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大阪地方裁判所 昭和48年(ワ)1625号 1978年3月31日

当事者の表示は別紙当事者の表示記載のとおり

主文

被告は原告ら各人に対し、別紙目録(略)各欄記載の各金員と、これに対する昭和四八年三月一日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らは被告全日本造船機械労働組合佐野安船渠分会(以下被告組合という)の元組合員であった。

2  被告組合内規(以下単に内規という)によると、被告組合員は争議に備えるため(他に、組合員全体の利益をはかるため、一定手続を経て運用されることがある)、一般争議資金積立金(第七章第七条イ)および個人名義争議資金積立金(同条ロ)(両者を争議資金積立金と総称し、前者を一般積立金、後者を個人積立金という)名下に、月額五〇〇円を被告組合に預託する義務を負い(うち二、〇〇〇円に達するまでを一般積立金とする)、更に組合員の自由な意思で自由積立預金(第一〇章)名下に一定額以上の金額を積立てることを勧奨されており(以上の三積立金を本件各積立金という)、これらはいずれも、被告組合の事務処理手続を通じて組合員別の個人名義として訴外大阪労働金庫(以下労金という)に預託されることとされていた。

そして、原告らはいずれも被告組合員であった昭和二三年二月以降の期間中、右内規に従い、別紙目録一般斗争積立欄記載の一般積立金、同個人斗争積立欄記載の個人積立金、同自由個人積立金欄記載の自由積立預金をそれぞれ被告組合に預託した。

3  原告らは昭和四七年一二月はじめから同四八年二月末までの間に被告組合を脱退した。

4  原告らは次の理由により、本件各積立金の返還ないし同積立金同額の支払を求める権利を有する。

(一) 本件各積立金は、争議に備え、また被告組合に対する親近感を高め、副次的に団結強化を期するため、被告組合員としての地位に附随して拠出を義務づけられ、または任意に預託したもので、個人名義で労金に預託されることに内規上なっていること、退職時、社内昇格時には返還されることになっていることに照らし、また右内規全体を鳥瞰すれば、別途徴収され組合財産に帰属する組合費と異なり、いずれも個人財産であることが明らかである(被告組合に預託したものにすぎない)から、組合脱退にあたっては当然その返還を要求できる筋合のものである。

内規には争議資金積立金の払戻しは「組合員の退職時以外は行なわない」との定めがあるが、右退職時とは払戻しをする通常の場合を想定しただけで例示にすぎず、現に退職の場合だけでなく、社内昇格、解雇により組合員資格がなくなった場合にも右積立金は払戻されてきた。被告組合員である間争議資金積立金の返還を要求できないのは、いつ起るか知れない争議の際の緊急な資金需要に備える必要からにすぎない。その目的を超えて組合脱退に際しては右積立金を返還しないとすれば、組合員の脱退の自由、消極的団結権を侵害することとなる。

(二) 前記のように本件各積立金は被告組合の事務処理を通じて労金に個人別に積立預金されるべきものであったところ、前記日時ごろ原告らが被告組合員でなくなったので、同じころ再三右積立金の返還を労金に要求し、且つ右預金事務処理を行なった被告に対してもこれに対する協力を要求した。ところが被告組合長稲留泰治は、労金従業員表谷係長、西本某、六車支店長と共謀し、右預金名義を他人に移すなどして原告らの労金に対する預金返還債権を不当に争って右預金返還請求権行使を妨害し、もって原告らに対し右預金高同額の損害を与えた。

よって被告は共同不法行為(民法七〇九条、四四条(準用)、七一五条)により、右損害の賠償の責に任ずべきである。

5  よって原告らは被告に対し、4項記載の請求権(第一次的に(一)、第二次的に(二)各記載の請求権による)に基づき、別紙目録各欄記載の各金員と、これに対する原告らが被告組合を脱退した後である昭和四八年三月一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実については、原告主張の文言の組合内規があること(但し、後記の点は除く)、右内規に従い原告らから被告組合に対し、その主張の金額の預託があったことは認める。

