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大阪地方裁判所 昭和49年(ワ)5714号 判決 1986年5月26日

甲事件本訴、乙事件、丙事件反訴原告、甲事件反訴、丙事件本訴、丁事件被告 国

代理人 山村恒年

原告補助参加人(ただし、甲事件本訴、甲事件反訴、乙事件、丙事件本訴に限る。) 原野喜一郎

甲事件本訴、丙事件本訴、丁事件被告、甲事件反訴原告 宮原輝男

甲事件本訴、丙事件本訴、丁事件被告、甲事件反訴原告 宮原孝雄

甲事件本訴、丙事件本訴被告、甲事件反訴原告 宮原五郎

乙事件被告 石原哲次

丙事件本訴原告、同反訴被告 杤尾捨吉

丙事件本訴原告、丙事件反訴、丁事件各被告 杤尾太郎

丙事件本訴原告、丙事件反訴被告(亡中平吉訴訟承継人) 中史雄 ほか三名

丁事件原告 原田武

丙事件本訴被告宮原輝男及び同宮原孝雄引受参加人、丁事件被告 ロツテ商事株式会社

丙事件本訴被告宮原孝雄引受参加人 堀博

丙事件本訴被告宮原孝雄及び同宮原五郎引受参加人 株式会社大阪コロナホテル

主文

一  原告に対し

1  被告宮原輝男は、別紙物件目録一記載の土地につき、別紙登記目録一の1記載の

2  被告宮原孝雄は、別紙物件目録二記載の土地につき、別紙登記目録二の1記載の、別紙物件目録三記載の土地につき、別紙登記目録三の1記載の

3  被告宮原五郎は、別紙物件目録四記載の土地につき、別紙登記目録四の1及び3記載の

各所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

二  被告宮原輝男、同宮原孝雄及び同宮原五郎の甲事件反訴請求をいずれも棄却する。

三  被告石原哲次は、原告に対し、別紙物件目録四記載の土地につき、別紙登記目録四の2記載の所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

四  当事者参加人杤尾捨吉、同杤尾太郎、同中史雄、同中千代子、同中庄平及び同中好枝の丙事件本訴主位的請求をいずれも棄却する。

五  当事者参加人杤尾捨吉、同杤尾太郎、同中史雄、同中千代子、同中庄平及び同中好枝の丙事件本訴予備的請求のうち、別紙物件目録一ないし四記載の各土地につき、原告に対し、当事者参加人原田武への農地法第八〇条に基づく売払いの承諾を求める部分を、いずれも棄却する。

六  当事者参加人杤尾捨吉及び同杤尾太郎は、原告に対し、別紙物件目録一記載の土地につき、別紙登記目録一の2記載の、別紙物件目録二記載の土地につき、別紙登記目録二の2記載の各所有権移転請求権仮登記の抹消登記手続をせよ。

七  当事者参加人杤尾太郎は、原告に対し、別紙物件目録一記載の土地につき、別紙登記目録一の4記載の、別紙物件目録二記載の土地につき、別紙登記目録二の4記載の各所有権移転請求権の移転の付記登記の抹消登記手続をせよ。

八  当事者参加人中史雄、同中千代子、同中庄平及び同中好枝は、原告に対し、別紙物件目録三記載の土地につき、別紙登記目録三の2記載の所有権移転請求権仮登記の、別紙物件目録四記載の土地につき、別紙登記目録四の4記載の所有権移転請求権仮登記の各抹消登記手続をせよ。

九  当事者参加人原田武の丁事件主位的請求をいずれも棄却する。

一〇  当事者参加人原田武の丁事件予備的請求のうち、引受参加人ロツテ商事株式会社との間で同引受参加人が別紙物件目録一及び二記載の土地の所有権を有しないことの確認を求める部分にかかる訴えを却下し、その余をいずれも棄却する。

一一  訴訟費用は、補助参加によつて生じた費用を除外し、

1  原告に生じた費用の三五分の三ずつを被告ら四名の、その三五分の四ずつを当事者参加人杤尾捨吉及び同杤尾太郎の、その三五分の一ずつを当事者参加人中史雄、同中千代子、同中庄平及び中好枝の、その三五分の四を当事者参加人原田武の各負担とし、

2  被告宮原輝男に生じた費用の八分の一ずつを当事者参加人杤尾捨吉及び同杤尾太郎の、その四分の一を当事者参加人原田武の各負担とし、

3  被告宮原孝雄に生じた費用の四〇分の四ずつを当事者参加人杤尾捨吉及び同杤尾太郎の、その四〇分の一ずつを当事者参加人中史雄、同中千代子、同中庄平及び中好枝の、その四〇分の八を当事者参加人原田武の各負担とし、

4  被告宮原五郎に生じた費用の八分の一ずつを当事者参加人中史雄、同中千代子、同中庄平及び同中好枝の各負担とし、

5  引受参加人ロツテ商事株式会社に生じた費用の九分の二ずつを当事者参加人杤尾捨吉及び同杤尾太郎の、その九分の四を当事者参加人原田武の各負担とし、

6  引受参加人堀博及び同株式会社大阪コロナホテルに生じた各費用を当事者参加人中史雄、同中千代子、及び中庄平、同中好枝の各負担とし、

その余の費用を各自の負担とする。

一二  原告補助参加人原野喜一郎の補助参加によつて生じた訴訟費用は、同補助参加人に生じた費用の六〇分の二ずつを被告宮原五郎及び同石原哲次の、その六〇分の一ずつを当事者参加人中史雄、同中千代子、同中庄平及び同中好枝の各負担とし、その余の費用を各自の負担とする。

一三  被告ら補助参加人原田武の補助参加によつて生じた訴訟費用は、同補助参加人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(甲事件本訴)

一  請求の趣旨

主文第一項と同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

(被告宮原輝男(以下「被告輝男」という。)、同宮原孝雄(以下「被告孝雄」という。)及び同宮原五郎(以下「被告五郎」という。)(以上三名を一括して、以下「被告宮原ら」という。)、並びに当事者参加人杤尾捨吉(以下「当事者参加人捨吉」という。)、同杤尾太郎(以下「当事者参加人太郎」という。)、同中史雄、同中千代子、同中庄平及び中好枝(以上四名を一括して以下「当事者参加人中ら」という。)(以上六名を一括して、以下「当事者参加人杤尾及び中ら」という。))原告の請求をいずれも棄却する。

(甲事件反訴)

一  請求の趣旨

(被告宮原ら)

1  別紙物件目録一記載の土地(以下「第一土地」という。)が被告輝男の所有であることを確認する。

2  別紙物件目録二記載の土地(以下(第二土地」という。)及び同三記載の土地(以下「第三土地」という。)が被告孝雄の所有であることを確認する。

3  別紙物件目録四記載の土地(以下「第四土地」という。)が被告五郎の所有であることを確認する。

二 請求の趣旨に対する答弁

(原告)

