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大阪地方裁判所 昭和48年(ワ)3224号 判決 1976年5月24日

原告

小沢富男

訴訟代理人

廣川浩二

被告

石橋舛

訴訟代理人

鈴木康隆

被告

株式会社 小間安組

代表者

小間物谷安吉

訴訟代理人

浜本丈夫

主文

一  被告らは各自原告に対し、金四四六万円と、うち金四〇六万円に対する被告石橋舛は昭和四八年八月一〇日から、同株式会社小間安組は同月九日から各支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は二分し、その一を原告の、その一を被告らの各負担とする。

四  この判決は原告の勝訴部分に限り仮に執行することができ、被告らは共同して金三〇〇万円の担保を供して仮執行を免れることができる。

事実《省略》

理由

一当事者間に争いのない事実

被告石橋舛は、建物の解体業者であるが、被告会社が大阪府から請け負つた本件解体工事の下請けをしたこと、原告は、昭和四五年九月から、鳶職として被告石橋舛に雇用され、本件解体工事に従事していたこと、以上のことは当事者間に争いがない。

二  本件事故の発生についての判断

本件事故の発生日時、場所、態様(本件請求の原因事実(二)(1)(2)(3)の各事実)について、原告と被告石橋舛との間で争いがなく、原告と被告会社との間では、<証拠>によつて認めることができ、この認定に反する証拠はない。

三原告の本件事故による受傷程度についての判断

原告の本件事故による受傷の程度(同事実(二)(4)の事実)は、<証拠>によつて認めることができ、この認定に反する証拠はない。

四責任原因についての判断

(一)  自賠法三条に規定する自動車とは、同法二条一項により道路運送車両法二条二項所定の自動車と同条三項所定の原動機付自転車を指称するところ、本件クレーン車が同法二条二項に定義された自動車に該当することは明白である。

(二)  自賠法三条に規定する運行の意味を、クレーン車について考究する。

クレーン車が運転されて場所的に移動しているいわゆる運転進行の場合、それがクレーン車の運行であることは疑問の余地がない。

ところで、クレーン車が、固定されてクレーンを操作している場合も、クレーン車の運行であると解するのが相当である。その理由は次のとおりである。

(1)  もともとクレーン車は、乗用車のように場所的移動の用に供することを目的とせず、クレーン車の固有装置であるクレーンを作動して一定の作業をすることを目的としているのである。従つて、このことに着目したとき、クレーン車の運行には、場所的移動のほかに、クレーン車の固有装置であるクレーンの操作、作動もクレーン車の運行に含めて広く解するのが、合目的的であるといえる。

(2)  自賠法三条の事実上の無過失責任の機能に着目したとき、クレーン車のクレーン操作中の事故にも同条を適用することは、被害者の救済を厚くすることになり、被害者が自賠責保険の給付を得られる結果をもたらすわけで、この結論は、自賠法の立法趣旨に合致する。

(三)  本件クレーン車は、被告石橋舛が繩間運送株式会社から借り受けたもので、本件事故は、本件クレーン車のクレーン操作中に惹起されたのであるから、被告石橋舛は、本件クレーン車の運行供用者に該当するとしなければならない。

(四)  元請である被告会社は、後記認定のとおり本件クレーン車の運行を被告石橋舛とともに指揮、監督していたのであるから、被告会社にも本件クレーン車の運行支配があつたといわなければならない。従つて、被告会社も、本件クレーン車の運行供用者としてその責任を免れない。

