大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和48年(ワ)1735号 判決 1978年3月20日

原告 坂本道子 外一名

被告 医療法人清心会 外一名

主文

原告らがいずれも被告医療法人清心会の従業員であることを確認する。

被告医療法人清心会は、原告坂本道子に対し金八三一万九七三九円および昭和五二年七月から毎月二八日限り金一四万三八五六円を、原告長谷川達雄に対し金八二九万四二二五円および昭和五二年七月から毎月二八日限り金一四万一五五五円をそれぞれ支払え。

原告らがいずれも被告山本病院労働組合の組合員であることを確認する。

訴訟費用は被告らの負担とする。

この判決の第二項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告ら)

一  主文第一ないし第四項と同旨。

二  主文第二項につき仮執行の宣言。

(被告ら)

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

(請求原因)

一  被告医療法人清心会(以下被告清心会という。)は、もと大阪脳病院、のち山本病院と称する精神病院を経営する医療法人であり、被告山本病院労働組合(以下被告組合という。)は山本病院の従業員で構成する全日本労働総同盟傘下の労働組合である。

原告坂本は大阪市立大学家政学部社会福祉科卒業後、昭和四四年四月一日から被告清心会に雇用され、山本病院医療社会事業課に精神医療ソーシヤルワーカー(ケースワーカー)として勤務し、原告長谷川は昭和四四年一〇月一日から被告清心会に雇用され、山本病院の生活指導員として勤務している。

原告らはいずれも被告組合に加入し、原告長谷川は昭和四五年七月から執行委員の役職にあつた。

二  ところが、被告組合は昭和四七年二月二三日開催された組合大会において原告らを除名したと称し、以後原告らを被告組合の組合員として取扱わず、被告清心会は同月二四日付をもつて原告らを解雇したとして原告らを従業員として取扱わない。

三  原告らの賃金および夏期・冬期一時金

1 昭和四七年三月の賃金は原告坂本につき月額金四万七三五六円、原告長谷川につき月額金四万八五四五円であつたが、その後賃上げが行なわれ、原告らの受けるべき月額賃金は左の通りとなつた(いずれも変更月の一日から実施される。)。

変更月          月額賃金

原告坂本      原告長谷川

昭和四七年四月 金 六万一二〇六円  金六万二四〇五円

昭和四八年四月 金 七万三七八六円  金七万四八六五円

昭和四九年四月 金 九万五三五六円  金九万五六五五円

昭和五〇年四月 金一一万一七五六円 金一一万三二〇五円

昭和五一年四月 金一二万八五五六円 金一二万七八五五円

同年六月    金一三万〇五五六円 金一二万八七五五円

昭和五二年四月 金一四万三八五六円 金一四万一五五五円

2 被告清心会は従業員に対し毎年夏期・冬期に一時金を支払つてきたが、原告らが受けるべき一時金の金額は左の通りである。

期      一時金の額

原告坂本      原告長谷川

昭和四七年夏 金一一万〇三〇〇円 金一〇万五二〇〇円

冬 金一三万三五〇四円 金一二万六九七六円

昭和四八年夏 金一三万九一七〇円 金一三万三四二九円

冬 金一七万〇三〇五円 金一六万三二八〇円

冬期追加分  金二万八八〇五円  金二万七六一七円

昭和四九年夏 金一九万八四九〇円 金一九万〇五五五円

冬 金三三万一四二二円 金三二万一五七〇円

昭和五〇年夏 金二〇万五〇六七円 金二〇万四一八六円

冬 金二七万一二二二円 金二七万〇二〇〇円

昭和五一年夏 金二五万〇五八四円 金二四万九〇六三円

冬 金三三万四〇二六円 金三三万二一一九円

3 そこで、原告らが被告清心会から支払を受けるべき昭和四七年三月から昭和五二年六月までの賃金および一時金の合計は、原告坂本につき金八三一万九七三九円、原告長谷川につき金八二九万四二二五円となる。

四  よつて、原告らは被告らに対し、請求の趣旨どおりの地位の確認ならびに賃金および一時金の各支払を求める。

(被告らの認否)

被告らは請求原因一および二の事実はすべて認める。被告清心会は請求原因三につき仮に原告らが従業員であつたとすれば、原告らがその主張時期にその主張する金員の支払を受けるべきものであることは認める。

(抗弁)

一  被告組合

1 除名決議

被告組合は昭和三一年一〇月前記山本病院の従業員のうち医師・管理職を除く従業員をもつて結成され、昭和三七年三月全日本労働総同盟大阪一般同盟に加盟し、組合員数は約一四〇名である。原告長谷川は昭和四五年七月から被告組合の執行委員となり、昭和四六年九月にはさらに教宣部長に就き、原告坂本は昭和四六年九月から職場代議員の役職に就いた。

被告組合は昭和四七年二月二三日開催された同被告の臨時組合大会において、原告らの行動と主張が組合員としての当然の義務とルールを無視し、労働組合の分裂を意図するものであり、組合規約一一条、一三条に違反するという理由で原告らを除名する旨の決議をし、同被告は翌二四日原告らに対しその旨書面をもつて通知した。