ところで右組合内規上、争議資金積立金のうち、一般積立金の保管方法については何ら規定がなく、個人積立金は「個人名義として大阪労働金庫に預金し」とあるが、右内規は組合歴の長短によって積立額に差が生じ、また個別利息の計算の必要上内部処理として個人別明細の作成を義務づけたものであると解され、このことは自由積立預金が「個人別通帳によって大阪労働金庫に預金し」とされていることからもうかがえるのである。そして被告組合は右積立金の実施時より、右両積立金を被告名義で同金庫に預金し、内部的に組合員個人別の預金高を明確にし各組合員に周知させる処理をなしており、右のような処理方法に何ら問題はない。

自由積立預金は被告組合員の福利厚生をはかり、組合員相互の連帯感を培うため行なうもので、その保管方法については、内規上右記のような規定があるが、被告組合はこれも当初より右争議資金積立金と同じ取扱いをしており、その結果を毎年度定期大会で報告し承認を得ていたから、規定の変遷があったと解すべく、原告らも被告組合在籍中右取扱いにつき何ら異議を述べたことはなかったから、これを承認していたとみるべきである。

3  同3の事実は認める。

4  同4冒頭の主張は争う。

(一) 同(一)の事実中、本件各積立金が退職時に払戻されることとなっていること、争議資金積立金が内規上原則的に争議に備えたものとされ、被告組合員に拠出を義務づけたものであること、自由積立預金は任意に預託したものであること、内規に争議資金積立金の払戻しにつき原告主張の定めがあること、本件各積立金を組合員の社内昇格による組合員資格喪失の場合に払戻した例があることは各認めるが、その余の事実は争う。組合脱退の自由、消極的団結権なるものを持ち出す原告らの主張は、団結権が一定の組織強制を必要とすること、例えばユニオン・ショップ協定の成立過程をみるまでもなく、こうした強制が法上保護されてきたことに対する無理解を示すもの以外の何ものでもない。

(二) 同(二)の事実については、原告らがその主張のころ被告組合を脱退したことを認めること前記のとおりであるが、その余の事実は争う。

5  同5の主張は争う。

三  被告の主張

1  争議資金積立金の趣旨からするその返還請求拒絶の正当性

(一) 争議資金積立金の性格

争議資金積立金は、内規上争議に備えて積立てられ、被告組合員全体の利益をはかるため運用することがあるとされるもので、ストの際の賃金カットの補償等争議資金に活用されるほか、労金出資金や組合備品の購入等のためなどの各種出資金に運用されてきた。その徴収については、組合費同様チェックオフの対象となり、争議の際や保安要員が得た賃金も徴収され、払戻しについては退職時以外には行なわないものとされ、払戻す際には未納組合費を控除するほか、争議資金としての出捐分は控除されている。すなわち右積立金は組合が組織として遂行する争議の資金=活動費であり、本来組合費として徴収すべきところ、組合費が高額となることを避けて積立金という形をとっているもので、組合費と同様の性格のもの、言いかえると組合資産であるということができる。

(二) 争議資金積立金返還請求拒絶の正当理由

(1) 原告らは、被告組合を集団脱退して第二組合を結成した者であるから、退職はもちろん昇格による組合員資格の喪失のいずれの場合にも該当せず、争議資金積立金の前記性格からして原告らの右行動は、内規が払戻しをなす場合を殊更退職時と限定した趣旨に反するから、右払戻しを求める原告らの請求は失当である。

社内昇格の際慣行的に払戻しをした例があるが、これは本来組合員資格を有する原告らの場合と同一に論じられないのみならず、この場合、代議員会において個別に承認を得ているのであり、またかかる承認を必要としたこと自体払戻しは退職時のほか行なわないことが文字どおりに解釈されるべきことを意味しているといわねばならない。