(五)  被告らは、自賠法三条によつて、本件事故による原告の損害を賠償する義務があるところ、被告らは、同条但書の免責の抗弁を主張しない。

五過失相殺の主張についての判断

(一)  第一ないし第三項の争いのない事実や認定事実、<証拠>を総合すると次のことが認められ、<証拠判断略>。

(1)  被告会社は、本件解体工事のほか、大阪府立泉佐野高校の食堂の内部改装工事、排水の整備工事をも請け負い、本件解体工事を被告石橋舛に食堂の内部改装工事を他の業者にそれぞれ下請けさせ、排水溝の整備工事を自営でしていた。そこで、被告会社は、これら工事全体を監督するため訴外黒岩博明を現場に派遣し現場監督として工事の全般的指揮、監督に当らせた。そこで、被告石橋舛は、工事着工前に黒岩博明と工事の手順について打合せしたほか、毎日作業内容を報告し、黒岩博明の監督のもとに本件解体作業を進めていた。

(2)  被告石橋舛は、昭和四五年九月二五日ころ、下屋部分をまず除去して主建物の解体に移つたが、下屋部分を除去したため主建物は、南北方向に倒壊しやすい状態になつた。

(3)  同被告は、次に主建物の合掌に取り付けられた安全材を、「はさみ振止め」と「くも筋かい」を残して除去してしまい、その後を仮ボルトで緊結しなかつた。このため合掌は不安定な状態になつた。

(4)  同被告は、本件事故の日、合掌の解体工事を一日で終らせる予定で、本件クレーン車を借り受け作業をはじめた。

被告会社の黒岩博明と被告石橋舛は附近で原告らのするこの作業てを見いた。

(5)  クレーン車の運転訴外山口敏郎は、作業開始前原告ら鳶職と作業の合図について打ち合せなかつた。そのうえ、本件事故当時、合図係の鳶職はおらず、原告を含む三名の鳶職は全員合掌の上に乗つてしまつた。

(6)  被告石橋舛は、まず西端の合掌からつり上げるよう山口敏郎に指示したが、クレーン車のアームが届かなかつたので、東側の合掌からつり上げて順次降すことにした。

そこで、クレーン車は、別紙図面の位置に固定され、原告ら鳶職は、東端の合掌の上に位置した。その場所は、原告が合掌の頂上で、一名の鳶職が南側合掌尻で、一名の鳶職(西村里二)が両者の中間である。作業員二名は、地上で南北の両合掌尻に結んだロープを引いていた。

このときの原告の役割は、アームから伸びたワイヤーロープを合掌の頂上に取りつけることと、作業の合図を地上に送ることであつた。しかし、原告の位置は、山口敏郎からの死角になつたので、原告の送る合図は直接山口敏郎に見えなかつた。

(7)  クレーン車は東側第一合掌に取りつけられたワイヤーロープを巻いたが、その南側の合掌尻が上つただけで、北側の合掌尻は、敷桁とかみ合つて離れなかつたため上らず、クレーン車の尾部が浮き上り危険になつたので作業を中断した。

(8)  山口敏郎は、この中断中に被告石橋舛とクレーン車の位置を移動させることを検討したが、それは困難であることが判明した。

山口敏郎は、作業を再開すると同時に、原告からの合図がないのに、アームを上下に反覆させて合掌を敷桁から離そうとした。このとき、主建物はぐらぐら振動したので、原告らは、作業の中止を叫んだが、クレーン車の騒音のため地上に伝わらなかつた。

原告らは、危険を感じて地上に避難しようとしたが間に合わず、合掌が将棋倒しになり、原告は地上に墜落した。

(二)  以上認定の事実によると、本件事故の主原因は、山口敏郎が、合図がないのにアームを上下に反覆させたことにあることは明らかである。

しかし、原告は経験豊かな鳶職であり(原告が昭和二四年ころから鳶職をしていることは原告本人尋問の結果によつて認める)、主建物の安全性が取り除かれたため倒壊の危険があることを十分承知していたこと、原告ら鳶職は、本件事故の日山口敏郎と合図の方法などについて打合せの有無を確認し鳶職の意図どおり作業を進めることができるようにしなかつたこと、とりわけ本件事故の時には鳶職が一名不足していたのであるから、原告としては、山口敏郎との連絡合図について十分意を用いるべきであつたのにそうしなかつたこと、原告ら鳶職は、作業中断中に合掌尻りをこじ上げることなど合掌の吊上げを容易にする方法を検討し、再開後の作業方法について鳶職としての適切な指示を与えなかつたこと、却つて原告はアームを上下に反覆することで合掌尻りが敷桁から外れて吊り上げられると安易に考えていた節がみられること(このことは原告本人尋問の結果によつて認める)などからして、原告にも、本件事故発生について過失責任があつたとしなければならない。そこで、当裁判所は原告のこの過失を三割と評価して過失相殺する。