2 除名理由

(一) 原告らのビラ配布行為

原告長谷川は昭和四六年一一月一七日正午から午後一時頃までの間に、被告組合員の勤務している全職場において、労働者共闘の機関紙「労闘」と題し「一九日首都へ総結集せよ」との見出しのあるビラ(以下本件ビラという。)を配布した。また、原告坂本は同じ頃自己の職場である医療社会事業課において右ビラを配布した。

右ビラ配布に際し、原告らはこれを読んでくれと述べたのみで、被告組合と無関係であるといちいち断つて配布したものではなく、また、原告らが非組合員のみの職場には配布していないことからみて、原告らが組合員を対象に配布したことは明らかである。

(二) 本件ビラ配布行為の意図と評価

(1) 原告らの本件ビラ配布行為は、民主的運営と非暴力、合法主義の枠内で労働条件を向上させることを目的とする被告組合に非合法の職場実力闘争を持ち込もうとするものであり、同被告がその組織と秩序を維持するために統制違反の対象とすることは当然である。即ち、

本件ビラは「労働者共闘」の機関紙として発行されている。労働者共闘と称する集団は政治結社ではなく、その後合同労組である関西単一労組となつていることからみると、被告組合とは異質の労働者組織である。本件ビラの主題は、直接的には沖縄返還協定の国会批准を実力で阻止するため、同年一一月一九日首都へ総結集せよという呼びかけであるが、その内容は非合法主義を基本にして右労働者共闘が「労闘」の旗の下に職場実力闘争を行なおうとするものであるから、単に個人の政治上の立場からする一般的な政治活動を目的とするものではなく、正に組合活動に関する意志の表明であり、活動であると言わざるを得ない。そして、被告組合は民主的に運営され、かつ非暴力、合法主義の枠内で労働条件の向上を目的とするものであるから、原告らは同被告に非合法の職場実力闘争を持ち込もうとしたものである。

(2) 原告らの意図は被告組合の破壊と分裂にあつた。即ち、

本件ビラ配布後の事情聴取において、原告らは組合規約を無視するとか組合を破壊すると述べている。また、原告長谷川は昭和四八年五月二八日ヘルメツト姿の労働者四〇名と共に大阪市東成区の徳岡印刷へ押しかけ、角棒や鉄棒で表戸のシヤツターをこじあけて事務所に侵入し、会社幹部に大衆団交を求め、通路の窓ガラス数枚を割るなどして暴れ、一時一階事務所を占拠した。同社には総評系の全印刷総連加盟の組合があつたが、一部の者がこれを脱退し、関西単一労組(原告らがその組合員である。)に加わつて右行動をした。これらの事実を見れば原告らの本件ビラ配布の意図は明らかである。

(3) 原告らが本件ビラを配布し首都結集を呼びかけた時点は組合運営上非常に重要な時期であつた。即ち、

被告組合は同年一一月一三日の三役会において、同月一六日に年末一時金の要求案と組合大会の開催日時を決めるための執行委員会を開くことを決定し、その旨を原告長谷川に通知したが、同原告は右一六日の執行委員会を欠席した。右執行委員会では同月二〇日に年末一時金要求のための組合大会を開くことを決定し、同月一七日午前中に各職場にその旨告知された。原告らの本件ビラ配布は同日正午以後であるから、原告らは本件ビラ配布時には組合大会の開催日時を知つていたはずである。特に、原告長谷川は執行委員・教宣部長であり、一六日に年末一時金要求案が作成されたことおよび組合大会の日程等が決定されたことは職責上も十分知つていたはずであり、このような状況を顧慮せず、同月一七日に本件ビラを配布して被告組合の組合員に同月一九日の首都結集と職場実力闘争を同被告に無断で呼びかけたことは、同被告の団結と組合員の意志結集を特に必要とする時期において同被告の運営に重大な支障を生じさせるものであり、実際にも組合員に大きな混乱と動揺を与えたのである。原告らは同月一九、二〇日の両日欠勤し、同月二〇日の被告組合大会も欠席した。こうした状況において、被告組合執行部は一般組合員から原告らの行為につき適切な処置をとることを求められたのである。

(三) 本件ビラ配布後の被告組合の処置と原告らの行動

被告組合は本件ビラ配布の翌一八日に三役会を開き、一一月二〇日の組合大会終了直後に本件ビラ配布につき討議するため緊急執行委員会を開くことを決定した。そして、一一月二〇日の緊急執行委員会において原告らからビラ配布について事情聴取することを一任された組合三役は、一二月二三日頃までの間に原告らに会い、ビラ配布等が組合規約に違反し、組合の秩序を乱すものであることを説明し、反省をうながすと共に今後このようなことをしないよう求めたのであるが、原告らは「自分達の目的を実現するために自分達の思う方法で行動する。そのためにその行動がたとえ組合規約に違反することになろうとも、それらを打ち破り無視して行動する。組合と一戦交えよう。」と述べ、全く、反省の色を示さず、かえつて被告組合に対し挑戦的な言辞を弄した。そこで、同被告は同年一二月二七日の執行委員会の決議に基づき、原告長谷川に対し同月二九日、原告坂本に対し昭和四七年一月七日に、それぞれ反省を求め今後分派活動をしないよう警告書を交付した。また、同年一月一〇日開催の臨時組合大会で原告らに対する賞罰委員会の設置が決議され、その後賞罰委員会は釈明を求めるため原告らに対し数回にわたり出席を求めたが、これに応じなかつた。この間、原告らは賞罰委員会を嘲弄すると共に組合を破壊するために妥協はありえないなどと表明し、さらに、多数のビラを連日のように配布して反組合的態度と組合攻撃をとり続けた。そこで、賞罰委員会は同年二月一五日原告らの除名を相当とする旨決定した。

