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大阪地方裁判所 昭和50年(ワ)1737号 判決 1977年2月03日

原告

村上賢一

ほか一名

被告

福田商店こと福田三郎こと朴源正

ほか二名

主文

一  被告朴源正は、原告村上賢一に対し、金三〇六万七八六七円およびうち金二七八万七八六七円に対する昭和四九年八月一七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を、原告村上律子に対し、金一六四万〇四九九円およびうち金一四九万〇四九九円に対する前同日から完済に至るまで同割合による金員を支払え。

二  原告らの被告朴源正に対するその余の請求、被告奥田建設工業株式会社、同今井一夫に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用中原告村上賢一と被告朴源正との間に生じた分は、これを一〇分し、その九を同原告の、その余を同被告の各負担とし、原告村上律子と被告朴源正との間に生じた分は、これを二分し、その一を同原告のその余を同被告の各負担とし、原告村上賢一と被告奥田建設工業株式会社、同今井一夫との間に生じた分はすべて同原告の負担とし、原告村上律子と被告奥田建設工業株式会社、同今井一夫との間に生じた分はすべて同原告の負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告賢一に対し二六七万八〇一六円及びうち二四三六万八〇一六円に対する昭和四九年八月一七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を、原告律子に対し三一六万〇六二五円及びうち二八六万〇六二五円に対する前同日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  第一項につき仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二請求原因

一  事故の発生

1  日時 昭和四九年八月一七日午前一一時四五分頃

2  場所 兵庫県尼崎市西向島町一一一先路上

3  加害車 普通貨物自動車

右運転者 被告朴

4  被害者 原告ら

5  態様 原告賢一の運転し、原告律子の同乗する自動車(以下被害車という。)が停車中、加害車が被害車に追突した。

二  責任原因

1  運行供用者責任(自賠法三条)

(一) 被告今井は、被告朴から加害車を所有権留保付きで買い受けていたものであり、被告朴は、事故当時被告今井から加害車を借用していたものであり、また、被告会社はその土木関係の事業につき被告朴に下請をさせ、もしくは、同被告を雇用し、加害車について被告会社名義でいわゆる任意の自動車保険契約を締結し、被告朴に対する支払金から保険料を控除していたものであつて、いずれも加害車につき運行供用者責任を負うべきものである。

(二) (予備的主張)

被告朴と被告今井との間に加害車につき売買契約がなされていなかつたとすれば、被告朴は、加害車を所有していたものであるから、加害車につき運行供用者責任を負うべきである。

2  一般不法行為責任(民法七〇九条)

被告朴は、前方不注視の過失により本件事故を惹起した。

三  損害

1  受傷、治療経過等

(一) 原告賢一

(1) 受傷

頸部挫傷、腰部打撲傷、右中手指脱臼骨折

(2) 治療経過

昭和四九年八月一七日から同月二一日までの間に四日フジタ病院に通院した後、翌二二日から同年一〇月一二日まで五二日間同病院に入院し、更に翌一三日から昭和五〇年三月一一日までの間に五八日同病院に通院し、なおその後も後遺障害に悩まされて通院を続けている。

(3) 後遺症

右環指の生理的運動領域が中手指節関節において五〇ないし五五度、近位指節間関節において六〇ないし六五度、遠位指節間関節において七〇度、右小指の生理的運動領域が同様に右各関節において八〇ないし八五度、四〇度、四〇度で、右の二指について正常人に比しほとんど二分の一以上の運動制限があり、かつ右手の握力が減退し、また頸部の疼痛、眼精疲労等の症状が残存し、以上の症状は、昭和五〇年三月一一日固定した。以上の後遺症は、自賠法施行令別表後遺障害等級一一級七号及び一二級一二号に該当すると考えられる。

