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大阪地方裁判所 昭和50年(ワ)1506号 判決 1979年11月30日

原告 新谷修二

被告 国 ほか三名

代理人 平井義丸 安居邦夫 ほか二名

主文

一  被告被相続人亡井阪至相続財産は、原告に対し、原告から金八九六、〇二八円の支払を受けるのと引換に、別紙目録記載の土地につき大阪法務局泉出張所昭和四六年五月一三日受付第八四六〇号所有権移転請求権仮登記にもとづく昭和四九年一〇月九日代物弁済を原因とする所有権移転本登記手続をせよ。

二  被告三原正治は、原告に対し、原告が別紙目録記載の土地につき前項の所有権移転本登記手続をなすことを承諾せよ。

三  被告酒伊繊維工業株式会社、同国は、原告に対し、原告が被告被相続人亡井阪至相続財産に対して金八九六、〇二八円を支払うのと引換に、原告が別紙目録記載の土地につき第一項の所有権移転本登記手続をなすことを承諾せよ。

四  原告の被告被相続人亡井阪至相続財産、同酒伊繊維工業株式会社、同国に対するその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用中原告と被告三原正治間に生じた分は同被告の負担とし、原告と被告被相続人亡井阪至相続財産、同酒伊繊維工業株式会社、同国間に生じた分はこれを五分し、その一を原告、その四を右被告らの負担とする。

事  実<省略>

理由

一  <略>

二  <略>

三  被告財産の清算金引換給付の抗弁について判断する。

1  前記一で認定した事実によると、本件土地の代物弁済予約は原告の貸金債権担保の目的を有するものであるから、原告は、その債権額と担保物件の価額との差額についての清算を行うべき義務があるところ、原告と井阪喜一間において、本件土地をさきに処分し、その後にのみ清算金を支払えば足る旨の特約がなされたことを認めうる証拠はないから、本件仮登記担保関係は、いわゆる帰属清算型に属するものというべきである。そして右清算の基準時は事実審たる当審の口頭弁論終結時である昭和五四年一〇月二日と解すべきであるから、原告は、同日現在における本件土地の評価額が同日現在における原告の債権額を超過する場合には、債務者たる井阪喜一の地位を井阪至を経て承継した被告財産に対し、その差額を清算金として支払うのと引換でなければ、本件仮登記にもとづく所有権移転本登記手続を請求しえないものである。

2  そこで昭和五四年一〇月二日現在における右清算金の存否および金額について検討する。

(一)  本件土地の評価額 一一、二六〇、〇〇〇円

<証拠略>を総合すると、本件土地は仮登記担保権設定当時から現況宅地であり、その地上には井阪喜一所有の家屋番号一二四七番一の二木造瓦葺二階建居宅床面積一階六九・五〇平方メートル、二階六九・五〇平方メートルと家屋番号一二四七番一木造瓦葺平家建居宅床面積八二・五九平方メートルの各建物が存在していたこと、本件土地の昭和五四年六月一日当時の更地価格は二八、一五二、〇〇〇円相当で、法定地上権負担付の土地価格は一一、二六〇、〇〇〇円相当であることが認められ、右認定を左右できる証拠はない。

右事実によると右仮登記担保権の実行によつて本件土地の所有権を取得する原告は、本件土地の建物所有者によつて法定地上権の対抗を受けるから、清算に際して考慮すべき土地の価額は、法定地上権負担付の価額というべきであり、また、昭和五四年六月一日以降同年一〇月二日までに右価額に変動があつたことを認めうべき証拠は存しないから、同日当時の本件土地の法定地上権負担付の価額は一一、二六〇、〇〇〇円相当と認められる。

(二)  原告の債権額 一〇、三六三、九七二円

前記一の事実によると、原告の昭和五四年一〇月二日当時の債権額は、元本三、〇〇〇、〇〇〇円、うち二、〇〇〇、〇〇〇円に対する昭和四六年五月一二日から同月一四日まで年一五パーセントの割合による利息(利息は金員交付時から発生するところ同月一二日には二、〇〇〇、〇〇〇円しか交付されていない。)と三、〇〇〇、〇〇〇円に対する同月一五日(同日一、〇〇〇、〇〇〇円が交付されて交付額は、三、〇〇〇、〇〇〇円となつた。)から同年一〇月一二日まで年一五パーセントの割合による利息との合計一八八、六三〇円(円未満切捨、別紙計算書(1)記載のとおり)、三、〇〇〇、〇〇〇円に対する同月一三日から昭和五四年一〇月二日まで年三〇パーセントの割合による遅延損害金七、一七五、三四二円(円未満切捨、別紙計算書(2)記載のとおり)、以上総計一〇、三六三、九七二円となる。

(三)  原告は、所有権移転登記登録免許税二〇四、九〇〇円、所有権移転登記手続手数料一四、二〇〇円、弁護士費用一、一二六、〇〇〇円を出捐したうえ、相続財産管理人の報酬につき相当額の費用を予納しなければならず、さらに現実に登記を経由するまでに本件終結後三か月を要し、その間にも遅延損害金が増加するからこれらの金額を清算に際して考慮すべきである旨主張するが、原告が右の出捐をしたことを認めるに足る証拠はないのみならず、たとえこれらの費用を負担したとしても、これらの金額は本件仮登記担保権によつて担保されるものではないから、清算に際して担保物件の価額から控除すべきものではないことは明らかであるし、清算基準時以後の遅延損害金を考慮すべきでないこともいうまでもないところであるから、原告の右主張は採用できない。