主文第二項と同旨

(乙事件)

一  請求の趣旨

主文第三項と同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

(被告石原哲次(以下「被告石原」という。))

原告の請求を棄却する。

(丙事件本訴)

一  請求の趣旨

(主位的請求)

1  第一及び第二土地がいずれも当事者参加人捨吉及び同太郎(両名を一括して、以下「当事者参加人杤尾ら」という。)の共有であることを確認する。

2  当事者参加人杤尾らに対し、いずれも昭和三五年一月二五日の売買を原因として、

(一) 被告輝男は、第一土地につき別紙登記目録一の2記載の

(二) 被告孝雄は、第二土地につき同目録二の2記載の所有権移転請求権仮登記(以下それぞれ「登記の一の2」「登記二の2」といい、登記については以下同様の例による。)に基づく所有権移転の本登記手続をせよ。

3  引受参加人ロツテ商事株式会社(以下「引受参加人ロツテ」という。)は、当事者参加人杤尾らに対し、第一及び第二土地につき、前項の各所有権移転の本登記手続がなされることを承諾せよ。

4  第三及び第四土地がいずれも当事者参加人中らの共有であることを確認する。

5  当事者参加人中らに対し、いずれも訴訟承継前当事者参加人中平吉(以下「前参加人平吉」という。)を買主とする昭和三四年八月二一日の売買を原因として、

(一) 被告孝雄は、第三土地につき登記三の2の

(二) 被告五郎は、第四土地につき登記四の4の

各所有権移転請求権仮登記に基づく前参加人平吉への所有権移転の本登記手続をせよ。

6  引受参加人堀博(以下「引受参加人堀」という。)及び同株式会社大阪コロナホテル(以下「引受参加人コロナホテル」という。)は、第三土地につき、引受参加人コロナホテルは、第四土地につき、それぞれ、当事者参加人中らに対し、前項の各所有権移転の本登記手続がなされることを承諾せよ。

(予備的請求)

1  (昭和五二年一一月二五日に追加された請求)

(一) 原告が、昭和三六年一二月二五日、第一及び第二土地につき訴外井東康彦(以下「井東」という。)に対し、第三土地につき訴外早野義繁(以下「早野」という。)に対し、第四土地につき原告補助参加人原野喜一郎(以下「原野」という。)に対し、それぞれ同年一一月一日を売渡期日と定めてした農地法第三六条に基づく各売渡処分(これらを一括して以下「本件売渡処分」という。)がいずれも無効であることを確認する。

(二) ((一)の選択的請求)

本件売渡処分をいずれも取り消す。

2  (昭和五一年八月一三日以降に追加された請求)

原告は、当事者参加人原田に対し、第一ないし第四土地(これらを一括して以下「本件土地」という。)につき、同杤尾及び同中らが同原田に代位して昭和五一年八月一六日の本件第八三回口頭弁論期日においてした農地法第八〇条に基づく買受けの申込みに対して売払いの承諾の意思表示をせよ。

二 請求の趣旨に対する答弁

(原告、被告宮原ら及び引受参加人ら)

当事者参加人杤尾及び中らの請求をいずれも棄却する

(丙事件反訴)

一  請求の趣旨

主文第六ないし第八項と同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

(本案前の答弁)

原告の丙事件反訴を却下する。

(本案に対する答弁)

原告の丙事件反訴請求をいずれも棄却する。

(丁事件)

一  請求の趣旨

(主位的請求)

1  当事者参加人原田武(以下「当事者参加人原田」という。)と原告との間で、第一及び第二土地がいずれも同当事者参加人の所有であることを確認する。

2  当事者参加人原田に対し、

(一) 被告輝男は、第一土地につき、登記一の1の

(二) 被告孝雄は、第二土地につき、登記二の1の

各所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

3  引受参加人ロツテは、当事者参加人原田に対し、

(一) 第一土地につき、登記一の3の

(二) 第二土地につき、登記二の3の

各所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

4  当事者参加人太郎は、同原田に対し、第一及び第二土地につき、前二項の各所有権移転登記の抹消登記手続がなされることを承諾せよ。

5  引受参加人ロツテは、当事者参加人原田に対し、第一及び第二土地を明け渡せ。

(予備的請求)

1  当事者参加人原田と原告との間で、第一及び第二土地につき、原告が同当事者参加人に対して農地法第八〇条に基づく売払義務があることを確認する。

2  当事者参加人原田と引受参加人ロツテとの間で、第一及び第二土地につき、同引受参加人が所有権を有しないことを確認する。

二 請求の趣旨に対する答弁

(原告、当事者参加人太郎及び引受参加人ロツテ)

当事者参加人原田の請求をいずれも棄却する。

第二当事者の主張<略>

第三証拠<略>

第四訴訟費用の裁判に関する事実<略>

理由

(甲事件本訴について)

一  次の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

1  本件土地は、いずれももと信一の所有であつたが、同人は、昭和一九年四月一日死亡し、当事者参加人原田が家督相続によりその所有権を承継取得し、同二四年右家督相続を原因とする所有権移転登記が経由された。

2  当事者参加人原田から、昭和二五年五月二七日贈与を原因として、

(一) 第一土地については、被告輝男を権利者とする登記一の1の

(二) 第二土地については、被告孝雄を権利者とする登記二の1の

(三) 第三土地については、被告孝雄を権利者とする登記三の1の

(四) 分筆前の第四土地については、被告五郎を権利者とする登記四の1の

各所有権移転登記が経由された。

更に分筆前の第四土地については、被告五郎から、同三三年一〇月八日売買を原因として、被告石原を権利者とする登記四の2の所有権移転登記が、次いで、同被告から、同三五年三月八日売買を原因として、被告五郎を権利者とする登記四の3の所有権移転登記が順次経由された。

二  次に、<証拠略>を総合すると、知事は、本件全土地及び五四番の土地が所有者である当事者参加人原田の住所のある大阪府吹田市の区域の外にある小作地(同法第六条第一項第一号)に該当するとして、同当事者参加人に対し、右各土地につき昭和三三年五月三一日付買収令書を発し、同年七月一日を買収期日とした同法第九条に基づく買収処分(本件買収処分もこの中に含まれる。)をしたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

なお、当事者参加人杤尾及び中らは、右買収処分につき知事の発した買収令書が買収の相手方である当事者参加人原田に交付されていない旨主張する(右陳述は、丙事件本訴係属後二〇年以上を経過した同五七年一一月一八日の本件第一〇二回口頭弁論期日においてなされたものであることから、原告は、民事訴訟法第一三九条によりこれを却下すべき旨を申し立てているが、元来買収令書の交付は、行政処分の存否自体に関わる事実として原告の立証責任に属する事項であり、またこの点の審理が特に訴訟の完結を遅延させるものでもないから、原告の右申立てを容れることはできない。)が、<証拠略>によれば、右買収令書は、郵便に付され、同三三年六月五日当事者参加人原田のもとに到達し、これを受けて、同当事者参加人は、同年八月二日には、農林大臣に対し、右買収処分の取消しを求める訴願書及びその附属書類として買収令書の写しを大阪府に提出していることが明らかであり、右認定を覆すに足りる証拠はない。当事者参加人杤尾及び中らの右主張は採用することができない。

