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大阪地方裁判所 昭和50年(ワ)3182号 判決 1979年5月29日

原告

株式会社神嶋運輸

破産管財人

神垣守

被告

全日本運輸一般労働組合

北大阪支部神嶋運輸分会

右代表者分会長

水上二男

右訴訟代理人

東垣内清

外三名

主文

被告は原告に対し別紙目録記載の建物を明渡せ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文一、二項と同旨の判決及び仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  株式会社神嶋運輸(以下神嶋運輸ともいう)は被告に対し同会社所有に係る別紙目録記載の建物(以下本件建物という)を組合事務所として無償で使用させていた。ところが、神嶋運輸は神戸地方裁判所昭和五〇年(フ)第一号破産事件において同裁判所により決定をもつて昭和五〇年二月一二日午後一時破産の宣告を受け、同時に原告がその破産管財人に選任され、同決定は確定した。

原告は被告に対し昭和五〇年四月三日到達の書面により同月一〇日限りで本件建物の使用賃借契約を解除する旨の意思表示をした。

2  使用貸借契約の終了原因

(一) 破産宣告

(二) 神嶋運輸の破産宣告時の従業員は本社関係が五名、高槻営業所に属する者が一二名の合計一七名であり、いずれも被告組合に所属していたが、原告は右従業員のうち五名に対して同年二月二〇日即時解雇し、他の一二名に対して同年二月二一日から二六日にかけて同年三月三一日限り解雇する旨の予告をし(うち一名は同年三月八日退職した)、現在、神嶋運輸には従業員が存在しない。

(三) 同年三月一〇日開かれた神嶋運輸の第一回債権者集会において右会社の営業は廃止する旨決議された。そこで、破産手続上本件建物も換価処分をする必要がある。

神嶋運輸と被告間の本件建物を目的とする使用貸借契約は前記破産宣告決定によつて決定時にその使用収益を終了したものである。破産宣告は形式的確定をまたず、宣告の時から効力を生じ、破産財団の管理及び処分権限は破産管財人に専属し、それゆえ、破産管財人は直ちに財団の占有管理に着手しなければならない。破産法は破産者の破産宣告前後の法律行為の効力及び法律関係に特別規定を設け、その他の法律でも特別規定をもつて破産者の財産的法律関係を破産財団との関係に切替え、破産清算の目的を迅速に完了するために法律関係の実体的変更を加えて調整し、財団の整理を計つている。このような目的及び趣旨からみると、本件建物も破産財団を構成するものであるから、労働組合も例外ではなく、被告の本件建物占有の法律関係も破産宣告によつて実体的に変更されたというべきである。即ち、労働組合が使用者に対抗し、労働者の労働条件を維持改善することを基本目的とする限り、企業目的を達成するべき企業の存続が前提となるものである。ところが、前記のように破産宣告決定によつて破産財団の管理処分権が破産管財人に専属し、法律関係も変更されて形式的にも実体的にも企業は本来の企業目的を達成する社会的活動はなし得なくなり、破産法上の手続の範囲内においてのみ存続する。このことは会社法が会社の破産を解散原因としていること、及びその法人格も破産の目的の範囲内においてのみ存続し、制限されているから、労働者の労働条件の維持改善を要求する労働組合が破産宣告決定後も存続して労働条件の維持改善を要求しても、使用者は破産法に制約され、交渉の相手方となる能力を失うことに対応し、労働組合の組合活動の基本的目的を失うものと言わざるを得ず、破産手続による清算目的達成の範囲内においてその存在価値を有するに過ぎない。

そして、組合事務所の供与が、使用者の義務ではなく法が例外的に許容したものであるとの見解に基づく場合は当然に、そうでない見解に基づく場合でも使用者並びに労働組合は破産法の手続による清算に協力し、迅速にその目的を達成することに服すべきであつて右範囲を逸脱する要求、法律関係の確保及びこれを正当にする法的根拠はなく、破産宣告の決定が形式的確定をまたず宣告時から直ちに効力を生ずることからも、組合事務所の使用関係は使用期間の明示、黙示の約束を問わず、右宣告時に使用収益を終り、即時返還するべき義務を負うに至るものである。

