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大阪地方裁判所 昭和48年(行ウ)64号 判決 1976年3月26日

東大阪市菱屋西一の一六一

原告

藤崎清次

右訴訟代理人弁護士

香川公一

服部素明

同市永和二の三

被告

東大阪税務署長

佐古田保

右被告指定代理人

大蔵事務官

辻内政敏

岩水明

西宮啓介

東京都千代田区霞が関三丁目一番一号

被告

国税不服審判所長

海部安昌

右被告指定代理人

国税審判官

辻本勇

国税審査官

河口進

右被告二名指定代理人検事

麻田正勝

同法務事務官

西村省三

右当事者間の所得税更正処分取消等請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

一、原告の被告東大阪税務署長に対する昭和四三年分所得税の更正処分の取消しを求める訴えを却下する。

二、原告の被告東大阪税務署長に対するその余の請求及び被告国税不服審判所長に対する請求をいずれも棄却する。

三、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告

1  被告東大阪税務署長が昭和四七年五月三一日付でした、原告の昭和四三年ないし昭和四六年分各所得税の更正処分をいずれも取消す。

2  被告国税不服審判所長が昭和四八年五月一八日付でした、原告の昭和四三年分所得税更正処分に対する審査請求却下の裁決を取消す。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決。

二、被告ら

主文同旨の判決並びに被告東大阪税務署長は昭和四三年分所得税の更正処分の取消しの請求につき本案の答弁として「原告の請求を棄却する。」との判決。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1  原告は昭和四七年一月六日被告東大阪税務署長(以下、被告署長という)に対し昭和四三年分所得税につき総所得金額一、四八六、一二九円、税額一七四、五〇〇円とする修正申告をしたところ、被告署長は同年五月三一日総所得金額一、二四一、九七二円、税額一二一、三〇〇円とする更正処分をした。

原告は昭和四七年七月二七日被告国税不服審判所長(以下、被告所長という)に対し審査請求をしたところ、被告所長は昭和四八年五月一八日これを却下する旨の裁決(以下本件裁決という)をなし、同年六月八日頃原告に通知した。

2  原告は昭和四四年分ないし昭和四六年分の各所得税につき、いずれも法定申告期限内に被告署長に対し確定申告をしたところ、被告署長は昭和四七年五月三一日右各年分につき増額更正処分(以下本件更正処分という)をした。

原告は昭和四七年七月二七日被告所長に対し、本件更正処分について審査請求をしたところ、被告所長は昭和四八年五月一八日右請求をいずれも棄却する旨の裁決をなし、同年六月八日頃原告に通知した。

3  昭和四三年分の更正処分の瑕疵

原告の修正申告は適法であるのに、被告署長がこれを独自の見解によつて一方的に否認した点に違法が存する。

4  本件更正処分の瑕疵

昭和四四年ないし昭和四六年分の不動産所得につき、原告が租税特別措置法(昭和四四年法律第一五号による改正前のもの、以下措置法という)第一四条の規定による新築貸家住宅の割増償却の特例を適用して通常の減価償却費の三倍の特別償却額を経費に計上して所得金額を算出したのに、被告署長が右特例の適用を否認したのは違法である。

5  本件裁決の瑕疵

本件裁決は、原処分は原告の修正申告にかかる納付すべき税額を減少させるもので何ら原告に不利益を与えるものでないから、審査請求はその利益を欠くというのである。なるほど原処分は税額を減少させ、その計算の基礎となる所得の内訳において譲渡所得を零としているけれども、不動産所得を九八、九一三円増加させているから、この点に関する限り不利益な認定であるし、また当該年分の税額が減少しても、そこで税額を減少させた事由が直接の原因となつて、次年度以降の税額が増加し、総体として納税者が不利益になる場合には、法律上審査請求の利益があるものというべきである。この点を看過した本件裁決は違法である。