(四) 除名の正当性

原告らの昭和四六年一一月一七日の本件ビラ配布およびその後の一連の行動は組合破壊の分派活動であり、被告組合の団結を破壊し、秩序を乱す行為であることは極めて明白である。したがつて、原告らを同被告から除名しなければ到底同被告の秩序と団結を維持することができないものである。

二  被告清心会

1 原告らの解雇

(一) 被告清心会は昭和四七年二月二四日付をもつて原告らに対し労働協約四条に基づき解雇する旨通告した。

(二) 解雇理由

(1) ユニオン・シヨツプ協定の存在

被告清心会と被告組合との間に結ばれている労働協約四条にはユニオン・シヨツプ協定が存在し、これによれば、被告清心会は、被告組合からその組合員に対して除名の手続を行なつた旨の通知を受けたときは、被告組合に対し被除名者を解雇すべき債務を負担し、ただこの解雇によつて山本病院の業務に重大な支障をきたす者については同被告の同意があつた場合に限り例外が認められる。原告らはもとよりこの例外に該当する者ではない。

(2) 被告組合が原告らを除名し、その除名が正当であることは同被告の抗弁と同じである。

(3) 仮に、被告組合が行なつた除名処分がなんらかの理由で無効であつたとしても、被告清心会のした解雇の効力になんらの影響を及ぼすものではない。即ち、

被告ら間にユニオン・シヨツプ協定が存在し、その協定の内容は前記の通りである。したがつて、被告組合から除名の通知に接した被告清心会は被告組合に対する債務の履行として解雇を行なうのであり、これが解雇権行使の理由であるから、仮に除名処分が無効であつても、解雇の効力に影響を及ぼさない。解雇によつて生じる原告らの不利益、損害は除名処分をした被告組合との間において決せられるべきものである。

(三) 雇用契約において雇用期間の定めがないときは、使用者は法律上の特別規定、労働協約、労働契約によつて解雇権が制限されている場合、解雇権の行使が権利の濫用、不当労働行為などの理由で無効になる場合を除き、何時でも有効に解雇しうるのであつて、解雇事由は本来不要である。したがつて、ある理由に基づいて解雇した場合に当該理由の存否は解雇の効力となんら関係がない。

2 賃金請求権について

仮に、除名処分が無効であるために当然解雇も無効となるとしても、そのことから直ちに原告らの賃金請求権を認めうるものではない。即ち、

ユニオン・シヨツプ協定は組合の統制権に実効性を与えることにより、組合の団結権を確保、強化することを目的とし、組合の自主性、自律性を尊重するため、除名の効力について使用者は介入すべきものではなく、いかなる除名理由、手続によつて除名されたかにつき使用者は独自に調査、判断する権限を有しない。

被告清心会としては、被告組合からの除名通知に接すれば、病院の業務に重大な支障をきたさない以上、その除名処分の効力を審査することなく原告らを解雇すべき債務を被告組合に対して負担している。したがつて、前記解雇後被告清心会は原告らの就労を拒否しているが、それは被告組合に対する債務の履行として解雇したためであり、被告清心会の責に帰すべき事由によるものではない。換言すれば、被告組合の除名処分が存続する以上、被告清心会としてはユニオン・シヨツプ協定に基づく債務の履行として原告らを解雇し、就労を拒否しなければならず、これは自らの意思によらない就労拒否である。

よつて、右の就労拒否は除名の効力が未確定の状態で存続することに基づくものであり、除名処分の無効が本案裁判上確定するまでは被告清心会の責に帰すべき事由による履行不能ではないから、原告らは民法五三六条一項により被告清心会に対する賃金請求権を有しない。

(抗弁に対する原告らの答弁)

一  原告らの認否

抗弁一の1の前段のうち、被告組合が山本病院の従業員をもつて結成され、全日本労働総同盟大阪一般同盟に加盟し、原告長谷川が昭和四五年七月から被告組合の執行委員に、昭和四六年九月から教宣部長に就き、原告坂本が昭和四六年九月から同被告の職場代議員の役職に就いたことを認め、その余は不知、1の後段は認める。

同2の(一)のうち、前段は認め、後段は否認する。原告長谷川は本件ビラを病院において組合員、非組合員を問わず、当日の勤務者全員に被告組合とは無関係である旨断つたうえ配布し、原告坂本は医療社会事業課において原告長谷川のビラ配布を知つた被告組合書記長松岡から右ビラの意味を質問されたとき、自己が所持していたビラを配布したものである。

同2の(二)の(1)のうち、本件ビラは「労働者共闘」の機関紙として発行されていること、このビラの主題は沖縄返還協定の国会批准を実力で阻止するため、昭和四六年一一月一九日首都へ総結集せよという呼びかけであることを認め、その余は否認する。同(2)は否認する。同(3)のうち、原告らが昭和四六年一一月一九、二〇日山本病院を欠勤したこと、同月二〇日の組合大会に欠席したこと、本件ビラ配布の時期が組合大会の直前であつたことを認め、その余は否認する。