仮に返還時期の到来か右破産宣告時でないとしても、前記(二)及び(三)の事情が生じた時点で被告は本来の組合活動の基本目的を失い、本件建物の使用契約を解除しうるものと解すべきである。<以下、事実省略>

理由

一請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二原告主張の解除原因について

1  <証拠>によれば、被告らは大阪府地方労働委員会に対し昭和五〇年二月二六日及び同年五月二〇日神嶋運輸、中央自動車運輸株式会社、藤岡時呂、藤岡善二郎を被申立人として、被申立人らは神嶋運輸の業務を再開し、被告の組合員らを原職に復帰させ、昭和四九年一二月二一日から業務再開の日まで組合員らが受けるべき賃金相当額を支払わねばならない旨などの命令を求めて不当労働行為救済の申立をし、被告組合員一一名は昭和五〇年一〇月二一日から同年一一月二一日まで三回にわたり原告を相手方として昭和四九年年末一時金、昭和四九年一二月二一日から昭和五〇年三月三一日までの賃金、昭和四八年四月以降の時間外、深夜割増賃金、これに対する附加金について破産債権の確定あるいは金員の支払を求めて訴訟を提起し、右事件はいずれも現在係属していることが認められる(被告の組合員が神戸地方裁判所に対し右未払金について破産債権確定等の訴訟を提起したことは当事者間に争いがない)。

原告は神嶋運輸について破産宣告がなされた時に、本件建物の使用収益は終つたものであるから解除原因が発生したと主張するが、神嶋運輸ないし原告と被告ないし組合員間に前記のとおり各事件が係属しているのであるから、破産管財人である原告は本件建物の明渡を求める前に、先ず右各事件の解決のために努力すべきであり、一方、被告としては右事件を推し進めるにあたつて本件建物を組合事務所として使用する必要性は存するものというべきであるから、破産宣告によつて直ちに本件建物の使用収益が終つた旨の原告の主張は採用することができない。

2 <証拠>によれば、大阪地方労働委員会の前記申立事件は昭和五三年九月六日には既に実質的な審理も終り、終結の時期も到来していること、しかし被申立人の再三の要求にもかかわらず最終審問期日が指定されず現在に至つていることが認められ、右委員会が審問期日を指定しないのは被告の要望に基づいていると推認される。さらに前掲各証拠及び本件記録によれば、本件明渡訴訟においても昭和五一年九月二四日の第一〇回口頭弁論期日から昭和五三年一二月八日の第二二回口頭弁論期日までは何ら実質的な審理が行なわれず、これも被告から和解が進んでいるとの理由で期日が延期されてきたこと。被告ないしその組合員と原告との間に和解交渉が相当長期間にわたつて行なわれたが、結局成立するに至らず、神戸地裁に係属中の事件も訴訟提起後四年を経過し、現在実質的審理は行なわれておらず、被告あるいは組合員らは和解による解決を希望していること、しかし原告はこれまでの経過を考えて和解によつて解決することは不可能であると表明していること、被告とその組合員は前記各事件を積極的に推し進めることによつて紛争を解決しようと思えば一定の結論が出る状況にあるにもかかわらず、この方法を取ろうとせず、もつぱら和解による解決を目指してその手段として本件建物の占有を継続していることが認められ、右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

右認定事実の状況において、もし被告が主張するように本件建物の使用収益が終了していないとするならば、被告は自己の和解案を原告が受け入れるまで本件建物の占有を継続することができることとなり、極めて不当な結果をもたらすこととなる。

それゆえ、右の事情のもとにおいては、少くとも本件口頭弁論終結時には本件建物の使用貸借契約について被告はその使用収益が終了したものといわざるを得ない。

なお、原告が被告に対し昭和五〇年四月三日到達の書面により本件建物の使用貸借契約を解除する旨の意思表示をしたことは前記のとおり当事者間に争いがなく、これに基づいて原告は被告に対し本件建物の明渡を求めていることは本件記録上明らかであるから、原告の解除の意思表示は本件最終口頭弁論期日まで継続しているものと解される。

三抗弁について

被告の抗弁を認めるべき適切な証拠はないから、右主張は採用することはできない。

四以上のとおりであるから、原告の本訴請求はすべて理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用し、仮執行宣言の申立は相当でないから却下することとして主文のとおり判決する。

(安斎隆)

目録<省略>

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