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大阪地方裁判所 昭和49年(ワ)2701号 判決 1992年9月22日

原告

全国税関労働組合大阪支部

右代表者支部長

西愛彦

原告(原告番号1)

景井隆次

外六九名

右原告ら訴訟代理人弁護士

宇賀神直

細見茂

鈴木康隆

吉岡良治

原告全国税関労働組合大阪支部訴訟代理人弁護士

財前昌和

青木佳史

被告

右代表者法務大臣

田原隆

右指定代理人

高山浩平

外一〇名

主文

一  被告は、原告全国税関労働組合大阪支部に対し、金一一〇万円及び内金一〇〇万円に対する昭和四九年七月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告番号1ないし8、10ないし55及び57ないし64、66ないし70の各原告に対し、各金一一万円及び内金一〇万円に対する前同日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告長谷川修に対し金一六万五〇〇〇円及び内金一五万円に対する前同日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告長谷川良平、同長谷方真実に対し、各金二万七五〇〇円及び内金二万五〇〇〇円に対する前同日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告清水妙子に対し、金八万二五〇〇円及び内金七万五〇〇〇円に対する前同日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告上野壽美子、同清水淳一郎、同清水昭治に対し、各金九一六六円及び内金八三三三円に対する前同日から支払済みまで年五分の割合による金員を、各支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを一〇分し、その一を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。

五  この判決は、第一、二項に限り仮に執行することができる。

ただし、被告が各原告らに対し、各請求認容元本額相当の金員の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。

事実及び理由

第一申立

一原告ら

1  被告は、原告全国税関労働組合大阪支部に対し、金五五〇万円及び内金五〇〇万円に対する昭和四九年七月三〇日から支払済みまで年五分の金員を、その余の原告らに対し、各原告に対応する別紙債権目録合計額欄記載の各金員及び右各金員から同目録弁護士費用欄記載の各金員を控除した金員に対する前同日から支払済みまで年五分の金員を、各支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二被告

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  担保を条件とする仮執行の免脱宣言

第二事案の概要

大阪税関職員である原告番号1ないし70の各原告(ただし、原告番号9及び65の各原告については各被承継人、原告番号1ないし4、8、9、8、46、51、65の各原告らは既に退職)は、任命権者である大阪税関長から、原告全国税関労働組合大阪支部(以下、原告組合という。)に所属していることを理由に、昇任、昇格及び特別昇給において不当な差別を受け、経済的及び精神的損害を蒙ったとして、原告組合は、大阪税関当局から違法な組織破壊攻撃を受け団結権を侵害されたとして、それぞれ被告に対し、国家賠償法一条一項により、昭和四〇年一月一日から同四九年三月末日まで(以下、本件係争期間という。)に生じた損害の賠償を求めた。

(当事者間に争いのない事実等)

一原告らの身分関係等

1 原告組合は、全国の税関職員で組織され、昭和二二年一一月結成された全国税関労働組合(以下、全税関労組という。)の大阪支部であり、独自の規約、機関を備え自主的活動を行っている団体である。

2 大阪税関には、原告組合とは別に昭和四〇年三月六日結成された大阪税関労働組合(以下、大阪税関労組という。)が存在する。

3 原告番号1ないし8、10ないし64及び66ないし70の各原告は、本件係争期間中大阪税関に勤務し、原告組合に加入していた。

4 原告番号9亡清水弘三(平成三年二月四日死亡)及び原告番号65亡長谷川昌子(昭和六二年六月一〇日死亡)は、本件係争期間中大阪税関に勤務し、原告組合に加入していた。

亡清水弘三は平成三年二月四日死亡し、原告清水妙子(妻)、同上野壽美子(姉)、同清水淳一郎(兄)、同清水昭治(兄)の四名が相続により、権利を承継した。

亡長谷川昌子は昭和六二年六月一〇日死亡し、原告長谷川修(夫・原告番号56)、同長谷川良平(長男)、長谷川真実(長女)の三名が相続により、権利を承継した。

二本件係争期間中の税関職員の昇任、昇格及び昇給制度の概要

1 昇任

(1) 定義

「職員を昇格させること、級別の定めのある官にある職員を上級の官に任ずることまたは職員を法令その他の規定により公の名称の与えられている上位の官職に任命すること」(昭和四三年六月一日人事院事務総長通達任企―三四四〜乙三〇六七)である。

本件における「昇任」は狭義の昇任、すなわち「職員を法令その他の規定により公の名称の与えられている上位の官職に任命すること」を意味する。

(2) 法令等に定められた要件

国家公務員法(以下、国公法という。)三三条一項は「すべて、職員の任用は、この法律及び人事院規則の定めるところにより、その者の受験成績、勤務成績又はその他の能力の実証に基づいて、これを行う」と規定し、これを受けて昇任方法につき定める同法三七条一、二項は「競争試験」又は「当該在職者の従前の勤務実績に基づく選考」によりこれを行うものとしている。

ただし、現在に至るも、「競争試験」は行われておらず、昇任は、すべて人事院規則(以下、人規という。)八―一二第八三条の規定により「選考」により行われている。

「選考」とは、「選考される者の当該官職の職務遂行能力の有無を選考の基準に適合しているかどうかに基づいて判定する」方法で行うとされている(人規八―一二第四四条)。しかし、右基準を定めた同第四五条が同第九〇条一項の規定により効力を持たないので、現在のところ同項により「任命権者(本件では大阪税関長)が選考機関としてその定める基準により行うもの」とされている。

大阪税関には、右基準として明文で定められたものはない。

2 昇格

(1) 定義

「給与制度上、職員の職務等級を同一俸給表の上位の職務等級に変更すること」(人規九―八第二条三項)である。

しかし、職階制が実施されていないため、前記人事院事務総長通達任企―三四四により昇任の一形態として運用されている。

(2) 法令等に定められた要件

人規九―八第二〇条が定める資格要件(昇格させようとする上位の職務等級がその職員の職務に応じたものであること、「等級別資格基準表」に定めのある職務等級に昇格させる場合は定められた資格を有していること、昇格前の職務等級に二年以上在級していること)のほか、勤務成績が特に良好であることが明らかであることを要し(人規九―八〔初任給、昇格、昇給等の基準〕の運用について(通知)・昭和四四年五月一日給実甲三二六〔第二〇条関係1〕)、職務の等級別定数の範囲内で決定される。

3 普通昇格

(1) 定義

「同一職務等級内において、俸給月額を上位に変更すること(ただし、特別昇給を除く。)」(昭和六〇年法律第九七号による改正前の一般職の職員の給与に関する法律〔以下、旧給与法という。〕八条六項)である。

(2) 法令等に定められた要件

職員が一二月を下らない期間(「昇給期間」〜人規九―八第二条五号)を良好な成績で勤務したときは、一号上位の号俸に昇給させることができる(旧給与法八条六項)とされ、右規定による昇給は、昇給させようとする者の勤務成績について、その者の職務について監督する地位にある者の証明を得て行わなければならず(人規九―八第三四条二項)、停職、減給又は戒告の処分を受けた職員、昇給期間の六分の一に相当する期間勤務していない職員は、右勤務成績についての証明が得られないものとして取り扱うものとされている(人規九―八第三四条二項・前記給実甲三二六〔第三四条関係2〕)。

4 特別昇給(以下、特昇と略する場合がある。)

(1) 定義

「職員の勤務成績が特に良好である場合に、昇給期間を短縮して直接上位の号俸へ昇給させること」(旧給与法八条七項・人規九―八第三七条)である。

(2) 法令等で定められた要件

本件に関係する積極的要件は、イ勤務成績が特に優秀であることにより表彰をうけた場合、ロ 勤務評定による勤務実績の評語が上位の段階(勤務成績の評定の手続及び記録に関する総理府令第六条二項本文の規定による)に決定され、かつ、執務に関連してみられた性格、能力及び適正が優秀である場合、ハ ロに該当する職員若しくはこれに準ずる職員が昇格した場合(人規九―八第三七条一項)、消極的要件は、イ 休職中や専従許可期間中の職員、ロ 懲戒処分を受け、当該処分の日から一年を経過しない職員、ハ 勤務しない日が一定数をこえる場合(人規九―八第三八条)とされ、定数枠内(昭和三五年から同四二年までは定員の一〇パーセント、同四三年以降は定員の一五パーセント)で選考される。

三原告番号1以下の原告ら(ただし、番号9および65については各被承継人〜以下、これら原告及び被承継人を総称する場合は原告組合員らという。)の地位、号俸の推移

原告組合員らの本件係争期間中における昇任、昇格、昇給の推移は、別紙「昇任、昇格、昇給及び非違行為一覧表」(以下、原告組合員一覧表という。)の「勤務記録」欄記載のとおりである。

四原告組合員らの処分歴

大阪税関においては、国公法八二条以下が規定する懲戒処分とは別に、税関長が職務上の上司の部下職員に対する指導監督のための具体的措置として訓告、文書による厳重注意、口頭による厳重注意(以下、総称するときは矯正措置という。)を行っている。

大阪税関長が、本件係争期間中に原告組合員らに対し行った懲戒処分、前記訓告、文書による厳重注意は、原告組合員一覧表の「処分等」欄記載のとおりである。

(争点)

一格差の有無(本件係争期間中における原告組合員らとそれ以外の同時期に同資格で入関した非原告組合員〔以下、同期入関者という。〕との間に給与格差は認められるか。)

(原告らの主張)

1  給与格差の存在

本件係争期間中における原告組合員らと同期入関者との間の給与格差は、別表1「等級号俸推移表」(以下、別表1という。)記載のとおりである。

2  昇任、昇格および特昇(以下、昇給等と総称する場合がある。)の推移

昭和四一年から平成元年までの間における原告組合員らと同期入関者との主任相当職、課長補佐相当職及び課長相当職への昇任年、昭和二八年から同五四年までの間における原告組合員らと同期入関者との昇格年と昇格等級及び特別昇給年とその号俸は、別表2「昇任、昇格、特別昇給早見表」(以下、別表2という。)記載のとおりである。

3  被告の対応

被告は、原告らが主張する給与格差の存在(すなわち、同期入関者の等級号俸の推移)につき認否をしていないから、原告らの主張を明らかに争わないものと認めるべきである。

(被告の主張)

1  原告らの主張の非合理性

(1) 同期入関者を比較対象者とすることの非合理性

本件では、差別的取扱いによる給与格差が問題とされているのであるから、比較対象者は、昇給等において原告組合員らと同等に取り扱われるべき地位にある者が選定されなければならない。しかるに、税関長には原告組合員らと同期入関者を同時期に昇給等させる義務はないから、同期入関者を比較対象者とする格差の主張には合理性がない。

(2) 仮に一般的に同期入関者を比較対象者とすることに合理性があるとしても、原告らの主張は、イ 同期入関者は、比較対象となるべき同期、同資格で入関した者全員を網羅していない、ロ 同期入関者を「対象非原告」と「対象外非原告」とに区別するが、右区別に合理的理由があることの立証がない、ハ 本件係争期間の開始時点ですでに同期入関者との間で給与格差が生じていた者が存在する、等の点で合理性を欠く。

2  原告らの立証の不十分性

(1) 被告の対応について

被告は、同期入関者の給与の推移は同職員らの利益保護と人事行政上の適正な運営の確保という二つの理由から国公法上の秘密に該当し、その確保が司法上の要請に優位するとの考えに基づき右給与につき認否を留保しているが、被告においては原告らの格差に関する主張の正確性を争っているのであるから、この点につき擬制自白が成立する余地はない。

(2) 原告らが提出した証拠の評価

原告らが同期入関者に関する等級号俸の推移を立証するものとして提出した証拠は、その大部分が原告らの不確かな調査あるいは推測によるものであり、しかも、原告らは右調査結果につき概括的に正確であると述べるにすぎず、その主張と証拠との具体的関連を説明しようとしないのであるから、原告らの主張が正確なものであるとは到底認めることができない。

二差別意思の有無(大蔵省関税局及び大阪税関当局〔以下、税関当局という。〕に原告組合員らを全税関労組員であることあるいは正当な組合活動をしたこと故に不当に差別する意思は認められるか。)

(原告らの主張)

1  税関当局による全税関労組に対する弾圧、分裂工作

(1)① 全税関労組は、戦後間もなく結成され、昭和三三年五月総評に加盟した後、同三四年には日本国家公務員労働組合共闘会議の結成に参加し、公務員労働組合共闘会議の一翼を担い、組合員の要求に基づき税関当局に対し劣悪な労働条件の改善を要求し、勢力を拡大していった。

② 原告組合においても、昭和三五年六月の日米安全保障条約(以下、安保条約という。)の改定に反対する運動の高揚から青年労働者を中心に、組合運動が活発化し、労働条件改善(人事五原則の確立、超勤手当の平等配分、旅費支給基準の改善、昇格期間の短縮、人員増加等)の成果をあげた。

(2)① 税関当局は、(1)で述べた全税関労組運動を弾圧するため、昭和三四年から同三五年にかけて職場集会等を規制する庁舎管理規則を制定し、同三六年には、労務管理機構の強化策として総務部、管理課制度を発足させ、全税関労組の幹部、積極的活動家に対し、懲戒処分等の攻撃をかけてきた。しかし、全税関労組が右一連の処分攻撃に屈しなかったため、当局はついに全税関労組自体の組織破壊工作に乗り出し、まず、神戸支部に打撃を与えるべく支部長他二名の幹部に対する懲戒免職処分、団交拒否等の弾圧を行い、あげく昭和三八年三月九日に第二組合である神戸税関労働組合を結成させ、引き続き同四一年にかけて、横浜、東京、長崎、大阪、函館、名古屋及び門司の各税関に各税関労働組合(以下、全税関労組という。)を作り、同年九月には税関労働組合連絡協議会を結成させるに至った。

② 大阪税関も、原告組合の役員選挙に対する介入、全税関労組に対する誹謗・中傷を目的とした研修の実施、組合費の引去り禁止、組合費未納者の育成、脱退勧奨、原告組合員に対する不利益取扱いの仄し等により分裂工作を推進した。とくに、昭和三九年九月一八日開催の支署長会議において、横田考査官は全税関労組を誹謗する講話を行い、その後同年末にかけて、支署長、課長補佐、係長等職制の原告組合からの脱退が相次ぎ、同四〇年には大阪税関労組が発足した。

2  全税関労組発足後の差別政策

全税関労組が共産党に支配された当局にとって好ましくない組合であるからこれを弱体化させるべきとの大蔵省関税局全体の方針は、税関労組結成後もますます強化され、以下のとおり不当な差別が行われた。

(1) 当局の内部資料(<書証番号略>として提出〜以下、東京税関文書という。)に示された東京税関の差別政策

東京税関当局は、右関税局の方針の下に、東京税関労組の保護育成を図り、全税関労組に対しては徹底した敵視政策をとった。

① 新入職員の全税関労組からの隔離

「入関式に旧労がビラを配付するから研修教室に入室の際回収したい。」(昭和四二年三月三〇日部長会議議事録)、「新職員は、旧労職員の影響等を考慮して配置する方針である。」、「職場指導官(新入職員に対する)の人選については、各職場の七等級職員を中心に勤務成績、人格、思想等を考慮して行う。」(同年五月一日部長会議議事録)等の発言にみられるとおり、当局は、新入職員が全税関労組あるいは同組合員に接触し、その影響を受けることが同労組の勢力拡大につながることを恐れ、隔離政策を進めた。

② 税関労組の育成による全税関労組の孤立化

「本省は、同盟の線で行くべきだとの意見であれば、誰もがなっとくゆく明快な論理を展開の上打出すべきであって、ただ神戸をたたえ東京を批判する書き方に一言述べておいた。現在の本省指針は余り技術的なことのみ示している旨の批判を述べておいた。」との東京税関長の発言(同年四月一一日部長会議議事録)、「旧労対策には官は懸命にやっているが、もっと大事なことは、新労を強くすることであると官房長に言っておいた。」との東京税関長発言(同年九月一一日幹部会議事録)、「新職員の基礎研修は良い。を追いつめて行くのに効果がある。」との横浜税関長発言(同議事録)にみられるとおり、当局は、税関労組を拡大することが全税関労組の打撃を与える最善の方法であるとの判断の下に、基礎研修を税関労組拡大の場として利用し、これにより新入職員の全税関労組への加入者は皆無となった。

③ 全税関労組のサークル活動等からの排除

「音楽隊は旧労分子の活動の場となってしまったので解散した。」、「新職員の希望調査をしたが、演劇とコーラスをやりたいとの希望が多い。しかし、現在のサークルは旧労分子が中心で活動しているので2部制として新しい演劇、コーラスのサークルを結成させることが必要。」との発言(同年九月二七日幹部会議事録)、「サークル部門の新、旧労の構成比からみてこれを基盤としたレク行事には危険が伴う。具体的にいえば、文化活動については官として積極的にとりくまない(例コーラス、油絵、華道、演劇)」との当局作成文書上の記載(同議事録)、「若年層対策としてレクリーダーには旧労を入れてはいけない。」、「できるだけ排除方法をとるが、二〜三名まぎれこんできた場合はやむを得ないだろう。」との発言(同年八月一六日開催の幹部会議事録)、当局が作成した「職場レクリエーションについて」と題する書面には、東京税関内の各サークル会員の労働組合別の所属人員を調査した表が添付され、レクリエーション行事を行う際の注意として「旧労は安い経費で若年層と知り合う機会を狙っている。旧労は、行事当日思想的言動や労働拡大運動はやらないが、知り合った若年層を後日喫茶店等へ誘い出す。」旨が記載されていることにみられるとおり、当局は、サークル活動等を通じて、全税関労組が影響力を拡大することを嫌悪し、これに介入して同労組を排除する方策を進めた。

また、税関主催の全国水泳大会の東京税関代表の選出についてなされた議論では「本省の考え方では旧労選手でも名選手がいる場合二〜三名入れるのはやむを得ないと考えるとの回答だ。」、「差別をしてもよいのではないか。」等の発言(同年八月一六日開催の幹部会議事録)にみられるとおり、当局主催のレクリエーション行事においても全税関労組員を排除する方針がとられた。

④ 表彰にみられる差別意思

「腹では旧労職員を表彰したくないが、永年勤続者表彰の場合は永年勤務の事実が充足すれば表彰しているから本件だけを除外することは筋が通らぬだろう」(同四三年四月二日幹部会議事録)等の発言は、当局が表彰につき全税関労組員を差別する意思を持っていたことの現れである。

(2) 大阪税関における差別

① 不当配転

Ⅰ 報復人事としての配転

大阪税関労組の結成と前後して、当局からの猛烈な脱退工作がなされ、管理職のほとんどが原告組合を脱退した。その中にあって係長職にありながら脱退に応じなかった原告景井隆次(桜島出張所から舞鶴支署)及び井口(大阪から田辺出張所)に対する報復配転が行われた。

Ⅱ 原告組合員に対する意図的な遠隔地配転

大阪税関では、昭和三四年以来、職員の配転については、イ 住居の移転を伴う異動は事前に本人の承諾を得る、ロ 右異動の場合は二年以内に大阪へ戻す、ハ 異動の時期については、子弟の教育や寒冷地手当を考慮する、ニ 懲罰的異動は行わない、ホ 組合執行委員の異動は本関内にとどめる、とのいわゆる人事五原則に基づく運用がなされていた。

しかるに、当局は、原告組合に打撃を与える目的で右原則を全く無視し、同四〇年七月大阪から遠隔地(富山県伏木、京都府舞鶴、宮津、福井県敦賀、和歌山県下津井等)へ原告組合員一三名(遠隔地配転者の合計一六名)を配転し、続く同四一年七月には原告組合員九名(遠隔地配転者の合計一二名)を配転した(いずれの時期も、原告組合員数は約一三〇名、非原告組合員数は約七六〇名である。)。

② 入寮差別

Ⅰ 大阪税関は、昭和四二年二月独身寮「千船なにわ寮」を開設し、入寮希望者を募った。これに先立ち、当局は、原告組合員を排除する目的で寮管理規則を改悪し、収容可能人員が七〇名以上であり、入寮希望者が七一名(内原告組合員一〇名)であったにもかかわらず、六〇名(内原告組合員二名)のみの入寮を許可し、他の原告組合員の入寮を拒否した。

Ⅱ 入寮を拒否された原告組合員の内、当時原告組合役員であった原告野村左内、同中澄勝時、同古田英夫、同小谷泰典、同稲原寛の五名は、それまで居住していた青葉寮、新生寮にとどまって入寮闘争を続けたが、当局は空室があったにもかかわらず五名の入寮を認めず、同四二年一〇月、三名を舞鶴支署、伏木支署、田辺出張所に、同四三年一〇月、二名を和歌山、石川県七尾へ遠隔地配転した。

③ 原告長谷川修、亡長谷川昌子(原告番号56)に対する配転差別

原告長谷川修は、昭和四〇年七月大阪から伏木支署へ遠隔地配転され、同支署で亡長谷川(旧姓黒川)昌子(同四〇年一二月原告組合に復帰加入)と婚約し、同四三年五月結婚予定であった。にもかかわらず、原告修は、昭和四二年一〇月単独で大阪へ配転され、亡長谷川昌子は結婚後も、原告組合の支援闘争の結果同四四年一〇月大阪富島出張所へ配転されるまで、伏木支署へ留め置かれた。

右長谷川夫婦の扱いを、同じく原告組合員であり婚約中であった土肥久司が富山出張所へ遠隔地配転になりながら原告組合を脱退したため、配転後僅か一年半を経た同年四二年一月という異例の配転により大阪へ復したのと対比すると、当局が原告組合を敵視する意図は明らかである。

④ 勤勉手当の差別支給

大阪税関長は、原告組合員を差別する意図の下に、昭和四三年三月支給された原告小井田以下一〇名の原告組合員の勤勉手当を0.05ケ月分カットし、さらに、原告組合が行ったレクリエーションタイム取り上げ反対闘争に参加したことを理由として、同年一二月支給された原告小井田以下三一名の原告組合員の勤勉手当を0.05ケ月分カットした。

⑤ 宿舎入居差別

当局は、昭和四二年、原告天川昇の新築宿舎への入居申し込みを拒否し、同四五年、原告国分雅治の宿舎入居を認めず非原告組合員を優先して入居させた。

⑥ 年次休暇、特別休暇の不承認

Ⅰ 原告天川は、昭和四二年一〇月五日、組合集会に参加するため年次休暇を申請した(前日に口頭で届け出て承諾を得ていた。)が、所長が、申請書の不備(取得理由の記載がない。)及び直属上司の不在を理由に承諾を拒んだため、やむなく所長に告げて半日の休暇を取ったところ、賃金カットされ、訓告を受けた。

Ⅱ 原告畑千穂子は、昭和四四年五月二三日、二時間の年次休暇を申請したが、「所用のため」との理由記載が不備であるとして承認されなかったため、やむなく、所長に告げて二時間職場を離れたところ、管理職に無断職場離脱として追及され、後日、原告組合の抗議行動により年次休暇の承認自体はなされたものの、上司の命令に従わなかったとして訓告を受けた。

Ⅲ 原告黒杉真三は、昭和四四年一〇月、田辺市から大阪への配転に伴い枚方市へ転入したため、同年一二月施行の総選挙は同市で不在者投票すべく、同月八日、右手続のため、三時間の特別休暇を申請したが承認されず、右手続を終えて出勤したところ、賃金カットされ、訓告を受けた。

⑦ 原告組合員のサークル活動からの排除

Ⅰ 原告組合員であったラグビー部主将の川村洋三は、昭和四一年一月、同人が原告組合に留っていることが同部を運営する障害になるとの理由で原告組合を脱退した。

Ⅱ 常岡貴善は、昭和四二年四月に大阪税関に入関し、以後剣道部部員であったが、昭和四七年二月大阪税関労組を脱退して原告組合に加入した途端、「君の相手をする人物は誰もいないよ」と言われ、同部内で練習相手となる部員がいなくなった。

Ⅲ 原告虫明博子は、昭和二八年大阪税関に入関し、同三〇年ころから卓球部員であったが、大阪税関労組発足後は同部内のただ一人の原告組合員となり、部長から脱退を促され、拒否したところ、同部から事実上排除された。

Ⅳ 原告西愛彦は、昭和四五年三月ころ、同原告ら原告組合員四名及び当時なにわ寮であった佐藤、谷口、清川の三名(いずれも当時大阪税関労組員)、その他非税関職員らとでサッカークラブ「オフサイズ」を結成した(後税関職員二名が加入)。これに対し、当局は、上司を通じ寮生に対し「西らとつきあうな」との圧力をかけ、続いて当時同寮の副管理人であった新井敏男を通じ谷口に対し「寮にサッカー部を作らないか。道具は官で面倒をみるから。」と切り崩し工作を行い、それを拒否すると、突如寮に「寮のサッカー部」を結成し、原告組合員とそれ以外の青年職員との分断を図った。

Ⅴ 原告乾憚は、昭和二八年三月大阪税関に入関し、同時に柔道部に入部し活躍していたが、大阪税関労組が発足したころから三年近くにわたり同部の顧問橋本正義等から執拗な脱退勧告を受け、結局同部員の中で原告組合員は一人という状況になったため、部活動に対する意欲を失い事実上退部させられた。また、原告金谷孝男も、分裂直後から部の選抜選手として指名されなくなる等の差別を受けた。

⑧ 結婚妨害

原告畑(旧姓北山)範子は、昭和四六年大阪税関労組に所属していた畑勉と婚約した。これを知った勉の上司である富島出張所総括審査官町田実近は、同四七年一月一三日、勉の兄を喫茶店に呼び出し、北山範子は原告組合員であり、職場でも評判が悪い等の話をして結婚を妨害した。

⑨ 現認体制の不当・違法性

当局は、原告組合の活動をその監視下に置き、原告組合員のみを不利益に取扱う意図の下に、管理職に対し、原告組合員の執務状況、休憩時間の過ごし方等の動向を細かく監視し、その結果を現認書として書面化し提出することを指示した。

⑩ 新大仏寺における全税関労組対策の職制研修の実施

当局は、昭和四六年一〇月一一日、一二日の両日、伊賀上野市にある新大仏寺において係長職員を集め原告組合対策の研修を行った。右研修は、研修員の選定(原告組合員を部下に有する係長のみ)、研修員を集合させる方法(研修命令、出張命令等の正式な命令を発せず、秘密裡で参加を命ぜられたため、研修員の出勤簿は「年休」、「出張」等扱いが不統一であった。)の点で全く異例であり、その内容も原告組合を誹謗中傷し、係長職員に対し原告組合員に対する当局の敵視政策を徹底させるものであった。

3  全税関労組に対する昇給等についての特別基準の設定

(1) 税関における昇任、昇格及び昇給の法定要件と通常の取扱い

① 昇任

昇任について任命権者(本件では大阪税関長)の定める基準がないため、昇格を伴う昇任の基準は人規九―八第二〇条に定める「必要経験年数」又は「必要在級年数」に限られることになる。昇格を伴わない昇任についても区別する理由はないから、結局昇任についての法定要件は昇格と同じである。この様な要件の下に昇任は年功序列的に運用されている。

② 昇格

昇格の要件は人規九―八第二〇条に尽きる。そして、別表2に記載するとおり原告組合員以外の職員については年功序列的運用がされているのであるから、人規九―八〔初任給、昇格、昇給等の基準〕の運用について(通知)・昭和四四年五月一日給実甲三二六「第二〇条関係」1にいうところの「勤務成績が特に良好であること」とは、普通昇格の要件と同程度の意味しか持たないものというべきである。

③ 普通昇給

定期昇給と呼ばれていることからも明らかなとおり、昇格期間を充たせば客観的に明らかな除外事由のある場合を除いて昇給するのが通例である。

④ 特別昇給

旧給与法八条七項、人規九―八第三七条は、特別昇給の要件として「勤務成績が特に良好である」ことを挙げる。しかし、実際には、特別の場合を除いて一定年数を経れば順次特別昇給する扱いになっている。

⑤ 以上のように、昇任、昇格、昇給に関し、国公法は、成績主義の原則をとり、勤務成績を要件とする通達も出されているが、他方、在級年数や経験年数を要件とする通達も出されているように、その運用実体は年功序列的であり、このことは、官民を問わず終身雇用制が一般的である我が国の雇用形態にあっては、国民及び職員の意識に合致し、その納得を得易いものであるが故に広く支持されている。

右運用実体が一般化しており、同期入関者では本来給与格差はほとんど存在しないはずであるにもかかわらず、原告組合員らと同期入関者との間に前記給与格差が存在すること自体が、当局が原告組合員らを不当に差別していたことの現れである。

(2) 全税関労組員に対する特別基準の設定

税関当局の内部資料(<書証番号略>として提出〜以下、関税局文書という。)によると、税関当局は、全税関労組員を差別する意図の下に、昇給等についての通常の運用に反する以下のとおりの特別の基準を設定していたことが明らかである。