三  ところで、当事者参加人杤尾及び中らは、本件買収処分により原告が本件土地の所有権を取得したとしても、その後に本件売渡処分があつたから、原告は、甲事件本訴を提起するについて当事者適格を欠いている旨主張するが、理由がないものである。

1  原告が、本件土地に対する本件買収処分に引き続き、昭和三六年一二月二五日、第一及び第二土地を井東に対し、分筆前の第三土地を早野に対し、分筆前の第四土地を原野に対し、いずれも同年一一月一日を売渡期日と定める本件売渡処分をしたことは、原告と当事者参加人杤尾及び中らとの間で争いがない。そこで、同当事者参加人らは、右各土地について原告の所有権取得と相容れない登記の抹消登記手続請求訴訟を提起すべき適格者は、原告ではなく、井東らである旨主張する。しかし、不動産上の権利変動の当事者となつた者は、その権利変動の過程において真実と符合しない無効の登記があるときは、その登記の是正に関し利害関係を有する限り、既に権利を移転して実質上の権利者ではなくなつていても、その登記名義人に対し登記請求権を有するものである(最高裁昭和三六年四月二八日第二小法廷判決・民集一五巻四号一二三〇頁)。そして、本件において、原告が、井東らに対し、本件売渡処分に基づく所有権移転登記手続をする義務を負担していることは明らかであり、その覆行の障碍をなす各登記の抹消登記手続を請求する利益と必要があるから、当事者参加人杤尾及び中らの右主張は失当である。

2  また、第一土地については被告輝男から、第二土地については同孝雄からいずれも引受参加人ロツテへの所有権移転登記が、当事者参加人杤尾らを権利者とする所有権移転請求権仮登記に後れて経由されていることは当事者間に争いがなく、従つて、引受参加人ロツテの所有権移転登記は、当事者参加人杤尾らの仮登記に対応する本登記がなされる際には抹消を余儀なくされることになる。更に、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる丁第五号証によれば、引受参加人ロツテは、第一及び第二土地を被告輝男少び同孝雄からでなく井東から昭和四六年一〇月一〇日買い受けたものであることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はないから、同人は、同引受参加人に対し、右の権利移転の過程に即した所有権移転登記手続をする義務を負つており、これを覆行するため、原告に対し所有権移転登記手続の覆行を求める利益と必要をなお有している。また、原告が、被告輝男らから引受参加人ロツテへ所有権移転登記手続がなされることを承諾したとの事実を認めるに足りる証拠はない。従つて、右の説示に符合しない当事者参加人杤尾及び中らの当事者適格に関する主張は採用することができない。

四  更に、被告宮原ら及び当事者参加人らは、種々の論点をあげて前示買収処分が重大かつ明白な瑕疵の故に無効であると主張するが、右処分の効力に関する当裁判所の判断は次のとおりである。

1  被告宮原ら並びに当事者参加人杤尾及び中らは、本件土地が昭和三三年七月一日の本件買収処分がなされた当時既に農地ではなかつたとして、右買収処分が無効である旨主張する。

しかしながら、<証拠略>を総合すると、本件全土地は、国鉄東海道本線東淀川駅の南東数百メートルの位置にあり、昭和一五年頃から同三六年末頃までの間にあつては、周辺一帯とともに湿潤な低地で、宅地化にはかなり多額の費用投下を必要とするような状態であつたこと、原野の父訴外亡原野為治郎は、信一から、同一五年頃、耕作の目的に供するため、本件全土地及びその周辺土地を反当り一年につき玄米五斗の割合による金納とする旨の小作料の定めで、期間の定めなく借り受け(ただし、第一及び第二土地については訴外原野国松を、分筆前の第三土地については同亡早野福松をそれぞれ代理して、これを借り受けた。)、これに基づき、同年ないし翌一六年頃から、第一及び第二土地は右原野国松により(同二一年頃以降は、当事者参加人原田の代理人として同当事者参加人所有地の管理に当つていた広吉の承諾を得て、井東により)、分筆前の第三土地は右早野福松により(同二〇年六月以降は、その子である早野により)、その余の各土地は右原野為治郎及び原野により(後、原野により)、その大部分が水田、残部が畑とされ、耕作の目的に供されていたこと、このような右各土地の耕作の情況は、同一九年頃から同二五年頃までの間、原野が訴外株式会社住友銀行に対してその小作地の一部を転貸し、同銀行において、その一部に鶏舎等を設置し、その余を畑として耕作の目的に供していたこと、並びに後記の買収処分後、井東らが原告からの貸付けにより、それぞれ従前耕作していた右各土地を耕作していたことを除けば、同三六年末頃まで変わりがなかつたことが認められ、右認定に反する<証拠略>はにわかに措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

なお、<証拠略>によれば、本件全土地は、元来信一が同一五年五月一四日、木工場建設を企図して買い受けたものであり、同二四年六月一四日には登記簿上の地目が「宅地」に変換されていることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はないが、右のような事情を考慮しても、同一五年頃から同三六年末頃までの間本件全土地の現況が農地であつたとの前記認定判断が左右されるものではない。

また、広吉と井東及び早野との間において、同二八年一二月末頃、井東及び早野がそれぞれの小作地を明け渡す旨の契約を締結したことは当事者間に争いがない。しかし、当時広吉がこれらの土地について処分行為たる賃貸借契約の解除をなし得る権限を有していたことの立証はないし、当時これらの土地の現況が農地であつたことは前示のとおりであるから、右小作地明渡しの契約については、同四五年法律第五六号による改正前の農地法第二〇条(右改正後においては、同四五年法律第五六号附則七項)により、知事の許可がなければその効力を有しないものであるところ、右許可を経たことの主張、立証もないから、この点においても右明渡しに関する契約は無効であつたと解するのが相当である。また、被告宮原ら及び当事者参加人らは、広吉と原野との間でも同じ頃その小作地の明渡しを内容とする契約が締結されたと主張しているけれど、右主張に副う<証拠略>は、<証拠略>との対照上信用することが困難であり、他に右主張事実を裏付けるに足りる証拠はなく、仮に右両名間に小作地明渡の契約が成立したとしても、その効力を認め難いことは、広吉と井東及び早野間の前記契約の場合と同様である。

以上によれば、本件全土地は、前示の買収処分当時、その現況が農地(小作地)であつたというべきであるから、被告宮原ら及び当事者参加人らの前記主張は、理由がない。

2  本件土地が本件買収処分のなされる前に、被告宮原らの所有に帰していたという同被告ら並びに当事者参加人杤尾及び中らの主張を採用し得ないことは、後に判示するとおりであるから、同被告らを買収の相手方としなかつた点に本件買収処分の瑕疵を認めることはできない。