二、被告署長の本案前の主張

原告の昭和四三年分所得税にかかる昭和四七年五月三一日付更正処分は、原告が昭和四七年一月六日被告署長に提出した修正申告書に記載された総所得金額一、四八六、一二九円、税額一七四、五〇〇円を総所得金額一、二四一、九七二円、税額一二一、三〇〇円に減額するものである。したがつて原告にその取消しを求める法律上の利益はない。

三、請求原因に対する被告らの認否

1  請求原因1、2は認める。

2  同3は争う。

3  同4のうち、昭和四四年ないし昭和四六年分の不動産所得につき原告が措置法第一四条の規定による新築貸家住宅の割増償却の特例を適用して、通常の減価償却費の三倍の特別償却額を経費に計上して所得金額を算出したこと、及び被告署長が原告の場合には右規定の適用がないとしたことは認めるが、その余は争う。

4  同5のうち、被告所長が原告主張の理由で審査請求の却下裁決をしたことは認めるが、その余は争う。

四、被告らの主張

(被告署長)

1 原告の昭和四四年ないし昭和四六年分の総所得金額及び所得別の内訳は左のとおりである。

<省略>

2 前記不動産所得金額の内訳は左のとおりである。

<省略>

3 前記減価償却費の算出根拠は左のとおりである。

(一) 原告は、昭和四三年一月一五日東大阪市菱屋西一の一五三所在の宅地八三・四七平方メートル(残存取得費五五、五〇〇円)及び同地上の倉庫一棟床面積六九・一三五平方メートル(残存取得費七、〇〇四円)を合計七、二〇〇、〇〇〇円で池田藤次郎ほか一名に売却し(その譲渡費用二〇〇、〇〇〇円)、同年三月二二日柴田政一から同市大連一六〇の三所在の宅地三四七・一〇平方メートルを五、七五〇、〇〇〇円で購入し、同年一二月同地上に木造亜鉛メッキ鋼板葺居宅兼店舗及び同共同住宅各一棟(以下、本件貸家住宅という)を建築して、これをいわゆる文化住宅として木村一馬らに賃貸した。

(二) 原告は、昭和四四年三月一一日被告署長に対し、措置法第三八条の六(事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の金額の計算)と同法第一四条(新築貸家住宅の割増償却)の規定を併せ適用して課税標準の計算をし、不動産所得金額を一五九、八二六円、譲渡所得金額を零とした昭和四三年分所得税の確定申告書を提出したが、昭和四七年一月六日、さらに、被告署長に対し措置法第三八条の六の規定の適用を受けないこととして譲渡所得の計算をし、その金額を三五〇、〇〇〇円とした修正申告書を提出した。

(三) ところで、措置法第一四条に定める新築貸家住宅の割増償却が認められる貸家住宅の範囲は、租税特別措置法施行令(昭和四四年政令第八六号による改正前のもの、以下施行令という)第七条第二項がこれを定めているが、右規定によれば当該家屋の取得価額が三・三平方メートル当たり一〇〇、〇〇〇円(耐火構造の建物の場合は一五〇、〇〇〇円、簡易耐火構造の建物の場合は一三〇、〇〇〇円)以下であることが要件であり、本件貸家住宅は木造亜鉛メッキ鋼板葺の建物であるから、三・三平方メートル当たりの取得価額が一〇〇、〇〇〇円以下でなければ右割増償却は認められないのである。そして本件貸家住宅の取得価額は、原告の申告によれば一二、二三三、九〇〇円であり、その建築面積は三九五・七八平方メートルであり、三・三平方メートル当たりの単価は一〇二、〇〇八円となるから、本件貸家住宅については新築貸家住宅の割増償却を定めた措置法第一四条の規定を適用することはできない。

(四) したがつて、原告は措置法第三八条の六第一項の規定のみ適用を受けることになつた。(なお措置法第三八条の八第二項が準用する同法第三八条の五第二項の規定によれば、個人が同法第三八条の六第一項の規定の適用を受けた場合には買換資産について同法第一四条の規定は適用されないこととされている)そして一旦確定申告によつて同法第三八条の六第一項の規定の適用を受けた以上、後日修正申告という形でもつて、右規定の適用を受けないで同法第一四条の規定の適用を受けることに変更することは許されないと解すべきである。