① 上席官への昇任について

関税局文書には、昭和六一年三月一九日開かれた総務部長会議において、棒給表の移行に伴い全税関労組から七級昇格の足掛かりとして上席官への昇任要求が強まるとの見込の下に、「特定職員(全税関労組員に対する差別的呼称)の五〇歳以上の殆どは、資格基準表の要件を満たしており、また、一般職員(全税関労組員以外の職員)の上席官への任用及び職場での上席官の運用実態並びに特定職員の年齢構成等から現状(六〇年、任用六人、占有ポスト九)程度では対内外ともに説明が難しい。」との基本認識に基づき、「仮に特定職員の内欠格条項に該当する者を除く全員を昇格させたとしても占有ポスト数は(全国で)七〇名から八〇名くらいであり、全上席官数の一割にもみたないので上席官任用は可能であるとする」考え方と「一般職員との均衡(上席官未昇任者の存在)上及び特定職員に対する上席官運用の継続性からも少なくとも二六年次を中心とする年齢構成については、上席官昇任にあたって絞りをかけ選考すべきであるとする」考え方との間で議論が交わされたこと、さらに、同年四月一〇日、一一日に開かれた人事課長会議では、右総務部長会議での議論を受け、全税関労組員の上席官昇任問題につき、さらに具体的に「上席官任用についての昇任時の年齢を下げると選考対象者が著しく増加し、八級昇格への期待感が増幅する等から前年度基準(五五歳かつ在級六年)のままで運用することについてはどうか」、「総務部長会議での全員昇任させてはどうかとの考え方を踏まえ、六一年度の任用数は、六〇年度の五割増(九人から一〇人、占有ポスト一五から一六)とすることにしてはどうか。仮に特定職員の年齢構成等からみて更に増やすとした場合、任用数の上限はどの程度が適当か」等の議論がなされたことが記載されている。

右討議内容によると、全税関労組員には、かなり以前から上席官昇任につきそれ以外の職員とは別の基準が設定されていたこと、右基準は、一般職員の上席官昇任の基準と比較して二〇年程度遅いものであったこと、税関当局自体が右特定基準による昇任差別の結果が対内、外的に説明できない状態にまでたち至ったとの認識の下に新基準を設定する意思を有していたことは明らかである。

② 七級昇格について

関税局文書には、前記総務部長会議において「七等級昇格については、七級は従来の四等級でもあり、上席官は基本的には七級であるという職員感情から上席官であれば退職時までには七級に格付けすべきである」との考え方と「一般職員との均衡上(一般の上席官が全て退職時までに七級に格付けされるとは限らない。)から選考を行うべきである。」との考え方が示され、これを受けて、前記人事課長会議では、さらに具体的に「一般職員との均衡上、上席官在任二年以上の者を七級に格付けしてはどうか。この場合上席官昇任の上限年齢はどのように考えるのか」との考え方と「在任期間に関係なく退職一ないし二年前に昇格させることにしてはどうか」との考え方が示されたことが記載されている。

右討議内容もまた、税関当局が、全税関労組員にはそれ以外の職員とは全く別の差別的昇格基準を設定していたことを明らかにしている。

③ 四、五、六級格付けについて

関税局文書によると、前記人事課長会議においては、七級昇格問題が議論されたのと併せて「四、五、六級」についての昇格基準も議論され、「四、五、六級における一般職員と特定職員の昇格時期については、勤務成績が一般職員と比べてそん色のない特定職員は超一選抜として一般の最終選抜に重ね、さらに優れている者は一般の第三選抜に重ねることとすることを確認事項としてよいか。なお、杓子定規に運用するものではないことに留意する。」との議論が記載されている。

右確認事項が、昇格における全税関労組員に対する差別基準の設定であることはいうまでもない。

(3) 昇任、昇格及び特昇の実態

原告組合員らとそれ以外の同期入関者との間で、昇任等につき生じている格差は以下のとおりである。

① 昇任、昇格及び特昇格差の具体例

Ⅰ 昇任

平成元年四月時点において、昭和二四年から同四〇年までに大阪税関に入関した職員の地位(平審査官〔係長相当職〕、上席官〔課長補佐相当職〕、統括官及び八級上席〔課長相当職〕)を比較すると、すべての入関年次において原告組合に所属する職員は、最下級の役職に位置し、同三五年以前に入関し原告組合に所属しない者で上席官以上に昇任していない者は存在せず、同三九年入関者の半数が上席官になっているにもかかわらず、同二六年に入関した原告谷沢憲二、同小井田治郎、亡清水弘三(原告番号9)は未だ上席官にすらなっていなかった。

さらに平成二年四月時点では、昭和二四年から同三六年までに入関しながら上席官に昇任していない職員二三名中原告組合に所属していない者は二名(男女各一名)にすぎず、比較対象を同三九年入関者まで拡大しても上席官に昇任していない職員五三名中原告組合に所属していない者は一一名(男子六名、女子五名)である。

Ⅱ 昇格

全税関労組員全体をみても、昭和四〇年から同四五年までの間五等級から四等級、六等級から五等級への昇格者はいなかった。同四六年からは昇格者が出た(同年五名、同四七年一二名、同四八年六四名、同四九年一〇三名)が、例えば、同四六年、四七年の五等級昇格者の大半が六等級一四号からの昇格であった。

Ⅲ 特昇

特別税関当局者は、大阪税関労組が発足後は従前と大きく異なる運用がなされ、全税関労組員とそれ以外の職員との間の特昇の割合は大きく異なり、原告組合においても、昭和四六年に一名、同四八年に二名が特昇したのみであった。当局が、全税関労組員の特昇者を著しく抑えていることは明白であり、これが給与上の格差の大きな原因となっている。

右格差は、当局が全税関労組員及び原告組合員に対し昇任等につき差別的基準を設定していたことの結果である。

4  以上のとおり、税関当局が原告組合員らに対し全税関労組員であることのみを理由として昇給等につき差別する意図を有していたことは明らかである。

(被告の主張)

1  全税関労組の組合運動と分裂の経過

(1) 全税関労組の組合運動

① 全税関労組は、昭和三三年ころまでは、「人員を増やせ」、「勤評反対」等の職場要求に重点を置き、当局との話合いの場で問題の解決を図るいわば「企業内闘争」を中心とする組合運動を展開していた。しかし、同三四年に至ると、同三五年六月の安保条約改定に反対する運動が広範囲に繰り広げられたことを背景に政治闘争の色彩を強め、さらに、同三六年からは、貿易の自由化、拡大化に伴い税関当局が実施した税関事務処理体制の簡素化、合理化に反対し、次第に過激な闘争を展開するようになった。

② 右全税関労組の方針の下に、原告組合は、昭和三四年一一月二七日、安保条約改定阻止統一行動のデモ及び集会への参加、同三五年六月一五日、早朝から勤務時間内に食い込む職場集会の強行、他の職員の出勤阻止、同年九月一五日、ILO条約批准、国公法改悪反対等を要求するデモ及び集会への参加、同三六年一〇月一二日、政暴法反対統一行動のデモ及び集会への参加等の政治闘争を行い、さらに、同年八月ころから一一月ころにかけて、合理化反対闘争として同年九月四日付けで「貿易港湾関係業者の皆さんに訴える」と題した書面を配付し税関関係業者に対し、当局の輸出入許可書等のコピー方式の採用とこれに伴う計算センターの設置に原告組合とともに反対するようにとの呼び掛け、同年一〇月三日、コピー機の使用を拒否するとの分会代表者会議での決定、同月一六日、富島出張所での計算事務一元化処理の拒否、同年一一月四日から本関輸入部に対する計算センターの設置に反対して、ステッカー貼り、職場大会の開催、一斉定時退庁、昼休みの輸入事務室での職場大会等を行った。

(2) 当局の対応

① 税関当局は、昭和三四年から同三六年にかけ、全税関労組の違法な闘争に対し、同三四年一一月三〇日本部委員長を、同年一二月七日神戸支部長を、それぞれ通関業者に対する虚偽文書の配付により税関の信用を著しく失墜せしめたことを理由に訓告及び普通昇格三ケ月延伸、同三五年七月九日本部書記長以下各支部執行委員二二名を勤務時間内職場集会を指導し、ピケをはったことを理由に減給若しくは戒告処分、同年七月一六日その他一三名を一時間の賃金カット、同三六年五月二二日東京支部長他執行委員九名を勤務時間内職場集会を指導したことを理由に訓告及び普通昇給三ケ月延伸、同年八月一九日神戸支部執行委員を職務執行につき協力を怠ったことを理由に戒告処分、同年一二月一五日同支部長他二名を庁内デモ及び勤務時間内職場集会を指導し、通関業務の処理を妨害したこと等を理由に懲戒免職処分等の処分を行った。

② 大阪税関長も、原告組合が行った前記政治闘争、合理化反対闘争に対し、昭和三五年七月九日、同年六月一五日の職場集会参加者に対し、今回に限り処分は行わないが、今後は処分する旨の警告書を発し、同三六年九月二八日付け大阪税関ニュースにおいて、組合のビラ貼りに対し、後記庁舎管理規則一四条によって許可なく掲示することは許されない旨を全職員に対し注意した。

③ 大阪税関当局は、昭和三三年一月一四日、庁舎の適正な使用及び職場環境の保全等を図るため、「大阪税関庁舎の管理に関する規則」(以下、庁舎管理規則という。)を制定した。右規則の制定が、国有財産たる税関庁舎の行政目的に沿った適正な維持、保存及び運営を図るため適法であることは勿論のこと、右規則を組合活動に適用し、組合活動のための庁舎使用等を許可にかからしめ、これに違反した者を処罰することも権利の濫用にわたらない限り、適法であることは明らかである。

また、大阪税関では昭和三六年から総務部、管理課制度を発足させたが、これは税関業務量の増大に伴う機構、人員の拡充に対応し、業務全般にわたる総合調整機能及び業務運営の円滑さを確保することを目的としたものである。

したがって、いずれも原告組合の弾圧を目的とするものでないことはいうまでもない。

(3) 全税関労組の自壊と税関労組の誕生

① (1)で述べた全税関労組の過激な闘争に対しては一般の組合員から批判の声が上がり、原告組合においても、昭和三九年度の執行委員候補者に対する信任投票において三五パーセントの不信任および白票を生んだ。さらに、同年の定期大会において、全税関労組中央執行部から提案のあった本部組合費の値上げに反対する態度を決定したにも拘らず、全国大会に主席した原告組合執行部を中心とする代議員は、右決定に反し「保留」との態度をとり、結果として右値上げが決定された。原告組合執行部のこのような一般組合員の意向無視の態度は、全税関労組及び原告組合に対する反発を強めさせ、組合費未納問題を引き起こし、脱退者増加の原因となった。組合費未納者が増大したのは、全税関労組及び原告組合執行部が独走したためであって、当局が組合費の引去りを禁止したからではない。

② 神戸税関労組が昭和三八年三月、横浜税関労組が同三九年五月に発足するなかで、原告組合においては分裂を避けるため単位分会から中央執行部あるいは原告執行部の退陣等、全税関労組の刷新を求める活動が活発化した。しかし、原告組合執行部がこれらの批判を無視し、態度を改めなかったため、昭和四〇年二月一二日、元支部執行委員及び分会代表者一一名によって新労組結成の話合いが行われ、同年三月六日原告組合の妨害を排除して大阪税関労組が三〇名の参加を得て結成された。

③ 原告らは、税関当局による原告組合に対する組織破壊工作が行われたと主張するが、右で述べたとおり、原告組合から脱退者が相次ぎ、大阪税関労組が結成されたのは、全税関労組及び原告組合の組合活動のあり方、殊に政治闘争に走りすぎ、職場における諸要求を当局との交渉の場で実現していくことをなおざりにし、過激な行動を続け、職場における人間関係に無益な軋轢を生じさせたこと等、その職員団体本来の趣旨、目的から逸脱した独善的な行動に走り自壊したためであって、断じて当局の攻撃、不当な干渉によるものではない。

2  税関労組発足後における税関当局の対応

(1) 東京税関文書について

① 形式的証拠力及び信憑性の欠如

東京税関文書は、写しを原本とする方式により提出されている。しかし、右写しは、体裁に不自然な点が多々あり、判読不能な部分も多いことから原本を正確に写したものであるかどうかに疑問がある上、原告らの入手経路も不明であるから、形式的証拠力はなく、記述内容も信用性に欠ける。

② 証拠価値の欠如

原告らは、東京税関文書によって大蔵省関税局、東京税関当局の全税関労組に対する敵視、差別政策が明らかであると主張する。しかし、右文書には、東京税関の労務対策を述べたにすぎず大阪税関とは無関係なもの、労働組合の動向に注意を払うとの当局の労務対策上当然の事柄を述べたにすぎないもの、税関業務の公共性を正しく認識せず、正当な組合活動の範囲を逸脱し正常な業務運営を阻害する非違行為を繰り返す職員団体に対するできるかぎりの対策とともに他の職員に対する悪影響排除の方策を検討し、もって業務運営の正常化と労使関係の正常化等を図ることを論じたもの以外はない。原告らの主張は、右文書の記述内容を正解せず、或は故意に歪曲した牽強付会のものである。

(2) 大阪税関の対応

① 配転について

Ⅰ 大阪税関は、兵庫県を除く近畿二府三県(伊丹市を含む。)及び北陸三県を管轄し多くの支署を有していること及び昭和四〇年代は地方港湾の整備に伴いこれら支署の業務量も年々増大していたことから、多くの職員がその希望に添わないながらも遠隔地支署に勤務せざるを得なかった。当然のことながら、遠隔地支署に配転されたのは原告組合員のみではない。

Ⅱ 配転に当たっては、当該職員の知識、経験、能力、勤務地歴、配転前勤務地における勤務成績、配転先の勤務内容、他の職員との均衡が考慮されるほか、当該職員を現在の職場に置いたままでは、その職場における公務の能率的運営が阻害されると認められる事由があれば、任命権者は配転により当該職員をその職場から排除し、もって公務の能率的運営の維持、回復を図ることも考慮の対象になるのであるから、これらの点につき何ら具体的に明らかにすることなく、単に遠隔地配転者中に原告組合員の占める割合が高いとの一事をもって、差別を目的とする不当な配転であるということはできない。

② 入寮問題について

当局が、原告野村ら五名の入寮を許可しなかったのは、同原告らが寮の自治を要求して寮管理規制の制定に強く反対し、かつ、施設管理規則に違反し公務秩序を乱す数多くの非違行為を重ねていたため、寮管理規則六条三項の「税関職員としての品位を保持し、共同生活に適する者」に当たらないことが明らかと判断したためであり、原告組合員に対する差別によるものではない(原告青木亨純及び当時原告組合員であった桜井は入寮が許可され、他方非原告組合員二名は許可されていない。)。同原告らがその後行った入寮闘争に正当な理由はなく、したがって、同原告らに対する配転が正当な組合活動を制約する意図によるものでないことはいうまでもない。

③ 原告長谷川問題について

職員の配置は組織全体の必要性に応じて決せられ、当該職員の私的希望が叶うわけではないから夫婦職員の同居は絶対的な原則ではない。土肥久司の配転は、時期的に本人の希望に反するものであったから(土肥は早期に大阪へ配置換えになることを希望していたわけではない。)、原告組合を脱退したことの報奨でないことは明らかである。

④ 勤勉手当のカットについて

勤勉手当は、「職員の期間率に成績率を乗じて得た割合により支給する。」と定められ(人規九―四〇第九条)、成績率は「各庁の長が、当該職員の勤務評定記録書又は勤務成績を判定するに足りると認められる事実を考慮して行う」旨が規定されている(昭和三八年一二月二〇日付給実甲第二二〇号)。したがって、非違行為を繰り返す原告組合員らの成績率を他の職員に比べて低く査定することは当然であり、正当な組合活動を抑圧する意図によるものでないことはいうまでもない。

⑤ 宿舎問題について

宿舎への入居者の決定は、希望者の職種、等級号俸、家族状況等の諸事情を勘案して行われるものである上、当時の大阪税関の宿舎事情は十分なものではなく、希望どおりに入居できないことは何も原告組合員に限ったことではなかった。原告天川、同国分が入寮できなかったのは、原告組合員であることを理由とする差別ではない。

⑥ 年次休暇、特別休暇の不承認について

Ⅰ 原告天川に対し桜島出張所長がなした年次休暇の不承認は、業務に支障がでることを理由とする正当なものであり、不承認にもかかわらず、職場集会に参加し、職場復帰命令に従わなかった原告天川に対する賃金カット、訓告は当然の措置である。

Ⅱ 原告畑千穂子の年次休暇が不承認となったのは、その申請書の理由記載が当時の税関長通達に反していたためである。不承認となったにもかかわらず勤務時間中みだりに職場を離れた原告畑を訓告としたのは当然の措置である。

Ⅲ 原告黒杉に対する特別休暇の不承認が、当局の正当な行為であったことは、人事院のなした行政措置要求に対する判定により明らかである。

以上のとおり、年次休暇等の不承認は、いずれも正当な理由に基づくものであり、原告組合員らを敵視したものではない。

⑦ サークル活動について

Ⅰ 川村洋三が、原告組合を脱退したのは、ラグビー部の中に原告組合員と大阪税関労組員がいる現状において、中立の立場にあることが主将として同部を運営するうえで得策と考えたからである。当局が同部から原告組合員を排除する意図などなかったことは、同部に原告組合員らがおり、特に原告宮島義成が昭和四四年から主将をしていたことからも明らかである。

Ⅱ 常岡貴善が剣道部において練習相手を失ったのは、他の部員と非協調的で練習にも不熱心であったからである。そもそも、剣道部員の発言は個人的見解であり、税関長ないし当局の意思とは何ら関係のないものである。

Ⅲ 原告虫明に対する原告組合脱退の勧めは、部長の上司としての個人的見解であり、税関長ないし当局の組合差別意思に関連づけられるものではない。

Ⅳ 新井が谷口に原告主張のような発言をした事実はない。「寮のサッカー部」は寮生の自発的意思によるものであり、新井はこれを側面から援助したにすぎない。もちろん、当局に原告西らの活動に介入する意図はなかった。

Ⅴ 橋本正義の原告乾に対する原告組合からの脱退勧告は、原告組合の組合活動に批判的見解を持つ橋本の好意に基づく個人的忠告というべきであって強要といえるようなものではなく、もとより税関長の差別意思を推認する根拠となり得るものではない。また、原告金谷の件は単に同原告が柔道の練習をしなくなったことの反映であるにすぎない。

⑧ 結婚妨害について

町田実近は、当時原告畑勉、原告畑(旧姓北山)範子両名の上司であり、かつ大阪税関のカウンセラーであったものであるが、この件につき「税関の生活指導員の立場から、結核にかかったことのある畑の健康を心配して結婚のことについて兄と話したのであって、結婚介入や組合攻撃など絶対にやっていない。」と述べているところであるし、そもそも右の件が当局の方針に基づくものであることを窺わせる事情はなく、町田の個人的発意によるものと認めるのが相当であって、税関長ないし当局の差別意思と関連づけられるものではない。

⑨ 現認書の作成について

公務員の服務上の義務に違反する行為は、組合活動であっても懲戒処分の対象となり、また、当該職員の勤務成績、能力、資質等を判断する上で重要な事実であるから、当該職員の上司が、部下の右違反行為を具体的、かつ正確に把握し、その行為の中止等の指示、命令を発し、その経過を書面化して自己の上司に報告することは職責上当然の行為である。当局は、原告組合員についてのみ現認書等の作成を命じたわけではなく、原告組合員らについて多数の現認書等が作成されているのは、むしろ原告組合員らが多数の非違行為をなしたことの結果であるにすぎず、これをもって、当局が正当な組合活動を制約する意図を有していたことになるはずはない。

⑩ 新大仏寺における研修について

右研修は、人事問題、庁舎管理規則、服務規律等に関し、管理職の心構えを研修するため開かれたもので、原告組合に対する敵視政策の徹底を目的とするものではない。仮に、右研修が原告組合対策を目的とするものであったとしても、それは当時原告組合が正当な活動の範囲を超えた非違行為を繰り返していたからであり、このような対策の結果、原告組合の活動が一定限度で制約されることになったとしても、不当な制約とはなり得ず、正当な組合活動に対する弾圧を意図するものとはいえないから、税関長ないし当局の差別意図を示すものではない。

3  税関当局による給与差別の不存在

(1) 昇任、昇格及び昇給制度について

① 税関長の裁量権

いつ、どの職員を昇任、昇格、昇給させるかは、任命権者である税関長の広範な裁量に委ねられている。

Ⅰ 昇任

昇任の要件等を定めた法令、規則は存在しない。税関長は、当該職員の経歴、学歴、資質、執務能力、人格、見識及び勤務成績を総合的に評価し、組織全体の運営方針を考慮した上、昇任枠の範囲内で最も適任の職員を昇任させている。

Ⅱ 昇格

旧給与法及び人規の定める昇格要件は、昇格に必要な資格要件にすぎない。税関長は、右要件を充足し、かつ、勤務実績、執務に関連する性格、能力及び適性等の総合的評価という意味での勤務成績が良好であることの明らかな職員の中から、昇格させようとする等級の職務内容や複雑、困難及び責任度等を勘案して、昇格させている。

Ⅲ 普通昇格

任命権者は、法定された普通昇格の要件を備えた職員をその裁量により昇格させることができるというのが旧給与法の趣旨であるから、税関長は、右要件を備えた職員を裁量により昇給させている。

Ⅳ 特別昇給

特別昇給は、勤務成績の特に良好な職員を他の職員と区別し給与上有利に処遇する制度である。したがって、税関長は、法定の積極的要件に該当し、かつ、消極的要件に該当しない職員の中から、職員の勤務実績、執務能力、執務に関連する性格及び適性等を総合的に評価し、定数枠の範囲内で特別昇給する職員を選んでいる。

② 格差は差別意思を現すものではない

年功序列的運用がなされていることが否定できないとしても、法律上成績主義、能力主義が定められこれに合理性があることはいうまでもないから、そのいずれを重視するかは組織の管理運営上の視点に立ち、税関長の裁量に属する事項である。したがって、原告職員らと同期入関者との間に仮に給与格差があったとしても、それが税関長の不当な差別意思を示すものではないことは明らかである。

(2) 関税局文書について

① 形式的証拠力及び信憑性の欠如

関税局文書は、東京税関文書と同様、形式的証拠力に欠け記述内容も信憑性を欠くものである。殊に、「四、五、六級格付け」に関する記述部分は、その文書の置かれた位置、筆跡、内容からみて偽造文書である疑いが濃厚である。

② 証拠価値の欠如

上席官昇任及び七級格付けに関する部分は、原告らの主張によっても昭和六一年三月一九日に開催された総務部長会議における討議内容を記述したものというのであり、これをもって、直ちに本件係争期間中の差別意思の存在と関連づけることはできないのは自明である。

(3) 全体的格差から差別意思を推認することの不当性

仮に、原告組合員ないし全税関労組員全体と他の職員全体との間に、原告らが主張するような昇任、昇格及び特昇における格差が存在するとしても、全税関労組員全体と他の職員全体との間に勤務成績等に差異がないことが立証されない限り、右格差をもって差別意思の存在を推認することはできない。

三因果関係(原告組合員らと同期入関者の給与格差は、税関当局の差別意思に基づくものと認められるか。)

(原告らの主張)

1  原告組合員らの勤務成績と出勤状況

(1) 勤務成績

原告ら作成の各陳述書及び原告各本人尋問の結果は、原告組合員らの勤務成績が他の職員と比較して劣るものではないことを明らかにしており、その供述は信用できる。

これに対し、被告は本件訴訟において約三〇〇〇点にものぼる膨大な現認書を提出しているにもかかわらず、組合活動を理由とする以外に勤務成績が不良であることを示す証拠を提出し得ない。このことは、原告組合員らの勤務成績が決して他に劣後するものでないことを雄弁に物語っている。

(2) 出勤状況

① 原告組合員らの出勤状況が他の職員と比較して悪いことを示す証拠は全くない。

② 原告らの欠勤の多くは年次休暇の取得と病休である。年次休暇を取得したからといって非難されるいわれはない。病休については、一定期間を超えた場合に、特昇の除外事由、昇給延伸事由となるのみであり、それに至らない場合に勤務成績評価の資料とすることは許されない。

(3) 以上のとおり、税関当局の全税関労組及び原告組合に対する不当な差別意思の他に原告組合員らと同期入関者との給与格差を説明できる根拠はない。

2  非違行為・出勤状況を理由とする差別合理化の不当性

(1) 訴訟上の信義則違反、時機に遅れた主張、立証

① 被告は、本訴が提起された後六年余り経過した第二五回口頭弁論期日において、被告組合員らと同期入関者間の給与格差は、原告組合員らの非違行為に由来するとの主張をなし、第三三回口頭弁論期日以降非違行為現認報告書(<書証番号略>)を提出し、第八一回及び八二回口頭弁論期日において、原告組合員らの出勤簿(<書証番号略>)を提出した。これらは、時機に遅れた攻撃防禦方法であるから却下されるべきである。

② さらに、右現認報告書の中には非原告職員の氏名記載部分を墨で塗り潰したものがある。このような文書は証拠能力を欠くか、そうでないとしても信義則上提出を許されないものである。

(2) 組合活動を非違行為とする不当性

被告が主張する非違行為は、犯罪行為に関するもの四件及び執務怠慢ないし関係業者からの借財等によって勤務成績が良好であるとの証明が得られなかったとするもの二例を除く圧倒的大多数が組合活動に関するものである。そもそも非違行為として右のとおり職場における勤務成績とは別の組合活動しか主張できなかったことこそ、被告の強弁にもかかわらず、原告組合員らの給与格差が被告の不当な差別意思によるものであることを露にしている。

(3) 原告組合員の活動は非違行為ではない

被告が非違行為としてあげる原告組合及び原告組合員の活動は、すべて、当局が全税関労組に対して加えてきた多種多用な卑劣極る組合破壊攻撃に対し、原告組合員の生活と権利と人間としての尊厳を守り、原告組合の労働組合としての存立と組合活動の権利を守るために行われたものである。このような活動をもって非違行為とすることは、税関の職場における労働組合の存在と運動を完全に否定するに等しい。

① 職場集会等

企業内組合の特質から、憲法二八条の団結権、団体行動権は一定の範囲における施設利用権を含み、国の庁舎管理権は、右団結権等により一定の制約を課されるから、当局は、職員が組合活動のため、庁舎等を利用することを一定の範囲内で受忍すべき義務がある。しかも、原告組合は、庁舎管理規則の制定に反対し、組合活動に適用しないとの合意を当局との間で取り付け、分裂までは、その合意は守られていた。しかるに、当局は、分裂以後原告組合及び原告組合員の活動を抑圧する目的で右規則を濫用した。したがって、原告組合員らの行為を非違行為とすることは明らかに不当である。

② リボン・プレート闘争

原告組合員らは、その時々における切実な要求を記載したプレートを着用し、机上に円柱を置いた。右活動は、当局に対する示威行動であると共に、職場内外に対し運動に対する理解と共感を求めることを目的とし、何ら具体的に執務を妨げるものではない。殊に、本件係争期間中には、裁判例の大勢も人事院の判定も右闘争を違法とは解していなかったのであるから、これを非違行為とした当局の見解は首肯できない。

③ 税関長に対する職場交渉

当局は、原告組合が団体交渉を求めても、予備交渉での議題の一致、交渉人員の制限、団体交渉すべき議題ではないなどと称して、これに応じなかった。かような状況下では、集団抗議も、強く面会を求めることも、労働組合として必要な行動であって非違行為ではない。

④ 組合掲示板への文書の掲示

組合掲示板への文書掲示は、組合の情宣活動の根幹をなすものであり、庁舎管理規則においてさえ、事前許可を要しない事項になっている。被告は、掲示文書の中にストライキを煽る違法なものや内閣打倒を呼び掛ける政治目的を有するものがあると主張するが、前者は現実かつ具体的にストライキをそそのかし、煽る意義や効果が全くないものであり、後者は、文書の中の片言雙句を捉えた言い掛かりである。これを非違行為とするのは当局のためにする議論である。

(4) 非違行為から格差は生じない

被告は、給与格差は原告組合員らの非違行為により生じたと主張する。しかし、原告組合員らの中には、非違行為があり、矯正措置まで受けた直後に昇任、昇格、特別昇給した者、矯正措置はおろか非違行為も全くないのに特別昇給しない者もいることからすると、非違行為と給与格差との間には因果関係はない。

そもそも、当局が、本訴提起以前の原告組合員らの度重なる差別是正要求に対し、非違行為を格差の理由として主張したことはなく、右主張は、裁判所が第二四回口頭弁論期日において被告に対してなした「本件原告らに対する昇任、昇格、特昇につき、原告主張のとおりの格差があるとした場合、その格差が合理性のあるものであるとの主張を次回までに準備せよ。」との釈明処分を受けてやおらなされてきたものであり、これが格差の理由であるとする主張は全くのこじつけである。

