大阪地方裁判所 昭和49年(行ウ)46号 判決 1976年11月05日
大阪市西淀川区福町二丁目一番一二号
原告
中原奄石こと 洪岩又
同市同区野里三丁目三番三号
被告
西淀川税務署長
神戸勲
右指定代理人
宗宮英俊
外五名
東京都千代田区霞ケ関三丁目一番一号
被告
国税不服審判所長
海部安昌
右指定代理人
宗宮英俊
外三名
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、請求の趣旨
(一) 被告淀川税務署長が昭和四七年二月一八日付でなした原告の昭和四三、四四、四五年分の各所得税についての更正処分(但し、いずれも裁決により一部取消された後のもの)のうち、別表(一)申告額欄記載の金額を超える部分をいずれも取消す。
(二) 被告国税不服審判長が昭和四九年四月二五日付でなした右更正処分の審査請求に対する裁決はこれを取消す。
(三) 訴訟費用は被告らの負担とする。
二、請求の趣旨に対する答弁
主文同旨。
第二、当事者の主張
一、請求原因
(一) 原告は木材販売業を営む者であるが、昭和四三、四四、四五年分の各所得税について、被告署長に対し白色申告により、それぞれ総所得金額を別表(一)申告額欄記載のとおりとする確定申告をしたところ、被告署長は昭和四七年二月一八日付で右各年分の総所得金額につき同表更正額欄記載のとおりとする更正処分(以下本件更正処分という)をした。原告はこれを不服として被告署長に対し異議申立をしたが、棄却されたので、同年七月八日大阪国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、右は被告所長に対する審査請求として取り扱われたうえ、被告所長は昭和四九年四月二五日付で右各年分の更正処分を一部取消し、総所得金額を別表(一)裁決額欄記載のとおりとする裁決(以下本件裁決という)をした。
(二) 本件更正処分には次のような違法があるから、確定申告額を超える部分についての取消を求める。
1 原告の右各年分の総所得金額は確定申告のとおりであるから、本件更正処分は原告の所得を過大に認定した違法がある。
2 本件更正処分には次のような手続的違法がある。
(1) 本件更正処分通知書は理由の記載を欠いている。
(2) 本件更正処分は、原告の生活と営業を不当に妨害するような方法による調査に基づくものであり、かつ、原告が民主商工会員である故をもつて他の納税者と差別し、民主商工会の弱体化を企図してなされたものである。
(三) 本件裁決には次のような手続的違法があるから、その取消を求める。
原告は昭和四八年三月二七日被告所長に対し、本件更正処分の理由となつた事実を証する書類の閲覧を請求したところ、同 被告は同年九月二七日原告に対し、各年分確定申告書、本件処分更正決議書、所得調査書等要約書の閲覧を許可した。しかし、これらはいずれも本件更正処分の理由となつた事実を証するものではなく、国税通則法九六条一項に規定する「書類」に該当しないことは明白であつて、右閲覧許可は実質的には閲覧拒否と同視すべきであり、同条二項に違反するものである。
二、請求原因に対する答弁
(一) 請求原因(一)は認める。
(二) 同(二)は争う。
(三) 同(三)のうち、原告がその主張の日に担当審判官あてに本件更正処分の理由となつた事実を証する書類の閲覧を請求し、これに対し、担当審判官が原告に対しその主張の日にその主張の書類のほか、異議申立書、異議決定書の閲覧を許可したことは認めるが、その余は争う。
三、被告署長の主張
(一) 課税の経過
原告提出にかかる前記各年分確定申告書には、事業所得についていずれも所得税法二七条二項に規定する総収入金額及び必要経費の記載がなかつた。そして、被告署長が原告の本件係争各年分の所得税の調査に着手したところ、原告は調査担当官に対して前記確定申告書に不記載の総収入金額や必要経費の計算内容を明らかにしなかつたのみならず、自己の計算に関する帳簿、資料を一切指示しなかつた。したがつて、調査担当官は反面調査により原告の総所得金額を明らかにせざるをえなかつた。
(二) 総所得金額
原告の本件係争各年分の総所得金額及びその内訳は別表(二)記載のとおり(本件裁決額に同)であるから、この範囲内でなされた本件更正処分(但し、いずれも本件裁決により一部取消された後のもの)に違法はない。なお、右のうち不動産所得金額は、審査請求の審理の際に原告において異議がない旨申し述べた金額であり、昭和四五年分の一時所得金額は原告が提出した確定申告書記載のとおりである。
(三) 手続的違法について
原告の本件係争各年分の確定申告書は青色申告書ではなく、したがつて更正通知書にその更正の理由を付記しなければならないとする所得税法一五五条二項の適用はない。
四、被告所長の主張
書類閲覧請求を受けた担当審判官は、原告に対し、原処分庁において作成されたいわゆる「所得調査書」は閲覧させなかつたが、その理由は、右「所得調査書」には同業者の収入金額、必要経費、差益率、その他第三者の営業内容に関する事項等が渾然一体となつて記載されていたので、これを閲覧に供すれば右第三者の利益を著しく害するおそれがあると認められたからである。そこで、担当審判官は、右「所得調査書」の記載事項の中から本件更正処分の理由となつた事実の部分を抽出して前記「所得調査書等要約書」を作成し、これを原告の閲覧に供したのである。
理由
一、請求原因(一)(原告の営業と本件更正処分及び裁決の存在)については当事者間に争いがない。
二、本件更正処分の過大認定の違法について
いずれも成立に争いのない乙第一ないし三号証、公文書であるから真正に成立したものと認められる乙第一〇号証によれば、原告提出にかかる本件係争各年分確定申告書には事業所得についていずれも所得税法二七条二項に規定する総収入金額及び必要経費の記載がなく、右各年分の所得税調査の際も、原告は事業に関する帳簿書類を呈示しなかつたことが認められるから、推計によつて右各年分の事業所得金額を算定するほかなく、前掲乙第一〇号証及び証人後藤兼道の証言によれば、右各年分の事業所得金額及びその内訳は別表(二)記載のとおりであることが認められる。また、前同証拠によれば、同表記載の右各年分の不動産所得金額は審査請求の審理の際に原告において異議がない旨申し述べた金額であることが認められ、前掲乙第三号証によれば、同表記載の昭和四五年分の一時所得金額は原告提出の確定申告書記載のとおりであることが認められるから、右両所得についても同表記載のとおりと認めるのが相当である。
したがつて、本件更正処分(但し、いずれも本件裁決により一部取消された後のもの)における総所得金額は右認定の範囲内であるから、本件更正処分に過大認定の違法はない。
三、本件更正処分の手続的違法について
(一) 原告が白色申告書であることは当事者間に争いがないところ、白色申告者に対しては更正の理由付記は法律上要求されていないのであるから、本件更正処分通知書に理由の記載がないことは違法事由とならない。
(二) 原告主張の調査方法の不当及び他事考慮については、原告は何ら立証しないから認めることができない。
四、本件裁決の違法について
被告所長が原告からの閲覧請求に対し、原告主張の書類のほか異議申立書、異議決定書の閲覧を許可したことは同被告の自認するところであるが、本件ではこれ以外の書類が原処分庁から同被告に提出されていたことを認めるべき証拠もなく、同被告において原処分庁にその他の書類の提出を要求し、これを原告に閲覧させる義務はないというべきであるから、同被告の前記処置が実質的に閲覧拒否であるとの原告の主張は理由がない。
五、結論
よつて、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 辻中栄世)
別表(一)
<省略>
別表(二)
<省略>
<省略>