右内規制定当時は、訴外佐野安船渠株式会社(以下単に会社という)との間にユニオン・ショップ協定が存在し、原告らの集団脱退まで存続しており、それまで組合員資格喪失は一般に退職につながったわけであるが、このことから内規にいう争議資金積立金の払戻しをなす場合としての退職時とは組合員資格喪失をいうとするのは独断というべきである。なぜなら「組合」の規約に組合員資格喪失を規定する場合、殊更これを「退職時」とする理由はなく、また右のような解釈をすれば除名の場合でさえも右払戻しを要することとなって、積立金払戻しに際し個別に執行委員会で検討し、代議員会の承認を得ていた慣行を無視する結果となるからである。

(2) 右争議資金積立制度は、争議の際賃金カット等の経済的不利益により組合の団結が乱れ、ひいては組合の存在を危うくする事態に備えて作られた制度であるが、これが会社側による組合員の団結の切崩しに有効に対応し、団結の維持強化に資することは容易に予想されるところであり、このことをもまた制度目的としていたものといわねばならない。実際会社の合理化の強行に伴い、労使関係が緊張の一途をたどり、会社側による組合員に対するさまざまな団結破壊の働きかけ、これに対する組合の抗議行動に対する賃金カットなどが行なわれ、これに対処するため右積立金制度は以前にもまして重要な制度となっている。ところが原告らは、右会社側による組合の団結切崩しの策動に呼応して集団的に被告組合を脱退し、第二組合を結成して被告組合と対立するに至ったものであるから、右積立金制度の目的とする団結をまさに侵害する行為をもって、右積立金の返還請求の理由とするものというべく、そのような制度の趣旨を否定する要求を拒絶しうることは理の当然である。

(3) 本件積立金は一部労金出資金等として組合資産に留保されている。通常の場合は退職者に代る新入社員の入会によって留保資産の変動を現実には来たさないが、本件の如き集団脱退の場合仮に払戻しを必要とすれば、事実上組合財産の分割と同じ結果を招くこととなって不当である。

四  被告の主張に対する反論

被告の主張事実中、争議資金積立金の内規上の目的、その徴収方法、運用が被告主張どおりであること、(但し、労金出資金、組合備品の購入は一般積立金の利息をもってこれにあてていた)、払戻しは内規上退職時以外は行なわないと定められ、払戻しの際は未納組合費を控除するとされていること、原告らが被告組合を集団脱退して新組合を結成したことは各認めるが、その主張は争う。

原告らが、被告組合を集団脱退したのは、同組合内部の運動理論、路線の対立に端を発し、それが次第に激化する中で、少数派となった組合執行部が自らの主張、立場を貫ぬこうとして、再度にわたる組合員多数による代議員会決議を無視するなど、規約に従った組合の民主的運営を拒絶し、ついに組合機能が麻痺するに至ったので、組合員としての権利を守るためやむなく行なったものであり、組合員の意思を反映しない組合よりの脱退の自由は厳に守られねばならぬことはいうまでもないところである。

第三証拠(略)

理由

一  請求原因1の事実については当事者間に争いがない。

二  同2の事実中、原告らが被告組合員であった期間中、一般および個人名義の争議資金積立金名下にまた自由積立預金名下に、別紙目録各欄記載の金額を原告主張どおり被告組合に預託したことについては当事者間に争いがない。

三  同3の事実については当事者間に争いがない。

四  そこで、本件積立金返還義務について判断するに

1  本件各積立金の性格

(一)  争議資金積立金について

(証拠略)によれば、内規上争議資金積立金は、組合員の総意に基づいて積立てられ、争議に備えることをその目的とし、他に組合員全体の利益のため使われることがあるが、それには執行委員会、代議員会の議を経たうえ組合大会の三分の二の承認を得る必要があること、組合員は、毎月一定額を積立てることを義務づけられ、チェック・オフにより徴収されること、右積立金に関する事務は組合会計にて取扱い、その保管方法は、一般積立金については規定なく、個人積立金は個人名義として労金に預金されるものとすること、積立金に関しては、毎年次大会において会計が報告を要すること、右積立金の払戻しは組合員の退職時以外は行なわず、右払戻し額は、一般積立金については無利息とし、個人積立金は利息を附し、未納組合費を差引いたものとすることとされていることが認められ、別に組合規約上、組合員は機関決定によって額を定められた組合費をチェック・オフにより納入する義務を負い、既納組合費は一切返還しないこと、組合経費は、組合費、加入金、寄附金および事業収益金によることとされていることが認められる。