(五) 右のとおり原告は措置法第三八条の六第一項の規定の適用を受け、譲渡所得の金額の計算について特例を認められたので、同法第三八条の八第一項第三号、により前記買換資産(購入した土地及び本件貸家住宅)の取得価額は一一、〇四六、四〇四円となる(別紙計算書(1)のとおり)。

次に施行令第二五条の七第三項により買換資産のうち建物の取得価額は七、五一四、五二〇円である(別紙計算書(2)のとおり)。

さらに、所得税法第四九条第一項、同法施行令第一二〇条第一項第一号イ、第一二五条第一号、第一二六条第一項第一号、第一二九条及び減価償却資産の耐用年数等に関する省令第一条、第四条、第五条、別表一、別表一〇、及び別表一一によれば、本件貸家住宅の一年分の減価償却費は二八四、〇四九円となる(別紙計算書3のとおり)。

4 被告は、昭和四七年五月三一日、右各年分の総所得金額を右主張額と同一とする更正処分を行つた。したがつて本件更正処分には何ら違法な点はない。

(被告所長)

1 本訴に至るまでの経緯

(一) 原告は昭和四四年三月一一日、被告署長に対し左の内容の昭和四三年分所得税の確定申告をした。

事業所得金額 九七六、三〇三円

不動産所得金額 一五九、八二六円

総所得金額 一、一三六、一二九円(甲)

社会保険料控除 五九、〇〇〇円

生命保険料控除 三〇、三五〇円

配偶者控除 一五七、五〇〇円

基礎控除 一五七、五〇〇円

控除金額合計 四〇四、三五〇円(乙)

課税総所得金額(甲―乙) 七三一、七七九円

所得税額 一〇〇、三〇〇円

(二) 原告は昭和四七年一月六日被告署長に対し昭和四三年分の所得につき、新たに譲渡所得金額を三五〇、〇〇〇円加え(他の費目は右と同額)、総所得金額を一、四八六、一二九円、その税額を一七四、五〇〇円とする内容の修正申告書を提出した。

(三) 被告署長は昭和四七年五月三一日付で(二)の修正申告に対し左の内容の減額の更正処分をした。

事業所得金額 九八三、二三三円

不動産所得金額 二五八、七三九円

総所得金額 一、二四一、九七二円(甲)

控除金額(修正申告の額に同じ) 四〇四、三五〇円(乙)

課税総所得金額(甲―乙) 八三七、〇〇〇円

所得税額 一二一、三〇〇円

更正により減少した税額 五三、三〇〇円

(四) 原告は被告所長に対し右更正処分の取消しを求めて審査請求に及んだが、被告所長は昭和四八年五月一八日請求原因5摘示の理由で、国税通則法第九二条により、右審査請求を却下する旨の裁決をした。

2 本件裁決は適法である。

(一) およそ行政処分に対し審査請求が許されるのは、当該行政処分によつて請求人の権利、利益を侵されるからであり、したがつて、このような不利益処分に対してのみ審査請求が許されると解すべきである。このことは国税通則法第九八条第二項に、国税不服審判所長は審査請求人の不利益に当該処分を変更することができない旨規定されていることからも明らかである。ところで本件裁決の対象である右更正処分は原告のなした申告税額を減額させるもので、原告にとつて何ら不利益でないことは明らかであるから、審査請求は不適法である。

(二) 原告は、右更正処分が不動産所得金額を増加させていること及び同処分が直接の原因となって次年度以降の税額を増加させることから、同処分は不利益処分に当たると主張する。