(四)  したがつて、清算金額は前記(一)の一一、二六〇、〇〇〇円から前記(二)の一〇、三六三、九七二円を控除した八九六、〇二八円となる。

3  以上の次第で、原告の被告財産に対する請求は、被告財産に対し、原告が被告財産に対して八九六、〇二八円の清算金を支払うのと引換に、本件土地につき本件仮登記にもとづく所有権移転本登記手続を求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がない。

四  被告三原に対する請求について

被告三原は、本件土地につき大阪法務局泉出張所昭和五〇年六月二日受付第一〇二四九号をもつて抵当権設定登記を経由したことは当事者間に争いがなく、この事実および前記一、二の事実によれば、原告の被告三原に対する請求は理由がある。

五  被告会社に対する請求について

1  被告会社は、本件土地につき大阪法務局泉出張所昭和五〇年七月一二日受付第一三二四九号をもつて仮差押登記をしたことは当事者間に争いがない。

2  原告は、被告財産に対し、清算金として八九六、〇二八円を支払うべき義務があることは前記三で判示したとおりである。

被告会社は、清算金算定に当つては本件土地の価額から控除すべき原告の債権額は元本三、〇〇〇、〇〇〇円と最後の二年分の損害金に限られる旨主張するが、仮登記担保には民法三七四条の準用ないし類推適用をすべきものではないと解されるから、被告会社の右主張は採用できない。

3  したがつて、原告の被告会社に対する請求は、被告会社に対し、原告が被告財産に対して八九六、〇二八円の清算金を支払うのと引換に、本件土地につき本件仮登記にもとづく所有権移転本登記手続をなすことの承諾を求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がない。

六  被告国に対する請求について

1  被告国は、本件土地につき、申告所得税一七、七四二、〇〇〇円の滞納処分として、大阪法務局泉出張所昭和五三年一一月二二日受付第二三六四五号をもつて差押登記をしたことは当事者間に争いがない。

2  原告は、被告財産に対し、清算金として八九六、〇二八円を支払うべき義務があることは前記三で判示したとおりである。

被告国は、昭和五四年六月一二日、国税徴収法六二条により、被告財産が原告に対して有する清算金交付請求権を差押え、右債権差押通知書は同月一四日、原告に送達されたので、被告国が同法六七条一項によつて清算金交付請求権の取立権を取得したから、原告が被告国に対して清算金を支払うのと引換でなければ本訴請求に応じられない旨を主張する。

しかし、たとえ被告国がその主張のとおり被告財産の原告に対する清算金交付請求権を差押え、清算金交付請求権の取立権を取得したとしても、原告の被告国に対する本件仮登記にもとづく本登記手続の承諾請求訴訟において、被告国は、原告に対する同時履行の抗弁として、原告から被告国への清算金交付を主張することは許されず、右取立権の実行による債権の満足は、右訴訟手続外の執行手続によつてその実現をはかるべきものと解するのが相当である。なんとなれば、もし被告国主張の如く、清算金交付請求権につき差押取立命令によつて取立権を得た後順位債権者は自己に対する清算金の交付を同時履行の抗弁として主張することが許されるとすると、かかる後順位債権者(複数の場合も考えられる。)に対しては同人に対する清算金の支払と引換に承諾請求を認容することとなり、一方仮登記債務者又は他の清算金交付請求権について取立権を有しない後順位債権者に対しては債務者に対する清算金支払と引換に本登記請求又は承諾請求を認容すべきこととなつて、清算金交付請求権につき取立権を得た後順位債権者相互間およびこれら取立権を有する債権者と仮登記債務者又は取立権のない後順位債権者間に矛盾が生ずることを避け得ないのであつて、この矛盾を解消しようとすれば、本来非訟手続である競売手続においてのみ適切になしうる多数債権者相互間およびこれらの債権者と債務者間の取分の優劣に関する紛争の処理を、その処理に適しない仮登記担保権の実行手続としての訴訟手続内において同時に解決することを要求することとなり、そうなると、その訴訟において本来対立当事者とされていない被告相互間の争いを処理することになつて訴訟構造上も疑問であるうえ、判決の効力も被告相互間には及ばないから後日被告たる債権者相互間の紛争の再燃を制度上防止することができなくなるなど種々の不合理が生じ、もともと仮登記担保権実行による本登記請求およびその承諾請求訴訟においては、清算金は仮登記債務者に交付すべきことを同時履行の抗弁として主張しうるものとし、後順位債権者に直接交付することを主張しえないとされた制度の趣旨にも反する結果をきたして妥当でないからである。

3  したがつて、原告の被告国に対する請求は、被告国に対し、原告が被告財産に対して八九六、〇二八円の清算金を支払うのと引換に、本件土地につき本件仮登記にもとづく所有権移転本登記手続をなすことの承諾を求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がない。

七  よつて、原告の被告三原に対する請求を認容し、被告財産、被告会社、被告国に対する請求は主文第一、三項掲記の限度でこれを認容し、その余の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山本矩夫)

目録 <略>

計算書 <略>

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