(二) 原告律子

(1) 受傷

頸部挫傷、頭部・肩部打撲傷

(2) 治療経過

昭和四九年八月一七日から同年一〇月二九日まで七四日間フジタ病院に入院した後、翌三〇日から昭和五〇年三月二五日までの間に一三日同病院に通院した。

(3) 後遺症

原告律子は、後遺症が残存し、昭和五〇年四月八日に症状が固定した。なお、後記原告らの症状がその既往症と関係がある旨の被告らの主張事実は争う。

2  原告賢一の損害額 合計二七四九万一〇五六円

(一) 入院雑費 二万六〇〇〇円

入院中一日五〇〇円の割合による五二日分

(二) 入院付添費 八万四〇〇〇円

前記入院期間のうち職業付添婦が付添つた昭和四九年九月一九日から同月二八日までの一〇日間を除く四二日分、一日二〇〇〇円の割合

なお、右の四二日間は、付添看護の必要があつたにもかかわらず、原告賢一の妻である原告律子が入院中であり、親戚は原告らの子供の世話のため、原告賢一に付添うことができなかつたので、同原告は自己の身辺を自力で処理せざるをえなかつたものである。

(三) 休業損害 三四五万一〇〇〇円

原告賢一は、事故当時四三歳で、ニユーオオサカーセンターとの商号のもとに一人で、車両の修理、中古車の販売等の事業を営み、一か月平均四九万三〇〇〇円を下らない収入を得ていた(昭和四九年一月から同年七月までの間の一か月当りの平均総収益一三五万〇七六〇円から同じく平均仕入金額七六万〇七五六円及び同じく平均変動経費九万六九八三円を控除すると、四九万三〇二一円となる。)が、本件事故により昭和四九年八月一七日から昭和五〇年三月まで七か月間営業に従事することができず、その間三四五万一〇〇〇円の収入を失つた。

(算式 四九三、〇〇〇×七=三、四五一、〇〇〇)

なお、原告賢一の昭和四八年分の納税申告所得額が三五万二二九〇円であつたとの事実は認める。

(四) 後遺障害による逸失利益 一八七三万〇〇五六円

原告賢一は、前記後遺障害のため、その労働能力を、症状固定後六か月間は五〇パーセント、その後二二年間は二〇パーセント喪失したから、同原告の後遺障害による逸失利益を、前記二二年間分については年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して、算定すると、一八七三万〇〇五六円となる。

(算式 <1> 四九三、〇〇〇×〇・五×六=一、四七九、〇〇〇

<2> 四九三、〇〇〇×〇・二×一二×一四・五八=一七、二五一、〇五六

<1>+<2>=一八、七三〇、〇五六)

(五) 慰藉料 二八〇万円

(六) 弁護士費用 二四〇万円

3  原告律子の損害額 合計三一六万〇六二五円

(一) 入院雑費 三万七〇〇〇円

入院中一日五〇〇円の割合による七四日分

(二) 休業損害 六〇万八三二八円

原告律子は、事故当時三四歳の健康な主婦として毎日家事労働に従事していたところ、本件事故により昭和四九年八月一七日から昭和五〇年四月までの八か月間全く家事を行うことができず、その休業損害額を昭和四八年賃金センサスにより算出すると、六〇万八三二八円となる。

(算式 七六、〇四一×八=六〇八、三二八)

(三) 後遺障害による逸失利益 四五万五二九七円

原告律子は、前記後遺障害のため、その労働能力を一四パーセント喪失し、それは症状固定後四年間継続すると考えられるから、同原告の後遺障害による逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、四五万五二九七円となる。

(算式 七六、〇四一×〇・一四×一二×三・五六四=四五五、二九七)

(四) 慰藉料 一七六万円

(五) 弁護士費用 三〇万円

四  損害の填補

原告賢一は、被告らから本件休業損害の内金として七二万三〇四〇円の支払を受けた。

五  本訴請求

よつて、請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は、不法行為の日である昭和四九年八月一七日から民法所定年五分の割合による。ただし、弁護士費用に対する遅延損害金は請求しない。)を求める。