同(三)のうち、被告組合が昭和四六年一二月二七日の執行委員会の決議に基づき原告長谷川に対し同月二九日、原告坂本に対し昭和四七年一月七日に、それぞれ反省を求め今後分派活動をしないよう警告書を交付したこと、昭和四七年一月一〇日開催の臨時大会で原告らに対する賞罰委員会の設置が決議され、その後賞罰委員会は原告らに対し数回にわたり出席を求めたがこれに応じなかつたこと、賞罰委員会は同年二月一五日原告らの除名を相当とする旨決定したことを認め、その余は否認する。

同(四)は争う。

抗弁二の1の(一)は認める。

同(二)の(1)は認め、同(二)の(2)の認否は被告組合の抗弁一の2の(一)ないし(四)の認否と同じである。同(二)の(3)は争う。

同(三)は争う。

同2は否認する。

二  原告らの反論

1 除名決議について

(一) 原告らの本件ビラ配布は一般的に組合運動がどうあるべきかを表明したり、あるいは被告組合の破壊と分裂を意図してなされたものではない。即ち、

本件ビラは「一九日首都へ総結集せよ」と呼びかけているが、結集の具体的時刻・場所等につき一切の記載がないことからうかがえるように、沖縄返還が日本の軍国主義化を一層強化し、日本帝国主義のアジア再侵略を導くものであるとの認識のもとに、沖縄返還協定の国会批准がいかなる意味をもつものであるかを明らかにし、これに対する労働者の理解を深め、自覚を促すことを眼目とするものであつた。このことは原告らが本件ビラを被告組合員、非組合員を問わず当日の勤務者全員に、被告組合とは無関係である旨断つたうえこれを配布したことからも裏付けられる。

原告らのビラ配布は一個の労働者としての自己の政治的見解を他に表明し、理解と同調を呼びかけたものであつて、政治活動としての言論活動の範囲をこえるものではない。

(二) 原告らのビラ配布により、被告組合員間に混乱と動揺が生じたという事実はない。まず、本件ビラはこれを一読すれば被告組合と無関係であることは容易に理解しうるものであり、仮に本件ビラの趣旨に賛同するものがあつたとしても、年末一時金闘争となんら矛盾するものではない。本件ビラを見て首都へ結集しようと決意した者もおらず、年末一時金要求交渉になんらかの障害が生じたという事実もない。また、原告らが本件ビラ配布につき被告組合から非難を受けたのは、その後二週間も経つた昭和四六年一二月三日であり、同被告および組合員に混乱と動揺が生じなかつたことはこのような同被告の原告らに対する対応の仕方からも推認される。

以上のとおり、原告らの本件ビラ配布は政治活動であつて、同被告の分裂や破壊を目してなされたものでないことは明白であり、また組合秩序が乱されたこともないのであるから、これに対して同被告がなんらかの統制権を発動することがあつてはならないのは当然であつて、まして除名は許されない。

(三) 組合大会、賞罰委員会への出席は組合員の権利と言えるものであつて、組合の統制権を背景にこれを強制することは組合民主主義を否定するものである。右のように解しえないとしてもこれらの会への欠席は除名理由とはならない。

(四) 被告らは、原告らが単に反省の色を示さなかつたばかりでなく、組合に対する挑戦的な言辞を弄したと主張する。しかし、原告らは本件ビラ配布が個人の政治活動として被告組合から統制を受ける筋合のものではないと確信し、これを強調したことがあり、同被告が本件ビラ配布につき原告らに対し警告書を発し、賞罰委員会を設置したことに対し是正を求めるため、抗議のビラまきをしたことがあるが、右原告ら主張のような事実はない。

2 解雇の効力について

被告清心会は、ユニオン・シヨツプ協定による解雇は除名処分の効力いかんにかかわらず有効と解さなければならないと主張する。しかし、労働組合から除名された労働者に対し、使用者がユニオン・シヨツプ協定に基づき労働組合に対する義務の履行として行なう解雇は、労働組合から有効に除名されて組合員たる資格を喪失した場合にかぎり、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当なものとして是認することができ、右除名が無効の場合には、使用者に解雇義務が生じないから、かかる場合には、客観的に合理的な理由を欠き社会的に相当なものとして是認することはできず、他に解雇の合理性を裏づける特段の事由がないかぎり、解雇権の濫用として無効であるといわなければならない(最高裁判所昭和五〇年四月二五日判決参照)。したがつて、この点の被告清心会の主張も失当である。

3 賃金請求権について

被告清心会の賃金請求権に関する主張もまた失当である。右主張の前提は、被告組合からの除名通知に接すれば病院の勤務に重大な支障をきたさない以上、その除名処分の効力を審査することなく、被告清心会は原告らを解雇すべき債務を負うというものであり、この見解は前記最高裁判決の趣旨に反する。同被告の主張が正当とされるならば、無効の除名処分を受けた当該労働者は極めて過酷な状態におかれることとなり、また、同被告の応訴態度によつて賃金請求権発生の時期に変動が生ずることとなり、妥当性を欠く。

(再抗弁)

統制権および解雇権の濫用

被告組合の原告らに対する除名処分は組合の統制権を濫用したもので無効であり、したがつて、ユニオン・シヨツプ協定に基づいた被告清心会の解雇も解雇権の濫用として無効である。