3  被告宮原ら並びに当事者参加人杤尾及び中らは、本件土地が昭和三三年七月一日の本件買収処分がなされた時点でその現況が農地であつたとしても、農地法第七条第一項第四号にいう「近く農地以外のものとすることを相当とするもの」に該当し、買収から除外すべきであつたと主張する。

なるほど、<証拠略>を総合すれば、本件全土地が国鉄東海道本線東淀川駅の南方約四〇〇ないし五〇〇メートルの位置にあり、後年設置された国鉄東海道新幹線新大阪駅の東端部付近(乗降ホームへ至るため線路が分岐を開始する地点。乗降ホーム東端から東へ距離約二五〇メートルの付近)に位置していること、本件全土地を含む周辺地域が、同二二年一二月大阪特別都市計画用途地域住居地域に、同二六年一二月二七日大阪都市計画住居地域にそれぞれ指定され、同四二年八月には同計画商業地域に指定を変更されたこと、同三四年八月三一日、大阪府、大阪市及び大阪商工会議所で組織された大阪経済振興連絡協議会において、国鉄東海道新幹線新大阪駅の設置場所として、国鉄東海道本線大阪駅付近二か所と同線東淀川駅付近の合計三か所が検討された結果、後者が適当である旨決定され、その旨の答申が国鉄幹線調査会に出されたこと、国鉄は、同三五年一月八日までに新大阪駅を右東淀川駅南西の国鉄宮原操車場東側に設置することを決定し、同月二七日運輸大臣からその認可を受けたこと、大阪市は、同三六年三月一六日、新大阪駅設置に伴う都市計画の区域を決定し、本件全土地も、その区域内に存在することが認められ、右認定を左右する証拠はない。

しかしながら、右の経過によれば、本件買収処分がなされた時点で、同駅が現在の位置に設置されるかどうかは未確定の状態であり、このことを確実に予測し得る客観的事情の存在も、本件の証拠上見出だすことができず、従つて、同駅の設置に伴う都市計画もまだ白紙に近い状態であつたものと推認される。しかも、<証拠略>を総合すれば、同三二年における本件全土地周辺の状況については、その北側は、東寄りに公営住宅(平家建)が一〇数棟存在するほか、前記東淀川駅に至るまで水田が続いており、その北東から東側にかけては、民家の密集地域が存在しており、その南側は、水田を隔てて東西方向に伸びる水路が存在し(一部の土地は、水路に直接接している。)、更にその南方には水田を隔てて五〇数棟の公営住宅ほか民家が存在している状況であり、その西側は、水田を隔てて南北方向に伸びる国鉄東海道本線の線路が存在し、更にその西方には民家の密集地域と水田が混在しているなど、本件全土地周辺には相当広範に農地が広がつていたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

従つて、本件買収処分がなされた当時、本件土地が農地法第七条第一項第四号所定の買収不適地に該当するものであつたとは認めることができず、以上の被告宮原ら並びに当事者参加人杤尾及び中らの右主張も、理由がないものである。

4  当事者参加人太郎は、本件買収処分には買収の相手方に対して農地法施行法第七条により認められた小作地保有面積を侵害しているところの瑕疵があると主張する。

しかしながら、本件全土地が、旧自作農創設特別措置法第三条第一項第一号に基づき、大阪府吹田市農業委員会により同市の区域に準ずるものとして指定された地域内に存在したことを認めるに足りる証拠はないし、本件買収処分のなされた当時、同市の区域内において当事者参加人原田が所有していた小作地の面積についての主張立証もないから、当事者参加人太郎の右主張も採用することはできない。

以上の次第で、本件土地に対して知事のした本件買収処分には、被告宮原ら及び当事者参加人らの主張する無効事由となる瑕疵があるものとは認めることができず、右処分は、その内容どおりの効力を生じたものというべきである。

五  また、被告宮原ら並びに当事者参加人杤尾及び中らは、本件買収処分がなされる前に、被告宮原らが本件土地の所有権を贈与等により取得した旨主張する。

なるほど、前示一1及び2の事実に前掲甲第六ないし第一〇、第二三、第二四、第二七及び第三一号証、証人原田民子及び同広吉(一回)の各証言並びに弁論の全趣旨を総合すれば、当事者参加人原田は、昭和二四年頃、原告に納付すべき財産税金四八万円につき、同当事者参加人所有の本件全土地をもつて物納する旨の許可を茨木税務署長から受けていたが、広吉が右財産税を同当事者参加人に代わつて現金で納付したことから、右許可が取り消され、同二五年五月二七日、広吉は、右立替払によつて発生した同当事者参加人の広吉に対する求償債務の弁済に代えて、同当事者参加人からその所有にかかる本件全土地を譲り受けたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。更に、前示一の事実及び<証拠略>によれば、広吉が被告宮原らの父であること、登記一ないし四の各1の贈与を原因とする各所有権移転登記は、広吉がその登記手続をしたことが認められ、<証拠略>によれば、同三一年に、被告五郎から原野を相手方として、同輝男らから井東及び早野を相手方として、それぞれ、同宮原らが本件土地の各所有者である旨主張して訴訟を提起し、右訴訟において広吉は同五郎をその親権者として代理していることが認められ、<証拠略>によれば、同三五年、第一及び第二土地につき被告輝男らが当事者参加人杤尾らと、分筆前の第三及び第四土地につき被告五郎らが前参加人平吉と、それぞれ取引を行つた際、広吉は、本件土地の各所有者である被告宮原らの代理人として行動していることが認められるから、これらの事実を総合すれば、遅くとも同三一年までに、広吉は、同輝男に対し第一土地を、同孝雄に対し第二及び分筆前の第三土地を、同五郎に対し分筆前の第四土地を贈与したものと推認することができ、右推認を妨げる証拠はない(なお、これらの事実に、<証拠略>を総合すれば、広吉は、その子である訴外宮原亀雄及び同宮原富士弘に対し、それぞれ、別表当事者欄に対応する同表土地(イ)欄記載の土地を贈与したものと認められる。)。

更に、前示一3のとおり、分筆前の第四土地につき、被告五郎から同石原に対し、同三三年一〇月八日売買を原因とする登記四の2の所有権移転登記が経由され、次いで、同石原から同五郎に対し、同三五年三月八日売買を原因とする登記四の3の所有権登記が経由されていることからすれば、右各登記の記載どおり、同土地が、同被告から被告石原に対し、同三三年一〇月八日売り渡され、次いで、同被告から被告五郎に対し、同三五年三月八日売り渡されたものと推認できなくはない。