第三請求原因に対する被告らの答弁

一  請求原因一のうち原告らの主張する日時、場所において原告賢一の運転し、原告律子の同乗する車両と被告朴の運転する車両との間に交通事故が発生したことは認めるが、加害車が停車中の被害車に追突したとの点は争う。

二1  同二1の(一)のうち被告会社が加害車についていわゆる任意の自動車保険契約を締結していたことは認めるが、その余の事実は否認する。

2  同二1の(二)の事実は認める。

三  同三の事実は争う。

原告賢一は、事故当時糖尿病に罹患していたところ、これが土台となり、本件事故による衝撃が加わつて同原告の症状をもたらしているのであり、また原告律子は、事故前の昭和四六年夏頃から慢性関節リユーマチを煩い、フジタ病院に通院していたところ、リユーマチと本件事故による衝撃とが競合して同原告の愁訴をもたらしたものというべきである。また、原告賢一の昭和四八年分の納税申告所得額は僅か三五万二二九〇円に過ぎないものであつて、同原告の主張する収入額は過大である。

四  同四の事実は認める。

第四被告らの抗弁

一  過失相殺

本件事故は、被害車が突如として進路を変更したため、加害車がこれを避け切れずに衝突するに至つたものであつて、本件事故の発生については原告らにも過失があるから、損害賠償額の算定に当り過失相殺されるべきである。

二  損害の填補

本件事故による損害については、原告賢一が自認している分以外に、次のとおり損害の填補がなされている。

1  原告賢一

(一) 請求内損害の填補

本件休業損害として二八万八五六〇円、その他として三万五〇〇〇円が支払われた。

(二) 請求外損害の填補

治療費として八九万二五五〇円、職業付添婦の付添看護費として三万六三五〇円が支払われた。

2  原告律子

請求外損害の填補

治療費として六四万八四五〇円、職業付添婦の付添看護費として二五万四四八〇円、家政婦代として三万八〇〇〇円が支払われた。

第五被告らの抗弁に対する原告らの答弁

一  被告らの抗弁一の事実は争う。

二1  同二1の(一)の事実は否認する。

2  同二1の(二)のうち治療費として八一万五六〇〇円が支払われたことは認めるが、同金額を超える治療費が支払われたこと及び付添看護費として三万六三五〇円が支払われたことは不知

3  同二2のうち治療費として六〇万六〇〇〇円が支払われたことは認めるが、同金額を超える治療費が支払われたこと及び付添看護費として二五万四四八〇円が支払われたことは不知、家政婦代として三万八〇〇〇円が支払われたことは否認する。

第六証拠関係〔略〕

理由

第一  事故の発生

昭和四九年八月一七日午前一一時四五分頃兵庫県尼崎市西向島町一一一先路上において原告賢一が運転し原告律子が同乗する車両と被告朴が運転する車両との間に交通事故が発生したことは当事者間に争いがなく、請求原因一のその余の事実は、成立に争いのない乙第一、第二、第六号証、第八ないし第一〇号証、原告賢一本人尋問の結果によつて認めることができ(ただし、加害車の追突は被害車が停止しようとしていたときに生じたものであることはのちに過失相殺の判断の項において述べるとおりである。)、この認定を覆すに足りる証拠はない。

第二  責任原因

一  被告今井は被告朴から加害車を所有権留保付きで買い受けていたものであり、被告朴は事故当時被告今井から加害車を借用していた旨の原告ら主張事実については、これを認めるに足りる証拠はなく、かえつて、右乙第八号証、被告今井、被告朴各本人尋問の結果によれば、加害車は被告朴において昭和四九年五月他よりこれを買い受け、事故当時も同被告において保有し、これを自己の業務である荷物運搬業のため自ら使用運転中に本件事故を生ぜしめたものであり、被告今井は被告朴に雇われ日頃加害車の運転に従事していたにすぎなかつたことが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。右事実によれば、被告朴は、加害車につき運行供用者責任を免れず、原告らが本件事故によつて被つた損害を賠償すべき責任があることは明らかであるが、被告今井には運行供用者責任は認められない。