労働組合と企業との間にユニオン・シヨツプ協定が締結されている場合には、組合による除名は原則として直ちに解雇につながるものであるから、組合員の権利が不当にはく奪されることのないように、統制権の発動にあたり組合の恣意が入ることはきびしく排除されなければならない。したがつて、除名処分は当該組合員の行為が極めて反組合的であり、これによつて組合が受けた組合秩序のびん乱が組合および企業からの追放以外に回復しえない場合、即ち除名が真にやむを得ない場合でなければなし得ないものである。

原告らに除名を正当化するなんらの事由もないことは既に述べたとおりである。

本件ビラの背後に流れている政治思想が被告組合の公式的なそれとは異質のものであり、同被告が原告らを除名した理由も原告らの持つ政治思想にある。

本件ビラ配布を最初に問題としたのは被告組合ではなく被告清心会であつて、被告清心会は原告らに対し本件ビラ配布を理由に懲戒解雇することをほのめかしており、原告坂本に対して今後組合が問題にするであろうと述べている。被告組合による除名および被告清心会による解雇は被告らが一体となつて原告らの政治思想を嫌悪し、これを企業から排除するためになされたものである。

(再抗弁に対する認否)

被告らはいずれも再抗弁事実を否認する。

第三証拠<省略>

理由

第一被告清心会に対する請求について

一  請求原因について

請求原因一、二の各事実は原告らと被告清心会との間においては争いがない(以下、第一においては原告らと被告清心会との間を単に当事者間と表示する。)。

二  抗弁について

1  抗弁二の1の(一)、同(二)の(1)の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

2  そこで、除名の効力について判断する。

(一) 抗弁一の1の事実(除名決議)のうち、被告組合が被告清心会山本病院の従業員をもつて結成され、全日本労働総同盟大阪一般同盟に加盟し、原告長谷川が昭和四五年七月から被告組合の執行委員に、昭和四六年九月から教宣部長に各就任し、原告坂本が昭和四六年九月から被告組合の職場代議員に就任したこと、被告組合が昭和四七年二月二三日開催された同被告の臨時組合大会において、原告らの行動と主張が被告組合員としての当然の義務とルールを無視し、労働組合の分裂を意図するものであり、組合規約一一条、一三条に違反するという理由で原告らを除名する旨の決議をなし、翌二四日原告らに対しその旨書面をもつて通知したことは、いずれも当事者間に争いがない。

(二) 同2(除名理由)の(一)の事実のうち、原告長谷川が昭和四六年一一月一七日正午から午後一時頃までの間に被告組合員の勤務している全職場において本件ビラを配布し、原告坂本も同じ頃自己の職場である医療社会事業課において右ビラを配布したことは、いずれも当事者間に争いがなく、原告らの各本人尋問の結果によれば、原告長谷川が配布した本件ビラは約二〇〇枚であること、原告坂本が配布したのは三枚で、配布した相手は医療社会事業課の参川課長、松岡英樹書記長および笠原心理士であることが認められ、右認定に反する証拠はない。

(三) 被告組合は昭和四六年一二月二七日開催の執行委員会の決議に基づき原告長谷川に対し同月二九日に、原告坂本に対し昭和四七年一月七日にそれぞれ反省および今後分派活動をしないことを求める警告書を交付したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙一四、一五号証によれば、その警告書の内容は、年末一時金闘争を目前にして、原告らが意思を通じて無届、無合議にて職場において組合員を無秩序な方向へせん動することを目的とする本件ビラを配布したこと、原告らが昭和四六年一一月二〇日の組合大会をはじめ各種の会議をボイコツトしたこと、これら一連の行為は被告組合の分裂を目的としたもので、労働者の権利範囲内の行為とは認めがたく、原告らに反省を求め、今後再び類似の分派行動をしたときは厳重に対処する旨を警告したものであることが認められる。

(四) 昭和四七年一月一〇日開催の臨時組合大会で原告らに対する賞罰委員会の設置が決議されたことは当事者間に争いがなく、いずれも成立に争いのない乙一九ないし二二号証によれば、賞罰委員会は昭和四七年一月二二日頃書面をもつて原告らに対し、賞罰委員会が設置されたことおよび賞罰委員会の構成を通知したことが認められ、証人寺内松次の証言、成立に争いのない甲四号証ならびに右寺内証言および甲四号証の寺内松次の供述記載から真正に成立したものと認められる乙一八号証の一ないし三によれば、被告組合は昭和四八年一月一八日賞罰委員会に対して審議要求をし、その審議の対象は次の(1)ないし(9)に記載する各行為であることが認められる。

(1) 原告長谷川が昭和四六年一一月一六日の執行委員会に無届で欠席したこと。

(2) 原告らが本件ビラを配布したこと、特に本件ビラは他組織のビラであり、原告らの行動は非合法、無合議、反議会主義的であり、被告組合および被告ら間のルールを無視しており、せん動的に被告組合を動揺させたこと。

(3) 原告らが昭和四六年一一月二〇日の組合大会に無届で欠席したこと。

(4) 被告組合三役は原告長谷川と昭和四六年一二月三日および二一日に、原告坂本と同月二三日にそれぞれ面接して、ルール違反を指摘し今後の反省と自粛を促したが原告らが受入れなかつたこと。