しかしながら、右認定にかかる代物弁済、贈与及び売買がなされた当時、第一及び第二土地並びに分筆前の第三及び第四土地は、前示のとおり、その現況が農地であつたのであるから、特段の事情のない限り、その所有権の移転につき、旧農地調整法第四条第一項の、同法の廃止後は農地法第三条第一項の許可を受けることを必要としたと解しなければならないところ、現実に右許可を経ていないことは当事者間に争いがなく、後者のとおり、前示の買収処分がなされた時点において、右の許可なしに、当事者参加人原田から広吉を経て被告宮原らほか二名の広吉の子らへ至る本全体土地の所有権移転の効果の発生を認めるべき特段の事情の存在についての立証はない。

従つて、本件買収処分がなされた当時、本件土地の所有権は、依然として当事者参加人原田にとどまつていたものというべきである。

六  そこで、当事者参加人杤尾及び中らは、前示の本件土地の当事者参加人原田から広吉への代物弁済及び同人から被告宮原らへの贈与の後、同土地は、その現況が宅地となつたから、旧農地調整法及び農地法による規制の対象となる農地ではなくなり、右の当事者参加人原田から広吉を経て被告宮原らへの本件土地の所有権移転の効果が発生した旨主張する。

右主張のうち、本件土地が昭和三〇年春頃荒地となつたとの部分は、前記認定判断したところからして、採ることができない。

しかし、<証拠略>を総合すれば、本件全土地は、大阪市を施行者とする新大阪駅周辺土地区整理事業の施行地区内にあり、同地区内の土地については、同四一年、仮換地の指定がなされ、工事が開始されたこと、第一及び第二土地をかつて耕作していた井東が、同四六年一〇月一〇日、引受参加人ロツテに対して右各土地を売却し、同四七年六月までに、これを明け渡したこと、同四八年には、引受参加人コロナホテルにより、第四土地及びその隣接土地上に鉄骨鉄筋コンクリート造のホテルが建設されたこと、同五〇年五月には、右土地区画整理事業にかかる本件全土地周辺部のアスフアルト舗装の道路建設が完了していたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。そうすると、これらの事実からすれば、第四土地は、同四八年には、その現況が宅地となつたものと認められ、また、第一ないし第三土地も、同五〇年頃には、その現況が農地でなくなつていたものと推認することができる。

ところで、農地の所有権の譲渡を内容とする契約が旧農地調整法又は農地法所定の許可がないため、権利移転の効力を生じなかつた場合でも、その後当該土地の客観的性質が変化してその現況が農地でなくなつたときは、特段の事情のない限り、右のとおり農地でなくなつた時点からその効力が発生するものと解するのが相当である。

これを本件についてみると、(イ)前認定事実によれば、本件土地は既にその現況が農地ではなくなつているものの、右のように農地でなくなつたと認められる時期は、当事者参加人原田と広吉との間で前示の代物弁済契約が締結された時から約二三年ないし二五年、広吉から被告宮原らへ前示の贈与がなされた時から約一七年ないし一九年もの長年月が経過していること、(ロ)<証拠略>によれば、右の間、昭和二九年に、原野が被告五郎ほか広吉の子二名を相手方として、分筆前の第四土地ほか本件全土地の一部につき、同被告らがその所有権を有しないことの確認を求める訴えを大阪地方裁判所に提起したが、同裁判所は、同三四年三月七日、右土地の現況が農地であり、同被告らへの所有権移転について知事の許可がないから、その効力は生じていないなどの理由により、原野の請求を全部認容する判決を言い渡したこと、同被告らは、右判決を不服として、大阪高等裁判所に控訴を提起したが、同裁判所は、同三五年一二月二三日、原告から同被告への右土地の所有権移転行為の存在は認められず、当事者参加人原田から広吉への所有権移転については、第一審判決と同様の理由で、その効力が生じていないとして、控訴を棄却し、同被告らの最高裁判所に対する上告も、同三七年六月一日、棄却され、右第一審判決が確定したこと、また、同被告らは、原野を相手方として、右土地につき、主位的に所有権に基づき、予備的に賃貸借契約の終了に基づき、その明渡し及び賃料相当損害金の支払を求める訴えを同地方裁判所に提起したが、同裁判所は、同三四年一月二〇日、前記控訴審判決と同様の理由、及び当事者参加人原田から同被告らへの原野との間の賃貸借契約の承継は認められないとの理由により、同被告らの請求を棄却する判決を言い渡したこと、同被告らは、右判決を不服として同高等裁判所に控訴を提起したが、同裁判所は、同三五年一二月二三日、右第一審判決と同様の理由により、控訴を棄却し、同被告らの最高裁判所に対する上告も、同三七年六月一日棄却され、右第一審判決が確定したこと、更に、被告輝男らは、井東及び早野を相手方として、第一及び第二土地並びに分筆前の第三土地ほか一筆の土地につき、所有権に基づき、その明渡し及び賃料相当損害金の支払を求める訴えを同地方裁判所に提起したが、同裁判所は、同三七年六月二九日、原告から同被告らへの所有権移転の原因行為の存在は認められず、当事者参加人原田から同被告らへの所有権移転に関しては、右土地の現況が農地であり、その移転につき知事の許可がないから、その移転の効力は生じていないとの理由により、同被告らの請求を棄却したこと、同被告らは、これを不服として同高等裁判所に控訴を提起したが、同裁判所は、同三九年三月二四日、第一審判決と同様(ただし、当事者参加人原田から広吉へ、同人から同被告らへ、それぞれ所有権移転の原因行為がなされたとされている。)の理由により、控訴を棄却し、その後上告が提起されなかつたので、右第一審判決が確定したことが認められること、(ハ)弁論の全趣旨によれば、当事者参加人原田、広吉又は被告宮原らが、本件土地の代物弁済あるいは贈与に基づく所有権の移転につき、旧農地調整法又は農地法所定の許可の申請手続をしたこともないものと認められること、(ニ)前認定事実及び弁論の全趣旨を総合すれば、被告宮原らは、本件土地を自ら耕作したことも、他人に耕作させたこともなく、単に登記名義を有するにすぎなかつたことが認められ、他方、前示のとおり、本件土地は戦前から井東らが権原に基づき耕作を継続しており、同三三年本件土地について本件買収処分が有効になされた後も、原告からの貸付けにより、同人らがこれを現実に耕作、使用していたもので、その後、本件売渡処分がなされ、更に、法律上の利害関係人が生じていることなどの事情が存在する。そうすると、かかる事情のもとで、当事者参加人原田と広吉との間の代物弁済契約及び同人の被告宮原らへの贈与について所有権移転の効力を認めることは、旧農地調整法及び農地法が農地の権利移転について許可制を採用し、これをその効力の発生要件とした趣旨目的に反することとなるうえ、当事者間の公平を破壊し、法律関係を著しく不安定にするものといわざるを得ない。それ故、本件においては、右のとおり前記特段の事情の主張立証があつたものと認めるのが相当であり、本件土地の現況が前示のとおり農地でなくなつたにもかかわらず、当事者参加人原田と広吉の間の代物弁済契約及び同人から被告宮原らへの贈与に基づく各所有権移転の効力は生じていないというべきである。