(被告の主張)

1  時機に遅れた攻撃防禦方法等の主張に対して

(1) 被告の主張及び立証(現認書等の提出)は、原告が未だ勤務成績等についての具体的主張をなさない段階で、裁判長の訴訟指揮を踏まえ事案の真相を明らかにするため行われたものであり、このため訴訟の完結が遅延したものともいえないから時機に遅れた攻撃防禦方法でないことは明らかである。

また、出勤簿は、直ちに取調べが可能な書証であり、それ自体については原告らの特段の反証を必要とするものではないから、その提出が訴訟の完結を遅延させるものとはいえない。

(2) 被告が現認書を書証として提出するにあたり一部を消去したのは、第三者のプライバシーの保護と人事管理上の秘密保護のために要請される守秘義務を尽くすためであり、右文書を原本として提出する限りその証拠能力が認められるのはもちろん、何ら信義則上の問題が生ずる余地はない。

2  非違行為におけるマイナス事情を勤務成績との関係

(1) 税関業務の特質と原告組合の活動

税関における勤務評定は、当該職員の勤務実績のほか、執務に関連する性格、能力、適性その他人事のため必要な事項を評価、記録し、将来、当該職員に配分すべき職務の種類、権限と責任の大小その他の人事上の処遇決定の参考に供することを目的とするものであるから、税関職員に対する勤務評定においては、当該職員の執務遂行に関わる能力等のみならず、より広く、行政運営、組織運営全般に関わる、公務の円滑適正な運営、職場における良好な人間関係、職場秩序、服務規律の維持、公務に対する国民の信用保持等に対する貢献の実績やこれに関わる性格、能力、適性が評価の対象となる。

ところで、税関職員は、全体の奉仕者として、これにふさわしい人格、見識を保持し、国家行政に対する国民の信頼を確保するよう勤め、職場の秩序維持にも貢献すべきことが要請されている国家公務員の中でも、特に、国の玄関口において、輸出入を規制し、国民の健康及び安全に寄与するという極めて公共性の高い職務を担当しているのであるから、公正、適性かつ円滑な業務運営の確保と職場秩序の維持に貢献することがとりわけ強く要請されているのであり、その貢献度が勤務成績により強く反映するのは当然である。

原告組合の活動は、後述するとおり、税関業務の正常な運営を妨害し、税関業務の公益性、中立性に対する国民の信用を失墜させ、税関あるいは税関職員全体の名誉を傷付け、公務員の職務に専念すべき義務に違反し、上司の命令に従う義務に違反し、職場規律、服務秩序を乱すなど、税関の行政運営、組織全般に著しく支障を生ぜしめる行為である。原告組合員らは、例外なく本件係争期間中、一貫して、原告組合の過激かつ不当な活動方針及びこれに基づく組織的、集団的非違行為を支持していたのであるから、仮に原告組合員ら各自が、その職務の遂行において優れていた面を有していたとしても、前記税関業務の特質からみて、組合活動が非違行為として勤務成績上マイナスに扱われ、人事上不利に処遇される要因となるのは当然である。

(2) 原告組合による組織的、集団的違法活動について

原告組合は、本件係争期間中、その過激かつ不当な闘争方針に基づき、組織的、集団的非違行為を反復継続し、税関業務の正常な運営を阻害し、職場秩序、職場規律を破壊し、税関業務に対する国民の信用を低下せしめ、税関及び税関職員全体の名誉を失墜させた。

① 人権侵害行為

原告組合員は、昇任及び昇格において不当に差別されたとして、昭和四六年三月一六日、税関長と総務部長の私宅に抗議に赴き、面会を拒否した税関長に対し、扉をたたいた後ステッカーを貼る等の非常識な抗議行動を行い、また、昭和四七年二月ころ、原告らのいう結婚妨害問題に抗議して、原告組合の指示の下に、二回に渡り、町田の居住している団地の約一〇〇〇戸にビラを配付した。これらの行為がいかなる意味でも正当な組合活動といえないことは明らかである。

② 税関記念日行事に対する妨害行為

大阪税関は、昭和四七年が創立一〇〇周年に当たることから、盛大な記念行事を予定していた。しかるに、原告組合が、「当局の不法行為を告発する」ためと称して、右記念式典の挙行を阻止することを目標に熾烈な抗議行動を繰り広げたため、当局は混乱をおそれ、やむなく記念行事を中止せざるを得なかった。原告組合の右行為は、税関の社会的信用を大きく傷つけるほか、税関の業務を妨害する重大な非違行為であることは明らかである。

③ ストライキ実行行為

原告組合員は、昭和四八年四月二七日、国公共闘及び全税関労組独自の要求を掲げて、午前八時三〇分から同九時一〇分までの出勤猶予時間内のストライキを行った。いうまでもなく、公務員の争議行為は国公法に違反し処分の対象となる。

(3) 組合活動に係る非違行為が正当な行為であるとの原告らの主張に対して

① 庁舎管理規則違反

Ⅰ 原告組合員らは、本件係争期間中、原告組合の闘争方針に基づき、執行部の指揮の下、再三再四、大阪税関本関等での各庁舎建物若しくは敷地内で、庁舎管理権者の許可を受けないで、多数者の集団による無許可の職場集会や座り込み行動をし、また、大阪税関総務部総務課等において、庁舎内で多数者の集団による抗議、税関長らに対する面会の強要、庁舎内でのデモ等をし、庁舎管理規則に違反し、これに対する当局の中止命令等にも従わず、他の職員の執務を妨害した。

Ⅱ 憲法二八条が、職員団体の活動のためであるからといって当然に庁舎管理権を排除して国の施設を自由に利用し得ることまで認めたものでないことは明らかであって、職員団体といえども、その本来の用途、目的を妨げない限度において許可を得て同施設を使用できるにすぎない。したがって、原告組合の組合活動であるからといって、庁舎管理者の許可を得ることなく行われた集会等が正当な組合活動といえないことは当然であり、これに対し庁舎管理規則を適用したことは何ら不当ではない。なお、大阪税関では、原告組合が分裂する前である昭和三六年九月当時から組合活動に対し庁舎管理規則を適用し、違反行為を禁止してきた。

② 職務専念義務違反(リボン・プレート闘争等)

Ⅰ 原告組合員らは、①と同様、再三再四、原告組合のスローガン、要求事項等を記したリボン、プレート、腕章等を着衣につけて勤務し、あるいは原告組合のスローガン、要求事項等を記した円柱を机上に立てて勤務し、これらの取り外し、撤去を命じた上司の命令に従わず、かえって憤激して抗議行動に出た。

Ⅱⅰ 勤務時間中に組合活動としてプレート等を着用する行為は、当該職員の精神的活動の面からみて注意力のすべてを職務の遂行に向けるのを妨げるのみならず、職場内に特殊な雰囲気を醸し出すことにより他の職員がその注意力を職務に集中することを妨げるおそれがあるから、職務専念義務に違反することは明らかである。

ⅱ 本件係争期間においても、プレート闘争を違法とする公的見解及び裁判例は多数存在したし、一時期これを違法でないとする裁判例等があったとしても、右期間中からこれを違法であるとしていた大阪税関当局の判断とこれに基づく対応の正当性は、その後確立された司法判断により承認されている。

③ 掲示板への違反文書の掲示

Ⅰ 原告組合員らは、①と同様、再三再四、ストライキを煽る内容の文書あるいは内閣打倒を標ぼうした内容の違法文書を大阪税関本関等の原告組合掲示板に掲示した。

Ⅱ 組合掲示板への組合文書の掲示については当局の事前許可は不要となっている。しかし、行政官庁ないし公務員の政治的中立性につき疑いを生ずるおそれのあるもの、その他違法にわたるおそれのあるもの、庁舎管理上不適当であると認められるものについては管理者等がその撤去を命じ又は自ら撤去できる。

ストライキ宣言文書についていえば、当該文書の掲示がこれをそそのかし若しくは煽るものかどうかは、意図及びそれが実行されたか否かとは無関係に客観的に判断されるべきものであり、内閣打倒等を呼び掛ける文書についていえば、政治目的を有する文書かどうかは政治目的のためになされることまでを要するものではないから、右いずれの文書の掲示も撤去を命ぜられるべきものであることはいうまでもない。

(4) 原告組合員ら各自がなした非違行為の内容は、原告組合員一覧表の「非違行為」欄記載の、これに対する懲戒処分、矯正措置の経過は同表の「処分等」欄記載の、とおりである。

先にみたとおり、右各非違行為は、いずれも、勤務時間及び職場の内外を問わず、法令、規則等を無視し、その都度行われた上司の注意や命令にも従わなかったものであり、職場秩序を混乱させ、効率的な税関業務の運営を阻害したものであることは明らかであるほか、国民全体の奉仕者たる国家公務員の自覚を欠いたものということができるから、これらが勤務成績の評価においてマイナスの影響を及ぼす事情であることは当然である。

3  出勤状況と勤務成績

(1) 現行人事制度が成績主義を採る以上、病気休暇による出勤状況も勤務評定の対象となることは承認されるべきである。また、年次休暇に関しても、法令上、病気や災害等の真にやむを得ない場合を除き所属長の事前承認が必要と規定されていることからすると、常時、休暇の事後申請を繰り返すとか、一時間単位等の休暇を当日の電話一本で取得し、仕事に遅れてくることが多いとか、仕事中に中退、早退することが度重なれば、勤務評定において、成績良好との評価が得られないのは当然のことである。

(2) 原告組合員らの出勤簿によると、本件係争期間中、原告組合員らの出勤状況が良好であったとは到底いい難い。原告組合員らの中には、勤務時間中に無断で職場を離脱し、上司の職場復帰命令に従わないため欠勤と判断され、また、出勤簿整理時間(午前八時三〇分が始業時間であるが、同九時一〇分までは出勤簿整理時間として、この間に出勤簿に押捺すれば遅刻扱いとしないとの慣行的取扱いがなされる時間)内は年次休暇の承認は不要であるとして、所定の手続を履践しなかったため欠勤と判断され、賃金カットされた者が多数いる。

4  非違行為と昇格等との間に因果関係がないとの主張に対して

(1) 昇給等の関係で重要視されるのは、非違行為に親和的な意識、性格傾向、行動傾向や公務員の基本的義務に対する認識の欠如、服務に関連する反規範的態度等の面であり、非違行為はその徴憑としての意味を持つにすぎないこと、また、非違行為に関わるマイナス事情は、昇給等につき考慮される諸般の事情のうちの一つであるにすぎず、在職年数、在級年数等のほか、原告組合員らの勤務成績におけるプラス事情も考慮し、それ以外の人事政策上の諸要請をも勘案して総合的に判断されることからすると、非違行為の有無、時期、回数等と昇給等との間に表面上直接的な関連性がないとしても何ら異とするに足りるものではない。

(2) そもそも、被告には原告組合員らの非違行為と給与格差との因果関係について主張、立証する責任はない。すなわち、原告らとしては、税関長に差別意思があったことを主張、立証しただけでは足りないのであって、差別意思と右格差との因果関係を個別的に主張、立証しなければならない。そのためには、非違行為が昇給等において同期入関者よりも不利に取り扱われるべき事情でないことを論証しなければならないのであり、原告らが非違行為と右格差との間に因果関係がないことをどれ程強調してみても、それは差別意思と右格差との因果関係を論証したことにはならないというべきである。

5  以上のとおり、仮に原告組合員らと同期入関者との間に給与格差があったとしても、原告組合員らに勤務成績上マイナスに評価すべき非違行為が存在することが明らかなのであるから、右格差が税関長の差別意思に基づくものであるとは到底認められない。

四違法性(原告組合員らの法的地位と税関長の裁量権に鑑み給与格差の発生は不法行為となるか)

(原告らの主張)

1  原告組合員らの昇任、昇格、特昇に関する法的地位

原告組合員らは、昇任、昇格、特昇に関し、原告組合に所属し、その組合活動をしたことを理由として他の職員と差別されず、平等に取り扱われるべき法的地位を有する(国公法二七条、一〇八条の七)から、他の職員との比較において適性な時期(すなわち、差別がなかったであれば昇給等したであろう時期)に昇任、昇格、特昇を受けるべき期待権を有し、右期待は法的保護に値する。

2  人事裁量権の濫用

大阪税関長は、人事権に基づき職員の昇任、昇格、特昇を決定する裁量権を有するが、右権限も1で述べた国公法の制約の下で行使されなければならないというべきである。したがって、原告組合員らに対し、原告組合に所属し、その組合活動を理由として給与差別を行うことが、裁量権の濫用として違法となることは明らかである。

(被告の主張)

1  法律上保護すべき利益の不存在

原告組合員らは、法令上、昇任、昇格、昇給を請求する権利を有しないから、原告組合員らが、昇給等に関して有する期待ないし利益は、単なる主観的希望、期待にすぎず、法律上保護すべき利益に値しない。

2  大阪税関長の作為義務の不存在

大阪税関長は、職員の昇任、昇格、特昇に関し、広範な裁量権を有しており、法令上はもとより慣行上も特定の職員を特定の時期に昇給等させるべき義務はない。したがって、原告組合員らを特定の時期に昇給等させなかったとしても何らの義務違反はなく、違法ではない。

3  裁量権濫用の不存在

大阪税関長が裁量権を濫用した、すなわち、原告組合員らを昇任、昇格、特昇につき差別的に取り扱ったというためには、原告らは、特定の時期において、原告組合員らが、在職年数、経験年数、在級年数のほか、勤務成績においても原告組合に所属しない職員と同等であること、その時期に右原告組合に所属しない職員が昇給等したのに原告組合員らはしなかったことの二つを個別具体的に主張、立証する必要がある。本件において、右主張、立証はなされていない。

したがって、大阪税関長が裁量権を濫用したとはいえない。

五損害

(原告らの主張)

1  本件係争期間中の給与相当損害

不法行為訴訟において、原告は、損害の事実のみならず、損害額についても主張、立証することが要求される。しかし、侵害態様や被侵害利益の種類によっては、損害額を立証することが困難な場合があり、そのような場合にも厳格な立証を要求することは被害者の救済が不十分になる。本件のように、税関長による差別がなければ、原告組合員ら各自が得られたであろう給与額は、同期入関者の昇任、昇格、特昇の状況の平均ないし最低を資料として、差別がなければあり得た基準を設定することにより、算定することは十分合理的である。

(1) 原告組合員らの本件係争期間中の昇格、特昇の基準設定

原告組合員ら各自は、遅くとも、大阪税関長の給与差別がなければ、別表1の基準コースのとおり昇格、特昇し得た。

同表の最低コースは、原告組合員ら各自と同期、同資格で入関した者の中で、昭和四〇年一月一日の等級号俸の最低のものを始期とし、その後は、特別の事情で昇格、特昇が遅れた者を除く一群を対象に最も昇格、特昇の遅い時点を検討して設定したものであり、基準コースは、各原告組合員ら毎に特段の事情を考慮し、必要な調整を加えて設定したものである(したがって、特段の事情がなければ、最低コースが基準コースとなる。)

(2) 原告組合員ら各自の具体的損害額

原告組合員らの各自の具体的損害額は、現実に受けた給与額と基準コースによって算定した給与額との差額である。

① 棒給

原告組合員ら各自が現実に支給された棒給と基準コースによって算定した棒給との差額は、別表3の月間差額欄記載のとおりである。

② 諸手当

Ⅰ 暫定手当・調整手当

ⅰ 昭和四〇年一月から同四二年八月まで

別表4―1ないし4の各(2)ないし(4)により算出した(大阪市は4級地である。)。

ⅱ 昭和四二年九月以降

別表4―5ないし11の各(2)により算出した。

Ⅱ 期末手当・勤勉手当

別表4―1ないし4の各(5)、5ないし11の各(3)により算出した。

Ⅲ 超過勤務手当

ⅰ 超過勤務(ただし、午後五時から午後一〇時までの勤務)手当は、超過勤務時間一時間当たり正規の勤務時間一時間の給与額の一二五パーセントである。

ⅱ 正規の勤務時間一時間当たりの給与額は、棒給月額に暫定手当、調整手当月額を加算した額に年間月数一二を乗じ、一週間の勤務時間数四四に年間週数五二を乗じた数値で除したものである。

ⅲ 大阪税関における昭和四〇年から同四九年までの超過勤務手当の支給実績は、毎年一月から六月まで二二〇時間(内一月から三月まで一一〇時間)、七月から一二月まで二三〇時間である。

ⅳ 右によって超過勤務手当を算出すると、超過勤務手当の棒給月額に対する係数は、0.0065559となり、棒給月額に右係数を乗じた額となる。

Ⅳ 右によって算出される半年単位の諸手当の棒給月額に対する係数は別表5の係数欄記載のとおりとなる。そこで、棒給の月間差額に右係数(別表3・使用係数欄の数値)を乗じ三ケ月ないし六ケ月の損害を算定すると、別表3の計欄記載のとおりとなる。

③ 以上によって算定した合計は、別表3の合計欄記載のとおりであり、これが、原告組合員ら各自の本件係争期間中の給与上の損害である。

2  原告組合員ら各自の慰謝料請求

原告組合員ら各自は、大阪税関長により、昇給等につき不当な差別を受け著しい、精神的苦痛を蒙った。右苦痛は、右差別が、働く者にとって基本的な給与に関するものであること及び右差別のよって一旦生じた格差は本件係争期間後も解消しないこと等から、1で主張した財産上の損害が補填されることによっても償いきれるものではない。

したがって、原告組合員ら各自は、別紙債権目録慰謝料欄記載の各慰謝料の支払を求める。

3  原告組合の慰謝料

大阪税関長が原告組合員らに対し行った不当な給与差別の結果、原告組合も、大量の脱退者を出し、新規加入者の殆どを奪われるなどして、組合員の数は激減し、その結果、組織上、活動上も大きな打撃を受けた。右税関長の行為は、原告組合の団結権を侵害するものであるから、原告組合は、被告に対し、右損害に対する慰謝料として金五〇〇万円の支払を求める。

4  弁護士費用

原告組合員らは、各自、本訴の提起、追行を原告ら訴訟代理人に依頼し、報酬として別紙債権目録の弁護士費用欄記載の弁護士費用を支払う旨を、原告組合は同じく弁護士費用として金五〇万円を支払う旨を約した。右はいずれも、大阪税関長の違法行為と相当因果関係のある損害である。

(被告の主張)

1  給与損害の主張に対して

原告組合員ら各自が、原告組合に所属していることさえ考慮されなければ、同期入関者のうち最も昇任、昇格及び特昇が遅れている者と同時期に昇任、昇格及び特昇したであろうといえるためには、少なくとも、原告組合員ら各自が、右最も遅れた者と比べて勤務成績(これには非違行為に係るマイナス事情が含まれる)が劣っておらず、かつ、その時期に定数枠が残っていたことが立証されるか、また、各自を右最も遅れた者に代えて昇給等させるべき何らかの事情(右各自の勤務成績が右最も遅れた者より優れていること等)が存在していたことが立証されなければならない。原告らは、右立証をしないし、特段の立証なしにこれを推定できるような経験則も存在しない。したがって、原告組合員ら各自が、遅くとも最も遅れた者と同時期に昇給等できたであろうとは認められないのであって、これが認められることを前提とした原告らの給与損害金の算定は失当であることはもとより、差別取扱いがなかったとしたら原告組合員ら各自が遅くともどの時期に昇任、昇格及び特昇したであろうということさえ特定できないのであるから、原告らの主張する給与損害金の発生を認めることはできない。

2  原告組合員ら各自の慰謝料の主張に対して

原告組合員ら各自が、昇任、昇格及び特昇において原告組合に所属していること等を理由とする差別的取扱いがなければ、より早く昇給等できたであろうという高度の蓋然性は認められないから、原告組合員ら各自について、賠償されるべき精神的損害の発生は認められないというべきである。

3  原告組合の慰謝料の主張に対して

大阪税関長が、原告組合の運営に干渉、介入してその弱体化や抑圧を図ったという事実は存在しない。のみならず、原告らの主張は、単に団結権を侵害する行為があったというにすぎず、不法行為の内容を具体的に主張していない点で主張自体失当である。

六消滅時効

(被告の主張)

原告らの本訴請求を、税関長において、基準コースとして示された時期に原告組合員ら各自を昇任、昇格及び特昇させるべき義務があったのにこれをさせなかった不法行為であると解するにせよ、右時期に差別的取扱いをしたことが不法行為であると解するにせよ、不法行為は、右各時点で成立すると同時に終了する、そして損害(精神的損害も含む)もその時点で発生し、かつ、損害の発生につき社会通念上予見可能な状態にあったと解すべきである。

したがって、原告らの損害賠償請求権のうち、その発生原因となった不法行為の日が、原告らが本訴を提起した昭和四九年六月一一日より三年前の同四六年六月一一日以前のものは、仮にそれらの不法行為が認められるにしても、すべて時効消滅しているというべきである。

(原告らの主張)

1  本件不法行為は、その性質上完全に秘密裡に行われ、その時点では、原告組合員ら各自には、窺い知ることができないものであった。しかも、給与格差が税関長の不法行為によるものであると明確に理解できるためには、原告組合員らと同期入関者の昇給、昇格状況の綿密な調査を必要とする。したがって、原告らが、「損害及び加害者」を知ったのは、本訴提起の直前というべきである。

2  さらに、被告が、一方で故意にしかも原告らには知り得ない方法で秘密裡に本件不法行為を行いながら、他方で不法行為後三年を経過したことを理由に消滅時効を主張することは信義衡平の原則に反するものとして許されない。

第三争点に対する判断

(争点一〜格差について)

一格差の意義

原告らは、別表1、2に基づき、原告組合員らと同期入関者との間の給与格差の存在を主張する。

原告らの主張する給与格差は、先ず、原告組合員らの法的保護に値する利益の損害を基礎づける事実として、次いで、原告らの給与上の損害の算定根拠として、両様の意味を有する。

前者においては、原告組合員らと同期入関者との集団比較において給与格差があったか否かが重要であり、本項においては、専ら右観点から原告の主張の当否を判断し、後者については、後に損害論において判断することとする。

二原告らの主張の合理性

1 被告は、原告らが給与格差を主張する対象として同期入関者を選定したことに対し、税関長には、同期入関者を一律に昇任、昇格及び特昇させる義務がないことを理由に、選定方法に合理性がないと主張する。

しかし、本項で問題となるのは、原告組合員らと非原告組合員との間に給与格差が生じているか否かである。原告らが比較対象者として同期入関者を選定したことの当否は、右格差が差別査定により生じたか否かを判断する際に考慮すべき事項というべきであるから、被告の右主張は失当である。

2 また、被告は、網羅性の欠如、対象外非原告の存在、本件係争期間開始時点での格差の無視等を理由に原告の主張には合理性がないという。

しかし、前記のとおり、ここで問題としているのは、原告組合員らと集団としての同期入関者の給与格差の有無であり、この点に関して、被告主張の例外的な事象は仮に認められるとしても判断の妨げとはならない。

3 さらに、被告は、別表1、2はその大部分が原告らの不確かな調査あるいは推測により作成されたものであるから不正確であると主張する。

<書証番号略>、原告二神守、同常田邦男各本人の尋問によると、別表1、2の同期入関者に関する部分は、本件の原告団と原告組合員とによるプロジェクトチームが分裂前に原告組合が病休等で生じた賃金格差是正を要求するために作成した資料(昭和三七年一〇月現在の賃金実態基本調査表)、昭和四四年八月二〇日時点以前の毎年大阪税関が発行していた職員録(右職員録には各職員の等級が表示されていた〜例一二一の一)、原告組合が作成し、組合ニュース等で発表してきた資料、原告組合が当局から入手し得た資料等を基礎資料として作成したものと認められる。

そして、原告常田本人尋問によっても、原告組合がニュース等で発表した資料の事実調査が具体的にどの程度行われたかは明確ではなく、分裂前の資料はともかく、分裂後作成されたものについては後記認定の職場事情からみて、非原告組合員である同期入関者が原告組合の事情聴取に快く応じたとは考えられないこと、仮に右基本資料の全てが正確であるとしても、本件で書証として提出されている資料のみでは別表2は作成できないこと(昭和四五年以降の昇格、特昇を明らかにする資料はない。)、訴状別表第一「原告グループ別等級号俸一覧」と別表1との、また、右一覧記載の特昇年月日と別表2のそれとの間に食い違いがあり、その理由が説明されていないこと、等からすると、別表1、2中に原告らの不確かな調査あるいは推測により作成されたとしか考えられない部分があることは否定できない。

しかし、前記のとおり、本項で認定、判断する同期入関者個々人の、昇任、昇格及び特昇の時期は、右時期を徴憑事実とすることにより、同期入関者全体と原告組合員らとの間に生じた格差の有無、程度を明らかにする範囲で必要なのであり、原告らが損害論として主張する基準コースの設定根拠としての当否は後に判断するところである。以下、右観点からその限度での各表の正確性を検討し、格差の程度を認定する。

(1) 同期入関者全体と原告組合員らとの給与格差の有無、程度を認定する資料としての別表1、2の正確性

① 被告の対応

被告は、別表1、2のうち、同期入関者に関する部分につき、同期入関者の利益保護と人事行政上の適正な運営の確保が司法上の要請に優先するとして具体的認否を拒んでいる。被告の拒否理由を一般的に不当とすることはできない。そして、被告が同部分を争っていることは明らかであるから、自白を擬制すべきとの原告らの主張は採用しない。

しかし、このことは、右被告の態度を弁論の全趣旨として考慮し、原告の主張の信憑性を判断することまでを妨げるものではない。前記のとおり、大阪税関においては昭和四四年まで職員録に当該職員の等級を記載していたこと、昇任については、当該職員の官職は少なくとも職場において明らかであり、秘匿する利益が薄いこと(被告が、原告らの昭和五三年九月二五日付第八回準備書面で主張された同期入関者の昇任状況に対して同年一一月一五日付第一〇準備書面で認否し正確な昇任時期までも明らかにしているのはその証左である。)、右具体的認否をしても、当該職員の勤務評定全体が明らかになるわけではないこと(当該職員が当局からどのように評価されているかの概略は、当該職員の官職の上下により、職場においてはある程度明らかにされていると考えてよい。)、そして、給与の推移について、被告自らが、昭和五〇年八月二八日付第五準備書面で「この点(同期入関者の給与の推移)についての原告らの立証をまつこととなるが、その過程において著しく事実に反する証拠等が顕出されるなどした際には、公表しないことによって擁護される利益と、誤った事実が裁判所によって認定される利益とを比較衡量して、後者が前者を上回るときは、攻撃防禦方法として時機を失しない限り、事実を明らかにせざるを得ない場合も当然ありうる。」としていることに照らすと、被告の主張する理由が常に司法上の要請に優位するとも考えられないからである。原告らの主張内容を検討するに、原告らが敢えて(資料入手が困難であることによる調査不足を超えて)同期入関者の給与の推移を自己の有利に主張したとは認められず(原告らは対象外非原告を設定している。)、被告は弁論終結に至るまで反証活動を行わなかったこと等、原告らと被告の各訴訟態度を弁論の全趣旨として評価すると、別表1及び2で主張された同期入関者の給与の推移は、被告が反証を必要とするほどには事実と隔たっていないものと判断できる。

② 昇任

昇任については、前記のとおり、官職は職場において概略明らかであるから、原告組合がこれを把握することはさほど困難とは考えられないこと、前記原告らの昇任状況に関する主張(第八回準備書面)を被告がほぼ認めていること(被告の訂正は、年度と年との食い違いによるものと考えられる。)から、別表2の昇任に関する部分は、この項での事実認定の資料として使用する限度では事実を表しているものと認められる。

③ 昇格

まず、「行政職俸給表(一)、等級別標準職務表」(ただし、昭和四三年四月一日適用のもの)の本件に関する部分をみると、以下のとおり規定されている。

Ⅰ 四等級

イ 本省の課長補佐の職務

ロ 管区機関の課長又相当困難な業務を処理する課長補佐の職務

ハ 府県単位機関の相当困難な業務を掌握する課の長の職務

ニ 地方出先機関の長又は特に困難な業務を掌握する課の長の職務

Ⅱ 五等級

イ 本省又は管区機関の係長又は困難な業務を分掌する係において極めて高度の知識若しくは経験を必要とする業務を処理する主任の職務

ロ 府県単位機関の課長又は相当困難な業務を分掌する係の長の職務

ハ 地方出先機関の課長又は困難な業務を分掌する係の長の職務

ニ 相当困難な業務を分掌する出張所等の長の職務

Ⅲ 六等級

イ 本省又は管区機関の困難な業務を分掌する係において高度の知識又は経験を処理する主任の職務

ロ 府県単位機関又は地方出先機関の係長又は困難な業務を分掌する係において高度の知識若しくは経験を必要とする業務を処理する主任の職務

ハ 出張所等の長の職務

ニ 特に高度の知識若しくは経験を必要とする業務を行う職務

Ⅳ 七等級

相当高度の知識又は経験を必要とする業務を行う職務

右規定にみられるとおり、公務員の等級はその地位、職務と関連づけられて決定される仕組みになっており、このことから、税関内部においても、特定の地位と等級とは原則として結び付いていると考えてよく、原告組合が右地位と等級との関連を把握していないはずはないことからすると、職員の昇任状況さえ明らかになれば、それに伴い当該職員の等級を把握することはさほど困難とは思われない。