(5) 原告らが昭和四六年一二月八日の臨時組合大会に欠席したこと。

(6) 原告らが組合執行機関の意思決定を無視し、警告書を突返したこと。

(7) 原告らが昭和四七年一二月二七日の執行委員会に欠席し、原告坂本が被告組合に対しいかなる決定をしてもかまわないと述べたこと。

(8) 原告らが昭和四七年一月一〇日の臨時組合大会の席上でビラを配布したこと、さらに、同月一四日、一六日、二〇日、二四日、二六日、二九日、二月四日、九日、一〇日、一四日に配布したビラについて(一月一六日のビラは電柱へ貼付)。

(9) 原告長谷川が寺内執行委員に対して原告らの意図および目的に関して暴言をはいたこと。

前記甲四号証、いずれも成立に争いのない甲八号証の一、二および前記寺内証言によれば、賞罰委員会は昭和四七年二月一五日まで数回開催して審議した結果、前記審議の対象となつた原告らの行動は証拠によつてすべて認められるとしたうえ、右行動と主張は被告組合員としての当然の義務とルールを無視し、被告組合の分裂を意図するものであり、組合規約一一条、一三条に違反するものであるから、原告らを除名するのが相当であると判断したことが認められ、それに基づき被告組合が原告らを除名したことは前記のとおりであり、いずれも成立に争いのない甲九号証の一、二によれば、原告らの除名理由は賞罰委員会で審議した理由と同一であることが明らかである。なお、原告らが賞罰委員会の数回にわたる出席の要求に応じなかつたことは当事者間に争いがない。

(五) ところで、成立に争いのない乙三五号証によれば、被告組合規約一一条、一三条の規定は次のとおりであり、組合員の統制については同規約一一章「統制」の七二条に次のように規定されていることが認められる。

一一条 組合員は綱領、規約及び機関の決議事項を厳守しなければならない。

一三条 組合員は大会、執行委員会、各種委員会及び組合業務に正当な理由なく出席を怠たり又は退場してはならない。

七二条 組合員が左の各号の一に該当する場合は賞罰委員会の議を経て大会の決議により除名する。

1  綱領、規約に違反したとき。

2  運動方針並びに決議事項に違反したとき。

3  組合の秩序を乱し又は組合に大いなる損失をかけたるとき。

4  正当な理由なく組合費を三ケ月以上納めないとき。

5  その他組合員として不適当な行為をなしたるとき。

右によれば、被告組合の除名事由は極めて広範なものであり、除名事由を制限したものとは認められず、組合員の除名についてはむしろ賞罰委員会、あるいは組合大会の決議に全面的にゆだねたものといわざるを得ない。したがつて、右規定を形式的に適用するときは、組合大会の決議によつては極めて軽微な行為をした場合でも組合員を除名することが可能となる。しかし、労働組合に統制権が認められているのは労働組合の団結権を確保するためであり、それゆえ、統制権の行使はその目的のために必要、かつ合理的な範囲においてのみ許されると解すべきであつて、特に、労働組合と使用者との間にユニオン・シヨツプ協定が締結されている場合には、労働組合からの除名は原則として被除名者の解雇に結びついており、一方、使用者の解雇権の行使はそれが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には権利の濫用として無効になると解せられていることを考慮すると、右のように無制限ともいえる除名事由を定めている場合には、組合員がたとえ組合規約七二条の1ないし5に該当する行為をした場合でも、直ちに除名事由が充足されるものではなく、被告組合の統制権の範囲外の行為についてはもとより、同被告の統制権が及ぶ場合においても社会通念上除名を相当としない場合においては組合員を除名することは許されないと解すべきである。

(六) そこで、前記組合大会における除名理由の当否についてみるに、前記除名理由は(イ)原告らが昭和四六年一一月二〇日の臨時組合大会その他の会議に欠席したこと、(ロ)原告らの本件ビラ配布、(ハ)ビラ配布後の原告らの行動の三つに大別することができるので、以下この順序に従つて検討する。

(1) 原告らが昭和四六年一一月二〇日の臨時大会に欠席したことは当事者間に争いがなく、前記乙一八号証の二、甲九号証の一、二によれば、原告らが同年一二月八日の臨時組合大会に欠席したことが認められる。しかし、原告らが欠席したために右大会の開催に支障をきたしたという主張、立証もなく、原告らが右大会を欠席することによつてその運営を阻害しようという意思を有していた旨の証拠もないばかりか、かえつて原告ら各本人尋問の結果によれば、原告らは自分らが右大会に欠席しても大会運営にあまり支障を生じないものと認識していたことが認められ、右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

以上の事情を前提にして考察すると、原告らの欠席がたとえ無届であり、原告らが被告組合の役職にあつたことを考慮しても、原告らの役職を解任する事由になりうるのはともかく、除名処分をもつて組合大会に出席することを強制することは許されない。また、執行委員会の欠席は原告長谷川の執行委員の解任事由に該当する可能性はあつても、前同様除名の対象となる行為にあたらないことは明らかである。特に、前記葭家証言によれば、昭和四六年一二月二七日の執行委員会は原告らに釈明の機会を与えるためのものであることが認められ、したがつて、原告らの欠席は右委員会に出席する権利を放棄したものに過ぎず、統制権の対象にならないことも多言を要しない。