しかしながら、本件裁決の対象は、右更正処分における課税標準ないし税額の存否であつて、その理由ではないから、不動産所得金額を増加させていることをもつて、不利益な処分ということはできない。また、右更正処分の存在によつて次年度以降の税額が増加するということはなく、次年度以降増額更正処分があればこれを違法として争えば足りるから、前記更正処分によつて原告の利益が侵害されたとはいえない。

(三) したがつて、国税通則法第九二条を適用してなされた本件裁決に何ら違法な点はない。

五、被告らの主張に対する原告の認否及び反論

1  被告署長の主張1のうち、事業所得金額は認め、不動産所得金額は否認する。

2  同2は、減価償却費を否認し、その余を認める。

3  同3(一)、(二)の事実は認める。

4  同3(三)については、本件貸家住宅の床面積が三九五・七八平方メートルであり、その建築につき原告が総額一二、二三三、九〇〇円を業者に支払つたことは認める。しかし、右金額の中には建築確認申請手続費用五〇、〇〇〇円及び浄化槽設置費用二〇五、〇〇〇円が含まれている。

ところで、新築貸家住宅の割増償却に関する措置法の規定が、住宅政策の貧困を民間資本によつておぎない、民間における庶民対象の貸家住宅をふやすという政策立法であることは明らかであるが、唯、庶民住宅が対象であることから、右規定が適用される貸家住宅の範囲については、施行令によつて床面積と床面積単位当たりの取得価額による限定がなされているのである。右立法趣旨から考えると、建物の規模、構造と関係のない建築確認申請手続費用、浄化槽設置費用はいずれも建物取得価額に算入さるべきではない。したがつて、原告が業者に支払った一二、二三三、九〇〇円から右費用合計二五五、〇〇〇円を差引いた一一、九七八、九〇〇円が取得価額であり、これを基礎として計算すると、三・三平方メートル当たりの単価は九九、八八二円となつて、明らかに施行令の限定範囲内である。

なお、更正処分の理由は、一旦確定申告に当って措置法第三八条の六の規定の適用を選択した以上、後日修正申告という形で同法第一四条の規定の適用に変更することは許されないというにあつたのであり、本件貸家住宅が施行令第七条所定の要件を欠くというのではなかつたのである。しかも、右理由は国税不服審判所の審理手続段階で原告に対し表示されているのであるから、更正処分取消しの訴訟においては、その理由の適否が更正処分の結論と一体となつて審理の対象となるというべきである。したがつて、更正処分の実質的理由の差替えともいうべき右施行令についての主張は許されない。仮にそうでないとしても、右のような明確に表示されている理由を差替えることは、禁反言の原則に反し許容されないというべきである。

5  同3(四)は争う。

税法上、納税者の自由な選択適用を許容している事項は少なからず存在する。かかる場合、一旦、納税者が選択した方法が客観的に納税者に不利益と考えられるときは、当該納税者が修正申告という方法により、その選択を変更しうることは当然である。また、本件の場合のように、納税者が誤つて二律背反の選択適用をしたときにおいても、税務署長が納税者の不利益な方向に一方を否認すること(措置法第三八条の六の規定を適用し、同法第一四条の規定の適用を否認すること)は適正手続に反し、且つ、租税法律主義違反のそしりを免れないものである。

6  同4のうち、本件更正処分の総所得金額が被告署長主張のとおりであることは認める。

7  被告所長の主張については、本訴に至るまでの経緯は認め、本件裁決の適法性に関する主張は争う。

六、原告の反論に対する被告署長の再反論

税法は固定資産の取得価額には購入代価または製造原価のほか一切の付随費用を含めることを原則としているところ、まず建築確認申請手続は建築基準法第六条により建築物を建築しようとする場合にその履行を義務づけられており、この手続費用は建築物を建築するために不可欠な費用であるから、建築物の取得価額に含まれることは自明であり、また浄化槽は建物附属設備としての「衛生設備」に該当し、その設置費用は建築物の取得価額に含まれる。なお、仮りに浄化槽設置費用二〇五、〇〇〇円を除いて本件貸家住宅の取得価額を計算しても、三・三平方メートル当たり一〇〇、二九〇円となり、その取得価額は一〇〇、〇〇〇円を超えているのであるから、いずれにしても施行令第七条第二項の要件を欠く。

