大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和48年(手ワ)488号 判決 1973年9月04日

原告

韓仁児

右訴訟代理人

吉田恒俊

被告

松原照子こと

蔡春京

右訴訟代理人

古川彦二

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

一、原告

「被告は原告に対し金七〇万円ならびにこれに対する昭和四五年四月一五日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求める。

二、被告

主文同旨の判決を求める。

第二、当事者双方の主張

(請求原因)

一、原告は別紙約束手形目録表示のとおりの約束手形一通(以下本件手形ともいう。)を所持している。

二、被告は右手形を振出した。

三、株式会社大和銀行は満期の日に支払場所(手形交換所)で支払担当者に支払のため右手形を呈示したが、支払がなかつた。

四、よつて原告は振出人である被告に対し右手形金七〇万円とこれに対する満期の日である昭和四五年四月一五日から完済まで手形法所定年六分の割合による利息金の支払を求める。

(請求原因に対する答弁)

一、請求原因第一項の事実は不知。

二、同第二項の事実は否認する。訴外蔡奉春が偽造したものである。

三、同第三項の事実は不知。

(抗弁)

本件手形の満期は昭和四五年四月一五日であり、原告が本件訴訟を提起したのは昭和四八年四月一六日であるから、原告の被告に対する本件手形金債権は満期の翌日から三年を経過した同年四月一五日をもつて時効により消滅した。

(抗弁に対する答弁)

抗弁事実は争う。

(再抗弁)

一、本訴提起の前日である昭和四八年四月一五日は日曜日であるところ、原告、被告の両名とも商人であり日曜日に取引しない慣習が存在するから民法第一四二条により消滅時効完成の日は一日伸長される。したがつて、翌一六日中はいまだ時効が完成していない。民法学者は一般に時効期間について同条の適用があることを認めており、手形についても特に一般私法の原則を変更する必要はない。

二、仮に本件手形金債権が時効により消滅したとしても、原告は時効消滅当時本件手形を所持しており、被告は本訴請求額と同額の利益を得たから、利得償還請求権に基いて請求する。

(再抗弁に対する答弁)

一、再抗弁第一項のうち、原告、被告の両名が商人であることは否認し、その余の事実は争う。

原告、被告ともに主婦であり、個人間の金銭に関する支払を日曜日にしないという慣習は一般に、または大阪地方において存在しない。

なお、通説が「期間満了直前まで権利の上に眠つている者を民法第一四二条を適用して保護する必要はない。」とするのは、(1)手形訴訟の準備は極めて簡易、容易である、(2)裁判所は日曜日にも訴状の受付をしている、(3)支払拒絶によつて信用の失墜した信用証券としての手形上の権利行使は速やかに行うべきである、(4)時効中断のためには裁判外の請求でもたり手形の呈示も必要でない、といつた実質的理由によるものと考えられる。

二、同第二項の事実は否認する。

第三、証拠関係<略>

理由

まず、請求原因事実はさておき、被告の時効の抗弁について判断する。

本件手形の満期が昭和四五年四月一五日であることは原告の主張するところであり、原告の本訴提起が昭和四八年四月一六日であることは本件記載上明らかであるから民法第一四二条ないし手形法第七二条第二項の適用を考慮しない限り、原告の被告に対する本件手形金債権は満期の翌日から三年を経過した昭和四八年四月一五日の終了をもつて消滅時効が完成したものといわざるを得ない。

そこで一般に時効期間に民法第一四二条や手形法第七二条第二項の適用があるかどうかについて考えるに(なお、本訴提起の前日である同日が日曜日であることは顕著な事実である。)、民法第一四二条が期間に関する通則的規定であることはいうまでもないが、時効期間については法はかなり長期間を定めており、期間満了直前まで長らく権利を行使せず権利の上に眠つていた者をそれほどまでに保護、救済する必要は存しないのであつて、時効制度の性質上、同条は時効期間に適用がないものと解するのが相当である。また、手形法第七二条第二項についても、満期到来後の手形金の請求は同条第一項前段の請求にあたらないのはもちろん、同項後段の手形に関する他の行為にも該当しないものというべきであるから、同条第一項の行為にのみ適用される同条第二項は手形金償還請求権の消滅時効には適用がないものと解する。

そうすると、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴手形金債権は本訴提起の前日である昭和四八年四月一五日の終了をもつて時効により消滅したものというべきである。

原告は利得償還請求権を主張するが、被告の利得の事実を認めるべき証拠がなく、右主張は失当として排斥するほかない。

よつて、原告の請求を棄却し、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(安井正弘)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例