さらに、昇格については、前記のとおり昭和四四年八月二〇日時点までは当局により当該職員の等級が職員録に公表されていたことから、別表2の同年までの昇格状況は、真実と合致するものと認められる。

以後の時期については、前記認定によると、五等級への昇格は六等級の九ないし一一号俸からなされていること、原告組合員らの昇任、昇格の推移によると、主任相当職への昇任が五等級昇格と、課長補佐相当職への昇任が四等級昇格とほぼ連動していることが認められ、別表1、2の昇格状況はほぼこれと符合している。

④ 特昇

特昇については、<書証番号略>、原告常田本人尋問によると、分裂前は原告組合が全職員の特昇状況を把握しており、昭和四二年の時点でも原告組合が特昇についての発令通知を入手していることが認められることから、同年ころまでは原告組合は特昇についての正確な資料を入手し得たと判断できること、原告平野(その後取り下げ)本人尋問及び証人中田一夫の証言及び弁論の全趣旨によると、特昇の運用は、非原告組合員については、勤務年限に応じある程度順送り的に行われていたと認められ、別表1、2の特昇の状況はほぼこれと符合している。

⑤ 普通昇給

<書証番号略>、証人中田一夫の証言及び弁論の全趣旨によると、普通昇給延伸者の数は、原告組合員を含めても極く少数であり、確率的には無視しうること及び原告組合員らの普通昇給の実態からみて、別表1の普通昇給に関する部分は、この項での事実認定に使用する限度では、事実を表しているものと認められる。

右各事実と、税関職員は、職務により制服の着用を義務付けられる場合があり、職員が、その肩章をみると、地位のみならず等級まで判明する部分があると認められる(証人伊藤守の証言)ことをも併せ考えると、別表1及び2で主張された同期入関者の昇任、昇格及び特昇の実態並びに給与の推移は、同期入関者全体の昇給等の推移を俯瞰的に把握し、これと原告組合員らとの間に生じた給与格差を判断するとの観点に限定して使用する限り正確であると推認できる。

(2) 別表1、2から認められる同期入関者の昇任、昇格及び特昇の状況並びに本件係争期間終了時の号俸は以下のとおりである(以下、年は昭和、課長、課長補佐、はいずれも相当職の意である。)。

イ Aグループ七名

昇任 四五年までに六名が課長補佐(一名は四九年課長)

昇格 四等級・四一年二名、四二年四名、四四年一名

特昇 二回五名、一回二名

最終号俸 四等級一六号以上(三等級昇格者有)

ロ Bグループ八名

昇任 五四年までに課長補佐以上全員

昇格 五等級・三九年までに全員、四等級・四九年までに全員

特昇 三回二名、二回四名、一回二名

最終号俸 七名が四等級一二号以上(三等級昇格者無)

ハ Cグループ一七名

昇任 役付・四一年二名、四二年一四名、四六年一名

昇格 五等級・四三年一六名、四七年一名

特昇 三回一名、二回一一名、一回五名

最終号俸 五等級一三号以上(ただし、五等級一二号一名)

ニ Dグループ四名

昇任 役付・四一年までに三名、課長補佐・五三年までに三名、課長・五五年までに全員

昇格 五等級・全員四一年、四等級・四八年までに全員

特昇 全員二回

最終号俸 四等級一二号以上

ホ Eグループ一一名

昇任 役付・四五年までに九名、四六年二名、課長補佐・五七年までに全員(退職者一名を除く)

昇格 五等級・四四年までに五名、四六年までに残りの内四名、四七、四八年に各一名

特昇 二回九名、一回一名

最終号俸 五等級一三号以上

ヘ Fグループ五〇名

昇任 役付・四三年までに三一名、四四年に一五名、四五、四七年に各一名、四八年二名、課長補佐・五六年までに四四名、五七年二名、五八、五九、六三年各一名、未昇任一名

昇格 五等級・四四年までに三〇名、四五年一六名、四六、四八、四九年各一名、未昇格一名

特昇 三回九名、二回三〇名、一回一〇名、未特昇一名

最終号俸 五等級一三号以上(ただし同等級一二号三名、一一号一名、六等級一一号一名)

ト Gグループ九名

昇任 役付・四三年までに四名、四四年五名、課長補佐・五六年までに全員

昇格 五等級・四四年四名、四五年五名

特昇 二回八名、一回一名

最終号俸 五等級一三号以上(ただし、五等級一二号一名)

チ Hグループ一〇名

昇任 役付・四六年までに九名、四八年一名

昇格 五等級・四五年までに八名、四七年一名、四九年一名

特昇 二回七名、一回二名(内一名は四八年出向)、未特昇一名

最終号俸 五等級一二号以上(ただし、同等級一〇号一名)

リ Iグループ三名

昇任 役付・四二年までに全員、五六年までに課長補佐一名課長二名

昇格 五等級・四三年全員

特昇 二回二名、一回一名

最終号俸 五等級一三号以上

ヌ Jグループ一〇名

昇任 役付・四五年までに六名、四六年一名、四八年三名

昇格 六等級・四一年六名、四二年二名、四三、四五年各一名、五等級・四六年までに六名、四七年一名、四九年三名

特昇 二回七名、一回二名、未特昇一名

最終号俸 五等級一一号以上(ただし、六等級一二号二名、一五号一名)

ル Jダッシュグループ三名

昇任 役付・四九年全員

昇格 六等級・四一年一名、四二年二名

特昇 二回二名、一回一名

最終号俸 六等級一三号以上

ヲ Kグループ八名

昇任 役付・四五年までに全員

昇格 六等級・四二年までに全員、五等級・四七年までに全員

特昇 二回五名、一回三名

最終号俸 五等級一〇号以上

ワ Lグループ一名

昇任 役付・四七年

昇格 六等級・四三年、五等級・四八年

特昇 一回

最終号俸 五等級九号

カ Mグループ七名

昇任 役付・四七年全員

昇格 六等級・四四年までに六名、四五年一名、五等級・四八年四名、四九年三名

特昇 三回一名、二回六名

最終号俸 五等級七号以上

ヨ Oグループ一名

昇任 役付・四八年

昇格 六等級・四五年

特昇 二回

最終号俸 六等級八号

タ Pグループ六名

昇任 役付・四八年三名、四九年三名

昇格 六等級・四五年までに四名、四六年二名

特昇 二回三名、一回三名

最終号俸 六等級七号以上(ただし、三名は五等級)

レ Qグループ二名

昇任 主任・四九年全員

昇格 六等級・四八年全員

特昇 二回一名、一回一名

最終号俸 六等級六号

ソ Rグループ一一名

昇任 役付・五一年までに一〇名、五四年一名

昇格 六等級・四七年四名、四八年六名、未昇格一名

特昇 二回一名、一回六名、未特昇四名

最終号俸 六等級六号以上(ただし、四名が同等級五号・七等級七号が一名)

ツ Sグループ八名

昇任 役付・五〇年までに四名、五一年3名、五六年一名

昇格 七等級・四三年までに全員、六等級・四八年までに全員

特昇 二回三名、一回四名、未特昇一名

最終号俸 六等級五号以上

ネ Sダッシュグループ二名

昇任 役付・五〇、五一年各一名

昇格 六等級・四九年全員

特昇 二回、一回一名

最終号俸 六等級五号

ナ Uグループ二一名

昇任 役付・五一年までに一八名、五二年二名、出向一名

昇格 六等級・四七年一名、四八年二〇名

特昇 二回三名、一回一八名

最終号俸 六等級五号以上

ラ Vグループ二名

昇任 役付・五一年、五二年各一名

昇格 六等級・四九年全員

特昇 全員一回

最終号俸 六等級五号

ヌ Wグループ一名(ただし、一年前の入関)

昇任 役付・四八年

昇格 六等級・四六年、五等級・四九年

特昇 二回

最終号俸 六等級九号

ウ Xグループ五名

昇任 役付・五二年までに全員(ただし、出向一名)

昇格 七等級・四三年全員

特昇 全員一回

最終号俸 七等級七号(ただし、出向一名)

ノ Zグループ一三名

昇任 役付・五三年までに全員

昇格 七等級・四四年全員

特昇 一回一二名、未特昇一名

最終号俸 七等級六号以上(ただし、同等級五号一名)

(3) 右認定の同期入関者の昇任、昇格及び特昇状況とその結果としての最終号俸と原告組合員ら各自のそれとが本件で認定できる給与格差である。

(争点二〜差別意思について)

ここに、「差別意思」とは、「他と比較して不当に差をつけて扱う意思」を意味し、「正当な理由に基づいて区別する」意味では使用しない。

一全税関労組分裂の経過と当局の関与の有無につき判断する。

1 <書証番号略>、証人中田一夫、同坂東邦治の各証言、原告平野卓也、同二神守各本人尋問及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(1) 全税関労組の活動と分裂

全税関労組は、戦後、税関業務の再開に伴い昭和二二年一一月結成され、同二〇年代後半からの事務量増大に伴う人員増要求、同三二年に行われた勤務評定制度の導入に反対する運動等を通して労働組合としての闘争力を高め、同三三年五月には日本労働組合総評議会(総評)に加盟し、同三四年には日本国家公務員労働組合共闘会議の結成に加わり、同年から同三六年に渡って繰り広げられた警職法導入、安保改定、国公法改正及び政暴法導入に対する各反対闘争を積極的に繰り広げた。

税関当局は、右闘争に対し、同三四年一一月三〇日、本部委員長を、同年一二月七日神戸支部長を、それぞれ通関業者に対する虚偽文書の配付により税関の信用を著しく失墜せしめたことを理由に訓告及び普通昇給三ケ月延伸、同三五年七月九日、本部書記長以下各支部執行委員二二名を勤務時間内職場集会を指導し、ピケをはったことを理由に減給若しくは戒告処分、同年七月一六日、その他一三名を一時間の賃金カット、同三六年五月二二日、東京支部長他執行委員九名を勤務時間内職場集会を指導したことを理由に訓告及び普通昇給の三ケ月延伸、同年八月一九日、神戸支部執行委員を職務執行につき協力を怠ったことを理由に戒告処分、同年一二月一五日、同支部長他二名を庁内デモ及び勤務時間内職場集会を指導し、通関業務の処理を妨害したこと等を理由に懲戒免職処分、等の処分をした。(なお、右神戸支部長他二名に対する懲戒免職処分については、その取消を求める行政訴訟が提起され、昭和五二年一二月二〇日、最高裁は、右処分を適法と判断した〔第一、二審は、処分権の濫用として処分の取消を命じていた。〕)。

全税関労組は、当局の処分を闘争に対する弾圧と捉え、昭和三六年七月一七日から開かれた第二四回全国定期大会において、「闘いの基本方針」として「安保条約を破棄し、安保体制打破をめざす国民的闘争にあらゆる闘いを結集する。全税関のめざす中心的闘いは、大幅賃上げ引き上げ、労働基本権奪還であり、合理化によるあらゆる労働条件の切り下げに反対、時間短縮、社会保障拡充、行政の民主化等の諸要求を安保条約破棄の闘いと結合して闘う」旨を表明した。

その後、神戸税関で同三八年三月、横浜税関で翌三九年九月、税関労組が発足し、同四〇年八月六日の時点で、全国八税関に税関労組が結成され、右時点での組織人数は、大阪税関労組の発表によると、全税関労組一八一二名、各税関労組合計四六三三名となり、勢力比は完全に逆転し、各税関労組は、翌四一年九月、税関労働組合連絡協議会を発足させた。

(2) 原告組合の活動と分裂

① 昭和三六年までの原告組合の活動と当局の対応等

右全税関労組の方針の下に、原告組合は、昭和三四年一一月二七日、安保条約改定阻止統一行動のデモ及び集会への参加、同三五年六月一五日、早朝から勤務時間内に食い込む職場集会の強行、他の職員の出勤阻止、同年九月一五日、ILO条約批准、国公法改悪反対等を要求するデモ及び集会への参加、同三六年一〇月一二日、政暴法反対統一行動のデモ及び集会への参加等の政治闘争を行い、さらに、同年八月ころから一一月ころにかけて、合理化反対闘争として税関関係者に対し、同年九月四日付けで「貿易港湾関係業者の皆さんに訴える」と題する書面を配付し、当局の輸出入許可書等のコピー方式の採用とこれに伴う計算センターの設置に原告組合とともに反対するようにとの呼び掛け、同年一〇月三日、コピー機の使用を拒否するとの分会代表者会議での決定、同月一六日、富島出張所での計算事務一元化処理の拒否、同年一一月四日から本関輸入部に計算センターが設置されることに反対するステッカー貼り、職場大会の開催、一斉定時退庁、昼休みの輸入事務室での職場大会等を行った。

大阪税関当局は、右活動に対し、同三五年七月九日、同年六月一五日の職場集会参加者に対し、「事前の警告を無視して職場大会に参加し、職場離脱を敢行したことは、まことに遺憾に堪えないが、右行為が全税関労組中央執行部の指令に基づくものであり、かつ、勤務時間内に終らせようと努めたことが窺われるので今回に限り処分しない」との警告書を発し、また、同三六年九月二八日発行の大阪税関ニュースに、部課長会議において、「庁舎管理上の秩序の維持について」議論が交わされ、会計課長から「最近庁舎のあちこちに組合のビラが張り出されたことについて、組合と交渉があった。原告組合は組合ビラ等の掲示場所の拡大を求めているが話合いはついておらず、庁舎管理規則により許可なく張り出すことは認められない。」、税関長から「管理者も各課長も組合員ではあるが、組合としての行動もあくまで合法的な枠内で行い、それを超えるときは、管理者として困るということをはっきりすべきだ。」との発言があった旨を載せた。これ以外、大阪税関当局として、原告組合の活動に具体的に対処したと認めるに足りる証拠はない。

なお、原告らは、庁舎管理規則の制定(同三三年一月一四日)及び同三六年からの総務部、管理課制度の発足が全税関労組及び原告組合を弾圧する意図で行われたと主張するが、これらはいずれも税関の機構整備の一環として行われたものであり、その内容も何ら不当と評価される点はないから、この主張は失当である。

原告組合は、同三六年七月一三日開かれた定期大会において、前年の活動に対し、「原告組合の激しい運動(年間動員回数三四回、参加延人員二六六七名)は執行部を中心とする一部活動家の大車輪の活躍によるものであり、派手ではあるが、組織には密着しておらず、『職場に組合を』との目標は達成されていない」と総括し、更に賃金、合理化反対の闘争を強化するとの方針を打ち出した。そして、一部組合員の中に組合の政治活動に反対する声があることは認めた上で、労働組合は政治団体ではないから、政治オンリーの問題は論外として、政治的性格を持った問題ではあっても、それが組合に影響を及ぼすものである限り、これを組合活動の対象として取り上げるのは当然であるとし、政治的課題に取り組む姿勢を鮮明にした(なお、右方針は、翌三七年の定期大会においても、日本の労働者の置かれている労働条件の低劣さの根源は政策的、構造的なものとの情勢認識の下で再確認されている。)。

② その後の原告組合の活動と批判勢力の台頭

Ⅰ 運動の活発化

原告組合は、昭和三八年一二月四日、監視部陸務課所属の村田進が海中に転落した事故を契機に、監視部陸務課及び海務課勤務の若年層の組合員を中心に安全対策を求める運動を推し進め、併せて、年末年始の代休廃止、陸務課の新勤務体制の実施等に反対する運動を強力に展開した。

Ⅱ 信任投票における批判票

右活動に対しては、管理職組合員を中心に、監視部の闘争は跳上がっている等の批判、あるいは、原告組合の元の幹部等一二、三名が集合し、神戸及び横浜税関の例から、執行部が活動方針を転換しない限り分裂が必定であるとし、当局と強調できる組合にするために対立候補を立てる策が話し合われる等の動きがあり、昭和三九年六月二二日から行われた原告組合執行委員の選挙においては、組合推薦候補一五名の他に四名の立候補者があった。結局、右四名が立候補を辞退し、選挙は信任投票となり、一五名全員が信任されたが、投票結果については、投票総数七三八票中、最も少ない候補者で不信任一四七票白票四四票、最も多い候補者で不信任二五七票白票五四票の批判票が出た。

原告組合は、同年七月一二日から定期総会を開き、右批判は、基本的には大阪税関当局の分裂政策とそれに迎合した一部管理職の策謀であるとし、従来にもまして反合理化闘争を推進することにより闘う労働組合として脱皮すべきとの闘争方針を確認した。

Ⅲ 組合費の未納増加

原告組合では、昭和三九年六月ころから組合費の未納者が出始め、七月には四一名、九月には六八名、一〇月には一〇四名、一一月には二〇四名にも達した。

原告組合は、同年九月それまでの未納者に質問書を発し、約半数の回答を得た。回答には「組合の方針に合わない」、「政治闘争に走り極左傾向にあると思われるから」、「組合活動のあり方に疑問を持つ。特に中執のそれは偏向政党に結び付いていて政治闘争に重点を置いている。このような中執に振り回されている原告組合には組合員としてついていけない」等が挙げられていた。

ところで、原告組合は、前記定期総会において、全税関労組中央執行部から提案のあった本部組合費四〇円増額案に反対する態度を決定していた。しかし、同年七月一九日から二二日まで開かれた全税関労組の定期大会において、中央執行部から増額幅を三〇円とし一〇月から実施するとの案が再提案されたため、その決議に際しては、右修正案に対し保留の態度をとった。右決議案は、賛成多数で可決され、本部組合費は三〇円の増額となった。原告組合の本部定期大会での対応も未納組合費増加の要因となった。

なお、同年七月ころから、海務課では、課長の命令により組合費の引去り(庶務係が各人の給与からその承諾の下に組合費を一括徴収すること)が禁止され、このため組合費の徴収が困難になったとの事情は認められるが、右引去り禁止が海務課以外の部署でいつから行われるようになったかについてはこれを認めるに足る証拠がないから、引去り禁止と組合費未納者の増加との関係は認定できない。

Ⅳ 横田関税局考査管理官の講話

昭和三九年九月一八日に開かれた大阪税関支署長会議において、横田関税局考査管理官が最近の労働組合運動の分析を内容とする講話を行い、原水爆禁止運動分裂あるいはいわゆる四・一七ストライキに際して全税関労組がとった立場等を根拠に、全税関労組が総評の中でも反主流派であり、特に日本共産党の影響力の強い組合であるとの認識が披瀝され、神戸税関の懲戒免職処分等を例にとり管理者としての労務対策上の注意点等が話された。ただし、講話中に、当局が、全税関労組に敵対する方針であるとか別組合の結成を促すとかといった趣旨の言動はなかった。

Ⅴ 分会単位の批判の動き

組合費未納者が増大する中で、昭和三九年九月から同年一〇月にかけて、鑑査分会、業務分会等から、組合分裂を避けるとの立場から、原告組合執行部に対する質問状(全税関労組中執の指導及び同労組定期大会の議案に対する原告組合の対応、本部費三〇円増額に対する原告組合の対処の仕方、原水爆禁止運動の分裂につき全税関労組及び原告組合がとった立場について)が出され、組合費未納問題についての職場討議、臨時分会会が開催された。各分会の動きは、イ 横浜及び神戸の分裂の責任は全税関労組の活動方針が過激であり当局と無用な対立を繰り返したことにある。したがって原告組合が全税関労組本部の方針に追随する限り分裂は避けられない。ロ 原告組合の活動方針は、組合員全体の意思を反映していない。その原因は執行部の態度と各組合員が組合につき無関心であったことにある。ハ 組合の危機を乗り越えるため、原告組合の活動方針全般についての全組合員による徹底した討論を組織する。ニ 右討論の結論が出ず、組合費未納が増大する事態を打開できないときは分会役員が辞任する。等とする点で概略一致していた。

原告組合執行部は、右各分会の動きを、一部は当局の意思を体して執行部攻撃の一翼を担うもの、一部は善意ではあっても「当局の攻撃も受けない。しかも御用組合にもならない。」とのあり得ない組合を求め、結果として当局の分裂策動に乗るものとして、共に拒否し、従来の活動方針を改めなかった。

Ⅵ 脱退者の増大

昭和三九年六月末から原告組合を脱退する者が出始め、その数は、同年一〇月末には一〇名足らずであったが、同年一二月末には約一〇〇名に達し、翌四〇年一月八五名、二月一七八名に及んだ。右脱退者のうち管理職の地位にあった者の比率は、同三九年一〇月までは一〇〇パーセント、一二月までは約八〇パーセント、同四〇年一月は四七パーセント、同年二月は二九パーセントであり、同月までに管理職組合員の七三パーセント、それ以外の組合員の二九パーセントが正式に原告組合を脱退した。

Ⅶ 原告組合の対応

原告組合は、一連の事態に対し、「団結を訴える」と題する支部ニュース(原告組合の機関誌)の号外を七度に渡り発行し、同三九年一〇月二八日「大団結集会」と銘打った集会を行う等の情宣活動に努めたが、組合費未納及び脱退者の増大を食い止めることはできなかった。

なお、同年一一月一三日発行の支部ニュースによると、当局総務課が各支署長宛てに発送した業務連絡第一五号同年八月三一日付け「全税関労組の新運動方針の特色及び要点について」と題する文書には、全税関労組の同年度の運動方針につき、イ 特色として全税関が総評の方針からはずれていること等、ロ 要点として総評批判の露骨化と総評無視の傾向が強まったこと等、が記載されている旨が報じられている。

③ 大阪税関労組の結成と勢力の拡大

Ⅰ 一〇名の職員を発起人とする「大阪税関新労働組合結成準備会趣意書」が昭和四〇年二月一六日付けで発表された。

その内容は、「発起人らは、原告組合の現状を憂いて、イ 原告組合の姿はこれでよいのか。ロ 組合員は無責任ではなかったか。ハ 当局の組合対策に反省を求めることはないのか。等を討議し、執行部に対し、臨時大会を開催し、執行部が一旦辞任し、脱退者及び組合費未納者の権利を認めて、再度執行部を選任することを求めたが、執行部はこれを分派活動、利敵行為等と決め付け右要求を拒否した。右執行部の態度は、無責任極まりないものではあるが、組合員の側にも執行部の独断専行を許した責任があり、当局にも、使用者として守るべき節度を超え、職場を混乱させた責任がある。脱退者及び組合費未納者が過半数を超えた現状ではもはや原告組合の再起は望み得ない。したがって、二つの組合が並立することは不幸な事態ではあるが、民主的労働組合として新組合を結成するほかない。」とするものであった。

かくて、新組合結成準備委員会が発足した後、同年三月六日、原告組合の妨害を排除して、三〇名の出席の下に大阪税関労組が結成され、組合員数は同年五月一五日には一八五名、同年八月六日には三七八名に増加した。

Ⅱ 他方、各職場内では、管理職員あるいは同僚から原告組合員に対し、「未脱退者は日本共産党員あるいはその同調者であるとの非難」や「原告組合に残ることの個人的不利益に対する忠告」等が頻繁になされ、原告組合の組織人員は激減した。

2 右認定事実に基づき、税関当局の右分裂への関与の有無につき考える。

全税関労組が推進した安保条約改定反対闘争以後の政治的課題に対する闘争形態及び昭和三六年七月に決定された同労組及び原告組合の活動方針は、一部組合員とその同調者による、現実から乖離した観念的情勢分析の結果であり、当時支署長、課長等管理職全体を組合員として組織していた原告組合の組合員の総意を反映したものとは到底考えられないこと、したがって、原告組合執行部は右方針を追求するなら、一般組合員と遊離し、早晩組合全体としての統一が困難となることを予期し得たといってよいこと、同三九年の対立候補擁立の動きと執行部の信任投票の結果は、この意味での組合としての危機の徴憑であったのに執行部はこれに対処しなかったこと、引き続き起きた分会単位の批判と組合費未納者の増加も、前記闘争方針に固執し、組合員の意識から乖離した執行部の独走を非難する点では執行部に対する正当な批判であると考えられること等によると、原告組合の分裂の重大な要因が、同組合執行部の独善的な活動方針と組合員の批判にもかかわらずこれを改めなかった頑迷な態度にあることは、疑いがない。

他方、大阪税関当局が、直接的に、原告組合を攻撃あるいは誹謗中傷(横田考査管理官の前記講話は事実に基づく分析結果であって、全税関労組を誹謗したものとは認められない。)したり、職員に対し脱退、組合費未納を指示したと認めるに足りる証拠はない。

しかし、原告組合に関する限り、安保条約改定反対闘争も含め、実際に行われた組合活動に対し、分裂までの間に、同三五年七月九日の警告の他には当局から何らの処分も受けていないにもかかわらず同三九年七月一二日開催の定期総会終了後わずか二ケ月余りの時点から組合費未納が急増し、分会単位の批判も噴出したこと、右未納理由及び批判をみても本部組合費の増額に反対しなかったことを除いて、原告組合の具体的活動を批判する部分は殆どみられず、専ら全税関労組と日本共産党との繋がり、あるいは全税関労組の方針に追随する限り分裂が避けられないとの危機感の表明に止まっていること(前者の点は前記横田管理官の分析及び支部ニュースに見られる文書の記載と符合している)、脱退が特定時期に集中し、しかも脱退者は当初管理職員に集中していること、さらに、大阪税関労組の結成趣意書ですら当局が使用者として守るべき節度を超えて職場を混乱させた責任があると指摘していること等の事実を併せ考えると、原告組合において執行部に対する批判が澎湃したとの事態には、これを組合員の自発的意思のみに基づき自然発生的に起きたとするだけでは説明できないものがあり、当局が、右批判を積極的に組織したとまではいい得ないとしても、前記横田管理官の講話等を通じて管理職員に働きかけることにより右批判を助長したものと推認するほかない。

以上によると、原告組合の分裂には、この限りで、大阪税関当局の意思が関与したものといわざるを得ない。

二東京税関文書に示された税関当局(大蔵省関税局及び大阪税関)の差別意思につき判断する。

1 東京税関文書の形式的証拠力につき考える。

<書証番号略>、証人伊藤英二、同小林悦男、同武石幸二の各証言並びに弁論の全趣旨によると、<書証番号略>の各原本は東京税関の、<書証番号略>の原本は関税局の作成したものと認められる。

被告は、右<書証番号略>は、入手経路が不明であること、文書の体裁等から形式的証拠力がないと主張する。しかし、入手経路が不明であることは直ちに形式的証拠力を排除するものではないし、文書の体裁上、文書の一部分の一体性を疑わしめるものもあるが、その場合には、当該部分の成立を個別に認定すれば足りるのであるから、右主張は失当である(なお、<書証番号略>の「昭和四五年九月一七日(水)」との記載は、曜日から判断して同四四年九月一七日の誤記と認める。)。

2 右証拠によると、東京税関文書は昭和四二年三月ころから同四四年九月ころまでの間、東京税関の幹部会等で話し合われた人事、労務対策を内容とするが、このうち、東京税関・関税局の全税関労組を敵視・嫌悪する意思を徴憑する発言等と認められるものは、以下のとおりである。

(1) 昭和四二年五月一日の部長会議では、新入職員の職場配置及びその後の受入体制についての議論が行われた。右会議では、まず職場配置につき、全員を警務関係部署に配置することが望ましいが、定員の関係から一部職員についてはこれが不可能である。そこで、他の部署にも配置せざるを得ないが、その配置については「旧労職員の影響等を考慮して配置する」との方針が、次に、受入後の取扱い要領につき、新入職員に対し職場における指導官を置き、その際の指導官の人選については、各職場の七等級職員を中心に勤務成績、人格、「思想」等を考慮して行うとの方針が、各述べられている。これらの発言は、東京税関当局が、新入職員を全税関労組から隔離するとの意思を有していたことを示すものといってよい。

(2) 同年九月一一日の幹部会議では、東京税関長から先に開かれた関税局主催の税関長会議の結果報告がなされた。この中で、東京税関長から「士気問題に関して、大阪税関長は、二五、六年入関の職員のポジションをどうかしてくれと話していた。主任の活用、専門官の活用が討議された。」「旧労古手の対策として、ある税関長が専門官の設置の意見を出したが、本省から甘い考えだと批判された。」「旧労対策には官は懸命にやっているが、もっと大事なことは、新労を強くすることであると官房長に言っておいた。」との発言がなされた。また、この席での総務課長の補足説明として、税関長会議で他税関から関税局官房長に対してなされた要望事項として、横浜税関長の「新職員の基礎研修は良い。組合を追いつめて行くのに効果があるので毎年、新職員を採用し、研修を実施してほしい。」との発言が報告されている。