第三、証拠

一、原告

1  甲第一ないし第八号証

2  原告本人

3  乙号各証の成立は認める。

二、被告署長

乙第一号証の一、二、第二号証の一ないし四、第三、第四号証

三、被告ら

甲第七、第八号証の成立は認め、その余の甲号各証の成立は不知。

理由

一、昭和四三年分所得税の更正処分の取消し及び本件裁決の取消しの訴えについて

1  請求原因1の事実及び5のうち本件裁決の理由は当事者間に争いがない。

2  右事実によれば、原告の昭和四三年分の所得税について、被告署長がした更正処分は、原告の修正申告にかかる総所得金額一、四八六、一二九円、税額一七四、五〇〇円を総所得金額一、二四一、九七二円、税額一二一、三〇〇円に減少させるものであるから、原告にとり不利益な処分ではない。

原告は、右更正処分は所得別の内訳において不動産所得の金額を修正申告よりも九八、九一三円増加させているから、不利益な処分に当たると主張する。しかし、右更正処分によつて課税標準及び税額は減少したのであり、不動産所得の金額が増加したからといつて、原告が不利益を受けるとは考えられない。

さらに、原告は右更正処分において税額を減少された事由が直接の原因となつて次年度以降の税額が増加するから、右更正処分は不利益な処分であると主張する。しかし、次年度以降については、当該年度の増額更正処分を違法として争えば足りる(現に原告は昭和四四年ないし昭和四六年分所得税の更正処分の取消しを求めている)から、右主張も採用できない。

3  そうすると、原告には昭和四三年分所得税の更正処分の取消しを求める利益がない。

したがつて右取消しを求める訴えは不適法であり、また右更正処分についての原告の審査請求を却下した被告所長の裁決に違法な点はない。

二、本件更正処分の取消しの訴えについて

1  請求原因2の事実、被告署長主張の昭和四四年ないし昭和四六年分の総所得金額中の事業所得金額、不動産所得金額中の収入金額及び減価償却費を除くその余の必要経費々目の金額、本件更正処分の総所得金額が右主張の総所得金額と同一であることについては、すべて当事者間な争いがない。

2  したがつて本件貸家住宅の減価償却費の算出根拠が唯一の争点である。

そして、被告署長主張3の各事実中(一)、(二)の事実及び(三)のうち本件貸家住宅の床面積が三九五・七八平方メートルであり、原告がその建築につき業者に対し総額一二、二三三、九〇〇円を支払つたことは当事者間に争いがなく、原告本人尋問の結果によつて真正に成立したものと認められる甲第二、第三号証及び右尋問の結果によると、右一二、二三三、九〇〇円の中には、建築確認申請手続費用五〇、〇〇〇円と浄化槽設置費用二〇五、〇〇〇円が含まれていることが認められる。

3  そこで、本件貸家住宅の新築に関し、措置法第一四条第二項の特例の適用があるか否かの点について検討する。

措置法施行令第七条第二項は、右特例が認められる貸家住宅は、その取得価額が三・三平方メートル当たり一〇〇、〇〇〇円以下であるものとする旨定めているところ、原告は、前記一二、二三三、九〇〇円から右建築確認申請費用及び浄化槽設置費用を控除した一一、九七八、九〇〇円が本件貸家住宅の取得価額であり、三・三平方メートル当たりの取得価額は九九、八八二円であると主張する。しかし、本件貸家住宅は新築により取得されたものであるところ、建築確認申請は本件貸家住宅所在地に家屋を建設のために不可欠の手続である(建築基準法第六条)から、その手続費用は家屋の取得価額に含まれると解すべきである。また、施行令第七条第二項は租税特別措置法施行規則(昭和四五年大蔵省令第三二号による改正前のもの)第六条第二項に定める附属設備を家屋から除外しているところ、右規則第六条第二項を同条第一項の規定と対比して考えると「給排水設備、衛生設備」は右附属設備に当らないと解されるから、右浄化槽は家屋に附属する衛生設備として、その設置費用は家屋の取得価額に含まれるものというべきである。そうすると、結局、本件貸家住宅の取得価額は原告が建設業者に支払つた前記一二、二三三、九〇〇円であるから、三・三平方メートル当たりの取得価額は一〇二、〇〇五円余となる。