従つて、被告宮原らへの贈与を原因とする登記一ないし四の各1の所有権移転登記並びに第四土地についての登記四の2及び3の売買を原因とする所有権移転登記は、いずれも権利移転の実体に符合しない無効のものであり、当事者参加人原田は、被告宮原らに対し、各関係の土地についての、各関係の所有権移転登記の抹消登記請求権を有していることになる。

七  以上の説示によれば、当事者参加人原田が所有していた本件土地に対して本件買収処分が有効になされた結果、原告は、同当事者参加人に対して同土地につき所有権移転登記請求権を取得したことになり、右請求権に基づき、同人が被告宮原らに対して有する各関係の土地にかかる所有権移転登記の抹消登記請求権を代位行使し、被告宮原らにおいて、これに対応する抹消登記手続をなすべき旨を請求し得るものというべきである。原告の被告宮原らに対する甲事件本訴請求は理由がある。

(甲事件反訴について)

被告宮原ら主張の本件土地についての当事者参加人原田と広吉の間の代物弁済契約及び同人から被告宮原らへの贈与は、当時施行されていた旧農地調整法第四条第一項、又は農地法第三条第一項の許可を経ていないから、所有権移転の効果を生じていないことは、甲事件本訴において認定判断したとおりである。従つて、これと反対の前提に立脚する被告宮原らの原告に対する甲事件反訴請求は、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がない。

(乙事件について)

原告の被告石原に対する乙事件請求は、甲事件本訴において認定判断したのと同様の根拠により理由があるものである。

(丙事件本訴主位的請求について)

当事者参加人杤尾及び中らの丙事件本訴主位的請求は、被告宮原らが当事者参加人原田から直接又は第三者を経て本件土地の所有権を取得したことを前提とするものであるところ、既に甲事件本訴について認定判断したのと同様の理由により、同被告らへの所有権移転は認められないから、仮に、当事者参加人杤尾らが、第一土地を被告輝男から、第二土地を同孝雄から買い受け、前参加人平吉が、分筆前の第三土地を被告孝雄から、分筆前の第四土地を同五郎から買い受けた事実が認められたとしても、これらの売買を原因として買主たる当事者参加人杤尾及び中らがそれぞれ当該土地の所有権を取得したということはできない。当事者参加人杤尾及び中らの丙事件本訴主位的請求は、いずれも右と反対の前提に立脚するものであるから、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

(丙事件本訴予備的請求について)

一  当事者参加人杤尾及び中らの丙事件本訴予備的請求は、いずれも丙事件本訴主位的請求を掲げた参加訴訟の係属中に追加された請求であるところ、右請求のうち本件売渡処分の無効確認又は取消しを求める部分はいずれも行政事件訴訟法に従い審判すべき性質のものである。しかし、通常の民事訴訟法に従い審判すべき丙事件本訴主位的請求に、右のような異種の訴訟手続によるべき請求を併合することは許されないものであるから、当事者参加人らのした右部分の訴えの追加的変更は許されない不適法なものである。

従つて、丙事件本訴予備的請求のうち右部分の当否については、判断を与えない。

二  次に、丙事件本訴予備的請求のうち、原告に対し、当事者参加人杤尾及び中らがした農地法第八〇条に基づく同原田への本件土地の売払いの申込みに対する承諾の意思表示を求める部分について検討する。

1  本件土地の隣接地が、原告において当事者参加人原田から、同法第九条に基づく昭和三三年七月一日を買収期日とする買収処分により所有権を取得し、同法第七八条に基づき本件土地と共に農林大臣において管理していたものであること、同土地が、同三七年一〇月三一日、同当事者参加人からの同法第八〇条に基づく売払請求により、原告から同当事者参加人に売り払われ、更に、同当事者参加人から国鉄に売り渡されたことは、当事者間に争いがない。そして、当事者参加人杤尾及び中らは、「本件土地は、遅くとも、その隣接地が国鉄東海道新幹線新大阪駅の建物及び付属構築物の敷地として使用されることが決定した同三五年一月二七日、あるいは同土地につき前記売払いがなされた同三七年一〇月三一日には、同法八〇条の売払適地になつていた」旨主張している。

2  ところで、農地法第八〇条第一項にいう「自作農の創設又は土地の農業上の利用の増進の目的に供しないことを相当」とする土地とは、社会的、経済的にみて、既にその農地としての現況を将来にわたつて維持すべき意義を失い、近く農地以外のものとすることを相当とする状況にあるものをいうと解するのが相当であり、その判断は、当該農地及びその周辺土地の利用状況、その変化の状況並びにその変化の可能性等の諸事情を総合考慮してすべきものである。

本件についてこれをみると、確かに、前記甲事件本訴についての理由四3あるいは六で説示したとおり、本件土地は、国鉄東海道本線東淀川駅の南方四〇〇ないし五〇〇メートル、同新幹線新大阪駅の東端部付近(乗降ホーム東端から東へ距離約二五〇メートルの付近)に位置しており、昭和二二年一二月には、大阪市の都市計画において住居地域に指定され、同三五年一月二七日同駅の設置が認可された後、同三六年三月一六日に大阪市により同駅設置に伴う都市計画の区域に指定され、更に同市を施行者とする新大阪駅周辺土地区画整理事業の施行地区にも入つていたものである。しかしながら、右都市計画等の区域に指定されたとの一事をもつて、本件土地が既に社会的、経済的にみて農地としての現況を維持すべき義務を失つたということはできない。昭和一五年頃から同三六年末頃までの間の本件全土地の現況は、前記二1で説示したとおり、主に水田として耕作されていた湿潤な低地であり、本件全土地周辺も、前二6で説示したとおり、同三二年の時点において相当広範に水田が広がつていたものである。また、<証拠略>を総合すれば、同駅設置に伴う都市計画の事業決定がなされたのは同三六年一一月二二日、その具体的な実施計画が決定されたのは同三七年五月、換地設計方針案が発表されたのは同四〇年五月一三日、仮換地指定がなされたのは同四一年七月一日(前示のとおり)であり、その頃から建物移転その他の工事が本格的に開始されたこと、右都市計画の区域は、同駅の北、西及び南部に大きく広がり、本件土地の存在する東部の広がりはごく小さかつたこと、同土地は、国鉄東海道本線の線路により同駅の駅舎と隔てられており、同駅と大阪市中心部を結ぶ大阪市高速鉄道一号線及び御堂筋線高架道路が、同駅の西部(本件土地から西方へ距離約六五〇メートル付近)にこれに交叉して南北に走る形で計画、建設されたほか、右都市計画に基づく事業は、同駅の南、西及び北部を主体に行われたこと、右高速鉄道一号線の用地の確保が開始されたのは同三八年六月、同線梅田駅から新大阪駅までの区間の開通は同三九年九月二四日、国鉄東海道新幹線の開通は同年一〇月一日、右御堂筋線高架道路が同駅まで開通したのは同四三年五月二七日であつたこと、右都市計画に基づく事業は、同五三年に至つても、一五次にわたる事業計画の変更を経てなお進行していることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。これらの事実によれば、右都市計画は、何回も変更されながら、緩やかな速度で実施されてきたものであり、本件土地は、右都市計画の実施につき緊急度、重要度の小さい地域に属していたものと推認することができる。なお、本件土地が、右都市計画において、当初、どのような土地として利用され、いつ工事が実施されることとされていたかにつき、具体的な主張立証はない。