(2) 前記葭家証言、証人松岡英樹の証言およびいずれも成立に争いのない甲五号証の一、二によれば、原告らが本件ビラを配布するにあたつて、配布先の人に対しこの活動が被告組合と無関係であるといちいち断つてはいないこと、配布の対象も特に被告組合員に限定してはおらず、非組合員も含まれていたばかりか、外来患者、面会人をも除外していないことが認められ、右認定に反する原告らの各本人尋問の結果および成立に争いのない甲六、七号証の供述記載部分はたやすく措信できない。しかし、いずれも成立に争いのない甲一、乙一号証によれば、本件ビラは労働者共闘(準)なる団体の機関紙であることが表示され、被告組合が発行したと受けとられるおそれの記載は一切ないこと、その内容は沖縄返還協定の国会批准阻止を訴え、社会、共産両党と総評の戦い方を議会主義的日和見主義と批判し、労働者に対し職場実力闘争をあおり、昭和四六年一一月一九日首都への総結集を呼びかけたもので、暴力主義を基本とする極めて内容の激しいものであること、したがつて、そのビラを一読すれば本件ビラは被告組合と無関係であることが容易に了解しうるものであることが認められる。

被告清心会は、本件ビラ配布の意図が被告組合の破壊と分裂にあつたと主張するけれども、前記甲一、乙一号証によれば、本件ビラには被告組合の脱退等を呼びかけたり、新たな団体に加入することを訴えている趣旨の記載はなく、本件ビラの内容が前記のとおりすべての既成政党、労働組合を攻撃しているものであつて、本件ビラの記載内容そのものから見ても本件ビラ配布の意図が被告清心会の主張するところにあつたとは考えられず、また、職場実力闘争をあおつたことが被告組合の活動方針に反するとしても、これをもつて直ちに同被告の破壊と分裂を意図しているということはできない。被告清心会の右主張にそう前記葭家、寺内、松岡の各証言および甲四号証、五号証の一、二はたやすく措信できない。さらに、本件ビラ配布のために被告組合員のうち一名でも一一月一九日東京に結集したという主張、立証もなく、被告組合の大会運営および年末一時金闘争に重大な支障を生じさせたこと、原告らがそのような意図を有していたことを立証するに足りる証拠もない。

以上の諸事情を考慮すると、原告らの本件ビラ配布は被告組合とは別個の原告ら個人の政治活動に過ぎないものというべきである。そして、このような原告らの政治活動がたとえ同被告のそれとその方針、方法等において相反するものであつても、同被告の統制権の範囲外の行為というべく、同被告はこれを統制違反の対象として論ずることは許されない。

被告組合は、原告らが同被告に無届で、事前の相談なく本件ビラを被告清心会の職場にいる組合員に配布したこと、およびそのため組合員に動揺を与えた旨主張し、本件ビラの内容から見て被告清心会の従業員に少なからず衝撃を与え、本件ビラ配布が従業員の話題となつたことは推認されるが、それは組合員のみが受ける固有のものではなく、組合員、非組合員を問わず一様に受ける動揺である。原告らの本件ビラ配布が被告組合とは無関係の政治活動である以上、同被告に無届で、事前に相談なく配布され、組合員を動揺させたことをもつて同被告の有する統制権の対象とすることは、結局原告らの政治活動を規制するものであつて許されないというべきである(しかし、原告らの本件ビラ配布が被告清心会の有する施設管理権から制限を受けることがありうることはもとより別の問題である。)。

以上のとおりであるから、原告らの本件ビラ配布をもつて、原告らの除名理由とすることはできない。

(3) 原告らの本件ビラ配布が被告組合と無関係の政治活動であり、同被告がこれに対して統制権の対象とすることが許されない以上、(四)の(4)記載の被告組合三役が原告長谷川と昭和四六年一二月三日および二一日に、原告坂本と同月二三日にそれぞれ面接して、ルール違反を指摘し今後の反省と自粛を促したが原告らが受入れなかつたこと、同(6)記載の組合執行機関の意思決定を無視し、警告書を突返したことをもつて、除名の理由とはなしえないこともまた明らかである。

原告ら各本人尋問の結果、前記葭家証言および甲五号証の一、二、ならびにいずれも成立に争いのない乙一ないし三号証、四号証の一、二、五ないし一三号証(四号証の一、二、五号証、一二号証のうち、いずれも成立不知の部分を除く。)および甲六、七号証によれば、被告組合は昭和四六年一一月二〇日の組合大会終了後、緊急執行委員会を開き、原告らの本件ビラ配布について協議したところ、特に被告組合に無届で事前に何らの相談なしに配布されたことが問題となり、原告らの行動は組合の分派活動であり、組合の正式な執行機関を経ずして行なつた点において組合のルール違反であるとの判断に達したが、本件ビラ配布のみでは原告らに対し直ちに統制権を行使する考えはなかつたこと、被告組合は原告らに対し今後もこのような活動を続けるのか、続けるのであれば事前に届出て同被告の機関に相談することなどについて原告らと話合うこととし、この交渉は被告組合三役に一任されたこと、右三役は同年一二月三日をはじめとして、その後一、二度原告らと話合つたが、原告らは本件ビラ配布は個人としての政治活動であるから、被告組合から事前の規制を受けるいわれはないとの態度を取つたため、両者の話合いはもの別れとなり、原告らも同被告との交渉を拒否するようになつたこと、そのため、前記のとおり同被告は原告らに警告書を交付し、賞罰委員会を設置するに至つたこと、これに対して、原告らは昭和四七年一月一〇日組合大会の席上、組合執行部による政治活動、思想、信条の自由の侵害に断固抗議し、警告書の即時撤回を求め、同盟精神の押しつけに反対する旨のビラを配布し、その後同年二月二四日までに同趣旨のビラを数回にわたつて被告清心会山本病院の正門前で配つたり、同病院付近の電柱、看板等に貼付したことが認められ、右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