したがつて、本件貸家住宅については措置法第一四条第二項の規定の適用はないものと解せざるを得ない。

4  原告は、被告署長が本訴において新たに施行令第七条第二項の主張をすることは、本件更正処分の実質的理由の差替えであり、禁反言の原則上からも、許容されないと主張する。

成立に争いがない甲第七号証によれば、本件更正処分に対する審査請求の手続において、被告署長は、本件貸家住宅につき措置法第一四条第二項の適用を否認する理由として、納税者が確定申告書をもつて措置法第三八条の六の規定と同法第一四条第二項の規定を併せて適用を受ける旨表示しているときは同法第三八条の八第二項、第三八条の五第二項により後者の適用を受けることができず、前者を選択したものと解すべきであり、修正申告書によつて右選択を変更することはできないとの二点を表明していることが認められる。しかしながら、課税処分の取消訴訟において処分の実体的違法が争われている場合、その審判の対象は租税債務の存否であつて、それを理由づける事実関係につき、原処分あるいはこれに続く不服審査手続におけると異なる主張をすることは原則として許容されると解すべきである。

また、被告署長が更正処分あるいはこれに続く不服審査手続の段階において、本件貸家住宅が施行令第七条第二項所定の要件を充足している旨積極的に表示したことを窺わせる証拠はないから、訴訟において右要件が欠けている旨を主張しても、禁反言の原則にもとることはない。したがつて、原告の主張は失当というべきである。

5  原告が昭和四三年分所得税につき被告署長に対し措置法第三八条の六と同法第一四条第二項の両規定を適用して譲渡所得及び不動産所得の金額を計算した確定申告書を提出した後、前者の適用を受けないものとして計算した譲渡所得金額を加えた修正申告書を提出したことは当事者間に争いがないから、原告は修正申告書によつて、両規定のうち後者の適用を受ける旨表示したことになる。しかしながら、前記のとおり本件貸家住宅については施行令第七条第二項の要件を欠くため本来措置法第一四条第二項の規定の適用を選択する余地がないのであるから、確定申告書の記載により同法第三八条の六の規定の適用を受けることになつたものを、同法第一四条第二項の規定の適用を受けることに変更することができないことは明らかである。また仮に原告の意思が専ら同法第三八条の六の規定の適用を排除することにあるとしても、確定申告書によつて一旦右規定の適用を受けることにした以上、やむを得ない事情がある場合のほか、修正申告書によつてその適用を受けない旨これを変更することはできないと解すべきであり、原告に右やむを得ない事情があつたことを窺わせる証拠はない。

そして、本件貸家住宅について措置法第三八条の六の規定を適用した場合、その一年分の減価償却額は別紙計算書のとおり二八四、〇四九円となる。

以上によれば、被告署長の本件更正処分には何ら違法な点はない。

三、よつて原告の昭和四三年分所得税の更正処分の取消しを求める訴えを却下し、その余の請求をすべて棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石川恭 裁判官 増井和男 裁判官 米田絹代)

計算書

(土地の取得価額)(建物の取得価額)(買換資産の実際の取得価額)

(1) 5,750,000円+12,233,900円=17,983,900

(買換資産の実際の取得価額)(譲渡価額)(譲渡資産の残存取得費)(譲渡費用)

17,983,900円-7,200,000円+62,504円+200,000円=11,046,404円

(2) <省略>

(3) <省略>

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