二  被告会社が事故当時加害車につき運行支配、利益を有していたことを認めるに足りる証拠はない。もつとも、事故当時被告会社が加害車についてその名義でいわゆる任意の自動車保険契約を締結していたことは当事者間に争いがないが、被告朴、被告会社代表者各本人尋問の結果によれば、被告朴は、昭和四二年頃から昭和四九年一月頃まで被告会社のアスフアルト合材販売についての下請作業をしていたが、その当時被告会社はその名義で被告朴所有の車両につき任意保険契約をなし、保険料は被告朴が負担し、昭和四九年一月頃からは被告会社と被告朴との間に仕事上の関係はなくなつたが、被告朴は、同年五月買入れの加害車について任意保険契約をするのに適当な契約先がみつからないまま被告会社に依頼し、被告会社はこれを容れて便宜その名義で加害車につき任意保険契約をなし、保険料は被告朴において負担していたことが認められるのであつて(この認定を左右するに足りる証拠はない。)、他に特段の事情の認められない本件においては、被告会社がその名義で任意保険契約をしていたことからたやすく被告会社が加害車につき運行支配、利益を有していたものということはできない。したがつて、被告会社の運行供用者責任は認めえない。

第三  損害

一  受傷、治療経過等

(一)  原告賢一

(1) 成立に争いのない甲第三号証によれば、原告賢一が本件事故により頸部挫傷、腰部打撲傷の傷害を被つたことは認められるが、さらに同原告主張の同原告が本件事故により右中手指脱臼骨折の傷害(同号証参照)をも被つた事実については、これに沿う証人笠原慶一の証言部分、原告賢一本人尋問の結果は同証人のその余の証言部分、被告朴本人尋問の結果、成立に争いのない乙第一一号証、同第一六号証の一、二、原本の存在とその成立に争いのない乙第一五号証等に照らして採用し難く、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(2) 右甲第三号証、乙第一一号証、成立に争いのない甲第五号証、第一二ないし第一五号証により右受傷による請求原因三1(一)(2)の入通院の事実を、さらに、左記症状固定後も昭和五一年四月一九日までの間に九四日間フジタ病院および山田眼科医院に通院した事実を認めることができ、右甲第三号証、原告賢一本人尋問の結果によれば、右受傷の後遺症として頸部の疼痛、眼精疲労等の症状が残存し、この症状は昭和五〇年三月一一日頃固定したことが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

なお、右乙第一一号証、証人笠原慶一の証言によれば、同原告は事故前から糖尿病を患つていたことが認められるが、その症状が同原告の右受傷による症状と競合していること、あるいは、被告主張の、糖尿病が土台となり本件事故による衝撃が加わつて同原告の右受傷による症状をもたらしたものであることを認めるに足りる証拠はない。

(二)  原告律子

(1) 成立に争いのない乙第一二号証によれば、原告律子が本件事故により頸部挫傷、頭、肩部打撲傷の傷害を被つたことが認められる。

(2) 右乙第一二号証、成立に争いのない甲第一、第二号証、乙第二〇号証、第二一号証の一によれば、右受傷による請求原因三1(二)(2)の入通院の事実(ただし、実通院日数は二日で、甲第一、第二号証中この点に関する部分は採用しない。)が認められ、右乙第一二号証、甲第一、第二号証、原告律子本人尋問の結果によれば、右受傷の後遺症として右頸、肩から上腕部にかけての痛み、頭重感等が残存し、この症状は昭和五〇年四月八日頃固定したことが認められる。もつとも、右乙第一二号証、証人笠原慶一の証言、原告律子本人尋問の結果によれば、同原告が本件事故前から重度の慢性関節リユーマチを患つており、その症状として手、足を主とする関節痛があり、この痛みと右受傷による後遺症状とが競合するところがあることが認められるが、そうであつても、前掲諸証拠によれば、同原告の右受傷による右後遺障害は、局部に神経症状を残す程度のものであること(後遺障害等級自賠責施行令別表一四級九号相当)が認められ、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。