右東京税関長らの発言は、関税局及び東京税関当局が全税関労組を嫌悪し、税関労組を好ましい職員組合として育成する方針を採っていたことを示しているというべきである。

被告は、いま、仮に、正当な組合活動の範囲を逸脱して正常な業務運営を阻害する非違行為を繰り返す職員団体があるとすれば、これに対しできる限りの対策を講じ、業務運営、労使関係の正常化等を図ることは当局の当然の職責であるから、右発言は全税関労組を不当に嫌悪、敵視するものとはいえないと主張する。

しかし、右当日の報告で被告が主張するような非違行為等が問題となったと認めるに足りる証拠はない。のみならず、総務課長の補足説明の項に当局者の発言として「組合の混乱期は過ぎ、いわば平穏を保っているため、かつての生々しい経験を忘れがちである。この際、かつての苦闘を思い起こし管理体制を確立してほしい。」と述べられていることが認められるのであり、このような当局の認識を前提とする限り、前記発言が被告の主張する趣旨でなされたとは考えられない。

次に、横浜税関長の発言は、基礎研修を新入職員を全税関労組から隔離することに役立つものと評価していることを示し、この限りでは、全税関労組に対する個人的嫌悪感を表明しているに過ぎない。しかし、右発言が、税関長会議という関税局の最高幹部が出席する会議で官房長に対する要望としてなされたことの背景を考えると、関税局自体が、右個人的見解を容認する意思であったと推認するのが自然である。

被告は、新入職員に対し、基礎研修で税関業務の公共性を正しく認識させ、もって全体の奉仕者たる公務員に相応しい見識を身に付けさせようとすることは、当局側の当然の職責であって、その結果、新入職員が違法行為を繰り返す職員団体に反感を持つことは当然であると主張する。しかし、ここで重要なのは、関税局の最高幹部会議が、その席上で、税関長が、全税関労組を組合と蔑み、これを孤立化させることが望ましいと発言できる雰囲気で執り行われているとの事実であり、そこに関税局全体の全税関労組に対する敵対意思を窺うことができるから、被告の主張は失当である。

(3) 同年九月二七日の幹部会議では、監察官が「音楽隊は旧労分子の活動の場となってしまったので解散した。」と発言し、厚生課長が「新職員の希望調査をしたが、演劇とコーラスをやりたいとの希望が多い、しかし現在のサークルは旧労分子が中心で活動しているので2部制として新しい演劇、コーラスのサークルを結成させることが必要と思う。」と発言し、当日配付されたと認められる資料には、「サークル部門の新、旧労の構成比からみてこれを基盤としたレク行事には危険が伴う。具体的にいえば、文化活動については、官として積極的にとりくまない(例 コーラス、油絵、華道、演劇)」との記載がある。また、同年八月一六日又は二三日の幹部会議では、「若年層対策としてレクリーダーには旧労を入れてはいけない」、「できるだけ排除方法をとるが、二〜三名まぎれこんできた場合はやむを得ないだろう」との発言がなされている。さらに配付時期は特定できないが、東京税関当局が作成した「職場レクリエーションについて」と題する書面には、東京税関内の全既存サークル会員の全税関労組と東京税関労組の所属人員調査票が添付され、レクリエーション行事を行う際の注意として「旧労は、安い経費で若年層と知り合う機会を狙っている。旧労は、行事当日、思想的言動や労働拡大運動はやらないが、知り合った若年層を後日喫茶店等へ誘い出す。」旨が記載されている。

右発言及び記載が、東京税関当局が、全税関労組を弱体化するために、サークル及びレクリエーション活動の場面で全税関労組員を隔離、孤立化させ、その他の職員と接触する機会を奪う方針を決定していたことを示すことは明らかである。

(4) 昭和四三年四月二日の幹部会議では、税関長が「腹では旧労職員を表彰したくないが、永年勤続者表彰の場合は永年勤務の事実が充足すれば表彰しているから本件だけを除外することは筋が通らぬだろう」と発言している。原告らは、右発言が表彰において全税関労組を差別する意思を示したものと主張する。しかし、右発言から、東京税関長の全税関労組に対する個人的嫌悪感は窺えるとしても、税関長の結論は、除外しない方針を述べたものであり、現に東京税関で表彰差別が行われたと認めるに足りる証拠はないから、この発言から当局の差別意思を推認することはできない。

しかし、同年七月一七日の幹部会では、表彰基準につき、「イ 特定の組合に所属していること ロ その者のそこにおける程度如何」を議題として討議が行われ、税関長は「永年勤続表彰は永年勤続プラス特別功労になっていても、永年勤続だけで表彰しているのだから、密輸の方もそのこと単独でやってよいと思う。大臣表彰であろうと税関長表彰であろうと表彰に対する思想、基準は統一しておくべきだ。」と発言した。これを受けて、総務部長が「検討中ということで保留し、十分調査し意見を固める方がよい。」と発言したのに対し、羽田支署長が「表彰基準を変えることはよくないし、私意に流れて決めるのもおかしい。保留するという点については、むしろ表彰のあるべき姿を本省に上げ説得し、先制攻撃をかけるべきだ。」と発言、さらに総務部長が「表彰についての他関、他省庁の客観的資料を準備、検討し、理論武装してあたるのがよいので、当関の意見をいきなりぶつけるよりも勝てそうになるまで準備して待つということだ。」と述べ、結局「客観的資料を多く集め、総務部長と羽田支署長が協議すること。それまで表彰を見送る。」ことが会議の結論となったことが認められる。

右事実によると、関税局では、大臣表彰に値する実績があった職員が全税関労組に加盟していることを理由にこれを表彰対象者からはずすか否かにつき議論が交わされ、しかも、この時点では、表彰しないとの意見も強かったことが窺われる。このことは、結果として全税関労組に対する大臣表彰が行われたとしても、税関当局の全税関労組に対する敵視、嫌悪意思を示す事実と認められる。

3 2で認定した全税関労組に対する敵視、嫌悪意思は、東京税関当局特有のものか。

そもそも、関税局の下に組織された全国税関において、共通の労務対策の最重要課題である全税関労組対策について、東京税関と他の税関の方針が異なっているとの事態は、特段の事情のない限り認め難い。

本件で右特段の事情を認めるに足りる証拠はない。

のみならず、東京税関文書においても、東京税関の全税関労組に対する対応が関税局の指示においてなされていることを窺わせる以下の事実が認められる。

(1) 昭和四二年四月一一日の部長会議では、先に行われた関税局主催の総務部長会議の結果報告がなされた。この内「労務問題について」との項では、同会議に東京税関を代表して出席した人物が「本省は、同盟の線で行くべきだとの意見であれば、誰もが納得ゆく明解な論理を展開の上打出すべきであって、ただ神戸をたたえ東京を批判する書き方に一言述べておいた。公務員労働組合に対しての管理者の暖かい配慮の必要性、信賞必罰の実行の必要を明記すべきであり、現在の本省指針は余り技術的なことのみを示している旨の批判を述べておいた。労務対策は各関一律のやり方を強いるのはおかしいし、数をもって批判するのもおかしいと指摘しておいた。」、「大蔵職組の中の一部には容共的行動もあり、その中に税関労組が入っていることは危険であり、大蔵職組への単なるつき合いとはいえ情勢は変化しつつあるので、その点について当関の幹部職員は注意してほしいと要望された。東京税関の幹部の基本路線はどうなのかときつい質問があった。」と発言している。前者は、<書証番号略>によると、神戸税関労組が同盟傘下の全官公にすでに加盟していることが認められることを併せ考えると、同会議で関税局が、各税関労組が全官公に加盟する方向で組合対策を行うとの方針を打ち出し、すでにこの課題を達成している神戸税関当局を推奨したことに対し、右人物が東京税関当局の立場を擁護し、これに関連して、関税局の労務対策のやり方が各税関の個別事情を顧みず一律になされることに対する批判を述べたもの、後者は、関税局が東京税関労組の方針に危惧の念を抱き、東京税関幹部に対し組合対策の徹底を指示したものと認められる。右事実は、全税関労組及び各税関労組に対する基本的な施策が関税局の統一した意思の下、その指示に従ってなされていることを示す徴憑といってよい。

(2) 同年八月一六日の幹部会議では、全国水泳大会(東京税関が幹事庁)に全税関労組員を出場させることにつき、ある次長が「本省の考え方では旧労選手でも名選手がいる場合二〜三名入れるのはやむを得ないと考えるとの回答だ。」と発言し、これを受けて会議では「最終、旧労四、五名でもよかろう。」との結論が出たことが認められる。右事実は、水泳大会参加者の人選という些細な事項であっても、それが全税関労組と関連する限り、関税局の承認なしには決定できなかったことを示すものであり、いかに同労組対策が個々の税関を離れ関税局主導の下に決定されていたことをよく示すものである。

(3) 同年四月一一日の部長会議では、関税局主催の総務部長会議の結果報告として、総務部長が「昇格昇給については、八等級から七等級への昇格の場合差別をつけることについて、当関と神戸は矯正措置があった者に対してのみ慎重にやるべきだとの意見があったが、横浜は当然やるべきだとの意見だった。矯正措置をつけただけでは必ずしも成績不良と判定するのは問題だから成績不良の事実を逐一記録をとっておく必要があるとの意見があった。この問題は大蔵省全体として検討のうえ慎重に実施すべきであるとの意見を述べておいた。」と述べている。

原告らは、右「差別をつける」との意味は全税関労組員を他の職員から差別することであると主張するが、この発言の位置(この発言は、「労務問題」の報告とは別の箇所で行われている)及び客観的文言(ここでは、昇格と矯正措置の関係が議論されているのみである)によると、原告らの主張は失当である。

しかし、右発言は、少なくとも、昇格昇給問題運用について、関税局が、その主催する幹部会議で各税関の意見を聴取し決定していたことを示し、昇給、昇格基準の設定が昇格の意思によりなされていた事実を窺わせるものである。

4  以上を総合すると、全税関労組を敵視、嫌悪する意思は、関税局及びその指揮下にある大阪税関に共通のものであり、しかもその程度は、水泳大会の選手選考にまで影響するほど激しいものであったことが推認できる。

三大阪税関当局の具体的行為に示された差別意思につき判断する。

1 配転問題

(1) <書証番号略>、証人伊藤守の証言、原告平野卓也、同西愛彦、同天川昇各本人尋問によると、以下の事実が認められる。

① 原告組合は、昭和三四年ころから、当局に対し職員の異動につき、いわゆる人事五原則(イ 住居の移転を伴う異動は事前に本人の承諾を得る。ロ 右異動の場合は二年以内に大阪へ戻す。ハ 異動の時期については子弟の教育や寒冷地手当を考慮する。ニ 懲罰的異動は行わない。ホ 組合執行委員の異動は本関内にとどめる。)の確立を要望していた。しかし、当局が文書はもちろん口頭によっても人事異動をこの原則に基づいて行うことを約したことはなかった。また、分裂前においても、原告組合が、イの原則違反を理由に当局に抗議の意思を表明していることからすると、この原則に沿った人事異動がなされていたと認めるに足りない(ただし、ハについては、原告としてこのとおり運用されていた。)。

② 同四〇年四月期の異動において、原告景井隆次に対し桜島出張所から舞鶴支署へ、当時原告組合員であった井口に対し貨物課から田辺出張所へ配置換えが行われた。両名は当時係長相当職にあり、右配置換えにより、原告景井は、舞鶴税関支署業務課長、井口は田辺所長となった。井口は、同年七月ころ原告組合を脱退した。当時係長相当職で原告組合員であった職員は五名程度であった。

③ 同四〇年七月期の異動において、遠隔地配転(住居の移転を伴う配置換え)の対象となった一一名中八名が原告組合員であり、残りの三名は配置先が出身地に近かった。

翌四一年七月の異動においても、遠隔地配転された一三名中の九名が原告組合員であり、残り四名の内、舞鶴に配転された後野正雄は同市の出身者、同じく舞鶴に配転された横田光は宮津市の出身者で舞鶴勤務を希望しており、伏木(富山県)に配転された明野譲は金沢市の出身者であった。

なお、右異動において、原告組合員喜多治生は、富島出張所から敦賀支署へ配置換えとなった。当時右支署に勤務していた田崎剛は、妻の病気等の理由で配置換えを望んでおらず、同年八月一〇日付でなされた本関審理課への内示は、この事情が考慮されて撤回された(ただし、九月二八日再び同様の内示を受け、結局配置換えがなされた。)。

(2) 右事実に基づき判断する。

まず、②の事実については、両名は、管理職職員であり一般的に広域異動の必要性、比率が高いと考えられること、原告景井はそれまで遠隔地配転がなかったこと、同時期に他に遠隔地配転された管理職の人数、人選が全く不明であること、原告組合員でありながら遠隔地に配置換えされなかった管理職員もいたこと等から考えて、差別意思の徴憑とはいえない。

次に③の事実に考えるに、被告は、多くの非原告組合員も、意に沿わず遠隔地支署等に配転されていること、税関長は、配転につき大幅な裁量権を有し、多くの考慮すべき事項を総合判断して配置を決定しているから、単に遠隔地配転された職員中に原告組合員が占める割合が高いとの一事をもって差別意思を推認することはできないと主張する。人事五原則についての前記認定からすると、これまでも意に沿わず遠隔地に配転された職員が存在したであろうことは想像に難くないこと、一般論として、税関長が大幅な裁量権を有し、職員の配置が多面的な事情を考慮して決定されていることは被告の主張するとおりであり、職員全員の意に添った配置を実現することは不可能であり、人事政策上有害でもある。

しかし、右事情を考慮しても、③の事実にみられる遠隔地配転された職員中に原告組合員が占める比率は、後記四3で認定する当時の原告組合員の前職員中に占める比率と対比して余りに高率であり(しかも、原告組合員以外の職員についてはその出身地との関係から意に反して配転されたものではなかった可能性が高い)、右配転が組合分裂(これに対する当局の関与は前記認定のとおり)の直後になされたとの事実をも併せ考えると、これを原告組合員を不利益に扱うとの意思を抜きにした偶然の結果とすることは、経験則に反する(被告は、当該職員を現在の職場に置いたままでは、その職場における公務の能率的運営が阻害されると認められる事由があれば、配転処分によって当該職員をその職場から排除し、もって公務の能率的運営の維持、回復を図ることも許されると主張する。右主張は、一般論として是認できるが、右異動の対象となった原告組合員にこの時期公務の能率的運営を阻害したとの事実を認めるに足りる証拠はない。)。

以上によると、昭和四〇年、同四一年各七月に行われた原告組合員に対する遠隔地配転は、これを配転の必要性その他の事情から生じた偶然の結果と認めるに足りる事情が明らかにならない限り(本件ではこれを認めるに足りる証拠はない。)、大阪税関当局の原告組合及び同組合員に対する不当な差別意思に基づくものと推認するほかない。

2 千船なにわ寮への入寮問題

(1) <書証番号略>、原告西愛彦本人尋問及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。

① 大阪税関当局では、昭和四一年度に独身職員の居住環境の改善と新規採用職員の住居確保のため、従来あった「若葉寮」、「新生寮」を取り壊し「千船なにわ寮」の建築を計画し、翌四二年二月にこれを完成させ、併せて「大阪税関千船なにわ寮管理規則」を制定し、その一条には「この寮は、原則として、新規採用者を入寮させ、寮における共同生活を通じて、税関職員として必要な心身の涵養、錬成を行うことを目的とする。」、六条には入寮資格として「1 大阪税関男子職員、2 原則として二八歳未満の独身者、3 税関職員としての品位を保持し共同生活に適すると認められるもの」と規定した。

原告組合は、同規則の制定を管理体制の強化と捉え、その制定に反対していた。

なお、同規則は、同四六年二月八日改正され、一条は「この規則は、寮の管理及び運営に関し、必要な事項を定め、もって共同生活の秩序を維持し職務の能率的な遂行に資することを目的とする。」と、六条は、「この寮は、原則として新規採用職員を入寮させる。管理者は、入寮の承認を決定しようとするときは、管理人の意見を求めるものとする。寮生が満二八歳に達したときは、原則として退寮するものとする。管理者は、寮生がこの規則に違反し、その他寮の風紀、あるいは、秩序を乱す等、共同生活に不適当と認められる行為をしたときは、退寮、その他の措置を命ずることができる。」等となった。

同四二年二月一七日開かれた税関長交渉において、当局は、同寮の収容予定人員は八四名であるが、同年に新規採用される職員の入寮予定枠を確保する必要があるため、当初入寮者数は六〇名程度とすること、これに対し入寮希望者数は七一名であること、「青葉寮」「新生寮」の入居者の全員が入寮できるわけではなく、「共同生活に堪えられない人、向かない人には入ってもらわない」として入寮できない者もいることを発表した。

同月二七日入寮者が発表され、「青葉寮」「新生寮」居住者の内の七名が入寮を拒否され(内五名が原告野村、同中澄、同古田、同小谷、同稲原である。)、北畠寮への転寮を指示された。なお、原告組合員で入寮を許可された者は二名、非原告組合員で入寮を拒否された職員は二名(内一名は二八歳)いた。また、原告野村は当時二八歳であった。

同年九月新規採用職員の入寮者が決定した時点で、入寮者が当初予定数より減少したため三室が空き室となり、当局はこれを教養室(勉強部屋)に改装した。

同年九月四日開かれた税関長交渉でも、当局は、前記五名の入寮が認められない理由を明確に述べなかった。

② 前記五名は、北畠寮への移転を拒否し、それぞれ「青葉寮」「新生寮」へ居座り、「千船なにわ寮」への入寮闘争を行った。

当局は、同四二年一〇月原告小谷を舞鶴支署、同古田を伏木支署、同稲原を田辺出張所へ配転し、翌四三年一〇月、同野村を和歌山支署、同中澄を七尾支署へ配転し、右闘争は終息した。

右闘争中であった同四二年四月二三日、原告小谷は「青葉寮」の二階北側外壁上部に墨汁で「税関の港の憲兵化反対大阪税関当局は入寮差別をやめろ」の二四文字を大きな文字で書いたため、当局は、同日原告に対し右文字を消去し、現状に回復することを命令したが、同原告がこれに従わなかったため、同年八月五日、同原告を国公法八二条一号、三号により戒告処分とした。

同原告は、人事院に対し同法九〇条に基づく不服申立てをした。人事院は、同四四年七月一一日、「請求者ら(前記原告五名)が希望するなにわ寮への入居を明確な理由を告げられないまま拒否され、かつ、なにわ寮に空き室があるものと信じた請求者らが、この措置を不当差別と受け取り抗議行動に出たことは、うなづけないことはない。しかしながら、そのような理由による抗議行動であっても、おのずからその限度があると考えられ、上記(墨汁で前記文字を書いたこと)のような態様で公用財産を汚損したことが認められる以上問責されたことはやむを得ない。請求者は、北畠寮への移転指示は請求者らの組合活動を困難にするものであって、団結権の侵害であり、請求者らの入寮が拒否された理由について税関当局が「共同生活に不適格」と言明したことは基本的人権の蔑視であると主張するが、これをもって請求者の本件汚損行為を正当化することはできない。」との説示により右処分を承認した。

なお、右審理において、処分者たる大阪税関長は、「請求者らを入寮させなかったのは、請求者らに以前庁舎管理規則違反の事実があり、千船なにわ寮の管理規則を遵守しないおそれがあったため入寮の選考にもれたもので、共同生活に不適格と判断したためではない。」と陳述している。

③ 入寮者の発表がなされた昭和四二年二月二七日時点で、原告野村は原告組合外郵分会分会長、同中澄は青年部役員、同小谷は書記次長、同古田及び同稲原が執行委員であった。

また、右時点までに、原告野村は、同四一年一〇月一日午後一時五五分から原告組合が富島出張所内で昇格差別、不当配転に抗議するため主催した無許可集会に参加したことで矯正措置としての口頭注意、同月二一日午後〇時一六分から原告組合が大阪外郵事務室で行った無許可職場集会に分会長として参加したことで同じく文書注意を受け、同中澄は、同年四月一九日の原告組合が行った無許可職場集会に参加したとして口頭注意、前記一〇月一日の集会に参加したことで口頭注意、同月二一日の梅田事務室での無許可集会に参加、同古田は、一〇月一日の集会に参加したことで口頭注意、同小谷は、四月一九日に富島出張所での無許可集会に参加したことで口頭注意、一〇月一日の集会に参加したことで口頭注意、同月二一日の富島出張所での無許可集会に参加、同稲原は、前記一〇月一日の集会に参加したことで口頭注意、同月二一日の富島出張所の無許可集会に参加、等の庁舎管理規則違反とされる行為を行い、矯正措置を受けていた。

なお、原告組合員で入寮を許可された者の内、原告青木亨純は、前記一〇月一日の職場集会に参加したが、桜井義久には庁舎管理規則違反はなかった。

(2) 右事実に基づき判断する。

① 入寮拒否について

寮管理規則制定それ事態が原告組合員を排除する意図であったとか、入寮希望者の全員を寮生活に必要な施設を犠牲にしてまで当然入寮させるべきとの原告らの主張が認められないことはいうまでもない。また、原告組合員の全員が入寮拒否され、非原告組合員の全員が入寮を認められてはいないこと、当時原告組合が寮管理規則の制定に反対しており、前記原告五名のそれぞれが庁舎管理規則違反による矯正措置を受けていることからすると、同原告らに対する入寮拒否理由が、右態度から同原告らが寮管理規則を遵守することは到底期待できなかったので、入寮資格を定めた管理規則六条三項(税関職員としての品位を保持し、共同生活に適するもの)にあたらないと判断したためであるとの被告の主張もそれ自体としては首肯し得ないではない。

しかし、右原告らは、いずれも当時原告組合の役員であり、その活動に積極的に取り組んでいたこと、庁舎管理規則違反といっても、その内容は、閉庁後あるいは昼の休憩時間を利用して、昇格等差別、不当配転等に抗議する目的で行われた組合運動の一環としての行為であること(右行為が、違法な組合活動であっても、個人的理由で行われた非行とは質的差異があることは承認してよい。)、当局は、当初、入寮を拒否した理由を明確には告げず、しかも人事院の審理での陳述と本件訴訟での主張には、その理由につき微妙なずれがみられること、寮管理規則一条、六条は、昭和四六年の改正により削除されていること、さらに、前記二2(1)及び3で認定したとおり東京税関当局は、新入職員を全税関労組員から隔離するとの意思を有しており、この方針は大阪税関当局も同じと認められること、ところで、同じく東京税関文書(<書証番号略>)によると、同四二年一月一四日付で、同税関内の各独身寮につき入寮職員の組合別所属を示す表が作成されており、新入職員が全員入寮することが予定されている品川寮(昭和四一年三月建築)には、東京税関労組員が一四六名いるのに対し、全税関労組員は一名しか入寮していないことが認められ、右事実からは、東京税関当局が、寮問題を新入職員と全税関労組員とが接触する場所との観点から捉え、その対策を講じていたであろうことが窺え、これらを併せ考えると、大阪税関当局もまた、新入職員を受け入れるため新設した「千船なにわ寮」に原告組合員を多く入寮させないことによりその影響力を遮断するとの方針を採っていたであろうことは想像に難くないことを総合考慮すると、果たして当局が、当時、前記原告らの入寮を拒否するにつき、真実、寮管理規則を遵守しないことによる寮管理運営の混乱のみを理由としたとするには疑問の余地があり、新入職員を原告組合から隔離するため、その有力な活動家である原告らの入寮を拒否したのでないかとの疑いを払拭できない。

② 配転について

同原告らを遠隔地に配転することにより、いわゆる入寮拒否闘争が不可能となったことは認められるが、入寮拒否に抗議する行動形態として、廃寮がすでに決定している寮に居座るとの闘争が、正当な組合活動の範囲を超えていることは明らかであるから、右配転が差別意思に基づくものとの原告らの主張は失当である。

3 いわゆる長谷川問題

(1) <書証番号略>、原告西愛彦本人尋問によると、原告長谷川が伏木署へ配転されてから、亡長谷川昌子が大阪富島出張所へ配転されるまでの経過に関し、原告ら主張の事実が認められる。

(2) しかし、職員配転において、夫婦の同居することが望ましいとしても、それは絶対的な原則ではなく(原告長谷川については、原告らの主張する人事五原則に添う配置換えでもある。)、組織全体の配置との関連において決せられるべきものであり、当該職員の私的希望が当然に叶えられるわけではないことからすると、右事実のみから大阪税関当局の差別意思を推認することはできない。

また、土肥久司との取扱いの差をいう点については、昭和四二年二月当時本人が転勤を希望しなかったと述べる陳述書(<書証番号略>)の信憑性はともかく、戸肥もいわゆる遠隔地配転者であり、早期の大阪配転は本人の希望に添うものであったことは想像に難くなく、二月期の配転が原告組合を脱退したことの報奨であったと認めるに足りる証拠はないから、この点に関する原告らの主張も失当である。

4 勤勉手当の減額支給

(1) <書証番号略>、原告西愛彦、同天川昇各本人尋問によると、以下の事実が認められる。

昭和四三年三月期の勤勉手当につき原告小井田以下一〇名の原告組合員及び非原告組合員約一〇名が、同年六月期の同手当につき原告組合員二名(いずれも査定期間中病休有り)及び非原告組合員数名が、同年一二月期の同手当につき、原告小井田以下三一名の原告組合員が、他の職員の平均手当率より低い率の査定を受けた。同原告らは、平均手当率の支給を求めて、人事院に対し行政措置要求をしたが、同四五年二月一日これを取り下げた。なお、全税関横浜支部は、同四三年三月に行われた勤勉手当の支給において全税関労組に所属したことを理由とする差別取扱いが行われたと主張し、その是正を求めて行政措置要求をしたが、人事院は、同四四年一二月一二日、「横浜税関長の勤務評定は、執務中上司の職務上の命令または注意に従わない行為があったことを勘案した勤務評定であり不当ではなく、さらに全税関労組に所属する職員であっても平均支給率の支給を受けた職員がおり、また、全税関労組に所属しない職員であっても申請者と同率の成績率による支給を受けた者がいることからすると、職員団体に所属関係による一律的な差別扱いをしたとは認められない。」として右要求を排斥した。

同四四年三月期以降には、勤勉手当の支給につき原告組合が問題として取り上げるような事態は起こらなかった。

(2) 右事実に基づき判断する。

① 昭和四三年三月期の支給について

原告らは、差別意思に基づく低額支給であると主張するが、同時期及び同年六月期に低額支給を受けた職員は原告組合員のみではなかったことからすると、低額支給の事実のみから差別意思を推認することはできない。

② 同年一二月期の支給について

<書証番号略>、原告西愛彦本人尋問によると、原告組合は、レクリエーションタイム取り上げ反対闘争の一環として同年六月一七日午後〇時三五分から五五分までの間、富島出張所一階事務室で無許可集会を開いたこと、同年七月一日、右参加者が矯正措置としての訓告を受けたこと、右訓告を受けた職員の大部分が一二月期に低額支給を受けたこと(原告越口稔は低額支給されていない。)が認められる。しかし、他方、<書証番号略>によると、原告組合は翌四四年六月六日にも大阪税関本関玄関前で前記富島集会とほぼ同規模、同時間帯の無許可集会を行い、参加者には訓告あるいは文書による厳重注意がなされたが、同年一二月期には勤勉手当の低額支給は行われなかったことが認められる。

右事実によると、勤勉手当の低額支給が原告組合の闘争に参加したことを理由とした差別意思に基づくものであるとの原告らの主張はにわかに首肯し難い(なお、低額支給は、非違行為を繰り返す職員に対する正当な勤務評定の結果であるとする被告の主張もその前提に疑いが残る)。

したがって、右勤勉手当の低額支給が大阪税関当局の差別意思を示す徴憑であるとの原告の主張は失当である。

5 宿舎入居問題

<書証番号略>、原告天川昇本人尋問によると、原告天川は、昭和四二年に結婚し、同四一年三月に建築された千船宿舎に入居を希望していたがその希望が叶わなかったこと、原告国分は同四五年三月に結婚する予定で前年から枚方等の宿舎への入居を希望していたが、空室がないとの理由で入居できず三ケ月程度民間アパートに居住することを余儀なくされたとの事実が認められる。

原告らは、右事実が原告組合員に対する差別意思に基づくものであると主張するが、原告天川については、当時千船宿舎に空室があったか否か、入居を希望していた職員の人数、職場等がまったく不明であること、同国分の件についても、枚方等宿舎への入居希望職員の有無、その職員の当時の居住環境(原告国分は、実家に居住していたことが認められる。)、職場との距離等の事実が不明であることからすると、同原告らの希望が叶わなかったあるいは入居できなかったとの事実のみから当局の差別意思を推認することはできない。