なお、被告会社は過失相殺の抗弁をしていないが、当裁判所は、この点は職権で判断を加える。

六損害額についての判断

(一)  休業損害

金一八七万六、〇〇〇円

(1)  <証拠>によると、次のことが認められ、この認定に反する証拠はない。

(イ) 原告は、昭和四五年一〇月一日から昭和四七年一二月三一日まで、労災保険から月収金一二万円として毎月その六〇パーセントに当る金額の休業補償を受けた。

(ロ) 原告は、昭和四八年一月一日から同年一〇月三一日まで、労災保険から月収金一四万五、〇〇〇円として毎月その六〇パーセントに当る金額の休業補償を受け、その後の補償は打ち切られた。

(2)  従つて、原告の昭和四五年一〇月一日から昭和四八年一〇月三一日までの休業損害は合計金一八七万六、〇〇〇円である。

(イ) 昭和四五年一〇月から昭和四七年一二月三一日までの分 金一二九万六、〇〇〇円

12万円×0.4×27月

(ロ) 昭和四八年一月一日から同年一〇月三一日までの分 金五八万円

14万5,000円×0.4×10月

(二)  逸失利益

金四七〇万二、五一五円

<証拠>によると、原告は本件事故当時満四三歳の健康な男子で、一か月平均二五日鳶職として稼働していたこと、原告は、五五歳までなお一〇年間は鳶職として就労可能であつたことが認められ、この認定に反する証拠はない。

(1)  平均日給額

原告が労災補償を打ち切られた昭和四八年一〇月当時の労災保険の休業補償となつた月収額が金一四万五〇〇〇円であつたことは前記のとおりである。

従つて、右の時点における原告の平均日給額は金五、八〇〇円になる。

(2)  労働能力喪失率

原告の後遺症等級が九級であるから、その労働能力喪失率は三五パーセントである。

(3)  これらを手掛りに原告の逸失利益を計算すると次のとおりになる。

5,800円×25日×12月×0.35×7.7217(10年のライブニツツ係数)=470万2,515円(円未満切捨て)

(三)  慰藉料 金一八一万円

(一) 治療期間中の慰藉料

金五〇万円

(二) 後遺症による慰藉料

金一三一万円

(四)  過失相殺と損益相殺

(187万6,000円+470万2,515円+181万円)×0.7−181万円=406万円(一万円未満切捨て)

原告の損害は金四〇六万円になる。

(五)  弁護士費用の損害 金四〇万円

原告が本件訴の提起、追行を原告訴訟代理人に委任したことは記録上明らかであり、本件事案の内容、審理経過、前記認容額などに照らすと、原告が被告らに対して本件事故と相当因果関係のある損害として請求できる弁護士費用の損害を、金四〇万円の範囲で認める。

七むすび

被告らは各自(不真正連帯)原告に対し、金四四六万円と、うち金四〇六万円(弁護士費用の損害をのぞく)に対し、本件不法行為の日以後の日である被告石橋舛は昭和四八年八月一〇日から、被告会社は同月九日から(いずれも本件訴状送達の日)各支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるから、原告の本件請求をこの範囲で正当として認容し、これを超える部分を失当として棄却し、民訴法八九条、九二条、九三条、一九六条に従い主文のとおり判決する。

(古崎慶長 下村浩蔵 小澤一郎)

図面<省略>

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