更に、同三七年一〇月三一日に本件土地の隣接地が農地法第八〇条に基づき売り払われていることは前示のとおりであるが、<証拠略>を総合すれば、右隣接地が売り払われたのは、当該土地上に同新幹線のための構築物が建設されることとなつたことによるものと認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

以上によれば、なるほど本件土地は昭和四八年ないし同五〇年頃その現況が農地でなくなつた(甲事件本訴についての理由六)ので、その頃には農地法第八〇条の売払適地となつたことは、否定し得ないけれども、これに先立つ同三六年一二月二五日、同土地につき本件売渡処分がなされたのであり(甲事件本訴についての理由三1)、その時までに同土地につき、社会的、経済的にみて既にその農地としての現況を将来にわたつて維持すべき意義を失い、近く農地以外のものとすることを相当とする状況が発生していたと認めることは困難である。

3  しかるところ、当事者参加人杤尾及び中らは、本件売渡処分が無効であると主張する。しかしながら、その無効事由として主張するもののうち、(イ)同土地が同法第八〇条の売払適地であつたとの事実は、右2に説示したところから認めるに足りず(なお、原野が大阪府当局に対し強迫を行つたとの事実は、これを認めるに足りる証拠がない。)、(ロ)井東に売渡しの相手方たる適格がないとの主張についても、これを認めるに足りる証拠はないし、そもそも、仮に本件売渡処分のうち井東にかかる部分について右主張のような通達の違反があつたとしても、この点の瑕疵を重大かつ明白なものと認めることもできないというべきである。

そうすると、本件売渡処分は有効というべきであり、かつ、本件買収処分も前示のとおり有効である以上、本件売渡処分がなされた後に本件土地につき近く農地以外のものとすることを相当とする状況が発生したとしても、当事者参加人原田につき、もはや同法第八〇条に基づく売払請求権を認める余地はない。

4  従つて、丙事件予備的請求のうち右農地法第八〇条に基づく売払いの申込みに対する承諾の意思表示を求める部分は、理由がないものである。

(丙事件反訴請求について)

一  次の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

1  本件土地につき、甲事件本訴についての理由一2のとおり被告らへの所有権移転登記がなされたのに引き続き、

(一) 第一土地については、登記一の2の所有権移転請求権仮登記が当事者参加人杤尾らを権利者として、次いで、登記一の4の同捨吉の持分全部にかかる所有権移転請求権の移転の付記登記が同太郎を権利者として、

(二) 第二土地については、登記二の2の所有権移転請求権仮登記が当事者参加人杤尾らを権利者として、次いで、登記二の4の同捨吉の持分全部にかかる所有権移転請求権の移転の付記登記が同太郎を権利者として、

(三) 第三土地については、登記三の2の所有権移転請求権仮登記が星野を権利者として、次いで、登記三の3の所有権移転請求権の移転の付記登記が前参加人平吉を権利者として、

(四) 第四土地については、登記四の4の所有権移転請求権仮登記が前参加人平吉を権利者として、

経由されている。

2  前参加人平吉は、昭和五一年一〇月一〇日死亡し、当事者参加人中らが相続により同前参加人の権利義務を包括承継した。

二  被告輝男が第一土地の、同孝雄が第二及び第三土地の、同五郎が第四土地の所有権を取得しておらず、従つて、被告宮原らを権利者とする右関係土地の所有権移転登記が権利移転の実体に符合しない無効のものであることは甲事件本訴についての理由において認定判断したとおりである。従つて、仮に当事者参加人杤尾らが、第一土地を被告輝男から、第二土地を同孝雄から、前参加人平吉が、第三土地を被告孝雄から、第四土地を同五郎から買い受けた事実が認められたとしても、当事者参加人杤尾及ぶ中らが本件土地につき所有権その他同原田に対して有効に主張し得る権利を取得したということができないことは明らかである。それ故、第一土地にかかる当事者参加人杤尾らを権利者とする登記一の2の所有権移転請求権仮登記及び同太郎を権利者とする登記一の4の前記付記登記、第二土地にかかる同杤尾らを権利者とする登記二の2の所有権移転請求権仮登記及び同太郎を権利者とする登記二の4の前記付記登記、第三土地にかかる前参加人平吉を権利者とする登記三の2の所有権移転請求権仮登記(登記三の3の付記登記がある。)並びに第四土地にかかる前参加人平吉を権利者とする登記四の4の所有権移転請求権仮登記は、いずれも実体上の権利関係に符合しない無効のものというべきである。

そうすると、当事者参加人原田は、同杤尾及び中らに対し、本件土地につき、それぞれ前示無効の各所有権移転請求権仮登記の抹消登記請求権を有することになる。そして、原告が当事者参加人原田に対し、本件土地につき本件買収処分による所有権移転に基づく所有権移転登記請求権を有するに至つたことも甲事件本訴についての理由において認定判断したとおりである。

してみれば、原告は、同当事者参加人に対して有する右所有権移転登記請求権に基づき、同当事者参加人の有する前示所有権移転登記の抹消登記請求権を代位行使し、当事者参加人杤尾及び中らにおいて前示無効の所得権移転請求権仮登記及びその付記登記の抹消登記手続をなすべき旨を請求し得るものということができる。

以上の次第で、原告の当事者参加人杤尾及び中らに対する丙事件反訴請求は、いずれも理由がある。

(丁事件主位的請求について)

当事者参加人原田の原告、被告輝男ら、引受参加人ロツテ及び当事者参加人太郎に対する丁事件主位的請求は、当事者参加人原田が第一及び第二土地を所有していることを前提とするものであるところ、既に甲事件本訴について認定判断したとおり、同当事者参加人は、本件買収処分により、右各土地の所有権を失つているものであるから、その余の点を判断するまでもなく理由がない。

(丁事件予備的請求について)

一  丁事件予備的請求のうち、当事者参加人原田と原告との間で、第一及び第二土地につき原告が同当事者参加人に対して農地法第八〇条に基づく売払義務があることの確認を求める部分は、丙事件本訴予備的請求において認定判断した(丙事件予備的請求についての理由2)のと同様の根拠により、理由がないものである。