そして、実際の同積立金の徴収、保管、運用としては、(証拠略)を総合すれば、同積立金の徴収につき争議の際の保安要員の賃金も以前は全部、後には一部積立てられてきたこと、その保管につき一括して被告組合執行委員長名義で労金に預金され、年一回開催の年次大会でその収支決算報告がなされ、個人別残高の明細も年一回一般に回覧され、組合員が確認する機会が与えられており、かかる取扱いにつき異議が出たことはないこと、その運用につき内規所定の手続を経て労金、会社の厚生出資金等に対する出資金に充当されているほか、一般積立金の利息をもって組合備品を購入したことがあり、スト権を確立し、闘争体制に入ったときは、平常時と別の闘争時会計が組まれ、ビラの作成、配布、執行委員会の開催費用、執行委員の活動に必要な交通費、賃金カット分の補填等の争議費用はすべてこの争議資金積立金のみでまかなわれ、メーデーの際の出費にも、同積立金が利用されてきたこと、同積立金の払戻しは、自己退職、定年退職、死亡、解雇による退職の場合のみならず、社内昇格による組合員資格喪失の際にも執行委員会、代議員会の承認を得て行なわれ(右承認手続は一般の退職の場合にも行なわれた)、右争議費用等を頭割りで計算した額、未納組合費、労金からの組合員個人の借入金の未返済分を差引いた額を払戻してきたこと、被告組合からの脱退、除名は、本件原告らの脱退までその例がなく、この場合の取扱いにつき問題となったことはないこと、その余の点は内規どおり行なわれたことがそれぞれ認められる。

(二)  自由積立預金について

(証拠略)によれば、内規上右積立預金は闘争時にも使用しないこととして組合員の自由なる意思によって一〇〇円以上を、一年満期で、チェック・オフの方法により積立て、組合会計がその事務を取扱い、個人別通帳にて労金に預金され、解約時には利息を附して払戻すこととされていたことが認められるが、(証拠略)を総合すれば、同積立金の目的は、組合員の組合に対する親近感、連帯感を高めることにあり、また労金を育てる意味もあったこと、その保管は前記争議資金積立金と同一の方法がとられたこと、組合員の退職時等には解約のうえ払戻される慣行となっていたこと、組合員の間では、純然たる預金として意識されていたことが認められ、これを覆えすに足る証拠はない。

2  本件積立金の返還義務の存否

(一)  争議資金積立金について

以上の事実と、原告小杉亨、同杉崎基各本人尋問の結果により認められる、内規制定当時会社との間にユニオン・ショップ協定が存在して被告組合員たる地位と会社従業員たる地位が重なり合っていた事実とを合わせ考えると、被告組合員の間では、本件争議資金積立金は、争議資金として利用されるほか、前記の組合員の意思をはかる厳格な手続を経て、全体の利益をはかるため運用されるため積立てられるもので、それ以外には使用されず、組合員たる地位を失った場合には、右目的も消失するから、当然返還されるものと意識され、その趣旨で預託したというほかないから、組合の経費として使用され、拠出と同時に組合員個人とのつながりを断たれ、どんな場合でも返還しないこととされる組合費と異なり、組合員個人の預託金としての性格を有するものとみるのが相当である。