したがって、原告らの主張は失当である。

6 年次休暇、特別休暇の不承認

(1) 原告天川に対する不承認

① <書証番号略>、原告天川昇本人尋問及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。

原告天川は、昭和四二年一〇月当時、桜島出張所に勤務し、原告組合港頭分会長であったが、同月五日午後一時から大阪税関本関玄関前で行われた原告組合主催の抗議集会に参加するため、職場を離れた。原告天川は、これに先立ち同日午前中に年次休暇の承認権者である所属長に口頭で同日午後一時から四時までの年次休暇の承認を申請した。所属長は、同日は原告天川の直属の上司が職務で外出しており、同原告に年次休暇を与えると保税係員が不在となること、同原告が年次休暇の取得理由を明らかにしていないことを理由として右申請を承認しなかった。原告天川は、当日の天候、他の職員へ援助を申し出ておいたことから業務に支障はないと判断して、承認を得ないまま集会に参加し、同日午後三時ころ出張所に電話連絡したところ、上司が帰所しておらず保税業務が遅滞していることを知り、午後三時三五分ころ職場に戻った。

大阪税関当局は、原告天川に対し、職場を離れた時間について賃金の減額を行い、併せて、同四三年二月二七日付で訓告とした。原告組合は、人事院に対する行政措置要求をしたが、当局の右措置は正当と判断された。

なお、原告天川につき、同年及び同四三年の年次休暇申請につき他に不承認となった事例はなかった。

② 右事実に基づき判断する。

原告らは、右年次休暇申請の不承認は、原告組合の活動を抑圧する意図でなされたものと主張する。

しかし、公務員の年次休暇は、労働基準法(以下、労基法という。)上の年次有給休暇とは異なり、所属長の承認がその効力発生要件であり、所属長は公務の運営に支障がある場合には、不承認とすることができる(このことは旧給与法下でも同一である。)ところ、桜島出張所長の右不承認の判断が誤っていたと認めるに足りる証拠はなく、また、同四二年から同四三年にかけて、原告天川が他にも組合活動を行うために年次休暇の申請をした例があったであろうことは想像に難くないところ、本件で問題になった例以外ではすべて承認されていることは前記認定のとおりであることからすると、原告らの主張は失当である。

(2) 原告畑千穂子に対する不承認

① <書証番号略>、原告天川昇本人尋問及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。

原告畑千穂子は、昭和四四年五月当時大阪外郵出張所に勤務していたが、同月二三日、勤務時間管理員を経て所属長に対し午前一〇時から二時間の年次休暇を申請し、申請書の理由欄(大阪税関長の、「出勤簿の取扱について」と題する同四一年一〇月一四日付通達によれば、年次休暇申請書には、「休暇の理由」を記載する欄が設けられていた)に「所用のため」と記載した。所属長は、「所用のため」ということでは、申請書の記載として不備であり、不承認要件である「公務に支障がある場合」との比較ができないとし、更に詳しい理由の記載を求め、右申請を受理しなかった。これに対し、原告畑はそれ以上の理由を明らかにする必要はないとして、同日午前一〇時三〇分ころ、職場を離れた。大阪税関長は、同年六月一三日、原告畑を、「承認権者から年次休暇の取得理由をただされたにもかかわらず、これを明らかにせず、承認を得ないまま、勤務時間中みだりに職場を離れた。」として訓告した。原告畑は、後日改めて年次休暇を申請し(理由欄は「所用のため」)、所属長はこれを承認した。

なお、大阪外郵出張所では、同年五月二二日にも、原告田中日出夫が勤務時間管理員から「休暇の理由」欄の記載不備を理由に休暇申請を受理しないとの扱いを受け、原告田中は、所属長の承認を得ないまま職場を離れた。この件については、原告田中が、同月二七日再度「所用のため」と記載した休暇申請書を提出することで解決した。

② 右事実に基づき判断する。

労基法上の年次有給休暇については、「年次休暇の利用目的は労基法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由であるとするのが法の趣旨である。」と解するのが相当である(最高裁昭和四八年三月二日同四一年オ第一四二〇号事件第二小法廷判決参照。)この理は、旧給与法下の国家公務員についても、基本的に妥当するものと考えてよい。もっとも、前記のとおり右公務員の年次休暇については、所属長の承認がその効力発生要件とされる点で、所属長が「公務に支障がある場合」との要件を判断する資料(すなわち、公務に支障があると一応判断されるが、年次休暇の取得目的の重大性如何により承認が相当と判断するための資料)として、申請者に対し、休暇利用目的を明らかにすることを求めることは、あながち不当ともいえない(この意味で、大阪税関長の休暇申請書に「休暇の理由」を記載する欄を設けていることは、不当ではない。)。しかし、原告畑が承認を求めた時点で、公務に支障があったと認めるに足りる証拠がない本件にあっては、この場合に所属長が、あくまで「休暇の理由」を明らかにすることを求め、申請を受理しなかったことは、年次休暇の趣旨を理解しない不当な行為であったといわざる得ず、このことからすると、右所属長の処置を是認し、原告畑を訓告した大阪税関長の行為もまた不当なものというべきである。

そこで、右所属長の不受理行為が原告組合員を差別する意図の下になされたか否かにつき考えるに、大阪税関長が訓告したことからすると、右行為が単に大阪外郵出張所長の突出した意思の下に行われたとはいえず、当時大阪税関当局が年次休暇の運用につき従来よりも厳しい態度をとっていたことは認めてよい。しかし、右休暇についての取扱いが原告組合員に対してのみ強化されたと認定できない以上、当局の右態度は職員全体に対する管理体制が不当に強化されたとはいい得ても、直ちに原告組合員に対する差別意思の徴憑とまではいえない(この当局の態度は、後にいわゆる非違行為を判断するうえで考慮される事実ではある。)。

したがって、原告らの主張は失当である。

(3) 原告黒杉に対する不承認

① <書証番号略>、原告天川昇本人尋問によると、以下の事実が認められる。

原告黒杉は、昭和四四年一二月当時、大阪税関梅田出張所に勤務していたものであるが、同年一二月二七日施行された衆議院議員の総選挙に際し、不在者投票(同原告は、同年一〇月一日付で田辺出張所から配置換えになり枚方市に転居したため、不在者投票の要件を備えていた。)する目的で、その投票用紙の交付等の手続を行うため、同年一二月六日、同月八日午前中二時間の特別休暇を申請した。当局はこれを承認しなかったにもかかわらず、同原告が同日右手続のため出勤しなかったため、当局は、同四五年一月支給の給与から欠勤時間分を減額した。

同原告は、右減額処分に対し、同年一月二三日人事院に行政措置要求したが、認められなかった。

なお、同原告は、同四四年一二月二三日特別休暇を承認されて、枚方市選挙管理事務所で不在者投票を行っている。

② 右事実に基づき判断する。

原告らは、右特別休暇の不承認が、差別意思に基づくものであると主張するが、右不承認が不当であったと認めるに足りる証拠はない、のみならず原告稲原寛については京都支署が特別休暇を承認していることからすると、原告黒杉に関する不承認が原告組合員であることを理由とする差別とはいい得ないから、原告らの主張は失当である。

7 サークル活動からの排除

(1) ラグビー部の件

<書証番号略>によると、昭和四一年一月二〇日、当時大阪税関ラグビー部の主将になった直後の川村洋三が原告組合に脱退届けを出し、その中で「クラブ運営をスムーズにすすめていく上で、全税関労組にとどまることは間接、直接に障害となってくることは(現下の当税関の状況からみて)歴然としている。」と記載していることが認められる。原告小井田は、右記載は、川村が主将として原告組合に留っている場合には当局がラグビー部をつぶすか第二ラグビー部を作る恐れがあったことの証左であると供述する。

しかし<書証番号略>によると、当時のラグビー部は、原告上西がマネージャーをしていたほか、三名の原告(他元原告一名)が加入しており、同四四年三月以降は原告宮島が主将となった事実が認められることからすると、川村の脱退届けは、当時の大阪税関ラグビー部では原告組合に留まりにくい空気があったことは認められるにしろ、それを超える趣旨でなされているとの原告小井田の供述は憶測に過ぎず、他に、原告らの主張を認めるに足りる証拠はない。

(2) 剣道部の件

<書証番号略>、原告小井田治郎本人尋問によると、常岡貴善は、昭和四二年四月大阪税関に入関し、同年九月からは剣道部に入部し、将来を嘱望されていた(同四七年二月には三段に昇段していた。)。常岡は、同四七年二月大阪税関労組を脱退し、原告組合に加入したが、このころから堺支署に配置されていたので、本関の練習にはほとんど参加していなかった。同人がある日、剣道部に練習に行くと、マネージャーである藤本等から「部員は君と練習したくないと言っている。」等と言われ、事実上同部を退部したことが認められる。原告小井田は、常岡が右扱いを受けたのは原告組合に加入したからであると供述するが、右認定事実のみではこれを認めるに足りないし、仮に、原告小井田が供述する事実が認められたとしても、これを大阪税関当局の差別意思と結びつけることは困難である。

(3) 卓球部の件

<書証番号略>、原告小井田治郎本人尋問によると、原告虫明博子は、昭和二八年大阪税関に入関し、同三〇年ころ卓球部に入部したこと、分裂後の同四一年春には同部で唯一の原告組合員であったこと、そのころ、部長から「脱退してはどうか」と言われたこと、以上の事実が認められるが、右事実から、当局が同原告を差別意思をもって卓球部から排除したと認めることはできない。

(4) サッカークラブの件

<書証番号略>、原告小井田治郎本人尋問によると、以下の事実が認められる。

① 昭和四五年三月二一日、原告西、同長谷川と当時大阪税関労組に加入していた佐藤、清川、谷口(千船なにわ寮の寮生)が私的なサッカークラブである「オフサイズ」を結成した(遅れて同寮の寮生であった元村、林田が加入)。同クラブ結成後、同寮の副管理人であった新井敏男は、谷口に対し、「寮にサッカー部を作らないか」と呼び掛けたが、同人に断られたため、同寮にサッカー部を作った。これにより元村及び林田は同クラブを辞め、内一名は寮のサッカー部に加入した。

もっとも、新井は、陳述書(<書証番号略>)で、「谷口とサッカー部のことに関して一度も話し合ったことはない」、「当時同寮内に、サッカー経験のあった松下、佐竹、元村、林田らが発起人となって、同好会をつくろうという気運があって、自分もグランド捜し等側面から援助したもので、道具類は、寮生らが自費を積み立て、月賦制で購入していた。」と述べる。しかし、新井の供述は、敢えて原告組合員と一緒になってもサッカー部を作ろうとするほどサッカーに対し情熱をもっており、寮にサッカー部を作ろうとの気運があったとしたら当然その中心となるべき谷口(寮生)と寮のサッカー部に関し何らの会話もなかったとする点で措信できない。

② 右事実に基づき判断する。

新井が自らの意思で、千船なにわ寮にサッカー部を作ったとの事実だけなら、同人が寮の副管理人の立場にあったことから考えて、差別意思とは無関係の事柄である。しかし、右結成時期が「オフサイズ」の結成の直後であること、寮生間に同好会結成の気運があったことは事実としても、それまで結成できなかった部が、この時点で、しかも最もこれに積極的であったはずの佐藤や谷口を抜きに結成されていること、当時原告組合は組織拡大の対象を大阪税関労組加入の青年職員に置き、同労組青年部との共闘あるいは彼らに対する組織加入の運動を積極的に繰り広げていたことが認められること(<書証番号略>)、等を併せ考えると、新井が、「オフサイズ」から非原告組合員を引き離すとの意図の下に、新たに寮のサッカー部を結成し、その活動を積極的に援助したとの事実が推認できる。

当局が新井にサッカー部の結成を指示したり、これに経費等の援助を与えたとの証拠はない。しかし、新井が個人として私的なクラブにすぎない「オフサイズ」の活動を妨害する意図で、新たな部を結成するまでの行為をするとは到底考え難いことからすると、少なくとも、同人の行為の背後には、青年職員を原告組合から隔離するとの当局の意思を窺うことができるというべきである。

(5) 柔道部の件

<書証番号略>、原告小井田治郎本人尋問によると、以下の事実が認められる。

原告乾は、昭和二八年三月大阪税関に入関し、同時に柔道部に加入、同二九年から同四三年まで柔道部を代表して、全国税関柔剣道大会及びその他の公式試合に出場し、同四一年からは主将を努める等積極的に活動したが、同四七年ころ同部を事実上退部した。また、原告金谷は、同時期に入関、入部し、同二九年から同三六年まで全国柔剣道大会に出場する等同部の中心選手であったが、分裂の前後ころ同部を事実上退部した。

原告らは、右退部は税関当局が原告乾らを柔道部から排除する方針を採ったからだと主張する。確かに、原告乾は、橋本正義から、原告組合を脱退するようにとの度重なる勧告を受けたことが認められるが、同原告の陳述書(<書証番号略>)によっても、橋本は同原告に対し柔道部をやめろとは言っていないこと、同原告は主将も勤め、四三年までは同部を代表して全国大会にも出場していることからしても、右原告両名の退部が当局の原告組合員をサークル活動からの排除するとの意思に基づくとは認められない。

8 結婚妨害問題

(1) <書証番号略>、原告小井田治郎本人尋問によると、以下の事実が認められる。

富島出張所の総括審査官であり、かつカウンセラーであった町田実近は、昭和四七年一月一三日、同人の一存で当時同所の職員であった畑勉の兄を呼び出したうえ、同人に対し、畑勉が原告畑(旧姓北山)範子との結婚を予定していることに関し、勉の健康問題とともに、畑と同原告の所属組合が異なること及び同原告の人格を非難する言動を行い、両人の結婚を延期してはどうか等と述べた。このため、勉の家族は従来の態度を変え、結婚に反対し始めたが、両人はこれを説得し、予定通り結婚した。

町田は、これに先立つ前年一二月二〇日も、勉に対し「結婚しても範子に引っ張られて原告組合に入るようなことをするな。」との趣旨に言動を行った。

もっとも、町田は、「税関の生活指導員の立場から結核にかかった経験のある勉の健康を心配して結婚について兄と話し合ったにすぎず、結婚に介入する意図などなかった。」と弁解している。しかし、町田は、勉本人から相談を受けたわけでもないのに、同人の了解を得ることもなく兄と会い、同原告及び勉の組合所属のことまで言及していることからして、右弁解は到底措信できない。

(2) 右事実に基づき判断する。

町田の前記言動が、上司あるいはカウンセラーとしての職務を逸脱し、勉及び同原告の人権を侵害するものであることは明らかである。

そこで、右行為と当局の差別意思との関連につき考える。

町田の言動それ自体は、その態様からみて、同人個人の原告組合に対する敵対意識と誤った管理意識の所産であり、大阪税関当局の指示に基づくものとは到底考えられない。しかし、同人が分裂後の昭和四一年・総務部会計課長補佐、同四二年・総務部厚生課長、同四四年・税関研修所研修課長等を歴任し職員教育に携わった経験を有する幹部職員であること(<書証番号略>)、当局が町田の言動を調査し、その結果を踏まえてしかるべき処置を採った形跡が全くないことに鑑みると、町田の言動が当局の意図を超えたものであったことは疑いないにしろ、その背景に当局の原告組合に対する差別意思を読み取ることは容易である。

9 現認体制の問題

本件では、被告から原告組合員らの非違行為を立証する書面として<書証番号略>(この間の一部は除く。)のいわゆる現認書が提出されている。

原告らは、現認書が原告組合の活動を監視し、原告組合員を不利益に取り扱うとの当局の意図の下に作成されたと主張する。

しかし、現認書の作成を命ずる行為自体は、当局が、非違行為の現状を正確に把握し、しかるべき処置をとることにより職場秩序の回復、業務の円滑な遂行を期するために必要かつ有益であること、当局が原告組合員についてのみ現認書の作成を命じたと認めるに足りる証拠がないことからすると、現認書の作成自体が当局の差別意思に基づくとの原告らの主張は失当である。

なお、現認書の証拠価値、評価、その利用の仕方等についての問題点は後に説示する。

10 新大仏寺での研修問題

(1) <書証番号略>、証人伊藤守、同野口英世の各証言、原告天川昇本人尋問によると、以下の事実が認められる。

大阪税関当局は、昭和四六年一〇月一一日、一二日の両日、伊賀上野市にある新大仏寺において、原告組合員を部下に持つ主任、係長相当職にある職員一五名を集め、研修を催した。研修では、総務課長、同補佐、会計課長、人事課長補佐が、労働情勢、労務管理、庁舎管理規則、服務規律等につき講演を行い、この中で原告組合の分析及び当局の組合活動対策が話された。この研修会は、事前に研修命令、出張命令が発せられていなかった点(このことは、出勤簿に参加者の内の一一名が出張と記載し、残りが年次休暇あるいは空欄であったことから認められる。)及び大阪税関から遠く離れた場所で開かれた点で異例の研修であった。

(2) 右事実に基づき判断する。

被告は、右研修は、正当な組合活動を超えて非違行為を繰り返していた原告組合に対する対策を講ずるのは当然であり、その結果、原告組合の活動が一定限度で制約されることになったとしても、正当な組合活動を抑制する意図でなされたものではないから、当局の差別意思を示すものではないと主張する。

当時原告組合が、無許可職場集会等のいわゆる非違行為を繰り返していたことは後に認定するとおりであるから、その対策のために研修を催したとしても差別とならないことは被告の主張するとおりである。

しかし、第六七回国会衆議院法務委員会で青柳盛雄議員の質問に対し森谷大蔵大臣官房審議官は「当局は、税関職員がいかなる組合に属しているかは認識していないから、部下に全税関労組員を抱えている職制だけを意識的に集めたかどうかも知らない。」と答弁し、右研修が原告組合対策(すなわち、被告のいう非違行為対策)であること自体を否定していること、さらに、右研修会において人事課長補佐として服務規律につき講演した伊藤守はその証言中で、非違行為対策の研修が行われたとは一言も述べていないこと(仮に被告が主張する趣旨の研修なら同人はそのとおり述べるはずである。なお、同人は、研修内容についての原告ら代理人の質問に対し、自らの講演部分である服務規律の点につき抽象的に述べるだけで他はすべて記憶にないという。しかし、この研修がいわゆるマル生だと騒がれ、さらに国会の委員会でも取り上げられ関税局幹部が答弁していることからすると、これにつき大阪税関内部でもその対応が話し会われたことは疑いなく、右時点から六年余りを経過して行われてた証人尋問とはいえ、同人が研修内容に記憶がないとする点は到底措信できない。)からすると、右研修は被告の主張する趣旨を超え、当局の原告組合に対する差別政策を徹底することを目的としたものではなかったかとの疑いは払拭できない。

11  以上によると、原告らが大阪税関当局の差別意思を示すものと主張する具体的事実の中には、差別意思を推認させるもの(1、7(4)、8)、差別意思に基づくものではないかとの疑いを払拭できないもの(2(2)①、10)があり、全体として当局が原告組合及びその組合員に対し差別意思を有していたと認めるに十分である。

四関税局の人事政策に示された差別意思につき判断する。

1 税関における昇任、昇格及び昇給の法定要件と通常の取扱いについて

(1) 昇任、昇格及び昇給についての法定要件は、第二(当事者間に争いがない事実等)二本件係争期間中の税関職員の昇任、昇格及び昇給制度の概要で判示したとおりである。

(2) そこで、法定要件に基づく実際の運用につき考える。

別表1、2(これらを同期入関者の昇格等の推移を俯瞰的に把握するものとして使用する限り事実認定の資料としてよいことは前記のとおり)から認められる同期入関者の昇任、昇格、特昇状況、<書証番号略>により認められる若年職員の特昇実態、<書証番号略>中(いずれも、その形式及び記載内容から関税局管理課作成の文書と認められる)の「指定職・行政職(一)年令別・等級別在職状況(含む上級職)」と題する表によると、職員の年齢上昇と等級の上昇とは四等級まで相関関係が認められること、証人伊藤守の証言によると、いわゆる復職時調整の名の下に病休等で長期に休職していた職員が復職した場合に復職時に休職開始時よりもはるかに高い等級に昇格する取扱いが行われていたことが認められ、人事政策としてこのような取扱いを行う必要があることはとりも直さずその背景に税関における同期入関者の昇給等に関する年功序列的な運用の実態があることが認められること、さらに被告においても、同期入関者の昇給等が年功序列的に運用されていること自体を積極的に争ってはいないことを併せ考えると、大阪税関を含む各税関において、同期入関者は、原告らがその格差を問題としている四等級までの昇任、昇格及び特昇については、ほぼ均一に処遇するとのいわゆる昇給等についての年功序列的運用がなされていることが認められる。

2 関税局文書に示された税関当局の差別意思につき判断する。

(1) 関税局文書の形式的証拠力につき考える。

原告らが関税局文書として証拠提出している文書は、<書証番号略>である。

このうち、<書証番号略>以下の文書については、その形式及び記載内容から関税局が作成した文書と認めてよい。

<書証番号略>につき考えるに、この書証は、「人事課長会議の開催及び議題について」との題で始まる一体の四葉の文書(<書証番号略>〜以下イ文書という。)、「議題3 特定職員の上席官昇任及び7級格付等について」との題で始まる二葉の文書(<書証番号略>〜以下、ロ文書という。)、「(参考)総務部長会議(61.3.19)の討議概要」との題で始まる一葉の文書(<書証番号略>〜以下、ハ文書という。)、「昭和60度(第2回)総務部長会議討議概要」との題で始まる二葉の文書(<書証番号略>〜以下、ニ文書という。)の四文書からなる。このうち、イ、ニ、の各文書は、その形式及び記載の内容からこれに対応する関税局作成の文書の存在を認めてよい。また、ハ文書については、これとロ文書との関係はともかく、ニ文書により、同六一年三月一九日開催の総務部長会議で特定職員についての上席官昇任及び七級昇格問題が討議されたことが認められること並びにその形式及び記載内容から同日「特定職員の上席官昇任及び7級格付」につき討議された内容を関税局が文書化したものとしてこれに対応する文書の存在を認めてよい。次に、ロ文書のうち二枚目の「(3) 4、5、6級格付」以下の部分(以下、不真正部分という。)を除く部分については、これが、イ文書の議題4欄の(別紙)であるとは認められないとしても(議題番号が異なる)、その形式及び記載内容からイ文書を作成する過程で関税局により起案されたものと推認することができるからこれに対応する文書の存在を認めてよい。しかし、不真正部分については、それ以外の部分とは筆跡が異なり、内容にも連続性が認められず、かつ、用紙の横枠にもずれが認められることからみて、それ以外の文書と一体とは認められないので、形式的証拠力は認められない(もっとも、ニ文書一枚目には「(3) 5級及び6級昇格(別途連絡)」との記載が認められることからすると、あるいは不真正部分がこれに該当するとの推測も不可能ではないが、原告らが同部分とそれ以外の文書部分を一体の文書として提出している以上、形式的証拠力は否定せざるを得ない。)。

(2) 右証拠によると、関税局文書(ロ文書不真正部分を除く)は、関税局が、昭和五八年九月の税関長会議、同年一〇月の総務部長会議、同五九年二月の税関長会議、同年三月の総務部長会議、同六一年三月一九日の総務部長会議、同年四月一〇日、一一日の人事課長会議で主催者として討議した事項あるいは討議を予定した人事政策を内容とするが、このうち、全税関労組に対する差別意思を示す事実は、以下のとおりである。

① 上席官への昇任について

Ⅰ ハ文書には、昭和六一年三月一九日開かれた総務部長会議の討議概要として、「(1) 棒給表の11級制移行により、7級昇格の足がかりとして今後上席官要求が強まろう。(2) 上席官の昇任については、特定職員の50歳以上の殆どは資格基準表の要件を満たしており、また、一般職員の上席官への任用及び職場での上席官の運用実態並びに特定職員の年齢構成等から、現状(60年任用6人占有ポスト9)程度では対内・外ともに説明が難しい。(3) 仮に欠格条項に該当する者を除く全員を昇格させたとしても占有ポスト数は70名から80名くらいであり、全上席官数の1割にも満たないので上席官任用は可能であるとする考え方と一般職員との均衡上(上席官未昇任者の存在)及び特定職員に対する上席官運用の継続性からも少なくとも26年次を中心とする年齢構成については、上席官昇任にあたって絞りをかけ選考すべきであるとする考え方があった。」と記載され、ロ文書(不真正部分を除く)には、ハ文書と同一の内容が記載されているのに続き「② 上席官昇任の選考対象は年齢、在級とも若干前広に選考すべきであるとの考え方もあるが、あまり昇任時の年齢を下げると選考対象者が著しく増加すること、退職時までの配置ポストとの絡み(経験させるポスト数)、8級昇格への期待感が増幅等が考えられるところから、前年度基準(55歳かつ在級6年)のままで運用することについてはどうか。③ 上記①前段の考え方(ハ文書(2)の考え方)を踏まえ、60年度の任用数は、60年度の任用数(6人、占有9ポスト)5割増程度(9人から10人、占有15から16ポスト)とすることはどうか。仮に特定職員の年齢構成等からみて更に増やすとした場合、任用数の上限はどの程度が適当と考えられるか。④ 選考基準及び任用数等について上記以外の意見があれば、予め報告を求め討議する。」と記載されている。

Ⅱ 右記載につき判断する。

同記載のうち、「特定職員」とは、右文書にいう昭和六〇年度の上席官任用数六名及び占有ポスト数九が全税関労組の内で上席官にある者の数と一致すること(<書証番号略>、原告天川昇本人尋問)及び同文書にいう五〇歳以上でかつ在級六年の資格を有する者を上席官に昇任させた場合の占有ポスト数七〇ないし八〇が全税関労組員で同六〇年三月三一日現在右資格を満たす者が八一名であること(<書証番号略>)とほぼ符合することからみて、税関当局内部で全税関労組員を呼称する際に使用されていた言葉であると認められる。

次に、同記載によると、全税関労組員の上席官昇任については、上席官昇任資格として同六〇年度まで五五歳かつ在級六年の要件が設定されていたことが認められる。これを一般職員に関する基準と対比すると、人規九―八(昭和四四年五月一日施行)別表第二等級別資格基準表イ行政棒給表(一)等級別資格基準表が上席官職(課長補佐相当職)の該当等級(行政職棒給表(一)等級別標準職務表による)である四等級初級高校卒欄に必要経験年数一七年以上(高卒三五歳)、必要在職年数四年と規定し、同六〇年の給与法改正に伴い改正された人規によっても行政職棒給表級別資格表Ⅲ種高校卒七級欄に必要経験年数一八年(高卒三六歳)、必要在職年数二年と規定されていること及び後記②Ⅰで認定するとおり全税関労組員以外の職員については四級昇格には上席官に二年以上存在することが要件とされていることを加味すると、一般職員の上席官昇任の資格基準年齢は一応三八歳であることが認められるから、約一七年の開きがあることになる(もちろん、右人規の基準は最低限の資格要件を定めたものであり、右要件を満たす職員が全員上席官に昇任するものではないが、その点では、全税関労組員に対する資格要件もこの要件を満たす職員全員は昇任していない〔<書証番号略>によると、昭和六一年七月一日現在で右資格要件を満たす四五名中上席官昇任者は一五名であることが認められる。〕のであるから、両資格要件を比較することは正当である。)。

また、「一般職員についての上席官任用及び職場での上席官の運用実態並びに特定職員の年齢構成等から現状程度では対内・外とも説明が難しい云々」、「特定職員に対する上席官運用の継続性云々」との記載によると、当局は、これまで全税関労組員に対し前記差別基準を設定し、これに沿った運用を行ってきたが、格差があまりにも拡大したため、税関内部及び外部からの批判を交わし切れないとの基本的認識に立って、右特別基準を緩和し、一般職員との格差を縮小するとの方針の下に、格差の解消に積極的な考え方と消極的な考え方が対立し、結局折衷的な解決を図る方向で一応の一致をみたことが認められる。

② 七級昇格について

Ⅰ ハ文書には、前記総務部長会議の討議概要として「7等級昇格については、7級は従来の4等級であり、上席官は基本的には7級であるという職員感情から上席官であれば退職時までに7級に格付けすべきであるとの考え方と一般職員との均衡上(一般の上席官が全て退職時までに7級に格付けされるとは限らない。)から選考を行うべきであるとの考え方があった。」と記載され、ロ文書(不真正部分を除く)には、「(2) 7級格付け」との題の下に「①一般職員の昇格との均衡上、上席官在任2年以上の者とすることについてはどうか。この場合上席官昇任の上限年齢をどのように考えるか。② 在任期間に関係なく退職前1〜2年前に昇格させることにしてはどうか。」と記載されている。