以上の事実を総合して考えるならば、原告らの抱く政治思想と被告組合のそれとは両者が話合いで解決するにはあまりにも隔絶し、また、原告らが同被告の態度を一方的な政治活動に対する規制であると受取つたとしても無理からぬものがあり、両者の交渉の過程で原告らが同被告の説得にもかかわらず、原告らがなんら反省の色を示さず、同被告に対して挑戦的な言辞を弄し、寺内松次執行委員に対し組合規約を無視するとか組合を破壊すると述べたとしても、これらは同被告が原告らの政治活動になんらかの規制を加えようとしたことに原因があることを考慮すると、派生的な原告らの右態度を取上げて除名の理由とすることは極めて酷に過ぎるもので許されないというべきである。また、本件ビラ配布後のビラ活動についてもそのビラの主な内容は、前記のとおり被告組合執行部による政治活動の規制に対する抗議、警告書の撤回、本件ビラ配布に統制権を加えることに反対するものであり、これに対して被告清心会から規制を受けることはともかく、被告組合が統制権の対象とすることは許されないことも明らかである。

(七) 以上のとおり、被告組合の原告らに対する除名処分はいずれも除名理由がないものであるから、無効というべきである。

3 解雇権の濫用について

被告清心会が原告らに対し労働協約四条に基づき解雇したことは前記のとおり当事者間に争いがなく、被告組合の原告らに対する除名処分も無効であることは前記のとおりである。そして、被告ら間にユニオン・シヨツプ協定が締結されている場合において、除名が無効な場合には被告清心会は解雇義務を負わないものと解すべきであり、他に解雇の合理性を裏づける特段の事由について主張、立証もないのであるから、原告らのその余の主張について判断するまでもなく、被告清心会の右解雇は権利の濫用として無効であるといわなければならない。

なお、被告清心会は、解雇の自由の理論をもつて原告らに対する解雇の正当性を主張するけれども、解雇につき合理的理由がない場合には当該解雇は原則として権利の濫用として無効になると解するのが相当であり、被告清心会は他に解雇の合理的理由について主張、立証もしていないことは前記のとおりであるから、右主張も失当である。

4  原告らの賃金請求権について

被告清心会は、被告組合のした除名処分について独自に調査、判断する権限はなく、除名処分の無効を理由に解雇が無効とされた場合であつても、被告清心会の労務受領拒否はユニオン・シヨツプ協定に基づく債務の履行の結果であり、被告清心会の意思によらない、即ち同被告の責に帰すべき事由によるものではないと主張する。

しかしながら、ユニオン・シヨツプ協定は原告らと無関係に被告ら間において任意に締結したものであり、たとえ、被告清心会が除名処分の当否について調査しうる立場にないとしても、同被告が任意で締結した協定を理由に、右協定と直接関係のない同被告と原告ら間の労働契約における自己の債務の不履行について、不可抗力の事由として主張することは許されず、もし右主張が許されるとするならば契約当事者はいつでも任意に不可抗力の事由を創り出すことができることとなつて極めて不当である。除名処分に関する被告組合の判断の誤りは原告らと被告清心会の間においてはユニオン・シヨツプ協定の当事者である被告清心会の方でその危険を負担すべきものというべく、被告清心会の右主張は失当であり、同被告は原告らに対し賃金支払義務を有する。

5  請求原因三について、原告らが従業員であつたとすれば、原告らがその主張時期にその主張する金員の支払を受けるべきものであることは当事者間に争いがない。

第二被告組合に対する請求について

請求原因一、二の各事実は原告らと被告組合との間においても争いなく、被告組合が主張する除名処分がいずれも除名事由を欠くものでその効力を有しないことは、前記第一の二の2で判断したとおりである(原告らと被告清心会との間で争いのない事実は、すべて被告組合との間においても争いがなく、前記第一において事実の認定に供した書証のうち、甲一、四号証、五号証の一、二、六、七号証、八および九号証の各一、二、ならびに乙一ないし三号証、四号証の一、二、五ないし一五号証、一九ないし二二号証、三五号証(乙四号証の一、二、五、一二号証のうち成立不知の部分を除く。)の各成立についてはいずれも弁論の全趣旨により認められる。)。

そうだとすれば、原告らはいずれも被告組合の組合員たる地位を有することが明らかである。

なお、証人角春海の証言によれば、被告組合は昭和五一年一一月一二日開催の組合大会において解散の決議をし、事実上組合財産も清算されたことが認められるが、現に本訴が係属している以上、いまだ清算手続は終了せず、被告組合は依然存続し、当事者能力を有するというべきである。

第三結論

以上のとおり、原告らの被告らに対する本件各請求はいずれも理由があるから正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条一項を、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 上田次郎 安斎隆 上垣猛)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例