そうすると、被告は、被告組合を脱退してその組合員たる地位を失った原告らに対し、その拠出にかかる争議資金積立金を払戻す義務があるというべきである。

被告は、内規に「払戻しは退職時以外は行なわない」とあることを文字どおりに解釈すべく、これにあたらない脱退、除名等の場合には払戻すべきでない旨主張するが、前記のようにユニオン・ショップ協定下では脱退、除名は即退職となったのであり、組合員即会社従業員と意識されていたから組合員たる地位を失ったことを退職したときと表現したものと解するのが自然且つ相当であり、これ以外に「組合員の地位」と直接関係のない「退職」という文言を使用した積極的な理由づけは見出し得ないといわねばならない。原告主張のようにこれを文字どおりに解釈したとすれば、脱退、除名の際は払戻しを要しないとしても、次いで更に退職すればやはり払戻しを要すると解すべきこととなり、このような規定を設けた意図をはかりがたい結果となろう。実際、前記のように組合員の社内昇格により組合員たる地位を失った場合にも右払戻しはなされているのであり、退職という言葉に拘泥した規定の運用がなされていないことは明らかである。被告はこの場合執行委員会、代議員会の承認を得る等、退職した場合と異なる取扱いをしたと主張するが、前記のように右主張に反し、退職の場合にも同様の取扱いがなされてきたことが認められるのであり、仮に被告主張どおりだとしても、組合員の総意で一定目的のため積立てられ、退職時以外は払戻さないとされる金員が、なぜ組合員の総意を問うことなく、単に代議員会の承認のみで適法にその拘束を解かれるのか説明に窮するのであり、かかる取扱いが何ら怪しまれることなく許されたのは組合員の間で組合員たる地位を失った場合は払戻しに応じてよいという暗黙の了解があったからとみるほかはない。

また被告は、原告らの組合脱退が被告組合の団結を侵害するもので、争議資金積立金の制度目的に反するから、右積立金の返還を要しないと主張するが、前記のように右積立金は内規上組合員の総意で、争議に備えるという明確な目的のために積立てられ、他の目的のために使用する際にも、組合員の意にそうため厳格な手続が定められ、且つ組合員全体の利益のためにのみ使用できることとなっているのであり、争議時における組合員の経済的窮迫を防いで、その脱落を防ぐことを通じて組合員の団結の強化をはかる趣旨であると解され、それを超えて一般に団結を破る者に対し払戻しをしないという、その者に対する懲罰的な取扱いをすることによって団結をはかる趣旨を内包することをうかがうことはできないといわねばならない。そもそも、個人の利益となる一定目的のために当該個人より拠出された金員が、その目的達成に無用のものとなった場合、払戻しを受け得るか否かは、拠出者の重大関心事であるから、払戻しを受け得ない事由は明確に規定されて然るべきであるところ、原告主張の取扱いを許容すべき規定上の根拠は何もないというほかない。

更に被告は、争議資金積立金を集団的に被告組合を脱退した原告らに払戻せば、それが一部出資金等として組合資産に留保されている関係上、組合財産の分割と同じ結果を招き不当と主張するが、従来、出資金充当分を組合員に頭割りして負担させ、払戻しに際してこれを控除する取扱いをしていたことを認めるに足る証拠はないから、右は集団的脱退の場合にはこれを払戻さないでよいとする根拠とはなし得ないと解すべきである。

(二)  自由積立預金について

前記認定の事実、弁論の全趣旨によれば、右積立預金が被告組合員たる地位に附随して勧奨された、組合員個人の積立預金であることは明らかであって、原告らが被告組合を脱退してその組合員たる地位を失った以上、被告がこれを原告らに返還すべきことは当然といわねばならない。

五  以上のように、被告は原告らに対し、本件各積立金の返還を要すると解すべきところ、その返還時期については、(証拠略)、弁論の全趣旨によれば、被告組合員たる地位を失うと同時に払戻す義務が発生し、その時点で右返還債務は遅滞に陥ったものと解される。

六  そうすると、原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなくすべて理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 東修三)

当事者の表示

原告 北村二一

(ほか九五六名)

原告ら訴訟代理人弁護士 相馬達雄

右訴訟復代理人弁護士 西脇裕子

(ほか三名)

被告 全日本造船機械労働組合佐野安船渠分会

右代表者 稲留泰治

右訴訟代理人弁護士 高階叙男

(ほか二名)

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