Ⅱ 右記載につき判断する。

同記載によると、当局は、七級昇格についても、全税関労組員については一般職員とは別の差別基準を設けることを当然の前提として、これにより生じる格差の程度につき討議をしていることが認められる。

③ 五級及び六級昇格について

ニ文書には「(3) 5級及び6級昇格(別途連絡)」と記載されていることが認められる。右記載だけで、前記総務部長会議での全税関労組員の五級及び六級昇格につき差別基準の設定が討議されたと認めることはできない。しかし、イ文書議題4、ニ文書の(2)の記載によると、いずれも全税関労組員に関する事項についてのみ(別紙)とか(別途連絡)とか記載され、他の議題についてはこのような記載がないことからすると、少なくとも、総務部長会議で全税関労組員の五級及び六級昇格についても何らかの討議がなされたのではないかとの疑いは残る。

(3) 以上によると、昭和六〇年度の時点では、少なくとも上席官昇任・七級昇格につき全税関労組員に対し差別基準が設定されていたこと及び右基準が従前からの継続性を有するものであったことが認められ、右事実から本件係争期間中においても、昇任、昇格、特昇につき全税関労組員に対してのみそれ以外の職員とは別の差別基準が設定されていたことを推認するのは容易である。

被告は、同年度における討議内容を直ちに本件係争期間中の差別意思の存在に関連づけることができないのは自明と主張する。しかし、右討議が、これから適用する差別基準を設定する目的で討議されたのではなく、これまでの基準の適用によりあまりにも拡大した格差を是正するためのものであることはその記載から明らかであること、全税関労組は、差別により生じた格差の是正を求め、同四九年本件事件を含め四件の訴訟を提起しており、右訴訟の経過が同五八年度の関税局の最高幹部会である税関長会議で「給与等損害賠償請求事件の現状と問題点について」として討議されている(<書証番号略>)ことから考えて、同六〇年度に至りそれまでなかった差別基準を新たに設定するとは到底考えられないことからして、被告の主張は失当である。

3 昇給等の具体例

(1) 昇任

① 当事者間に争いがない事実

昭和二五年に大阪税関に入関した旧制中学校若しくは新制高校卒の資格を有する職員二三名中、同五三年九月二五日の時点で、非原告組合員は、同四一年度二名、同四二年度一五名、同四六年度一名が主任相当職に昇任しているのに対し、原告組合員は、同四六年度二名、同四七年度二名、同四八年度一名しか昇任していない。

同二八年に入関した新制高校卒の資格を有する職員一九名中、前記年月日の時点で、非原告組合員は、同四三年度一名、同四四年度一名、同四五年度四名、同四六年度一名、同四八年度二名、同四九年度三名(いずれも女子)が昇任しているのに対し、原告組合員が、同四八年度に五名、同五〇年度に二名(いずれも女子)が昇任しているにすぎない(なお、平野卓也が右年月日の時点で原告組合員であった事実は、同人本人尋問により認められる。)

同三二年に入関した新制高校卒の資格を有する組合員一二名中、前記年月日の時点で、非原告組合員は、同四六年度に三名、同四七年度に四名が昇任しているのに対し、原告組合員は、同四八年度に一名、同四九年度に三名、同五〇年度に一名が昇任しているにすぎない。

② <書証番号略>、原告小井田治郎本人尋問によると、平成元年四月の時点で昭和二四年から同四〇年までに大阪税関に入関した職員の地位(平審査官〔係長相当職〕、上席官〔課長補佐相当職〕、統括官及び八級上席官〔課長相当職〕)を比較すると、すべての入関年次において原告組合員は最下級の役職に位置し、同三五年以前に入関した非原告組合員で上席官以上に昇任していない者は存在せず、同三九年入関者の半数が上席官に昇任しているにもかかわらず、同二六年に入関した原告谷沢・同小井田・亡清水弘三は、未だ上席官にすらなっていなかったこと、さらに、平成二年の時点では、昭和二四年から同三六年までに入関しながら上席官に昇任していない職員二三名中で非原告組合員は二名(男女各一名)にすぎず、比較対象を同三九年入関者までひろげても上席官に昇任していない職員五三名中で非原告組合員は一一名(男子六名、女子五名)であることが認められる。

(2) 昇格

<書証番号略>によると、全税関労組員全体中、昭和四〇年から同四五年までの間、五等級から四等級、六等級から五等級への昇格者はいなかったこと、同四六年からは昇格者が出た(同年五名、同四七年一二名、同四八年六四名、同四九年一〇三名)が、例えば、同四六年、四七年の五等級昇格者は、その大半が六等級一四号からの昇格であったこと、大阪税関作成の同四二年八月一日付発令通知(<書証番号略>)によると、五等級昇格者は六等級九ないし一一号俸からなされるのが通常であることが認められる。

(3) 特昇

<書証番号略>によると、本件係争期間中の特昇の運用実態につき以下の事実が認められる。

(以上において、「仮定数」とは、全税関労組員ないし原告組合員が他の職員と平等に特昇したと仮定した場合の人数であり、各特昇定数×全税関労組員数〔原告組合員数〕÷全国職員数〔大阪税関職員数〕によって求めることとする(小数点以下切捨て)。なお、昭和四〇年から同四八年までの全国職員数、大阪税関職員数及び各特昇定数については当事者間に争いがない。同四九年の特昇定数は同四八年と同率と推定して算出した。全税関労組員数及び原告組合員数については、訴状での主張数と<書証番号略>を比較し少ない数値を採用した。)。

① 全国税関

年度 職員数 全税関労 特昇定数 仮定数 全税関

組員数 特昇数

四〇 七四七二   一七二二  七三六 一六九 七

四一 七四九〇   一一七三  七四八 一一七 五

四二 七四九〇   一〇三九  七四九 一〇三 八

四三 七五三五   九四一  一〇九五 一三六 〇

四四 七五七〇   八五〇  一一〇三 一二三 〇

四五 七六二五   七四七  一一一一 一〇八 〇

四六 七六七四   六九七  一一一六 一〇一 六

四七 七六九三   七一九  一一一九 一〇四 八

四八 七七三一   七二六  一一二六 一〇五 一八

四九 七七六四   七三八  一一三〇 一〇七 五一

② 大阪税関

年度 職員数 原告組 特昇定数 仮定数 原告組合

合員数 特昇数

四〇  八八七   二四七  八六 二三 〇

四一  八九六   一三〇  九〇 一三 〇

四二  九〇〇   九〇  九一 九 〇

四三  九〇五   八六  一三二 一二 〇

四四  九一〇   八四  一三三 一二 〇

四五  九二一   八二  一三四 一一 〇

四六  九三二   八四  一三七 一二 一

四七  九五六   九四  一三七 一三 〇

四八  九七三   九七  一四〇 一三 二

四九  九七七   一〇〇  一四〇 一四 七

(4) 右の具体例が当局が差別基準を設定した結果であるとの原告らの主張については、後記争点三での判断事項と重なりあうので、ここでの判断は留保する。

五以上によると、関税局及び大阪税関当局は、全税関労組及び原告組合を一貫して敵視、嫌悪し、原告組合員らに対し、差別意思に基づく取扱いを行ったものと認めてよい。

(争点三〜格差は差別意思により生じたものかについて)

一非違行為の主張、立証の訴訟手続上の問題につき判断する。

1 被告は、本訴が提起された後六年余りを経過した第二五回口頭弁論期日(昭和五五年九月一〇日)において、原告組合員らと同期入関者との給与格差は原告組合員らの非違行為に由来すると主張し、これを立証する証拠として、第三三回口頭弁論期日(同五六年一一月二六日)以降順次前記現認書を提出し、また、原告組合員らの出勤状態が不良であることを立証する証拠として、第八一回、八二回各口頭弁論期日(平成三年七月八日、同年九月二日)に原告組合員らの出勤簿(<書証番号略>)を提出した。

原告らは、右主張、立証は時期に遅れた攻撃防禦方法であると主張するが、本件訴訟経過に照らして、右主張、立証が時期に遅れたとは到底いい難いから右主張は採用できない。

2 前記現認書の一部には、原告となっていない職員らの氏名部分を黒く塗って削除した部分がある。

原告らは、このような文書は証拠能力を欠くか、そうでないとしても信義則上証拠としての提出が許されないものと主張する。

しかし、証人板東邦治の証言によると、右現認書は、同人が原本(一部は写し)を複写機で複写したものであり、右黒塗り、プライバシーの保護と人事管理上の秘密保持の観点から書証として提出するに当たり非原告職員の氏名部分を秘匿する目的で行ったものであることが認められる。被告は、右複写した文書を原本として証拠調べ請求したものであるから、その証拠能力が認められることは勿論、これをもって信義則に違反するとの原告らの主張も失当である。

二原告組合員らの勤務成績について判断する。

1 勤務成績の概念

国公法七二条一項は「職員の執務については、その所属庁の長は、定期的に勤務成績の評定を行い、その評定の結果に応じた措置を講じなければならない。」と規定し、これを受けて人規一〇―二第二条一項は「勤務評定は、職員が割り当てられた職務と責任を遂行した実績(以下、勤務実績という。)を当該官職の職務遂行の基準に照らして評定し、ならびに執務に関連して見られた職員の性格、能力および適性を公正に示すものでなければならない」と規定している。右規定によると、勤務成績は、勤務実績(職員が就いている官職の職務遂行基準に照らして判断される実績)と執務に関連して見られた性格(積極的、慎重、温和といった言葉で理解されるような個人の置かれた環境に対して示す比較的一貫した情意傾向)、能力(判断力、指導力、企画力といった言葉で理解されるような個人の環境への知的、身体的適応力)、適性(性格、能力その他を総合して見られる特定の職務に対する適、不適)とに分けられる。

本件で原告らが問題としている昇任、昇格、特昇と勤務成績とのつながりは法令上以下のとおりである。

(1) 任用全般 職員の任用は、受験成績、勤務成績又はその他の能力の実証に基づいて、これを行う(国公法三三条一項)。

(2) 昇任 昇任は、従前の勤務実績に基づく選考により行うことができる(国公法三七条二項)。

(3) 昇格 職員を昇格させる場合には、その者の勤務成績が良好であることが明らかでなければならない(人規九―(8)第二〇条関係1)。

(4) 特昇 特別昇給は、勤務成績が特に良好である場合に行うことができる(給与法八条)。

右規定によると、昇任、昇格、特昇はいずれも勤務成績を基準に決定すべきものとされている(なお、昇任が「勤務実績」に基づく選考とされ、「勤務成績」とされていない理由は明らかではないが、法が昇任に限り執務に関連して見られた性格、能力、適性を考慮対象からはずしたものとは解されない。)

2 原告組合員らの勤務実績

原告組合員ら各自が作成した陳述書(<書証番号略>)及び原告天川昇、同西愛彦、同小井田治郎、同常田邦男各本人尋問中には、原告組合員ら各自が同期入関者と勤務実績において差がないとする記載あるいは供述がある。

これらの中にはある程度客観的な執務態度、実績が窺える部分があるが、専ら自己評価であり、他の職員との比較という観点から記載されていないことからすると、右証拠のみで原告組合員らの勤務実績が同期入関者と同等であると認定できないことは被告の主張するとおりである。

しかし、関税局文書中の前記「給与等損害賠償事件の現状と問題点について」(<書証番号略>)には「当局側は、個別立証として、現認書等を書証として提出するとともに当時の職場の管理者を証人に立てて現認書等記載事実の存在及び原告らの勤務成績不良の事実を補強して立証していくこととしているが、現認書等の大部分は原告らの組合活動に係るもので、給与等に最も影響を及ぼす勤務成績不良の事実を証するものが少なく……このため、証人の証言によりこれらを補強し、裁判官の心証形成が当局側に有利に働くよう努めているが、当時の職場管理者の大部分が既に退職し、現職にあっても退職年齢が近付いているため、証人の適格者の確保が難しい状況となってきている。」と記載されていることからすると、被告は、本件で原告組合員らの勤務実績不良を立証する意図の下に訴訟活動を行ったことは明らかである。そして、被告が、原告虫明が同四七年六月三〇日、誤って必親展文書を開被しながらその後これを否認したことに対し、税関長が矯正措置としての文書による厳重注意をしたことを非違行為と主張し、その理由として、証人伊藤守が「不適切な業務処理を行ったことが勤務成績判定の一つの要素となる。」と証言していること、また、原告満生明厳の勤務態度を立証するものとして<書証番号略>(原告満生の直属の上司が同原告の最近の勤務状況につき下津税関支署長に提出した報告書)を提出していること、さらに、東京税関文書(<書証番号略>)によると、同四二年四月一一日の部長会議で、東京税関の総務部長が、「矯正措置をつけただけでは必ずしも成績不良と判定するのは問題だから成績不良の事実をちくいち記録をとっておく必要があるとの意見があった。」と発言していることからすると、現認書は服務規律違反行為に限定せず、職員の業務処理あるいは勤務状況等をもその対象としていたことが認められるのであるから、原告組合員らの勤務実績不良を証する現認書等が存在するなら当然当法廷に提出されてしかるべきである。しかるに、本件で、勤務実績に関する現認書、報告書は前記二例を除いて提出されず、証人伊藤守、同田口義忠、同川端修、同吉川一成、同上林半三郎、同野口英世(いずれも非違行為等を立証する目的で申請された証人)の各証言でも、具体的に勤務実績不良の事実に触れるのは、原告西の同四一年から同四二年にかけての保税倉庫での勤務及び原告松田隆雄の同三四年の伏木支署での勤務についてのみであったことからすると、原告組合員らの勤務成績のうち勤務実績に関する部分は、他の職員に比べ劣るものではなかったと推認すべきである。

3 原告組合員らの執務に関連してみられた性格、能力、適性

(1) 非違行為について

<書証番号略>、証人伊藤守、同田口義忠、同川端修、同吉川一成、同上林半三郎、同野口英世、同坂東邦治の各証言及び弁論の全趣旨によると、原告組合員らが本件係争期間中、原告組合員一覧表の「非違行為」欄に記載された(その略号の説明は添付資料説明書記載のとおり)行為を行い(原告組合員ら各自が作成した陳述書中には、一部現認書の記載が不正確であると指摘している部分があるが、それとて記載内容が誇張であるとか場所的にわずかな差異があるといった程度にすぎず、全体として、右行為を行ったこと自体は自認しているものと認めてよい。)、「処分等」欄記載の懲戒処分又は矯正措置を受けたことが認められる。

右行為を分類すると、別紙「原告らの非違行為と服務規律等の関係について」のとおりとなる。この内、執務時間内・職場内⑦(前記原告畑千穂子の年次休暇不承認の件)、同⑧(前記原告黒杉の年次休暇不承認の件)、執務時間外・職場外①ないし④(④は前記原告小谷の入寮拒否闘争の件)の各一件及び執務時間内・職場内⑩のうちの相当部分の行為は原告組合の活動の一環として行われたものである。

(2) 原告らは、被告が非違行為として主張する原告組合の活動は、当局から全税関労組及び原告組合に対して加えられた多種多用な卑劣極る組合破壊攻撃に対抗し、組合員の生活と権利及び人間としての尊厳を守るために行われた正当なものであるから、そもそも非違行為とならないと主張する。

確かに、関税局及び大阪税関当局が、組合分裂の後、本件係争期間を通じて全税関労組及び原告組合を嫌悪、敵視していたことは前記認定のとおりであり、このことからすると、原告組合の活動がこれに対抗するものとして行われたとの右主張には首肯し得る点もないではない。しかし、動機の如何が行われた行為の全てを正当化するものでないことはいうまでもない。

そこで、非違行為として主張された原告組合の組合活動の主たるものにつきその正当性を判断する。

① 庁舎管理規則違反行為

労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで使用者の所有し管理する物的施設を使用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが当該施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められる特段の事情がある場合を除いては、当該施設を管理利用する使用者の権限を侵し企業秩序を乱すものであり、正当な組合活動にあたらないと解するのが相当である(最高裁昭和五四年一〇月三〇日第三小法廷判決参照)。

大阪税関当局は、昭和三三年一月一四日庁舎管理規則を制定した(同四三年二月九日改正〜<書証番号略>)。同規則一二条一項は「管理者及び貸与庁舎等管理者(以下、管理者等という。)は、庁舎等をその目的外に使用しようとする者があるときは、別途の使用許可申請書を提出させ、許可を受けさせるものとする。」、同規則一四条一、二項は「管理者等は、庁舎等において管理者等の定める掲示場所以外の場所で掲示を行わせてはならない。ただし、特別の理由がある場合において管理者がやむを得ないと認めたときは、この限りではない。管理者等は、前項の掲示を行おうとする者があるときは、別途用紙によってあらかじめその掲示について許可を受けさせるものとする。」、同規則一六条一、二項は、「管理者等は、集団をなして陳情しようとする者に対して庁内の秩序を維持するため必要があると認めるときは、その人数、面会時間又は面会場所を指定するものとする。管理者等は、集団をなして陳情しようとする者に対してその人数、行動その他の事情から判断して示威運動となる虞れがあると認めるときは、庁舎等への入場を禁止するものとする。」、同規則一八条は「管理者等は、(1)職員に面会を強要する者、(3)旗のぼり、宣伝ビラ、プラカードの類及び拡声器、宣伝カー等を庁舎内において所持し、使用し若しくは持ち込み又は持ち込もうとするもの、(7)庁舎内において多数集会をした者に該当すると認められる者に対して庁内の秩序を維持するため必要があるときは、その行為を禁止し、又は庁舎等から直ちに退去することを命ずるものとする。」、同一九条は「管理者等は、(2)庁舎等に掲揚され、掲示され、貼られ若しくは搬入された旗、のぼり、宣伝ビラ、文書、図面、プラカードの類又は庁舎等に搬入された拡声器、宣伝カーの類等に該当する物がある場合において庁舎の秩序を維持するため必要があると認めるときは、直ちにその所有者、占有者又は当該各号に規定する行為をした者にその撤去又は搬出を命ずるものとする。」と規定している。

前記現認書によると、被告が非違行為として主張する各行為は右規定に違反する行為であることが認められる。

そこで、前記特段の事情の有無につき考える。

原告らは、同規則制定当時の税関長と原告組合との間で同規則を組合活動に適用しないとの合意が成立し、組合分裂までは右合意が守られていたと主張する。<書証番号略>及び証人伊藤守の証言によると、当局が原告組合の活動に対し庁舎管理規則を適用し、その違反を取り締まるようになったのは昭和四一年春ころからであることが認められるが、適用前の原告組合の活動が適用後と同程度に過激なものであったと認めるに足りる証拠はないこと(分裂前の原告組合の活動の程度については争点二の一1で認定したとおりである。)からすると、それまで適用されなかったとの事実のみから直ちに右合意の存在を推認することはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない(原告平野卓也本人尋問中の合意があったとする供述は措信できない。)。とすると、先に認定した組合活動の動機を考慮しても、なお、特段の事情があったとは認められないから、庁舎管理規則違反の組合活動が非違行為でないとする原告らの主張は失当である。

② 職務専念義務違反

国家公務員は、法律又は命令の定める場合を除いては、その勤務時間及び職務上のすべてをその職責遂行のために用いるべき義務を負う(国公法一〇一条〜以下、職務専念義務という。)。原告らは、リボン・プレート等を着用する行為が組合活動として行われた場合であっても具体的に執務を妨げるものではないから右義務に違反しないと主張する。しかし、リボン・プレート等の着用が組合活動として行われた場合にあっては、右行為は当然に職場の同僚に対する訴えかけという性質を持つのであるから、仮に身体活動の面だけからみて職務の遂行に特段の支障が生じなかったとしても、精神活動の面からすると注意力のすべてが職務の遂行に向けられなかったものというほかないから、職務専念義務に違反すると解するのが相当である(最高裁昭和五二年一二月一三日第三小法廷判決参照)。

したがって、リボン・プレート等を着用する行為が職務専念義務に違反するとの司法判断が定着したのが本件係争期間終了後であり、同期間中にはこれを正当とする裁判例及び人事院判定もあったこと、その着用目的が当局の原告組合敵視政策を糾弾するものであったこと等の事情を考慮しても、右行為が正当な組合活動であったとする原告らの主張は失当である。

③ 組合掲示板への違反文書の掲示

大阪港湾合同庁舎管理規則(<書証番号略>)二〇条二項但し書は、職員団体が所管庁等において職員団体用として指定された掲示場所に組合文書を掲示する場合は当局の事前許可を不要としている。しかし、同条六項が「行政官庁ないし公務員の政治的中立性に疑いを生じさせるおそれのあるもの。その他違反のおそれがあるものについては当該掲示物の撤去を命じ又はこれを撤去するものとする。」と規定しているので、当該文書の内容如何によっては、組合掲示板への組合文書の掲示もまた非違行為となるものというべきである。

そこで、掲示文書の内容につき検討する。

Ⅰ 原告奥谷昌三・同竹田弘の件

<書証番号略>によると、右原告らが組合掲示板に掲示した文書は、春闘勝利と題する檄文であり、その文書の一部に「佐藤内閣打倒」の文言があったことが認められるので、同文書は、人規一四―七の六項一二号にいう政治目的を有する文書に該当すると認めるのが相当である。

Ⅱ 原告常田の件

同原告が昭和四六年七月一四日行ったとされる非違行為は、<書証番号略>によっても、文書内容につき「ストライキ宣言のビラ」としか記載されていないので、この件につき判断することはできない。

Ⅲ 原告黒杉の件

ⅰ 同原告が昭和四七年五月一九日行ったとされる非違行為は、<書証番号略>によっても、文書内容につき「ストライキ宣伝のビラ」としか記載されていないので、この件につき判断することはできない。

ⅱ 証人吉川一成の証言によると、同原告が同四八年一〇月一五日掲示した文書には、「田中内閣打倒」の文言があったことが認められるので、同文書は、人規一四―七の六項一二号にいう政治目的を有する文書に該当すると認めるのが相当である。

ⅲ 同原告が同年一二月四日行ったとされる非違行為は、証人吉川一成の証言によっても、「文書の内容はストライキ文言が入ったもの」としか認定できないので、この件につき判断することはできない。

Ⅳ 原告松本義紀の件

同原告が昭和四二年一〇月一五日行ったとされる非違行為は、<書証番号略>によっても、文書内容につき「10.26ストライキ宣言文書」としか記載されていないので、この件につき判断することはできない。

Ⅴ 原告鎌田信市の件

ⅰ 同原告及び原告常田が昭和四八年五月一八日に行ったとされる非違行為は、<書証番号略>によっても、文書内容につき「ストライキ宣言の文書」としか記載されていないので、この件につき判断することはできない。

ⅱ <書証番号略>によると、原告鎌田が同四八年一二月三日掲示した文書は、公務員に禁止される争議行為を煽るものと認められるので、違法文書に該当するものと認めるのが相当である。

右事実からすると、組合掲示板に掲示する行為の内にも非違行為となるものが含まれていることが認められる。

④ 以上によると、原告らの主張にもかかわらず、組合活動としてなされた行為の圧倒的大多数は、動機の点はともかく、その行為自体は非違行為に該当するものといわざるを得ない。

(3) 被告は、原告組合は、非違行為として主張された行為以外についても過激かつ不当な闘争方針に基づく集団的非違行為を繰り返してしたと主張し、具体例を挙げるので、これにつき判断する。

① 人権侵害行為

Ⅰ <書証番号略>、証人伊藤守の証言によると、原告組合員は、原告組合の方針に基づき、昭和四六年三月一六日、当時の大阪税関長宅及び総務部長宅へ昇任、昇格差別反対の抗議行動に押し掛け、税関長宅周辺の電柱等に「大阪税関当局は、昇任、昇格の差別をやめよ。」等のステッカー数十枚を貼ったこと、翌日総務課長が、原告小井田に対し「あんな赤軍派みたいなことをしてもらっては困る。税関長はお会いになる意思はないから。」等言ったにもかかわらず、原告組合員は、翌年二月一日にも、職場交渉に応じないとして、税関長宅及び総務部長宅に対する抗議行動を行ったことが認められる。右私宅への抗議行動が正当な組合活動の範囲を逸脱するものであることはいうまでもない。

Ⅱ <書証番号略>、原告小井田治郎本人尋問によると、原告組合員は、同四七年二月ころ、前記結婚妨害問題の当事者である町田実近の居住している神戸市東灘区渦ケ森団地(約一〇〇〇戸)に二度に渡り結婚問題に介入したことに対する抗議のビラ(その内、二月二日のビラは町田の顔写真入り)を配付したことが認められる。右結婚妨害問題に関する町田の行為が不当であることは前記認定のとおりであることからすると、右抗議行動の動機には頷ける点はあるとしても、当事者の自宅付近で顔写真まで入ったビラを大量に配付する行為は到底正当な組合活動とはいえない。

② 税関記念行事に対する妨害行為

<書証番号略>、原告二神守、同小井田治郎各本人尋問によると、原告組合及び同組合が加盟する大阪港湾労働組合協議会は、大阪税関当局が、昭和四七年一一月二八日開催を予定していた大阪税関創立一〇〇周年記念行事の挙行を阻止、妨害する目的で、一日税関長を委嘱されていた個人に対する参加取り止め要請の手紙の送付、抗議集会、ビラの配付、プレートの着用、セスナ機等をチャーターしての宣伝活動等を繰り広げ、右記念行事の一環として開催が予定されていた堺支署での行事の開催を中止に追込んだ。右行為は、税関の信用を失墜させ、その業務運営を阻害するものであり、到底正当な組合活動とはいえない。

③ ストライキ実行行為

<書証番号略>、原告小井田治郎本人尋問によると、原告組合は、昭和四八年四月二七日、国公共闘共通及び全税関労組独自の各要求を掲げてストライキを行うことを呼び掛け、原告組合員は、午前九時一〇分の出勤猶予時間終了まで登庁しなかった。

公務員は、同盟罷業、怠業その他の争議行為をなし、又は企て、そそのかし等をしてはならない(国公法九八条二項)のであるから、原告組合のストライキの呼び掛けが正当な組合活動といえないことは明らかである。

④  以上によると、本件係争期間中の原告組合の活動の内には、非違行為として主張された以外にも違法な活動と評価されるものがあったことが認められる。

(4) 出勤状況について

<書証番号略>及び弁論の全趣旨によると、原告組合員らには、原告組合員一覧表「非違行為」欄記載の欠勤及び同表「備考」欄記載の病気休暇(給与法一四条の三)及び原告永渕良隆についての病気休職(国公法七九条一項)があるほか、以下のとおりの目立った病気休暇及び事故(事前に承認権者の承認を得ることなく年次休暇若しくは病気休暇を取ること)があることが認められる(なお、事故の回数は被告の主張による)。

(以下、原告は原告番号で表示する。)

原告2 昭和四六年三七日と二八時間、四八年(以下、年数は昭和)七七二時間、四九年上期五一〇時間の病休

原告4 四七年一八日と一六時間の病休

原告5 四七年事故二九回

原告10 四五年二四日と一六時間、四六年一〇日と四時間、四八年一二日と一二時間、四九年上期五日と四時間の病休、四六年事故三二回

原告11 四二年三五回、四三年三一回、四七年四三回、四八年二六回の事故

原告12 四五年二四回、四七年二七回の事故

原告16 四八年一二日と五三時間の病休

原告17 四六年一四日と二四時間、四七年二七日と八三時間、四八年一一日と六〇時間の病休、四六年五九回、四七年七九回、四八年二七回の事故

原告19 四四年二二日と一二時間、四五年一八日と八時間、四六年九日と一二時間、四七年四一日と二五時間、四八年五四日と三二時間、四九年上期一九日と二〇時間の病休、四四年五五回、四五年四九回、四六年三九回、四七年六六回、四八年四五回の事故

原告20 四二年四日と八時間、四三年五日と四時間、四四年六日と一〇一時間、四八年二三日と三六時間、四九年上期一一日と八時間の病休、四二年六一回、四三年四三回、四四年二五回の事故

原告23 四四年一二日と一六時の病休、四二年三一回、四三年三一回、四四年三九回、四五年二八回、四六年三二回、四七年二六回の事故

原告26 四九年上期一二日と一二時間の病休

原告27 四六年二六回の事故

原告29 四二年一四日と一二時間の病休

原告34 四七年一八日と四時間、四八年一四日の病休、四七年二九回の事故

原告37 四三年一〇日と八時間の病休

原告46 四五年一二日と四時間、四六年一三日と一六時間、四七年二七日と六八時間の病休、四四年二四回、四五年五二回、四六年四九回の事故

原告48 四八年一九日と二四時間の病休

原告51 四二年三四回、四三年三〇回、四五年四〇回、四六年三九回、四七年四四回の事故

原告52 四五年二〇日と一六時間、四七年一〇日と四時間、四八年一九日と一六時間、四九年上期一三日と一二時間の病休、四二年三二回、四三年二五回、四四年三二回、四六年四七回、四七年四二回の事故