二  丁事件予備的請求のうち、当事者参加人原田と引受参加人ロツテとの間で、右各土地につき同引受参加人が所有権を有しないことの確認を求める部分は、右各土地につき、既に認定判断したとおり同当事者参加人が所有権を有しておらず、また、同当事者参加人において、同引受参加人に対し主張し得る権原について何ら主張立証しないから、確認の利益を欠く不適法な訴えであるといわざるを得ない。

(結論)

原告の被告宮原らに対する甲事件本訴請求、同石原に対する乙事件本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容し、原告に対する被告宮原らの甲事件反訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、当事者参加人杤尾及び中らの原告、被告宮原ら及び引受参加人らに対する丙事件本訴主位的請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、原告に対する同予備的請求のうち、本件土地につき当事者参加人原田への農地法第八〇条に基づく売払いの承諾を求める部分はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴えの追加的変更にかかる本件売渡処分の無効確認又は取消しを求める部分は訴訟併合要件を欠くから本件において審判の対象とすることができず、原告の当事者参加人杤尾及び中らに対する丙事件反訴請求は理由があるからこれを認容し、当事者参加人原田の原告、被告輝男ら、当事者参加人太郎及び引受参加人ロツテに対する丁事件主位的請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、同予備的請求のうち、同引受参加人との間で同引受参加入が第一及び第二土地の所有権を有しないことの確認を求める部分にかかる訴えは、不適法であるからこれを却下し、その余はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、なお、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条本文、第九三条第一項但書、第九四条後段を適用ないし類推適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 戸根住夫 奥田隆文 鍬田則仁)

物件目録

一 所在 大阪市東淀川区西淡路一丁目

地番 二〇七番

地目 宅地

地積 七一七・三五平方メートル

二 所在 同所

地番 二〇一番

地目 宅地

地積 八七二・七二平方メートル

三 所在 同所

地番 二一〇番三

地目 宅地

地積 四五二・八四平方メートル

四 所在 同所

地番 二四五番五

地目 宅地

地積 六八・一三平方メートル

登記目録

一1 大阪法務局北出張所昭和二五年六月二日受付第七二七三号所有権移転登記

原因  同年五月二七日贈与

所有者 被告 宮原輝男

2 同法務局同出張所昭和三五年一月二七日受付第一五六三号所有権移転請求権仮登記

原因  同月二五売買予約

権利者 当事者参加人杤尾捨吉及び同杤尾太郎

3 同法務局同出張所昭和四七年六月一四日受付第二三四三三号所有権移転登記

原因  同月三日売買

所有者 引受参加人ロツテ商事株式会社

4 同法務局同出張所昭和五三年一〇月一九日受付第五七一四七号当事者参加人杤尾捨吉の持分全部にかかる所有権移転請求権の移転の付記登記

原因  同年九月一日譲渡

権利者 当事者参加人杤尾太郎(登記簿上 栃尾太郎)

二1 大阪法務局北出張所昭和二五年六月二日受付第七二七二号所有権移転登記

原因  同年五月二七日贈与

所有者 被告 宮原孝雄

2 同法務局同出張所昭和三五年一月二七日受付第一五六四号所有権移転請求権仮登記

原因  同月二二日売買予約

権利者 当事者参加人杤尾捨吉及び同杤尾太郎

3 同法務局同出張所昭和四七年六月一四日受付第二三四三一号所有権移転登記

原因  同月三日売買

所有者 引受参加人ロツテ商事株式会社

4 同法務局同出張所昭和五三年一〇月一九日受付第五七一四六号当事者参加人杤尾捨吉の持分全部にかかる所有権移転請求権の移転の付記登記

原因  同年九月一日譲渡

権利者 当事者参加人杤尾太郎(登記簿上 栃尾太郎)

三1 大阪法務局北出張所昭和二五年六月二日受付第七二七二号所有権移転登記

原因  同年五月二七日贈与

所有者 被告 宮原孝雄

2 同法務局同出張所昭和三五年一月二七日受付第一五六八号所有権移転請求権仮登記

原因  昭和三四年五月二〇日代物弁済予約

権利者 星野コヨ

3 同法務局同出張所昭和三五年七月一六日受付第一八〇一七号所有権移転請求権の移転の付記登記

原因  同月一四日譲渡

権利者 訴訟承継前の当事者参加人中平吉

4 同法務局同出張所昭和四四年四月一二日受付第一二八五七号地上権設定登記

原因  同月一一日地上権設定契約

地上権者 引受参加人 堀博

5 同法務局同出張所昭和四八年一二月二〇日受付第五三三七三号地上権移転仮登記

原因  同月一九日譲渡

権利者 株式会社大阪コロナホテル

四1 大阪法務局北出張所昭和二五年六月二日受付第七二七五号所有権移転登記

原因  同年五月二七日贈与

所有者 被告宮原五郎

2 同法務局同出張所昭和三三年一〇月八日受付第二二五〇四号所有権移転登記

原因  同日売買

所有者 被告石原哲次

3 同法務局同出張所昭和三五年六月七日受付第一四三三一号所有権移転登記

原因  同年三月八日売買

所有者 被告宮原五郎

4 同法務局同出張所昭和三五年七月一六日受付第一八〇一八号所有権移転請求権仮登記

原因  同月一四日売買予約

権利者 訴訟承継前の当事者参加人中平吉

5 同法務局同出張所昭和四八年一二月二〇日受付第五三三七五号地上権設定仮登記

原因  同月一五日設定

権利者 引受参加人株式会社大阪コロナホテル

別表

当事表(住所)

土地(イ)

土地(ロ)

土地(ハ)

有田徳子

(日姓・田中)

(大阪市東淀川区淡路二丁目一番六号)

五四番

畑、一〇〇〇四m2

被告孝雄

二一〇番

宅地、五一四坪

二一〇番の一

宅地、三七九・八五坪

二一〇番一

宅地、八〇二・八六m2

二一〇番三

宅地、四五二・八四m2

(第三土地)

被告五郎

二四五番

宅地、三九五坪

二四五番の一

宅地、九二三・四三m2

同上

二四五番の二

宅地、三五一・〇七m2

二四五番二

宅地、二八二・九四m2

二四五番五

宅地、六八・一三m2

(第四土地)

宮原亀雄

(大阪市東淀川区西淡路町三丁目二五五番地)

二四四番

宅地、五一〇坪

二四四番の一

宅地、九四一・九八m2

二四四番の二

宅地、五九・五七m2

宮原富士弘

(大阪市東淀川区西淡路町三丁目二五五番地)

二四三番

宅地、三七二坪

二四三番の一

宅地、一〇一・〇五m2

二四一番

宅地、二二八坪

二四一番の一

宅地、三〇二・一四m2

二一五番

宅地、二六五坪

二一五番の一

宅地、六四六・四四m2

二四二番

宅地、一九二坪

二四二番の一

宅地、三〇・〇一m2

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