二  原告賢一の損害額

(一)  入院雑費 二万六〇〇〇円

入院中一日五〇〇円の割合による五二日分

(二)  入院付添費

原告賢一本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、同原告主張の期間同原告に付添人の付添いがなかつたことが認められるから、同原告主張の入院付添費は計上することができない。

(三)  逸失利益

原告賢一本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、同原告は、本件事故当時四三歳でニユーオオサカカーセンターの商号で車両の修理、中古車の販売等の事業を営んでいたことが認められる。

ところで、同原告は、右稼働により当時一ケ月平均四九万三〇〇〇円を下らない収入があつたとして甲第四号証、第六ないし第九号証、第一六号証を提出し、原告賢一本人尋問の結果を援用するが、右証拠はいずれも右事実を認定する証拠としては不充分であり(同原告の昭和四八年度分の納税申告所得額は三五万余円にすぎないことは同原告と被告朴との間に争いがない。)、他に同原告の当時の収入を的確に認めるに足りる証拠はないが、右証拠によれば、同原告は少くとも労働省統計情報部作成の昭和四九年の賃金センサスと同額程度の収入は得ていたものと認められるところ、同賃金センサスによれば、同原告と同世代(四〇歳ないし四四歳)の男子労働者の平均給与額(ただし、産業計、企業規模計、学歴計である。)は一ケ年二四九万九八〇〇円である。

(1) 休業損害 一四一万七六九四円

前認定のとおり原告賢一の受傷による後遺症は昭和五〇年三月一一日頃固定したものであるところ、同原告の受傷、後遺症の程度、同原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、同原告は右時期まで休業したが、右時期までの休業は本件事故によるやむをえないものであつたことが認められ、したがつて、休業期間は昭和四九年八月一七日から昭和五〇年三月一一日までとするのが相当で、同原告は、その間一四一万七六九四円の収入を失つたことになる。

(算式 二、四九九、八〇〇÷三六五×二〇七=一、四一七、六九四)

(2) 後遺障害による逸失利益 九五万五七七三円

前認定の受傷並びに後遺障害の部位、程度によれば、原告賢一は、右後遺障害のため昭和五〇年三月一二日頃から三年間その労働能力を一四パーセント喪失したものと認められるから、同原告の後遺障害による逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると九五万五七七三円となる。

(算式 二、四九九、八〇〇×〇・一四×二・七三一=九五五、七七三)

(四)  慰藉料 一四〇万円

本件事故の態様、原告賢一の受傷の部位、程度、治療経過、後遺症の内容、程度、年齢、その他諸般の事情を考え併せると、その慰藉料額は一四〇万円とするのが相当である。

三  原告律子の損害額

(一)  入院雑費 三万七〇〇〇円

入院中一日五〇〇円の割合による七四日分

(二)  逸失利益

前記甲第一号証、原告律子本人尋問の結果によれば、原告律子は、事故当時三四歳の家庭の主婦で原告賢一の業務の手伝も若干していたことが認められるのであつて、原告律子の逸失利益は労働省統計情報部作成の昭和四九年の賃金センサスによつて算定するのが相当であり、同賃金センサスによれば、同原告と同世代(三〇歳ないし三四歳)の女子労働者の平均給与額(ただし、産業計、企業規模計、学歴計である。)は一ケ年一一九万一〇〇〇円である。

(1) 休業損害 七六万六八〇八円

前認定のとおり原告律子の受傷による後遺症は昭和五〇年四月八日頃固定したものであるところ、同原告の受傷、後遺症の程度、同原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、右時期まで同原告は休業したが、右時期までの休業は本件事故によるやむをえないものであつたことが認められ、したがつて、休業期間は昭和四九年八月一七日から昭和五〇年四月八日までとするのが相当で、その間同原告は七六万六八〇八円の収入を失つたことになる。