原告55 四七年三〇回の事故

原告56 四七年一六日と一六時間、四八年一五日と四時間、四九年上期六日と四時間の病休、四六年四〇回、四七年四六回、四八年三三回の事故

原告62 四八年一〇日と二四時間の病休

原告63 四八年九日と一六時間、四九年上期四日と一六時間の病休、四五年三八回、四七年二七回の事故

原告64 四六年一〇日と一二時間、四七年九日と四時間、四九年上期八日と三一時間の病休、四七年二九回の事故

原告65 四七年五七日と四七時間、四八年四〇日と三二時間、四九年上期一三日と一六時間の病休、四五年二五回、四六年五七回、四七年八六回の事故

原告66 四八年一七日と五時間、四九年上期三四日と二〇時間の病休、四五年三一回、四六年四一回、四七年三〇回の事故

原告67 四八年一一日と二〇時間の病休

原告70 四四年二八日と五六時間、四六年九日と八時間、四七年二一日と八時間、四八年二四日と一四時間、四九年上期一二日の病休、四四年一〇六回、四五年五二回、四六年五六回、四七年五八回、四八年四七回の事故

右事実によると、非原告組合員の出勤状況が明らかになっていない本件において、正確な意味での比較は不可能であるものの、原告組合員らの内には、その出勤状況が非原告組合員と同等であると認定するのが困難な者もいるといわざるを得ない。

(5) 非違行為等が執務に関連してみられた性格、能力、適性に与える影響

国家公務員は、全体の奉仕者として、これにふさわしい人格、見識を保持し、国家行政に対する国民の信頼を確保するように努めるべき職責を負っていること、税関業務は、輸出入に関し国民の行動を規制すべき業務を含むものであるから、これを担当する職員においてはいやしくも国民から法規を遵守する態度に疑いをもたれることがないよう職務を遂行することが巌に要請されていること、殊に、原告らが本件で差別を問題にしている六等級以上の等級に該当する職員は、その職責上管理職の職務を遂行することが予定されていることは、「行政職棒給表(一)等級別標準職務表」により明らかであることからすると、以上で認定した非違行為と出勤状況が、勤務成績の一方の要素たる執務に関連してみられた「性格」、「能力」、「適性」、殊に「適性」を評価するうえで不利に働くことは観念的、抽象的にはこれを肯定すべきである。

4 そこで、本件で認定した格差と非違行為等との関連につき判断する。

(1) 非違行為等の程度

① 非違行為について

原告組合員らが、非違行為に対し、懲戒処分、矯正措置(措置として重い順に訓告、文書による厳重注意、口頭による厳重注意)及び所属長の説諭(以下、処分等という。)を受けたことは前記認定のとおりであり、証人伊藤守の証言及び弁論の全趣旨によると、大阪税関当局は、各非違行為を慎重に検討し、その態様、個人の役割に応じ、処分等を行ったことが認められる。

<書証番号略>及び弁論の全趣旨により、本件係争期間中に原告組合員らに対して行われた処分内容及びその対象となった行為を検討すると、以下のとおりであることが認められる。

(略号は、文注は文書による厳重注意、口注は口頭による厳重注意、説諭は所属長による説諭であり、その他は「添付資料説明書」のとおりである。)

原告1 無

原告2 四一年説諭・集、四二年説諭・集、四三年訓告・集

原告3 四二年説諭・集、文注・集、四六年文注・集

原告4 四六年口注・集、四七年口注・プ

原告5 四一年口注・集、説諭・集、四二年文注・集、説諭・集、四三年訓告・集、四四年文注・集、四六年口注・集、四七年口注・プ

原告6 四一年口注・集、四三年訓告・集、四六年口注・集、四七年口注・プ

原告7 四一年口注・集、説諭・集、四二年説諭・集、四四年文注・集

原告8 無

原告9 四一年説諭・集、四二年説諭・集

原告10 四一年口注・集、文注・集(二回)、四二年訓告・集等(二回)、四三年訓告・集、四四年訓告・集、四六年訓告・集、四七年訓告・集及び抗、口注・プ、訓告・座、四八年訓告・集及び抗等

原告11 四一年口注・集、文注・集(二回)、四二年文注・集(二回)、説諭・集、四三年訓告・集、四四年文注・集、四六年口注・集、四七年口注・プ

原告12 四六年文注・暴、四七年口注・プ、文注・座

原告14 四一年口注・集、四二年説諭・集(二回)

原告15 四六年口注・集、四七年口注・プ

原告15 四四年文注・集、四六年口注・集

原告17 無

原告18 四一年口注・集、四六年口注・集

原告19 四一年口注・集、説諭・集、四二年説諭・集(二回)、四三年訓告・集、四四年文注・集、四七年口注・プ

原告20 四一年口注・集、四二年説諭・集、四六年文注・リ、四七年口注・プ

原告21 四一年口注・集、説諭・集、四二年文注・集、説諭・集、四三年訓告・集、四四年文注・集四七年口注・プ

原告22 四一年口注・集(二回)

原告23 四一年口注・集(二回)、説諭・集、四二年説諭・集(二回)、四三年訓告・集、四七年文注・開、口注・プ

原告26 四一年文注・集、四二年文注・集(二回)、四七年口注・プ、四八年懲戒処分(減給)・傷

原告27 四一年口注・集、四四年文注・集、四七年口注・プ

原告28 無

原告29 四一年口注・集、文注・集、四二年文注・集(二回)、訓告・集等、四三年訓告・集

原告30 無

原告31 四一年文注・集、四二年説諭・集、四三年訓告・集

原告32 四一年口注・集、説諭・集、四二年説諭・集(二回)、四三年訓告・集、四四年文注・集、四六年訓告・集、四七年口注・プ、文注・座、四八年文注・座及び抗

原告34 四七年口注・プ 四八年文注・抗及びス等

原告35 四一年口注・集、説諭・集、四二年説諭・集、文注・集等、四三年訓告・集、四四年訓告・集、四七年口注・プ

原告36 四一年口注・集(二回)、文注・集、四二年文注・集、訓告・集及び抗等(二回)、四三年訓告・集、四四年訓告・集、四六年訓告・集、四七年訓告・集、口注・プ、四八年訓告・集及び座等

原告37 四二年説諭・集、文注・集

原告38 四六年文注・リ、四七年口注・プ

原告39 四一年口注・集、四二年説諭・集、訓告・集等、四三年訓告・欠、訓告・集、四四年訓告・集、四七年口注・プ、文注・座

原告40 四一年口注・集、説諭・集、四二年説諭・集、訓告・集等、四三年訓告・集、四七年口注・プ

原告43 四一年口注・集、四二年説諭・集、文注・示、四六年訓告・集

原告46 四一年口注・集、説諭・集、四二年説諭・集(二回)、四三年訓告・集、四四年訓告・離(ただし、この措置は不当であることは前判示のとおり)、四六年口注・集

原告48 四七年口注・プ

原告50 四一年説諭・集、四二年説諭・集、訓告・集等、四四年訓告・集、四七年口注・集

原告51 四一年口注・集(二回)、四二年文注・集、説諭・集、四三年訓告・集、四七年口注・プ

原告52 四一年口注・集、説諭・集、四二年説諭・集、四三年訓告・集

原告53 無(非違行為も無)

原告54 四一年口注・集(二回)、説諭・集、四二年説諭・集(二回)、四三年訓告・集、四四年文注・集

原告55 四三年説諭・集、訓告・集等、四七年口注・プ、四八年文注・集及びス

原告56 四二年文注・集、四四年訓告・集、四七年口注・プ、四八年訓告・座及び抗等

原告57 四一年口注・集、説諭・集、四二年説諭・集、四七年口注・集、四八年口注・プ(二回)、四九年口注・プ

原告59 四一年説諭・集、四二年説諭・集、四九年口注・プ

原告60 四一年口注・集、説諭・集、四二年説諭・集(二回)、文注・示、四七年口注・プ

原告61 四一年説諭・集、四二年説諭・集(二回)、四七年口注・プ

原告62 四七年口注・プ

原告63 四一年口注・集(二回)、四二年文注・集、説諭・集、懲戒処分(戒告)・墨、訓告・集等、四八年訓告・抗及びス等

原告64 四七年口注・プ

原告65 無

原告66 四一年口注・集、説諭・集、四二年説諭・集(二回)、四三年訓告・集

原告67 四一年口注・集(二回)、説諭・集、四二年説諭・集、四三年訓告・集、四五年懲戒処分(減給)・窃、四七年口注・プ、文注・座

原告68 四一年口注・集、説諭・集、四二年文注・集等、説諭・集、四六年文注・リ、四七年口注・プ

原告70 四二年説諭・集、四七年口注・プ

右事実によると、原告組合員らの内に本件係争期間中組合活動を理由とした懲戒処分を受けた者はいないこと、矯正措置の中で最も重い訓告を受けた者は二六名であること(最も軽い口頭注意にとどまる者は一二名)、七名の者は矯正措置はおろか所属長の説諭すら受けていないこと(内一名については非違行為自体がない)、非違行為の中で圧倒的多数を示すプレート等の着用行為は、昭和四六年まで矯正措置の対象となっていなかったことが認められる。

② 出勤状況について

原告組合員らの出勤状況は、先に3(4)で認定したとおりである。ここで問題となる一年の内一〇日以上の病休及び事故のある原告組合員らは五九名中三四名(内六名については事故があるのみ)であり、残りの者については出勤状況が他の職員に劣るとは考えられない(ただし、非違行為とされた欠勤は除く。二七名については欠勤はない。)。

(2) 非違行為等と格差間の有意的関連性

① (1)で認定した非違行為と昇任、昇格、特昇との対応関係が全く説明できない例を挙げると以下のとおりである。

原告1 処分等歴無、出勤状況不良無にもかかわらず、本件係争期間中特昇せず(四九年下半期昇格)、課補佐相当職への昇任が一〇年余り遅れる。

原告8 処分等歴無、出勤状況不良無にもかかわらず、本件係争期間中特昇せず、昇格が七年遅れ、主任相当職への昇任が六年遅れる。

原告9 矯正措置歴無、出勤状況不良無にもかかわらず、二六年入関後四九年一月一日まで特昇せず、昇格が同期入関者の多数(一一名中九名)の者に比べて二年以上遅れ、主任相当職への昇任(以下、昇任という場合は主任相当職へのそれをいう。)が二年遅れる。

原告12 四五年一〇月の暴力行為により四六年に文書による厳重注意を受けるまで処分等歴無(非違行為もプレート着用で四四年に八回、四五年に一回)、出勤状況も病休無(四五年に事故二四回)にもかかわらず、四五年までに同期入関者の五〇名中四六名が昇任、昇格したにもかかわらず、昇任、昇格しなかった。また、原告11とは処分等歴、非違行為の数に格段の差があるにもかかわらず、同時期(四八年七月一〇日)に昇任し、五等級昇格(四九年一月一日)も半年しか差がなかった。

原告17 処分等歴無、出勤状況も四六年ないし四八年を除いては病休すらなかったにもかかわらず、本件係争期間中特昇せず、同期入関者一〇名中九名が昭和四六年までに昇任し、八名が昇格したにもかかわらず昇任、昇格しなかった。また、病休を取った後四八年に昇任し、四九年に昇格した。

原告28ないし32

原告28及び原告30は、いずれも処分等歴無、出勤状況不良無である。他方、原告29は訓告二回、文書による厳重注意三回及び四二年に病休有、原告31は訓告、文書による厳重注意各一回、原告32は訓告二回、文書による厳重注意三回の処分等歴がある。にもかかわらず、原告28及び原告30は、本件係争期間中同期入関者が少なくとも二回以上特昇しているのに特昇せず(処分等歴がある原告31は四八年に特昇している。)、昇任で、同期入関者から原告28で二年、原告30で一年、昇格でいずれも一年遅れている。他方、原告28と原告32は処分等歴に圧倒的差があるにもかかわらず昇任、昇格に差がない。

原告50ないし57及び59

原告53は処分等歴(非違行為自体も含めて)無、出勤状況不良無である。他方、原告50は訓告二回、原告51は訓告、文書による厳重注意各一回、事故有、原告52は訓告一回、四五年、四七年ないし四九年病休有(事故も有)、原告54は訓告、文書による厳重注意各一回、原告55は訓告、文書による厳重注意各一回、事故有、原告56は訓告二回、文書による厳重注意一回、四七年ないし四九年に病休有(事故も有)である(原告57及び原告59は口頭による厳重注意、説諭のみ)。にもかかわらず、全員が本件係争期間中一回も特昇せず(同期入関者全員が一回以上特昇)、同期入関者と昇格に一年の差がある。他方、原告51、原告53、原告54は四九年一月一日に、他の原告は同年下半期にそろって昇格している。

原告62 四七年までは処分等歴無、出勤状況不良無にもかかわらず、本件係争期間中特昇しなかった(同期入関者は四六年に昇格し、四一年に一回目の特昇をしている。)

原告65及び66

原告65は処分等歴無、原告66は訓告一回にもかかわらず、共に本件係争期間中特昇せず、昇格にも差がなかった。

② 次に、原告職員らの非違行為等と特昇との関係を検討する。

前記認定により、原告職員らの処分等歴を年毎に計算すると、以下のとおりとなる。

四一年 文注八件、口注三七件、説諭二三件

四二年 懲戒処分一件、訓告一〇件、文注二〇件、説諭四二件

四三年 訓告二二件

四四年 訓告七件、文注九件

四五年 懲戒処分一件

四六年 訓告四件 文注五件、口注八件

四七年 訓告三件、文注五件、口注三四件

四八年 懲戒処分一件、訓告四件、文注三件、口注二件

四九年 口注二件

これと、先に認定した原告組合員の特昇者数が四〇年度ないし四五年度までが〇名、四六年度一名、四七年度〇名、四八年度二名、四九年度七名であること、さらに<書証番号略>によると、本件係争期間経過後である昭和四九年一二月二六日、組合活動を理由として原告組合員らの内、四名が懲戒処分としての戒告処分、七名が訓告、九名が文書による厳重注意を受けていることが認められることから明らかなとおり、同年中に非違行為が減少したとは到底考えられないにもかかわらず、<書証番号略>によると、五〇年度の特昇者数が一〇名に増加していること(全税関労組全体では七八名)が認められることを併せ考えると、両者間に対応関係があるとすることは不可能である。

③ 右各事実によると、非違行為等と格差との間に有意の関連性を認めるのが困難な事例が少なからず存するというべきである。

もっとも被告は、右理由として二つの点を主張する。

Ⅰ 一つは、非違行為等にかかわるマイナス事情の存否は、考慮される諸般の事情の内の一部分にすぎず、そのほかに在職年数、経験年数、在級年数のほか、原告組合員らの勤務成績におけるプラス事情の存否も考慮され、それ以外の人事政策上の諸要素をも勘案し、それらが総合判断された結果であるとの主張である。

しかし、まず、在職年数、経験年数、在級年数については、本件係争期間前(すなわち分裂前)に、原告組合員らと同期入関者に給与格差はなかった(ただし、原告1につき四号俸、同2につき五号俸、同7、8、14、16、27、65ないし67につき一号俸の遅れは認められる。)のであるから、本件係争期間における給与格差を説明し得ないし、また、プラス事情の存否は、原告組合員ら各自の昇給、昇格、特昇に差が生じていることの説明とはなっても、原告組合員らの中で最も昇給等が早いものでも同期入関者との間に格差があることを説明する根拠とはならない。さらに、人事政策上の諸要請とは何かは判然としないが、それでは非違行為等があっても昇給等したことは説明できても、非違行為等がない者の昇給等の遅れている理由を説明できないものというべきである。

Ⅱ 他の一つは、非違行為に親和的な意識、性格及び行動傾向や公務員の基本的義務に対する認識の欠如、服務に関する反規範的態度が昇給等に影響するとの主張である。

被告のこの主張の背後にある考え方は、非違行為等が全くない原告上西弘にも格差があることの説明により明確に示されている。すなわち、被告は「原告上西は、本件係争期間中、昭和四四年から四六年までの間を除き原告組合員であり、このことからすると、他の原告らと同様原告組合の過激かつ不当な闘争方針及びこれに基づく組織的、集団的非違行為を支持、同調し、組合活動であれば税関業務の正常な運営を阻害し、税関業務に対する国民の信頼や税関及び税関職員全体の名誉を毀損し、職場秩序を乱し、公務員の服務規律に違反することになっても構わないとする独善的かつ偏向的な考え方を保持し、さらには、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務すべき公務員の基本的義務を軽視し、服務に関連する反規範的態度を保持していたものと認めざるを得ないのであり、このことは、同原告が、本件訴訟において、他の原告らとともに、本件係争期間当時の原告組合の組織的、集団的非違行為が正当であったとし、これに対する当局の対応をすべて不当であると主張していることからも明らかであって、これは、同原告の勤務成績のマイナス事情であり、人事上不利に処遇される要因となるものである。」と主張する。

しかし、全税関労組は、国公法一〇八条の二にいう「職員団体」であり、同条の三にいう「登録」を受け、同条の五にいう交渉を行い、その役員については、いわゆる在籍専従の許可すら与えられる(同条の六〜現に原告38は昭和四三年に同許可を受け休職している。)団体である。そして、同条の七は「職員は、職員団体の構成員であること、これを結成しようとしたこと、若しくはこれに加入しようとしたこと、又はその職員団体における正当な行為をしたことのために不利益な取扱いを受けない。」と規定している。勤務成績のうえで、不利益に取り扱うことが許されるのは、職員団体における正当でない行為をした場合のみである。本件係争期間中の原告組合の活動に正当でないものがあったとしても、それは、原告組合の活動の一部であって全部ではない。被告の主張は、同条の文言に反するのみならず、同条が、憲法二八条が労働者の団結権を保障している下にあっては当然の事柄を、戦後公務員の労働関係に見られた職員団体と当局との間の無用な対立の解消を目指し、消極的な形で当局の職員団体への不当な干渉を戒めるため、あえて、昭和四〇年の改正により追加されたものであることの趣旨、経緯を全く理解しないものとして不当である。本件係争期間中の原告組合員らに対する勤務査定がこの主張どおりの考え方で行われていたとすると、それこそまさに差別意思に基づく人事査定として違法である。

5  以上によると、2で認定したとおり原告組合員らの勤務実績が非原告組合員らと比較して劣るものではなかったとの推認が可能であること、3で述べたように非違行為等が「執務に関連してみられた適性」に反映することはあったとしても、4で述べたとおり非違行為等と格差との間には有意的関連性を認めるのが困難が事例が少なからずあること、関税局が全税関労組においてプレート着用闘争等の非違行為を頻発しなくなったと認識した(<書証番号略>)後においても、前記認定のとおり全税関労組員に対する昇任、昇格についての差別基準を設定していたこと、右差別基準の是正についても、非違行為等の関連は一切議論されず、専ら格差の拡大に対する税関内部及び外部からの批判を交わすとの観点でのみ議論されていること、税関において昇任、昇格、特昇の運営がいわゆる年功序列的になされていることをも併せ考えると、原告組合員らと同期入関者間に生じた昇給等の格差を、原告組合員ら各自の行った非違行為等のみによって説明することはできず、右格差の内のある部分は、関税局及び大阪税関当局の差別意思に基づく人事査定の結果であると推認せざるを得ない(特に特昇については、原告組合員らの内、本件係争期間中の特昇者は原告9〔昭和四九年一月一日、同期入関者一一名中九名は同期間中二回特昇している。〕、原告31〔同四八年七月一日、同期入関者は同期間中少なくとも二回特昇している。〕のみであることから、このことは明らかである。)。

三以上によると、税関長の差別意思(行為の特定の問題は後述する。)と格差のある部分については、因果関係を肯定し得るというべきである。

(争点四〜違法性について)

一昇任、昇格、昇給制度の趣旨、内容は、前記(当事者間に争いのない事実等)二に判示したとおりである。したがって、昇任、昇格、昇給させるか否かの判断は、任命権者たる税関長の裁量に属するものというべきである。

しかし、右裁量権の行使が、国公法二七条の平等原則、同法一〇八条の七の不利益取扱禁止の原則に違反し、組合所属を理由とする差別意思をもってなされた場合には、原告組合員らを昇任、昇格、特昇させなかったことは、原告組合員らに対し、他の職員と人事査定において平等な取扱いを受けるとの原告組合員らの法的保護に値する利益を侵害するものとして不法行為を構成するとともに、原告組合との関係においてもその団結権を侵害するものとして不法行為になるものというべきである。

二被告は、昇任、昇格、特昇させるべきか否かが裁量行為である以上、そもそも任命権者に昇給等について作為義務を生じる余地はないから不作為が裁量権の濫用として違法となることはないと主張する。

しかし、税関長は、人事権を行使するに当たり当該職員を組合所属を理由として差別することなく査定し、昇給等を決定すべき法的義務を負っているものというべきであり、これに反した取扱いを行った場合には裁量権の濫用となるものといわなければならない。

三さらに、被告は、税関長が裁量権を濫用し、原告組合員らを差別して取り扱ったというためには、原告組合員らにおいて、特定の時期に、在職年数、経験年数、在級年数のほか、勤務成績が他の職員と同等であったにもかかわらず、他の職員は昇給等し、原告組合員らはしなかったことが主張、立証されなければならないと主張する。

被告の主張は、原告らが本件で請求している基準コースとの差額を不法行為より生じた損害と認定するための要件としては正当である。

しかし、後述するとおり、原告らが本件で請求している損害はこれにとどまるものではなく(後に損害の項で詳述)、原告らがこれを含む不利益取扱いを受けないとの利益を侵害されたと認定するためには、差別意思を持った査定が行われ、その結果として同期入関者との間に給与格差が生じたとの事実が主張、立証されれば足りるというべきである。

本件で、税関長の差別意思に基づく人事査定により、原告組合員らの昇給等が遅れ、その結果、格差のある部分が生じたと認定できることは前判示のとおりである。そして、差別査定の時期(行為)の特定は、税関長が本件係争期間中一貫して原告組合員らに対する差別意思を有していたことが認定できる本件では、本件係争期間中に原告組合員らに対して行われた査定時期の内、原告らが同期入関者との間で格差が生じ始めたと主張している時期(具体的には基準コースとして主張された昇格、特昇時期)後本件係争期間終了の時点までの内の少なくとも一回以上であると認定することが可能であり、それを以て足りると解すべきである。

(争点五〜損害について)

一原告組合員らの給与損害について

原告らは、原告組合員らは税関長の差別意思に基づく査定がなければ、別表1の基準コースのとおり昇格、昇給し得たとし(基準コースの説明は前記原告らの主張のとおり)、これとの差額を原告組合員らに対する差別取扱いによる給与上の損害額とする。

そこで、基準コースの設定が原告組合員らの給与上の実損害を算定するうえで合理的か否かにつき考えるに、原告組合員らが、同コースに設定された時期に昇格、昇給すべきであったと認められるためには、少なくとも、最低コースとして挙げられた職員の昇格、昇給時期が損害額算定基準として使用できる程度に正確であること(この認定が困難なことは(争点一)で述べたとおり)、最低コースとして挙げられた職員と原告職員らとの勤務成績が同等であること(原告職員らの大多数に非違行為等があり、これが勤務成績の評価に全く反映していないとはいえないことは前判示のとおりであることから、ここでの勤務成績は非違行為等の存在を加味したうえで立証される必要がある。)、さらに、対象外非原告と対象非原告との区別に理由があることが立証される必要があると解せられるところ、本件でこれを認めるに足りる証拠はないから、基準コースは原告組合員らの右実損害を算定するうえで合理的とはいえない。

また、非違行為等の存在が勤務成績に影響を与えるといわざるを得ないことからすると、原告組合員らに生じた給与上の格差は差別行為による部分と非違行為等による部分が混在するのであり、差別格差が格差の内のどの部分かが確定できない以上、差別行為に基づく給与上の実損害は算定できないものと解さざるを得ないところ、本件で提出された証拠からこれを確定することは不可能である。

したがって、基準コースとの対比で原告組合員らの前記実損害を算定するとの原告らの主張は採用できない。

二原告組合員らの慰謝料請求について

1  原告らは、まず、給与上の損害を受けたことについて、右損害が回復されてもなお償い得ない精神的苦痛を蒙ったとして慰謝料を請求する。

しかし、給与上の損害を算定できないことは一で述べたとおりであるから、右請求も認められない。

2 次に原告らは、差別意思に基づく査定により、働く者の権利が侵害され、精神的苦痛を蒙ったとして慰謝料を請求する。

原告組合員らが、国家公務員として職員組合に所属し、その活動を行う権利を有していることは、憲法二八条の規定を待つまでもなく明らかである。本件で、原告組合員らと同期入関者の間に生じた給与格差のある部分が、税関長の差別取扱いの結果生じたものであることは前記認定のとおりである。そうすると、右税関長の行為は、原告組合員らが、職員組合に所属し、活動する権利を侵害するものであり、原告組合員らがこれにより精神的苦痛を蒙っていることは、前記陳述書及び弁論の全趣旨により明らかであるから、被告は、国家賠償法一条一項により、これに対する慰謝料を支払うべき義務があるものというべきである。

そこで、慰謝料額につき考えるに、この精神的苦痛は、それが、職員組合に所属し、活動する権利の侵害によるものであり、原告組合員ら全員が本件係争期間を通じ原告組合員であったことからすると、職員としての勤務年数、給与の高低如何にかかわらず一律と評価し得ること、原告職員らの慰謝料請求額は最低三〇万円であること(この内には1の慰謝料部分が含まれている。)、その他、本件に現れた一切の事情を総合考慮し、その額は、原告組合員ら各自につき一律金一〇万円であると認めるのが相当である。

三原告組合の慰謝料請求について

大阪税関長が、本件係争期間中一貫して原告組合を嫌悪、敵視し、原告組合員が原告組合に所属し、その活動に従事したことを理由として昇給等の差別をしたことはいずれも前判示のとおりであるから、税関長は、その権限を濫用し、原告組合の団結権を侵害したものというべく、被告は、国家賠償法一条一項によりこれに対する慰謝料を支払うべき義務があるものというべきである。

被告は、原告らが不法行為の内容を特定していないと主張するが、本件で、原告らが、原告組合員らの給与格差が税関長の裁量権濫用の結果であるとして行った主張、立証のすべてが同時に原告組合の団結権を侵害したものとしてなされていることは明らかである。

右慰謝料額は、大阪税関長の嫌悪、敵視行為の態様、程度、その期間、原告組合の活動にも正当な組合活動とはいえないものがあったこと等本件に現れた一切の事情を斟酌して、金一〇〇万円と認めるのが相当である。

四弁護士費用

原告組合及び原告組合員らが本訴の提起、追行を原告ら訴訟代理人に委任したことは当裁判所に顕著な事実である。本件訴訟の提起、追行が専門的知識経験を有する弁護士の関与を要することは明らかであるから、右委任に伴う相当程度の弁護士費用の出損は、税関長の違法行為と相当因果関係のある損害と認められ、本件訴訟の難易度等を考慮すると、右弁護士費用は、前記認容額の一〇パーセントと認めるのが相当である。

(争点六〜消滅時効について)

被告は、原告らに何らかの損害が生じているとしても、原告らが本件訴えを提起した昭和四九年六月一一日から三年以前である同四六年六月一一日以前についての損害賠償請求権は時効により消滅していると主張する。

原告らの慰謝料請求権は、主張の差別意思に基づく人事査定の都度生じるものであるから、不法行為はその度ごとに成立し、消滅時効はそれぞれ進行するものと解すべきである。そして、右消滅時効は、原告らがその損害を認識したときから進行するものであるところ、本件における損害の内容は、他の同期入関者の昇給等との比較においてしか知り得ないものであるから、これを知ることは容易でないこと、本件の損害発生が、進行的、累積的であって相当期間を経過しなければ実態が明らかにならない性質のものであることから、原告らがいつ損害を認識したといい得るかについては慎重な考慮を必要とするものというべきである。

この観点から本件全証拠を検討すると、原告組合は、同四八年五月大阪税関全職員の「等級号俸」を入手したとして、同年九月に「侵害されている税関職員の団結権」と題する小冊子を発行していることが認められる(<書証番号略>)。したがって、それまでにも原告組合が、組合ニュース等で、昇給等差別の問題提起をし、その是正を求める運動を展開していたことは認められるとしても、原告が初めて損害の発生を知ったのは、右資料を入手した同年五月であると認めるのが相当である。

したがって、消滅時効の主張は理由がない。

第四結論

以上によると、原告らの請求は、原告組合につき主文第一項掲記の、その余の各原告らにつき主文第二項掲記の、各限度で理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九二条、九三条を、仮執行の宣言、同逸脱宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官蒲原範明 裁判官野々上友之 裁判官岩佐真寿美)

別紙<省略>

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