所有権の移転登記を有するのでなければならない。しかしながら、本件のように物権が転々としていながら、登記はまだ元の所有者に存するという場合には、登記の存否をもって権利の主張を認めるかどうかを決することはできないから、旧所有者に、信義則上許容しがたい事情があったかどうかによって決すべきである。
三 原告は、まず被告代表者が東と原告との売買契約に立会い、両者間に代金の授受がなされた旨言明したと主張する。そして≪証拠省略≫によると、東から原告への売買契約は福田司法書士の事務所で行なわれ、その際被告代表者も右事務所に来たことが認められる。しかし被告代表者が原告主張の代金授受の言明をしたことを認める証拠はない。かえって、≪証拠省略≫によると、原告と東との契約のまえ、同人と被告代表者の二人が、右事務所の別室に入って密談し、部屋から出て来て両者間の契約が完了したといったので、原告は両者間に代金の授受も完了したと推測したのにとどまることが窺われる。
四 次に原告は、被告代表者が、東から原告に対する売買契約を容認し、被告から東、同人から原告へと各所有権移転登記手続ができるよう原告に協力し、福田司法書士にその手続を依頼したと主張し、≪証拠省略≫によると、被告代表者は、福田司法書士事務所で、東から原告に対する本件不動産の売買契約がなされ原告から代金の支払がなされた後、東に対して、さきに貰った小切手を現金に代えてくれるよう頼み、東から翌日交付する旨の承諾をえたこと、そして被告代表者は、本件不動産について権利書がなかったので、福田司法書士に、保証書による所有権移転登記手続を依頼したこと、同司法書士はその手続をしたが、東が右約束に反して被告に現金の交付をしなかったため、被告代表者は、保証書によって登記手続をする場合の登記所からの通知に対する回答をしなかったことが認められる。
しかしながら右にみた事実関係のもとでは、被告代表者が原告の所有権取得を容認し、福田司法書士に登記手続を依頼したことをもって、本件契約解除をすることの妨げとなるものとはいいがたく、また窮極的に登記手続に協力しなかったことをもって、信義則上許されない事情があるとはいえない。
第三結論
以上みてきたとおり、本件不動産の所有権が原告に移転したものと認定することはできないので、これを前提とする原告の本訴請求は失当として棄却を免がれない。
よって訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 飯原一乗)