(算式 一、一九一、〇〇〇÷三六五×二三五=七六六、八〇八)

(2) 後遺障害による逸失利益 五六、六九一円

前認定の受傷並びに後遺症の部位、程度によれば、原告律子は、前記後遺障害のため昭和五〇年四月九日頃から一年間その労働能力を五パーセント喪失したものと認められるから、同原告の後遺障害による逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると五六、六九一円となる。

(算式 一、一九一、〇〇〇×〇・〇五×〇・九五二=五六、六九一)

(三)  慰藉料 六三万円

本件事故の態様、原告律子の受傷の部位、程度、治療の経過、後遺障害の内容、程度、年齢、その他諸般の事情を考え併せると、その慰藉料額は六三万円とするのが相当である。

第四  被告朴の抗弁

一  過失相殺

前記乙第一、第二(一部)、第六号証、第八ないし第一〇号証、原告賢一本人尋問の結果(一部)によれば、事故当時被害車は、事故現場を東西に走る国道四三号線の西行車線の第二車線(南から二番目)を制限速度の時速五〇キロメートル位で西方に走行し、事故現場手前で第一車線(南はし)に車線を変更し、完全に車線変更を終え、前方約三〇メートルの歩道橋の下付近で止まろうとして速度を落しながら進行中、右第一車線を西方に時速六〇キロメートル位で走行し、被害車の動きに充分注意を払わなかつた加害車(被告朴が前方を充分注視していなかつたことは同被告の明らかに争わないところである。)に追突されたものであること、被害車が第一車線に入つたとき加害車はその後方約二五メートルの地点にいたこと(乙第一号証の図面<イ>、<1>点参照)が認められ、乙第二号証、原告賢一本人尋問の結果中右認定に沿わない部分は採用し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。右事実からすれば、被害車は、車線変更をするにつき加害車との間に安全な距離をおいて車線変更をしたもので被告朴主張のごとく突如車線を変更したものではなく、また、急停車したものではないから、原告らには過失相殺を考慮しなければならないような過失は存しないというべきである。

二  損害の填補 一〇一万一六〇〇円

原告賢一が被告らから休業損害金の内金として七二万三〇四〇円の支払を受けたことは同原告と被告朴との間に争いがない。

原告賢一が右以外に休業損害として二八万八五六〇円の支払を受けたことは成立に争いのない乙第一三号証の六、七によつて認めることができるが、被告朴は、同原告はさらに三万五〇〇〇円の支払を受けた旨主張し、これに沿う証拠として乙第一三号証の一、二を提出し、被告朴本人尋問の結果を援用するが、原告賢一本人尋問の結果に照らして右乙号証の成立は認め難く、かつ、被告朴本人尋問の結果は採用し難く、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

なお、原告らに対する本訴請求外の損害についての弁済であると被告ら自ら主張するその余の弁済主張については、過失相殺の認められないこと前記のとおりである本件では判断を加える必要がないので、これをしない。

第五  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、原告らが被告朴に対して本件事故による損害として賠償を求めうる弁護士費用の額は、原告賢一において二八万円、原告律子において一五万円とするのが相当である。

第六  よつて、被告朴は、原告賢一に対し、三〇六万七八六七円および同原告の右弁護士費用相当の損害額を差し引いた二七八万七八六七円に対する本件不法行為の日である昭和四九年八月一七日から完済まで年五分の割合による遅延損害金を、原告律子に対し、一六四万〇四九九円および同原告の右弁護士費用相当額を差し引いた一四九万〇四九九円に対する前同日から完済まで同割合による遅延損害金を各支払うべき義務があり、原告らの本訴請求は右の限度で理由があるからこれを認容し、原告らの被告朴に対するその余の請求および被告会社、被告今井に対する請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木弘 畑中英明 大田黒昔生)

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